出版社/著者からの内容紹介
ニートは「岩場のカニ」なのです。働け! がんばれ!などと、とやかく言われると、岩の隙間に逃げ込んでしまうのです。もとニートの"ダメ代表"漫画家がケータイで綴った、今どきの若いもんのリアルな魂の叫び。ダラダラ&ゴロゴロしたい人必読の青春脱力エッセイ集。
著者について
1976年東京都生まれ。趣味ファミレス、駄菓子、ゲーム。前世は1961年に亡くなったトリニダッドのカリプソニアン、ロード・インヴェイダーだと語る(自称)。代表作に『THE3名様』(小学館)、『一服いきますか!!』(実業之日本社)、小説『ソウルトレイン』(講談社)など。18歳の春に就職、18歳の春に退職。フリーターたちの陰に隠れ、なにもしない生活を数年経て漫画家に。現在、「コミックバンチ」で旅に出ない旅漫画「トリッパ」を、「SPA!」で自伝漫画「GENGO」を連載中。また、著書に『ニートとね自分で言うのは違うのさ』(太田出版)というタイトルの川柳本がありまして「まこちん支離滅裂じゃん」というご指摘もございますでしょうが、そこもまたご愛嬌かと。
抜粋
無理に働かせないで下さい
高校を卒業し、就職したものの、
ある理由から3日で退職した僕(その顛末は後ほど......)。
「いつまでもプラプラしてられない! かも」
会社をやめてまもなくはこういう気持ちがありましたが、
時が経つにつれ、それは薄らぎ、
半年経ったころには、もう焦り系の感情は何も感じなくなってました。
時は1998年。
来年は世界が滅亡するであろうという、あのノストラダムスのダイヨゲンも、
僕の脱力の経過に大きく関わっていたと思います。
いや愛読書が「ムー」の僕にとってはソレが6割原因だった......
といってもいいくらい、ノストラダムスは僕の心を支配していたのです。
来年滅亡すんなら別に働きたかないわ、
という気持ちになったのは確かです。
とりあえず死ぬ日に何をするかをよく考えたモノです。
この頃の僕の日常は昼に起き(2時過ぎ)、ワイドショーを観て
夕方あたりから気晴らしに自転車に乗ってサイクリング。
ほぼ毎日10キロくらい走ってました。
走るといってもプラプラダラダラと、行くあてもなく坂を避けながら走る。
当時僕はコレをボー遊びと呼び、
起きている時間の半分以上をコレに費していました。
働く気ゼロのくせして親には一応、
「バイトさがしてくる」と言って家を出る。
そして腹がへったら帰宅。
これが当時の僕の生活サイクルでした。
しかし無力に拍車がかかるのと比例して、親からの「働け圧力」は強くなりました。
昼起きて、何か食いに階下へ行くと、大抵リビングに、
新聞の折り込みに入っている就職情報紙がバンと置いてあるのです。
紙なのにバンと......そういう重みを感じたものです。
ハッキリいってコレは逆効果。
余計「働くもんか!」という決意が固まります。
甘えた考えかもしれませんが、
こういう場合、そっと見守るのが一番いいかと...。
僕が方々で提唱しているのは、
「ニートは岩場のカニ」説で、
実体験からの見解なのですが、
働け! がんばれ! お前は出来る! など、
人からとやかく言われると、ニートは
棒でつつかれた岩場のカニのように
岩の隙間に逃げ込んでしまうのです。
だから、出てくるまでほっとくべきなのです。
まあ人によりますが、
少なくとも僕と僕の周りのニート君たちには共通した性質なのです。
あ、、で、話を戻しますが、
僕は親の圧力を気力に変えて、頑張ってフラフラしていたのです。
しかし、やはり首はだんだんとしまるものです。
19歳の時頂いた賞金(これも詳細は後ほど)は底をつき、
やがて80円コーラを求め自転車で10キロこいだり、
パンクしてしまった自転車を修理するお金もないので
ホイールだけのタイヤの自転車に乗ってたり、と、
家庭内一人極貧に陥りました。
僕はとうとう、相当な心の筋肉なくしては
上げる事の出来ないほどに重くなった腰を上げ、
バイトを探す事にしました。
......が、求人情報誌を買う金がない。
今のようにフリーペーパーなんてものもない。
仕方なく足で探します。
自転車で10分以内でないと通うのは無理なので利にかなっているのですが、
とにかくまず働きたくないという大きな気持ちがあるので
ペダルは重いし、店頭に求人のポスターが張ってあるのを見ると、
なんだかすごく嫌な気分。
「うわぁ結構募集してるよ...」
しかしポケットには50円あるかないか。
背にハラは変えられない......。
仕方なく昔落ちたバイトの面接で使った履歴書を引っ張り出して、
ソレを片手に面接を受けに行きました。
この時、重い腰を持ち上げ続けている心の筋肉はギリギリの状態。
悲鳴をあげてます。
まず最初にアポも取らず飛び込んだのが、ある町のスーパー。
チェーン店ではありません。
おばちゃんとおじちゃんでやってるような家族経営のスーパー。
レジのおばちゃんに、
「あの、外の張り紙見たんすけど」
本心では働きたくないので笑顔もなく、ふてぶてしい僕......
ツンケンキャラ。
「あ、あ~バイト」
「ソス」
完全に警察に補導された中2の態度。
「今店長いないから...あ、電話番号教えてもらえます?
後でまた面接の日程とかお伝えするんで」
電話番号をここで教えたら足がつく......。
よくわからない考えのもと僕は、
「ちょ、、それは困りますんで」
「ふぇ?」
と、困惑するおばさん。
「だ、、だってあなた、面接受けにきたのよね...」
困りますんで...に対しての当たり前の質問なのですが、
なんだかすごく責められている気がした僕は、
「もういいもういい!」
と、しかめっ面しながら、その場を逃走。
心の筋肉の筋が何本か切れる音が聞こえましたが、
面接から逃げることも可能なんだな...
とわかった僕は、その日から逃げること前提で面接を何本か受けました。
ゲームショップ
コンビニ
ソフトウェア開発(ゲーム開発だと思って......)
和菓子屋
ケーキ屋
本屋
などなど。
しかしまあ逃げ腰だし、警察に補導された中2の態度なので
どこも受かることはありません。
そして向こうからの「月曜の夜とか出れる?」の質問に対し、
「いや、、その日はテレビあるんで...」と答える。
「え、、タレントさん?」と店側。
「いや、、観たいテレビが...」と僕。
こんなことを繰り返し、いつしか僕の心の筋肉は自業自得ですが、ずたずた。
気づくとゲーセンに...。
もう腰を上げる筋力は残っていません。
いや...コレは怪我だ...心休めないと...
と理由づけ、ソレ以来面接に出向かなくなりました...。
このとき僕は心から思いました。
俺、日本に向いてねえと。
パスポートも持っていない男が
オレはアメリカサイズだ...と心底思いました。
でもアメリカに行くお金はないし、行く気もない。
さてどうするか...。
悟ったフリでもして、なんかソレっぽいことでも叫べば
誰かがお金を貢いでくれるかも...。
いや、つーか俺、フランスあたりの貴族の末裔とかじゃないか...
あ、、違うあれだモントークボーイだ!
UFОこねーかなーUFO...アブダクションされて~などなど、
どんどんすごいところに考えが進んでいきました。
そんなある日、サイクリングしている僕の目に
ある一軒のビデオ屋が目に付きました。
そこはツタヤの台頭でどんどん姿を消していく街のビデオ屋でした。
(ココからは小説『ソウルトレイン』のあとがきと重複しますが......)
寂しく光るプリクラマシーン
ガチャガチャ...
寂しいのぼり...
あ、、いいな...と思って、少し近づき店内をのぞいてみると、
そこには衝撃的な光景が広がっていました。
営業時間中なのにエプロンをした店員が店のモニターを使って
ゲームに興じているのです。
店内にはお客さんもちらほら。
「ええ?」
漫画のようにこする。
2人いる店員はどちらも笑顔。
(この笑顔がまた素晴らしくまさに脱力笑顔なんです。
「ははは」ではなく「ふふふ」な...)
そのヨコでは物凄く大きな黒人の方が、
モニターを見ながらこれまたニヤニヤ。
お客さんたちからも「こいつらなにやってんのオーラ」が全く出ていない。
どちらかというと一緒に楽しんでいる。
......うわ、いいな...
初めて「ここで働きたい」という気持ちが沸いてきました。
正確にいいますと仲間になりたい、でしょうか...。
翌日面接を受けて、
働きたいオーラが出ていたのか、月曜日も働けると言ったからか、
みごと合格。
ガラス越しに見ていた店員さんたちは思っていた以上に脱力していて、
基本ヘラヘラ。
(笑っているわけでなく顔の筋肉が緩んでいるため...)
僕も基本ヘラヘラフェイス。
前に引越し屋のバイトを短期でやったときに
ヘラヘラしていて怒られた僕にとっては天国。
そんなぬるま湯に心地よくつかって、
一生ここで働きたいな~と思っていたのですが、
9ヵ月が経ったとき、
「伝票をしまうダンボールに落書きをした!」
という濡れ衣を着せられ、放り出されたのです。
クビです。
当時から漫画は描いていたので、
絵=石原という方程式のせいでこのような結果になってしまいました。
僕は店長に
「オレじゃアリマセン!」
と弁明しようとしたのですが、
「もうなんかいいや」
という生粋の脱力気質のせいでしょうか。
キッパリ諦めたのでした、、
ぬるま湯から放り出された僕には
外の空気がよりいっそう寒く感じられました。
体はかじかみます。
でも、もうバイトを探す気力は残っていません。
あ~、、
通勤もなく部屋にいながら、やりたいときにゲームが出来て
自分のペースで出来る仕事はないものか~?
と考えた時に、ふと頭の中に浮かんだあの2文字。
そう、
「漫画」でした。
やっぱり自分にはコレが一番性に合ってんのか...と
どちらかというとマイナスな消去法で気づき、
僕は再びペンを握ったのでした。
自分流で生きるはええことやでー・・・そんな思いがよぎった。






