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もの書き、ガムランたたき、人形遣いPの日記

武満徹編《ゴールデン・スランバー》

2009年07月01日 | CD・DVD・カセット・レコード
 中学生の頃に買ったビートルズのレコードは、国内盤よりはるかに安く買うことのできた輸入盤だったために歌詞を調べようとするのがたいへんだった。輸入盤には歌詞が入っていないために英語を日本語に訳すことはできず、日本盤のレコードを持っている友人を見つけては、学校へは持参禁止のレコードを隠し持ってきてもらい、先生に見つからないように音楽室で歌詞と訳詞をノートに写したものだった。
 そんな歌の中に《ゴールデン・スランバー》がある。旋律があまりにも美しく、まるでロックとはいえないような編曲に魅了された十代前半の私は、なんとかこの歌詞を手に入れようとしたが簡単ではなかった。何年かしてやっと日本盤の歌詞カードを見たとき、あまりにも悲しい歌詞に愕然としたものだった。
 《ゴールデン・スランバー》はその最初の二行で、懐かしい故郷、懐かしい家へと続く道はもう存在しないと明言しているのだ。やさしい旋律は過去を振り返らせてはくれない。子ども心にはその甘く切ない旋律が、まるで過去への憧憬を物語っているように思えたのに・・・。それから僕は、なんとなくこの曲を避けるようになった。僕にとっての「金のまどろみ」はそんな悲しいものではないから。
 武満徹のピアノ作品にビートルズの作品を編曲した《ゴールデン・スランバー》がある。ピアノの曲なので当然そこには歌詞はない。このピアノ作品を聴くたびに僕は思うのだ。歌詞がなくなったとき、私は始めて自由にその音楽からさまざまな想像をめぐらすことができる。そのとき私は自身の「金のまどろみ」の中で、武満のピアノ作品が醸し出す透明な響きを通して、この曲の歌詞を写したあの頃の自分を見つめている。懐かしい故郷、懐かしい家へと続く道は、この曲の中に長く長く続いているのだ。
(写真のCDは高橋アキ「”ゴールデン・スランバー”Best of Hyper Music and Lenon & McCartony」)