大倉草紙

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【大阪】 アジアとヨーロッパの肖像 (大阪国立国際美術館)

2008年10月19日 22時23分00秒 | 美術館・博物館・記念館・資料館
          

展覧会は、5つの章で構成されている。

第1章:それぞれの肖像

ピエール・ロンバートの『首のない騎馬像〔チャールズⅠ世の頭部を組み合わせ〕』〕』『首のない騎手像〔オリヴァー・クロムウェルの頭部を組み合わせ〕』『首のない騎馬像〔ルイ14世の騎馬像を一部消去〕』の3点が並んで展示されている。
実際に首を刎ねるという方法での処刑が行われていたイングランドでは、版画を再加工し、版画の中の人物の頭部を入れ替えることがあったという。
チャールズⅠ世の騎馬像が背景も何もかもがそのままで、頭の部分だけ彼を処刑したオリヴァー・クロムウェルに挿げ替えられているのは、なんとも皮肉なことである。

ある型にその当時の権力者の頭部のみはめ込んだり、同じポーズをとる肖像画ばかりではない。
『首のない騎手像』とは同年代の肖像画であっても、ゴドフリー・ネラー卿の『ジェームズ2世』は描かれる者の個性や内面までも表している。

          
        ゴドフリー・ネラー卿『ジェームズ2世』

ローブを羽織って武器を持つ姿は、王であることだでなく、行動の人であることを示すという。
向かって左側には王冠と笏を描き、右側に描かれた錨は海を射る矢のようだが、これは海上の覇権を表すのだそうだ。


第2章:接触以前 ― 想像された他者

接触したことのない者を想像で描くのだから、滑稽な作品も多い。
まだ見ぬ他者へのイメージが率直に表現されていて、興味深い。

参考として、『東方の驚異』から、「首なし人間」のパネルが掲げられている。
「首なし人間」は、首がない以外は人間の形をしていて、胸のあたりに顔がある。
耳は脇の下あたりに付いている。
ヨーロッパでは、アジアにこのような人間がいると本当に思われていたのだろうか。
まるで、宇宙人を見たという人が描く似顔絵を見ているようである。

同じく参考として、『山海経』から、腹部に穴の開いた人々の国(貫匈国)と手長の人の国(長臂国)の絵がパネルで示されている。
腹部に穴に棒を通して、人を運ぶのだそうだ。


   
         アーノルダス・モンタヌス『日本誌』

こんな日本は知らない。
大仏の胸は豊かで、手の形も変だ。
狛犬のつもりか、向かって右側にはライオン、左側はゴリラみたいな動物の姿が見える。
建物も日本風なものとはかけ離れている。
こういう風に思われていたんだなあ。

逆に、日本から見た世界もおかしなものだったに違いない。
日本人の描いた『万国人物之図』を見たら、こんなんじゃないと言われてしまうだろう。


第3章:接触以降 ― 自己の手法で描く

タイトル通り。
例えば、実際に目にした異国の者を横浜浮世絵として表わしている。
よく見るペルリが描かれたの絵巻も展示されていた。


第4章:近代の眼 ―他者の手法を取り入れる

    
     岸田劉生『近藤医学博士之像』

作品の傍らに、「岸田劉生全集」第2巻、岩波書店(1979年)からの引用があった。
「元来、日本の風俗のアイデヤといふものはあまりに深さや、荘重さや、華麗さや、力が足りな過ぎたのだ。あつさりしすぎたのだ。自由さが乏しかつたのだ。偏して狭かつたのだ。だからさういふ美の可なり進んだ西洋を知つた今日、それ等の足りないものを西洋から受けるのは人種的要求として自然である。無論西洋ばかりではない。僕は支那の風俗文物の中に可なり参考になるものがあると思つてゐる。兎に角日本の審美は、西洋や支那に比べると可なり劣る、旧を守るのが日本人を日本人らしく生かす事ではない。それは日本人を日本人らしいままに死なす事になつて生かすことにはならない」

こうして、日本人の日本人らしいところが失われたのではなかろうか。
他者の手法を取り入れるのは、一方的なことではなく、たしかに、西洋におけるジャポニズムの影響や受容などを見ても分かるように、相互的なものであった。
問題は、日本では、その伝統や文化の中で他者の要素を昇華させるのではなく、それまで築いてきた土台そのものを否定し、他者をすっかり受け入れてしまう傾向が強いことにあると思うのだ。

ヨーロッパからアジアへの影響という点でいうならば、ポスターなどに顕著に表れるモチーフの西洋化にとどまらず、遠近法や陰影の手法にまで及ぶことが、展示されている多くの作品から読み取れる。


第5章:現代における自己と他者

映像や写真による表現が多い。
森村泰昌の作品もこの章に含まれている。
同じ人物の顔写真をはめ込んだ集合写真や、『カーターと郭』『レーガンと郭』『ブッシュと郭』『クリントンと郭』といったように、作者とアメリカ合衆国大統領の顔写真とを組み合わせた作品など。
中には、ちょっと気持ち悪いものもあった。

この展覧会は国立民族学博物館でも、同時期に開催している。
そちらのほうも観に行ってみようと思う。


さて、京阪中ノ島線が本日開業というので、美術館の最寄り駅である「渡辺橋」まで乗ってみた。

   
   
          
   
   
   

家族連れや、カメラを手にした人で、車内は混雑していた。
鉄道オタクではないけれど、周囲の人につられて私も写真を撮る。