二銭銅貨

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乙女ごころ三人娘

2009-07-29 | 成瀬映画
乙女ごころ三人娘 ☆☆
1935.03.01 PCL、白黒、普通サイズ
監督・脚本:成瀬巳喜男、原作:川端康成 『浅草の姉妹』
出演:堤真佐子、細川ちか子、梅園竜子、大川平八郎、滝沢脩

堤真佐子がとっても健気だ。
思いやりの深い優しい少女だ。
情の篤い話で
たわいもない話だけれども、
こういう自己犠牲の話は、
どんなものでも気持ちのいいものです。

その姉の細川ちか子はぬめっとした大人の女で、
全体に子供っぽいこの映画の精神年齢を引き上げている。

回想シーンが多く、
幾分前衛的で斬新な構図のあるこの映画は、
製作にあたって相当な力が入っていたように思われる。
成瀬監督、初のトーキーだそうだ。

全体に音楽が多く、三味線の音や当時の浅草のレビューの音楽、梅園竜子が鼻歌で口ずさむ「会議は踊る」の主題歌「ただひとたび」など。三味線の音に合わせて桶屋が木ハンマーで桶をたたいてリズムを取るなどの場面もあって、音を入れられることの楽しさが良く出ている。

埠頭に座って木村屋のあんぱんをほうばる日本髪姿の堤真佐子に、写真を撮りたいという男性が現れて、堤真佐子が必死にポーズをとる。穴のあいた足袋をかくしたり。一所懸命。おかげさまで写真を撮り終わり、男性が歩み去ると、どんな具合だったかと手鏡で自分の顔を見る。と、そこに、唇の脇にパンのカスがひとつ、ひっついて残っている。あれまあ、しまった。あれまあ、どうしよう。どうしよう。でもまあ、いいか。と、ここの所はサイレントでパントマイムな演出。

当時の浅草松屋の屋上がロケで使われていて、屋上に設置された空中ゴンドラリフトが背景に見える。

09.07.11 神保町シアター

女人哀愁

2009-07-28 | 成瀬映画
女人哀愁 ☆☆
1937.01.21 PCL、白黒、普通サイズ
監督・原作:成瀬巳喜男、脚本:田中千禾夫
出演:入江たか子、北沢彪、堤真佐子、沢蘭子、水上玲子、佐伯秀夫
大川平八郎

舅、姑、小姑3人と、
揃いも揃った所に嫁に来た入江たか子。
夫は冷たいし。
家族からは女中のように使われるし。
まるでお城に行く前のシンデレラのようだ。

わがまま娘の沢蘭子と甲斐性なしの大川平八郎の
ぐずぐずした
ぐだぐだのエピソードが面白い。
芝居が良い。
くされ縁の、情の深さ。
よれよれで、くたくたで、
どうにもならないけれども、
結局は離れられない。
のがれられない、
男女の深い仲。
深遠が、そのまんまストレートに、
軽く表現されている。

女性の自立についての強いメッセージがこの映画の主題で、
最後に入江たか子の演説っぽいセリフで締めくくられる。

09.09.11 神保町シアター

女の座

2009-07-26 | 成瀬映画
女の座 ☆☆
1962.01.14 東宝、カラー、横長サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:井手俊郎、松山善三
出演:高峰秀子、杉村春子、三益愛子、草笛光子、司葉子、星由里子
   淡路恵子、丹阿弥谷津子、北あけみ、団令子
   小林桂樹、三橋達也、加東大介、宝田明、夏木陽介、笠智衆
   大沢健三郎

オールスター顔見世興行。

女系家族のホームドラマで、
恋のさやあてやなんやかや、
数々のエピソードにのせて、
男優女優のそれぞれに、ちょとづつの見せ場、セリフ。
こういう脚本を作るのも大変だろうなと思った。
ジグソーパズルのようだ。

全体に喜劇基調なんだけれども、
高峰秀子と大沢健三郎の親子のエピソードは重層的に悲惨である。

杉村春子はゆったりとした構えでいつものような軽さは無い。
三益愛子は株大好きのおばさん。
人が良さそうに見えて案外の吝嗇。
草笛光子は鋭く、とげとげ。
でも美しい。大きい目。じっと宝田明を見つめている。
丹阿弥谷津子はがさつな感じのラーメン屋のおかみさん。
苦労の生活にカカア殿下な色合い。
でも、地が上品なのでちょっと愛らしい。
亭主が軽い感じの小林桂樹。。
宝田明はポマードこてこてのイケスカナイ男。
なぜか草笛光子がぞっこんになってしまう。

草笛光子が高峰秀子に思いっきりピンタを喰らわせる場面がある。この2人は、この映画の後の「放浪記」での因縁の仲だ。「放浪記」の中に同じ場面があって迫力がある。そっちはほんとうにブッたらしい。こっちの映画では、どうも本当にはぶっていないのかもしれない。張り手がほほにぶつかる寸前で画面がカットされていた。


09.07.11 神保町シアター

2009-07-23 | 邦画
穴 ☆☆
1957.10.15 大映、白黒、普通サイズ
監督:市川崑、脚本:九里子亭
出演:京マチ子、船越英二、山村聡、菅原謙二、北林谷栄

アップテンポで軽快なリズム。
勢い良く展開していくシーンの連続。
ぷりぷりの京マチ子。
元気全開。
八方やぶれで大活躍、
衣装をとっかえひっかえ、
山盛り一杯の変装。

映画全部がファッションショーみたいになっていて、ちょっと、オードリーヘップバーンのシャレードを思い出した。

カットや人物の姿勢、動きに当時の漫画の影響が感じられる。これは市川崑の「足にさわった女」でも感じたタッチだ。あるシーンで京マチ子が「鉄腕アトム」の単行本を手にとってパラパラと見るところがある。市川崑って漫画が好きだったのかなあ。

最近の映画やTVドラマでも漫画っぽい演出は良く目にする。漫画的演出というのは、ショットの中でのカメラの動きや人物の移動が少なくて、静的である点だと思う。登場人物が歌舞伎の見得みたいに、一瞬とまってポーズを作るのが特徴である。従って、映画全体に不連続な印象となって、リズム感で言えば、メロディアスな感じではなく、打楽器中心の音楽のようなビートが効いた感じになる。構図が非常に誇張的になる点も特徴である。映画が漫画に影響を与え、漫画が映画に影響を与える。面白いことだと思う。

映画の中に石原慎太郎が出て来る。若手の小説家の役で、フランス語か何かの歌を歌う。結構うまい。菅原謙二に「何んで歌を歌ってだ」と訊かれて「小説書くのに飽きちゃったから歌手やってんだ」とかなんとか、そのような事を答えていた。

09.07.04 新文芸座

2009-07-22 | 邦画
鍵 ☆☆
1959.06.23 大映、カラー、横長サイズ
監督・脚本:市川崑、脚本:長谷部慶治、和田夏十
原作:谷崎潤一郎
出演:京マチ子、中村鴈治郎、叶順子、仲代達矢、北林谷栄

ズーンと重々しく静粛な気分のもとで、
ゆるゆると、
熱っぽく蠢く人の情欲。
画面は青系統、白黒が中心だけれども、
出て来る人々の心の模様は赤黒い。

森閑とした白と黒のトーン、
ざらざらとした荒い画像、
縦横の直線が多い画面、
不連続なカット、
シュールな俳優たち、
変化の激しいショットの連続、
市川崑。

そもそも谷崎潤一郎がシュールだ。

俳優たちの芝居が深くて厚い。
4人の俳優たちは情熱的で汗だくで、
なおかつ冷徹だ。
四重奏のような、
四人の舞を見ているようだった。

09.07.04 新文芸座