熱帯果樹写真館ブログ

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マンゴーの新芽が穴だらけに!

2007年10月07日 | マンゴー
 沖縄県産のマンゴーは、収穫期を8月に終え、9~10月は次年度収穫のための結果母枝育成の時期になります。
 収穫後に剪定を行い、新芽を出し、1枝に対し2本程度に新梢を絞り、2~3節伸ばし、11月にはしっかり緑化した結果母枝に仕上げる。これが、結果母枝育成の基本的な手順だと思います。

 しかし、結果母枝育成の課程では様々な病害虫の被害に遭います。
 特に柔らかい新芽は、害虫の格好の餌となってしまいます。
 今回は、マンゴーの新芽を加害する害虫の中で、マンゴー生産者の多くが「被害痕は見たことがあるけど、虫は見たことがない」と言うマンゴーハフクレタマバエ(Procontarinia mangicola)の幼虫写真撮影に成功しましたので、紹介したいと思います。

※今回は虫の話題ですので、虫嫌いな方は読むのをここで止めて下さい。

 まず、マンゴーハフクレタマバエの被害痕は、主に新芽に見られますが、新芽が緑化した後に被害痕が消えることはありません。
 マンゴーハフクレタマバエの被害痕は、葉に大きさ2~4mmの穴または褐色に硬化した円形の枯れこみ(これが後に穴となる)として観察できます(写真1、2)。


写真1、2:マンゴーハフクレタマバエの被害痕(左:新芽、右:緑化した葉)


 被害がひどくなると、新節の葉が全て落葉してしまうこともあります。

 次に、多くの被害痕が見られるにも関わらず、多くのマンゴー生産者がマンゴーハフクレタマバエを見たことがないのか、について書きたいと思います。

 マンゴーハフクレタマバエの卵は、柔らかい新葉に産卵されます。
 そして、ふ化した幼虫は葉肉内に穿孔し、そこで成長しながら円形のゴール(=虫えい、虫こぶ)を形成します。
 幼虫は1齢から終齢(3齢)を葉肉内(葉の表と裏の間)で過ごし、成熟すると葉から出てきて、地表に跳ね落ちます(その後、蛹化し、羽化して成虫になります)。

 つまり、マンゴーハフクレタマバエの加害現場が観察されない最大の理由は、幼虫が葉の表と裏の間にいるため、葉の表面を眺めても他の害虫の様に虫が見えないためです。

 また、葉から出てきた幼虫が目につかない理由は、大きさが小さい(体長約2mm)ことにあります(写真3、4)。
 幼虫が小さいことは、写真3(左)の幼虫の大きさと新芽の葉の厚みを比べると実感できると思います。


写真3、4:マンゴーハフクレタマバエの幼虫


 この様に小さい幼虫が、葉から出てきて地表に落ちても、なかなか見つかるものではありません。
 今回は、葉内に幼虫がいる状態で葉を容器で保管し、葉から出てきた幼虫の写真を撮影しました。引き続き、蛹、成虫の写真も撮影したかったのですが、上手く蛹になってくれませんでした。

 話が脱線しましたが、元に戻します。

 虫を発見できないマンゴーハフクレタマバエは、被害痕になるまで存在に気づくことができないのでしょうか?
 答えは否。
 新葉を光に透かせば葉肉内に幼虫がいることがわかります(写真5)。


写真5:新芽を光に透かすと幼虫がいる葉は、そこが明るくなる


 写真5は、かなり被害が進行してしまった葉ですが、マンゴーハフクレタマバエの存在は、幼虫が出てくる前に確認できることは理解していただけたと思います。

 最後に、新芽に穴を開け、充実した結果母枝育成の邪魔をするマンゴーハフクレタマバエをどの様に防除すれば良いでしょうか?
 農文協から出版されている「原色果樹病害虫百科〈5〉ナシ・ビワ・イチジク・マンゴー」では、本虫の侵入対策の例として

 ・園地への苗木の導入時には、(本虫の寄生がない)健全苗木であることを確認する。
 ・施設では常時防虫ネット(0.6mm以下)を張る。



 物理的対策の例として、

 ・幼虫が寄生している新梢は直ちに剪除する。
 ・余分な新梢は本虫が寄生する前に剪除する。
 ・剪除した新梢は放置せず、確実に処分(ゴミ袋に入れ、密閉し、焼却)する。



 が推奨されています。

 また、国内ではマンゴーハフクレタマバエに登録が取られている農薬はありませんが、マンゴー生産者の話では、本虫と同じく新芽を加害するチャノキイロアザミウマを対象とした農薬を散布していると、本虫は同時に防除できると云うことです。
 いずれの防除方法をとるにせよ、一度ほ場に侵入を許したマンゴーハフクレタマバエは、成虫になるまでの期間が非常に短く(卵から成虫の寿命までの期間は16~17日。すなわち、卵期間は2日、幼虫期間は7日、蛹期間は5~6日で、成虫の寿命は2~3日)、環境条件が揃うと急激に増殖することから、初期防除が重要です。

 マンゴー生産者の皆様。
 来年も美味しいマンゴーをたくさん食べたいので、マンゴーハフクレタマバエをはじめ病害虫に負けず、頑張ってください。

○参考文献
 ・「原色果樹病害虫百科〈5〉ナシ・ビワ・イチジク・マンゴー」.2005.農山漁村文化協会 .
  マンゴーハフクレタマバエのページは、河村太氏による執筆.

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5 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (とっしー)
2010-06-10 08:02:59
偶然このページを見つけました。今年、いくつかの樹木の葉に同じ症状が出ていたので、このページは大変に参考になりました。どうもありがとうございます。気温もぐんぐん上がり、もうすぐ収穫が始まります!
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お力添えができて光栄です (ねこがため)
2010-06-11 05:05:26
>とっしーさん
 数年前に書いた記事でも「参考になった」と声を掛けていただくと、「ちゃんとニーズのある情報だったんだな」と確認でき、私もヤル気が出てきます。
 書き込みありがとうございました。

 春先~初夏は、本当は出て欲しくない新芽がたくさん出て、アザミウマやタマバエ等の害虫が発生して困りますよね。
 しかし、この時期に畑内の害虫密度を低くしておかないと、本命の秋芽(来年の結果枝)を育成する際に害虫密度が高くなるし・・・。

 美味しいマンゴーを連年、安定的に作るには日々の心配りと地道な作業が欠かせないと思いますが、毎年マンゴーを楽しみにしている我々消費者のためにも是非頑張ってください。
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Unknown (とっしー)
2010-06-11 06:32:00
お気に入りに登録しました。これからすべて読み込むつもりです、日々勉強です(笑)
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リンク承諾 (琉球大学植物病理学研究室)
2019-05-21 15:39:28
マンゴーのタマバエの記事を探していたらこのブログにたどり着きました。リンクを貼らせていただいてもよろしいでしょうか?
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リンク&引用歓迎です。 (ねこがため)
2019-09-06 19:43:53
>琉球大学植物病理学研究室さん
コメントの返信が遅くなり申し訳ありません。
当ブログはリンク&引用歓迎です。
学術的目的や教育的目的であれば、写真等も無料でお使いください。
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