熱帯果樹写真館ブログ

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黄色い「キーツ」マンゴーを作る裏技

2010年10月07日 | マンゴー

 今回は、国内で2番目に栽培されているマンゴーの品種「キーツ」の話題です。

 「キーツ」は、国内で最も栽培されている「アーウィン」よりも収穫時期が1ヶ月程度遅く、果実が大きく、果皮が緑色のままで収穫されます。
 味と香りは「アーウィン」より濃い感じ(酸味がやや高い)で、15年程前は「匂いが強くて苦手」という人も多かった様です。
 しかし、最近では外国産の香りが強いマンゴーが加工原料として多く使われる様になり、マンゴーの香りが認知されつつあります。
 「キーツ」の香りは、濃いと云っても数多くあるマンゴーの品種の中ではマイルドですので、人気が上昇してきたのもわかります。

 それでも「キーツ」は生産量が少なく、未だ「知る人ぞ知る」「幻のマンゴー」と云った説明をされることが少なくありません。
 また、果皮が薄緑色で収穫されるために、生産者が収穫適期が難しいとも云われています。
 収穫が早すぎると、収穫後の追熟が上手く進まない、糖度が十分にのらない等の問題が発生します。
 逆に収穫が遅すぎると、果肉が溶けた様な生理障害(果肉崩壊症)が発生する等の問題があります。

 キーツの収穫適期は、果皮色の微妙な変化や果形の変化、果梗部(ヘタ)付近のシワの発生程度等が収穫の目安とされることが多い様ですが、それだけでは十分でないことが知られています。
 最近では、宮古島での調査研究から「果実長径が5cm程度(仕上げ摘果時期の果実サイズ)から110~130日後が収穫の目安」という概念が生まれています(比嘉ら.2007)。
 これを従来の収穫時期の目安に加えることで、より収穫適期がわかりやすくなると思います。

 詳しくは、沖縄県の北部農業改良普及課の普及だより(ちむ美らさ);第41号;p.3(PDFファイル:1136KB)の記事「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定」にまとめられています。


 さて、前置きが長くなりましたが、ここからが今回の本題です。
 「キーツは緑色だから売りにくい」という意見が以前からあります。
 私としては「それがキーツの個性なんだから受け入れてあげてよ」「味が良いとか、優れた個性を評価してあげてよ」と思うのですが、「果皮色が暖色ならなぁ」という気持ちもわかります。

 日本国内や台湾では「紅キーツ(赤キーツ)」と呼ばれるマンゴーが出回ることがありますが、これは「キーツ」とは別の品種です。
 「紅キーツ」については、後日改めて記事を書く予定ですので、今回は「紅キーツと呼ばれるキーツとは別品種のマンゴーがある」ことを覚えてください。



写真2:キーツとは別品種の「紅キーツ(玉文5号)」



 今回は本物の「キーツ」を用いた果皮色変化の実験の話をします。
 台湾で1994年に発行された「芒果栽培技術」という書籍には、袋掛けで遮光袋を用いることで「キーツ」の果皮を黄色っぽくできることが記されています。
 しかし、国内でそれを実践したという話を聞いたことがありません。
 そこで、今年の夏に試す機会に恵まれましたので、その結果を以下に記します。

 まず、調査に用いたのは、80L鉢に植えられた「キーツ」2樹。
 調査果実数は6果でした(初着果のため果実数が少ない)。
 そのうち2果にビワで用いる単層で内側が黒色の袋(以下、ビワ袋)を被せました(写真3)。



写真3:ビワ袋(縦×横=24cm×19cm)



 残りの4果にはキーツ用(通常のマンゴー袋より大きい、縦×横=29.5cm×18.8cm)として売られている白色の袋(以下、白袋)を被せました。

 袋を被せたのは、5月13日。
 ビワ袋を被せた黒実の長径は8.2cmと7.0cmでした(写真4)。



写真4:袋掛け時の果実(5/13)



 白袋を被せた果実の長径は測定しませんでした。

 調査途中で、収穫を待たずにビワ袋を被せた1果(5/13に果実長径が8.2cmだったもの)が落果してしまいました。

 そんなハプニングがありつつも、収穫を迎えた8月24日。
 4月下旬に果実長径が5cm前後になっていたので、それから120~130日後の収穫です。
 収穫後の果実は、すでに白袋とビワ袋で果皮色が異なっていました(写真5)。



写真5:収穫直前の果実(8/24)(左:白袋を掛けた果実、右:ビワ袋を掛けた果実)



 これを8~10日追熟すると、ビワ袋をかけた果実の黄色味は増し、白袋との果皮色の差はさらに大きくなった気がします(写真6)。



写真6:食べ頃の果実(左:白袋を掛けた果実、右:ビワ袋を掛けた果実)



 そして、気になる味を確認。
 白袋を掛けた果実3果の Brix は16.3~18.1%に対し、ビワ袋を掛けた果実1果の Brix は15.6%でした(表1)。



表1:袋の種類と果実糖度



 食味調査の結果も Brix 値が低い果実は、甘味が少なく、酸味が強いため低い評価となりました。
 今回は果実数が少ないので味の評価はまとめませんが、前述した「芒果栽培技術」には以下の様に書かれています。


 キーツは果実の酸がやや高い品種で、黒色や銀色の袋を使用すると、果実に日照が当たらないので、果実の酸はさらに高くなり、この欠点は消費者には悪評である。

(伊藝安正 訳)



 遮光袋を掛けると味が悪くなることは、ある程度予想されていました。
 今回も、その轍を踏んだ結果となった気がします。

 しかし、「光の条件を変えることで果皮色を変えることが可能」ということが実践で確認できたので、次回は地植えの成木を用いて、資材や袋掛けのタイミングを模索し、白袋と同等な食味で果皮色を変えるのに挑戦したいです。

 目標は、Brix 18%以上の「ゴールデンキーツ」です。


○参考文献
 ・「熱帯果樹マンゴー(キーツ種)の熟度判定技術の開発 第2報収穫後の食べ頃表示技術の開発(PDFファイル:292KB)」.2007.比嘉淳・砂川喜信・貴島ちあき・屋良利次・伊山和彦・伊志嶺弘勝・與座一文.沖縄農業研究会;平成19年度(第46回)大会 講演要旨.
 ・「マンゴー「キーツ」の取り頃・食べ頃の判定」.2009.高橋・井上.普及だより(ちむ美らさ);41号;p.3(PDFファイル:1136KB)沖縄県 北部農林水産振興センター農業改良普及課
 ・「芒果栽培技術」.1994.劉銘峰.(1994.伊藝安正 訳).台南区農業改良場新化分場.

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13 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
キーツ (waitaka)
2010-10-15 18:55:53
原産地の違い(アメリカ、オーストラリア、沖縄)でキーツの果皮色の違いがあるのも、果実にあたる光が関係してるかもしれないですね。
すごい勉強になりました。

あと紅キーツって玉文5号だったんですね。初めて知りました。6号とは別品種に見えるほどなのにw
紅キーツのエントリも楽しみです!
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紅キーツの話 (ねこがため)
2010-10-16 06:58:37
>waitakeさん
 コメントありがとうございます。

 栽培地によりキーツの果皮色で違いがある件は、光の当たり方以外にも土の性質等も関連しているのではないかとボンヤリと仮説を立てています。

 あと「紅キーツは玉文5号だった」と判断するのは少し早合点です。
 今回の記事で書いているのは「紅キーツ=玉文5号」ではなく、「キーツ≠紅キーツ」であることと、「国内で紅キーツと呼ばれているものには玉文5号が含まれている(玉文5号⊆紅キーツ)」ということです。
 何故、その様な歯切れの悪い書き方になるか、これは長くなるので別記事にする予定なんですよ(笑)。

 あと「玉文○号」は、台湾の台南県の玉井という集落にいる郭文忠さんという在野の育種家の方が選出した品種群のことです。
 玉井の文忠さんの作だから「玉文」です。
 ですから、「玉文5号」と「玉文6号」は別品種です。
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Unknown (とっしー)
2010-10-21 10:16:02
ご無沙汰しております。キーツはアーウィンと比べて害虫に強くてほとんど農薬入らずなので、農家にとっては手間のかからないありがたい品種なのですが、収穫が本土のお盆時期からずれるのもありまして、期待するほどの値段が卸では付かないのが悩みの種です...(泣)。

ただ、キーツを召し上がったことのあるお客様から、うまいとの評判が増えており、こうしたお客様への直売で頑張らせて頂いております!

今回の実験も結果が残念でしたが、大変おもしろく読ませて頂きました。ありがとうござます。
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マンゴーの価格 (ねこがため)
2010-10-23 06:12:31
>とっしーさん
 「キーツ」は、「アーウィン」と比べて炭疽病に対する耐病性が強いとされています。
 また、樹性が強いので、枝もぐんぐん伸び、収穫期が遅い割りに花が咲くので、作りやすいかもしれませんね。
 ただ、樹当たりの着果数は「アーウィン」より少ない気がしますが・・・。

 しかし一方では、「アーウィン」と比べて、収穫のタイミングが難しく、食べるタイミングが見分けにくいのも現状です。
 マンゴーを商材として扱っている方からは、「追熟しないキーツが多い」「食べ頃が今から何日後が説明できない」といった声をよく聞きます(商材として扱いにくいそうです)。
 そのため、今後は「キーツ」を作っている方が収穫のタイミングを見定め、「○月○日が食べ頃ですよ」「○○になったら食べ頃ですよ」という正しい食べ頃まで表示できれば、「キーツ」の評価はもっと上がると思います(一部の農家さんや出荷団体ではやられていますが)。

 そして、評価が上がって、評判がたち、需要が増えれば市場価格も上がると期待しましょう。
 でも、価格が上がると、作る人も増えて、結局は価格は落ち着くところに落ち着くんだと思います。
 消費者としては「美味しいキーツを手頃な価格で手に入る様にしてよ」というのが本音です。
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ゴールデンキーツの収穫 (下池 幸仭)
2012-04-10 22:38:14
昨年8月、初めてGキーツを収穫しました。
糖度が20以上でびっくり、、今年は28本の花序あり、現在授粉中。
ブログ名「ギョクブン&キーツ」に掲載中。
自前の極小さな温室に2鉢のGキーツ(現在5年木)
Mail:ys11221945@nifty.com
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「金蜜」かも (ねこがため)
2012-04-28 08:40:27
>下池幸仭さん
 書き込みありがとうございます。
 ブログ拝見しました。
 糖度18.3~24%とは高いですね。

 しかし「Gキーツ」という品種はありません。
 下池さんのブログ記事の写真と上記の様に高糖度であること、沖縄県で苗を入手されたことから「金蜜」という品種(系統)ではないかと思います。

 本土で家庭の鉢植え栽培でも美味しいマンゴーが作れるという実践例は、多くの方に希望を与えると思います。
 今後も情報公開を楽しみにしています。
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品種の疑問と糖度について (下池 幸仭)
2012-05-09 10:20:54
①品種について
2008年8月に、宮古島より玉文6號を2年接木で購入。昨年13個の初収穫があったが、色合い、葉形などから玉文6號ではないと気付き購入元に連絡、Gキーツだとの判定でした。
従って、ご指摘の「金蜜」とは?
②糖度について
自然落下後、3日目で匂い、触覚でカットし試食した結果、糖度が18.4だった。
その後、青切で追熟を知り4から5日後に試食結果、22(ATAGOのPAL1)であった。
これは、多分に追熟と肥料の性と思われる。
③その他
購入元へは玉文6號を要望するも半額負担などあり、現在様子見の状態。
従って、今年は30から40個の収穫予定(現在、枇杷の実大)なので相変わらず糖度とサイズが満足出来ればキーツでもいいかなと思っている。
高糖度については、収穫45日前に1回、カルシュウム系を施肥した結果と判断。
以上ですが、今後も収穫までの状況をウェブに掲載します。
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「金蜜」について (ねこがため)
2012-05-12 06:49:14
>下池幸仭さん
 「金蜜」の来歴や特徴については、台湾の彰化縣埔心郷公所の産業文化のページが参考になります(台湾語;繁体で記載)。
http://www.pusin.gov.tw/story/index_04.php

 説明文では「甜度高達20度Brix(糖度は高くBrixは20度に達する)」とありますが、これは平均糖度を指していると思われます。

 私が食べさせてもらった「金蜜」はBrix22~24度で、とにかく甘かったです。
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下池幸仭さん (ねこがため)
2012-05-15 19:56:13
 web上に携帯電話番号をさらすのは、トラブルを招きかねないと判断し、メッセージを保留させていただきました。

 「金蜜」マンゴーの結実樹は欲しがる人が多そうですね。
 ちょっと知り合いに確認してみます。
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金蜜マンゴー (マンゴーブルー)
2015-06-03 18:35:39
こんにちは。
圃場に1本だけある金蜜マンゴーを増やそうと考えています。
そこでご質問したいのですが、
1.現在あるキーツマンゴーに高接ぎは可能でしょうか。
2.黄色いマンゴーは接ぎ木より取り木の方がより簡単という話を聞きましたが、取り木は可能でしょうか。
私としては樹勢が強いので収穫後に取り木ができれば、太めの枝で行いたいのですが。

では、よろしくお願いします。
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