二銭銅貨

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あにいもうと

2008-05-24 | 成瀬映画
あにいもうと ☆☆
1953.08.19 大映、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:水木洋子、原作:室生犀星
出演:京マチ子、森雅之、久我美子、浦辺粂子、山本礼三郎
   船越英二、堀雄二

東京の、川を挟んで隣にある、ど田舎の、
ゆっくりとした日差しと、
のんびりとした空気。
太い川に広い河原。
白い河原石と能天気な青空。
貧乏の空気が流れ、
ボーッとするような1日。

端整で地道な久我美子は末娘、まじめで一所懸命。
おかあさんは苦労しているけど、
いつものように大雑把で、いつものようにのんきな、浦辺粂子。
山本礼三郎がおとうさん。昔は良かったけれど、
今は駄目で、何もかにもうまく行かない。
ほぞを噛む気持ち。
口の悪い、ヤサグレの森雅之。寝グセなのか、
鉄腕アトムみたいに髪の毛が、角になって逆立っている。
鬼の形相。それには訳がある。

分厚い景色に、分厚い青葉、
おいしげる道わきの雑草、
おんぼろな農家に、
細い野良道。

下着姿でだらしなく、
畳の上に寝転ぶ京マチ子。
夏の暑い日の、熱い部屋。
目を閉じて、何かに不満だ。
そこに森雅之。
怒り、不機嫌の刃の切っ先を、
言葉にして、突き刺すようにぶつけてくる。

兄、森雅之。
妹、京マチ子。

汗でぐちょぐちょになりながら、取っ組み合いの大喧嘩。
容赦のない拳固の嵐、
ぎょろりと目をむく京マチ子、
負けてなるものかと、
必死の形相で食い下がり、
「さあ殺せ」と。
「なにを」とのしかかって、さらに殴りかかるのは森雅之。
兄、妹ならではの大立ち回りの大喧嘩。
ま、これって、仲がいいって証拠ですけど。

熱い、夏の日、
白い日傘を天に差し、キレイな和服姿で颯爽と、
日傘をクルクル回して、ご機嫌に、
福々しくも、幸せそうに歩く姿の京マチ子。
でも、心の中には大きな傷をしょっているんだ。

久我美子はしっかりものだ。
優柔不断な男のことなんかは忘れてしまえ。
しっかり前を向いて頑張れ。
京マチ子も頑張れ。
それにお兄さんの森雅之もがんばれ。
お父さんの分まで頑張るんだ。
08.05.14 神保町シアター

治郎吉格子

2008-05-23 | 邦画
治郎吉格子 ☆☆
1952.02.22 松竹、白黒、普通サイズ
監督・脚本:伊藤大輔、原作:吉川英治
出演:長谷川一夫、高峰三枝子、岸恵子、進藤英太郎

夜の京の街の屋根瓦の上を、
サワサワサワサワと走り抜けて行く、
鼠小僧は長谷川一夫。
あだっぽいオネエさんが高峰三枝子。
背が高いけれど、うぶな小娘が岸恵子。
悪役はいつも通りに進藤英太郎。

軽快なテンポ。

伊藤大輔自身による1931年版のリメーク。
他にも1934年に1本あるらしい。
08.05.04 川崎市市民ミュージアム

芝居道

2008-05-22 | 成瀬映画
芝居道 ☆☆
1944.05.11 東宝、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:八住利雄、原作:長谷川幸延
出演:長谷川一夫、山田五十鈴、古川緑波、進藤英太郎、志村喬
   花井蘭子

やわらかい長谷川一夫、
まるっこくて、かわいい。
水兵さんや兵隊さんの役がいじらしい。

古川緑波はゆったりとしている。
ゆっくりとしていて、
それでいて気骨のあるところを見せる。

山田五十鈴はすっきりとしていて気持ちがいい。
きっぱり、はっきり、気風がいい。
大阪の話だけれども、
江戸っ子な感じ。

話は定番だけど、それでも良い。
それだから良い。
芸に打ち込む人々の、
話は何度聞いてもいい。

舞台は日露戦争後の大阪の歌舞伎興行。製作は戦時中の厳しい時期。それを反映してなのか、最初に「撃ちてし止まん」の字幕が出る。なお、スタッフ・配役の字幕は出なかった。

戦時中だから、軍部を刺激するような内容は無い。けれど花火が夜空に、ドーン、ドーンとあがるシーンがちょっと気になる。花火を眺めて古川緑波が志村喬に語るシーン。志村喬に興行のあり方について聞いたことへの返事で、戦争に浮かれて舞い上がっているようなご時世だけれども、あの花火のドーンという音の中にも、また、別の音が聞こえるようにならなければ駄目だという趣旨のセリフがある。取りようによっては反戦的な意味が無いこともない。もしかしたら戦時中の苦心のセリフなのかも知れない。

戦時中にもかかわらず、良くできた美術、衣装、撮影で、当時の映画スタッフの苦心が了解できる。

幾つかの長谷川一夫による歌舞伎の場面や衣装姿があって、東京の歌舞伎の花道の場面は長谷川一夫による忠信で、義経千本桜の伏見稲荷か道行きの引っ込みだろうかと思った。他の場面は分からない。

山田五十鈴の役名は山田みつ。偶然なのか本人の姓+野崎村の「おみつ」になっていて、愛する人のために身を引くところが野崎村と同じ。山田五十鈴は女浄瑠璃の大夫さん役で、太棹を持って竹本を演じる。
08.05.04 川崎市市民ミュージアム

地獄変

2008-05-21 | 邦画
地獄変  
1969.09.20 東宝、カラー、横長サイズ
監督:豊田四郎、脚本:八住利雄、原作:芥川龍之介
出演:中村錦之助、仲代達矢、内藤洋子

カラー、横長の画面の中、
豪快な美術の中、
壮大な芥川也寸志の音楽に乗せて、
重厚な芥川龍之介の原作に合わせ、
仲代達矢のぎょろっとした目玉、
睨みつける気合と、
わっはっはっはっはと笑いとぼける中村錦之助の、
公家役の丸っこい表情。

豪華な色合いの中に、
人の世の地獄を描きだす。
08.05.03 NFC

野菊の如き君なりき

2008-05-20 | 邦画
野菊の如き君なりき ☆☆
1955.11.29 松竹、白黒、普通サイズ
監督・脚本:木下恵介、原作:伊藤左千夫
出演:田中晋二、有田紀子、杉村春子、田村高広、笠智衆、小林トシ子
   浦辺粂子

りんどうの花。
野菊の花。
野の緑と、
山々。

大きな木の下に佇む少年と少女。

空と雲、
広い空間の下で暮らす
旧い人々の話。
古い因習と
抜けるような青空。

ふんわりと煙る船付き場。
ゆっくりと霧の向こう消えていく船影。
見送る少女。
見送られる少年。
世界は樹木に包まれて、霧にかすんで、
山水画の風情。
引き裂かれる2人のこころ。

長い長い回想のあと、
大木の下、野菊咲き乱れる小高い丘に、
ゆっくりと、ゆっくりと、
登って行く笠智衆の遠景。
カメラはじっとそれを凝視しつつ最後に、
「野菊の如き君なりき」の字幕を重ねて、
それで、映画が終わる。

映画の中では。映像を楕円形にトリミングし、周囲を白くして回想場面を表現している。長い長い回想場面をこうして強調している。
08.05.02 NFC