MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<23-2>アクティブリスニングってなに?(2)

2005-11-17 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
アクティブリスニングの概念は、「自然状態で普通にやっていてはリスニングはできない」という発想から出発しています。
受動的(パッシブ)に話を受けようと思っていてもつい自分の考えを差し挟んでしまうのが人間だからです。

そこで次のような3つの原則を受け入れることがアクティブリスニングの考え方になります。


(1) 相手に聞いてもらうには、まずこちらが聞く耳を持つ必要

話がうまくいかなくなると、こちらも相手の話を聞けず、それを見て相手がさらに態度を硬化させるという負のサイクルが働きます。
そうして時間だけが無駄に過ぎてはこちらにとっても大きな損失です。
これを正のサイクルに持っていくには、まずどちらかが規範を示す必要があります。
こちらが話を聞く耳をもてば、多かれ少なかれ向こうも話を聞かなければならないプレッシャーが生まれるのです。

(2) 相手に「話を聞いてもらった」と思わせた方が勝ち

論争している相手の話を無条件に聞くことには誰しも抵抗があるものです。
しかし多くのヒトは「自分の話を聞いてほしい」という欲求を強く持っており、増して話が熱くなってくれば話の内容以上に、とにかく今この場でその欲求を満たすことがメインの動機になってきます。
逆に言えば、話さえ聞いてやれば多くの相手はこちらの想像以上に満足感を持ち、高ぶった感情も収まるものなのです。
相手の感情をコントロールする手段として、これほど有効な武器を放っておくのは勿体ないと考えるべきです。

(3) 相手の話を聞くことは学習の機会や情報の宝庫

特に交渉では、相手に情報を引き出させれば出させるほど有利になります。
相手が自らそうした資源を惜しげもなく提供しようというのなら、ありがたく頂戴すべきです。
交渉のような勝ち負けのある会話でなくても、相手の話を学習の機会と捉え、幅広い好奇心を持つことは決してマイナスにはならないと考えられるでしょう。

一方具体的な手順としては、アクティブリスニングは三つのステップから成ります。
3まで至ればまた1に戻るというループで会話を続け、相手の話を引き出すわけです。
簡単にまとめると次のようになります。


1. 承認

相手の言っていることをそのまま受け止めます。
「なるほど」、「そうですか」、「分かります」といった表現です。

重要なことはここで相手の言った内容に対する批評や判断をまじえないことです。
相手が発言してこちらがそれを聞いた、という事実を承認してあげるわけです。

2. 言い換え

会話の接ぎ穂となり、またこちらの理解を確認する方法としてはパラフレーズ(言い換え)が有効です。
「仰ったことをまとめるとXXということですよね」といった表現です。
繰り返しがくどく思えるかもしれませんが、的を得た言い換えであれば相手はむしろポジティブな感情を持ちます。
さらに要約や表現の仕方を微妙にコントロールすれば、こちらが話題をコントロールする主導権を握ることができます。

3. 質問

とりあえず今相手の言ったことを聞けたなら、関連する質問で話題を深掘りしてあげることが有効です。
「YYは具体的にはどういう意味ですか?」とか「ZZの点はどう考えますか?」といった表現です。
的を得た質問はこちらの「聞いている」という姿勢を印象付け、また相手に話題を与えさらにしゃべる機会を与えるので満足感が高まります。
さらに質問する内容をコントロールすれば、自分の聞きたいこと、話したいことの方へ話題をコントロールすることもできます。

3まで至ればまた質問への回答が帰ってくるので、これに1の承認をしてプロセスを繰り返してやればよいわけです。

コミュニケーション手法や話し方は、それらがあまりに日常的なためこうしてハウツーにまとめると奇異な感じがするかもしれません。
しかし「何もしなくてもできる」と自分を過信していては、誰もが陥る悪いクセを踏襲するばかりになってしまいます。
そうした意味では、「自分の意識次第で自分の話し方が大きく変わる」という認識をモノにすることこそ、こうした手法の本当の価値なのかもしれません。

ここまで交渉でのコミュニケーションを扱ってきました。
しかし現実では相手との話し方を工夫しようにも、頭に血が上ってそれどころではなくなる、という場面も多いかと思います。
そこで次回からは、交渉で自分の感情にいかに対処するか、を考えていきたいと思います。

2 コメント

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Unknown (lba)
2005-11-17 19:26:40
これは面白いですね。相手を気持ちよくさせつつ主導権を握る情報を得られるかも?なんて。

「柔よく剛を制す」って感じでしょうか。
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笑顔の殺し屋 (negoshieita)
2005-11-18 17:58:09
いつもありがとうございます。

そうですね。

本当に迫力のあるネゴシエーターは奇妙なくらい聞き上手だと思います。

笑顔でいろいろ質問してきて、こちらが調子に乗って答えて気分良くなっていると、実は相手の術中にはまっているという感じでしょうか。



ビジネススクールの交渉実習でも、ランキング上位10位以内の連中は二パターンに分かれていた感じがします。

一つは、とにかくアグレッシブなタイプ。

ハード派、もしくは「オラオラ営業」型というんでしょうか。

頑として譲らない、厚顔無恥な感じで、交渉相手としては喧嘩したくなってくるタイプです。

もう一つ、本当に強いのが一見聞き上手で公平な、しかし交渉がうまいタイプです。

大勢で交渉していても皆の意見を巧みに引き出し、いつの間にか司会進行役みたいになっていて、しかし自分の利益はしっかり確保してしまう感じですね。
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