今、手元に1冊の雑誌があります。それが上の写真の「Number PLUS Desember 2005」で、「南米蹴球記」と題してブラジル選手のことを中心に特集している本です。これを参考に海を超えて戦うことについて考えてみたので、今回はそれを書いてみようと思います。
特集のメインページと思われる部分はP8~22にわたって書かれているアドリアーノについてで、彼が生まれ育った故郷についての恐るべき実態について書かれています。まずは特集の1ページ目の見出し(?)を書き出してみると・・・
アドリアーノ
絶望の街に生まれた奇跡
コンフェデ杯で得点王に輝いた男は、セレソンのエースの座を実力で手にした。彼の成功は「ファラーベ(貧民街)からの脱出」という言葉で伝えられている。「繰り返される銃撃戦」や「ジャーナリストの惨殺」など、信じがたい言葉で語られる、彼の故郷とはいかなる場所なのか。地元メディアが訪れることを躊躇するというアドリアーノの生地、ヴィラ・クルゼイロに潜入を試みた。長閑に見える町並み。だがそこで目撃したのは紛れもない“絶望の日々”だった。
これだけでもどんな内容の特集なのかわかっていただけると思うのですが、もう少しだけ詳しく書くと…
・リオには500近くの貧民街がある。
・貧民街の取材は命の保証ができないとの理由で何人ものコーディネイターに断られた。
・犯罪者と警察(実は警察も悪者。コカインの買人や武器の横流しなどをしている)の銃撃戦が毎日のようにある。
・薬物中毒者に意味もなく撃たれることもある。
・8歳の少年を数百円で組織に勧誘する。
・最初は麻薬の運び屋として、10代になると銃撃戦の前線に立たせる。(ブラジルでは18以下の少年は犯罪を犯しても罪に問われない)
・貧民街の住人は人間扱いされない。夜に外出しているだけで撃ち殺されることもある。
・ブラジルでは毎年3万人が殺されている。
・ブラジルでは10%の裕福層が国の富の半分を握っている。
・山の上のほうには組織のコカイン工場などがあるらしく、平地以上に緊迫している。
そんな貧民街の山の中腹にアドリアーノの生家ああるらしく、環境が環境だけに彼自身「死んでもおかしくない状況」に2度遭遇したそうです。初めて人が殺されるのを見たのは7歳の頃、家の前の坂道で銃撃戦が起き、アドリアーノ少年は恐怖にすくみ動けなくなってしまい、気がつくと目の前で男が死んでいた、と。
これ以上は字数が多くなりすぎるので書きませんが(興味のある人はバックナンバーを購入するか図書館などでご覧下さい)、とにかく劣悪な環境で彼は生まれ育ったらしいのです。そして金持ちになってそこから抜け出す方法は、医者になるか、サッカー選手になるか、麻薬密売の大元になるかの3つ。才能に恵まれていた彼は(とは言っても、地元のクラブで首を切られそうになっていたのを努力して残っていたそうですが)サッカー選手の道を選び、様々な困難を乗り越え今に至っているそうです。彼が現在の状況に至った過程を地元のコーディネイターは「ロープの上を両手を広げて歩いている、しかも前後から銃弾が飛び交っている中を…」と表現していました。
現在も母親が彼に教えているのは「(サッカーで生活が変わったのは)神様の贈り物。生活もよくなり物もお金もあるけど、大切なのは愛。人を敬い、常に謙虚でいなくてはいけない。そうしなければいつ神様がすべてを取り上げるかもしれない。」と。
さて、ブラジルの選手の中にはこういった環境からサッカーで這い上がってきた人が少なくないといいます。背負っているのではなく、心の中で、背骨の中で、頭の中で自分を形作っているものが違いすぎです。確かに、日本を代表しているという重圧はあるでしょう。しかし、身体の奥底にある動機(なぜサッカーをするのか)がどうしようもないほど深い彼らと対戦をするには、日の丸の重みだけでは太刀打ちできないのも事実のはず。しかもその国の物真似(ジーコのせいではなく、彼を監督に選んだ日本のサッカー界に言いたいのですが)で戦うだなんて…。対戦する前に自分達にはそこまで深い動機がないことを理解しつつ、自分達の確固たるスタイルを追及しようとする姿勢がない限り、あまりにも違いすぎる人達と対等に勝負、いや、同じ土俵に上がることすらできないのではないだろうか…
そんなことをこの本と早朝の試合を見て考えました。そしてその言葉がそっくりそのまま自分に跳ね返ってくるのです。「レゲエがやりたいって言うけど、お前にそれだけのバックボーンがあるの?」「所詮、借り物で音楽をやってるんだろう?」「お前は誰なんだ!」「こんなやり方じゃジャマイカのアーティストと横並びには一生なれないぞ!」等など…。だってレゲエは、あの、自分では足を踏み入れることのできなかったゲットーで生まれた音楽なのですから…。
今朝の日本代表の姿。
それは今の自分の姿かもしれない。
でも、選手もきっと同じことを思っているはず。
4年後を見てろよ!と。
がんばれニッポン!!!
ONE LOVE
追伸1:ジーコ監督を中心とした日本代表の皆様。お疲れ様でした。
追伸2:ブラジルの貧民街を舞台にした映画「City Of God」について近々書こうと思っています。
追伸3:アドリアーノはブラジル代表のFWのひとり。ロナウドと2トップを組んでいる選手です。残念ながらすばらしい選手過ぎて、日本戦での出場はありませんでした。
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この記事を読んで 中学の時英語の教科書にペレが出てきてたのを思い出しました
ペレはトップサッカープレーヤーになりました
しかし彼は貧しかった日々のことを忘れませんでした
みたいなコトが書いてありました
当時は普通に貧しかったんだろうなとしか思っていませんでしたが、実は単純に貧しいのではなくて、ペレもゲットーみたいな所で育ったのか・・・って今更思いました
私たち日本人にはわからない環境で育ってるから ココロとか魂とか細胞が根本的に違うんだなって頭で理解しようとしても
そこがどんな所なのか漠然としかワカラナイので、やっぱりちゃんと理解することはできません
だからその環境で育った人のいるブラジルは別格なんだろうな
日本はブラジルみたいなサッカーはできないから これから日本のサッカーを作っていってほしいですね
日本がいかに平和であるか読んだだけでも感じました。
実際に体験・・・といってもやっぱりその土地で生まれて育たないと気持ちは理解できないんでしょうね。
何をするにも最低限その歴史や環境などを学んで理解する努力をしないと同じ土俵に立つ事や
それを元に新しいスタイルを築くって難しいんだなぁと思いました。
まだまだ学習段階なのかもしれないですね。
余談、いつも思ってたんですが、この手の文章書くのものすごく上手いですよね。
難しい話題をわかりやすくさらっと書かれていて読みやすいし。
くだらないコメント入れたら恥ずかしいわってついつい思ってしまいました(笑)
世界中にそんな場所がたくさんあって、そこからたくさんの世界的に有名なものが生まれているのではないでしょうか。
日本にも自分が知識としてしか知らない世界があって、そこの人々は「日本は平和だ。裕福だ。」ってことに反感を持っているのでしょうね。
そのどちらにも属さない自分は、幸せである反面、タフな精神を持ち合わせることができずにいて、中途半端だったりします。どうすればやつらと同じ土俵に立てるのか、考え中です…。日本人のスタイル…。
では。
ONE LOVE/Iyahkie
平和な場所に暮らす自分が、そこから脱出してきた人間と同じ土俵に立つ…。難しいことですが、細胞に入っていないのなら、その部分は頭を使うしかないのかなぁと思っています。
この手の文章についてですが…、自分としてはとても大切に思っているテーマで、それを「伝えたい!」って一生懸命書いているので、ほめられるととても嬉しいです。せっかくこんな国(=日本=偏っているとはいえ情報を得ることがたやすい国)に住んでいるのですから、「知らなかった」で済ませたくないし、それを日本人の強みみとして活動していきたいな、と。
楽しみのためにブログを読んでいる方々には重たいテーマで申し訳ないのですが…。
では。
ONE LOVE/Iyahkie