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「密航者」~波濤を越えて~ ヒロ子役の外間結香さん、熱演でした!追記~!

2022-03-28 04:35:52 | 沖縄演劇
「密航者」のチラシを見た時、取調室の取調官と密航しようとしたヒロ子という女性の攻防とあったので、三谷幸喜の「笑いの大学」の取調室が頭を掠めた。

「笑いの大学」は「昭和15年10月。日本が戦争への道を歩み始めていた時節、国民の娯楽である演劇は規制され、警察で台本の検閲を受けなければ上演できない。そんな時代に、生まれて一度も心の底から笑ったことがない検閲官・向坂睦男と、劇団『笑の大学』座付作家・椿一が警視庁の取調室で顔を合わせる。」という筋書きである。確かに笑えて、最後はペーソスが残る作品だ。

ということで、似たような語り芝居かと想像して、観るのはやめようかと思っていたが、24日にあらためて、主演が沖縄出身の女性でフランスで俳優、ダンサーとして活躍している外間結香さんだという事、そして演出が、読売演劇大賞最優秀受賞演出家ではないが、昨今その優秀演出家賞を二度受賞している「劇団俳優座」の眞鍋卓嗣という事で、「ああ観なければ」と考えた。しかし、主演が外間さんでなければ観なかったかもしれない。

それは、2016年だったか、日本の演出家として評価の高い栗山民夫さんのこまつ座「木の上の軍隊」の沖縄公演があった時、地元の新聞も大々的に宣伝し沖縄市民会館は満杯で大成功に見えたが、個人的には主演の役者が沖縄出身でないゆえに、聞こえてくることばへの違和感が大きかった印象があり、ことばのネックはいつでも大きいと感じていたゆえでもある。木下順二作「沖縄」の公演を観た時も感じていた違和感はことばの色合い、トーンからきた。きれいな日本語に翻訳された沖縄人の物語に感情が乗らないという壁は、昨今はNHK朝ドラの「ちゅらさん」(2001年度上半期に放送されたNHK『連続テレビ小説』シリーズ) 以降、幾分改善されたようには思えるが~。

本土の劇団が沖縄をテーマに標準日本語でやる舞台への違和感は、単純にウチナーヤマトグチやウチナーグチではないことが大きい。ウチナーグチの口調がない沖縄人の登場にとまどいがおこるという、本能的にハネてしまうものがある。パブロフの犬の法則か~。一方で沖縄で現代演劇活動をしている演劇人の口調が標準日本語の口調だという事は昨今は普通だ。それでも沖縄のなまりがある息遣いや所作を含め、そこには沖縄の生身の人間が演じているゆえに違和感は起こらない。

そしてこの『密航者』、外間結香さんが、圧倒的なパッションで1時間50 分だったか、演じのけた。力のある舞台女優(俳優)の登場に目を見張った。彼女の舞台を観るのははじめてだ。存在感があり、心理的に細やかな表情と演技、陰陽、抑揚が出せる女優から目が離せなかった。長身で美しく、バレーで鍛えた身体も際立っている。しかもウチナー訛り、ウチナーグチも丸出しの台詞だ。ウチナーヤマトグチ、標準日本語、ブロークン英語とそのマンチャー(ミックス)が耳障りいいのである。









そして対する取調官。同じ沖縄の人間で管理する側の人間の気位、プライドと卑屈、自己保身、同情、「猫にネズミは勝てない」という思い、米軍の手先になって反抗的な民衆を監視する役割を生きている。

笑って、そして泣けた。1955年、あの時空に引き戻された。米軍占領下の沖縄の現代史が迫ってきた。ヒロ子に象徴される蹂躙され、踏みつけられてなお、清次郎への思いが、二人がたどった痛みや怒りや悲しみや傷が、米軍のパペット、犬ならざるを得なかった取調官と対峙する。「清次郎はわたしがいないと壊れてしまう」、そのソーキ骨(そーきぶに)が一本かけた清次郎の純情、米軍の不合理な土地収奪で村が根こそぎ壊される現実に、必死でたち向かう姿に、ヒロ子は惹かれていった。

劇の筋立てにも驚きがあった。どんでん返しは何度でも密航してやると叫ぶヒロ子の絶叫で終わるが、力強い。取調官が清次郎に及んでいくその顛末の流れと対立軸のゆらぎと閉めが、魅惑的すぎた。

新しい知見と発見が伴うドラマの物理的パワーがある。北緯27度線を密航する者たちを取り締まる。その背景に米軍との確執の政治的背景が深く絡んでいた。1955年12月に日本復帰した奄美は反米闘争の温床になっていたと作者の嶋さんは言及している。清次郎が奄美に密航しょうとした動機の中にヒロ子に会いたいという思いの他に、当時の瀬長亀次郎に代表される沖縄人民党(現共産党)の政治的目的があったのではないか、それを暗示していた。驚いた。

演出家の冴えはたしかに実感を得た。冒頭の密航船の船頭(糸満漁師)と密航するヒロ子の場面、船頭を声だけで応答させる場面など、なるほどだった。結構迫力があった。糸満訛りの声音ではなかったが~。ステージは照明とプロットを一部移動するだけで、回想シーンなどリアルな清次郎とヒロ子のからみも浮き彫りになる。回想が舞台上で演じられる。ヒロ子と清次郎の恋がパラレルに取調室で演じられる。夏場の取調の現実【時間】に、過去の回想が重なっていく。Split stage に違和感は起こらない。舞台のマジックで、登場人物の動きや所作、照明や音響・音楽で観客の想像力や感情移入は引き込まれていく。

清次郎の行方はどこか、取調官比嘉は知っていた。俳優の清田正浩さんは時々ウチナーグチで話していたけれど、ちょっと物足りなかったのが正直な感想だ。沖縄の俳優陣の層も厚くなり、実力者が育っている。ここは沖縄の役者で良かった。言葉への違和感はやはり起こる。

ヒロ子が愛した清次郎役の齋藤慎平はまぁーウチナーンチュの風貌に見えなくはなかった。彫りの深い沖縄に~せーではなかったが、雰囲気は良かった。朴訥で純粋で怒りやすく、正義感にあふれる沖縄の青年!大工というのが脚本で生かされている。しかし実際の沖縄の役者を起用しても良かった。東京や大阪で上演するにしても十分沖縄出身の俳優はこの役をこなせる。地にパッションが伴うはずだ。

プロデューサーの下山さんは沖縄の事情をよくご存知のはずで、その上でそのキャスティングなのはなぜか、やはり中央を意識したものだろうか。沖縄出身の役者を抜擢して中央で競うのは厳しいのだろうか?

ステージは船のイメージ、そこに大きなテーブルと椅子。周りに並べられた木の椅子は演出家によるとヒロ子の関わった人々や過去の記憶だと言う。ACOの現代劇はいつも舞台美術がいい。この間観た舞台はどれも良かった記憶が残っている。今回の舞台は巨大な取調室だが、まるで牢獄の中のイメージでもあった。アフタートークで演出家の眞鍋さんが船のイメージだと話していたが、確かに船であって、もっと船を感じたかった。舞台美術プランは杉山 至。昨今舞台美術が注目されている。それは映像、衣装やメイクも含まれる。

(ランダムに書いている。公演は29日までだから多くの皆さんに観てほしい。)

音響と音楽は細やかで良かった。ステージの音響や音楽スタッフの位置づけはプロデューサーの下山さんの意見で取り入れたという、実際のライブ音楽はとてもいい。同じくACOの現代劇はライブ感覚で生の音楽演奏が入っている事例が多い。アフタートークでアナウンサーの狩俣倫太郎は、組踊で地謡が顔を見せる舞台について言及していたが、その1719年の形態も確かに踏襲しているのだろうし、第一、ライブの生演奏の面白さは、児童演劇でも普通の形態だからなのかもしれない。個人的にも以前国立劇場おきなわの小劇場で演出した時、ライブで地謡のお二人を表に出てもらったことがある。現代沖縄演劇の中には三線を奏でる演奏者がいきなり舞台に役者のように登場することもあり、奇抜な演出の面白さが実践されている。唐十郎や佐藤信のテント劇場を彷彿させる。

アメリカの戦闘機の爆音が会場でドカーンと流れる事は劇団「創造」もやっているが、今回爆音に民謡を重ねた演出は良かった。

演劇の筋書きの中の奄美と沖縄の位相、サイパンで両親を失い養父母になった奄美の家族から結局沖縄で春を売ることを強いいられたようなヒロ子の人生、地獄、どん底という言葉が響いてくる。しかし、清次郎に会い、ヒロ子は変わっていった。パンパンという言葉を久しぶりに聞いた。パンパンをしながら子供たちを立派に育てた沖縄のお母さんたちも結構いた米軍占領期でもあった。コザの街には奄美や離島から来た女性たちが多かったとの記録もある。食い扶持を求めて基地の街には女性たちが群がってきたのも事実だった。
多くのヒロ子を生み出した戦後沖縄の闇は「沖縄の少年」や「嘉間良心中」「カフェライカム」など作品が書かれている。



 続く!

余談 ***** 
映画にはシニア料金があるが、演劇にはシニア料金がない。映画館のようにシニアの観劇料金の引き下げを県会議員や市会議員に訴える必要があると昨今思う。60歳以上の年金受給者の年金は減らされている。しかし観劇料金は値上がりダッシュだ。「なはーと」だけではなく各劇場におけるどの公演でもシニア料金の設定を要求したい。映画並に。国立劇場おきなわもシニア料金がない。会員割引はあるが~。正規料金の2割引でいいと思う。
Discount Theatre Tickets London | London Theatre Direct ←半額チケットも売られているが、シニア割引はないのかな?
ブロードウェイにも似たようなサービスはある。

★ただ琉球舞踊の独演会が4000円で、ACOが文化庁などからの助成金【文化庁文化芸術振興費補助金・舞台芸術創造活動活性化事業】を得て2800円である。安めに設定されてはいた。

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