二銭銅貨

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カルメル会修道女の対話/新国立劇場オペラ研修所公演2024

2024-04-09 | オペラ
カルメル会修道女の対話/新国立劇場オペラ研修所公演2024

作曲:プーランク、演出:シュテファン・グレーグラー
指揮:ジョナサン・ストックハマー
演奏:東フィル
衣裳コーディネーター:増田恵美

出演:ブランシュ:冨永春菜、コンスタンス:渡邊美沙季
   マダム・ド・クロワシー(現院長):前島眞奈美
   マダム・リドワーヌ(次期院長):大髙レナ
   マリー(修道女長、副院長):大城みなみ
   ジャンヌ(次期修道女長):小林紗季子、マチルド:一條翠葉
   ド・ラ・フォルス侯爵:佐藤克彦、騎士フォルス:城宏憲

重苦しい重低音がうねるようゆっくりと延々と最後まで続いていく。ゆるい一定のリズムがずーと続いて暗く恐ろしいもやもやがずっしり重く垂れこめてくる。ただ、冒頭はやや明るい感じで、その後の重苦しさを感じさせないし、また後半に対するコントラストにもなっている。

舞台装置はシンプルだけれども、回り舞台を様々に回転させたり、物の配置を変えたり、照明の効果を変化させたりしていたので、それほどシンプルには感じなかった。舞台を回転させつつ修道女を歩きながら対話させる場面など、かなりの数の場面を舞台を回して作り出していた。骨組みだけの柱が3本くらいあって、そこに生地を掛けて屋敷の部屋や修道院の部屋、修道院の門などを表現していた。最終的には断頭台の柱にこれを見立てているようだった。最後の場面では布とランプが犠牲者分、天上から吊り下げられていて、修道女が断頭台で絶命する時の刃の落ちる音とともに布が落とされるしかけになっていた。そして赤いランプだけが残る。尼僧たちの最後に衣装は布一枚のボロボロの下着姿で哀れだったが、修道院での尼僧の姿は舞台後半の雑然としていた中に、毅然としてくっきりと輝いていた。

前島は現院長の毅然として硬いイメージの芝居から、その後、一転して半狂乱というより全狂乱の芝居と歌を見せた。全力で演じて圧倒的だった。アズチューナとかウルリカが似合うかと思ったが、一方で、この人がロッジーナやチェネレントラをやるとどうなるのだろうかと興味深くも思った。登場する歌手が大勢で個々の特徴は把握しにくかったが、主要な登場人物を演じた歌手は総じて安定して強く美しい声だった。ブランシュの冨永は情熱がほとばしるような歌と芝居。マリーの大城は毅然としてくっきりとした姿を見せる歌と芝居。マリーは実在した人物がモデルで、この事件の中に生き残って後世にその事情を伝えた尼僧。仲間が死んで行く中で自分だけが生き残る苦しさが大城の静止している芝居の中に感じられた。

舞台の最後では尼僧達が歌を歌いながら絶命する。実際の事件でもそうだったらしい。哀れだ。

24.03.03 新国立劇場、中劇場
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タンホイザー/東京文化会館(二期会)2024

2024-04-09 | オペラ
タンホイザー/東京文化会館(二期会)2024

作曲:ワーグナー
指揮:アクセル・コーバー
演出:キース・ウォーナー
美術:ボリス・クドルチカ、衣裳:カスパー・グラーナー
演奏:読売日本交響楽団
出演:タンホイザー:サイモン・オニール
   エリーザベト:渡邊仁美、ヴェーヌス:林正子
   ヴォルフラム:大沼徹、ヘルマン:加藤宏隆、
   ヴァルター:高野二郎、ビーテロルフ:近藤圭
   ハインリヒ:児玉和弘、ラインマル:清水宏樹
   牧童:朝倉春菜

細いリングや棒で構成された立体の構造物が天井から斜めにぶら下がっていて、時々下に降りてくる。形は円錐の頂点をカットしたもので逆さに設置されている。地上を焦点にしたレーダーとかレーザー砲とかそのような感じ。サイズは装置の中を人が楽に通れるくらいのもので、最後にタンホイザーがその中を登って行って天上のエリーザベトの手に触れる。オケピの方を見ていて気づかなかったが、音楽が終わる瞬間に2人は手を触れる設定だったものの、この日の公演では間に合っていなかったらしい。この装置は天上と地上の連絡通路もしくは通信路らしく、冒頭の方ではヴェーヌスの部屋にいる少年の上に楽譜がこの装置を通してばら撒かれたりする。幕が開く前にはその形が客席からずーっと見えていて、これは何だと思わせていた。

基本的には舞台上に壁があって、ヴェーヌスの部屋、城の中の部屋、歌合戦会場の部屋の壁になったりしていた。中央に大きな額縁があって、無地のベージュの衣装のダンサー達や、狩猟の後の兵士達がその中から飛び出して来るしかけだった。最初は額縁の中で人物が静止しているので、絵画だと思っていると急に飛び出して来てびっくりする。

サイモン・オニールは声量と美しさが両立した、レベルの高いテノールで高音も良く出ていた。堂々とした芝居で手慣れている感じがした。公演全体の牽引役。林は低く圧力を感じるソプラノで重厚な感じ。渡辺は安定した強いソプラノ。

演奏は堂々と迫力のあるものだった。序曲冒頭の聞き慣れた旋律は巡礼の合唱からのもので、これは最後の部分にも現れる。この旋律がタンホイザーだ。

24.03.02 東京文化会館
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ニングル/めぐろパーシモンホール(日本オペラ振興会)2024

2024-04-09 | オペラ
ニングル/めぐろパーシモンホール(日本オペラ振興会)2024

作曲:渡辺俊幸
台本:吉田雄生
原作:倉本聰
指揮:田中祐子
演出:岩田達宗
美術:松生紘子
衣裳:下斗米大輔
演奏:東フィル
合唱:日本オペラ協会合唱団
ダンサー:田川ちか、木原丹、西田知代、友部康志
出演:勇太:村松恒矢
   才三:渡辺康
   かつら:光岡暁恵
   ミクリ:相樂和子
   スカンポ:井上華那
   光介:和下田大典
   信次:勝又康介
   民吉:泉良平
   ニングルの長:山田大智
   かや:長島由佳
   信子:佐藤恵利

新作初演。登場人物が多く、冒頭の結婚式の場面で人物関係の紹介があるものの、予習していなかったので各歌手と登場人物との関係が把握しにくかった。父が民吉(BsBr)で、その子が3人居て、かつら(S)、勇太(Br)、ミクリ(S)。かつらの配偶者は出ていなくて、かつらの子がスカンポ(S)。勇太、ミクリの配偶者がそれぞれかや(A:Alto)と才三(T)。かやの弟が光介(Br)。その他、ニングルの長(Br)、信次、信子などがいる。

全体にレチタティーヴォからなるオペラという感じで、コンサートで歌いあげるような感じのいわゆるアリアっぽい部分は少ないが、かつらが歌う部分がややアリアっぽい印象であった。ジャンニスキッキの私のお父さんみたいな感じだろうか。各歌手の特徴はつかみにくかったが後でプログラムを見ながら整理した。光岡が美しい声だったが前より強い感じに変わったかも知れない。松村は強い声と激しい芝居、渡辺はおとなしい感じの声と芝居、井上は高音が良く出ていたように思う。最初は口がきけない役なので、短い高い音を発するだけ。相樂と長島はそれぞれ強いソプラノのようであった。和下田は強い声と深刻な芝居。泉は柔らかい声でおとなしい感じの芝居。山田はまじめな感じのバス・バリトン。合唱は人数が十数人で小規模であったが迫力のある声が聴けた。勝又、佐藤の芝居は印象に残った。

装置は大きな多角形の黒い板の一部を円形にカットしたものを2枚吊り下げて、それを動かして様々な背景を作る仕掛け。奥にプロジェクションやセットを配置して奥行感を出し変化を付けていた。木の葉が絡まったロープが4本降りて来て、それが木を表していて、ダンサーの4人がそれに対応している。

ダンサーは出番が多くかなり目立っていて、この公演の主要登場人物になっていた。田川と木原はダンスとバレエの中間程度の動きで、田川は特に演劇的な表情を出しながらのダンスだった。西田はバレエ的な動きで難しそうな静止の技を披露した。大きな太い木を表現していたらしい友部はダンサーではなく俳優らしいが、しっかりと踊って目立っていた。

演奏はダイナミックでドラマを激しく盛り上げた。

24.02.11 めぐろパーシモンホール
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ドン・パスクワーレ/新国立劇場23-24

2024-04-09 | オペラ
ドン・パスクワーレ/新国立劇場23-24

作曲:ドニゼッティ
指揮:レナート・バルサドンナ
演出:ステファノ・ヴィツィオーリ
美術:スザンナ・ロッシ・ヨスト
衣裳:ロベルタ・グイディ・ディ・バーニョ
演奏:東京交響楽団
出演:ドン・パスクワーレ:ミケーレ・ペルトゥージ
   ノリーナ:ラヴィニア・ビーニ
   マラテスタ:上江隼人
   エルネスト:フアン・フランシスコ・ガテル

2019年に見たものと同じプロダクション。「あの騎士のまなざしは」で使われる自走式のソファーは歌手が手で操作しているとのこと。確かにピーニの左腕がソファーの背もたれに置かれていた。

ペルトゥージは声量があって余裕の芝居だった。ビーニは強い声だけれども軽い所もしっかりと歌えた。ガテルは声にクセがあってピュアな感じではないなと思ったけれど、聴くにつれて良く声の通るいい声のテノールだと思い直した。上江は悪役が似合う歌手なので、今回はどちらかと言えば頑張ってコメディをやっている感じがした。声については特に破綻無く最後までしっかりと歌った。早口の所は大変そうだったけれど。マラテスタとノリーナの2重唱は活気にあふれてすごく良かった。アンサンブルも良かったと思う。エルネストとノリーナの2重唱もうっとりする感じでは無かったがそれぞれ強い声でいいアンサンブルだった。合唱も迫力があって良かった。エルネストの夜想曲の所での舞台裏からの合唱が特に美しく良かった。終幕の重唱、合唱ではピーニがしっかり歌えて、これまたすごく良くて楽しかった。

演奏はややゆっくりめに歌手に寄り添う緩急のある演奏だったように思えた。

24.02.04 新国立劇場、オペラパレス
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ファウスト(日本オペラ振興会)2024

2024-04-09 | オペラ
ファウスト(日本オペラ振興会)2024

作曲:グノー
指揮:阿部加奈子
演出:ダヴィデ・ガラッティーニ・ライモンディ
美術・衣裳:ドミニコ フランキ
演奏:東フィル
合唱:藤原歌劇団合唱部
バレエ:NNIバレエアンサンブル、
   ソリスト:浅田良和、日髙有梨
出演:ファウスト:村上敏明、
   メフィストフェレス:アレッシオ・カッチャマーニ
   マルグリート:砂川涼子
   ヴァランタン:岡昭宏
   シーベル:向野由美子
ゲネプロ:
   ファウスト:澤﨑一了
   メフィストフェレス:伊藤貴之
   マルグリート:迫田美帆
   ヴァランタン:井出壮志朗
   シーベル:但馬由香

ブラウン管テレビのような構造の大きなセットが3台。このセットの内側からプロジェクションで表面に画像を映し出していたようだ。画面は布のようなスクリーンで、この装置を動かすと画面がゆらゆらと微妙にゆれる。これが何かこの舞台の、あるいは世の中の揺らぎ、あるいは不安定さを象徴しているようで面白かった。画像はセピアっぽい色合いで布地に描かれた絵のような雰囲気で渋い。数分に1度程度の高頻度で画像が変化して行く。3台のセットが様々に動かされて、効果的な照明と共にバリエーションに富んだ舞台が実現されていた。時には画面側では無くセットの側面を使って暗い部屋を表現したりもしていた。素朴な装置の割には豪華な印象を与えていて、とても良いアイディアの装置だと感じた。

衣装は暗めで地味ながらも、原作当時の時代設定を感じさせる豪華な衣装だった。

多彩な合唱が用意されていて、合唱団はそれを美しく迫力のある声で演奏した。楽しい。
グランドオペラならではのバレエ時間も用意されていて10分程度の本格的なバレエも披露された。コールド、ソロ、パドゥドゥが2回づつ程度あって、楽しい。衣装は黒基調だったが、衣装も振り付けも概ねクラシックな感じで構成されていた。

村上敏明は本格的に声が枯れてしまった。後半に行くにしたがってひどくなって行ったので相当大変だったのではないかと思うが、芝居の方はしっかりとファウストを演じた。声が枯れたファウストは彼自身の心のすさみの表現だと思えなくもなかった。カッチャマーニは迫力のある硬質なバスで強い威力を感じさせた。芝居に余裕があって安定感がある。砂川は昔より少し強めになったかなと感じたが、美しい声でマルグリートを歌った。澤﨑は声量があって安定していて綺麗な声。高い音も破綻なく出ていて、一番高い声もなんとかクリアしたようだった。伊藤は柔らかい感じのバス。迫田は美しく強い声のソプラノ。岡と井出はそれぞれ真面目な感じのバリトン。向野と但馬はそれぞれ安定感のあるメゾだった。

演奏はメリハリが効いていて迫力があった。しかしながら荒っぽい感じでは無くて、きちんと整った印象でもあった。

24.01.27 東京文化会館
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