
地謡の大城貴幸さんの歌三線がとても印象的な大城区の組踊公演です。目玉は10年ぶりの組踊「大城大軍」です。以前八木政男さんと吉田妙子さんがうちなーぐちの指導をした久手堅豊さん(元大城区の区長)が佐敷按司の重要な役で出演しています。紛争も演技も唱えもプロ顔負けでした。
吉田さんは献花をされ、寄付金まで出されています。いつも沖縄芝居役者の心意気に感銘します。
大城城跡をくさてにする大城集落です。
1989年に43年ぶりに復活しているようです。人間国宝の宮城能鳳さんが復活に尽力されたのですね。地域で活性化する組踊、いいですね。司会の方のお話によると、この組踊の原作者は分からないという事で、しかも戦後紛失していた脚本がアルゼンチンから里帰りしたと説明していました。興味深いです。
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「大城大軍」とても面白かった。国立劇場おきなわで上演される古典組踊と異なり、舞台の中央に城壁の一部が設営され、はしごまで登場する。しかも大城城若按司の援軍をする佐敷按司の一行の出で立ちと足の動きがリズミカルで佐敷按司は兜をかぶり弓を射る扮装、しかも舞台を降り客席の前に陣取った。松明もかざしている。大里城の夜廻りの「間の者」の闇夜のその演技がとてもユニークな動きで、観客席はざわめき笑いがこぼれた。繰り返し怖いけれど一人で夜回りすると言い放ちながら舞台を三回もあちらこちら照らして立ち去る演技は独特だ。また大里按司との決戦の場面も二回舞台と裏(城)を追いかけ、三度目に実際に舞台上で刀が抜かれて戦う場面がある。その後大里按司は刃に倒れて幕内に去るのだが、臨場感に溢れていた。
動きが舞踊的で、若按司の長刀踊りも見事で、家臣の外間の子と佐敷按司の家臣苗代之比屋の刀を持った武芸のような踊りも勇ましく音楽のリズムが身体リズムになり、飽きさせない。前半はゆったりと流れた物語の進行が徐々にクライマックスへと高まっていく流れは舞台装置そのものが、まさにスペクタクルなのだ。
古典組踊より登場する臣下も数が多く迫力がある。多良間の組踊「忠臣仲宗根豊見親組」を幾分彷彿させた。
舞台は多良間のように三間四方で3方向から舞台を観る形式ではなく、正面に向かって左側と正面が客席で右側に地謡が座している。正面の背後に幕がある。能舞台の形の客席だが松の木が描かれているわけでもなく橋掛かりもない形式。
仇討ち物だが、踊りが印象的だった。足の動きにもリズムがあり、踊っている風情がダンスを観ているようで面白いと感じていた。音楽は按司手事や若按司手事、まるむんの場面では軽快な音曲が流れ、面白い。ちょっとくどいほどの三回繰り返しが特徴でもあった。
若按司役の唱えがとても良かった。浪々と高い声音は耳に心地よかった。外間の子もまた堂々と唱え、演じていた。武骨で義経と弁慶のような風情にも見えた。臣下の者たちの動きもよくリハーサルで鍛えられた動きである。
佐敷按司も按司の扮装に兜頭で、弓矢も持つそのそぶりが勇ましく、クールなのである。
地謡の息のそろった演奏・演唱は素晴らしかった。大城貴幸さんの声音が素晴らしかった。地域に根差した氏の心意気は大城区の子供たちにも伝わっているのだろう。独自の大城グスクに因んだ組踊を持つ大城集落の人々の誇りはこの組踊を継承する中で育まれている。
古の歴史に思いをはせ、現在を生きる。過去が風土に刻まれ、物語、組踊に刻まれていく。大城集落の人々の豊かな感性が引き継がれていく。仇討ち物が単に繰り返される復讐の連鎖や因果応報に留まらない所以は、物語の音楽性や踊のリズム感のみならず、勧善懲悪の要素も大きいに違いない。
そこでは理不尽に城敗れた若按司や捕らわれた者たちが、犠牲者の魂を弔う意味も込めて、敵陣に殴りこむ姿がある。そして元の御世、城を取り戻す物語が書かれている。循環する筋書が示すものは何か。秩序は回復する。犠牲や殺戮は包摂されつつ、前に進んでいく仕掛けになっている。
歴史の負の部分は共感され、かつ義や正義に生きる姿勢も描かれる。
暴力は正当化されるのか。される。理不尽な城の滅亡や按司の殺戮に対して、復讐に立ち向かう若按司がいる。悪に対して武で立ち向かう。悪は成敗しなければならない。悪を滅ぼすことによる秩序・平安が追究されている。

若按司一行の登場

まるむんの夜廻り

戦いのクライマックスへ
10年ぶりの上演盛況 南城市大里「大城大軍」 - 琉球新報デジタル (2013年10月25日)に以下の文章が掲載されています。背景が分かります。その事は会場でも司会の方がお話しされていました。
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【南城】南城市大里字大城区独自の村芝居として戦前から上演されてきた組踊「大城大軍」が20日、10年ぶりに上演された。
上演された同市大里集落センターには、区内外から多くの人が訪れ、10年に1度しか見られない組踊を堪能した。
大城大軍は大城を舞台にした組踊。1946年まで毎年上演されていたが、戦後の混乱などもあり、途絶えていた。台本が見つかったことをきっかけに、人間国宝として知られる宮城能鳳氏の指導を受け、89年に復活した。その後、数回上演されている。
島添大里按司と戦って敗れた大城按司の子・若按司が、佐敷按司の協力を得て島添大里按司を倒すあだ討ちの物語となっている。
出演者は全て区民で、ことし5月から練習を重ねてきた。本番では、区民の熱演に拍手や指笛が送られた。上演後、同文化保存委員会の島袋健会長は「大城区には多くの文化、芸能がある。これからも区民とともに伝統芸能を守っていきたい」と話した。
同区では組踊と大綱引きを5年おきに交互に実施していく予定。
大城大軍は大城を舞台にした組踊。1946年まで毎年上演されていたが、戦後の混乱などもあり、途絶えていた。台本が見つかったことをきっかけに、人間国宝として知られる宮城能鳳氏の指導を受け、89年に復活した。その後、数回上演されている。
島添大里按司と戦って敗れた大城按司の子・若按司が、佐敷按司の協力を得て島添大里按司を倒すあだ討ちの物語となっている。
出演者は全て区民で、ことし5月から練習を重ねてきた。本番では、区民の熱演に拍手や指笛が送られた。上演後、同文化保存委員会の島袋健会長は「大城区には多くの文化、芸能がある。これからも区民とともに伝統芸能を守っていきたい」と話した。
同区では組踊と大綱引きを5年おきに交互に実施していく予定。
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会場でいただいたプログラムに掲載されたあらすじを紹介したい。これまでの上演の歴史も綴られている。1946年まで毎年上演されていたという歴史の掘り下げが、かつての大里村ではなされていないのだろうか。大里村史をめくってみたい。



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