MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<29-1>海外の相手とうまく交渉するには?

2006-05-14 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
日本人同士なら何となく通じる暗黙の了解も、海外に出ると通じない。
旅行に行くだけでもそうした実感を持つヒトは多いでしょう。
増して利害が絡んだ交渉となると、うまく切り抜けるのは相当なチャレンジになります。

ただしこれは外国人にとっても同じこと。
向こうから見れば日本人と交渉する際には、独特のコミュニケーションが大きな負担と感じられるものなのです。
このように、異文化間の交渉につきまとう難しさにどう対処するかは、交渉論の大きなテーマの一つになっています。
今回はこうした異文化の交渉者への対処の仕方について考えてみたいと思います。

******************************

-普通に交渉するだけでも一苦労なのに、相手が外人では増して大変だ…

日本では、こう思うヒトがほとんどではないでしょうか。
言語の壁の問題もありますが、それ以上に

-外人相手にまともにこちらの意図が通じるか疑問だ
-外人だから変な交渉の仕方をしてきて、こちらが不利になるのではないか

といった、漠然とした不安感が大きな障害になることでしょう。

しかしこれは相手から見ても同じこと。
日本人(やその他東洋人全般に程度の差はあれ共通ですが)のようにYes/Noをはっきり言わない、文脈や信頼関係を重視する、といった交渉の特性は、他の文化圏の交渉者から見ればそれなりに厄介な障害となります。
現に、例えばアメリカでは「東洋人と効果的に交渉するにはどう対処すればよいか」といったハウツーが真面目に議論されたりするのです。

ビジネススクールの交渉論でも、こうした異文化間の交渉特有の問題はCross-cultural negotiationとして特に重視なトピックとされていました。
どうすれば異文化の交渉者相手でも効果的に交渉を進められるのでしょうか。
注意すべきポイントはいくつかあります。
異文化の交渉を扱った研究からは、こうしたポイントが浮かび上がってきます。

興味深い研究のひとつに、中国での様々な異文化間交渉を調査したものがあります(出典:Luo Y, Shenkar O, ”An empirical inquiry of negotiation effects in cross-cultural joint ventures”, Journal of International Management)。
この調査では、海外企業が中国現地企業とジョイントベンチャーを設立する際の155の交渉を事例研究の題材に、交渉の成功にどんな要素が寄与しているかを分析しています。
(交渉の成功度合いは、ジョイントベンチャーのその後の業績で計測)
観察する変数としては、以下の4つに注目しています。

1.合意案の具体性
2.合意案に含まれる条件の網羅性
3.交渉の長さ
4.政府の関与度合い

こうした諸条件によって、交渉結果はどう影響を受けたのでしょうか。

結果から言うと、変数1と2(合意案の具体性、含まれる条件の網羅性)が高ければ高いほど、ジョイントベンチャーが成功する度合いが高くなりました。
互いに誤解のないよう合意を詳細に文書化し、抜け漏れのないよう、しらみつぶしに項目を盛り込むことが成功のカギだったというわけです。
実際にこの調査では、交渉者同士の文化が離れたものであればあるほど、条件を幅広く具体的に盛り込む傾向も見られました。
「はっきり言わなくても分るだろう」と曖昧にすることなく、徹底的に合意内容を”見える化”するよう努力することが、広く行われているわけです。

ちなみに、調査された変数のうち、3と4(交渉の長さ、政府の関与度合い)は交渉結果に意味のあるレベルで影響を与えていないとされています。
それどころかむしろ、3と4は逆に1と2が結果に及ぼす影響を弱める結果をもたらしていたといいます。
交渉が長引くほど、また政府が関わるほど、いくら合意条件を具体的かつ網羅的にしても結果がうまくいかない、ということです。
解釈の仕方はいくつかありますが、あまりに長引いて無理に妥結した場合や、全く違う利害関心を持つ強力な第三者(政府など)がいる場合は、交渉の結果が望ましい方向に行きにくいとも考えられるでしょう。

このように、合意の内容をできるだけ詳細にし解釈の齟齬をなくすことは、異文化間交渉の重要なポイントとなります。

(第29回続く)


コメントを投稿