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熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

沖縄県のマンゴー新商標 「夏小紅」&「てぃらら」

2012年07月15日 | マンゴー

 7月15日は、沖縄県農水産物販売促進協議会が制定した「マンゴーの日」です。
 今年は、その2日前に沖縄県農林水産部から「新しいマンゴー」として「夏小紅(なつこべに)」と「てぃらら」が発表されました。

 その模様は7月12日夕方のNHKニュースで放送されたのを皮切りに、翌日には県内新聞の「琉球新報」と「沖縄タイムス」にも記事が掲載されました。
 各紙の記事にはそれぞれ独自性のある文章がありましたので、今回はそれらを統合して発表内容をお伝えします(オリジナルの文面は、記事下のリンクからご参照ください)。
 
  2012年7月12日(木)に沖縄県農林水産部は新しい県産マンゴーとして「夏小紅(なつこべに)」と「てぃらら」を発表した。
 これらは、沖縄県農林水産部が2003年に米国農務省から譲り受けて導入した18品種のマンゴーのうち、沖縄県農業研究センターが沖縄の環境に適しているとして選抜した2品種である。この2品種は、2007年頃から今帰仁村や宮古島市等で試験的に栽培してきた(NHKニュースでは豊見城市の農家圃場が紹介されていた)。
 沖縄県は選抜した2品種「リペンス」「バレンシアプライド」をそれぞれ「夏小紅」「てぃらら」という名称で2012年6月8日付けで商標登録した。
 これら名称は、20代~60代の女性にグループインタビューし候補を出して貰い、その中から沖縄をイメージした名称を選んだ。

 「夏小紅」は丸い果実で甘みが強く、「てぃらら」は細長くて甘酸っぱい食味が特徴である。
 今回発表された2品種の沖縄県での収穫時期は、7月下旬から9月上旬とのこと。
 これは従来沖縄県内で栽培されている「アーウィン」の収穫が終わる時期と「キーツ」の収穫が始まる時期の間に当たる。

 今期生産量は「夏小紅」が1.680kg、「てぃらら」が440kgが見込まれており、県外の高級フルーツ店等での販売が検討中。
 なお、本格的な生産(出荷)は来年度以降となる見込みで、5年後の生産量の目標値は「夏小紅」が100t、「てぃらら」が71tとされている。

 沖縄県の知念武農水部長は「県産ブランドとして差別化を図りたい。農家の所得向上にもつながる。今後のマンゴー産地づくりに期待したい」とPRした。





写真2.夏小紅





写真3.てぃらら



 「熱帯果樹写真館」は「夏小紅」と「てぃらら」が沖縄県のマンゴー産業を新たなステージに導いてくれることを願っています。


○参考サイト
 ・「新たな沖縄産マンゴー(キャッシュ)」.NHKオンライン.2012年7月12日.
 ・「県がマンゴー新品種 「夏小紅」「てぃらら」」.琉球新報.2012年7月13日.
 ・「新県産マンゴー「夏小紅」&「てぃらら」」.沖縄タイムス.2012年7月13日.

輸入マンゴーの産地と品種(2010)

2012年02月22日 | マンゴー
 今回は日本が輸入している外国産マンゴーの話です。
 「2010年度(平成22年)輸入青果物統計資料」によると、日本は11カ国から23品種のマンゴーを輸入しています(表1)。



表1.日本に輸入されているマンゴー(2010)

参考資料:2010年度(平成22年)輸入青果物統計資料.(社)日本青果物輸入安全推進協議会.
(表は上記資料を参考に「熱帯果樹写真館」で作成。国名は50音順。)



 ここで、まず面白いのは同じ品種なのに別名で表記されているものがあることです。
 「ケイト」と「カイト」は、共に「キーツ(Keitt)」のことです。
 以前に台湾の果樹研究者とマンゴー品種の話をしたとき、やはり「キーツ」のことを「カイト」と発音していました。

 次に、各国の品種構成が面白いです。
 
 表1で挙げた国は、マンゴーの生産と流通に力を入れている国です。
 何故なら、日本の市場でマンゴーを流通させようと思えば、植物防疫法で輸入規制されているミバエ類の駆除を輸出前にしっかりできることを証明し、世界でも屈指の厳しさを誇る農薬残留量基準値(こちらは食品衛生法で規制)をクリアする必要があるからです。

 しかし、その中でも産地力の差が品種構成から見える気がします。
 日本へ輸出している品種に注目すると、自国で育成、選抜された品種を輸出している国と他国から導入した品種を用いている国に分かれます。

 アメリカ合衆国、インド、オーストラリア、タイ、フィリピンは自国で育成、選抜した品種だけを輸出している様です。
 それに対して、コロンビア、台湾、ブラジル、ペルーは、アメリカ合衆国のフロリダ系品種を輸出しています。
 また、パキスタンの「チョウサ」はインドの品種で、マレーシアの「ハルマニス」はインドネシアの品種でしょうか(ご存知の方がいれば教えてください)。
 よくわからないのがパキスタンの「シンドリ」ですが、これはパキスタン独自の品種なのか調べきれませんでした(ご存知の方がいれば教えてください)。

 この中で、自国で育成された品種を複数輸出している国は、品種育成も含めて特に有力な産地と考えて良いでしょう。
 輸出量などの物質的な量ではなく輸出している品種構成から産地力が垣間見えるのは、面白いと思いました。

 マンゴーの品種は、長い栽培の歴史の中で様々な品種や系統が自然に交配され、適応性と嗜好の末に選抜されたもの(つまり、偶然の産物)が多く含まれています。
 しかし、近年ではより良い特性をもつ品種を得るために、計画的な育種プログラムに取り組んだ末に選抜された品種も出てきています。

 今後、表1で示した国やそれ以外の国から新しいマンゴー品種が育成され、日本に居ながらにして味わえる日が来ることでしょう。
 今から楽しみです。


○参考資料
 ・2010年度(平成22年)輸入青果物統計資料.(社)日本青果物輸入安全推進協議会.

タイのマンゴーに係る備忘録

2011年05月01日 | マンゴー

 涼しい4月を終え、今日から5月です。
 今年は季節の移り変わりが遅いと感じていました。
 しかし昨日、沖縄気象台が沖縄地方の梅雨入りを発表しました。
 4月30日の梅雨入りは、去年より6日早く(平年より9日早い)、この10年で最も早いそうです(1951年の統計開始以降、5番目に早い)。

 さて、話変わって今日はタイ産マンゴーの話題です。
 先日、近所のスーパーでタイ産マンゴーの「ナムドクマイ(Nam Doc Mai)」を購入しました。

 それに因んで、昨年お会いしたタイ(チャンタブリ)の研究員のT氏に教えていただいたタイのマンゴー情報の備忘録を付けたいと思います。
 以下、Q&A方式で記載します。



Q1:タイにおけるマンゴーの人気品種は何ですか?

A1:「 ナムドクマイ 」の人気が特に高い。また、最近では果皮が黄色くなるタイプの「ナムドクマイ スイトーン(金色)」の人気が高まっている。


Q2:「 ナムドクマイ 」とは、どの様な意味ですか?

A2:直訳すると、「Nam=水」「Doc Mai=花」となり、果実の形状が水滴状であることから付いた名称で「花の雫」と云った意味合いになる。


Q3:「 ナムドクマイ 」と言えば「No.2」や「No.4」といったバリエーションがある様ですが、それぞれの来歴を知っていたら教えてください。

A3:一般的な「ナムドクマイ」の来歴は古いため不明となっている。「ナムドクマイ No.4」は、カセサート大学がタイ国内で「ナムドクマイ」の変異(枝変わり等)を収集、選抜した際に、特別に早い時期に開花するタイプ(早生)ということで選抜した系統(品種)である。


Q4:日本にはタイから「マハーチャノック(Maha Chanok)」と云う品種も輸入されていますが、タイにおける「マハーチャノック」の評価や普及状況はどの様になっていますか?

A4:タイから日本に輸出されている「マハーチャノック」は、果皮が赤くなるタイプで、この様な品種はタイには元々はない。恐らく、海外から育種素材 を導入して得たものだと思われる。
 「マハーチャノック」のタイ国内での評価は、匂いがやや強いため、あまり普及していない。


Q5:「マハーチャノック 」とは、どの様な意味ですか?

A5:直訳すると「Maha=偉大な」「Chanok=父」であるが、この場合は「Maha Chanok =仏陀の10代前の前世(最初の前世)における名前」のことだと思う。

※私は以前に「マハーチャノック=大なる銛」と訳していましたが、誤りでした。


 マンゴーについては、以上です。

 視察中の貴重な時間であったにも関わらず、丁寧に情報を教えてくださったT氏ならびに通訳をしてくださったbuabuahan さんに、改めてお礼を申し上げます。

〇参考記事
 ・「マンゴスチンに係る備忘録(2010.10.09)」
 ・「タイ王国産マンゴー「マハーチャノック種」が輸入解禁になりました(2006.12.30)」

〇参考サイト
 ・「NHKニュース;沖縄地方 早くも梅雨入り(2011/04/30 13:40)」
 ・「47ニュース;沖縄が梅雨入り、気象庁発表 平年より9日早く(2011/04/30 11:50)」

「紅キーツ(赤キーツ、レッドキーツ)」とは何だ?2

2010年10月27日 | マンゴー

 前回の「「紅キーツ(赤キーツ、レッドキーツ)」とは何だ?1」では、現段階の研究報告から「紅キーツキーツと異なる品種(系統)であるが、正体は特定できていない」というところまで研究が進んでいる話を書きました。
 今回は、私の独自調査の結果とそこから生まれる疑問等の考察を記します。

 まず、狭間ら(2009)および上田ら(2009)の研究では、「紅キーツ」の正体はサンプル(物的証拠)からのみ探られています。
 つまり、来歴の聞き込み調査が抜けている感が否めません。

 前回、「紅キーツ」の来歴を「どうやら台湾から穂木を導入した人がいたらしい」と書きました。
 私は、この「導入者を特定」し、「どこから何を持ってきたかを確認」することにしました。
 まずは、石垣島だけでなく台湾の熱帯果樹事情にも詳しい石垣島の同志(以前、「台湾旅行記」で‘隊長’として登場した人物、以下隊長)に何か情報を持っていないか電話で確認してみました。

 ねこ「隊長、「紅キーツ」ってあるじゃないですか?」
 隊長「あるね」
 ねこ「「紅キーツ」を石垣島に導入した人って知ってますか?」
 隊長「知ってるよ。僕だよ」


 調査の第一段階「石垣島に「紅キーツ」を導入した人を特定する」は、あっさりと解決しました。

 ねこ「そうなんですか(やっぱり・・・)、では「紅キーツ」の来歴って憶えていますか?」
 隊長「うん。あれは玉井郷の郭文忠さんから貰った「玉文5号」だよ」


 ここで、調査第二段階「どこから何を持ってきたかを確認」も解決しました。

 ねこ「では何故「玉文5号」という名前が残っていないのですか?」
 隊長「僕が持ってきたときは「玉文5号」って説明したんだけど、「玉文5号」なんて誰も知らなかったから「果皮が赤いキーツみたいな品種」ってことで、とりあえず高接ぎしたんだよ」


 それが、いつの間にか「果皮が赤いキーツ」になったんですね・・・。
 以上で、「紅キーツ」に係る聞き込み調査は終了ですが、その結果を踏まえた補足説明や考察、提言を以下に記します。


 まずは「玉文5号」という品種について説明をします。
 台湾の台南県に玉井郷という集落があります。
 玉井郷は、マンゴー生産がとても盛んな地域として知られています。
 また、玉井郷にいる民間育種家の郭文忠氏は、マンゴーの育種家として高名です。
 郭文忠氏が選抜・育成した品種(系統?)は、‘玉’井郷の‘文’忠さんが選抜したことから「玉文○号」という名称で知られています。
 読み方は、国内では通常「ぎょくぶん」なんて発音されていますが、台湾語では「ユウィン(Yu-Win)」です(李ら.2009)。
 また、国内では「玉文」とだけ表記されているものを見かけますが、「○号」を付けないと品種名表記としては不完全だと思います。

 「玉文5号」の説明は、「玉井郷農會」のサイトの「品種風味」のページから引用します(図1)。




図1:玉文5号の説明


 玉井郷の農家 郭文忠氏の果樹園で実生選出により得られた品種。
 果実は球形で果梗部が凹む。果実重量は1,000gで、果実の長径は14.5cm、短径は12.8×10.6cm。果皮は赤色を呈し、果肉は黄金色で繊維がなく、果肉率は88.96%、肉質は細かい。糖度(Brix)は低く10.3%、糖酸比は38.3%、香りは薄い。結実率は高く、豊産性である。

(ねこがため 訳)



 「紅キーツ」の大玉果実の糖度が低いのも、「玉文5号」であるなら納得です。
 その他の説明も「紅キーツ」の特徴と一致している様に思います。

 ここで喜び勇んで「紅キーツ=キーツ」と結論づけたいところですが、「玉井郷農會」のサイトの「品種介紹(品種紹介)」のページには「紅凱特(紅キーツ)」という品種が紹介されています(図2)。




図2:紅凱特の説明


 西暦1986年頃、台南県玉井郷において果樹農家の果樹園内で、実生で育成した樹の果実が大きく、果皮が赤色を呈し、果実は円形で、キーツに似ていたので「紅凱特(紅キーツ)」と呼ばれた。
 当時、この様に大きな果実は珍しかったが、果実が熟したときに糖度が低く、酸度が高いという欠点が見つかった。
 そのため、趣味の栽培か、御先祖様や神様へのお供え物としての利用されている。
 果実品質は、平均果重量が1,342g、糖度(Brix)12%、酸度0.31%、糖酸比39%、繊維は粗く、口当たりが悪いので経済栽培の価値は無い。農政部局は育種素材として保管している。

(ねこがため 訳)



 説明文中の「繊維が粗い」は、私が知る日本で栽培されている「紅キーツ」には当てはまりませんので別品種だと思います。
 ただし、新たに台湾から「紅キーツ」の苗を導入しようとした人が、この品種の穂木や苗を導入していないとは言い切れません。

 また、アーウィンを母本、キーツを父本の掛け合わせで育成された「金興」等も「紅キーツ」の名前で流通しそうな気がします。

 この様に、隊長が導入した「玉文5号」を起源とした「紅キーツ」のみが流通しているのであれば、それは「玉文5号」である可能性が高いと思います。
 しかし、台湾から「玉文5号」以外の「紅キーツ」と称した苗木が導入されていないとは言い切れません。

 そのため、「日本で「紅キーツ」と呼ばれているものには「玉文5号」が含まれている(玉文5号⊆紅キーツ)」としか言えないと思います。

 今後の課題として、
 (1)品種の系統分類学的研究で「紅キーツ」を扱う際は、「玉文5号」を供試品種に加え同一のものか否かを確認する。
 (2)(1)を行う際は、公の研究機関や大学等で保管されている「紅キーツ」を供試する(もしくは来歴を確認する)。
 (3)(2)が「玉文5号」と同一とあると結論づけられた場合は、それ以後は「玉文5号」と名称を改める。
 (4)「紅キーツ≠キーツ」である旨を流通段階で行政や出荷団体が指導する。
 (5)「紅キーツ」という名称を残したいのであれば、「紅キーツ®玉文5号」の様に品種名を明記する。

 といった真実を追究し、誤解を広げない様にすることが必要だと思います。

 蛇足として、「キーツ」は果皮が緑色(一部にピンク色がのる)と考えられていますが、果実によっては果皮色がやや赤くなるものがあります(写真2)。



写真2:緑のキーツ(左)と紅がのったキーツ(右)



 また、台湾やオーストラリアでは「キーツ」は果皮が赤くなる(全体が真っ赤という意味ではないと思いますが)と考えられている様です。
 果皮が赤いからといって「キーツ」ではないと言い切るのも早計なのかもしれません。


○参考文献
 ・「SSRマーカーを用いた“紅キーツ”を含むマンゴー品種群の遺伝的類縁関係の調査」.2009.狭間英信・本勝千歳・湯地健一・Ian Bally・米森敬三.熱帯農業研究;第2巻別号2;p.17-18.日本熱帯農業学会.
 ・「沖縄に古くからあるマンゴーの遺伝的多様性」.2009.上田祐未・山中愼介・樋口浩和・縄田栄治.熱帯農業研究;第2巻別号 2;p.15-16.日本熱帯農業学会.
 ・「芒果種原親縁関係之研究」.2009.李文立・邱國棟・翁一司.台灣農業研究;58(4);p.243-253.行政院農業委員會農業試驗所PDF:1556KB

○参考サイト
 ・「行政院農業委員會農業試驗所
 ・「玉井郷農會

「紅キーツ(赤キーツ、レッドキーツ)」とは何だ?1

2010年10月24日 | マンゴー

 「紅キーツ(赤キーツ、レッドキーツ)」の正体を探る話です。
 今回は、日本国内における「紅キーツ(赤キーツ、レッドキーツ)(以下、原則としては紅キーツ)」に係る研究の変遷から、その正体にどこまで迫れているか、の話をします。

 私が「紅キーツ」の存在を知ったのは、石垣島に転勤した2000年のことでした。
 ちょうど「熱帯果樹写真館」を開設した頃だったので、私は石垣島の熱帯果樹栽培農家や研究機関等を訪れ、沖縄本島では見られなかった品目、品種の探索に精を出していました。

 その様な中、某農家の圃場や県の農業試験場(現在の農業研究センター)に見たことがない果皮が赤い大玉のマンゴーがあったのです。
 当時、そのマンゴーは「果皮が赤いキーツ」と呼ばれていました。
 どうやら台湾から穂木を導入した人がいたらしく、その人が複数箇所に危険分散のために高接ぎしたため、石垣島内で散見された様です。

 珍しいものを見つけた、と喜んだ私は写真に撮り「熱帯果樹写真館」で「果皮の赤いキーツ」を「(キーツの)赤色の強い系統が栽培される様になった」と紹介しました。
 当時は「果皮が赤いキーツ=キーツ」と誤認していたのです(その結果、多くの方に誤解を与えたことをお詫び申し上げます)。

 さて、本日の本題「果皮が赤いキーツ」がどの様な流れで研究されてきたかを説明します。

 まず最初に研究を手がけたのは、沖縄県農業試験場八重山支場です。
 2003年に行われた日本熱帯農業学会第94回講演会の中で、砂川らが「赤キーツ(マンゴー)の特性」という題名の発表を行っています。
 ところが、この中では「紅キーツ」の来歴や分類的位置づけには一切触れられていません。

 続いて、宮崎県総合農業試験場亜熱帯作物支場が研究に取り組みました。
 こちらは2005年に刊行された2004・2005年試験成績書の中で「紅キーツの栽培技術開発 1)紅キーツの品種特性調査」という題名で記載されています。
 この後、宮崎県は、数年度にまたがり「紅キーツ」の栽培技術開発の研究に取り組みます。
 ところが、これらの研究報告書内でも「紅キーツ」の来歴や分類的位置づけには一切触れられていません。

 しかし一方では、沖縄県と宮崎県は共に、「紅キーツ」は「大きな果実では糖度が低くなる傾向が見られる欠点があり」、「小さな果実は高糖度になるが、ひびや裂果、ヤニ果が多く見られる欠点がある」といった「キーツ」とは異なる特性を示しています。



写真2:「玉文5号」の小玉果実はヤニ果になりやすい



 このため、2000年代半ばには、有識者の間では「紅キーツ≠キーツ」の認識が濃くなっていました。
 それなのに、公の研究機関が「赤キーツ」、「紅キーツ」と呼んだこともあり、「紅キーツ=キーツ」の誤解が広まっていきます。

 誤解が一人歩きした結果、2000年代後半には沖縄本島内で生産された「紅キーツ」が「キーツ」の化粧箱に入れて販売される事例も見られました(写真 )。
 大玉で紅色が濃く、見栄えがする「紅キーツ」に「キーツ」の濃い味を期待して購入され、がっかりした消費者もいたことでしょう。



写真3:「キーツ」の化粧箱で売られる「紅キーツ」



 「紅キーツ」と「キーツ」を分類学的に比較し、「紅キーツ」の正体を探る研究が必要な時期がきていました。

 そして、2009年に行われた日本熱帯農業学会第106回講演会の中で、京都大学の狭間らが「SSRマーカーを用いた“紅キーツ”を含むマンゴー品種群の遺伝的類縁関係の調査」という題名の発表を行いました。
 この研究では、「紅マンゴー」は、このの調査で用いられた品種群(表1)のいずれの品種とも異なると結論づけられています。



表1:狭間らが供試したマンゴーの品種と原産地




 また、「紅キーツ」の形成にはフロリダ系の品種が大きく関わっていることが示唆されました。
 つまり、狭間ら(2009)の研究からは、「紅キーツ≠キーツ」であることと「紅キーツがどの品種かはわからなかったが、フロリダ系の品種が育種親の可能性が高いのでは?」という重大な情報が示されました。

 また、同講演会の中で、これまた京都大学の上田らが「沖縄に古くからあるマンゴーの遺伝的多様性」という題名の発表を行いました。
 こちらの研究では、特に「紅キーツ」の由来を調べる目的で行われたものではありませんが、供試品種の中に「紅キーツ」と「キーツ」が含まれています。
 また、この研究の報告には、研究に用いた品種の遺伝的類縁関係を示す樹状図が示されています(図1)。
 これによると、「紅キーツ」と「キーツ」は、かなり離れた位置に存在しています。



図1:上間らが作成した樹状図



 この様に、現段階では「紅キーツはキーツと異なる品種(系統)であるが、正体は特定できていない」が、一応の結論です。
 次回は、これに続く私の独自調査と考察等を記したいと思います。


○参考文献
 ・「赤キーツ(マンゴー)の特性」.2003.砂川喜信・玉城盛俊・添盛浩.熱帯農業;47(Extra issue 2);p.1-2.
 ・「紅キーツの栽培技術開発 1)紅キーツの品種特性調査」.2005.末吉浩二・松田儀四郎・吉倉幸博.2004・2005年試験成績書;p.74-75.宮崎県総合農業試験場亜熱帯作物支場.
 ・「新品種「紅キーツ」の栽培技術開発 1)紅キーツの無胚果の果実特性」.2007.末吉浩二・吉倉幸博.2006年試験成績書;p.50-51.宮崎県総合農業試験場亜熱帯作物支場.
 ・「新品種「紅キーツ」の栽培技術開発 1)優良品種・系統の探索」.2008.末吉浩二・吉倉幸博・黒木宏美.2007年試験成績書;p.91-92.宮崎県総合農業試験場亜熱帯作物支場.
 ・「マンゴー「紅キーツ」無胚果の果実特性と収穫適期について」.2008.末吉浩二.みやざき農業と生活;平成20年5-6月号;p.74-75.宮崎県農林技術連絡協議会.
 ・「SSRマーカーを用いた“紅キーツ”を含むマンゴー品種群の遺伝的類縁関係の調査」.2009.狭間英信・本勝千歳・湯地健一・Ian Bally・米森敬三.熱帯農業研究;第2巻別号2;p.17-18.日本熱帯農業学会.
 ・「二国間交流事業 協同研究報告書;マンゴー新規有望系統育成のための遺伝資源の活用(PDF:203kb)」.2010.本勝千歳.日本学術振興会. 
 ・「沖縄に古くからあるマンゴーの遺伝的多様性」.2009.上田祐未・山中愼介・樋口浩和・縄田栄治.熱帯農業研究;第2巻別号 2;p.15-16.日本熱帯農業学会.

黄色い「キーツ」マンゴーを作る裏技

2010年10月07日 | マンゴー

 今回は、国内で2番目に栽培されているマンゴーの品種「キーツ」の話題です。

 「キーツ」は、国内で最も栽培されている「アーウィン」よりも収穫時期が1ヶ月程度遅く、果実が大きく、果皮が緑色のままで収穫されます。
 味と香りは「アーウィン」より濃い感じ(酸味がやや高い)で、15年程前は「匂いが強くて苦手」という人も多かった様です。
 しかし、最近では外国産の香りが強いマンゴーが加工原料として多く使われる様になり、マンゴーの香りが認知されつつあります。
 「キーツ」の香りは、濃いと云っても数多くあるマンゴーの品種の中ではマイルドですので、人気が上昇してきたのもわかります。

 それでも「キーツ」は生産量が少なく、未だ「知る人ぞ知る」「幻のマンゴー」と云った説明をされることが少なくありません。
 また、果皮が薄緑色で収穫されるために、生産者が収穫適期が難しいとも云われています。
 収穫が早すぎると、収穫後の追熟が上手く進まない、糖度が十分にのらない等の問題が発生します。
 逆に収穫が遅すぎると、果肉が溶けた様な生理障害(果肉崩壊症)が発生する等の問題があります。

 キーツの収穫適期は、果皮色の微妙な変化や果形の変化、果梗部(ヘタ)付近のシワの発生程度等が収穫の目安とされることが多い様ですが、それだけでは十分でないことが知られています。
 最近では、宮古島での調査研究から「果実長径が5cm程度(仕上げ摘果時期の果実サイズ)から110~130日後が収穫の目安」という概念が生まれています(比嘉ら.2007)。
 これを従来の収穫時期の目安に加えることで、より収穫適期がわかりやすくなると思います。

 詳しくは、沖縄県の北部農業改良普及課の普及だより(ちむ美らさ);第41号;p.3(PDFファイル:1136KB)の記事「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定」にまとめられています。


 さて、前置きが長くなりましたが、ここからが今回の本題です。
 「キーツは緑色だから売りにくい」という意見が以前からあります。
 私としては「それがキーツの個性なんだから受け入れてあげてよ」「味が良いとか、優れた個性を評価してあげてよ」と思うのですが、「果皮色が暖色ならなぁ」という気持ちもわかります。

 日本国内や台湾では「紅キーツ(赤キーツ)」と呼ばれるマンゴーが出回ることがありますが、これは「キーツ」とは別の品種です。
 「紅キーツ」については、後日改めて記事を書く予定ですので、今回は「紅キーツと呼ばれるキーツとは別品種のマンゴーがある」ことを覚えてください。



写真2:キーツとは別品種の「紅キーツ(玉文5号)」



 今回は本物の「キーツ」を用いた果皮色変化の実験の話をします。
 台湾で1994年に発行された「芒果栽培技術」という書籍には、袋掛けで遮光袋を用いることで「キーツ」の果皮を黄色っぽくできることが記されています。
 しかし、国内でそれを実践したという話を聞いたことがありません。
 そこで、今年の夏に試す機会に恵まれましたので、その結果を以下に記します。

 まず、調査に用いたのは、80L鉢に植えられた「キーツ」2樹。
 調査果実数は6果でした(初着果のため果実数が少ない)。
 そのうち2果にビワで用いる単層で内側が黒色の袋(以下、ビワ袋)を被せました(写真3)。



写真3:ビワ袋(縦×横=24cm×19cm)



 残りの4果にはキーツ用(通常のマンゴー袋より大きい、縦×横=29.5cm×18.8cm)として売られている白色の袋(以下、白袋)を被せました。

 袋を被せたのは、5月13日。
 ビワ袋を被せた黒実の長径は8.2cmと7.0cmでした(写真4)。



写真4:袋掛け時の果実(5/13)



 白袋を被せた果実の長径は測定しませんでした。

 調査途中で、収穫を待たずにビワ袋を被せた1果(5/13に果実長径が8.2cmだったもの)が落果してしまいました。

 そんなハプニングがありつつも、収穫を迎えた8月24日。
 4月下旬に果実長径が5cm前後になっていたので、それから120~130日後の収穫です。
 収穫後の果実は、すでに白袋とビワ袋で果皮色が異なっていました(写真5)。



写真5:収穫直前の果実(8/24)(左:白袋を掛けた果実、右:ビワ袋を掛けた果実)



 これを8~10日追熟すると、ビワ袋をかけた果実の黄色味は増し、白袋との果皮色の差はさらに大きくなった気がします(写真6)。



写真6:食べ頃の果実(左:白袋を掛けた果実、右:ビワ袋を掛けた果実)



 そして、気になる味を確認。
 白袋を掛けた果実3果の Brix は16.3~18.1%に対し、ビワ袋を掛けた果実1果の Brix は15.6%でした(表1)。



表1:袋の種類と果実糖度



 食味調査の結果も Brix 値が低い果実は、甘味が少なく、酸味が強いため低い評価となりました。
 今回は果実数が少ないので味の評価はまとめませんが、前述した「芒果栽培技術」には以下の様に書かれています。


 キーツは果実の酸がやや高い品種で、黒色や銀色の袋を使用すると、果実に日照が当たらないので、果実の酸はさらに高くなり、この欠点は消費者には悪評である。

(伊藝安正 訳)



 遮光袋を掛けると味が悪くなることは、ある程度予想されていました。
 今回も、その轍を踏んだ結果となった気がします。

 しかし、「光の条件を変えることで果皮色を変えることが可能」ということが実践で確認できたので、次回は地植えの成木を用いて、資材や袋掛けのタイミングを模索し、白袋と同等な食味で果皮色を変えるのに挑戦したいです。

 目標は、Brix 18%以上の「ゴールデンキーツ」です。


○参考文献
 ・「熱帯果樹マンゴー(キーツ種)の熟度判定技術の開発 第2報収穫後の食べ頃表示技術の開発(PDFファイル:292KB)」.2007.比嘉淳・砂川喜信・貴島ちあき・屋良利次・伊山和彦・伊志嶺弘勝・與座一文.沖縄農業研究会;平成19年度(第46回)大会 講演要旨.
 ・「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定」.2009.高橋・井上.普及だより(ちむ美らさ);41号;p.3(PDFファイル:1136KB)沖縄県 北部農林水産振興センター農業改良普及課
 ・「芒果栽培技術」.1994.劉銘峰.(1994.伊藝安正 訳).台南区農業改良場新化分場.

2010年 マンゴー食べ初めは珍品種から

2010年06月21日 | マンゴー
 2010年6月19日に沖縄県は梅雨明けしました。
 梅雨が明けると一気に夏です。
 マンゴーの季節が到来します。

 国内で栽培されているマンゴーの品種は「アーウィン」が主ですが、私が今年最初に食べたマンゴーは「アーウィン」ではなく「ゴールデンリペンス(Golden Lippens)」でした。



 「ゴールデンリペンス」に関する国内の情報は少ないですが、伊藝らが1998年に「A Guide To Mango in Florida」という資料を翻訳し刊行した「マンゴーの品種」という冊子(現在 在庫はなく入手困難)に品種特性等の記載が見られます。
 それによると、「ゴールデンリペンス」は、「アーウィン」と同じく「リペンス」という品種の実生から得られたとされています。
 また、「ゴールデンリペンス」は、果形は長円形で、果皮色は明るい黄色でときどきピンク色の紅がのる、果肉の繊維とヤニ臭さが少なく、味は濃厚と記されています。
 この資料では、各品種の食味を5段階評価しており、「ゴールデンリペンス」の食味評価は最高の「優(excellent)」です。

 この他にも、米本(2000?)は、「ゴールデンリペンス」は「アーウィン」より収穫期が遅く、糖度が高いことを報告しています(表1、2)。





 これらの事前情報から、私も期待して食したのですが、甘味が薄く「「淡い味だなぁ・・・」という感想をもちました。
 それ以外は、繊維は少なく、ヤニ臭さも気にならず(アーウィンよりは有る)、ジューシーと申し分ないのですが、味が淡いと「美味しいマンゴー」なイメージと結びつきません。
 表3に私が食した「ゴールデンリペンス」のデータを記します。



 既存のデータと比べると、収穫時期が早く、果実サイズが小さく、糖度が低いことがわかります。
 つまり、私は品種本来の特性を十分に発揮できていない果実を食べたのだと思います。
 珍しい品種が食べられたので良かったのですが、8月以降に品種特性を発揮した「ゴールデンリペンス」を食べなおしたいものです。


○参考文献
 ・「マンゴーの品種(原著:A Guide To Mango in Florida)」.(訳)1998.(訳)伊藝安正・井上裕嗣.宮古農業改良普及センター.
 ・「マンゴーの品種特性について」.米本 仁巳.2000?.農林水産総合技術センター山村産業試験場(平成11年度成果発表).

マンゴーの取り木

2009年09月08日 | マンゴー
 2009年8月下旬某日に知人から「マンゴーを取り木したんだけど、根が出ていない」と報告を受け、「一緒に取り木の状況を確認して、問題点等を考えて欲しい」と依頼されました。
 マンゴーを増やすときは、通常は接木繁殖を行うのですが、取り木繁殖とは珍しいです。
 早速、現場へ駆けつけ、取り木の状況を確認しました。

 取り木を行っていたのは、樹齢10年以上のマンゴー(品種:アーウィン)で、施設内で栽培されていました。
 話によると、取り木は6月上旬に行ったとのこと(写真1)。

 私が呼ばれる前に「2つの取り木を開けたが発根していなかった」から不安になったそうです。



写真1:取り木の状況


 私が見た限り、取り木が行われている枝の太さ及び角度、位置は様々でした。
 しかも、ミズゴケの乾燥防止のビニールは黒マルチを用いている・・・。

 「とりあえず、太さが500円玉程度で、立ち枝、日陰の取り木を開けてみましょう」

 私の提案に従って1つ開けてみると・・・、



写真2:取り木成功(発根していた)



 しっかり発根していました(写真2)。

 恐らく、

 1.地面と平行な枝や下垂した枝では発根しにくい。
 2.細すぎる(若すぎる)枝では発根しにくい。
 3.黒マルチを用いているので、日当たりが良い枝では暑くなり過ぎる。

 等といった原因で発根しづらかったのではないでしょうか?

 とにかく、マンゴーの取り木繁殖という珍しいものが見られたので、私は大満足でした。

マンゴーの新芽が穴だらけに!

2007年10月07日 | マンゴー
 沖縄県産のマンゴーは、収穫期を8月に終え、9~10月は次年度収穫のための結果母枝育成の時期になります。
 収穫後に剪定を行い、新芽を出し、1枝に対し2本程度に新梢を絞り、2~3節伸ばし、11月にはしっかり緑化した結果母枝に仕上げる。これが、結果母枝育成の基本的な手順だと思います。

 しかし、結果母枝育成の課程では様々な病害虫の被害に遭います。
 特に柔らかい新芽は、害虫の格好の餌となってしまいます。
 今回は、マンゴーの新芽を加害する害虫の中で、マンゴー生産者の多くが「被害痕は見たことがあるけど、虫は見たことがない」と言うマンゴーハフクレタマバエ(Procontarinia mangicola)の幼虫写真撮影に成功しましたので、紹介したいと思います。

※今回は虫の話題ですので、虫嫌いな方は読むのをここで止めて下さい。

 まず、マンゴーハフクレタマバエの被害痕は、主に新芽に見られますが、新芽が緑化した後に被害痕が消えることはありません。
 マンゴーハフクレタマバエの被害痕は、葉に大きさ2~4mmの穴または褐色に硬化した円形の枯れこみ(これが後に穴となる)として観察できます(写真1、2)。


写真1、2:マンゴーハフクレタマバエの被害痕(左:新芽、右:緑化した葉)


 被害がひどくなると、新節の葉が全て落葉してしまうこともあります。

 次に、多くの被害痕が見られるにも関わらず、多くのマンゴー生産者がマンゴーハフクレタマバエを見たことがないのか、について書きたいと思います。

 マンゴーハフクレタマバエの卵は、柔らかい新葉に産卵されます。
 そして、ふ化した幼虫は葉肉内に穿孔し、そこで成長しながら円形のゴール(=虫えい、虫こぶ)を形成します。
 幼虫は1齢から終齢(3齢)を葉肉内(葉の表と裏の間)で過ごし、成熟すると葉から出てきて、地表に跳ね落ちます(その後、蛹化し、羽化して成虫になります)。

 つまり、マンゴーハフクレタマバエの加害現場が観察されない最大の理由は、幼虫が葉の表と裏の間にいるため、葉の表面を眺めても他の害虫の様に虫が見えないためです。

 また、葉から出てきた幼虫が目につかない理由は、大きさが小さい(体長約2mm)ことにあります(写真3、4)。
 幼虫が小さいことは、写真3(左)の幼虫の大きさと新芽の葉の厚みを比べると実感できると思います。


写真3、4:マンゴーハフクレタマバエの幼虫


 この様に小さい幼虫が、葉から出てきて地表に落ちても、なかなか見つかるものではありません。
 今回は、葉内に幼虫がいる状態で葉を容器で保管し、葉から出てきた幼虫の写真を撮影しました。引き続き、蛹、成虫の写真も撮影したかったのですが、上手く蛹になってくれませんでした。

 話が脱線しましたが、元に戻します。

 虫を発見できないマンゴーハフクレタマバエは、被害痕になるまで存在に気づくことができないのでしょうか?
 答えは否。
 新葉を光に透かせば葉肉内に幼虫がいることがわかります(写真5)。


写真5:新芽を光に透かすと幼虫がいる葉は、そこが明るくなる


 写真5は、かなり被害が進行してしまった葉ですが、マンゴーハフクレタマバエの存在は、幼虫が出てくる前に確認できることは理解していただけたと思います。

 最後に、新芽に穴を開け、充実した結果母枝育成の邪魔をするマンゴーハフクレタマバエをどの様に防除すれば良いでしょうか?
 農文協から出版されている「原色果樹病害虫百科〈5〉ナシ・ビワ・イチジク・マンゴー」では、本虫の侵入対策の例として

 ・園地への苗木の導入時には、(本虫の寄生がない)健全苗木であることを確認する。
 ・施設では常時防虫ネット(0.6mm以下)を張る。



 物理的対策の例として、

 ・幼虫が寄生している新梢は直ちに剪除する。
 ・余分な新梢は本虫が寄生する前に剪除する。
 ・剪除した新梢は放置せず、確実に処分(ゴミ袋に入れ、密閉し、焼却)する。



 が推奨されています。

 また、国内ではマンゴーハフクレタマバエに登録が取られている農薬はありませんが、マンゴー生産者の話では、本虫と同じく新芽を加害するチャノキイロアザミウマを対象とした農薬を散布していると、本虫は同時に防除できると云うことです。
 いずれの防除方法をとるにせよ、一度ほ場に侵入を許したマンゴーハフクレタマバエは、成虫になるまでの期間が非常に短く(卵から成虫の寿命までの期間は16~17日。すなわち、卵期間は2日、幼虫期間は7日、蛹期間は5~6日で、成虫の寿命は2~3日)、環境条件が揃うと急激に増殖することから、初期防除が重要です。

 マンゴー生産者の皆様。
 来年も美味しいマンゴーをたくさん食べたいので、マンゴーハフクレタマバエをはじめ病害虫に負けず、頑張ってください。

○参考文献
 ・「原色果樹病害虫百科〈5〉ナシ・ビワ・イチジク・マンゴー」.2005.農山漁村文化協会 .
  マンゴーハフクレタマバエのページは、河村太氏による執筆.

タイ王国産マンゴー「マハーチャノック種」が輸入解禁になりました

2006年12月30日 | マンゴー
 2006年11月28日に「タイ王国産マハチャノ種のマンゴウの生果実の輸入解禁について」と題した記事が、農林水産省ホームページの報道発表のページで発表されました。

 記事の内容は、


 タイ王国産マハチャノ種のマンゴウの生果実については、タイ王国側からの輸入解禁要請を踏まえ、これまで科学的・技術的検討を行い、公聴会、パブリック・コメント等の手続を経て、病害虫の侵入のおそれがないことを確認したので、本日付けをもって、タイ王国産マハチャノ種のマンゴウの生果実について、輸入解禁措置を講じることとする。


 と云うものでした。

 近年は「マンゴーブーム」と言われる様に、マンゴー輸入数量は年々増加しています(図1)。


図1:マンゴーの輸入数量及び金額の推移
貿易統計(輸入).財務省.より抜粋・加工


 その様な状況下でタイ王国から日本には、どの時期にどれ位の量のマンゴーが輸入されていたのでしょうか?
 まず輸入数量ですが、2005年の「貿易統計(輸入)」ではタイ王国産マンゴーの輸入数量は955,195kg(マンゴー輸入量全体の7.9%)となっており、これはフィリピン、メキシコに次ぐ第3位の数量となっています(図2)。


図2:日本の国別マンゴー輸入数量(2005年)
貿易統計(輸入).財務省.より抜粋・加工


 次にタイ王国産マンゴーの輸入時期ですが、月別に見ると3月がピークで、12月~6月が主な出荷シーズンと言えそうです(図3)。


図3:タイ王国から輸入されたマンゴーの月別数量および単価(2005年)
貿易統計(輸入).財務省.より抜粋・加工


 これまでタイ王国から輸入されていたマンゴーの品種は、ナンカンワン種、ナンドクマイ種、ピムセンダン種、ラッド種の4品種でしたが、これにマハチャノ種が加わると云うことになります。
 マハチャノ種の出荷時期がいつ頃なのか、気になります。

 タイ王国産マンゴーで輸入できる品種とできない品種があったのは、植物防疫法に係る取り決めのためです。農業的大害虫のミバエ類が生息するタイ王国からは、マンゴー果実は蒸熱処理を行い殺虫処理をしてからでないと、日本にマンゴーを輸出できないことになっています。
マンゴーは品種により果実の大きさや形状が違うため、1種類の品種で蒸熱処理の効果が確認されたからと云って、他の品種まで同処理で輸出が許可されるわけではありません。
今回マハチャノ種は、既存輸出品種のナンカンワン種と同様に「果実の中心温度を47.0℃とし、この温度以上で20分間蒸熱処理」することでミバエ類の完全殺虫が可能であることが確認されたために日本への輸出が許可された模様です。

 さて、今回輸入が許可されたマハチャノ種とは、どの様な特徴をもつマンゴーなのでしょうか?

 まず、品種名であるマハチャノですが、英語表記では「Maha Chanok」と記載されますが、タイ語表記では恐らく「มหาชนก」でしょう。
 冨田竹次郎編著「タイ日大辞典」によりますと、「มหา=大なる」「ชนก=銛」とありましたので、恐らく果形が銛の先端に似ているということで「大なる銛=มหาชนก」と名付けられたのではないかと想像します。


※2010年10月にタイの果樹研究者に伺ったところ、「Maha Chanok=仏陀の10代前の前世(最初の前世)における名前」のことだと思う、とのことでした(2011.05.01訂正→関連「タイのマンゴーに係る備忘録」)。

 マハチャノよりマハーチャノックの方がしっくりくる気がします。
 従って、以下はマハーチャノック種と記すことにします。

 次に果実の特徴ですが、2002年1月8~11日にタイ王国のチェンマイで開催された「International Symposium;Sustaining Food Security and Managing Natural Resources in Southeast Asia;-Challenges for the 21st Century-(東南アジアの食糧安全保障維持と天然資源の管理に係る国際シンポジウム ~21世紀に向けての挑戦~)」でドイツ連邦共和国ホーエンハイム大学のA.L.Vasquez-Caicedo等が発表したた「Physical, Chemical and Sensory Properties of Nine Thai Mango Cultivars and Evaluation of their Technological and Nutritional Potential(タイ産マンゴー9品種の物理的および化学的特性の知見と技術的および栄養学的可能性の評価)(PDF:335KB)」にマハーチャノック種の特徴について記載されていましたので紹介します。

 マハーチャノック種果実の物理的特徴を表1および図4で示します。
 国産のアーウィン種よりやや小振りで、細長い様です(写真1)。

表1:マハーチャノック種果実の物理的特徴


図4:果実の計測部位


写真1:マハーチャノック種果実


 次に気になる味の評価ですが、糖度(Brix.)は約16度、酸度は約0.8度、糖酸比は約20とかなり甘そうな数値です(図5)。


図5:タイ王国酸マンゴーの品種別 糖度・酸度・糖酸比


 原文にはその他、果肉色や繊維割合、糖組成や香りについて等多くの評価が記載されていましたので、気になる方は確認してみて下さい。

 これからも海外から様々な熱帯果樹(品種)が輸入される様になると思います。
 熱帯果樹ファンとしては、とても楽しみです。

○参考文献
 ・「タイ日大辞典」.冨田竹次郎(編著).1997.日本タイクラブ(発行).㈱めこん(発売).
 ・「Physical, Chemical and Sensory Properties of Nine Thai Mango Cultivars and Evaluation of their Technological and Nutritional Potential」.A.L.Vasquez-Caicedo, S.Neidhart, P.Pathomrungsiyounggul, p.Wiriyacharee, A.Chattrakul, P.Sruamsiri, P.Manochai, F.Bangerth, R.Carle.2002.International Symposium Sustaining Food Security and Managing Natural Resources in Southeast Asia -Challenges for the 21st Century-.(PDF:335KB

○参考サイト
 ・「農林水産省:報道発表資料;2006年11月28日:タイ王国産マハチャノ種のマンゴウの生果実の輸入解禁について
 ・「財務省:貿易統計(輸入)
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