熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

ホワイトサポテの花型を観てみよう!

2015年03月27日 | ホワイトサポテ

 沖縄県では、ホワイトサポテ(Casimiroa edulis Llave & Lex)の花は12~3月に開花します。
 品種や気象条件、樹の状態により開花時期が変わります。

 ホワイトサポテの花は、形態上両性花ですが、花粉をもたない品種も多く、子房や柱頭の大きさと花粉の有無により3種類の花型に分類することができます(米本、2014)(参考:2010年01月22日記事)。

 今回は、幾つかのホワイトサポテの品種の花を観察し、3種類の花型をより理解したいと思います。
 花の写真が準備できた品種は、表1で赤下線を示した5品種です。


表1.今回花の写真が準備できた5品種


(石畑(2000)の表を抜粋加工)


 まず、観察ポイントなる柱頭、子房、花糸および葯(花粉の有無)を確認するため、タイプⅢの「モルツビー(Maltby)」の花を観察します(写真2)。



写真2.ホワイトサポテの花の構造
タイプⅢ「モルツビー(Maltby)」の花


 タイプⅢの「モルツビー」の花では、柱頭、子房および花粉のある葯(葯に黄色い粉が付いているのが花粉)の全てがあります。
 野村(2002)は、ホワイトサポテにおける花の器官の大きさ等を調べ、子房と柱頭の大きさには高い相関がある(r=0.93)ことを確認しています。また、柱頭の大きさの指標として柱頭幅1.00mmを用い、タイプⅠ・Ⅲの品種では(柱頭>1.00mm)、タイプⅡの品種では(柱頭<1.00mm)と記しています。

 次に受粉樹に用いられるタイプⅡの花として「エッジヒル(Edgehill)」「スーベール(Suebelle)」「バーノン(Vernon)」の花を観ます(写真3~5)。



写真3.タイプⅡ「エッジヒル(Edgehill)」の花




写真4.タイプⅡ「スーベール(Suebelle)」の花




写真5.タイプⅡ「バーノン(Vernon)」の花


 タイプⅡの花は、タイプⅢの花と比べ柱頭が小さく、葯にたっぷり花粉が付いているのがわかると思います。

 最後にタイプⅠの花として「スマザース(Smathers)」の花を観ます(写真6)。



写真6.タイプⅠ「スマザース(Smathers)」の花


 タイプⅠの花は、柱頭と子房が大きく目立ちます。また、葯に花粉が見えません。花糸も短いと言われれば短い気がします。
 ただし、「スマザース」は葉の裏に細かい毛が生えていることからC. tetrameria であることが推察されており、遺伝子マーカーを用いた分類図でも多品種と異なることが指摘されています(米本、2014)(図1)。
 このため、タイプⅠの花は、別の品種を写真撮影する機会があれば再度紹介したいと思います。



ホワイトサポテ39品種のRAPDとPFLPマーカーによる分類図

スマザースとモルツビーはその他の品種と異なる。
(米本(2014)より抜粋)


 受粉樹としてタイプⅠ・Ⅲを用いる際は全体の10%程度の量があれば良く(石畑、2000;Verheij and Coronel, 1991)、タイプⅢの「モルツビー」は、単一栽培でも自家結実性が高いのだそうです(米本、2014)。

 ホワイトサポテの花型の違いを理解することで、その栽培がより効率的で楽しいものになることを期待します。


〇参考文献
 ・石畑清武.2000.「熱帯・亜熱帯果樹生産の新技術〔4〕-シロサポテ-」.農業および園芸;75巻第4号;pp.518~525 .養賢堂.
 ・野村哲也.2002.「シロサポテ品種の花の形状について」.鹿児島大学農学部農場技術調査報告書.
 ・米本仁巳.2014.「栽培の基礎 シロサポテ(ホワイトサポテ)」.農業技術大系 果樹編第7巻.農文協.
 ・Verheij, E. W. M. and R. E. Coronel. 1991. Casimiroa edulis Llave & Lex. In Plant Resources of South-East Asia No.2. Edible fruits and nuts. Pudoc (Wageningen) 113-114. (孫引き)




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ホワイトサポテを取り木しました。

2014年06月27日 | ホワイトサポテ

 沖縄島北部の名護市でホワイトサポテCasimiroa edulis Llave et Lex)を栽培している知人から「ホワイトサポテで取り木をしたい」と相談を受けました。

 ホワイトサポテの繁殖では、種子を播いて得た台木に優良品種を接ぐ「接ぎ木」が一般的に行われます。
 しかし、今回は「樹形を整えるので、立ち枝を間引くのと同時に大苗が確保できる取り木を試したい」とのこと。

 ホワイトサポテの取り木は、米本(1992)が以下のとおり可能であることを報告しています。

取り木も可能

 10月に1年生実生の緑枝を約3cm幅 に剥皮し、水分を含んだミズゴケで覆い、サランラップで包み、ビニールハウス内に2ヶ月置いた。その結果、第3図のように太い根が発生した。

(第3図は割愛)



 私は、2013年11月上旬に環状剥皮用はさみ「グリーンカット10」を用いて1cm幅で剥皮した後に水分を含んだミズゴケで覆い、肥料袋の切れ端で包み、ビニールテープで固定、という方法で取り木を行いました(写真2)。



写真2.ホワイトサポテの取り木



 そして、待つこと半年。
 2014年5月上旬に発根を確認しました(写真3)。



写真3.発根を確認



 発根確認時の枝の太さを計測してみると、直径は2.1cm(1円玉程度の太さの枝)でした(写真4)。



写真4.発根した枝の太さを測定



 発根が確認できた枝は、切り取り、枝の上部は除去し、4Lロングポットに鉢上げしました。
 枝の上部を除去するのは、そのままだと地上部が重過ぎてバランスを崩すからです(根の量=水分吸収量と葉の量=蒸散量を整える意味もあります)。

 鉢上げから1ヶ月後の6月上旬。

 棒を挿したように見えた取り木苗から新梢が発芽してきました。
 取り木は成功したようです(写真5)。



写真5.取り木苗から発芽を確認




○参考資料
 ・米本仁巳.1992.「ホワイトサポテの挿し木繁殖」.果試ニュース;第38号;pp.5.和歌山県果樹試験場.




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雨ニモマケズのホワイトサポテ「モルツビー」

2013年01月16日 | ホワイトサポテ

 知人の圃場にホワイトサポテの樹があります。
 2010年1月末に接木で複数品種を導入しましたが、度重なる台風のため2011-2012年冬に初出蕾を迎えたときには「スマザース(Smathers)」しか残っていませんでした。
 そのときは「接木2年で出蕾したね」と喜んでいたのですが、「スマザース」は葯の発育が悪い品種(タイプⅠ)のため着果せず、子房が直径1cm強になると全て落果しました(写真1)。

 そうなると「受粉樹が欲しい」と思うもの。
 2012年3月末に、葯と子房の両方の発育が良い(タイプⅢ)の「モルツビー(Maltby)」を「スマザース」と同じ樹に高接ぎしました。
 高接ぎは成功し、同年5月中旬には新葉を展開させました(写真2)。



写真2.高接ぎが成功した「モルツビー」



 ところが、2012年は数多くの台風が襲来しました。
 この圃場がある沖縄島北部地域は9月15-16日に接近した「台風16号」で大きな被害を受けました(写真3)。



写真3.台風16号で落葉した「モルツビー」



 写真3でわかるように、同じ樹内で高さが約1m違うせいか、品種特性のためか落葉の違いが見られます。
 高い位置にあった「モルツビー」は、ほぼ落葉してしまいました。

 しかし、生育旺盛なホワイトサポテはその後2回の台風襲来にも負けず11月中旬には大半の枝で葉を茂らせました(写真4)。
 このときホワイトサポテの新芽はカタツムリの食害を受けやすいので注意が必要です。
 この圃場では、ペットボトル(500ml)の飲み口側1/3を切り捨てて作った容器にカタツムリ用の誘引殺虫剤を入れ、薬剤が雨に当たらない様にして有効に使っていました。
 このやり方の欠点は、ペットボトルが風で飛ばされることですが、ここでは針金ハンガーを半分に切った固定具を使い問題を解決していました。



写真4.台風約2ヶ月後に新葉を展開させる「モルツビー」



 そして2013年1月中旬には、一見台風被害がなかった様に樹が回復しました(写真5)。



写真5.台風約4ヶ月後にさらなる回復を見せる「モルツビー」


 
 さらに嬉しいことに、「モルツビー」の枝の2箇所から蕾が出てきました(写真6、7)。



写真6,7.「モルツビー」の蕾



 高接ぎから1年弱、雨ニモマケズ、風ニモマケズ、夏ノ台風ニモマケズ、度重なる試練から復活した「モルツビー」に生命の力強さを感じました。
 今後、タイプⅢの「モルツビー」が単独で結実するか否かに注目したいと思います。

 そして、台風被害をあまりうけていない「スマザース」も出蕾・開花・結実すれば良いのですが・・・。


〇参考文献
 ・「熱帯果樹の栽培 完熟果をつくる・楽しむ28種」.2009.米本仁巳.農文協.
 ・「WHITE SAPOTE VARIETIES: PROGRESS REPORT(ホワイトサポテの品種に係る成果報告)」.Robert R. Chambers.California Rare Fruit Growers; Vol.16; 1984 Yearbook; pp.56-65.




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ホワイトサポテを接木してみました

2010年01月22日 | ホワイトサポテ
 ホワイトサポテは、中央アメリカ原産のミカン科に属する常緑高木果樹です。
 沖縄県で初めてホワイトサポテの結実が確認されたのは、私が知る限り、2000年頃に南風原町で果樹種苗販売を営んでいたY氏の所有していた樹(実生で育成した樹に、和歌山県から導入した穂木を高接ぎ)だと思います。
 その後、沖縄県内の園芸イベント等でホワイトサポテの苗を見かける様になりました。

 しかし、多くの種苗業者は、ホワイトサポテ(特に品種)に対する充分な知識を得る前に商売が先行してしまった感が強く、「品種名が未記載」の苗や「品種の特徴が説明されない」苗が数多く売られました。
 そのため、沖縄県内には「大きくなって花は咲いても結実しない品種不明のホワイトサポテの樹」が見られる様になりました。

 ここで、ホワイトサポテの「花のタイプ」について説明しなければなりません。
 ホワイトサポテの花は、品種により3つのタイプに分けられます。
 「タイプⅠ:果実となる子房や柱頭が大きいが、花粉が作られる葯が小さい」、「タイプⅡ:子房や柱頭は小さいが、葯が大きい」、「タイプⅢ:子房や柱頭、葯の全てが大きい」です(表1)。



表1:ホワイトサポテの花きの特徴から見た品種分類


(「熱帯果樹の栽培 完熟果をつくる・楽しむ28種」より抜粋)


 このうち「タイプⅠ」や「タイプⅡ」の品種を単独で栽培すると、花粉がないか、子房や柱頭が未発達のため、ほとんど結実しません。
 ホワイトサポテを栽培するなら「タイプⅠ」を8割~9割の量で植栽し、残り1~2割を「タイプⅡ」か「タイプⅢ」を植栽するのが良いと思います。
 または「タイプⅢ」の品種を入手するか、1本の樹に複数のタイプの枝を設けるのが良いと思います。

 さて、ここからが今回の本題です。
 2009年12月上旬、知人Aから「知人B(私の知人でもある)が所有するホワイトサポテが結実しない」と相談を受けました。
 知人Aは「チェストナット(タイプⅠ)」「スマザース(タイプⅠ)」「モルツビー(タイプⅢ)」の各穂木が準備できるが、接木に行けなくなったので、私に代わりに接木して欲しい、とのことでした。

 依頼を受け、12月14日に知人B宅へ伺い接木をしました。
 接ぎ方は、概ね高接ぎの割り接ぎ(二芽接ぎ)でしたが、モルツビー(Maltby)は穂木が少なかったので腹接ぎ(一芽接ぎ)も試してみました。

 その後、1ヶ月強(39日)たった2010年1月22日に接木が成功したか確認に行きました。
 すると、チェストナット(Chestnut)とスマザース(Smathers)は7~8割の穂木で成功していました(写真2、3)。




写真2:チェストナット接木成功(1/22)





写真3:スマザース接木成功(1/22)



 接木39日後で、こんなに大きな新芽を出す枝があるとは・・・。
 ホワイトサポテの旺盛な樹勢に驚きました。
 因みに、最も新芽の生育が良かったスマザースの穂木の太さは9.7mm×8.9mm、長さは約6cmで、台木にした枝の太さは19.4mm×17.1mmでした。

 モルツビーは発芽が遅れている様で、今回は発芽が確認できませんでした。
 失敗してなきゃ良いけど・・・。

 あと、今回の発芽確認で気になったのがチェストナットの小葉の枚数です。
 普通、ホワイトサポテの小葉は5(~7)枚ですが、今回確認できた小葉は何故か全て3枚でした。
 石畑ら(1996)によると、チェストナットの小葉も5枚なんですが・・・。
 知人Aに問い合わせると「そのうち5枚になると思うよ」とのこと。
 今後の経過を観察したいと思います。

 今回は知人の代理として接木して緊張しましたが、成功して、知人Bも喜んでくれたのでホッとしました。

○参考文献
 ・「熱帯果樹の栽培 完熟果をつくる・楽しむ28種」.2009.米本仁巳.農文協.
 ・「シロサポテ ( Casimiroa edulis Llave and Lex. ) の花器および果実形態における品種間差異」.2001.米本仁巳・樋口浩和・石畑清武・池田稔・富田栄一.熱帯農業;第45(1);p.38-44.日本熱帯農業学会.
 ・「シロサポテ Casimiroa edulis Llave et Lex. の栽培」.1996.石畑清武・遠城道雄・野村哲也・長野幸男・福留紘二・福村和則.鹿児島大学農学部付属農情研究報告;第21号;P.11-20.