熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

ホワイトサポテを接木してみました

2010年01月22日 | ホワイトサポテ
 ホワイトサポテは、中央アメリカ原産のミカン科に属する常緑高木果樹です。
 沖縄県で初めてホワイトサポテの結実が確認されたのは、私が知る限り、2000年頃に南風原町で果樹種苗販売を営んでいたY氏の所有していた樹(実生で育成した樹に、和歌山県から導入した穂木を高接ぎ)だと思います。
 その後、沖縄県内の園芸イベント等でホワイトサポテの苗を見かける様になりました。

 しかし、多くの種苗業者は、ホワイトサポテ(特に品種)に対する充分な知識を得る前に商売が先行してしまった感が強く、「品種名が未記載」の苗や「品種の特徴が説明されない」苗が数多く売られました。
 そのため、沖縄県内には「大きくなって花は咲いても結実しない品種不明のホワイトサポテの樹」が見られる様になりました。

 ここで、ホワイトサポテの「花のタイプ」について説明しなければなりません。
 ホワイトサポテの花は、品種により3つのタイプに分けられます。
 「タイプⅠ:果実となる子房や柱頭が大きいが、花粉が作られる葯が小さい」、「タイプⅡ:子房や柱頭は小さいが、葯が大きい」、「タイプⅢ:子房や柱頭、葯の全てが大きい」です(表1)。



表1:ホワイトサポテの花きの特徴から見た品種分類


(「熱帯果樹の栽培 完熟果をつくる・楽しむ28種」より抜粋)


 このうち「タイプⅠ」や「タイプⅡ」の品種を単独で栽培すると、花粉がないか、子房や柱頭が未発達のため、ほとんど結実しません。
 ホワイトサポテを栽培するなら「タイプⅠ」を8割~9割の量で植栽し、残り1~2割を「タイプⅡ」か「タイプⅢ」を植栽するのが良いと思います。
 または「タイプⅢ」の品種を入手するか、1本の樹に複数のタイプの枝を設けるのが良いと思います。

 さて、ここからが今回の本題です。
 2009年12月上旬、知人Aから「知人B(私の知人でもある)が所有するホワイトサポテが結実しない」と相談を受けました。
 知人Aは「チェストナット(タイプⅠ)」「スマザース(タイプⅠ)」「モルツビー(タイプⅢ)」の各穂木が準備できるが、接木に行けなくなったので、私に代わりに接木して欲しい、とのことでした。

 依頼を受け、12月14日に知人B宅へ伺い接木をしました。
 接ぎ方は、概ね高接ぎの割り接ぎ(二芽接ぎ)でしたが、モルツビー(Maltby)は穂木が少なかったので腹接ぎ(一芽接ぎ)も試してみました。

 その後、1ヶ月強(39日)たった2010年1月22日に接木が成功したか確認に行きました。
 すると、チェストナット(Chestnut)とスマザース(Smathers)は7~8割の穂木で成功していました(写真2、3)。




写真2:チェストナット接木成功(1/22)





写真3:スマザース接木成功(1/22)



 接木39日後で、こんなに大きな新芽を出す枝があるとは・・・。
 ホワイトサポテの旺盛な樹勢に驚きました。
 因みに、最も新芽の生育が良かったスマザースの穂木の太さは9.7mm×8.9mm、長さは約6cmで、台木にした枝の太さは19.4mm×17.1mmでした。

 モルツビーは発芽が遅れている様で、今回は発芽が確認できませんでした。
 失敗してなきゃ良いけど・・・。

 あと、今回の発芽確認で気になったのがチェストナットの小葉の枚数です。
 普通、ホワイトサポテの小葉は5(~7)枚ですが、今回確認できた小葉は何故か全て3枚でした。
 石畑ら(1996)によると、チェストナットの小葉も5枚なんですが・・・。
 知人Aに問い合わせると「そのうち5枚になると思うよ」とのこと。
 今後の経過を観察したいと思います。

 今回は知人の代理として接木して緊張しましたが、成功して、知人Bも喜んでくれたのでホッとしました。

○参考文献
 ・「熱帯果樹の栽培 完熟果をつくる・楽しむ28種」.2009.米本仁巳.農文協.
 ・「シロサポテ ( Casimiroa edulis Llave and Lex. ) の花器および果実形態における品種間差異」.2001.米本仁巳・樋口浩和・石畑清武・池田稔・富田栄一.熱帯農業;第45(1);p.38-44.日本熱帯農業学会.
 ・「シロサポテ Casimiroa edulis Llave et Lex. の栽培」.1996.石畑清武・遠城道雄・野村哲也・長野幸男・福留紘二・福村和則.鹿児島大学農学部付属農情研究報告;第21号;P.11-20.

ピタンガ(品種:ラバー)を接木しました

2010年01月10日 | ピタンガ
 ピタンガ(Eugenia uniflora L.)は、フトモモ科に属するブラジル原産の常緑低木果樹です。
 ピタンガは、樹形が美しく(垣根仕立ても可能)、葉に光沢があり(新葉は赤みを帯び)、病害虫の被害が少なく、手間をかけずに果実が結実し、果実は緑色からオレンジ色、赤色と鮮やかに変色する等、「育てやすい、美しい、果実(食用)が着く」という優れた特性から、沖縄県では主に庭木果樹として利用されています。

 しかし、これほど優れた特性を持ちながら経済栽培果樹になり得ないのは、果実を食した際に独特な樹脂臭とえぐみを感じるからです。

 ところが、数年前に米国のカリフォルニア州からピタンガの優良品種が導入されました(米本ら、2006)。
 そして、導入者の米本氏が雑誌「現代農業(2008年2月号)」に「(ピタンガの優良品種である)ラバー(Lover)とバーミリオン(Vermilion)は この(独特の)においが少なくて糖度も高く美味です」と記したことから、一般の熱帯果樹マニアも「ピタンガに樹脂臭が少ない優良品種がある」と認識し、「食べてみたい!」という衝動に駆られました。
 その後、2009年に専門誌「熱帯農業研究」でラバー、バーミリオンのデータが改めて発表されました(表1)。



表1:ピタンガの品種別 果汁糖度及び滴定酸度、樹脂臭、食味の季節的変化


(「米本ら、2009」より抜粋加工)


 表1を見ると、果汁糖度や滴定酸度では、優良品種も実生も有意差はないですが、数値化できない樹脂臭とえぐみ、食味で季節を問わずに優良品種に優れた結果が見られます。
 同品種では春実より秋実の糖度が高く美味しそうです。
 また、優良品種間では差異は見られない様に思います。

 さて、ここからが今回の本題です。
 2009年11月に知人が石垣島に行くことになりました。
 石垣島では、この数年間でピタンガの優良品種が出回っていますので、穂木が確保できれば入手してきて欲しいとお願いしました。

 11月中旬に知人は、ピタンガ「ラバー」の穂木を持ち帰ってくれました。
 穂木を受け取った私は、直ちに別の知人が所有している地植えのピタンガ(2008年夏に播種)の枝先(亜主枝)に接木(高接ぎ)させてもらいました(写真2)。



写真2:1樹に対し穂木1本を接木(11/16)



 そして、接木完了から1ヶ月強が過ぎた12月21日。
 穂木から発芽しているのを確認しました(写真3)。



写真3:1番最初に発芽した穂木(12/21)



 一番最初に発芽した穂木の太さは直径約5.7mm、長さは約5.5cm、台木部分の枝の直径は約5.0mmでした。

 更に10日後の12月31日、一番最初に発芽した穂木の芽はさらに大きくなり(写真4)、他の樹でも発芽を確認しました。
 接木が成功すると本当に嬉しいです。



写真4:一番最初に発芽した穂木(12/31)



 このまま順調に育ち、数年後には沖縄本島北部でもピタンガの優良品種の味見ができることを夢見ています。


○ 参考文献
 ・「ピタンガ ,Eugenia uniflora Linn.(E.michelii Lam.)品種‘Lover’と‘Vermilion’の果実肥大特性と果実品質」.米本仁巳・緒方達志・香西直子・近藤友大・雨宮俊・樋口浩和.2006.園芸学会:平成18年秋季大会;ポスター発表(孫引き).
 ・「あこがれの熱帯果樹品種 国内で作れそうなものは?」.米本仁巳.2008.現代農業;2月号;p.270-275.
 ・「沖縄におけるピタンガ(Eugenia uniflora L.)品種‘Lover’と‘Vermilion’の果実の生長と品質」.米本仁巳・緒方達志・香西直子・近藤友大・樋口浩和・野村啓一.2009.熱帯農業研究;2(1);p.8-14.

あけましておめでとうございます 2010

2010年01月06日 | ブログ運営
 昨年末に引越しをしたため、年末年始はネット環境が整っていませんでした。




 さて、昨年の正月は「今年は、もう少し(月1回程度は)更新したいと思います」という抱負を語らせていただきました。
 今回は、その結果を振り返ります。

○2009年の「熱帯果樹写真館」更新回数
 ・品目(品種)追加・・・・・・・・・・・・1回
 ・熱帯果樹観察室の記事追加・・・1回
 ・ブログ更新・・・・・・・・・・・・・・・・・9回
 ・写真追加・・・・・・・・・・・・・・・・・・1回
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                  合計12回

 一応 回数的には「月1回程度の更新」はできていますね。
 今年も、同頻度程度の更新はしたいと思いますので、宜しくお付き合いください。