二銭銅貨

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楢山節考

2008-05-12 | 邦画
楢山節考 ☆☆
1958.06.01 松竹、カラー、横長サイズ
監督・脚本:木下恵介
出演:田中絹代、高橋貞二、望月優子、市川団子(市川猿之助)、
   小笠原慶子、宮口精二、伊藤雄之助

目の前に暗いねずみ色の石臼の大写し、
重そうな。硬そうな。
ザラザラとした感じ。
静寂の空気。
にぶい緊張。
田中絹代の気迫、気概。

バシッとするどい、
強い三味線の音。
一瞬の決意と、
一瞬の思い切り。
空中に拡散する気合。
小屋にこだまする激痛。
そして、うれしそうな田中絹代。

雪だ、雪が降って来た。
雪の中を突進して行く高橋貞二。
長い険しい崖の道を駆け足で登る。
どんどんどんどん駆け登る。
あたりはまだ暗く、
道はまだらに白い。
降る雪は多く、
相当な降雪。

婆さんの言う通りだ。
婆さんの願い通りだ。
雪が降って来た。
けっこうな雪だ。

雪だ。
雪だって。
言ってやらねば。

煙る霧の向こう側、
降りしきる雪のベールの向こう側。
田中絹代が小さく見えて、
藁の覆いで身を包み、
両手を地蔵のようにじっと合わせている。
静かにじっと祈っている。

やがて、こちら側の高橋貞二に気付いたのか、
かすかにゆっくりと、
去れ、
去れ、
と手の平を下から上に幾度か振っている。

音楽は長唄、竹本、三味線、胡弓。撮影は全部セットで、ほとんどすべてが歌舞伎っぽい仕様。しかしながら随所に工夫を加えて、まったく歌舞伎にのっとった形式というわけでも無い。俳優たちの芝居は歌舞伎ふうでは無く、普通の感じ。出だしは3色縦縞の歌舞伎・文楽の幕に黒子の「ございとーざい」で文楽風。田中絹代演ずる婆さんの孫で元気のいい若者役が市川団子(だんし:後の市川猿之助)で、舞台狭しと飛び回っていた。なるほどと思った。スーパー歌舞伎を創造した人だけのことはある。
08.04.19 神保町シアター
コメント
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