二銭銅貨

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君の名は

2006-09-24 | 邦画
君の名は  ☆☆
1953.09.15 松竹、白黒、普通サイズ
監督:大庭秀雄、脚本:柳井隆雄、原作:菊田一夫
出演:岸恵子、佐田啓二、淡島千景、川喜多雄二

忘却とは忘れ去ることなり、
忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ。

佐渡に向かう連絡船、冷たい風、冷たい雨、冷たい涙、
優しい綾。
マフラーで頭をおおっている寂しい真知子。涙。
数寄屋橋の未練。
春樹の面影。
11月24日の約束。

佐渡の荒波、森深くのつり橋、岩の海岸。
希望、失望、別れ、再会、別れ。

白いレースの肩掛けで頭をおおう真知子。
ウェディング衣装のように、
希望にみちて、人生を変えたい。
自分の心に忠実に。

北海道、草原、牧場、濃いメイクのアイヌ娘、
摩周湖。雪。
まっすぐに消え去る鉄路、びほろ駅、空に伸びる冬の木立、
遠く走り去る蒸気の列車、人々の心に突き刺さる雪。
たたずむ春樹、涙の真知子。

数寄屋橋の欄干から川面を見つめ、
「忘却とは忘れ去ることなりか…」と、つぶやく綾。
数寄屋橋、
銀座、恋する人々、
東京の街。

1部から3部まで、3本からなる。クレジットに円谷英二とあり、5月24日の東京空襲の場面の特殊撮影担当かと思われる。B29の模型、空襲で破壊される建物などがそれらしい。
06.09.17-18 川崎市民ミュージアム

ひき逃げ

2006-09-06 | 成瀬映画
ひき逃げ  ☆☆☆☆
1966.04.16 東宝、白黒、横長サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:松山善三
出演:高峰秀子、黒沢年男、小沢栄太郎、司葉子、賀原夏子、中山仁

母親の悲痛な叫び、
母親の絶望。
母親の引き裂かれた気持ち。
救いようもなく、
なぐさめようもなく、
とりつくしまもなし。

横断歩道。
横断歩道を守る。
横断歩道を渡る子供達を守る。
横断歩道を渡る子供達を暴走する車から守る。
交通事故から守る。旗を持って。永遠に。事故0まで。気の済むまで。

救いの無い母親の悲痛な叫び。

メロドラマ、
社会派ドラマ、
悲劇、
3つの要素、3つの全く違う要素がミックスされた奇妙な設計。
不思議な映画。
でも、何故か、うまく調和している。

たとえば、小沢栄太郎と高峰秀子がからむ、
本来緊張すべきサスペンスのクライマックスが、
何故かプッと吹き出してしまうような演出だったり、
空想の場面とか、画面がネガになる場面とか、
いろいろな実験的な演出があって、やや支離滅裂な感じなのですが、
それでも不思議と調和があって、そして、
各場面が印象に残っています。

黒沢年男のバランス、黒い皮のジャケット。
司葉子の薄くバラバラに分解しそうな気持ちの表現。
賀原夏子の緊張感、
小沢栄太郎の悪徳。

高峰秀子の優れた芝居の表現力。
しっかりと芯の出た、
豊かな演技。
高峰秀子に始まり、
高峰秀子に終わります。
05.10.22 NFC

コタンの口笛

2006-09-05 | 成瀬映画
コタンの口笛  ☆☆☆
1959.03.29 東宝、カラー、横長サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:橋本忍、原作:石森延男
出演:幸田良子、久保賢、森雅之、三好栄子、水野久美、宝田明
   志村喬

コタンはアイヌの住む村。
迫害、差別に苦しむアイヌの人々の生活の一断面を切り取った映画。

がんばって働くお父さんは森雅之。
いつものクールな感じと違います。
貧乏な労働者。

2人の子供は幸田良子と久保賢、娘と息子。
迫害にめげず、差別にまけず、
貧乏にも、不幸にも、災難にもまけず、
しっかりと前を向いて、地に足をつけて、
2人で歩んでいきます。

この2人を助ける親切な人々、
寒い北海道、
優しい川、
美しい空、
素朴な道。
きりりとした空気。

水野久美と三好栄子の親子も印象的です。
05.10.15 NFC

乱れ雲

2006-09-01 | 成瀬映画
乱れ雲  ☆☆
1967.11.18 東宝、カラー、横長サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:山田信夫
出演:司葉子、加山雄三、草笛光子、森光子、浜美枝

素朴で素直な加山雄三、
悩める若き未亡人、司葉子。
十和田湖畔を歩く2人。

恋。
恋に堕ちる2人。
どうすべきか?
行くべきか、引き返すべきか?
渡る、渡らない、渡る、渡らない。
踏み切りのカンカンいう音、

飛ばすタクシー、止まるタクシー、待つタクシー。
踏み切りの、赤く明滅する2つのシグナル。
あかない、開かない。
猛烈な列車の通過、猛烈なスピード、きしむ車輪、きしむ軌道、
長い車列、
無限に続く列車の通過、逡巡の時間。
地獄への門か、天国への階段か?
なかなかあかない、開かない。
通れない。
どうしたらいいのだろう。

恋の踏み切り、渡るべきか?とどまるべきか?
心にまかせて、心のままに。
あるいは、それは、成すべからざるものなのか?

美しい雲、
美しい空、
美しい十和田湖畔をはるかに越えた遠い国。
心はここにあらず、うつろに見つめる、遠い遠い、はるかな国。
そして、その結論は誰にも分からない。

成瀬監督は、森光子のどじょうすくいのシーンに
妙にこだわっていて、何故か上手な森光子。気合が入ってます。
05.10.07 NFC