熱帯果樹写真館ブログ

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南風原町がスターフルーツの拠点産地に認定されました。

2015年02月19日 | スターフルーツ

 2015年1月20日(火)に南風原町が沖縄県内初となる「スターフルーツの拠点産地(戦略的な農水産物の産地育成を目指す産地)」に認定されました(琉球新報.15/01/21)。

 記事の内容は以下の通りです。

 スターフルーツ初の拠点産地に 南風原町、生産県内1位
 県農林水産部は20日、南風原町を県内初のスターフルーツの拠点産地に認定した。同町はスターフルーツの県内生産量1位(2011年度時点)で、出荷計画 や増産計画などの取り組みが大きく評価された。18年度までに町内の作付面積を約3倍の4ヘクタールに拡大し、出荷量を約3.5倍の80トンに増産させ る。
 県は南風原町をスターフルーツのモデル産地としてブランド化を進める。現在、出荷量の1割を県外出荷しているが、将来半分に増やす計画だ。(後略)



 この記事を受け、スターフルーツ(以下、スターF)の拠点産地となった南風原町(図1)におけるスターFの生産状況について調べてみました。



図1.南風原町の位置


 沖縄県産果樹類の結果樹面積や収穫量等を調べる際は、沖縄県農林水産部が発刊している「沖縄県の園芸・流通」という統計資料が便利です。
 また、沖縄県中央卸売市場が発刊している「市場年報」を併せて用いると、より詳細な流通状況が調べられます。

 今回は、この2つの資料から得られた情報を以下に箇条書きでまとめてみます。

 ・平成23年度における沖縄県産スターFの販売量は23t(うち県内販売量23t、うち生果利用23t)。
 ・同販売金額は15,416千円(うち県内販売金額14,770千円)。

 ・平成25年の沖縄県中央卸売市場における県産スターF(本資料内では「ゴレイシ」で記載)の取扱数量は18,018kg。
 ・同販売金額は11,702,158円。
 ・中央卸売市場で扱われる島尻郡産スターFの取扱数量は15,821kg、販売金額は10,697,242円と市場に入荷しているスターFの約9割を占める(市場年報では、南風原町は近隣の与那原町、八重瀬町と併せて“島尻郡”として記載されています)。

 これらの情報と合わせて考えると、

 ・沖縄県産スターFの約8割が沖縄県中央卸売市場を通じて流通している。
 ・沖縄県産スターFの生産量の7割以上、販売金額の6割以上は島尻群産である。

 ことが伺えます。

 しかし、前述で紹介した新聞記事には「現在、出荷量の1割を県外出荷しているが、将来半分に増やす計画だ」と販路拡大が詠われています。

 新しい販路を切り拓くためには、スターFの食べ方、切り方等を十分アピールする等、より使いやすい魅力ある商材にする必要があります。
 スターFと言えば、果実を輪切りにした際の断面が星形になることが知られています。
 そのため、スターFをカットする際は、可愛い星形が演出できる様に包丁が入れられることが多い様です(図2)。



図2.スターフルーツの星形切り


 しかし、果物というのは大抵部位により味(甘味)が異なります。
 スターFの場合、ヘタ側で味が淡く、先端部で甘味が強いことが知られています。
 そのため、果実を輪切りにすると淡い☆(ヘタ側)と甘い☆(先端側)が生じます。
 一人で1果を食べるなら良いですが、複数名で食べる際は不公平が生じますよね?

 そこで、提案したいのが「スターフルーツのステッィク切り」です(図3)。

  ①ヘタ付近と果実先端を切り落とします。
  ②渋味が強い陵部分を 切り取ります。
  ③溝の部分に包丁を 入れ5片に切り分けます。
   種やワタも 取り除きます。
   甘味が強い先端側 からお食べ下さい。



図3.スターフルーツのステッィク切り

文字を訂正しました:ステッィク→スティック(2015/11/15)


 スターFの特徴とも言える星形が得られませんが、食べやすく美味しい切り方です。
 今回は、「スターフルーツのスティック切り」を普及するために、私が描いたイラストのA4版およびA6版(A4用紙に4枚)をPDFで無料公開します(イラスト1枚/A4:276KBイラスト4枚/A4:590KB)。

 スターFの栽培者および販売者等の皆様は、よろしければ店頭ポップや果実に同封するリーフレット等にお使いください(商用でも無料利用可)。

 これからも南風原町がスターFの産地として発展することを願っています。


参考資料:
 ・「沖縄県の園芸・流通」.2014.沖縄県農林水産部.
 ・「市場年報」.2014.沖縄県中央卸売市場.




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沖縄県のスターフルーツ 新ブランド「美ら星」

2013年09月03日 | スターフルーツ
 2013年8月15日 の琉球新報の記事「スターフルーツ新ブランド「美ら星」県が商標登録」を抜粋し、紹介します。

(沖縄)県はスターフルーツの新ブランド「美ら星」の商標名を登録し、14日に発表した。同ブランドは細長く卵形で、甘酸っぱい味が特徴だという。(中略)

 県は熱帯果樹のブランド化に向け、03年に米国農務省からスターフルーツ「カーリー」という系統を導入した。04~06年にかけて農業研究センター名護支所で県内の他の系統を含めて計13系統の特性を比較検討した。その結果、県の環境条件で収量が高く、果実品質のいい系統「カーリー」を選抜し、12年6月に商標登録した。(後略)



 熱帯果樹の優良品種導入・選抜+商標登録と云った手法で行われたブランド化戦略は、2012年7月にマンゴーの「夏小紅」「てぃらら」で行われたもの(過去記事:沖縄県のマンゴー新商標「夏小紅」&「てぃらら」)に次ぐものです。

 今回は、スターフルーツのブランド化戦略をより深く理解するために、これまでの沖縄県でのスターフルーツ栽培(産業)を掘り下げてみます。

 まず、沖縄県にスターフルーツが導入された時期や経緯を知りたいところですが、私はこれらが明記された資料を見たことがありません。
 しかし、金城(1939)は「沖縄島の果樹(沖縄植物雑報Ⅴ)」の中で「(前略)伝来は未詳なるも本島にも点在する。(中略)果肉は淡黄緑色で果汁多く酸味が強いが甘味の多い品種もある。」と戦前の沖縄県内にスターフルーツが導入されていたことを記しています。
 ここで注目したいのは、導入初期のスターフルーツは「酸味系」が主で「甘味系」の存在が付け加えであることです。このことは、沖縄県内の古老が未だにスターフルーツの話をすると「あの酸っぱいの?」という反応をすることからも伺えます。

 続いて、沖縄県内でスターフルーツの経済栽培果樹としての推移を調べるには、沖縄県中央卸売市場の「市場年報」が参考になります。
 「市場年報」にスターフルーツがゴレイシ(恐らく、スターフルーツの別名:ゴレンシ(五歛子)又は五陵子の誤用)の名前で登場するのは、昭和63年のことで、同年に4kgが入荷した記録があります。
 その翌年から入荷量は一気に増え、平成元年は160kg、平成4年以降は1t超え、平成15年以降は10t以上となり、平成20年には42t弱が記録され、その後は減少しています(図1)。



図1.沖縄県中央卸売市場におけるスターフルーツ入荷量および単価の推移
(市場年報.より抜粋・加工)


 ここで、スターフルーツの生産量を増やすためには、スターフルーツの魅力を多くの方に伝える必要があります。

 スターフルーツの系統が、「酸味系」と「甘味系」に大別されることは前述しましたが、果物用として栽培される「甘味系」の中で沖縄県で経済栽培されているものには、果実が大きく糖度が高いマレーシア系品種「B-10」や台湾系品種「二林(Erlin;沖縄県のスターフルーツの産地である南風原町では「じりん」と呼ばれることが多い)」等があります。



写真1.大きく、幅が広く、果皮表面が美しい「B-10」の果実





写真2.「二林」の果実。「B-10」よりはやや縦長。



 これら2品種以外にも、品種がわからない果実も販売されているので、消費者としては美味しい品種を選べる目安が欲しいです。
 その結果、沖縄県は収量が高く、果実品質のいい系統「カーリー」を選抜し、「美ら星」という商標を登録してブランド化を図ろうとしているのでしょう。

 それでは、「カーリー(Kary)」とは、どの様な品種なのでしょうか?
 沖縄県の「果樹栽培要領(平成23年度版)」に以下の様な記載があります。

Kary
 平均果実重は150g程度で結実性がよい品種である。果形は長卵形で、果頂部は5辺の左記がややくっついて突出している。果皮色は完熟時には黄色からオレンジ色を示す。
 糖度(Brix)は10.1%で年間を通じて10.0%以上の高糖度である。酸度は0.60%程度である。雌しべが雄しべより長いタイプである。



 また、「カーリー」を育成したハワイ大学の Hamiltonら(1992)は、その来歴および特性を以下の様に紹介しています。

Origin
 'Kary' was selected from a population of open-pollinated seedlings of 'Sri Kembangan' grown at Poamoho experimental fann. It was selected in 1980 and originally designated DRIITI for testing. It has been distributed for propagation and testing at 'various locations throughout the state.

Description
 They have a rounded, compact canopy, and mature trees benefit from pruning. 'Kary' produces fruit in clusters that require thinning to produce larger marketable fruit.

 'Kary' fruits mature about 60 days after flowering. They are elliptical with five distinct wings. Fruit length ranges from 4 to 5 in (10 to 15 cm) and about 2.8 to 3.2 in (7 to 8 em) in cross section. Fruits have deep yellow skin and bright orange-yellow flesh when fully ripe. The flesh is firm and sweet, with total soluble solids averaging about 17 percent. The flavor is much superior to that of ordinary seedling carambolas found in Hawaii. 'Kary' fruits keep better than ordinary seedling star fruits.


起源
 「カーリー」は、ポアモホ試験農場(Poamoho experimental farm)において自然受粉により結実した「スリ・ケンバンガン(Seri Kembangan)」の実生から得られた。「カーリー」の元となった個体は、1981 年に系統「DR11T1」として選抜され、アメリカ合衆国内の様々な地域で試験栽培が行われた。

記述
 「カーリー」の樹は、樹勢が強く、豊産性である。樹形は球形である。樹冠が密集しているので、成木で収益を得るには剪定が必要である。また、「カーリー」は着果数が多いので、市場流通に適した大玉の果実を得るには摘果が必要となる。
 「カーリー」の果実は、開花から約60 日で収穫される。 果実は楕円形で、明瞭な稜が5つある。果実の長径は10~15cm、短径は7~8cmである。完熟した 果実の果皮色は濃い黄色で、果肉色は明るい山吹色を呈している。完熟した果実の果肉は、引き締まっていて甘く、平均 Brix は17%程度である。「カーリー」は、ハワイで普通に見られる実生 個体と比べると、香りはかなり優れていて、貯蔵性が良い。
(ねこがため訳)



 これら2つの文献の記述で一番気になるのは、糖度(Brix)の違いです。
 私も何度か沖縄県産「カーリー」を試食し、Brixの測定をしましたが、概ね Brix は10~12%でした。
 測定方法か時期、機材が違うのかもしれません。

 最後に、私の「カーリー」に対する感想として「渋味が少ない」ことを付け加えておきます。
 渋味は、スターフルーツの食味を語る際に甘味、酸味に加える重要な項目です(数値にしにくいですが)。

 大きくて、形が良く、綺麗で、甘く、渋味が少なく、豊産性で、開花から収穫までの期間が短い等の優れた特性を備え持つ「カーリー」を軸としたスターフルーツのブランド化が成功することを期待しています。

〇参考文献
 ・ 沖縄島の果樹(沖縄植物雑報Ⅴ).金城鉄郎.1939.沖縄植物雑報 Ⅰ~Ⅷ;p.34-56.
  ※1976再版を参照した.
 ・ 「市場年報」.沖縄県農林水産部.
 ・ 「Cultivar tree growth and fruit quality evaluation of young Carambola (Averrhoa carambola L. ) trees(スターフルーツの若木において品種の違いが樹の生長や果実品質に与える影響)」.Jonathan H. Crane・Robert J. Knight, Jr・Osvany Rodriguez・Laurel C. Crane.1998.Proc. Fla. State Hort.Soc. 111; pp. 299-302.
 ・ 「Carambola Cultivation(スターフルーツの栽培)」.Victor Galan Sauco・U. G. Menini・H. D. Tindall.1993.FAO Plant Production and Protection Paper;108.
 ・ 「果樹栽培要領」.2010.沖縄県農林水産部.
 ・ 「‘Kary’, an improved carambola for commercial planting(スターフルーツの経済栽培用品種「カーリー」)」.Richard A. Hamilton ・ Phillip J. Ito.1992.Hawaii Cooperrative Extension Service
Commodity Fact Sheet CAR-3(A) Fruit.Hawaii Institute of Tropical Agriculture and Human Resources, University of Hawaii at Manoa.(PDF:138 KB)

〇参考サイト
 ・ 「スターフルーツ新ブランド「美ら星」県が商標登録」」.琉球新報.2013年8月15日.
 ・ 南風原町のHP




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