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時空を超えて Beyond Time and Space

人生の断片から Fragmentary Notes in My Life 
   桑原靖夫のブログ

女性の潜在力に期待

2010年01月23日 | 労働の新次元

Cover “We did it!”  The Economist January 2nd 2010.



 ある日の病院の光景。廊下を通る医師の中で女医さんが随分多いことに気づく。そういえば、時々お世話になっている歯科、眼科、皮膚科の先生、そして定期的に診察を受けている病院内科ティームにも女医さんが加わった。皆さん、真摯に対応していただいており、いつも感謝している。


 アメリカの大学医学部入学者の女子比率は、
2009年に50%を越えたようだ(正確に調べたことはないが、日本は3割くらいだろうか)。アメリカ、EU諸国の多くでは大学生の比率でも、すでに女子が男子を上回っている。医師、看護師、医療技術者、薬剤師などを併せると、医療は「女性の職業」になりつつあるとメディアは伝えている。

 さらに、
200910月にはアメリカの労働力のほぼ半数(49.9)を、女性が占めるまでになった。女性の大統領は今回生まれなかったとはいえ、労働力においても「女性優位の時代」が実現しつつある

 女性医師あるいは科学者などの比率が大きく伸張したのは、自然科学に関する教育的効果が女性の間に深く浸透し、女性の意識を変化させるに大きな役割を果たしてきたことがあげられている。教育や社会などの支援効果がきわめて大きいと思われる。欧米諸国では、政治分野でのサッチャー首相やクリントン国務長官の活躍なども大きな影響を与えてきた。高等教育の拡大は雇用市場におけるロール(役割)・モデルの意義を広め、家庭で主婦としてとどまるよりは成功する職業人を目指す女性が増加した。今日のアメリカでは大学教育を受けた女性の80%が労働力化しており、高等学校卒業者の67%、義務教育だけの終了者の47%を大きく上回っている。

 アメリカの女性医師の比率がほぼ男女と肩を並べるに至ったとはいえ、全体の数だけであり、医師の専攻偏在などについては、未解決な大きな問題が残っている。アメリカでは、男性中心の医師会などがその特権的地位を守るために、有名大学医学部の入学者定員や男女比の選定にさまざまな圧力をかけ、教授による入学者選考委員会が「10%ルール」などといわれる、文書に記録されない、暗黙の規制を行ってきたこともあった。

 そうしたことを考えると、これでも想像を絶する変化だ。しかし、歴代アメリカ医師会会長の男女比は男子161:女子2というような数値をみると、真の男女平等はこの国でも依然としてかなり大変なのだということを感じさせる。大企業の経営者層についてみても、女性の比率はきわめて低い。

 女性の社会進出にかかわる変化は、各国間でかなり異なっている。最も遅れているのはアラブ諸国だが、先進国でも日本やイタリアなど南ヨーロッパのいくつかの国では、労働力に占める女性の比率が低いことが指摘されている。たとえば、日本では2007年時点で、雇用者における男女比率は、男子57対女子43であり、賃金水準にも大きな男女格差が存在する。アメリカやEUの中進国と比較すると大きく見劣りする。日本は先進国の中でも、女性の潜在力の開発が最も遅れている国とみなされている。

 世界レベルでみると先進国労働市場は明らかに女性優位の時代へと転換している。ヨーロッパでは、女性は2000年以降に作り出された仕事800万のうち6百万を占めている。失業率も女性の8.6%に対して男性は11.2%である。

 さまざまな仕組みが女性の社会進出を支えてきた。たとえば、IT技術の発達もあって、女性が実際にオフィスに通わなくとも、家庭で働くこともある程度可能となった。それでもきわめて多くの家庭が保育施設などの不足、労働時間制度の硬直性に悩んでいる。しかし、いまや彼女たちの力を開発、それに期待することなしに、この国の将来はないのだ。男子はすでに大多数が労働力化しており、これ以上の上昇に大きな期待はできない。人口減少がもたらす労働力、そして活力の減少を補う方策は限られている。

 今日、実施に移されつつある少子化対策は、はたしてどれだけ実効性があるかという点で疑問符がつくが、現実が一歩でも進まないかぎりこの国に明るい未来はない。出産、育児を行いながら、後顧の憂い無く仕事につけるよう、一層の環境整備が必要だ。政権が交代しても、議論は目先のことに忙殺されており、将来への見通しはほとんど見えてこない。日本の人的資源で、活用が最も遅れているのが女性と外国人(移民)労働者であることを、再度想起したい。 

 

References
“We did it!”  The Economist January 2nd 2010 
Mary Roth Walsh. Doctors wanted, no women need apply, sexual barriers in the medical profession, 1835-1975, Yale University Press, PB 1977.

 

 

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