院長のへんちき論(豊橋の心療内科より)

毎日、話題が跳びます。テーマは哲学から女性アイドルまで拡散します。たまにはキツいことを言うかもしれません。

製薬会社による医者の接待

2012-11-29 06:53:03 | 医療
 1975年、医者になりたてのころ、製薬会社の接待攻勢にたまげた。

 神戸で学会があったので先輩について行った。そうしたら、神戸の駅で製薬会社の人たちが待っていた。すぐタクシーに乗せられ、高級料亭に連れて行かれた。

 トンカツやハンバーグでさえ、実家に戻らなければ食えない貧乏学生生活を送っていた私にとって、その料亭は別世界だった。見たこともない豪華な料理、若造の私を下にも置かないもてなし。こんなのアリか?と思った。

 当時、学会を担当する大学自体が、学会のプログラムの付録に現地の観光案内を載せていた。医者が学会に合わせて現地を観光するのは習慣のようになっていた。今でもそうだが、学会出張は「業務」として、公立病院でも出張旅費をくれる。だから、学会は口実で、観光旅行が目的のような医者もいた。

 一方、大学紛争の騒ぎが学会にも持ち越されていて、極左出身の若手の医者が、製薬会社と医者の癒着を批判していた。そのため、豪華な接待は一時下火になった。

 しかし、製薬会社が医者が求める文献(たいがい英文)を捜して、医者に持ってくるサービスは依然として続いていた。接待よりも研究の手伝いのほうが罪責感が少なかったからだろう。

 文献捜しというのは、図書館で目当ての論文を見つけてコピーを取ってくるという作業である。今のようにインターネットがなかったから、文献捜しは人手と時間を要した。人件費を考えると、製薬会社にとっては接待よりもよほど負担だったに違いない。

 1990年ころ、各製薬会社が「カルテル」を結び、医者の文献捜しを一斉にやめた。だが、接待はやめなかった。ただ、かつてのように嘘みたいな豪華な接待はなくなった。

 そして今年の4月から、とうとう接待はなくなった。どうも公正取引委員会の指導によるらしい。

 言うまでもないことだが、薬剤は効能で売るべきで、接待で売るべきではない。

 私は7年間、精神障害者社会復帰施設にいて薬を使わないことがあった。当然のことだが、その間、製薬会社からのアプローチは見事に一件もなかった。やっぱり製薬会社は薬を使う医者のところにしかこないのだと、思い知った。