時空トラベラー THE TIME TRAVELER'S PHOTO ESSAY

歴史の現場を巡る旅 旅のお供はいつも電脳写真機

夙川は桜がきれいだ ーマルーンの疾走 阪急電車ー

2012年04月11日 | 神戸、阪神間散策
 関西に赴任して、初めての夙川の桜、今年は寒さが続き、台風並の暴風雨があったため、春の訪れが待ち遠しかった。関西では、ようやく4月の第一週の週末7日、8日に桜が七分咲きとなった。出張でとんぼ返りした東京では、千鳥ヶ淵の桜はすっかり満開であったが。

 ここ夙川河畔は、河川土手2.7kmに1,700本の桜が見事に咲き誇っている。普段は通勤、通学客が中心の阪急夙川駅も,このシーズンだけは花見客でごった返す。夙川駅は一部が夙川に架かっているので駅のホームからも桜が見れる。駅を出てすぐに左手へ折れるともう夙川土手だ。この時期、ちょうど新入社員、新入生の歓迎会シーズンでもあり、狭い河畔沿いの緑道公園には花見のブルーシートが敷き詰められ、あちこちで若い声が響き、にぎやかな集団で足の踏み場も無い。ようやく春の訪れだ。

 しかし、桜って不思議な樹だと思う。一年のほとんどの時間を、日本の風景のなかで、ひっそりと目立たず潜んでいるのに、この季節、一週間だけは,世の中の風景を一変させる。思いっきり一斉に変える。日本中こんなにあちこちに桜があったのか、と気付かされる。そして一気に散り行く。日本の国花であるという事をあらためて認識させられる。

 ここ夙川沿いも、日頃は松並木の方が目立っていた。松は常緑であるだけに、花の咲いていない桜の樹は逆箒にしか見えなかった。松も最近は松食い虫の被害で以前よりは少なくなってしまったようだが、桜並木と松並木のコラボレーションがここ夙川の景観をシンボライズしている。

 幼少期に、夙川の祖父母の家で遊んだうっすらとした記憶の中にも、阪急の線路沿いの松並木のイメージは残っているが、あまり桜並木の記憶は残っていない。きっと、春に遊びに行った事が無かったのだろう。

 阪急電車は、伝統のマルーン。上品なカラーの車両で阪神間の山の手を疾走する関西を代表する私鉄だ。車両形式とデザインを統一し、時が遷ってもボディーカラーを変えず、編成美を保っている。高級感漂う木目調の室内とゆったりしたモケットシートも素敵だ。かつては関西の高級住宅街を走り,「阪神間モダニズム」を象徴するチョットお高くとまったイメージだった。乗客の顔が違う,なんていわれた時期もあった。

 西宮七園に代表される高級住宅街の誘致や宝塚歌劇団の創設は、小林一三氏の企業家としてのビジョンと、文化人としての価値観を見事に体現した電鉄事業経営の産物であった。関西ならではの先進性であった。また、新しい試みにも躊躇せず、自動改札や動く歩道をいち早く導入したのも阪急だった。

 しかし、今の阪急梅田駅辺りの動線の混乱ぶり一つとっても、あの見事なシャンデリア輝く、広いコンコースを知っているものにとっては「どうなってしまったんだろう,阪急は...」という溜め息しか出て来ない。関西経済の地盤沈下と、沿線のマンション、アパートなどの集合住宅の増加に伴い、乗客もサラリーマン化して、朝夕のラッシュ時は、首都圏ほどではないが混雑度も結構なもの。必然的にマナーも「関西我れ先ルール」がここでも幅を利かせることとなる。また沿線には学校が多く、学生が多いので、若くて活気があるのはいいが、なんか「特別な」が無くなって、「普通の」電車に変わってしまった感がある。いつまでも過去のノスタルジアに浸っているわけにはいかないが...

 それでも、相変わらず阪急電車は都会的でカッコイイし、沿線の景色は素晴らしい。夙川から芦屋川、六甲へ向かうと、六甲山、その麓の緑濃い住宅街、起伏ある路線を西へ疾走するその姿はまさに優等列車の風格だ。震災の影響もあってか、沿線の桜並木も松並木もすっかり少なくなってしまったが、この時期、桜花とマルーンの阪急電車、はよく似合うと思う。

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(撮影機材:Fujifilm X-Pro 1, Fujinon 18, 35, 60mm, X10)