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古墳少女佑奈4  その7

2006年09月21日 14時00分40秒 | 上月佑奈
古 墳 少 女 佑 奈4  その7

第7章 莉奈のおせっかい

 翌日、まじめな茜は学校を休む理由を見つけられずに足取り重く大塚中学校に向かった。どうしても茜に学校をサボるという決断はできなかった。今朝は佑奈の家には寄らずに直行するのだが、ゴルゴタの丘に十字架背負って上ってゆくキリストのような気分であった。学校で泉崎礼香や上月佑奈に出会ったら何て言われるか考えただけでも茜はこのまま消えてしまいたいと思うし、永遠に大塚中学校に着かなければいいと思った。
 しかしいつもの道を歩いていくのだからやがて大塚中学校に着く。泉崎礼香や上月佑奈の姿がないことを確認しつつ小走りに校庭を横切り茜は1年生の昇降口に取り付くと上履きに履き替えて一目散に1年3組に向かった。また階段で泉崎礼香につかまったら大変だ。幸いにして無事1年3組にたどり着けた。
「おはようございます」
消え入りそうな声で茜はあいさつをして教室に入ってきた。親友の石田莉奈が茜の異変にすぐ気付いた。
「どうしたの? 茜ちんなんだか変だよ」
「そう? なんでもないけど」
「うそ、茜ちん何か隠してる」
図星なだけに茜の目から涙があふれた。

 昼休み、莉奈は朝から一人になりたがる茜を廊下に連れ出した。今日の茜は教室を移動するときも佑奈や礼香に見つからないよう教科書で顔を隠すようにしてこそこそしており、まるで警察から逃げ回る指名手配犯のように廊下に出ることをひどく恐れていたので
「莉奈ちゃんやめてよ。いやですってばぁ」
と普段上品な茜とは思えないくらい泣きわめき激しく莉奈に抵抗した。莉奈は女子生徒が体育の着替えに使う学習室という名の空き教室に茜を連れ込むとドアを閉めた。
「りっ、莉奈ちゃん。こんなところに連れ込んでわたくしをどうするつもりですの」
「茜ちん、どうしたの? 昨日から変だよ。最近すぐ泣くし」
「莉奈ちゃん何でもないわ」
と莉奈の視線から逃れるように茜は目を泳がせる。
「あたしたち親友でしょ。誰にも言わないから話してよ。力になるから」
茜はいやいやをする子供のように無言でかぶりを振った。
「前に言ったカレシに振られたとか?」
茜はギクッと身をこわ張らせた。
「そうなんだ。茜ちん元気出しなよ。男なんて星の数ほどいるんだから」
「違うの」
「えっ?!」
「男の子じゃないの」
「???」
「わたくし2年生の上月先輩にあこがれていて妹になりたいって思っていたの」
「そうだったんだ」
「だから毎日2年2組の教室に上月先輩のお姿を見にいっていたの」
「それで時折休み時間に茜ちんの姿が見えなかったんだね」
「きのう階段のところで2年生の泉崎先輩に呼び止められて『毎日上月先輩のこと見にきてるよね』って言われたの。きっと上月先輩の耳にも変な1年生が毎日来ているって入っているわ」
と茜は涙ぐむ。
「泉崎先輩ってやさしい人だって聞いているからそんな告げ口みたいなことはしないって」
「でも二人はご親友なのよ」
「茜ちん大丈夫だよ。泣くのは上月先輩から直接断られたわけじゃないし」
「そうだけど…」
「どうせあきらめるのなら上月先輩に直接アタックしてからにしましょうよ」
「えぇっ?!」
「『当たってくだけろ』っていうでしょ」
「もしだめだったらわたくし明日から学校来られないわ」
「そんときはあたしも一緒に不登校してあげるから」
莉奈は茜の手首をつかんで学習室を出る。
「ちょっと莉奈ちゃん。どこへ行くの?!」
「2年2組」
「いやっ、だめよ。放して」
「思いついた勢いでやらないとこうゆうのはだめなの」
「だって心の準備が…」
「思い立ったが吉日よ」
莉奈は階段を下って強引に茜を2年生の廊下に連れてゆく。嫌がる茜を莉奈が引き連れてゆく姿に2年生たちも何ごとかと注目していた。莉奈は2年2組の前のドアにゆくと茜を中に突き飛ばした。教室では佑奈が礼香と瑞穂と楽しげにおしゃべりしていた。そこへ茜がよろよろと現れたので佑奈と瑞穂は目を丸くしていたが礼香だけは優しい姉のようなまなざしで茜を見ていた。あこがれの佑奈お姉様のすぐそばに心の準備もないままに立たされて茜の頭の中は真っ白になった。佑奈がこの1年生何しに来たのかしら?という目で茜を見ている。礼香は佑奈に茜が毎日佑奈の様子をうかがいに来ていることは話していなかったのだ。茜は気まずい状況に何か言わなくてはと焦りまくり、するに事欠いて
「佑奈お姉様、わたしくを妹にして下さい」
と大きな声で告白してしまった。言ってから茜は自分がとんでもないことを口走ったことに気付いて真っ赤になってうつむいた。佑奈は
「はぁっ?」
とぽかんとしている。礼香が
「よかったじゃない。かわいい妹ができて」
と言い、瑞穂も
「へぇ~っ、佑奈ってそーゆー趣味だったんだぁ」
とニヤニヤしている。佑奈も我に返り
「あたしそーゆー趣味ないから。教室から出てって」
とけんもほろろに茜を突き放す。茜は見る見るうちに目に涙をためると
「佑奈お姉様ごめんなさい」
とだけ言うと「うわーん」と声を上げて2年2組の教室からかけ出していった。その場に居合わせた2年生たちも呆然と事の成り行きを見ている。おもしろ半分に茜を佑奈にけしかけた莉奈は予想外の剣呑な展開におろおろして
「茜ちん…」
と声を掛けるが莉奈のことなど目に入らないようだ。

 1年3組の教室に莉奈が戻ると茜は机に突っ伏してびーびー泣いていた。
「茜ちんごめんね。まさかこんなことになるなんて思わなかったの」
茜は泣くばかりで何も答えない。茜が泣きやまないので茜は保健委員に抱きかかえられるようにして保健室に連れてゆかれ、その日は終鈴まで保健室で泣いていた。終鈴が終り莉奈が保健室に茜を迎えに行くとカバンも持たずに茜はそのまま下校していた。

第8章 失恋の痛手
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