二銭銅貨

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07歌舞伎座3月/義経千本桜/歌舞伎

2007-03-31 | 歌舞伎・文楽
07歌舞伎座3月/義経千本桜/歌舞伎

義経千本桜(通し狂言)

<昼の部>
鳥居前
出演:菊五郎、福助、梅玉
 ずーっと泣きっぱなしの福助の静御前は赤い着物に鮮やかな、ちょっとした黄色の帯を前に垂らして、義経に対する強い気持ちが、泣き声になって続きます。菊五郎は元気いっぱい、溌剌と、はっきり分かりやすいセリフで場内に、太く強く、声が通ります。 

渡海屋、大物浦(とかいや、だいもつのうら)
出演:幸四郎、梅玉、藤十郎
 幸四郎は重々しいセリフまわしで重厚に、世の理不尽、運命の裏切りを呪い、怨念を、この世に残して、どーっと、碇とともに海に飛び込みます。知盛の光輝く最初の白い衣装(鎧)と、打ち敗れて血だらけに、朱に染まる白い衣装との落差が、その怨念の無残さを表現しているようでした。

道行初音旅(みちゆきはつねのたび)
出演:芝翫、菊五郎、仁左衛門
 芝翫の静御前は福助のそれとはうってかわってもの静か。幽玄の世界にやんわりと、そしてきっぱりと、締めるところは締めて踊ります。衣装は福助の赤、芝翫の白。菊五郎はピシッと、エッジの正確な、めりはりのしっかりした、強すぎず、弱すぎず、気持ちの良い踊り。仁左衛門は、面白い。役者の名前を総て織り込んだセリフで観客に受けていた。

<夜の部>
木の実、小金吾討死(このみ、こきんごうちじに)
出演:仁左衛門、扇雀
 3階の上の方から見ていたので、本当に木の実を拾っているらしく見えた。マジで木の実をばら撒いたらしい。扇雀の小金吾は、元気いっぱい、精いっぱい。とにかくめいっぱい頑張っている様子が本当に小金吾らしく、要するに、本当に強いものが頑張るのでは無く、そうでも無い若者が、自分の持てる力を十二分に出し切って戦う姿が清清しい。
 捕手(とりて)達が数本の縄で色々な形を作り、最後にはその上に小金吾を乗せたりするけれども、その形をしっかり作って行くところが綾取りみたいで素晴らしい。これは上から見ていて良かったと思う。

すし屋
出演:仁左衛門、左團次、考太郎、竹三郎、時蔵
 ならずものの権太にも人情があるという話の表現はむずかしい。全体に喜劇的なふんいきで表現していた。寅さんを思い出した。

川連法眼館、奥庭(かわつらほうげんやかた、おくにわ)
出演:菊五郎、福助、梅玉、幸四郎
 菊五郎が毛羽立った白い衣装のきつね役。頑張って動きまわっていた。先祖への思い、鼓をころころ転がして猫がじゃれるようするしぐさが可愛らしい。全体に可愛い狐の雰囲気。奥庭での幸四郎、白い狐を足下にふんづけて、偉そう。最後の見得を切るまで、ずっと偉そうだった。

07.03.11 歌舞伎座(昼の部、3F東)
07.03.18 歌舞伎座(夜の部、3F東)

早春

2007-03-13 | 邦画
早春  ☆☆
1956.01.29 松竹、白黒、普通サイズ
監督・脚本:小津安二郎、脚本:野田高梧
出演:淡島千景、池辺良、岸恵子、高橋貞二

都会のサラリーマンのやるせなさ、
ビルの谷間のよそよそしさ、
組織の他人行儀、
社会の無常。

「金魚」と呼ばれる岸恵子は、本当に金魚みたいで、悪女。
池辺良を誘惑します。
煮ても焼いても喰えない金魚。

ビシッとしっかりしている淡島千景。
じっと見つめる目線は鋭く、
夫のゆらゆらを逃すはずも無く、許すはずも無く、
きっぱりとして、さっぱりとしている。
いつもの能天気な淡島さんでは無く、
「夫婦善哉」の時と同じように、
すっきりした芝居です。
しっかりと、映画に1本、筋を入れてます。

夫婦の間の犬も喰わない喧嘩をネタに、
時代や社会や人生を、
そのままフィルムに静かに焼き付けています。
主演の2人の緊張感のある芝居からか、
幾分、厳しい、重い感じがします。

池辺良のトークショウ付き:
本の出版記念だそうで、元気な姿で登場し昔の思い出を語った。杉葉子と始めて会った時の印象は、「体格の良い大きな女だなあ」だったそうです。青い山脈の撮影で、ロケハンのとても寒い時期、泳げない杉さんに海で水泳を教えたそうです。小津さんの思い出についても語りました。東宝の専属だった池辺さんが松竹に出るのは通常は有り得ないことです。本部長が池辺さんに、つい本音を漏らしたんだそうですが、「東宝で是非1本撮って欲しいと言っているのに首を縦に振らない小津さんに東宝で撮らせる作戦で、池辺さんを小津さんに請われるまま早春に出した」と言うことです。最初の大船での本読みで、セリフ覚えの悪い池辺さんが「良べえ、台本を一字一句間違えたらゆるさんぞ」と小津さんに言われコチコチに緊張しまくった話。タバコの箱をクルクル回すシーンでNGが出まくった話。実はこれ、小津さんが池辺さんの顔に深刻さが少ないため、NGを出しまくって脅かす策略だったという話など。興味深い話が多くあった。
07.03.03 新文芸座

石中先生行状記

2007-03-12 | 成瀬映画
石中先生行状記 ☆☆
1950.01.22 新東宝、藤本プロ、白黒、普通サイズ
監督:成瀬巳喜男、脚本:八木隆一郎、原作:石坂洋次郎
出演:宮田重雄、渡辺篤
   木匠久美子、堀雄二、進藤英太郎
   杉葉子、池部良、藤原釜足
   若山セツ子、三船敏郎、飯田蝶子

3つの小編からなるオムニバス。
田舎の明るい素朴な恋の物語。

りんご5つをもらう話。
それぞれのお父さんを、かばって喧嘩する話。
良く笑い、良くしゃべる少女と無口な青年の話。

田舎の強い光に照らされて、
恥じることの無い人々の、
ゆったりした生活、人生は、
戦争が終わってホットした、
ゆるやかな空気、自由な青空、
もくもくとした白い雲の感じ。

第3話では若山セツ子が映画を観る場面があります。
その映画は「青い山脈」で、小暮実千代と若山セツ子が出ています。
あと、三船敏郎と若山セツ子が「青い山脈」を歌う場面もあって、
最後に鐘がなったりします。そもそも、第2話のカップルは
「青い山脈」のカップルで、原作は「青い山脈」の作者です。
07.03.03 新文芸座