熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

バナナのそんなところまで食べちゃうの?

2007年01月24日 | バナナ
 2006年12月19日に名護市で三尺バナナを栽培されている方から連絡が入りました。
 話の内容は、「三尺バナナの果実が不自然に着色するから調べてみたら、果軸の付け根の内部を芋虫が食べている」というもの。
 私にとっては初めて聞く事例でしたので、見せていただくことにしました。

 ※今回は虫の話題ですので、虫嫌いな方は読むのをここで止めて下さい。

 バナナの果軸の付け根とは、図1に示した箇所です。


図1:バナナの果軸の付け根
※「バナナ学入門」.中村武久.1991.(株)丸善.より抜粋加工


 果軸の断面を見せて頂いたのですが、確かに繊維に沿ってトンネル状に食害痕が見られました(写真1)。


写真1:トンネル状に食害された果軸の内側


 しかし、トンネルに芋虫の姿が見あたりません。

 そこで、トンネルに脇道を掘ったと考えて、カッターナイフで繊維に沿って果軸を削っていきました。
 すると、やはり脇道を掘っていた芋虫を発見しました(写真2左)。
 そして、芋虫を引きずり出しました(写真2右)。


写真2:果軸の内側を食害していた芋虫


 私の同定では、ゾウムシの幼虫です。
 沖縄県ではバナナに寄生するゾウムシは、バナナツヤオサゾウムシ(Odoiporus longicollis)とバショウゾウムシ(Cosmopolites sordidus)の2種が知られていますが、どちらの種か同定することができません。

 ゾウムシの種を同定するために、しばらく飼育してみることにしました。
 飼育方法は、食害されていた果軸ごと幼虫を径10cmの蓋付き透明プラ容器に入れて、そのまま放置するという粗放な方法です。

 しばらく変化が見られませんでしたが、飼育開始10日後の12月29日に蛹化が確認されました。
 蛹は、果軸の繊維を利用した繭に包まれており、大きさは27.6mm×7.9mm×7.3mmでした(写真3左)。
 同じ様な蛹を三尺バナナの園主からいただいていましたので、そちらは繭を割り中から蛹を捕り出してみました(写真3右)。


写真3:バナナツヤオサゾウムシの蛹繭および蛹


 蛹の形状が繊維を利用した繭に包まれ内部が見えないことから、このゾウムシはバナナツヤオサゾウムシであると同定されました。
 因みにバナナゾウムシの蛹は、「透かし俵」状の繭を形成し、写真3の様な強固な繭は作らない様です。

 バナナツヤオサゾウムシの被害については、(株)全国農村教育協会から出版されています「日本農業害虫大辞典」に、

(前略)
 バショウゾウムシが地際部をおもに加害するのに対し、仮茎中央より上の部分に多い。2齢以後の幼虫は仮茎内の隔膜室内繊維を食害し、3~4齢には仮茎の中心部に達する。そのため仮茎部は生育不良となり枯死するか、倒伏する。果梗部が加害されると果実は肥大せず樹幹部より腐敗落果する。開花期か結実成熟期に本種の被害をうけると弱い風でも被害部の茎の中央付近より折れるため、実質的な被害はバショウゾウムシより大きい。葉柄も加害する。
(後略)



 と記されています。

 果梗部つまり果軸部に近い箇所で加害することは知られていた様です。
 私の勉強不足でした。
 私は仮茎を食害することしか知りませんでした。

 蛹化の時点で種同定の目的は達成されましたが、念のため羽化まで飼育を続け、同定をより確実なものにすることとしました。

 蛹化より23日目の2007年1月21日に、成虫が羽化し、蛹の繭から出てきました(写真4)。
 「日本農業害虫大辞典」には、バナナツヤオサゾウムシの蛹期は16日前後とありましたが、蛹期が低温期に当たると蛹期が伸びるのかもしれません。


写真4:羽化したバナナツヤオサゾウムシ


 左羽がないですが、バナナツヤオサゾウムシの成虫です。
 以上のことから、バナナツヤオサゾウムシはバナナの果軸にも幼虫が加害することが改めて確認されました。

 しかし、バナナについては国内で登録農薬がなく、もちろんバナナツヤオサゾウムシに対する登録農薬もないことから、本虫に対する有効な防除方法が確立していません。
 被害株や枯葉を園外に除去し園内を清潔に保つことにより、成虫の隠れ場所を減らして蔓延を防ぐ位のことしかできないのが現状です。
 あとは、本虫被害園から苗を持ち込まない、本虫が蔓延したら他作物に切り替えるといった対策になる様です。

 最後に、今回の飼育で得られた成虫が奇形でしたので、バナナツヤオサゾウムシの別の写真を掲載しておきます(写真5)。


写真5:バナナツヤオサゾウムシの幼虫(左)と成虫(右)


○追記
 本記事執筆後に、手持ちのバナナに関する資料を読み直していると台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合から出版されました「香蕉保護技術」には、バナナツヤオサゾウムシの被害部位に「仮茎、葉柄、花軸」と明記されていました。
 ここで書かれている花軸は果軸のことだと思いますので、先人たちにとっては既知の事象の様です。流石。

○参考文献
 ・「バナナ学入門」.中村武久.1991.(株)丸善.
 ・「日本農業害虫大辞典」.(編)梅谷献二・岡田利承.1993.(株)全国農村教育協会.
 ※バナナツヤオサゾウムシ、バナナオサゾウムシの説明は、長嶺將昭氏が執筆。
 ・「病害虫防除の手引き」.2003.沖縄県植物防疫協会.
 ・「香蕉保護技術」.黄新川・鄭充・荘再揚.1990.台湾省政府農林庁・台湾省青果販売組合.


タンカンのシーズン到来

2007年01月09日 | 柑橘類
 沖縄県の冬を代表する果樹と言えばタンカンです。



 今年もタンカンの時期が到来したことを沖縄県内のマスコミは連日伝えていますので、その模様をお伝えします。

 まずは、1月6日の沖縄タイムス朝刊では、以下の通りタンカンのゆうパック販売開始を告げる記事が掲載されました。


「タンカンの季節到来 ゆうパック発送始まる」

 やんばるの冬の味覚タンカンの「ゆうパック」全国発送キャンペーンが四日、「道の駅」許田、名護郵便局などで始まった。
(中略)
 価格は輸送料込みで五㌔・三千二百円(県外三千五百円)。
 問い合わせは同局、電話0980(52)2042か、「道の駅」許田、0980(54)0880。北大東、南大東、西表島郵便局でも扱う。


 続いて、1月7日の琉球新報朝刊では、以下の通りタンカン狩り開始に向けての記事が掲載されました。


「タンカン狩り 13日開始PR 伊豆味みかん生産組合」
 13日から本部町伊豆味で始まるタンカン狩りを前に、伊豆味みかん生産組合の饒平名知春組合長と生産農家の池宮城秀雄さんが5日、琉球新報北部支社を訪れ「おいしいタンカンを多くの人に食べてもらいたい」とPRした。2月中旬ごろまで実施予定。
(中略)
 入園料は小学生以上250円、幼稚園・保育所の団体は200円。タンカンは1㌔当たり250円で持ち帰り可能。入園時間は午前9時から午後4時まで。問い合わせ・入園受け付けは伊豆味みかんの里総合案内書 0980(47)2889。


 そして最後に紹介するのは、1月9日の琉球新報朝刊で掲載されました、ゆうパック発送に関わる記事です。


やんばるタンカン全国へ ゆうパック発送を開始

 【名護】名護郵便局は4日から、やんばる産のタンカンを全国へ届けるゆうパック発送を始めている。山城幸男局長=写真左から2人目=は同日、琉球新報北部支社を訪れ、「今やんばるの一番の旬はタンカン。地域に根差した局として、やんばる活性化の一助になればと思う。郵便局のネットワークを活用してほしい」とPRした。期間は31日まで。
 昨年は同局から1万5000個が県内外に発送された。今回は離島の北大東、南大東、竹富、西表大原郵便局でも受け付けを開始。購入者には飲料水などの景品が当たる抽選会を実施している。
 タンカン4キロ3000円(県内は2600円)、5キロ3500円(同3200円)、10キロ5500円(5300円)で取り扱っている。
 問い合わせは同郵便局0980(52)2042、「道の駅」許田0980(54)0880。


 今年のタンカンも昨年同様、夏場に台風の直撃を受けていませんので高品質であることを期待したいと思います。

○参考資料
 ・「沖縄タイムス;タンカンの季節到来 ゆうパック発送始まる:07/01/06」
 ・「琉球新報;タンカン狩り 13日開始PR 伊豆味みかん生産組合:07/01/07」
 ・「琉球新報;やんばるタンカン全国へ ゆうパック発送を開始:07/01/09」


書籍紹介「ドリアン -果物の王」

2007年01月04日 | ドリアン
 今回は、熱帯果樹の書籍紹介をさせて頂きます。

 紹介する書籍は、中央公論新社から2006年10月に発行されましたカラー版新書、塚谷裕一著「ドリアン -果物の王」(本体980円+税)です。



 ドリアンと言えば、「臭い果物の代名詞」と云うのが一般的認識だと思います。
 しかし、本書の著者はその認識を真っ向から否定します。

 「ドリアンは臭くない」と。

 筆者の言い分はこうです。

 ・美味しいドリアンの香りは、熱帯の果物の魅惑的な香りである。
 ・外国人観光客と足元を見られて、外れのドリアンをつかまされると「臭いドリアン」を体験する。
 ・(良い香りのドリアンでも)ドリアンを本当に臭いと感じる人もいる。

 なんだ、やっぱり臭いじゃないか、と思い込んではいけません。
 先入観だけで食わず嫌いにならず、1度や2度の失敗にくじけずにドリアンを食べ続け、味が好きになった後でも、本当に嫌な香りか再確認して欲しいってことです。

 これは私も同意です。
 気がつけば、私もドリアンは好きな果樹(香りも含めて)にランクインですから。

 そんな「掴みはOK」な出だしから始まる本書の目次は、

  1 おいしいドリアン
   1-1 ドリアンは臭くない
   1-2 ドリアンが臭いと感じる人もいる
   1-3 香りの感じ方
   1-4 ドリアンの香りをめぐる論争
   1-5 おいしいドリアンの選び方
   1-6 いよいよ食べる番

  2 ドリアンの植物学
   2-1 ドリアンの可食部 —— 仮種皮
   2-2 ドリアンの種子を蒔くと —— 1 変な発芽
   2-3 ドリアンの種子を蒔くと —— 2 成長開始
   2-4 ドリアンの種子を蒔くと —— 3 ドリアンの葉
   2-5 ドリアンの鉢植え栽培
   2-6 ドリアンの地植え栽培
   2-7 幹生果という性質
   2-8 ドリアン説

  3 ドリアンのいろいろ
   3-1 分類学の約束
   3-2 ドリアン属のふるさととオランウータン
   3-3 食用になる近縁種 —— 1 カラントゲンとパパゲン
   3-4 食用になる近縁種 —— 2 さまざまな個性
   3-5 ドリアンの品種

  4 ドリアンの果物史
   4-1 豊かなアジアと戦前の日本の憧憬
   4-2 失われた豊かなアジアの記憶
   4-3 バナナの知られざる歴史
   4-4 日本に入らないおいしいバナナ
   4-5 昭和一桁の頃のドリアン —— 1 『果物通』
   4-6 昭和一桁の頃のドリアン —— 2 『マレー蘭印紀行』=忘れられたサオ
   4-7 大戦末期のドリアン
   4-8 『浮雲』にみる東南アジアの森林資源開発
   4-9 戦後日本における果物復活の足取り —— 1 グレープフルーツからの始まり
   4-10 戦後日本における果物復活の足取り —— 2 マンゴスチン
   4-11 戦後日本における果物復活の足取り —— 3 マンゴー

  5 ドリアンのいろいろな食べ方
   5-1 ドリアン羊羹
   5-2 ドリアンかき氷
   5-3 食べ合わせ

  6 ドリアンの栄養成分と香気成分
   6-1 ドリアンの栄養素
   6-2 ドリアンの脂肪分
   6-3 ドリアンの香り成分 —— 1 香りの秘密と個人差
   6-4 ドリアンの香り成分 —— 2 複雑な香り



 と200ページがドリアン&熱帯果樹づくしの1冊となっています。

 本書中で私が特に惹かれた章は、「3-3 食用になる近縁種 — 1 カラントゲンとパパゲン」と「4-3 バナナの知られざる歴史」です。

 前に挙げた章では、ドリアンの近縁種の中には「知られざる名果」があるというもの。
 特に、

(前略)
 上品でかつ濃い甘味が、絶品とも言うべき甘い香りとあいまっていて、しかもいわゆるドリアンにつきものの、雑味に近い匂いがまったくしない、上等なお菓子のようなドリアンだ。
(後略)



 と絶賛されているカラントゲン Durio oxleyanus Griff. と云う小型ドリアンが気になります。

 カラントゲンについては、Anthony Lamb著「WILD OR NATIVE SPECIES OF FRUITS IN SABAH – PARTⅡ(サバ州における野生または在来の果樹Ⅱ)」にも、

 Round green fruit, large spines, pale yellow fresh, sweet. Good potential.

 (果実は球形で緑色、棘は大きい、果皮は鮮黄色、甘い。潜在能力(将来性、可能性)あり。 Byねこがため訳)



 と在来種ながらも高い評価がありましたので、期待してしまいます。
 因みにマレーシアのサバ州において、カラントゲンは「Durian Sukang」の名称で通じる様です。

 また、後に挙げた章では、「戦後、バナナが高級果樹であったのは、戦争の混乱期の一時的な現象であり、戦前にはバナナは庶民に普及していた」と云う、驚愕の事実(私にとっては)が文学作品等を証拠として語られる様は圧巻でした。

※私の田祖母(大正15年広島県出身)の話では、彼女の記憶では幼少時代にバナナは庶民に普及してはいなかった、とのことです。或いはもう少し古い時代か地域性がある情報だったのかもしれません。もし「私の祖父母から明治~大正時代にかけては、バナナは庶民に普及していたと聞きました」等の情報をお持ちの方がいらっしゃいましたら、コメント欄に記入をお願いします。

 それにしても、本書の筆者は文献の引用が巧いです。
 本書内で紹介された参考文献まで読みたくなります。

 こういう読みやすくもタメになる熱帯果樹関連書籍が書店販売されていることを、多くの熱帯果樹ファンに知っていただきたく、今回は書籍紹介を行いました。

○参考資料
 ・「WILD OR NATIVE SPECIES OF FRUITS IN SABAH – PARTⅡ」.Anthony Lamb.1990.IN-HOUSE WORKSHOP ON FRUITS;24-26th October,1990;ARS, Tenom.
  ※「FRUITS, NUTS AND SPICES」.William W.W.Wong・Anthony Lamb.1993.Department of Agriculture Sabah, Malaysia.に掲載。

○参考サイト
 ・「中央公論新社


新年あけましておめでとうございます。

2007年01月01日 | ブログ運営


 旧年中は「熱帯果樹写真館」をご贔屓していただき、誠にありがとうございました。
 本年も変わらぬご愛顧を宜しくお願い致します。

 さて、昨年1月からスタートしました「熱帯果樹写真館ブログ」も無事1年間続けることができました。
 2006年のブログ記事数は35個。
 あらためて読み返してみると、濃いです。マニアック過ぎます。
 無駄に情報を詰め込んでいるので、読者の皆様は読み辛かったと思います。
 途中、私も方向性を間違えたかと悩んだ時期があったのですが、その都度タイミングよく読者の方に励ましていただき、継続することができました。
 本当にありがとうございました。

 今年も変わらず、マニアックさ全開で書き連ねていきたいと思いますので、お付き合いの程宜しくお願い致します。