核燃再考 変貌30年(下)再処理の行方 全量、見直しに含み河北新報
使用済み核燃料再処理工場の中央制御室。着工から21年たつが、完成時期は不透明だ=青森県六ケ所村
<地元採用7割>
青森県六ケ所村の日本原燃本社で4月1日、入社式が開かれた。
新入社員を前に、川井吉彦社長は「世界最高の技術に挑戦し、世界の六ケ所を目指そう」と熱っぽく語った。式後、弘前市出身の女性新入社員(28)は「青森に根差した企業で働きたかった。エネルギー関連の仕事はやりがいがある」と目を輝かせた。
地元では「原燃に入れたらエリート」と言われる。ことしの新入社員75人のうち、49人が県出身だった。原燃の社員数は関連会社を含め5569人(昨年4月現在)。県出身は約7割を占める。
雇用の受け皿となり、地域に多くの仕事をもたらす県内最有力企業の原燃。事業の軸となる核燃料サイクルについて、政府は4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、政策の推進を明示した。
脱原発の流れからは後退した。サイクル推進派は安堵(あんど)する内容となったが、「実は不安な文言がある」と青森県幹部は指摘する。
核燃サイクル政策の項目の「対応の柔軟性を持たせる」というくだりだ。「柔軟性」には、使用済み核燃料を全て再処理せず、一部を地中に直接処分することが国の念頭にあるとも解釈できる。
全量再処理という大原則が見直されれば、青森県が大量に抱える使用済み核燃料は「核のごみ」と化す。県幹部は「将来の再処理中止に含みを持たせたのではないか」と警戒する。
<完成20回延期>
サイクルの要となる再処理工場はトラブルが続き、完成時期が20回延期された。稼働しても使用済み核燃料から抽出される年8トン(フル稼働時)のプルトニウムの使い道が、今はない。ウランと混ぜたMOX燃料を一般の原発で使うプルサーマルは、福島第1原発事故の影響で実施の見通しが全く立たない。
使途の決まらないプルトニウムの増加について、核拡散を心配する米政府が強い懸念を示す。原燃の吉田薫報道部長は「原子力委員会で、電気事業連合会は再処理開始までにプルトニウムの利用計画を策定、公表すると報告している。利用目的のないプルトニウムが増えることにはならない」と話すが、国際的な理解を得られるか不透明だ。
<「県は撤退を」>
原発の運転期間は原則40年。各地で老朽化が進み、新規建設は難しい。一方で、核燃料サイクル政策が見直される気配はない。舩橋晴俊法政大教授(環境社会学)は1998年の青森県と原燃、六ケ所村の覚書が、再処理路線継続の背後にあると指摘する。
覚書は、再処理が困難になった場合、使用済み核燃料は県外に搬出するという内容。保管場所が限られた各原発に、燃料が送り返されることになれば混乱は免れない。
舩橋教授は「青森は核燃のしがらみに取りつかれている。県は自然エネルギーの推進など、政策立案能力が求められる局面にあることを、もっと自覚する必要がある」と警告し、サイクル政策からの撤退を勧める。
2014年05月08日木曜日
使用済み核燃料再処理工場の中央制御室。着工から21年たつが、完成時期は不透明だ=青森県六ケ所村
<地元採用7割>
青森県六ケ所村の日本原燃本社で4月1日、入社式が開かれた。
新入社員を前に、川井吉彦社長は「世界最高の技術に挑戦し、世界の六ケ所を目指そう」と熱っぽく語った。式後、弘前市出身の女性新入社員(28)は「青森に根差した企業で働きたかった。エネルギー関連の仕事はやりがいがある」と目を輝かせた。
地元では「原燃に入れたらエリート」と言われる。ことしの新入社員75人のうち、49人が県出身だった。原燃の社員数は関連会社を含め5569人(昨年4月現在)。県出身は約7割を占める。
雇用の受け皿となり、地域に多くの仕事をもたらす県内最有力企業の原燃。事業の軸となる核燃料サイクルについて、政府は4月に閣議決定したエネルギー基本計画で、政策の推進を明示した。
脱原発の流れからは後退した。サイクル推進派は安堵(あんど)する内容となったが、「実は不安な文言がある」と青森県幹部は指摘する。
核燃サイクル政策の項目の「対応の柔軟性を持たせる」というくだりだ。「柔軟性」には、使用済み核燃料を全て再処理せず、一部を地中に直接処分することが国の念頭にあるとも解釈できる。
全量再処理という大原則が見直されれば、青森県が大量に抱える使用済み核燃料は「核のごみ」と化す。県幹部は「将来の再処理中止に含みを持たせたのではないか」と警戒する。
<完成20回延期>
サイクルの要となる再処理工場はトラブルが続き、完成時期が20回延期された。稼働しても使用済み核燃料から抽出される年8トン(フル稼働時)のプルトニウムの使い道が、今はない。ウランと混ぜたMOX燃料を一般の原発で使うプルサーマルは、福島第1原発事故の影響で実施の見通しが全く立たない。
使途の決まらないプルトニウムの増加について、核拡散を心配する米政府が強い懸念を示す。原燃の吉田薫報道部長は「原子力委員会で、電気事業連合会は再処理開始までにプルトニウムの利用計画を策定、公表すると報告している。利用目的のないプルトニウムが増えることにはならない」と話すが、国際的な理解を得られるか不透明だ。
<「県は撤退を」>
原発の運転期間は原則40年。各地で老朽化が進み、新規建設は難しい。一方で、核燃料サイクル政策が見直される気配はない。舩橋晴俊法政大教授(環境社会学)は1998年の青森県と原燃、六ケ所村の覚書が、再処理路線継続の背後にあると指摘する。
覚書は、再処理が困難になった場合、使用済み核燃料は県外に搬出するという内容。保管場所が限られた各原発に、燃料が送り返されることになれば混乱は免れない。
舩橋教授は「青森は核燃のしがらみに取りつかれている。県は自然エネルギーの推進など、政策立案能力が求められる局面にあることを、もっと自覚する必要がある」と警告し、サイクル政策からの撤退を勧める。
2014年05月08日木曜日