熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

簡易平張りネットでピタンガを鳥害から守る

2013年04月29日 | ピタンガ

4月になると沖縄県では、あちこちでピタンガの果実が色づいていました。
 ピタンガは、認知度が低く(アセローラと混同されることも)、収穫後の日持ちが悪く、味に独特の風味(ヤニ臭いエグ味)があるため経済栽培はほぼ行われておらず、庭先栽培や畑の隅に散見される熱帯果樹です。
 また、せっかく結実しても樹上で真っ赤に熟すまで着果させておかないとピタンガ本来の美味しさにならないことに加え、野鳥の大好物であるため栽培者も充分な量を食べられないことが珍しくありません。

 ピタンガと言えば、以前当ブログで2010年1月10日に「ピタンガ(品種:ラバー)を接木しました」で優良品種を接木した例を紹介し、その続報として2011年2月25日に「接木したピタンガ「ラバー」が開花」を掲載しました。
 今回はこれら記事の続報です。

 優良品種「ラバー」接木から3年。
 接木したピタンガの樹は2m程度の高さになり2月頃から出蕾・開花し、3~4月には多くの着果が見られる様になりました。

 しかし、前述したとおりピタンガ本来の食味を得るためには樹上完熟が欠かせず、それは鳥の食害に遭うことを意味します。
 記事前半は、あるピタンガ栽培者の「美味しく食べたい」「いっぱい食べたい」という食に対する飽くなき探求心と一筋縄では防げない害鳥タイワンシロガシラ(以下、シロガシラ)の戦いの記録を紹介します。

 2013年1月、ピタンガの冬実が結実したにも関わらず、メジロの食害を受けました。
 メジロは柑橘類をはじめ多くの果樹を加害するやっかいな害鳥です。
 見た目は可愛いですが、可愛いだけで許されるものではありません。

 そこで、ピタンガ栽培者K氏は、ピタンガ垣根の左右に1m間隔で鉄パイプを立て、パイプの先端にダンポール® と呼ばれるグラスファイバー製の園芸用支柱を差込みアーチ状に曲げ、ネットを被せる骨組みを作り対策をとりました(写真2~3)。



写真2.鉄パイプ、ダンポール® 、ネット等を組み合わせた簡易防鳥ネット




写真3.ダンポール® の端を鉄パイプに挿すだけ


 この方法は、(独)農業・食品産業技術総合研究機構から2012年に刊行されている「防鳥網の簡易設置マニュアル(PDF:1.32MB)」を参考に行われています。

 これで安心、と思ったのも束の間、ネット内にメジロがいました。
 ネットを張る際に紛れ込んだのかと捕まえて追い出そうとすると、凄い勢いでネットに突進し、ネットに絡まったかと思った瞬間飛び出して行きました。
 まさか?と思い、隠れてしばらく様子を見ると、外から飛んできたメジロが勢いよくネットに突進して一瞬ネットに絡んだかと思ったら、そのままネット内に侵入してピタンガ果実を食べているではないですか!

 ネット目合い30mmではメジロの侵入は防げません。

 悔しがるK氏の圃場を1週間後に再び訪れました。
 ネットの目合いが細かくなっていました(写真4~5)。



写真4.簡易防鳥ネットver.02




写真5.今度は目合いが大きいところでも15mm


 ネットの目合いを細かくすることで、メジロの侵入を見事防ぐことができました。
 K氏が用いた被覆ネットは、廃材ネットや100円ショップ購入の格安ネットの繋ぎ合わせです。
 防鳥ネットを縫い合わせる際は、サンライン® という農業用誘引ひもが良いそうです。

 ネット内では、ピタンガ果実がたわわに実っています。
 品種は「実生系」と「ラバー」。
 せっかくなので、それぞれを試食してみます(写真6)。



写真6.「実生系」(左)、「ラバー」(右)


 同じ環境で栽培すると、実生系に比べ「ラバー」の方が大きくなりがちで、色がより赤く、果実の張りが良い(実生系はデコボコが明確)のがわかります(写真7、8)。



写真7.ピタンガ「実生系」の果実




写真8.ピタンガ「ラバー」の果実


 試食は人数を増やして行った方が意見の偏りが少なくなるので、収穫した翌日に職場の同僚たち8名の協力を得て行いました。

 その結果、「どちらが好みか?」という質問に対しては「実生系」2票、「ラバー」6票となり、それぞれの品種(系統)への自由意見は表1の様になりました。



表1.ピタンガ品種(系統)別 食味アンケート結果




 食味調査の結果、概ね良好だった様です。
 ピタンガの風味は食べ慣れると嫌なものではなくなる傾向がある様です。
 我が家の子ども達も真っ赤に熟したピタンガを自分でもいで食べまくります。
 完熟状態ではアセローラより冷蔵保存できるピタンガは、もう少し評価が上がって良い果物だと思います。

○参考文献
 ・「防鳥網の簡易設置マニュアル(PDF:1.32MB)」.2012.(独)農業・食品産業技術総合研究機構.





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接木したピタンガ「ラバー」が開花

2011年02月25日 | ピタンガ

 2010年1月10日に「ピタンガ(品種:ラバー)を接木しました」という記事を掲載しました。
 本日は、その続報です。

 2009年11月16日に「ラバー」を接いだ樹のうち数本で開花が確認されました。
 接木を実施してから1年3ヵ月後に開花です。

  この園地での「ラバー」初開花は2月上旬から確認されていましたが、2月20日過ぎに満開ということで、園主の方に呼ばれ、見に行きました。
  確かに満開になっていました(写真2)。



写真2:ピタンガの訪昆虫を待ち伏せるハナグモ



  米本ら(2009)は、石垣島におけるピタンガの開花時期を、2月と10月の年2回と報告しています(表1)。
  また、2月に開花した花は、約2ヵ月後の4月に収穫されることも同表内で示しています。



表1:果実生育期間の積算温度、日照時間および降雨量 (2006年)



(「米本ら、2009」より抜粋加工)



 開花日から予想収穫日を積算温度(1200℃強)から割り出してみます。
 まず、開花日は撮影を行った満開日(2月24日)とします。
 次に、名護市の日平均気温の平年値を「沖縄気象台のHP」から調べ、2月24日を基点として、日平均気温の積算温度が1200℃強になる日を探します。
 すると、算出された予想収穫日は4月26日(予想積算温度は1204.9℃、予想果実果実生育日数は63日)でした。

 次回は、収穫時期に園地を訪れ果実レポートを行いたいと思います。


〇参考文献
 ・「沖縄におけるピタンガ(Eugenia uniflora L.)品種‘Lover’と‘Vermilion’の果実の生長と品質」.米本仁巳・緒方達志・香西直子・近藤友大・樋口浩和・野村啓一.2009.熱帯農業研究;2(1);p.8-14.

〇参考サイト
 ・「沖縄気象台

ピタンガ(品種:ラバー)を接木しました

2010年01月10日 | ピタンガ
 ピタンガ(Eugenia uniflora L.)は、フトモモ科に属するブラジル原産の常緑低木果樹です。
 ピタンガは、樹形が美しく(垣根仕立ても可能)、葉に光沢があり(新葉は赤みを帯び)、病害虫の被害が少なく、手間をかけずに果実が結実し、果実は緑色からオレンジ色、赤色と鮮やかに変色する等、「育てやすい、美しい、果実(食用)が着く」という優れた特性から、沖縄県では主に庭木果樹として利用されています。

 しかし、これほど優れた特性を持ちながら経済栽培果樹になり得ないのは、果実を食した際に独特な樹脂臭とえぐみを感じるからです。

 ところが、数年前に米国のカリフォルニア州からピタンガの優良品種が導入されました(米本ら、2006)。
 そして、導入者の米本氏が雑誌「現代農業(2008年2月号)」に「(ピタンガの優良品種である)ラバー(Lover)とバーミリオン(Vermilion)は この(独特の)においが少なくて糖度も高く美味です」と記したことから、一般の熱帯果樹マニアも「ピタンガに樹脂臭が少ない優良品種がある」と認識し、「食べてみたい!」という衝動に駆られました。
 その後、2009年に専門誌「熱帯農業研究」でラバー、バーミリオンのデータが改めて発表されました(表1)。



表1:ピタンガの品種別 果汁糖度及び滴定酸度、樹脂臭、食味の季節的変化


(「米本ら、2009」より抜粋加工)


 表1を見ると、果汁糖度や滴定酸度では、優良品種も実生も有意差はないですが、数値化できない樹脂臭とえぐみ、食味で季節を問わずに優良品種に優れた結果が見られます。
 同品種では春実より秋実の糖度が高く美味しそうです。
 また、優良品種間では差異は見られない様に思います。

 さて、ここからが今回の本題です。
 2009年11月に知人が石垣島に行くことになりました。
 石垣島では、この数年間でピタンガの優良品種が出回っていますので、穂木が確保できれば入手してきて欲しいとお願いしました。

 11月中旬に知人は、ピタンガ「ラバー」の穂木を持ち帰ってくれました。
 穂木を受け取った私は、直ちに別の知人が所有している地植えのピタンガ(2008年夏に播種)の枝先(亜主枝)に接木(高接ぎ)させてもらいました(写真2)。



写真2:1樹に対し穂木1本を接木(11/16)



 そして、接木完了から1ヶ月強が過ぎた12月21日。
 穂木から発芽しているのを確認しました(写真3)。



写真3:1番最初に発芽した穂木(12/21)



 一番最初に発芽した穂木の太さは直径約5.7mm、長さは約5.5cm、台木部分の枝の直径は約5.0mmでした。

 更に10日後の12月31日、一番最初に発芽した穂木の芽はさらに大きくなり(写真4)、他の樹でも発芽を確認しました。
 接木が成功すると本当に嬉しいです。



写真4:一番最初に発芽した穂木(12/31)



 このまま順調に育ち、数年後には沖縄本島北部でもピタンガの優良品種の味見ができることを夢見ています。


○ 参考文献
 ・「ピタンガ ,Eugenia uniflora Linn.(E.michelii Lam.)品種‘Lover’と‘Vermilion’の果実肥大特性と果実品質」.米本仁巳・緒方達志・香西直子・近藤友大・雨宮俊・樋口浩和.2006.園芸学会:平成18年秋季大会;ポスター発表(孫引き).
 ・「あこがれの熱帯果樹品種 国内で作れそうなものは?」.米本仁巳.2008.現代農業;2月号;p.270-275.
 ・「沖縄におけるピタンガ(Eugenia uniflora L.)品種‘Lover’と‘Vermilion’の果実の生長と品質」.米本仁巳・緒方達志・香西直子・近藤友大・樋口浩和・野村啓一.2009.熱帯農業研究;2(1);p.8-14.