熱帯果樹写真館ブログ

 熱帯果樹に関するトピックスをお届けします。

レイシ(ライチ)の花を詳しく見てみよう

2007年03月31日 | レイシ
 3月下旬より沖縄本島北部地域では、レイシの開花を目にすることが多くなってきました(写真1)。


写真1:レイシの花


 レイシの花は、円錐状の花序1本内に500~2,000個の小花を着けます。
 レイシの小花は、緑白色で小さく(径0.8~1cm程度)、花弁を欠き、雌雄同株異花で、以下の3タイプに分けられます。

○雄花(写真2)
 形態的にも機能的にも完全な雄花です。
 よく発達した雄ずいを6~8本有し、発芽力のある花粉を豊富に含んでいます。


写真2:レイシの雄花


○雌花(別名:偏雌花)(写真3)
 厳密には両性花ですが、雄ずいが退化しています。
 雌花の柱頭頂部は、二分裂開し弓形に湾曲します。
 また子房は双形であるため、果実は稀に双子状になります。
 雄ずいは退化しているため、葯は通常裂開しません。
 果実が着果するのは、雌花だけです。


写真3:レイシの雌花(偏雌花)


○両性花(別名:偏雄花)(写真4)
 形態的には両性花ですが、不完全発達の子房と柱頭のない花柱を有しているため、雄花としての機能を果たします。


写真4:レイシの両性花(偏雄花)


※「偏雌花」「偏雄花」の名称は、台湾の農業指南書「台湾農家要覧」中のレイシの項で用いられている各花の名称です。

 農文協から発売されています「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」で河崎佳寿夫氏は、レイシの雌花の割合は1花穂のうち25%前後と記しています。
 また、河崎氏は「ごくおそい時期に発生した1花穂中での時期別開花割合」を同著内で紹介しており、雌花は開花初期に多く、雄花および両性花は中期に多い傾向があるとしています(図1)。


図1:レイシの雌雄花の時期別開花割合
(「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」.2000.農文協 編.より抜粋・加工)


 花のタイプにより開花時期がずれるのであれば、それが原因で着果不足になりそうですが、河崎氏は、「花穂内の雌雄花の開花ステージがずれていても、同一樹内または他樹に多くの花穂が着生していれば、雌花の開花中に花粉が不足することはない」としています。

 とは言うものの、レイシは果実となる雌花の割合が低い上に結果率も低いらしく、着花数の割に着果数が少ないことが知られています。
 そこで、着果率向上に役立ちそうな情報を幾つか紹介したいと思います。

 まず「雌雄花の開花ステージのズレ」ですが、これについては沖縄県農業試験場による調査で、レイシは品種(在来種、桂味、黒葉、糯米)により開花時期や着花数、花の機能別開花時期が異なることが報告されています(図2)。


図2:品種別花の機能別着花数
(「亜熱帯果実生産振興基礎調査委託事業報告書《レイシ》」.1989.沖縄県農業試験場.より抜粋・加工)


 図1の「雌花は開花初期に多く、雄花および両性花は中期に多い」という特徴は、図2の黒葉で同様の傾向が見られます。
 受粉率を向上させるためには、1つの果樹園内に複数品種のレイシを植え、雌花開花期間に絶えず雄花か両性花の開花がピークになっておく様にするのも良いかもしれません。

 次に経験的に「レイシは開花期の降雨により着果が悪くなる」ことが知られています。
 このことについては沖縄県農業試験場名護支所の、「レイシの花粉を培地上に置床後に水滴を垂らし花粉を水に漬けると、45分後に花粉細胞が破れ原形質吐出がおこり、花粉は死滅する」という報告と関連していると思われます。
 また、同所はレイシの花粉の発芽適温を25℃としています。
 そこでレイシの開花期間(3月中旬~4月中旬)における名護市の半旬毎の気象データ(降水量と最高気温)と合わせて検討します(図3)。


図3:レイシの開花期間と名護市の半旬毎気象データ
(「沖縄気象台」のサイトよりデータを抜粋・加工)


 まず、レイシ開花期間中である3月下旬から4月中旬は、年平均半旬降水量より多くの降水量がある「雨が多い時期」であることが伺えます。
 レイシが開花する日中温度(最高気温)では、レイシの花粉発芽適温である25℃以下であると見て良いと思います。

温度不足については、直射日光下であれば25℃以上になることも少なくないと考えられますが、降水量の多さはいただけません。
 レイシの安定生産には雨よけの屋根掛け栽培(できれば4月以降の晴天時には気温を上げ過ぎないためにビニールを巻き上げられる仕様)が有利だと思われます。

 あとは、受粉を助けてくれる受粉昆虫の確保や着果後に落果を助長する害虫防除等が課題となるかもしれませんが、それらは機会があればまた取り上げたいと思います。

○参考文献
 ・「図説 熱帯の果樹」.岩佐俊吉.2001.(株)養賢堂.
 ・「亜熱帯果実生産振興基礎調査委託事業報告書《レイシ》」.小那覇安優・大城信雄・安富徳光.1989.沖縄県農業試験場.
 ・「修訂三版 台湾農家要覧 農作篇(二)」.2000.豊年社.
  ※「荔枝」の項は、顔昌瑞氏が執筆。
 ・「熱帯・亜熱帯果樹生産の新技術 (6)レイシ」.石畑清武.2000.農業および園芸;第75巻;第6号;p.87-91.㈱養賢堂.
 ・「果樹園芸大百科15 常緑特産果樹」.2000.農文協 編.
  ※「レイシ」の項は、河崎佳寿夫氏が執筆。
 ・「マンゴー(レイシ)温度別花粉発芽の検討」.安富徳光・慶佐次賀敬・池宮秀和.1988.昭和62年度 熱帯果樹試験成績書;p.5.沖縄県農業試験場 名護支場 熱帯果樹研究室.

○参考サイト
 ・「沖縄気象台

バナナの株に潜む害虫

2007年03月18日 | バナナ
 2007年1月24日のブログ記事「バナナのそんなところまで食べちゃうの?」で、三尺バナナの果軸をバナナツヤオサゾウムシが食害していた旨をお伝えしました。

 その記事を掲載後まもなく、バナナツヤオサゾウムシの研究をしたいという学者さんの知り合いから連絡が入り、バナナツヤオサゾウムシの採集を行うことになりました。
 食害されていた三尺バナナの株は1月上旬には収穫が終わり、その後株は切り倒して畑の外に放置していることを生産者H氏から聞き、バナナツヤオサゾウムシ採集の許可を得ました。

 私もバナナツヤオサゾウムシが、バナナ株のどの箇所に多く加害しているのか確認したいと思っていましたので、よい機会に恵まれました。
 
 収穫が終わったバナナ株は、仮茎を2~3分割し野積みされていました。
 つまり、仮茎は長さ1m程度に切りそろえられていました。
 我々は積まれた仮茎の皮をとにかく剥ぎまくり、バナナツヤオサゾウムシの幼虫、蛹、成虫のいずれが出てきても採集しました。

 採集した手応えの要約を書きますと、バナナツヤオサゾウムシは

 1.株下部よりも株上部に加害が多い。
 2.仮茎の皮部分も加害するが、むしろ芯への加害が多い。

 ことが伺えました。

 また数十匹の成虫を採集しましたが、そのうち1匹が黒色型でした(写真1)。


写真1:バナナツヤオサゾウムシ成虫の黒色型(左)と普通型(右)


 そして、気になったのがバナナツヤオサゾウムシ以外にも複数回にわたりバナナ株内で見かける芋虫がいたことです。
 生まれて間もない様な小さな個体から、終齢幼虫と思われる成長した個体まで様々なサイズが確認されました。
 しかも、この芋虫は口から糸を吐きました。
 これは鱗翅目(チョウ目)の幼虫であることを意味しています。

 昆虫に関する知識に乏しい私ですが、

 1.鱗翅目(チョウ目)の幼虫
 2.倒伏した株に侵入する。
 3.頭幅がやけに広い

 と云った特徴からヒロズコガ科(Tineidae)を疑いました。
 採集の同行者には昆虫に詳しい知り合いが身近にいることから、この謎の芋虫を持ち帰り同定してもらうことにしました。

 そして翌日、芋虫の同定が完了しました。
 ヒロズコガ科のクロテンオオメンコガ(Opogona sacchari)だそうです(写真2)。


写真2:クロテンオオメンコガの幼虫


 日本国内におけるクロテンオオメンコガの発生については、日本応用動物昆虫学会誌に吉松慎一氏らにより「クロテンオオメンコガ(新称)Opogona sacchari(Bojer)の日本における発生状況(PDF:481KB)」として報告されています。
 以下にその要約を抜粋します。

 クロテンオオメンコガ(新称)Opogona sacchari(Bojer)は、海外では“Banana Moth”と呼ばれ、バナナ、サトウキビ、観賞用植物等の害虫として知られており、アフリカおよびその周辺の島々、ヨーロッパ、西インド諸島、ブラジル、アメリカ南部など世界各地から報告があるが、アジアからの記録は非常に少なかった。我が国からは、植物検疫で発見された例と、小笠原諸島の父島で採集された報告しかなかった。しかし、1988年以降、著者らは日本国内において観賞用植物を中心に発生した本種の同定依頼を頻繁に受けるようになり、本州から沖縄に至る13地点での発生を新たに確認したので、加害植物、加害・発生実態についてまとめた。本種は少なくとも本州、四国、九州の一部の温暖な地域から沖縄にかけて限定的に発生を繰り返していると考えられた。



 また同報告書内には、クロテンオオメンコガが2000年に新潟県でバナナに加害した事例があることも記載されていました。
 沖縄県内ではドラセナ等観葉植物で被害事例がある様ですが、バナナの被害事例は報告されていない様です。

 今回、クロテンオオメンコガの幼虫であると同定して下さった方からは、

 1.ヒロズコガ科には腐食性の種が多く、クロテンオオメンコガも生でいきいきしている植物体より、ちょっと腐りかけとか、ちょっと弱りかけな植物体を好む。
 2.積んであったバナナの茎に、切られたあと、入った可能性が高そうである。
 3.植えられている健全なバナナへの被害は、今のところそれほど心配しなくて良いのではないか。

 とのコメントをいただきましたが、前述した通り幼虫のサイズに大きなバラツキがあったこと、その後生産者H氏に確認したところ「以前に生きた株からも同様の芋虫を確認したことがある」と証言を得たことから、クロテンオオメンコガが生きたバナナに加害している可能性はあると思います。

 クロテンオオメンコガによるバナナ被害を過剰に心配する必要はないと思いますが、海外では「Banana Moth」と呼ばれている害虫が沖縄県内に近年侵入したと云う事実は知っていて損はないと思います。

○参考資料
 ・「クロテンオオメンコガ(新称)Opogona sacchari(Bojer)の日本における発生状況(PDF:481KB)」.吉松慎一,・宮本泰行,・広渡俊哉,・安田耕司.2004.日本応用動物昆虫学会誌;48巻2号;p. 135-139.日本応用動物昆虫学会.

スモモもモモもサクラ属です

2007年03月10日 | スモモ
 沖縄本島北部にある名護市では、2月末にモモ(キームム)の満開期が終わり、これからはスモモが開花期を迎えようとしています。


写真1:モモとスモモの花


 スモモとモモは、どちらも植物分類学的にはバラ科(Rosaceae)サクラ属(Prunus)に属する植物です。
 温帯果樹中「核果類」といわれる種類はほとんど全てがサクラ属に含まれ、その数が多いことが知られています。

 今回は、「スモモもモモも桃のうち」と混同されがちなスモモとモモの違いを植物分類学的に説明したいと思います。

 スモモやモモが属するサクラ属には、以下の共通する特徴が挙げられます。

○サクラ属の特徴
 ・高木になる。
 ・核芽は多数の重なりあった片鱗で覆われる。
 ・葉は互生し、通常鋸葉縁で、托葉がある。
 ・花は完全花で、5弁、5がくで、雄ずいは多数あり、
  子房周囲生、雌ずいは1個、花柱は長く、2胚珠である。
 ・果実は核果で、通常1種子である。



 またサクラ属は、モモ亜属(Prunophora)、オウトウ亜属(Cerasus)、スモモ亜属(Prunophora)に分類されます。
各亜属の特徴は表1とおりです。

表1:バラ属の3亜属の特徴


 従って、ウメとモモの花序の形態は写真1及び表1のとおり、どちらも花軸が枝分かれせず花軸の先端に1個の花を着ける「単頂花序」ですが、芽中における葉の形状で区別することができます。

 表1で挙げた花序の形態3種類は図1の様に模式化することができます。


図1:バラ属3亜属の花序形態
(「ビジュアル 園芸・植物用語辞典」.家の光協会.より抜粋・加工)


 次に芽中の葉の形状ですが、新芽の形状でも名残が見られますので、写真と模式図で説明します(写真2、図2)。


写真2:モモとスモモの新芽


図2:芽中の葉の形状
(「ビジュアル 園芸・植物用語辞典」.家の光協会.より抜粋・加工)


 写真2より、モモの新芽は二つに折られた状態で芽吹いていて、スモモの新芽は螺旋状に芽吹いているのがわかると思います。

 因みに本土ではサクラの開花が待ち遠しい頃でしょうが、サクラは集散花序で二つ折り状の芽吹きですので、お花見の席でのネタにでもして下さい。

○参考文献
 ・「世界果樹類図説」.中村三八夫.1978.農業図書株式会社.
 ・「ビジュアル 園芸・植物用語辞典」.土橋豊.1999.家の光協会.