時空トラベラー THE TIME TRAVELER'S PHOTO ESSAY

歴史の現場を巡る旅 旅のお供はいつも電脳写真機

「くにのまほろば」ヤマト世界を見渡す ー龍王山登山ー

2012年10月24日 | 奈良大和路散策
 以前から山辺の道を歩くたびに思っていたのは、その背後にそびえる龍王山に登れば、きっとヤマトが一望に見渡せるだろうなということ。ヤマト世界のランドマークになる三輪山が一番いいのだろうが、ここは聖なる山なので、入山するには三輪神社の許可を貰い、さらにいろいろ制約がある。まず写真を撮ってはいけないので、ブラパチ写真家の私にとってはなかなか辛い。だから隣に連なる龍王山が撮影にはベストだ。何時か登ろう、と。

 龍王山は,山辺の道の長岳寺、行灯山古墳(崇神天皇陵)の東にそびえる586mの山である。奈良盆地をグルリと取り囲む大和青垣の一つで三輪山に隣接する。邪馬台国近畿説に立てば、ちょうど卑弥呼の居たと言う邪馬台国の背後にそびえる山と言える。

 秋晴れの好天の週末、とうとうこの山に登ることが出来た。予想通りの素晴らしい展望である。まず、眼下には崇神天皇陵、景行天皇陵などの6世紀頃の大型古墳、三角縁神獣鏡が大量に出た黒塚古墳など大倭古墳群が。さらには卑弥呼の墓ではないかと言われる3世紀の箸墓古墳が見える。正面には二上山がそびえ。そのやや北の山稜の途切れるところに竹内街道の穴虫峠。さらに右(北)には信貴山、生駒山。左(南)に眼を転ずれば1000m級の葛城、金剛山を背景に、大和三山が展望出来る。まさに大和国中を一望出来る位置だ。

 龍王山登山には二つのルートがあるが、今回は崇神天皇陵脇から登るルートをとった(もう一つは長岳寺から登るルート)。途中、龍王山古墳群を抜ける。山道沿いに古い玄室が確認出来る古墳が一基あるが、ほとんどの古墳は鬱蒼とした森林の中に埋没してしまっていて視認する事はできなかった。6ー8世紀頃の横穴古墳が800基ほどあるそうだが、ほとんど調査が行われていない謎の古墳群。

 山道は、標識は整っているものの、結構なガレ場続きで歩くのに難儀する。しかも途中休憩するところも無いので意外に苦戦する。ゼイゼイいいながらやっと長岳寺奥の院の道標まで来た。しかしそれらしき堂宇も見当たらない。不動明王の石像といくつかの石碑が木立の間に見えるだけだ。

 さらに1キロほどで、4キロの登山道を上り切る。田龍王社まで来ると、何の事は無い、狭いながらも舗装された車道があって車で登ってきている人がいる。近郊登山によくある事だが、正直かなりガッカリする。格好はイッチョマエの山ガール達がキャーピーキャーピー車から降りてくる。「オーマイガット!」 逆に、山ばあちゃん(失礼)と山道ですれ違い、「こんにちわ」の挨拶を交わしたが、そのカクシャクとした姿に励まされたりもした。

 山頂は中世の龍王山城遺構となっており、南城と北城に分かれる。北城の方が広いが、南城の主郭跡が三角点のある龍王山山頂だ。ここからの展望が先述の通り素晴らしい。龍王山城は戦国時代に地元の豪族十市氏によって築かれた山城で、その縄張りは高取城を上回る広大なものであったという。しかし今はその面影を見つけようにも明確な痕跡が見当たらない。石垣などもほとんど残っておらず、高取城のように幕末まで続いた城じゃないので、遺構は自然に帰してしまっているのだろう。

 山頂から奈良盆地を見下ろすと、卑弥呼の神殿跡ではないかと言われる纒向遺跡は、ちょうどこの龍王山と三輪山を背後に、西向きに二上山の方向の東西軸に位置づけられている事がはっきり確認される。弥生時代末期から古墳時代、飛鳥時代の古代倭人の世界観が手に取るように分かる。この見渡せる範囲内の奈良盆地の中で宮都が転々と遷り、飛鳥古京、藤原京を経て平城京へと北上して行く。そして主要な豪族や渡来系の氏族の本拠地はこの盆地を取り巻く山々の麓に点在している。まさに「ヤマト」(山処:やまのあるところ)にムラ、クニがあった。

 ギリシャのデルフォイ神殿や、古代ローマのフォロロマーノ、中国の長安城のような空気とは異なる、まことにこの視野の範囲内の、山々に抱かれた自然の箱庭のような世界が古代ヤマト世界だったのだと。自然を征服するのではなく自然の中に「生えている」(共生している)姿が古代ヤマトだった。そして、外の世界とはあの二上山北の山稜の途切れる峠道のむこうの、難波、瀬戸内海、チクシを通じて繋がっていたのだと。これが此岸「国内」、彼岸「国際」二元論の原点かと。

 足下の悪い山道を下山し(途中で滑って転び、大事なニコンのズームレンズを岩にぶつけて壊してしまった。しかし本体のカメラボディーは傷がいくつかついたものの堅牢そのもの。さすがDurable, Dependable Nikonだ。)、山辺の道から二上山に沈んで行く太陽を観ていると、自らが感じうる自然の摂理に恐れ敬い、仏教伝来後には、西方極楽浄土を憧れた、古代倭人の宇宙観を感じる事も出来る。「やまとはくにのまほろば」とはこの姿,佇まいを歌ったものなのだ。

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(撮影機材:Nikon D800E、 AF Nikkor 24-120, AF Nikkor 80-400、下山途中に滑って、転倒し24-120ズームレンズを壊してしまった。)

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(アクセス:JR桜井線(万葉まほろば線)柳本駅下車。柳本の街を通り抜け、崇神天皇陵から登るルートと長岳寺から登るルートがある。約4キロで山頂へ。)