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熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

夢の国産マンゴスチン

2012年05月11日 | マンゴスチン
 2012年3月末、石垣島に行ってきました。
 その際に「新・くだもの日記」の管理人であるbuabuahanさんの職場にお邪魔しました。
 buabuahanさんは、タイを中心に東南アジアをフィールドとしている熱帯果樹の研究者です。

 魅力的なものを多々見せて頂きましたが、その中で今回のイチオシはこちら。



写真1:マンゴスチンの鉢植え大樹



 160L鉢(?)で栽培されている樹高3.5m強はある国内最大級のマンゴスチン樹です(写真1)。
 しかも、樹のあちこちに蕾や花が見られます(写真2、3)。



写真2:マンゴスチンの蕾





写真3:マンゴスチンの花



 初めて見るマンゴスチンの花にテンションが上がります。

 Buabuahanさんの説明では、石垣島ではマンゴスチンの花は18:00頃から咲き始め、翌朝には開花しているそうです。
 しかし、タイでは18:00頃には開花しているそうです。
 栽培条件により開花のタイミングが異なるのでしょう。

 次に花の形態を見てみましょう。
 マンゴスチンの花では、発育の初期段階で雄しべと雌しべが作られますが、雄しべは早い段階で生長が止まり、生殖能力をもつ花粉を作ることはありません。
 そのため、雌しべのみで結実できる(単為生殖)様になっています。
 開花した花をよく見ると、雌しべは太くて大きいのに対し、その基部に14~18本ある小さな(5mm程度)雄しべは茶色く変色し、乾燥しているのがわかります(写真4)。



写真4:マンゴスチンの雌しべと雄しべ



 観察ポイントを花弁に移します。
 マンゴスチンの花の花弁は4枚。
 一般的な花弁の色は写真の様に内側が白っぽく、外側がピンク色っぽいです。
 しかし、インドネシアのジャワ島では、花弁の色が異なる2つの個体群が見つかっています。
 一般的なものと異なるタイプは花弁の色が全体的に青白くややオレンジ色がかった色をしています(Sobir & Poerwant, 2007;PDFファイル:197KB

 さらに、マンゴスチンの花の裏側を覗いてみます。
 花弁の後ろに大きな萼片(がくへん)があります(写真5)。



写真5:マンゴスチンの花の裏側



 開花数日後の花では、花弁が落ち、萼片が花弁の様に見えます。
 また、開花当日は白っぽかった柱頭が、開花数日後には茶色くなります(写真6)。



写真6:開花数日後で花弁が落ち、柱頭が茶色くなったマンゴスチンの花



 初めて見るマンゴスチンの花に本当にテンションが上がりました。
 夢中になって脚立に登り、写真を撮りまくりました。
 Buabuahanさん、改めてありがとうございました。

 この写真撮影後のマンゴスチンの花→果実への生長は、Buabuahanさんのブログ「新・くだもの日記」に続報があります。
 興味のある方は、是非チェックしてください。

 このまま国産マンゴスチンがたくさん収穫できることを願っています。


○参考文献
 ・「Mangosteen Genetics and Improvement」. 2007. Sobir & Roedhy Poerwanto. International Journal of Plant Breeding; 1(2); pp. 105-111. Gloval Science Books.(PDFファイル:197KB

マンゴスチンに係る備忘録

2010年10月09日 | マンゴスチン

 先日、ブログ「新くだもの日記」の管理人(buabuahan)さんと初めてお会いしました。
  buabuahan さんが、タイのチャンタブリから招待した研究員のT氏(専門は、マンゴスチンの生理学的研究)と共に、沖縄本島の熱帯果樹を視察している途中での出会いでした。

 以前から彼女のブログを拝読していた私は、彼女と会えたことを嬉しく思いました。
 加えて、滅多にお話ができないマンゴスチンの専門家とお会いできたので、失礼ではありましたが質問責めにさせていただきました。

 今回は、そのときに得た情報の備忘録です。
 以下、Q&A方式で記載します。


 
Q1:マンゴスチンの開花条件は何ですか?

A1:
 原則として、乾季の乾燥ストレスである。
 ただし、タイ国内でも地域により開花期が異なる。
 ホルモン剤等の植物調整剤は、通常は使用しない。


Q2:タイ国内における開花期および収穫期のズレとは、どの様なものですか?

A2:
 タイ東部のチャンタブリでは、11~12月に開花し、3~4月に果実肥大し、4~5月に収穫する。チャンタブリでは、5月~雨季が始まる。
 4~6月に乾季が訪れるタイ南部では、2~3月に開花し、7~8月に収穫されるものと、8~9月に開花し、12月に収穫されるものがある。


Q3:マンゴスチンの耐寒温度(低温障害を受けた事例等)について教えてください。

A3:
 タイでは原則として低温障害を受ける様な地域では栽培されていない。
 2009年12月~2010年1月にかけて、タイ東部を寒波が襲い、最低気温で14℃が1週間続いた。
 その間、花芽分化は停止したが、それ以上の障害を受けることはなかった。


Q4:マンゴスチンの繁殖方法を教えてください。

A4:
 タイでは、通常マンゴスチンは実生で繁殖する。
 実生から結実までは約7年間。
 接木については色々と試したが、共台が一番活着率が良く、実生から結実まで3~4年と育苗期間を短縮できる。


Q5:単為生殖を行うマンゴスチンは、実生繁殖で親のクローンが得られると思います。しかし、マンゴスチンには形態的変異等があると聞きますが、遺伝的多様性についてはどの様にお考えですか?

A5:
 タイ国内で様々な形質のマンゴスチンを収集し、DNAの変異を分析したことがあるが、著しい変異は見られなかった。

※別の研究者(Y氏)からの補足情報
 オーストラリアでも同様の研究が行われた。
 結果は、DNAの変異は認められるものの、品種レベルでの変異はなかった。


Q6:マンゴスチンの流通上の問題点および対策は、どの様に行われていますか?

A6:
 収穫(輸送)後に問題となる果実の生理障害は2つある。
 1つは、果皮から生じたヤニが果肉に達して変色し、果肉が苦くなるもの。
 もう1つは「ガラス果」と呼ばれるもので、果肉が半透明になり硬くなる障害である。

 マンゴスチンの鮮度保持は大きな課題であるが、最近では15℃の状態でPLPE(特殊素材フィルム)とガスを用いて保管することで、鮮度が良い状態で30日間の保管に成功した、との話題がある。
 チャンタブリ園芸研究所とカセサート大学では、1-MCPを用いた鮮度保持試験を行っている。


 マンゴスチンについては、以上です。

 視察中の貴重な時間であったにも関わらず、丁寧に情報を教えてくださったT氏ならびに通訳をしてくださったbuabuahan さんに、改めてお礼を申し上げます。