先代猫が旅立ったのは今頃の季節でした。
初めてうちに来たのは、私たちが結婚した年の冬。丸々太って首に青いリボンを巻いて、玄関の外で鳴いていたところをご招待しました。人んちの子だからちょっと遊んでもらうだけのつもりでしたが、その後もちょくちょく顔を出すようになり、ベランダの網戸に張り付いて「来たよっ。あけちくれ。」とアピールしてました。網戸に張り付く猫を、内側から見るのは実に乙なもんであります。
で、飼い猫だと思ってたんです。
目の周りにマジックでメガネの落書きされても、ノミがひどくてノミ取り首輪をつけた時それが外されて新しい首輪になってたし。それでもいつの間にか首輪がなくなり、毎日のように我が家に顔を出すようになり、この子は野良になったんだと思いました。
私が仕事を辞め、家にいるようになると朝から来るようになり、年もとってそそうもするようになったので、猫トイレを用意してなんとか覚えさせました。トイレに連れて行って、出来たら刺し身をあげて褒めるという、まるで犬の躾けでした。だって今までずっと犬ばかりだったから…。
で、暫らく来なくなって心配していたらある日家の前で、ガリガリのパサパサになってうずくまっているのを発見。階段すら登れなくなっていたのです。
私は急いでお医者さんに連れて行きました。
口内炎が酷くて水も飲めないので、点滴をしてもらい、うちに連れて帰りました。爪とぎの上で腹這いになったままトイレも行けないのでおむつをして三日目だったと記憶しています。水すら飲まなかったのに前日鶏肉をあげたら、三切れ程食べてくれたのです。
いいぞ、元気だせって思っていたら次の日の夕方一人で立って、玄関で「出してっ。」のポーズ。
あんなに弱ってたのに、外で最期を迎える気なんだ。覚悟がはっきり感じられる後ろ姿に、よろよろしてたらつれて帰ろうと思ってドアを開けました。
開けた途端のダッシュ。信じられなかった。とっぷりと日が暮れた中、追いかけたが植え込みの中で見失った。
ありがとうね、また会おうね、と心の中で叫んで家に戻ったが涙が溢れて仕方なかった。
最期の最後まで誇り高き野良でした。
同じ生き物として見習いたいものだ。
そいつの後姿と、夕日が目に浮かぶようだ。
いい生き様を見せてくれた猫だね。