海神奈川吹奏楽部愛好会ブログ

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古墳少女佑奈4  その11

2006年09月21日 14時17分58秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その11

第11章 茜の変身

 それから茜は佑奈に寄り付かなくなった。佑奈は安心して吹奏楽部の練習に打ち込んでいた。しかし茜は決してあきらめたわけではなかった。
 まず茜は美容室に行き背中まで届く長い黒髪をばっさりと切ってもらい佑奈と同じ肩に届く程度にした。そして手芸店にゆきプラスチックでできた勾玉を買ってきて佑奈の腕輪とそっくりなものを約1時間でこしらえた。茜は佑奈が自分を妹と認めてくれないのは茜が古墳少女ではないからだ。なので形だけでもそっくりまねれば術は使えなくとも認めてくれるのではないだろうか?と考えた。茜と佑奈の身長や体格はほぼ同じなので大塚中学校のセーラー服を着たら後ろ姿を見ただけでは泉崎礼香や高田瑞穂でも上月佑奈と長谷川茜の見分けがつかないだろう。茜は古墳少女になった自分の姿を見て
「佑奈お姉様とそっくり」
と一人悦に入った。

 次の日茜が一人で学校に行くと親友の石田莉奈が目を丸くした。
「どうしたの茜ちん。何かあったの?!」
「いいえ、佑奈お姉様と同じにしてみましたの」
とセーラー服の袖口をまくり手製の勾玉の腕輪を見せた。
「えっ! それって術を使えるの?」
「プラスチックでできたニセモノだからそれは無理なの」
「なんだ、茜ちんまで古墳少女になったのかと思ってびっくりしたわ」
話を聞きつけた1年3組のお友達も茜と莉奈の周りに寄ってきて
「えっ! 長谷川さんも古墳少女だったの!」
「うそぉ、術使えるの?!」
「火を吹くんでしょ」
「違うの。これはニセモノなの」
「なんだびっくりしたぁ」
「ほんと」
「古墳少女が二人もいたら困るよね」
「うんうん」
「でもなんで? 長谷川さんが古墳少女のマネするの」
「だって、佑奈お姉様カッコいいじゃないですか」
「『佑奈お姉様』ぁ!」
1年3組一同絶句した。

 放課後、茜が昇降口に向かっていると生活指導の佐藤先生に呼び止められた。
「おい、長谷川」
「先生何ですの?」
「なんだ、その腕輪は。まるで古墳少女じゃないか」
「そうです。わたくしも古墳少女なんですの」
「うそつくな。お前に上月のような術が使えるわけないだろ」
「じゃあこの学校を一瞬で火の海にしてみましょうか?」
自信を持って茜が結印に入ろうとする。もちろんこれは茜のはったりである。もしも茜にそんなことができたら耐火障壁を張ることのできる古墳少女の上月佑奈しか焼け残らない。
「まっ、待て。やめろ。それはまずい」
あわてて佐藤先生が茜を止める。まさかとは思ったが茜があまりにも堂々としているのですっかり佐藤は信じてしまった。それに満足げな笑みを見せると
「それでは先生ごきげんよう」
と悠然と茜は去ってゆく。腕輪を没収して反省文50枚を言い渡そうと考えていた佐藤はすっかり毒気を抜かれ呆然と立ち尽くしていた。

*** 茜の日記 *************

今日学校でみなさんからわたくしも古墳少女みたいだと
言っていただいたの。
佐藤先生にも術が使えるものと信じていただいたわ。
これなら佑奈お姉様もきっと妹と認めて下さるはず。

**********************

 その翌日1年3組の教室に噂を聞きつけた上月佑奈がやってきた。まなじりをつり上げかなり怒っているようだ。茜は立上がり佑奈に一礼すると
「これは佑奈お姉様。わざわざお越しいただけるなん…」
「ちょっと、あんた。どーゆーつもりよ!」
「はっ?」
「『はっ?』じゃないでしょ!」
「佑奈お姉様、何を怒ってらっしゃるの?」
「その腕輪よ。腕輪」
「あぁ、これですの。佑奈お姉様とおそろいにしようと思いまして手芸店でプラスチックの勾玉を買ってきて作りましたの。よくできてますでしょ?」
「やめてよぉ~。ただでさえ『今日は妹さんと一緒じゃないの?』ってみんなにからかわれてるんだから。髪形まであたしとおんなじにしてぇ」
「佑奈お姉様と同じにすることてわたしくも佑奈お姉様に一歩でも近付いてゆきたいと思ってますの」
「近付いてこなくていいから。腕輪はやめて!」
「えぇーっ。1時間も掛けて作りましたのに」
「何時間掛かろうとあたしの知ったこっちゃないわ。恥ずかしいからマネしないでよね」
「まぁまぁ、上月姉妹でケンカはよしなさいよ」
「礼香!」
そこへ泉崎礼香が現れた。礼香は佑奈が剣呑な様子で2年2組の教室を飛び出して行ったから様子を見にきたのだ。
「礼香、『上月姉妹』なんて言わないでよ。あたしこの子の姉じゃないんだから」
「1年生相手にムキになるのは大人気ないわよ。『佑奈お姉様』」
礼香が茜の口調をマネして佑奈を諭す。
「礼香までやめてよぉ」
「ひとまずここは2年2組に帰りましょ」
そう言われて佑奈も来たときの勢いを失い帰らざるを得なかった。
 そのとき礼香が揶揄の意味を込めて言った『上月姉妹』が佑奈と茜の総称となり全校生徒に広まった。2年生の男子に
「あっ、『上月姉妹のお姉様』だ」
とからかわれたので機嫌の悪かった佑奈はグーでパンチしてやった。(もちろん手加減してであるが…)なので2年生には面と向かって佑奈に『上月姉妹のお姉様』と呼ぶ者はいなくなった。茜は莉奈から
『上月姉妹の妹さん』
とか
『上月茜ちん』」
と呼ばれご機嫌であった。お友達にまわす手紙など非公式の文書には『上月茜』と署名すらしていたから1年生の間では広く『上月茜』の名が通っていた。

*** 茜の日記 *************

今日学校で佑奈お姉様からまねをしないよう怒られたの。
でもクラスのみんなは古墳少女みたいだと言ってくれたわ。
泉崎先輩に『上月姉妹』と呼んでいただいて
とてもうれしかったわ。これからも
佑奈お姉様に妹と認めてもらえるようがんばろうと思うの。

**********************

 いよいよ感動のクライマックス 第12章 忍び寄る影
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古墳少女佑奈4  その10

2006年09月21日 14時16分12秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その10

第10章 茜の訪問

 「あら茜ちゃん」
大塚商店街に買い物に来ていた上月佑奈の母 順子は一人で下校する長谷川茜に気付いて声を掛けた。
「あっ、佑奈お姉様のお母様こんにちは」
と上品に深々と頭を下げあいさつする。
「今帰りなの」
「はい、そうです」
「よかったらうちへ寄っていかない?」
「わーっ、いいんですかぁ」
茜は目を輝かせて喜んだ。
「ぜひいらっしゃいな」
「はい、お供します」
と順子と茜は連れ立って上月家に向かう。
 上月家の玄関で茜はきちんと爪先をそろえて通学用の白スニーカーを脱ぎ
「失礼いたします」
と上がる。順子は初めて茜をゆっくり観察し泉崎礼香のようにじつに上品でしつけがしっかりとなされていると感じた。そしてなんでこんな子が佑奈みたいなドジで落ち着きのない娘を慕うのかが理解できなかった。
「茜ちゃんはオレンジジュースでいいのかな?」
「あっ、はい」
という短いやりとりの後順子はオレンジジュースのコップとクッキーの入った菓子器を茜の前に出した。
「いただきます」
と言った後茜はストローを使って上品にジュースを飲む。順子はきっとこの子はラッパ飲みなんて絶対にしないんだろうなと思った。また実の娘ながら佑奈とつきあうことで悪くならなければいいがと心配した。
「茜ちゃん家はここから近いの?」
「はい、うちも大塚町なんで歩いて3~4分です」
「そうなんだあ。毎朝佑奈を迎えにきてくれてありがとね」
「いえ、佑奈お姉様はご迷惑に思ってらっしゃるみたいなんですが…」
「そんなことないのよ。茜ちゃんのお陰で佑奈は毎朝走らなくても遅刻しない時間に学校にゆくようになったんだから。ほんと茜ちゃんには感謝しているわ」
「そんな、お母様…」
茜は感無量という表情で順子を見た。
 そこへ吹奏楽部の練習を終えた佑奈が帰ってきた。自分の物ではない白スニーカーが玄関にあるので高田瑞穂でも来てんのかな?と思いつつ居間にゆくと長谷川茜がいたので佑奈はギョッとした。
「なんであんたがあたしの家にいるのよ! 今日は姿が見えないから安心してたのにぃ」
佑奈はまなじりを吊り上げて茜をなじる。順子が
「大塚商店街で見掛けたからあたしが連れてきたのよ」
「なんでお母さんまでその子の味方するわけ? 信じらんない」
「いいじゃないの。佑奈を慕って来てくれてるんだから」
「あたしあなたのことを妹と認めてないから」
「そんな言い方することないでしょ」
佑奈は冷たく茜に言い放つと二階にある自分の部屋に上がっていった。
「佑奈お姉様ごめんなさい」
とだけ言うと茜は泣きながら上月家を飛び出していった。

*** 茜の日記 *************

今日佑奈お姉様のお母様に大塚商店街でお声を掛けていただいたの。
そしてお家にお招きいただいたの。
後から帰ってきた佑奈お姉様はなぜかとても
ご機嫌悪くておこられちゃったわ。

**********************


第11章 茜の変身
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古墳少女佑奈4  その9

2006年09月21日 14時10分11秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その9

第9章 茜のお迎え

 その翌日長谷川茜は思い詰めた表情で学校に向かった。母親の美幸は家が方向違うけど石田莉奈に迎えにきてもらえばよかったかなと思った。思い詰めた茜が自殺などしなければよいがと心配でならなかった。

  「ピンポ~ン」
海老名市大塚町の上月家のチャイムが鳴る。佑奈の母親の順子がドアを開けると大塚中学校のセーラー服を着た初めて見る少女が立っていた。
「あっ、あのっ、わたくし大塚中学校1年3組の長谷川茜と言います。佑奈お姉様、いえっ、上月先輩と一緒に登校したくて参りました」
とだけ言うと茜は真っ赤になってうつむいた。順子は
「ちょっと待っててね」
と言うと佑奈を二階の部屋まで呼びにいった。順子が部屋にゆくと佑奈はまだグースカピーと寝息を立てて寝ていた。
「ほら、佑奈起きなさい。長谷川って子が迎えにきてるわよ」
「長谷川ぁ?! そんな約束してないわよ」
「いいから早く学校行きなさい」
と無理やり寝床から追い出され学校へと追い立てられて佑奈はひどく不機嫌だった。茜は何も言わずに佑奈の後ろを黙ってついてゆく。
「なんで家までくるの?!」
「あんたストーカー?!」
「あんたを妹にする気などないからね!」
「もう家まで来ないで!」
と頭にきた佑奈は一方的に言いたい放題だ。
「今度来たら術を使うからね!」
と佑奈はセーラー服の袖口をまくって勾玉の腕輪を茜に見せた。茜は佑奈が術を使うところをまだ見たことがなかったのでその恐ろしさを実感できず、佑奈が自分にだけこっそり宝物の腕輪を見せてくれたものと勘違いして
「うわぁーっ、これが佑奈お姉様ご自慢の腕輪なんですねぇ」
と目を輝かせる。
「だからあたしはあんたの『お姉様』じゃないんだからその呼び方やめてよ」
「いいじゃありませんの、お姉様。佑奈お姉様のほうが年上でらっしゃるし、わたくし佑奈お姉様を始めてお見掛けしたときからずっと『佑奈お姉様』ってお呼びしていましたのよ」
自分の知らない間も茜がずっと自分のことを『佑奈お姉様』と呼んでいたことを聞かされて佑奈はゾッとした。
 二人は黙ったまま大塚中学校に着いた。佑奈のクラスメイトの小山牧子がやってきて
「佑奈おはよーっ。今朝は妹さんも一緒なのね」
と茜を見ていう。
「だから、妹じゃないの!」
と佑奈がムキになって反論すると
「あら愛人だったの?」
「マキ!」
と佑奈が怒ると
「じゃあ先行ってるねぇ」
と牧子は逃げていった。他のクラスメイトも同様に佑奈と茜のアベック登校を冷やかす。茜は佑奈お姉様の妹としてみんなが認めてくれて嬉しかったが、佑奈は茜と姉妹扱いされて頭に来ていた。男子たちも
「見ろよ、上月姉妹が二人一緒に登校してるぞ」
「上月って古谷という彼氏がいるのに1年生女子に手を出すとはあいつは両刀使いか?」
「いや、1年生のほうから言い寄ったらしいぞ」
「あの二人の関係ってレズか?」
「上月の方は嫌がっているから1年生が一方的につきまとっているそうだ」
「あの1年生はストーカーだったのか。あんなにかわいいのに」
「まったく」
「妖術使いの古墳少女のどこがいいのやら」
「きっとあの1年生は魔法使いにでもあこがれているんじゃないのか」
「なるほどねぇー」
 茜は2年生の昇降口のそばまで佑奈についてきて
「佑奈お姉様、いってらっしゃいませ」
と上品に頭を下げ佑奈を見送ったけれど佑奈はそれに何も答えなかった。

 2年2組の教室に入るなり先に来ていた泉崎礼香に佑奈は
「もーいや。あの長谷川って子、朝からあたしの家にまで迎えに来るんだよ」
「よかったじゃないの。いつも遅刻ぎりぎりの佑奈がこんなに早く来られたんだから。あたしから毎朝佑奈を迎えにゆくよう頼んでおこうかしら」
「ちょっと、礼香やめてよね。学校のみんなして『かわいい妹さんですね』って冷やかすんだから」
「下級生の面倒を見るのも上級生の務めよ。もっともこの場合佑奈が面倒見られているわけだけど」
「あたし明日はうんと早起きしてあの子が来る前に家を出るんだから」

*** 茜の日記 *************

 今日は佑奈お姉様をお家までお迎えにいったの。
寝起きだからか佑奈お姉様はとても不機嫌だったわ。
でも佑奈お姉様ご自慢の腕輪をわたしくにだけ
こっそりと見せて下さりとても嬉しかったわ。

**********************

 翌朝佑奈はがんばってうんと早起きして身支度を整え茜が来ないうちにと大急ぎで家を出るべく玄関のドアを開けるとびっくりした顔で茜が立っていた。
「佑奈お姉様おはようございます。今朝はお早いんですね」
「なんでこんな早くからいるのよぉ」
と佑奈はその場にへたりこみたい気分であった。
「昨日もこの位の時間に参りましたけど」
単に昨日は茜が来てから佑奈が起きて身支度していたので出るのが遅かったというだけのことだ。しかし佑奈にしてみればせっかくの早起き大作戦の裏をかかれたような気がして気分悪かった。佑奈は昨日茜に悪態の限りを尽くしたのでもう何も言う事が思い付かなかったので無言で学校に向かう。茜は黙ってその後をついてゆく。
 しかし、不意に佑奈が全力で走り始めた。茜は
「あ~ん、佑奈お姉様待ってぇー」
と追いかけるが完全に出遅れたのでアッという間に大きく差を付けられた。茜は必死で佑奈を追ったけれど佑奈を見失ってしまった。佑奈は近くの駐車場に飛び込んで止めてあるワンボックスカーの後ろにしゃがんで隠れていたのだ。茜が
「佑奈お姉様どこですのぉ~」
と大きな声で叫びながら町内を捜し回るのを佑奈はみっともないから大声で『佑奈お姉様』と言わないでくれぇと思った。付近から茜の気配が消えたので佑奈は安心して大塚中学校に向かった。
 しかし大塚中学校の門前でニコニコしながら茜が佑奈のことを待っていたのである。
「佑奈お姉様遅かったですわね」
「なんであんたがここにいるのよ」
「わたくしも大塚中学校の生徒ですわ」
そう言い返されて佑奈は何も反論できなかった。佑奈は重大な思い違いをしていた。佑奈も茜も目的地は大塚中学校なのだからまんまと途中で茜をまいたとしても大塚中学校で待っていられれば何の意味もないのである。佑奈は天を仰ぎがっくりと膝をついた。

 その日早朝に話は戻る。家を出る長谷川茜に少し遅れて大塚中学校のセーラー服を着た女子生徒が一人歩いていく。長谷川茜の姉で中学3年生になる長谷川若葉である。若葉が中学3年生になって塾通いであまり茜にかまってやれなっているうちに最近茜の様子がおかしいことに気付いた。お姉ちゃん子でいつも若葉にべったりだった茜がきちんと登校しているもののクラブ活動をしているわけでもないのに朝早くから出かけるようになり、帰ってくるのも遅くなった。何か茜が姉に隠れてこそこそしている。だから若葉はそれを確かめるべく茜の後をつけたのだ。茜は大塚中学校には直行せず大塚町の上月佑奈の家に寄るではないか。クラブ活動をしていない茜と2年生の佑奈の接点はないはず。しかも明らかに嫌がっている佑奈に茜がストーカーのようにまとわりついている。少なからず若葉はショックを受けた。自分が受験でかまってやれなくなってせいで妹がストーカーまがいのことをしているなんて。若葉が呆然と立ち尽くしているうちに二人の姿は消えていた。

 昼休み、2年2組の教室に一人の3年生女子生徒が入ってくる。そして泉崎礼香とおしゃべりをしている上月佑奈の前に来て
「あの、上月さん」
「はいっ」
吹奏楽部の先輩てもない3年生が尋ねてきて佑奈は驚いていた。
「わたくし3年1組の長谷川若葉と申します」
「えぇーっ! 長谷川ぁ!」
佑奈は茜のこと思い出して思わず腰を浮かせて逃げようとした。
「そう、茜の姉です」
「お姉さん!」
佑奈は妹の茜に邪険にしたから姉の若葉が佑奈にねじ込みにきたんだと思って身構えた。若葉はそんな佑奈の様子に無頓着に話を進める。礼香も興味ありげな顔で聞いている。
「いつも妹の茜がご迷惑をおかけして誠に申し訳ありません」
「はぁ」
こんな時に上級生に向かって「オタクの妹には本当に迷惑なことされています」だなんて言えない佑奈であった。
「茜は昔からお姉ちゃん子でいつもわたくしに『お姉様、お姉様』ってくっついていたんですけども、今年の夏休みに大塚中学校に転向してまいりまして仲のよかったお友達とも離れ離れになり、わたくしも3年生ですので受験で茜にかまってやれなくなりまして茜も寂しかったんだ思いますわ」
「はぁ」
「だからカッコいい上級生の上月さんにあこがれちゃったんだと思いますの」
「……」
カッコいい上級生の上月さんというのはいい響きだが、長谷川姉妹には言われたくない。ましてや妹のほうにストーカーのようにまとわりつかれるのは迷惑だ。
「茜にはわたくしのほうから上月さんにご迷惑を掛けないようよく言って聞かせますが、そういう事情なので時折茜とも遊んでやって下さいね。それではごきげんよう」
若葉は一方的に長谷川家の事情を告げると静かに去っていった。佑奈は若葉が教室から消えた後も一人ぽかんとしていた。チャイムが鳴り始めたので我に返った佑奈は
「これってあたしに妹の面倒見ろっていうこと!」
と単に若葉は茜が迷惑をかけている佑奈にあいさつに来ただけなのだが佑奈には茜を押しつけられたようにしか感じられなかった。

*** 茜の日記 *************

 今朝も佑奈お姉様をお家までお迎えにいったの。
佑奈お姉様はわたくしが来るのを玄関で待っていてくださり
とてもうれしかった。
また登校途中で佑奈お姉様と鬼ごっこをしたの。

 でも、家に帰ってきたら若葉お姉様が
佑奈お姉様がご迷惑しているから
家にまで押しかけないようにと言われたの。

**********************


第10章 茜の訪問
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古墳少女佑奈4  その8

2006年09月21日 14時05分49秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その8

第8章 失恋の痛手

 その翌日茜は失恋のショック?で学校を休んだ。悪ふざけが過ぎたと反省した莉奈が放課後茜の家に謝りにいったけど茜は「気分がすぐれない」と会ってはくれなかった。茜の母親の美幸に
「莉奈ちゃん、学校で何かショックなことがあったみたいなんだけど茜は話してくれないのよ。何か知らない?」
「じつは茜ちんにはあこがれの先輩がいまして、その人の妹になりたいとずっと一人で悩んでいたのであたしが見兼ねて無理やりその人のところに茜ちんをつれていってコクらせたんです。そしたら大勢の人が見ている前で見るも無残に振られちゃって茜ちんは立ち直れなくなっちゃったんです…」
「まぁ、そんなことがあったの…」
「だからあたしのせいなんです」
「莉奈ちゃんが責任感じることはないのよ。茜が自分から告白したとしてもダメだったんでしょうから。むしろ告白する機会を作ってくれて莉奈ちゃんに感謝するわ」
「でもあたしがおもしろ半分にコクらせたから茜ちんだいぶショック受けたみたいだしぃ…」
「大丈夫よ。ずくに回復しなくともいずれ立ち直るから」
「でもぉ」
「莉奈ちゃん安心して。明日はきっと学校行けるから」
「はい」
「明日学校で茜をやさしく見守って上げてね」
「はい」
複雑な思いで莉奈は帰っていった。

第9章 茜のお迎え
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古墳少女佑奈4  その7

2006年09月21日 14時00分40秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その7

第7章 莉奈のおせっかい

 翌日、まじめな茜は学校を休む理由を見つけられずに足取り重く大塚中学校に向かった。どうしても茜に学校をサボるという決断はできなかった。今朝は佑奈の家には寄らずに直行するのだが、ゴルゴタの丘に十字架背負って上ってゆくキリストのような気分であった。学校で泉崎礼香や上月佑奈に出会ったら何て言われるか考えただけでも茜はこのまま消えてしまいたいと思うし、永遠に大塚中学校に着かなければいいと思った。
 しかしいつもの道を歩いていくのだからやがて大塚中学校に着く。泉崎礼香や上月佑奈の姿がないことを確認しつつ小走りに校庭を横切り茜は1年生の昇降口に取り付くと上履きに履き替えて一目散に1年3組に向かった。また階段で泉崎礼香につかまったら大変だ。幸いにして無事1年3組にたどり着けた。
「おはようございます」
消え入りそうな声で茜はあいさつをして教室に入ってきた。親友の石田莉奈が茜の異変にすぐ気付いた。
「どうしたの? 茜ちんなんだか変だよ」
「そう? なんでもないけど」
「うそ、茜ちん何か隠してる」
図星なだけに茜の目から涙があふれた。

 昼休み、莉奈は朝から一人になりたがる茜を廊下に連れ出した。今日の茜は教室を移動するときも佑奈や礼香に見つからないよう教科書で顔を隠すようにしてこそこそしており、まるで警察から逃げ回る指名手配犯のように廊下に出ることをひどく恐れていたので
「莉奈ちゃんやめてよ。いやですってばぁ」
と普段上品な茜とは思えないくらい泣きわめき激しく莉奈に抵抗した。莉奈は女子生徒が体育の着替えに使う学習室という名の空き教室に茜を連れ込むとドアを閉めた。
「りっ、莉奈ちゃん。こんなところに連れ込んでわたくしをどうするつもりですの」
「茜ちん、どうしたの? 昨日から変だよ。最近すぐ泣くし」
「莉奈ちゃん何でもないわ」
と莉奈の視線から逃れるように茜は目を泳がせる。
「あたしたち親友でしょ。誰にも言わないから話してよ。力になるから」
茜はいやいやをする子供のように無言でかぶりを振った。
「前に言ったカレシに振られたとか?」
茜はギクッと身をこわ張らせた。
「そうなんだ。茜ちん元気出しなよ。男なんて星の数ほどいるんだから」
「違うの」
「えっ?!」
「男の子じゃないの」
「???」
「わたくし2年生の上月先輩にあこがれていて妹になりたいって思っていたの」
「そうだったんだ」
「だから毎日2年2組の教室に上月先輩のお姿を見にいっていたの」
「それで時折休み時間に茜ちんの姿が見えなかったんだね」
「きのう階段のところで2年生の泉崎先輩に呼び止められて『毎日上月先輩のこと見にきてるよね』って言われたの。きっと上月先輩の耳にも変な1年生が毎日来ているって入っているわ」
と茜は涙ぐむ。
「泉崎先輩ってやさしい人だって聞いているからそんな告げ口みたいなことはしないって」
「でも二人はご親友なのよ」
「茜ちん大丈夫だよ。泣くのは上月先輩から直接断られたわけじゃないし」
「そうだけど…」
「どうせあきらめるのなら上月先輩に直接アタックしてからにしましょうよ」
「えぇっ?!」
「『当たってくだけろ』っていうでしょ」
「もしだめだったらわたくし明日から学校来られないわ」
「そんときはあたしも一緒に不登校してあげるから」
莉奈は茜の手首をつかんで学習室を出る。
「ちょっと莉奈ちゃん。どこへ行くの?!」
「2年2組」
「いやっ、だめよ。放して」
「思いついた勢いでやらないとこうゆうのはだめなの」
「だって心の準備が…」
「思い立ったが吉日よ」
莉奈は階段を下って強引に茜を2年生の廊下に連れてゆく。嫌がる茜を莉奈が引き連れてゆく姿に2年生たちも何ごとかと注目していた。莉奈は2年2組の前のドアにゆくと茜を中に突き飛ばした。教室では佑奈が礼香と瑞穂と楽しげにおしゃべりしていた。そこへ茜がよろよろと現れたので佑奈と瑞穂は目を丸くしていたが礼香だけは優しい姉のようなまなざしで茜を見ていた。あこがれの佑奈お姉様のすぐそばに心の準備もないままに立たされて茜の頭の中は真っ白になった。佑奈がこの1年生何しに来たのかしら?という目で茜を見ている。礼香は佑奈に茜が毎日佑奈の様子をうかがいに来ていることは話していなかったのだ。茜は気まずい状況に何か言わなくてはと焦りまくり、するに事欠いて
「佑奈お姉様、わたしくを妹にして下さい」
と大きな声で告白してしまった。言ってから茜は自分がとんでもないことを口走ったことに気付いて真っ赤になってうつむいた。佑奈は
「はぁっ?」
とぽかんとしている。礼香が
「よかったじゃない。かわいい妹ができて」
と言い、瑞穂も
「へぇ~っ、佑奈ってそーゆー趣味だったんだぁ」
とニヤニヤしている。佑奈も我に返り
「あたしそーゆー趣味ないから。教室から出てって」
とけんもほろろに茜を突き放す。茜は見る見るうちに目に涙をためると
「佑奈お姉様ごめんなさい」
とだけ言うと「うわーん」と声を上げて2年2組の教室からかけ出していった。その場に居合わせた2年生たちも呆然と事の成り行きを見ている。おもしろ半分に茜を佑奈にけしかけた莉奈は予想外の剣呑な展開におろおろして
「茜ちん…」
と声を掛けるが莉奈のことなど目に入らないようだ。

 1年3組の教室に莉奈が戻ると茜は机に突っ伏してびーびー泣いていた。
「茜ちんごめんね。まさかこんなことになるなんて思わなかったの」
茜は泣くばかりで何も答えない。茜が泣きやまないので茜は保健委員に抱きかかえられるようにして保健室に連れてゆかれ、その日は終鈴まで保健室で泣いていた。終鈴が終り莉奈が保健室に茜を迎えに行くとカバンも持たずに茜はそのまま下校していた。

第8章 失恋の痛手
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古墳少女佑奈4  その6

2006年09月21日 13時57分02秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その6

第6章 礼香の尋問

 その日も長谷川茜は用もないのに2年2組の教室の前にきて佑奈の様子をうかがっていた。たまたまそこへトイレから帰ってきた泉崎礼香がやってきた。2年2組の教室の前を通り過ぎ一安心して階段を上って1年3組の教室に逃げ帰ろうとしていた茜の腕に手を掛けて
「ねぇ、あなた」
と声を掛ける者がいた。茜が振り返るとそこには上月佑奈の親友 泉崎礼香がいた。
「いっ、泉崎先輩!」
茜は飛び上がらんばかりに驚いた。長谷川茜は言葉遣いや振る舞いが優雅なのでどちらかと言えば上月佑奈というよりか泉崎礼香の妹タイプである。その二人が階段で話をしているのはじつに絵になる取り合わせだ。
「いつも2年2組の前にきて佑奈のこと見てるよね。佑奈に何か用があるの?」
礼香は優しく茜に問い掛ける。茜にすれば佑奈お姉様を心配する泉崎先輩が怪しい1年生をつかまえて尋問しているようにしか感じられなかった。
「いっ、いえっ、そのっ、あのっ」
茜は何て答えてよいかわからずへどもどした。
「佑奈に用があるのならあたしから伝えてあげるけど?」
そう言われてもパニくっている茜にはどうやってこの苦境を乗り切ればよいかわからず
「しっ、失礼しましたぁーっ」
と叫ぶと階段をかけ上がって逃げた。

 「はぁ はぁ はぁ…」
茜は1年3組の教室に駆け込んで自分の席についた。全力で走ってきたので息が荒い。どうやら礼香は茜を追いかけてこなかったようだ。それでも廊下のほうで物音がすると茜はギクッとして顔を上げる。そこにいたのは親友の石田莉奈だった。
「茜ちんどうしたの? お化けでも見たような顔して」
茜はそれに何も答えることができず「わっ」と泣き出した。
「あたしなんかまずいこと言った?」
事情のわからない莉奈はおろおろしている。茜はかぶりを振るだけで何も答えなかった。
*** 茜の日記 *************

 今日2年生の廊下へ佑奈お姉様を見にいったら
階段のところで泉崎先輩につかまって
「佑奈お姉様に何か用!」
と怖い顔でにらまれたの。
泉崎先輩はわたくしが毎日教室に
佑奈お姉様のことを見にいっていることを
知ってらしたわ。
佑奈お姉様の耳にも毎日様子を窺いにくる
変な1年生がいると入っていることでしょう。
あぁ、もう終りだわ。
学校に行きたくない

**********************

第7章 莉奈のおせっかい
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古墳少女佑奈4  その5

2006年09月21日 13時52分10秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その5

第5章 佑奈の乱闘

 上月佑奈の不倶戴天の敵であった原絵里香という3年生は高田瑞穂に秘密を暴露されて顔をつぶされ逃げるように海老名市立大塚中学校を去っていった。佑奈にとってようやく安心して学園生活を送れるかと思いきや、佑奈と絵里香の大乱闘を見ていた大塚中学生たちがおもしろおかしく脚色して佑奈のことを他校生に話したり、インターネットに書き込んだりしたため、海老名市立大塚中学校の上月佑奈は海老名市を締める大スケバンで近く神奈川県央地区を束ねに乗り出すという噂になっており、それに反発する神奈川県央地区のスケバンたちが大塚中学校に佑奈とタイマン張りに来るようになった。泉崎礼香にいろいろと言われるから極力佑奈はトラブルを避けるようにしていたけれど、下校途中に取り囲まれたりすれば対応せざるを得ない。

 佐藤朱美、田中千恵、伊東公子は綾瀬市立福田台中学校のスケバンであった。海老名市立大塚中学校の上月佑奈が綾瀬市に侵攻してくるとの噂を聞きつけ海老名市立大塚中学校へ撃退しにきた。3人は髪を赤茶色に染めて平成の時代に紺の制服のスカートをくるぶしが隠れるほどに長くして紺のブレザーの下に着たブラウスの裾をスカートから出して赤いネクタイを緩く締めいかにもだらしない着方をしていたが3人はそれがカッコいいつもりでいた。しかし大塚中学生たちの目にはダサいとしか写らなかったから少し離れたところで
「きっきの子たち見た?」
「見た見た」
「なにあれ?」
「いまどきあんなスカート長くしちゃってねぇ」
「昔のスケバンみたいよね」
「あれでカッコいいつもりなのかしら」
と噂した。
 3人は校門を出てくる大塚中学校の女子生徒に
「上月佑奈ってぇのはてめぇか!」
とガンを飛ばし下校する女子生徒たちをすくみ上がらせていた。しばらくして上月佑奈が泉崎礼香と高田瑞穂と3人で校門に差し掛かると朱美が
「上月佑奈ってぇのはてめぇか!」
とガンを飛ばしてくる。佑奈はとっさに
「ちっ、違います」
と苦し紛れのウソをつくが
「さげんなよ! 胸の名札に『上月佑奈』って書いてあんだろが!」
「あっ!」
「『あっ!』じゃねぇ」
「……」
「まぁいい。ちょうど3人づつだ。あたいらと勝負しな」
「はぁっ?!」
「てめぇが綾瀬市に侵攻して綾瀬市を締めるスケバンになろうとしてっことはネタ上がってんだ。ばっくれよぉったってそうはいかねぇぞ!」
「あたしスケバンじゃないし、綾瀬になんて行きません」
「てめぇがスケバンだってぇことは一目見ただけでわかってんだよ」
「こんなかわいい子のどこがスケバンなのよ」
「うるさい! つべこべ言わずにあたいらと勝負しな」
「いやです」
「この期に及んで逃げんのか!」
「そうです」
田中千恵と伊東公子が
「ふっ、びびってる、びびってる」
「アネゴ、本当にこんな弱そうな奴が大スケバンなんですか?」
と言う。朱美はそれに耳を貸さず
「ふざけるな! こっちはてめぇと勝負付けるために綾瀬からわざわざバス代使って来てんだぞ」
「あたしが呼んだわけじゃないわ。そっちが勝手に来たんでしょ」
そう言って佑奈がその場を立ち去ろうとしたのでバカにされたと思い逆上した朱美は
「問答無用!」
と佑奈の不意を突いて殴りかかった。礼香と瑞穂以下長谷川茜を含むまわりで見ている大塚中学生たちは佑奈が殴られるのに目を背けた。しかし佑奈は朱美の手を見切りヒラリと後ろに下がって朱美の間合いを外し、朱美の腕が伸び切って静止する瞬間を捕らえて手首をつかみ後ろ手にひねる。朱美が関節の痛みから逃れようと前のめりになるので佑奈は足払いをかけて朱美をうつぶせに転ばせた。大方が予想した佑奈ではなく
「痛てぇ、痛たたたたーっ」
という朱美の悲鳴が響いたので観衆たちが二人に目を戻すと佑奈が朱美の背に馬乗りになって後ろ手に右腕をひねっていた。朱美にしてみれば佑奈をぶちのめしたはずがアッという間に地面に転がされ馬乗りにされているのだからみっともないったらありゃしない。
「てめぇ、放さねぇか、この野郎」
と朱美は悪態つくけれど朱美の負けは誰の目にも明らかだ。佑奈は米軍で戦争のための格闘術を仕込まれているのだからその辺のスケバンが勝てる相手じゃない。佑奈は
「どう? おとなしく綾瀬に帰ってくれない?」
「誰が! まだ終わっちゃいないぜ」
朱美が負けを認めないから佑奈はさらに関節をひねる。
「ぎゃーっ」
という朱美の絶叫が響く。簡単に朱美が関節決められたのを見て千恵と公子は朱美を助けるどころか佑奈の鮮やかな手並みにすっかりびびって固まってしまった。佑奈は関節を少し緩めて朱美に
「おとなしく帰る気になってくれたかなぁ? いやならこうだけど」
と関節を締め上げる。朱美がまた絶叫する。
「まっ、まいった。かっ、帰りますから許して下さい」
と言った。そこへ生活指導の佐藤先生が騒ぎを聞きつけてやってきて
「こらぁ、お前らそこで何をしとる!」
と叫んだので佑奈は
「わっ、佐藤先生だ」
とあわてて朱美の背中から降り手を放してやった。朱美は目に涙をためて
「畜生、おぼえてろ!」
と月並みな捨て台詞を残して千恵と公子を引き連れ綾瀬に逃げ帰っていった。
「こらっ、上月。生活指導室にちょっと来い!」
と佐藤が言い終えないうちに佑奈はカバンをひっつかんで一目散に走り去っていた。

 その様子を遠巻きに見ていた大塚中学生たちは口々に佑奈をほめたたえた。
「上月って強えなぁ」
「あぁ、一瞬で勝負決めたもんな」
「相手にケガさせないよう手加減していたしな」
「上月が本気出したら怖いよな」
「ほんと、ほんと」
「あいつらが言っていた『上月がスケバン』ってぇのは本当かもしれないよ」
「あぁ、あれだけ強いんだもんな」
「関節技を鮮やかに決めて追い返すとはさすがだよ」
「あれなら相手もあきらめがつくだろうしな」

 茜は大塚中学生たちが口々に佑奈を賞賛するのが実の妹のようにうれしかった。茜は一瞬で勝負を決めてケガをさせないよう追い返す佑奈の手並みに1歳しか違わないんだけど大人だなぁと感じた。

*** 茜の日記 *************

 今日は怖そうな他校生が大塚中学校にきて
佑奈お姉様にケンカを売ったの。
わたしくどうしようかとハラハラして見ていたけれど
佑奈お姉様は一瞬で勝負を決めて
ケガをさせないよう追い返しちゃったわ。
佑奈お姉様って強くてお優しいのね。

**********************

 佑奈にメンツをつぶされた綾瀬市立福田台中学校の佐藤朱美、田中千恵、伊東公子は綾瀬市に逃げ帰ると海老名市立大塚中学校の上月佑奈がものすごーく強いと言い触らしてまわった。自分たちが負けたことを正当化するためのことであったが、それが海老名市立大塚中学校の上月佑奈の大スケバン伝説をさらに尾ひれをつけて広める結果となり次々と神奈川県内のスケバンが佑奈に挑戦してきた。佑奈は相手にせず大塚中学校にきた場合は先生に追い払ってもらったり、路上で待ち伏せされた場合も走って逃げるなどしてトラブルを避けていたが大勢で取り囲まれるなどどうにもしようがない場合に限って相手にケガをさせないようソフトに撃退していた。腕輪の術は「妖術使い」と言われるのがいやだから使用しなかった。

第6章 礼香の尋問
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古墳少女佑奈4  その4

2006年09月21日 13時49分30秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その4

第4章 名探偵 茜


 それからも茜は1日1回用もないのに2年2組の前を通って横目で佑奈の様子を伺っていた。佑奈はそんな茜のことにはまったく気付いていなかった。泉崎礼香や高田瑞穂とおしゃべりする佑奈はとても楽しそうだ。自分もあの輪の中に入れたらどんなにいいかと茜はいつも思った。茜は佑奈のことを廊下から横目で見るたげの自分がはがゆかった。茜は佑奈のことをもっと知りたいと思った。一体どんな家に佑奈は住んでいるのだろう? 兄弟姉妹はいるのだろうか。趣味は何だろう。茜は佑奈のことを何も知らないことに気付いた。

*** 茜の日記 *************

 今日も佑奈お姉様の教室に行ったの。
佑奈お姉様が偶然廊下に出ていらして目が合いそうになり
あわてて目を逸らしたの。
気付かれちゃったかしら?

**********************

 その日から茜は放課後大塚中学校の図書室にこもって宿題や明日の予習をすることにした。いつもは家に帰ってからしているのだが、図書室で吹奏楽部の練習が終わるのを待っているのだ。吹奏楽部の練習が終わり楽器の音がやむと茜は宿題を片付けて2年生の昇降口付近に移動して佑奈が出てくるのを待っていた。待つこと15分、佑奈は礼香と瑞穂を伴って昇降口に現れ3人で楽しそうにおしゃべりしながら大塚亀山古墳の後円部を回り込むようにして帰ってゆく。茜も約20m後から気配を殺してついてゆく。途中で礼香・瑞穂と別れて佑奈は一人になる。佑奈は途中一度も振り返る事なく茜の尾行に気付かぬ様子で大塚町の家に帰っていった。それを電柱の影に隠れて見ていた茜は「佑奈お姉様ってわたくしの家からそんなに遠くないところに住んでいらしたのね。これも神様のお引き合わせに違いないわ」と思い家に帰っていった。

*** 茜の日記 *************

 今日初めて佑奈お姉様と一緒に帰ったの。(【注】後をつけただけ)
佑奈お姉様のお住まいは大塚町で
意外とわたくしの家に近かったわ。
きっと二人は赤い糸で結ばれているのよ。

**********************

 その翌朝茜はいつもよりも早く家を出て佑奈の家の玄関が見える電柱の影に潜んでいた。
「早く佑奈お姉様が出てらっしゃらないかしら」
とつぶやきながら茜は待っていた。しかし遅刻ぎりぎりのタイミングになっても佑奈は出てこない。
「早くしないと佑奈お姉様遅刻になってしまうけれどどうしたのかしら? お加減悪くて今日はおやすみかな? あと100数えて佑奈お姉様が出てらっしゃらなければ一人で登校しよう」
と思っているとバタンと音をたてて上月家の玄関が開きセーラー服のスカーフを結びながら佑奈が一目散に大塚中学校へ走っていく。茜は反射的に電柱の影に身を隠したが、大慌ての佑奈の視界には全く茜の姿は入っていなかった。我に返った茜も急いで大塚中学校に向かい走った。
 1年3組の教室に茜が着くと莉奈が
「茜ちん今朝は寝坊したんでしょう」
といつも早くから教室に来ている茜が遅刻ギリギリでしかもはぁはぁと荒い息をしていて走ってきたので滑り込みセーフといった風情だ。茜は佑奈を張り込んでいたとは言えないから
「う、うん そうなの」
ととりつくろった。

*** 茜の日記 *************

 今日は佑奈お姉様をお家まで迎えにいったの。(【注】張り込んだだけ)
佑奈お姉様は遅刻ぎりぎりに大慌てで走って登校されていたわ。
わたくしも危うく遅刻するところだったわ。

**********************

 最近尾行や張り込みをしている成果で佑奈のことがいろいろとわかってきたから茜はご機嫌だった。それを莉奈は

「ははーん、茜ちん彼氏にコクッてうまくいったんでしょ」
「えぇっ?! そんなんじゃないわ」
「一頃落ち込んでいたのに最近ご機嫌じゃないの」
「ちっ、違うってば」
「今鼻歌歌ってたよ」
「うそっ」
「誰なのよ。茜ちんの彼氏は?」
「だから、そんなんじゃないわよ」
「隠さなくってもいいじゃないの。あたしたち親友でしょ」
「だからぁ」
そこでチャイムが鳴り次の時間の先生が教室に入ってきたので莉奈の追及も沙汰やみになった。茜はチャイムに救われた。

*** 茜の日記 *************

 今日は体育から戻ってきた佑奈お姉様と廊下ですれ違うことができたわ。
校庭を何週も走ってらしたから
佑奈お姉様はとても疲れたご様子だったの。
とてもうれしかったわ。

**********************

  「っ!」

ある日の下校途中、上月佑奈は殺気のような熱い視線を感じ振り返った。しかしそこには誰の姿もなかった。一緒に歩いていた高田瑞穂が不思議そうに
「佑奈どうしたの?」
「ううん、なんか殺気を感じて」
「やだぁ、またどっかの国の工作員?」
佑奈の持つ腕輪の力を悪用しようとたくらむ外国の工作員がいつも登下校中の佑奈にちょっかい出してきているのだ。
「それにしては殺気むき出しだしねぇ」
実はその視線の主は長谷川茜だったのだ。佑奈が振り返るのより一瞬早く茜は近くの路地に逃げ込んでいたので茜は佑奈に発見されずにすんだのだ。瑞穂が
「まっ、なんでもいいじゃん。術でびびーっとやっつけちゃえば」
「そーよねー」
と話す佑奈に礼香が
「佑奈だめよ。無闇に術を使っちゃ。ご町内の皆様に迷惑になるわ」
「だって向こうからか弱い乙女を襲ってくるんだよ」
「だれが『か弱い乙女』なのよ」
瑞穂がまぜっ返す。
「もしかしたら佑奈のファンかもよ」
と言う礼香に瑞穂が
「そんなのいるわけないじゃん」
とまぜっかえす。礼香は茜の尾行に気付いているわけではなかったが用もないのに2年2組の教室の前にやってきてちらちらと佑奈の様子を見ている1年生(長谷川茜)の存在に気付いていたのでなんとなく茜のような気がしていたのだ。

*** 茜の日記 *************

 今日も佑奈お姉様といっしょに帰った。(【注】後をつけただけ)
佑奈お姉様は泉崎先輩と高田先輩とおしゃべりしていたわ。
途中、不意に佑奈お姉様が振り返ったのでびっくりしたの。
路地に逃げ込んだので見つからなかったようだけど
死ぬかと思ったわ。

**********************


 その週の日曜日、もちろん授業はない。だから茜は佑奈とは会えない。茜は佑奈お姉様は日曜日にどうしていらっしゃるのかしらと思った。
「あぁ、佑奈お姉様…」
そう思ったらやもたてもいられず無性に佑奈お姉様の顔を見たくなってしまった。日曜日にお家まで行ったらご迷惑になるわ。でも遠巻きに眺めるだけなら佑奈お姉様のご迷惑にはならないはず…。そんなふうに茜は自分を正当化して佑奈の家に出かけることにした。茜はまるで彼氏とデートにゆくかのごとく少ないワードローブをたんすから出して別に佑奈と会うわけでもないのにあれやこれやとコーディネートに悩んだ。約40分かけて茜は緑のタータンチェックのシャツワンピースにピンクの丸首カーディガンを羽織って、黄色い靴下によそゆき用の黒ローファーを履き出かけた。茜の家から佑奈の家まで普通に歩いて3~4分だ。茜は胸がドキドキドキドキしている。もし佑奈お姉様に見つかったら言い訳ができないからよそうかと何度も立ち止まって考える。歩いては止まり考え込むからなかなか足が進まない。それでも佑奈お姉様に会いたい!という茜の一念が茜を上月家に押し進めた。
 吹奏楽部の練習がお休みで佑奈は礼香や瑞穂と出かける約束もなかったので家にいた。茜が恐るおそる上月家に接近する。近くの電柱に隠れて様子を窺うと二階の佑奈の部屋の窓に灰色のスェットスーツを着た佑奈の姿が見えた。
「佑奈お姉様…」
茜はそうつぶやきながらるると涙した。月曜日学校にゆけば会えるのになんで涙があふれてくるのだろう? 茜はただただ涙を流し立ち尽くした。しかし道ゆく人の、なんでこの子はこんなところに泣きながら立っているんだろう?という視線に茜は我に返り、ひとつところにずっといたら目立ってしまうことに思い至り、あわててハンカチで涙をぬぐうと何事もなかったように装いながら上月家の前を立ち去った。佑奈お姉様に会えてよかったという思いを胸に。

*** 茜の日記 *************

 今日は学校のない日曜日。
佑奈お姉様にどうしても会いたくてお家の前まで行ってしまったの。
二階の窓辺に佑奈お姉様のお姿を見られ
とてもうれしくて泣いてしまったの。
泣いているところを佑奈お姉様に見られなかったかしら?
恥ずかしいわ。

**********************

第5章 佑奈の乱闘へ
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古墳少女佑奈4  その3

2006年09月21日 13時41分00秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その3

第3章 茜の偵察

 その翌日2時間目と3時間目の間の休み時間に理科室への移動のおり茜は佑奈のクラス2年2組の前を通るルートで向かった。佑奈お姉様の教室の前を通ると思うだけで茜はとんでもないことをしでかそうとしているイタズラ小僧のようにドキドキしていた。その途中で何度も「やっぱりよそうかしら」と迷っていたので2年2組に着くのが遅くなった。茜が意を決して2年2組の前にゆくと次の授業が音楽なので教室はもぬけの殻になっていて誰もいなかった。茜は「そんなぁ」と一言つぶやきその場にへたりこみそうになった。茜はがっかりするとともに佑奈との間に気まずくなるようなヘマをせずにすんで茜はホッとして理科室に向かった。

*** 茜の日記 *************

 今日は理科室に行くおりに佑奈お姉様の2年2組の前を通ったの。
2年生の先輩方に変な1年生が来たと思われなかったかしら。
ものすごくドキドキしたのに
2年2組の教室には誰もいなかったわ。

**********************

 次の日の休み時間も茜は2年2組の教室に向かった。こんどは教室の移動がないから純粋に佑奈を見にいったのだ。用もないのに1年生が2年生の教室の前を歩いていて何か言われないだろうかと茜は思いながらドキドキする胸に後押しされて階段を下りる。茜は顔を真っ赤にしてうつむきながら2年生の廊下を歩く。廊下には何人も2年生がいるが1年生の茜が来たことに特段の反応は誰も示さなかった。2年2組の教室のドアは前後ともに開いている。茜は歩くスピードを緩めて少しでも長く教室の中を見られるようゆっくりと歩いて行く。横目で2年2組の教室の中をのぞくと後ろのドアからは佑奈の姿を確認できない。しかし前のドアに茜が差し掛かると前のほうの席で佑奈が親友の泉崎礼香とおしゃべりしているのが見えた。茜は「あぁ佑奈お姉様」と思うと気が遠くなりかけた。しかしここで倒れたら佑奈お姉様に恥ずかしい姿をさらすことになるので気をしっかりと持ち茜は佑奈の姿を網膜に焼き付けてなんとか階段にたどり着いた。しかし階段を登る途中で気がゆるみ急に足元がふらついてしゃがみ込んでしまった。茜は2年生の廊下を抜け安心したので軽い貧血を起こしたのだ。茜は通り掛かった2年生女子に肩を抱くように保健室に連れてゆかれベッドに寝かされた。幸いにして保健の先生はなんで1年生の茜があんなところにいたのかについて一切質問しなかったので茜は救われる思いだった。茜は自分が階段で倒れたことを聞いて佑奈お姉様に軽蔑されるのではないかと気掛かりであったかいつの間にか眠ってしまった。
 しばらく眠った後茜は
「もうよくなりました。ありがとうございました」
と保健室を出て教室に戻った。今度は2年2組に寄らず1年3組に直行した。

*** 茜の日記 *************

 今日は佑奈お姉様の2年2組の前を通って
そのお姿を見てきたの。
佑奈お姉様は泉崎先輩と楽しそうにおしゃべりしていたわ。
わたくしもあんなふうに佑奈お姉様とおしゃべりしてみたいわ。
その帰り階段で貧血になり
2年生の先輩に保健室に連れてかれちゃったわ。
佑奈お姉様の耳に入り変な1年生と思われなかったかしら。

**********************

第4章 名探偵 茜へ 以下未完
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古墳少女佑奈4  その2

2006年09月21日 13時38分57秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その2

第2章 茜の片思い

 その翌日、1年3組の教室にて石田莉奈と長谷川茜がおしゃべりしている。
「ねえねえ茜ちん、昨日のケンカすごかったね」
「うん、そうね」
茜は莉奈の振る話題に平静を装いながらも食いついた。
「あの背の低い2年生が前に話した古墳少女の上月先輩なんだよ」
「えっ、そうなの」
茜はあこがれのお姉様の名前がわかってうれしかったが関心のないそぶりをしていた。
「莉奈ちゃん、上月先輩ってどんな方なの?」
「そっか茜ちんは二学期から転校してきたんで古墳少女の恐ろしさを知らなかったわね」
「うん、古墳少女ってなに? 上月何って方なの?」
「あの上月佑奈先輩って古墳で拾ってきた変な腕輪を持ってて呪文を唱えて火を吹いたり、電源飛ばしたりしていろんな国のスパイと戦っているんだよ」
「まさか」
「茜ちんは見たことないから信じられないかもしれないけど、海老名の人はみんな知ってるよ」
「ええっ?!」
茜の脳裏には女ジェームズ ボンドのように外国のスパイと戦っている佑奈の姿が浮かんだ。そのカッコいいイメージに茜は引くどころかますます佑奈にぞっこんになった。
「でも昨日は普通に殴ってらしたけど…」
「あぁ、生活指導の佐藤先生がうるさいから校内では術を使わないのよ」
「ふーん、上月先輩って何をしている方なの?」
「吹奏楽部に入っているって聞いたことあるわよ」
「ふーん、吹奏楽部かぁ」
「まっ、かかわるとロクなことないから茜ちん、上月先輩に近づいちゃだめよ」
「莉奈ちゃんわかったわ」
と茜はうまいこと莉奈から佑奈の情報を引き出した。

 不意に莉奈が話題を変える。
「茜ちん。何か悩みごとでもあるの?」
「えっ?! 何もないけど…」
「でも今朝からため息ばかりついてるよ」
「そんなことないよ」
今日は朝からずっと長谷川茜はため息をついていた。さっきので本日何十回目だろうか。
「ははーん、さては誰かに片思いしてんでしょ」
莉奈にカマかけられて茜は思わずギクッとしてしまった。そして真っ赤になって
「変なこというと莉奈ちゃんぶつわよ」
と言う。莉奈は「やった、図星だ」と確信した。
「ちょっと誰よ、誰なのよ。誰にも言わないからこっそりあたしにだけ教えなさいよ」
とひじで茜を小突きながら言う。よもや莉奈は同性の佑奈に恋しているとは思ってもいなかった。
「ははーん、茜ちんの好きな人がわかったぞ」
「えっ?!」
茜はまたギクッとして莉奈を見る。
「2年生の古谷先輩でしょぉ」
「はあっ?! それは誰ですの?」
「上月先輩のカレシに決まってるでしょ」
「ちっ、違うって」
「だってさっき茜ちん上月先輩のこと食い入るように聞いてきたじゃない。だめよ古谷先輩に手を出しちゃ」
「だから違うって」
「上月先輩に術を使ってひどい目にあわされるわよ。昨日のケンカだって3年生の原先輩が上月先輩のカレシにちょっかい出したことか原因なんだから」
「莉奈ちゃん、違うの。誤解よ」
「ムキになるところがますます怪しいなぁ」
「わたしく古谷先輩にお会いしたことすらないんですから」

 その後1年生各クラスに3組の長谷川茜が2年生の古谷先輩に恋しているというデマが乱れ飛んだ。もちろん発信源は石田莉奈である。

*** 茜の日記 *************

 今日莉奈ちゃんからあの方のお名前が『上月佑奈』さまと教えてもらった。
莉奈ちゃんは佑奈お姉様の彼氏の古谷先輩にわたくしが方思いしていると
誤解していたようだけど佑奈お姉様のお名前がわかってうれしい。
一度でいいから佑奈お姉様とおしゃべりしてみたいわ。
 でも莉奈ちゃんに誰かに片思いしていることを見抜かれたときは
あせったわ。しかも莉奈ちゃんは
わたくしが佑奈お姉様の彼氏の古谷先輩に片思いしていると誤解しているわ。
変な噂にならなけれどいいけれど。

**********************

 最近お友達の長谷川茜の口数がめっきり減り元気がない様子に石田莉奈も心配していた。
「茜ちん、古谷先輩はあきらめなさい。彼女がいるから」
「だから古谷先輩じゃないって」
「そう、相手が誰かは聞かないけどダメでもともとにコクってみたら」
「でもぉ…」
「当たってくだけろよ。きってうまくいくって」
「しかし…」
「このまま一人で悩んでいても何も変わらないよ」
「そうねぇ」
「茜ちんファイト」
「莉奈ちゃんありがとう。なんか道が開けてきたって感じだわ」
茜は莉奈の一言でやるべきことが分かったような気がした。

*** 茜の日記 *************

 今日莉奈ちゃんがわたくしのことをはげましてくれたの。
「当たってくだけろ」って言ってくれたわ。
どうしたら佑奈お姉様とお近付きになれるのかしら?
佑奈お姉様は3年生の原先輩と毎日のように喧嘩なさっているから
わたくしのことなどまるで見てくださらないわ。
あぁ一言でいいからお声をかけて下さらないかしら。

**********************

 それからも茜は佑奈のことを思い詰めて元気がなかった。茜は佑奈とどうお近付きになったらいいのかわからなかった。佑奈はクラブの先輩というわけではなく、帰宅部の茜には全く接点がなかった。さりとてまるで楽譜の読めない茜が吹奏楽部に入るわけにもゆかない。
「あぁ、いったいどうしたらいいの?!」
茜は自宅のベッドの中でつぶやいた。恋愛情報満載のティーンズ雑誌を見ても彼氏の作り方は書いてあっても同性の先輩にお近付きになる方法なんて書いてない。
「なんですの。780円もしたのに全然役に立たない雑誌ですわ。佑奈お姉様とどうしたらお近付きになれるのかしら」
茜の目から一筋の涙がこぼれた。

*** 茜の日記 *************

 どうしたら佑奈お姉様に振り向いてもらえるのだろう?
雑誌を見ても彼氏を作る方法やおまじないは載っていても
素敵な上級生に妹にしていただく方法はまったく載ってないわ。
何て役に立たない雑誌なのかしら。

**********************

第3章 茜の偵察
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古墳少女佑奈4  その1

2006年09月21日 13時37分17秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その1

プロローグ

 海老名市立大塚中学校2年生の上月佑奈は去年中学校の近くにある古墳の石室に入ったときに偶然手に入れた魔力を秘めた勾玉で作った腕輪を持っていた。その力を軍事利用しようとしたCIAに恥ずかしい写真を撮られて脅された佑奈は「アメリカ政府の交換留学生」というふれこみで約半年の間アメリカの軍事施設に監禁されスパイ活動や格闘術のすべてをたたきこまた。
 最後の1ヶ月だけアリバイ作りにカルフォルニア州にある町にホームステイしてジュニアハイスクールに通い、大塚中学校の吹奏楽部に入っている佑奈はその学校のブラスバンドでクラリネットを吹くとともに米軍音楽隊の首席奏者からクラリネットの個人レッスンまで受けさせてもらい、ディズニーランドやユニバーサルスタジオ、大リーグの試合で松井やイチローを見るなど楽しいスクールライフを味わわせてもらっい帰国すればやっとの思いで帰国すればイヤミな3年生が佑奈に突っ掛かってくるのであった。
 「古墳少女 佑奈3」の続編につき、まずそちらから読んで下さい。

*****

第1章 昇降口での乱闘

 11月1日。海老名市立大塚中学校の昇降口前で女子生徒どうしの大乱闘が起こった。長身の3年生が身長が30cmは低い2年生に向かって殴りかかっている。3年生が一方的にパンチを繰り出しているものの2年生はまるでその手を見切っているかのようにヒョイヒョイとかわしており一発も当たっていない。戦う3年生の名は原絵里香、本日大塚中学校に転入してきた生徒だ。2年生の名は上月佑奈。本日アメリカ留学から帰国したばかりで、海老名市民に知らぬ者はいないという古墳少女である。古墳少女とは、佑奈は古墳で手に入れた古代の魔力を秘めた勾玉の腕輪を使って火を吹いたり電撃飛ばすといった術を使えるのだ。しかし佑奈は腕輪の術は使わずにただよけているだけであった。
 周りを取り巻く大塚中学生たちはわーわー言って二人の激しい戦いを見守っている。どちらが勝つかで賭を始める生徒もおりいい見せ物になっていた。そんななかに1年3組の長谷川茜という背中まで届く長い髪をゴム二つ束ねに結った女子生徒もいた。茜は息を殺して激しい上級生たちの乱闘に見入っていた。周りの噂から茜は佑奈の彼氏に絵里香がちょっかい出したのがこの乱闘の原因らしいというのがわかった。
 佑奈は腕輪の術は使わずに正々堂々応戦し、相手を傷つけないようにこの場を収めようとしていた。なぜならば本心では彼氏の古谷にちょっかい出してきた絵里香をブチのめしてやりたいところだが、生活指導室に呼び出されて反省文を書かされるのが嫌だからだ。しかし頭に血が上った絵里香はムキになって攻撃してくるので佑奈は困惑していた。佑奈は
「先輩もうやめにしましょうよ」
と言うけれど絵里香の燃え盛る闘争心に油を注ぐだけであった。絵里香は不意を突いて膝上15cmに切った短いスカートがまくれるのにも構わず回し蹴りを放った。しかし、佑奈は間合いを見切ってそれもかわしさらに絵里香の軸足を軽くひっ掛けてやったから重心が上方に移動している不安定な状態の絵里香は不様にひっくり返りその拍子にスカートがまくれパンツ丸見えになった。絵里香は渾身の一撃を佑奈に浴びせるがかわされ、逆に佑奈に一発でのされてしまった。
 佑奈が絵里香をのした瞬間大歓声で佑奈をたたえる生徒たちの声に混じって茜の
「お姉様 素敵!」
という声も上がった。茜は思わずそう叫んでしまったのだが、もちろん茜はレズ少女ではない。宝塚歌劇のトップスターにあこがれるように。あるいは、女子プロレスラーのおっかけのように佑奈にシビレテしまったのだ。男子同志だったら
「子分にして下さい」
とお願いしにゆくところだろう。茜は9月から大塚中学校に転入してきたので伝説の古墳少女をまだ見たことがなかったのでこの2年生が古墳少女だとはこの時点で知らなかった。その日の授業は5時間目までなので茜は家に帰った。

*** 茜の日記 *************

 今日は学校で3年生と2年生の先輩方が
昇降口で激しいケンカをしていて
2年生が3年生の先輩を一発で倒したの。
そのカッコいいお姿を見て思わず
「お姉様 素敵!」
と叫んじゃったわ。
お姉様のお名前は何というのか
とっても知りたいわ。
あぁ、妹にしてくださらないかしら。

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第2章 茜の片思い
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