熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

アボカドの葉をかじる珍虫。

2019年09月06日 | アボカド
※今回の記事は、害虫写真が掲載されています。


 2019年6月7日に沖縄県うるま市にある知人が栽培するアボカドを見せていただきました。
 このアボカド(品種不明)は、ビニールや防虫ネット等が被覆されてパイプハウス(実質、露地栽培)で栽培されていました。
 知人は「花はよく咲くけど、結実はほとんどしない」と言いながら樹を見せてくれました。

 アボカド樹を見た私は新葉が何者かの食害を受けていることに驚きました。
 今までアボカドでは見たことがない食害痕だったからです(写真2、3)。





写真2、3.何者かに食害を受けたアボカドの新葉。


 樹に近づいて観察すると、葉の上にゾウムシが大量にいるのが見つかりました(写真4)。
 多い場合は1枚の葉に5頭のゾウムシがいました(写真5)。



写真4.アボカドの新葉にいたゾウムシ。





写真5.1枚の葉に5頭いる葉もあった。



 ゾウムシの種類がわからなかったので数十頭採集し、後日昆虫に詳しい先輩に預けました。
 それから数日後、ゾウムシを預けた先輩から連絡がありました。
例のゾウムシは、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、九州沖縄農業研究センター の上級研究員:吉武啓さん(農学博士)というゾウムシ分類の専門家に同定していただいた、とのこと。
※ 吉武様、同定ありがとうございました。

 同定結果は、ヨナグニアカアシカタゾウムシ(Metapocyrtus yonagunianus)(写真6、7)。
 元来は与那国島にしか分布していなかった固有種でしたが、近年は沖縄本島にも移入、定着し、様々な植物を食害しているとのことでした。
 本虫は「飛べない虫」みたいですが、沖縄本島内で点在して見つかっています。どうやって分布を広げているのか不思議です。
 また、本虫がアボカドを食害したと云う記録はないとのことです。



写真6.ヨナグニアカアシカタゾウムシ(青っぽい個体)。





写真7.ヨナグニアカアシカタゾウムシ(赤っぽい個体)



  *  *  *

 同定結果を知らせるために、同年7月30日に再度採集現場を訪ねました。
 その際にアボカド樹を確認すると、以前食害に遭っていた樹からは新梢が芽吹き、新たな新葉が展開していました。
 しかし、それら新葉には本虫の食害痕がほぼ見られず、食害は落ち着いた様でした(写真8)。



写真8.7月末の新葉は食害痕が少ない。



 あれだけいたゾウムシ達はどこへ行ったのでしょうか?
 樹をじっくりと観察すると、前回程ではありませんが、硬化した葉で複数のゾウムシ成虫を確認しました(写真9)。



写真9.7月末のヨナグニアカアシカタゾウムシは旧葉上にいた。



 また、枝の一部が枯れていないかと探しましたが、枯れたり、萎んだりしている樹は見つけられませんでした。
 ゾウムシがアボカド樹で繁殖している証拠も見つけられませんでしたが、1ヶ月以上に渡りゾウムシが常駐しているので繁殖している可能性は大きいのではないかと思います。

  *  *  *

 さらに後日(同年8月6日)、ゾウムシを預けた先輩と共に同農場を訪れました。
 相変わらず少数の本虫(成虫)を見つけることができましたが、繁殖している証拠は掴めませんでした。

 先輩は「本虫は広範囲の植物を食べる習性があるから、繁殖場所は他にあるかもしない」と農場周辺の雑草を観察し始めました。
 そして間もなく、シロバナセンダングサの葉に食害痕を見つけ、本虫(成虫)を見つけました(写真10)。



写真10.シロバナセンダングサの葉上にいたヨナグニアカアシカタゾウムシ。



 シロバナセンダングサ(沖縄県では、とてもよく見かける雑草)を食べているなら、周辺に広範囲にいるはず・・・。
 繁殖植物の特定は諦め、私と先輩は農場を後にしたのでした。




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アボカドの果実に白い汚れが付いて落果する!?

2018年04月24日 | アボカド

 2018年4月21日に熱帯果樹仲間であるU氏の自宅を訪れた際に「鉢植えで栽培しているアボカド「ピンカートン(Pinkerton )」の果実に白い汚れが付く。この汚れが付いた果実は落果する。この原因と対策を教えて欲しい」と相談を受けました。 

 確認すると、白い汚れは複数の果実の表面に見られました(写真2)。



写真2.白い汚れが付いたアボカド果実



 果実の大きさは長径2~4cm程度。
 汚れの発生箇所は、果梗部付近に集中しているもの、果頂部付近に集中しているものと様々で一貫性がありません。
 また、汚れの形や大きさもバラツキがある様です。

 この時点で私は以下の2つの仮説を考えました。

 【仮説1】カイガラムシの仲間による汚れ。
 【仮説2】Phytophthora属菌(以下、疫病菌)による汚れ。

 しかし、その場では判断が付かなかったので、汚れが付いた果実を1つ持ち帰りました。

 持ち帰った果実を実体顕微鏡で観察しましたが、白い汚れの中にカイガラムシの姿は見当たりませんでした。
 汚れは薄いところでは膜状にベッタリと張り付いており、厚いところではモコモコと盛り上がっていました(写真3,4)。




写真3.写真4.白い汚れを実体顕微鏡で拡大



 次に、この白い部分を柄付針(えつきばり)で少し取り、プレパラートを作成して、光学顕微鏡で観察しました。
 このとき探すのは、疫病菌の特徴であるレモン型の遊走子嚢(ゆうそうしのう)です(写真5)。



写真5.Phytophthora nicotianae の遊走子嚢

「植物病原アトラス」より抜粋。


 検鏡すると間もなくレモン型の遊走子嚢がたくさん見つかりました(写真6)。



写真6.光学顕微鏡で観察できた疫病菌の遊走子嚢



 どうやら【仮説2】が正解だった様です。

 一応、「農業生物資源ジーンバンク」の「遺伝資源データベース」の「日本植物病名データベース」で国内で報告されているアボカドの病害を検索してみます。

 疫病菌による病害は2例(根腐病とフィトフトラがんしゅ病)が報告されており、どちらも参考文献は渡邊龍雄 著「熱帯の果樹と作物の病害」とのことです(表1)。



表1.日本国内で報告されているアボカドの病害一覧




 「熱帯の果樹と作物の病害」を読んでみると、アボカドの疫病菌による2種類の病害で果実の表面に白い汚れが付着する旨の説明は書かれていません。

 今回観察した病害は、まだ国内では報告がないのかもしれませんが、Webで「Avocado Phytophthora fruit rot」をキーワードに検索してみると複数件ヒットするので、海外では普通に知られている病害の様です。

 疫病は長雨等の高湿度条件下でよく発生し、罹病した苗木の移動、水の移動、農機具、人、動物などに付着した汚染土壌を通して病原菌が伝播されます。
 そのため、予防策としては、
 
 ・排水良好な土壌で栽培を行う(過度な灌水は避ける)。
 ・無病苗木を選ぶ。
 ・罹病地域からの土壌または水の移動を防ぐ。
 ・抵抗性台木の使用。
 ・雨避け栽培(ビニールハウス等での栽培)を行う。

が重要になります。

 もし、疫病が既に罹病している場合は、

 ・罹病部(深刻な場合は樹)の早期除去。
 ・樹体及び土壌の消毒。

等が対策方法となります。
 消毒(殺菌剤の使用)ができれば良いのですが、2018年4月時点の日本国内では「アボカド」に登録されている農薬はなく、「果樹類」で登録されている薬剤のうち疫病菌に有効そうなものが見当たりません。

 相談内容の「原因と対策」のうち、原因はわかったものの、有効な対策が提示できないのは歯がゆいものです・・・。

〇参考文献
 ・米山勝美・夏秋啓子・瀧川雄一・堀江博道・有江力(編集).2006.植物病原アトラス -目でみるウイルス・細菌・菌類の世界-.㈱ソフトサイエンス社.
 ・渡邊龍雄.1980.熱帯の果樹と作物の病害(第2版).㈱養賢堂.




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アボカド「リード」を食べました。

2013年12月14日 | アボカド

 2013年11月中旬、沖縄本島南部で様々な熱帯果樹を栽培している知人M氏の畑を訪ねた際に、落果したアボカド「リード(Reed)」の果実を1つ頂きました。
 今回は、その試食レポートを書きます。

 その前に「リード」とは、どの様な品種なのかを文献から探ってみました。
 まず、アボカドの参考書としては当ブログではお馴染みの「新特産シリーズ アボカド」を紐解きます。
 同書には、日本向きとして4品種が個別紹介されており、「リード」はその4番目に以下の様に紹介されています。

④リード ―― 沖縄以南(亜熱帯)向き、果実大きく豊産
 グアテマラ系で、「アナハイム」と「ネーブル」の自然交雑種と考えられ、1948年にカリフォルニアで誕生した。開花型はAタイプで、果重は270~680gである。球形の果実で、果皮はやや厚い。果皮色は緑色で、果肉はクリーム色~黄色。可食部は71~72%で、食味は濃厚である。店持ち期間は1ヶ月で「ハス」よりも長い。豊産性であるが耐寒性は弱く-1.1℃程度である。直立性の樹形で、密植栽培することで高い収量が上げられる。
 各国でのアボカド生産量に占める「リード」の割合は、イスラエルで8%である。高温多湿のフロリダでは、晩生の高品質果実として重要な品種であるが、生産量はわずかである。

  ※米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.より抜粋。



 この他、同書には「主要およびマイナー品種の特性」の表が掲載されており「リード」の記載があります。
 本表では、上述の説明と食味と1果実重の幅の表現が異なる他、オイル含量や熟期の追加情報が見られます(表1)。



表1.アボカドの主要品種の特性


※米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.より抜粋・加工。


 また、同書には前回も紹介した「品種別熟期における果肉乾物率」の表が掲載されており、その中に「リード」の乾物率は19.2%と書かれています(表2)。



表2.品種別熟期における果肉乾物率


※米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.より抜粋・加工。



 概ね「リード」については知りたい情報は得た気がします。
 しかし、文献から探ると意気込んで1冊しか参照しないのも勿体ないので、もう少し続けます。

 次に、米本氏が(社)日本種苗協会より依頼を受け作成した資料「平成6年度 導入果樹品種特性調査事業報告書(アボカド)」を紐解きます。

 この資料には、上述の「主要およびマイナー品種の特性」も掲載されています。
 そして、個別品種紹介で「リード」については以下の記載があります。

(7)リー ド
 グアテマラ系で耐寒性はハスよりも低い。樹形は直立性であるが、「ピンカートン」と同じく枝は下垂する。葉は濃緑色で、他の品種に比べて幅が狭いのが特徴である。果実は球形で大きく、340~510g である。果皮は厚く緑色で、果実面は「ハス」のようにざらざらしているが、「ハス」よりもワックス状の輝きがある。果肉は黄色が濃く食味も良い。 開花型はAタイプに属し、開花は5月中旬から6月下旬と他の品種よりも遅いのが特徴である。豊産性であるが晩生で、本来は樹上越冬して翌年の夏期にに収穫する品種であるが、和歌山県では樹上越冬が困難で、冬期に果実が樹上でしおれてしまう。

  ※社団法人 日本果樹種苗協会.1986.平成6年度 導入果樹品種特性調査事業報告書(アボカド).平成6年度農林水産省委託調査.より抜粋。



 この説明文では、これまでなかった枝が下垂することや葉の形状、果皮の肌触り及び色つや、和歌山県での栽培特性の情報が得られます。

 さらに、和歌山県での開花時期が5月中旬~6月下旬の情報が得られました。
 そこで、M氏に開花時期を確認したところ、沖縄本島南部では3月下旬の開花だった様です。

 つまり、沖縄県では果実が越冬することなく、開花から8ヶ月程度で自然落果が見られるということです。

 この資料では、後半に和歌山県で栽培されたときに得られた時期別の果肉乾物率や油分率の推移のデータが掲載されていますが、「リード」については正常な収穫が得られていないので、今回は引用しません。

 では、正常な収穫が行われている海外の文献では、どの様な記載があるのでしょうか?

 米本氏も引用している米国の CABI publishing から出版されている「The Avocad」では、「リード」の紹介文章の中で米本氏が書いていない情報が幾つか掲載されているので抜粋して紹介します。

(前略)
・downward hanging branches protect fruit from sunburn;
 下垂した枝は果実を日焼けから守る。

(中略)
・cut surface does not darken;
 (果肉)の断面が黒っぽくならない。


(中略)
・Has some resistance to Persea mite.
 アボカドハダニ(Oligonychus perseae)に 対して、ある程度の耐性がある。

(後略)                                      ねこがため訳
  ※Antony William Whiley, Bruce A. Schaffer, B. Nigel Wolstenholme.2002.CABI publishing.より抜粋。



 「リー ド」が少し身近な品種になりました。

 さて、頂いた「リード」を見直します(写真2)。



写真2.自然落果後のアボカド「リード」(11月中旬撮影)



 11月中旬(自然落果後)に以下の測定を行いました。

 ・果形:縦;85.3mm、横1;82.2mm、横2;81.5mm
 ・果形指数:1.04
 ・果実重:310g

 その後、果実が食べ頃になるまで、室温で保管しました。
 そして、2週間後の12月上旬、果実が柔らかくなり、ヘタを触るとポロッと取れ、果実を振ると種子がカタカタと音を立てたので、食べ頃と判断し、試食しました。
 追熟期間を経ても果皮色は緑色のままでした(写真3)。



写真3.食べ頃になったアボカド「リード」(12月上旬撮影)



 果肉は綺麗な淡黄色です(写真4)。
 果肉色は上述されている様にカットした後に余り変色しない様に感じました。



写真4.食べ頃になったアボカド「リード」果実断面



 果実をカットした後に以下の測定を行いました。

 ・果実重:265g(自然落果時より15%減)
  うち種子重:56.7g
  うち果皮重:32.9g
 ・可食部割合:66.2%

 ・生果肉重量:17.1g
 ・乾果肉重量: 2.9g
 ・乾物率:17.0%

 食味は、やや水っぽく「収穫が少し早いかな?」との印象を受けましたが、アニス臭はなく食べやすかったです。
 果肉の乾物率は17.0%だったので、やはり少し早めの収穫だった様です。
 M氏に測定結果等を伝えると「年末頃から収穫かも」と残った果実の収穫時期を算定されていました。

 やはり、「リード」は沖縄県では果実は越冬させず年末・年始で収穫できる晩生品種という位置づけになりそうです。
 「リード」より早く収穫できそうな「フェルテ(Fuerte)」等と組み合わせると、収穫期間の拡大が図れそうです。

 果皮は文献の記載どおり厚く、果肉離れも良いので、カットした果肉等を盛りつける器として使えそうでした(写真5)。



写真5.アボカド「リード」の果皮



 まだM氏の畑の「リード」は着果数が少ないですが、今後は豊産性という品種特性を発揮して欲しいと思います。

〇参考文献
 ・米本仁巳.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.
 ・1986.「平成6年度 導入果樹品種特性調査事業報告書(アボカド)」.社団法人 日本果樹種苗協会.平成6年度農林水産省委託調査
 ・Antony William Whiley, Bruce A. Schaffer, B. Nigel Wolstenholme.2002.「The Avocado」.CABI publishing.




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沖縄県産アボカドを食べました。

2013年10月05日 | アボカド
 2013年9月上旬、沖縄本島南部でアボカドを栽培している知人K氏から自家製のアボカド果実を頂きました。

 今回頂いた果実の品種(系統)は「フェルテ(Fuerte)」と「川平3号」が1果ずつで、K氏曰く「本格的な収穫は10月だと思うが、早めに熟した(落果した、鳥がつついた)ものを持ってきた」とのこと。

 収穫直後の両果実は、果皮色が鮮やかな緑色でした(参考、写真1)。



写真1.結実中のアボカド果実(7月撮影)



 果実を25℃設定のクーラー室で5日間保管したところ「フェルテ」の果実が食べ頃になりました。
 米本(2007)は、著書内で「フェルテ」の追熟について、熟しても皮が黒くなることはないと記していますが、今回は果実全体が鮮緑色だったのが追熟に従い果梗部付近から暗紅色が広がる変化がありました(写真2)。



写真2.食べ頃になった「フェルテ」の果実



 果肉は黄色を呈し、果皮離れは良かったです(写真3)。



写真3.「フェルテ」の果肉



 果実データ(9月中旬の食味前に測定)は、

 ・果形(縦×横1×横2):約160mm×93.6mm×91.7mm
 ・果実重:572g

でした。

 そして肝心の味は、同僚数名と食味会を行った際に出た意見は、

 ・ 「美味しい」
 ・ 「甘みがある」
 ・ 「食感が滑らか」
 ・ 「スーパーで売っているアボカド(「ハス」)で感じる青臭い風味がない」
 ・ 「思ったよりこってりしていない」

と、概ね高評価でした。

 しかし、ここで気になるのが「思ったよりこってりしていない」です。
 食べ慣れている「ハス」と比べると充分に美味しい果実でしたが、あと少し油分が多いとさらに美味しくなる気がします。

 ここで、アボカド果肉の油分について基本的なことを記します。

 「五訂増補 日本食品標準成分表」によると、アボカド生果肉100g中に含まれる脂質の量は18.7gと同著内で「果実類」として掲載されている中で最も高い数値になっています(オリーブよりも脂質含量が多い!)。
 しかも、アボカドに含まれている脂質のほとんどがコレステロールを溶かしてくれる善玉脂質の「不飽和脂肪酸」です(米本、2007)。

 また、アボカド果肉中の脂質量は、樹上に長期間おくことで増し、濃厚な味になることが知られてます。
 そのため、アボカドの収穫適期は、果肉中の脂質量が一定量を超え、逆に水分量が一定量以下になる時期を目安とします(見た目では収穫適期がわかりにくいのが難点です)。
 おいしい果実を収穫するためには、油分8%以上になれば良いことがアメリカでの食味調査からわかっている様です(米本、2007)。

 しかし、アボカド果肉中の脂質量を測定するには、クロロホルムとメタノールの体積比2:1混合液を用いた「Folch法(Folch et al, 1957)」等の手法を用いる等手間がかかるため、栽培者レベルで行うには実用的ではありません。
 そこで、食べ頃となったアボカド果肉とその乾物率を予め調べておき、それを目安に収穫適期を予測する方法が提唱されています。

 アボカド果肉の乾物率による収穫適期予測法の手順を以下に示します。

 ①果実を縦に割りタネと種皮を取り除く。
 ②①で半分になった果肉をさらに縦方向に切って、8等分に分割する。
 ③そのうち対角上の切片をペアーにして用いる。
  まず、この二つの切片の果皮をはぎ取り、果肉をフードプロセッサーにかけ、三ミリ以下の大きさに刻む。
 ④はかりにペトリ皿を載せ、風袋重を測定する。
 ⑤刻んだ果肉から五~六グラムを取り出して④のペトリ皿に載せ、正確な生果肉重を測定する。
 ⑥容器ごと一〇〇〇Wの電子レンジで水分を飛ばし、重量が一定になるまで乾燥させる。乾燥させるのに五〇%の出力で四〇分を要する。果肉が黒くならない様に出力を調整しながら行う。
 ⑦電子レンジから取り出して乾燥果肉が入った容器ごと重量を測定し、容器の風袋重を差し引いた値を乾燥果肉重とし、これを生果肉重で割って乾物率を計算する。
 ⑧園地の平均値を求めるには一〇個の果実を用いて行う。

 乾物率がおおむね二一%以上になれば油分は八%以上あると推定できる。

 〇参考文献:米本.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.



 今回の「フェルテ」果肉で乾物率を求めてみました。
 ただし、その際に私の手元に上記の参考文献がなかったために、やや方法の詳細は異なります。

 生果肉重 :15.7g
 乾燥果肉重: 3.1g
 ---------
  乾物率 :19.7%

 さて、「フェルテ」で乾物率19.7%は、どの様な値なのでしょうか?
 米本(2007)は、表1の様な「品種別熟期における果肉乾物率」という便利な表を掲載してくれています。



表1.アボカドの品種別熟期における果肉乾物率



〇参考文献:米本.2007.「新特産シリーズ アボカド」.農文協.


 表1に照らし合わせると、「フェルテ」の乾物率は20%前後から収穫期開始であることが伺えます。
 つまり、今回食した「フェルテ」果実は、収穫初期のもの、と捉えて良いでしょう。
 これは、栽培者K氏の「本格的な収穫は10月だと思う」という発言とも一致します。

 「フェルテ」に遅れること数日、「川平3号」も熟しました。



写真4.食べ頃になった「川平3号」の果実




写真5.食べ頃になった「川平3号」の果肉



 果 形:121.0×89.7×91.4
 果実重:475g

 食味した同僚数名の意見は、

 ・ 「栗みたいな食感」
 ・ 「後味にサトウキビみたいな香りが残る」
 ・ 「先日食べたの(「フェルテ」)の方が好き」
 ・ 「これは、これでアリ」
 ・ 「水っぽい」

と、「フェルテ」程の高評価は得られませんでした。

 乾物率も果肉の天日干しで(「フェルテ」のときに用いた乾燥機が諸事情で使えなかった)乾燥させた結果、

 生果肉重 :22.8g
 乾燥果肉重: 3.4g(天日干し)
 ---------
  乾物率 :14.9%

と、「フェルテ」より乾物率が低いことがわかりました。
私としては、乾物率が15%を下回っていた割には美味しく食べられたのではないか、と思います。

 さて、本日('13.10/5)から沖縄本島南部は、台風23号により暴風域に入っていますが、10月に美味しいアボカドが食べられることを切に願います。


〇参考文献
 ・「新特産シリーズ アボカド」.米本仁巳.2007.農文協. 
 ・「A simple method for the isolation and purification of total lipids from animal tissues」. Folch, J., Lees, M. and Sloane Stanley, G.H., 1957.J. Biol. Chem. 226:497-509.

〇参考サイト
 ・「五訂増補 日本食品標準成分表果実類」」.2005.文部科学省 科学技術・学術審議会・資源調査分科会.




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書籍紹介「アボカド 露地でつくれる熱帯果樹の栽培と利用」

2007年05月05日 | アボカド
 今回は、熱帯果樹の書籍紹介をさせて頂きます。

 紹介する書籍は、農山漁村文化協会(以下、農文協)から2007年3月に発行されました、米本仁巳著「アボカド 露地でつくれる熱帯果樹の栽培と利用」(本体1,429円+税)です。



 本書は、市販されている書籍としては、国内初のアボカド専門書だと思います。

 そんな本書の目次を見てみますと、


 第1章 アボカドの魅力
  1 栄養満点、クリーミーな健康食品
  2 日本への輸入はうなぎ登り
  3 国産アボカド栽培の魅力

 第2章 アボカドとは
  1 原産地と来歴
  2 生育特性と栽培のポイント

 第3章 品種の特性と生かし方
  1 大きくは三系統に分類
  2 日本向きはメキシコ系とグアテマラ系品種

 第4章 苗木つくりから幼木期までの管理
  1 苗木の準備
  2 園地づくり
  3 植付けの実際
  4 植付けから初結実までの若木管理

 第5章 成木園の管理ポイント
  1 年間の栽培管理
  2 おもな病気と害虫
  3 間伐と品種更新、樹形改造
  4 寒地での栽培を可能にする鉢栽培
  5 家庭で楽しむ鉢栽培は「カクテルツリー」で実現!

 第6章 篤農家の経営事例

 第7章 アボカドの調理、加工、利用法
  1 おいしい食べ方紹介
  2 アボカドのいろいろな調理法
  3 食品以外の利用・加工



 と、国内でアボカドを栽培し、利用したいと思っている方には必読の内容となっています。

 私が特に面白く読ませていただいたのは「第3章 品種の特性と生かし方」です。
 この章では、アボカド品種の分類についてメキシコ系、グアテマラ系、西インド諸島系の地理学的な分類が一般的に用いられていることや、各系統の特性が説明されているのを感心しながら読ませていただきました(表1)。


表1:アボカドの3系統の特性

(本書中の3系統の特性記述より作成)


 沖縄県では庭木として栽培されているアボカドに稀に果実を見ることができるのですが、品種不明と思っていたのが、今後は「○○系っぽいな」位の認識はできそうなので、この内容は嬉しかったです。

 とても充実した内容のアボカド専門書「アボカド 露地でつくれる熱帯果樹の栽培と利用」の発行を機に、国産アボカドの生産が増えることを願っています。

○関連
・「熱帯果樹観察室:アボカドの収穫時期、追熟方法を調べてみました