熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

ドラゴンフルーツの育種に係る備忘録

2011年05月03日 | ドラゴンフルーツ

 今回は、2010年12月にお会いしたイスラエルのドラゴンフルーツ研究者M氏に伺った「ドラゴンフルーツの育種」に係る話題の備忘録をつけたいと思います。

 ドラゴンフルーツの育種と云えば、日本でも2007年12月に「ちゆらみやらび」が品種登録されています(「ちゅらみやらび」だと思っていました!)。
 「ちゅらみやらび」は、果肉が淡いピンク色で、糖度が高く、クリーミーな食感といった特徴を備え、ドラゴンフルーツの品種改良の有用性を示してくれた品種です(写真1)。

 ただ、果肉のピンク色については「ちゆらみやらび」でなくても、実生で株を育てた際には、よく現れる形質の様です(写真2)。



写真2:実生で育成した複数株より得られた果実の断面



 果肉がピンク色のドラゴンフルーツが全て「ちゆらみやらび」ではないので注意が必要です。

 イスラエルはドラゴンフルーツ育種の先進国です。
 M氏は、ドラゴンフルーツの育種(品種開発)に携わる研究等を長年に渡り行ってきた方です。

 以下にM氏から伺った話題をQ&A方式で記します。



Q1:イスラエルでのピタヤの育種の概要を教えてください。

A1:イスラエルでは約80年からピタヤの育種を行っており、国内8ヶ所の圃場(全体で80ha程度)で選抜を行っている。これまでに250系統 程度が収集、育成されている。


Q2:イスラエルでは、ピタヤは重要品目ですか?

A2:地中海を経て、ヨーロッパに輸出している重要品目である。


Q3:ピタヤの品種育成に要する期間を教えてください。

A3:概ね10年である。


Q4:播種~初収穫までに要する期間を教えてください。

A4:2年と考えている。


Q5:ピタヤの味は、父本または母本由来のどちらと考えていますか?

A5:どちらもありえると考えている。


Q6:これまで得られた系統・品種の中で特徴的なものは、どの様な特性を備えていますか?

A6:Selenicerus属(イエローピタヤ)とHylocereus属(ドラゴンフルーツ)の交雑系統(赤肉)を得た。これは、開花から収穫までに2ヶ月程度を要する。他にもイスラエルで は、台木用の品種もある。


Q7:ピタヤの栽培を考えた際に、イスラエルと沖縄県を比較してイスラエルが有利だと思う点はどこですか?

A7:イスラエルは湿気が少ないため病気が少ない。また、露地で潅水量の調節が可能である。あと、台風がない。


Q8:逆に、沖縄県が有利だと思う点はどこですか?

A8:イスラエルは昼温と夜温の差が大きく、地域間の環境差も大きい。あと、沖縄県は水が豊富にある。


Q9:潅水量の調整が可能とのことですが、潅水量と果実の甘さに相関がありますか?

Q9:相関はない(低い)と思う。


Q10:ピタヤの栽培で特に気をつける作業を1つ挙げるとすれば何ですか?

A10:枝(結果枝)が重ならない様にすること。とても重要である。


Q11:ピタヤの育種を行う際の選抜基準を教えてください。

A11:一律の数値基準があるわけではないが、以下の7点を重視している。
  1.耐暑性および耐寒性
  2.味(Brix だけでなく達観による食味が重要)
  3.貯蔵性(10℃で3週間+常温で5日間)
  4.果実の大きさ
  5.果実の形状および容姿
  6.生産量(反収)
  7.倍数性→F2を作る際に重要



 以上です。
 多忙なスケジュールにも関わらず、丁寧に対応していただきましたM氏に改めてお礼を申し上げます。

〇参考サイト
 ・「農林水産省 品種登録ホームページ

タイのマンゴーに係る備忘録

2011年05月01日 | マンゴー

 涼しい4月を終え、今日から5月です。
 今年は季節の移り変わりが遅いと感じていました。
 しかし昨日、沖縄気象台が沖縄地方の梅雨入りを発表しました。
 4月30日の梅雨入りは、去年より6日早く(平年より9日早い)、この10年で最も早いそうです(1951年の統計開始以降、5番目に早い)。

 さて、話変わって今日はタイ産マンゴーの話題です。
 先日、近所のスーパーでタイ産マンゴーの「ナムドクマイ(Nam Doc Mai)」を購入しました。

 それに因んで、昨年お会いしたタイ(チャンタブリ)の研究員のT氏に教えていただいたタイのマンゴー情報の備忘録を付けたいと思います。
 以下、Q&A方式で記載します。



Q1:タイにおけるマンゴーの人気品種は何ですか?

A1:「 ナムドクマイ 」の人気が特に高い。また、最近では果皮が黄色くなるタイプの「ナムドクマイ スイトーン(金色)」の人気が高まっている。


Q2:「 ナムドクマイ 」とは、どの様な意味ですか?

A2:直訳すると、「Nam=水」「Doc Mai=花」となり、果実の形状が水滴状であることから付いた名称で「花の雫」と云った意味合いになる。


Q3:「 ナムドクマイ 」と言えば「No.2」や「No.4」といったバリエーションがある様ですが、それぞれの来歴を知っていたら教えてください。

A3:一般的な「ナムドクマイ」の来歴は古いため不明となっている。「ナムドクマイ No.4」は、カセサート大学がタイ国内で「ナムドクマイ」の変異(枝変わり等)を収集、選抜した際に、特別に早い時期に開花するタイプ(早生)ということで選抜した系統(品種)である。


Q4:日本にはタイから「マハーチャノック(Maha Chanok)」と云う品種も輸入されていますが、タイにおける「マハーチャノック」の評価や普及状況はどの様になっていますか?

A4:タイから日本に輸出されている「マハーチャノック」は、果皮が赤くなるタイプで、この様な品種はタイには元々はない。恐らく、海外から育種素材 を導入して得たものだと思われる。
 「マハーチャノック」のタイ国内での評価は、匂いがやや強いため、あまり普及していない。


Q5:「マハーチャノック 」とは、どの様な意味ですか?

A5:直訳すると「Maha=偉大な」「Chanok=父」であるが、この場合は「Maha Chanok =仏陀の10代前の前世(最初の前世)における名前」のことだと思う。

※私は以前に「マハーチャノック=大なる銛」と訳していましたが、誤りでした。


 マンゴーについては、以上です。

 視察中の貴重な時間であったにも関わらず、丁寧に情報を教えてくださったT氏ならびに通訳をしてくださったbuabuahan さんに、改めてお礼を申し上げます。

〇参考記事
 ・「マンゴスチンに係る備忘録(2010.10.09)」
 ・「タイ王国産マンゴー「マハーチャノック種」が輸入解禁になりました(2006.12.30)」

〇参考サイト
 ・「NHKニュース;沖縄地方 早くも梅雨入り(2011/04/30 13:40)」
 ・「47ニュース;沖縄が梅雨入り、気象庁発表 平年より9日早く(2011/04/30 11:50)」