MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<9-1>キーワード(1):PositionとInterest

2005-04-11 | 第二部:交渉ってどう考えたらいいの?
前回は広義と狭義、二つのレベルの交渉戦略について説明しました。
広い意味での戦略とは、交渉の流れを把握し必要に応じて各ステップを行き来すること。
狭い意味での戦略とはそのステップの一つで、どのように話し合いに臨むかの指針を立てることです。
この狭義の戦略には、いくつかの要素を明らかにすることが含まれます。
今回からはこれらの戦略要素を一つずつ取り上げ、キーワード集として説明していきたいと思います。

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-今回の交渉で達成したいことは何だったっけ?

MBAでの交渉実習で、筆者は時々こんな風に考えてしまったものです。
交渉しているとどうしても頭に血が上ったり、話が複雑になってきたりして、何がこちらの目的だったのか忘れてしまうことがあります。
また相手が予想もしなかった要求をしてきたりすると、それを認めてやったらこちらの損になるのか得になるのか、よく分からなくなってしまいます。

どの点を妥協するとお互いの利益がどうなるのか、という利益計算(お互いの損得を把握しておくこと)は、交渉を有利に進める上で絶対に欠かすことが出来ません。
ある案がお互いにとってどのくらい損か得かが分かっていないと、だまされて大きすぎる妥協をしてしまったり、相手に無茶な要求をして話を壊してしまいかねないからです。
従って、その損得を瞬時に判断する基準をもっているか否かが交渉の有利不利につながってきます。

そうした頭に入れておく基準として、交渉論ではInterest(利害関心)をあらかじめ準備しておくことが重要とされています。
Interestとは、その交渉で達成したいことを箇条書きに列挙したものを考えていただければいいと思います。
一方で、Interestに似ているが全く異なる概念としてPosition(立場)があります。
Interestが頭の中にある、ある程度漠然とした目標であるのに対し、Positionはそれを具体化して相手に要求した内容(発言内容)を指します。
PositionはInterestから発生しているもので、これらは似通った部分がありますが、二つを区別して考えることが非常に重要です。

具体的に考えるために、次の例を見てみましょう。


<例2-1>

Cさんはある中堅工具メーカーの購買部門に配属された新入社員です。
Cさんの初仕事は、自社の主力商品の一つである電動式ドリルの柄のゴムカバーを、ゴム部品メーカーから調達する事務です。
Cさんは次の四半期の調達条件を交渉するため、既存の取引先であるゴム部品メーカーの担当Dさんに電話します。

このケースでは、買い手のCさんにとっては「できるだけ安い値段で買う」という項目が一番重要なInterestになるでしょう。
一方で、「開発中の新しいドリルが来年発売されるので、その時に備え関係を良好に保っておく」とか、「買った後の不良品への対応をきちんとしてもらう」といった副次的なInterestが同時に存在しているかもしれません。


<例2-2>

Dさんに電話がつながり、Cさんは自分が新しくゴム部品の担当になった挨拶をし、早速交渉に入ろうとします。
Cさんの頭の中は1銭でも安く買って自分の手柄にすることでいっぱいです。
しかしながらCさんとは親と子ほど年齢の離れたDさんは、価格は以前から決まっているものだとして全く相手になろうとしません。
「値下げするなんてあんた、それこそうちの会社にドリルで穴開けるようなもんだよ。もう決まってるんだから、一個50円以外じゃ売らないよ。今回も前と同じ20000個の発注でいいですね。」
Cさんは5%引きの一個47円50銭でないとダメだと言い張ってみますが、Dさんも同じ主張を繰り返すだけで話が進みません…

このままではCさんにとってラチがあきません。何が問題なのでしょうか?

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