二銭銅貨

星の数: ☆良い ☆☆すごく良い ☆☆☆激しく良い ☆☆☆☆超激しく良い ☆☆☆☆☆ありえない

魔笛/MET06-07舞台撮影

2009-09-27 | オペラ
魔笛/MET06-07舞台撮影

作曲:モーツァルト、演出:ジュリー・テイモア
指揮:ジェームズ・レヴァイン
出演:マシュー・ポレンザーニ(タミーノ)、イン・ファン(パミーナ)
エリカ・ミクローザ(夜の女王)、ルネ・パーペ(ザラストロ)
ネイサン・ガン(パパゲーノ)、
   ジェニファー・アイルマー(パパゲーナ)

全体にコミカルで、カートゥーンな感じ。大蛇の怪物だとか、鳥に乗る3人の少年とか、白い布で出来た熊さんとか、バレリーナの鳥とか、3人の召し使いの下向き矢印の下着のようなデザインの衣装とか、様々な工夫や仕掛け、動物達の動きが奇抜で面白い。ちょっと子供向けの感じ。

ネイサン・ガンのパパゲーノは芝居が面白くて、全体にこの芝居を引っ張っている感じだった。ジェニファー・アイルマーのパパゲーナも婆さんに化けて出現した時から動きが良くて面白い。ポーズを形良く決めて、ポーズとポーズの間の動きに無駄がなく素早い。そしてリズミカルで小気味がいい。この2人のやり取りも面白い。「歳は?」とパパゲーノがパパゲーナに聞くと、答えが「Eeighteen ans two minutes」。さらにドイツ語版には無かったけれども、この英語版では「Eeighty?」「No! Eeighteen ans two minutes.」というような会話が続く。18才が結婚可能年齢ということなのかな?

上演は英語の翻訳版。ドイツ語と英語だと結構、感じが違うもんだと思った。英語の方がくだけていて流れるような滑らかな感じ、ドイツ語版はちょっと硬くて真面目な感じ。ドイツ語版は古いザルツブルグのバージョンをDVDで見てみた。こちらのポネルの演出もすばらしい。指揮は約30年前のレヴァイン。今回のものも、演出のベースはこのザルツブルグ版と共通だった。

主役のタミーノの衣装は光沢のある分厚い生地の、日本あるいは中国っぽいデザインで、メークもそうした感じだった。遠方の国の王子ということで、東アジア風にしたのだろうか。

パパゲーノとパパゲーナの「パパパの2重唱」がすばらしい。特にジェニファー・アイルマーの動きが良く、この人は踊りのうまい人だと思った。姿勢が良く、動きが良い。本当に楽しいカップルの表現で演出と振り付けが良いのだろうと思う。このあたりの振り付けの良さを観ると、ブロードウェイのミュージカル的な雰囲気もかなりあると思った。ジュリー・テイモアはライオンキングの演出で有名な演出家らしい。トニー賞を受賞したとのことのことである。METライブビューイングの最初の作品らしいので、いろいろと企画が凝っているのだろう思った。

09.09.19 東劇

マノンレスコー/MET07-08舞台撮影

2009-09-22 | オペラ
マノンレスコー/MET07-08舞台撮影

作曲:プッチーニ、演出:エイドリアン・ノーブル
指揮:ジェームズ・レヴァイン
出演:カリタ・マッティラ、マルチェロ・ジョルダーニ、
   ドゥウェイン・クロフト、デイル・トラヴィス

黒に紫、まだら模様に染まる空、闇の中の北米の長い長い、細い砂漠の道は無常だ。殺伐として2人の瀕死の旅人を苦しめる。1人はマノンレスコー。どうにも脱水症状があるらしく熱にあえぎあえぎしながら死にそうだ。もう1人はデ・グリュー。その恋人のことが心配で心配でたまらない。プッチーニの究極の恋とは、その人の死をもって証を立てなければならなのか。マノンレスコーのカリタ・マッティラは息を引き取る寸前まで、全力で人生の理不尽、世のはかなさを歌い続けていた。そしてデ・グリューに過去の過ちの許しを請う。斜めに緩やかに下る坂道が無常だ。殺伐として乾いている。でも、その恋は死よりも強いと、プッチーニの音楽の最後の部分が言っている。

カリタ・マッティラはパワーとエネルギーがすごい。悪女というよりも太陽の感じ。その暑い熱で近寄る男を即座に焼き殺すというか、喰い殺すような強烈な印象。マルチェッロ・ジョルダーニはまじめで献身的で、強力なアリアで愛の強さを良く表現している。

ドゥェイン・クロフトはクールで硬い兄さん役。ちょっとというかだいぶワルだ。デイル・トラヴィスはマノンのパトロン役。キッパリした金持ち爺さん役。2人ともメリハリがあって隙間なくこの物語の背景を良く埋めている。

プッチーニの音楽は甘くて強い。恋愛至上主義だ。愛は何よりも強いと叫んでいた。

09.09.13 東劇

ファウストの劫罰/MET08-09舞台撮影

2009-09-18 | オペラ
ファウストの劫罰/MET08-09舞台撮影

作曲:ベルリオーズ、演出:ロベール・ルパージュ
指揮:ジェームズ・レヴァイン
出演:スーザン・グラハム、マルチェロ・ジョルダーニ、
   ジョン・レリエ

この演目はもともとオペラではなくオーケストラ用の楽曲だったとのことで、舞台劇には不向きな感じだった。オーケストラや合唱やソロがすばらしく美しいので目をつぶってじっくり聴きたいけれども、それだと舞台が見られなくなってしまうといった感じ。最初のスーザン・グラハムによるマルグリットのアリアは軽快で美しく、白の優しい衣装が良く似合う。最後の天使の合唱は透明な青い空の向こうの天国の世界だ。

美術は最先端でサーカスっぽい。シルクドソレイユと同じ技術で絢爛豪華。けれども人の気持ちの芯が感じられない。最後のフィナーレの白い衣装の人々には清純な天使っぽさが無く、背景には何か青い空が欲しいと感じたのに、そういう感じも無かった。最後のマルグリットがはしごを登って行くところには違和感があった。「マルグリットは鳶じゃないんだから、それは無いでしょ」と思った。

でも、美術のチャレンジには賛成だ。失敗を恐れずチャレンジする姿は見ていて気持ちが良い。仮にそれが気に入らなくても拍手したいと思う。技術自体は凄いと思うものばかりだった。全体にリアルタイムのCG画像を前と後ろから舞台上のスクリーンに映写していたようたが、舞台のセットと映像が良く融け合っていて、作りは非常に高度で精密なものであった。様々なショーの中では特に水中バレーが美しく、音楽に良く合っていた。

ジョン・レリエの悪魔はその衣装も含めてステディでしっかりものという感じ、心地良かった。声も歌も安定していて、すごく頼りになる悪魔だ。ファウストが誘惑されるのも無理はない。

09.09.05 東劇

09国立劇場9月/天変斯止嵐后晴/文楽

2009-09-17 | 歌舞伎・文楽
09国立劇場9月/天変斯止嵐后晴/文楽

天変斯止嵐后晴(てんぺすとあらしのちはれ)

シェークスピアの「あらし(The Tempest)」の翻案。

出だしは濃いブルーの海の波を布に描いた背景に、6人の太棹と十七弦の琴が、あらしを、ぶ厚く、ダイナミックに表現する。前奏曲だ。

顔が横に長く手足の長い変な人間が泥亀丸で文司、ひょうきん丸出しの茶坊主が勘緑、この2人がコミカルで大きく激しい動きで、この物語の喜劇らしさを良く出していた。英理彦は軽快に空中浮遊して空をすばやく飛ぶ妖精で蓑二郎、パステルカラーのファンタジーな衣装。琴の音も多用されていて、それもファンタジックな印象だった。娘のみどりは勘十郎でお転婆な感じの中にも気品のある動き。小さな草履の足が付いていた。足を見せる場面がいくつかあって、それもちょっとお転婆で元気なお姫様の印象のためなのだろうか。足の付いている女性が出てくるのがちょっと嬉しい。文楽でも女子が元気良く活躍するのは嬉しい。

最初の大夫は千歳大夫。声がかすれ気味だったけれども気合は十分で、特に父親の阿蘇左衛門の気合は強烈だった。清介の三味線はクリーンでクリアで強靭。2人目は呂勢大夫でめりはり良く強力だった。三味線は清治で優しくて深みのある音、単純な音で無く、複雑で豊かな音に感じた。

森の背景は良く描かれている。手前に草花、あとは2層にヤシなどが描かれている単純なものであったけれども、何故か奥行きを感じる。濃い緑を基調にした南方風の植物が多く描かれた背景は、文楽にはあまり似つかわしくない、なじみのない風景だ。文楽が異質な世界に飛び込んだようで、ちょっとドキドキワクワクする感じだった。

全編頭巾着用で、出遣いは無かった。


09.09.12 国立劇場

大番

2009-09-16 | 邦画
大番 ☆☆
1957.03.05 東宝、白黒、普通サイズ
監督:千葉泰樹、脚本:笠原良三、原作:獅子文六
出演:加東大介、淡島千景、仲代達矢、河津清三郎、東野英治郎

株屋。ギューちゃんの話。ブルです。
買い方で、買って買って買いまくる。
豪快で思いっきり良く、
爽快で元気な獅子文六の話。
何がどうなるのかと、
ドキドキわくわくの展開で、株屋の出世の物語。
おもしろすぎるこの映画、
買いです。

カルメンの音楽がBGMでかかる高級洋食店、
チャップリンさんという名の爺さんが、
ギューちゃんにしきりに説教をしている。
意気軒昂なこのオヤジは今は落ちぶれたが、
昔は天竜将軍との異名を取った株の名人。
かっとギューちゃんを睨んで、
一句に託して「満鉄」を薦める。
買えと。
普段はとぼけた味の東野英治郎のチャップリンさんだが、
ここは、一瞬は闘牛士のように目が鋭くなる。
このシーンは全部がカルメンの曲。
東野英治郎が闘牛士。
鈍そうだけれどもしぶといギューちゃんが加東大介で牛。

仲代達也が親友の株屋で、クールでしっかりもの。
しっかりギューちゃんを支える役。
淡島千景が気風のいい料理屋の仲居で、いい姐さん役。

加東大介が場立ちとして東証と店の間を汗を飛ばしながら走り回っている姿が印象的だった。今はこの役、電子と変わってインターネットのケーブル中を光の速度で走り回っている。感慨深いものです。場立ちの人々が一斉に手を上に上げて、手振りで取引している姿も興味深い。東証にこれが無くなったのはつい最近のことだけれども、今の電子の時代から見たら想像を絶する光景だ。

劇中に歌舞座の場面がある。出しものは伽羅先代萩で正岡が死んだ子を前に嘆く場面。原作は「まま炊き」の場面で、足の悪い先代歌右衛門となっている。加東大介がぐしゃぐしゃになって泣きだす、その泣き方が豪快。

なお、この話には佐藤和三郎というモデルがあるんだそうです。
4作あるシリーズものの第1作。

09.06.27 神保町シアター