MBAで教える「交渉術」

MBA留学先での「交渉」の授業内容を配信。といっても最近はもっぱら刺激を受けた本やMBAについて。

<30-1>協調的な交渉ってどういうもの?

2006-05-29 | 第三部:実戦で交渉に勝つコツは?
前回まで何回か、交渉での信頼関係について考えてきました。
特に文化の違う交渉者と実りのある交渉をするには、相手を理解し協調的な交渉ができる余裕を持つことが重要です。
そこで今回からは、信頼関係の使い方の上級編とも言うべき、協調的な交渉の実践的なやり方について考えていきます。
もちろん、交渉には逆に競争的なやり方(ハード戦略)も存在するので、まずソフト戦略をひとわたり概観し、その後はハード戦略を考えていきたいと思います。

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-次回の交渉には、絶対負けないぞ

ビジネススクールの交渉実習を重ねるたびに、よくこんなことを考えたものです。
交渉を実際にやってみれば、クラスの模擬実習とは言えど白熱し、手痛い失敗も数多く経験します。
「ああすれば良かった」「こうすれば良かった」と細かい後悔がたくさん出てきますが、結局心に残るのは

-今回の交渉はこっちの勝ちだな
-今回は悔しいけどこっちの負けだ

といった、勝ち負けの結果だったりします。
単純なもので、勝てば気分がいいし、負ければ不愉快になる、というわけです。

しかし本当に重要なことは、交渉相手と比べて相対的に勝ったか負けたかではありません。
確かに、交渉を決まったパイの取り合いだと考えれば、相手がトクすることは自分の損、自分がトクすることは相手の損につながり、いかに相手を出し抜くかが問題になります。
しかしながら、交渉を協調的に互いの利益を高める作業ととらえれば、交渉者互いの利得は必ずしも相反するものではありません。
一方のトクがもう一方の損に直結するのではなく、互いに目的を実現できる第三の道があると考えるのです。
勝ち負けで言えば、一方が勝ち他方が負ける、というメンタルモデルから脱して、両方が勝者となれるような道筋を考えるわけです。

多くの交渉実例を網羅した研究から、協調的な交渉には、いくつかの特徴があると言われます。
列挙してみると、次のような性質を持つことが協調的な交渉の特徴だと言えます。

+互いの違いよりも、共通性に注目する
+position(具体的な提案や立場)でなくinterest(背景にある利害関心)を話し合う
+交渉に関わる全ての利害関係者の要望を満たすよう努力する
+情報やアイデアを積極的に交換する
+共通の利益につながるようなoption(合意案)を考え出す
+客観性のある基準や指標に基づいて話し合う

こうして見ると、協調的な交渉と言っても、普通の文脈での建設的な人間関係と大きく違いはありません。
難しいのは、交渉という状況でこれを実現することです。
多くの場合、交渉が必要なのは何らかの利害対立が起こっているからであり、自然な状態では対立がエスカレートして然るべきものです。
実際のところ、本当の意味で協調的な交渉が成立することは、現実の世界ではそれほど多くないと言えるでしょう。

従って、協調的な交渉をするには、話し合いの中身はもちろん交渉のプロセスでも、意識して普通の話し合いより強めたり弱めたりしなければならないポイントがあります。
経験的には、次の4つのポイントに留意する必要があると言われています。


1. 情報の流れを確保する

第一に、きちんと情報を共有することが良い解決策につながります。

この分野の研究によれば、協調的な合意案に到達できない交渉の多くが、互いの情報を十分に交換できず、「実はこうすれば互いの利益につながる」という案を作り出せていないため、とされています。
例えば賃金交渉を題材にしたある研究では、互いのBATNAを公開した交渉と、秘密にしたままの交渉を比較しています。
この対照実験では、前者の方が給与以外の条件も含めて詳細にホンネを検討でき、結果的により互いの利得を増やす合意案が出来たとされます。
確かに情報を隠し、あるいはウソで操作すれば多少なりともこちらの取り分が増える可能性がありますが、公開すれば全体のパイそのものを大きくする相談がしやすくなる、というわけです。


2.他の交渉者のホンネの目的に配慮する

相手の利益を尊重しようとすれば、相手の利益が何なのか知らなければなりません。
簡単な事実なのですが、実際の交渉では交渉者はホンネを開示するリスクを意識するため、放っておけばいつまでたってもホンネを共有することができません。
そのため、協調的な交渉では意識してこのリスクを下げる仕掛けを作っていく必要があります。


3.交渉者間の共通性を強調し、立場の違いを小さくする

潜在的に敵対関係にある者同士が協力関係を築くには、何らかの利害を共有することが最も有効です。
例えば普段はライバル同士の政党が、選挙前になると「小事を捨てて大同団結」などと連携する場合があります。
これも、選挙に勝つという共通の利害を前面に押し出し、その後の利害の食い違いについてはまず結果を得てからあらためて交渉する、というスタンスです。


4.交渉者互いの目的を満たす解決策を探す

解決策は単純な、1かゼロかである必要はありません。
第二部でも解説したとおり、交渉者は普通いくつかのinterestを持って交渉に臨んでいるので、ある条件では一方の希望を通し、ある条件では他方の希望を通すことで、双方にとってBATNAよりマシな合意案を作り出す可能性がでてきます。
合意案への柔軟な条件付けが、互いの目的をうまく共存させるカギになります。

では、こうしたポイントに注意したとして、具体的にどんなステップで、協調的な交渉を進めればいいのでしょうか?

(第30回続く)


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