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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

赤い鳥

2010-07-03 | 言葉
 7月1日、西池袋にある自由学園明日館で「第40回赤い鳥文学賞」、「第28回新美南吉児童文学賞」、「第24回赤い鳥さし絵賞」の贈呈式があり、その会場に顔を出す機会があった。
 この日、7月1日に贈呈式を行うのは、今から104年前、1918年(大正7年)7月1日に作家・鈴木三重吉によって雑誌「赤い鳥」が創刊されたことに因んでいる。
 その「赤い鳥」の足跡を顕彰するとともに後進の作家を世に送り出すという使命感をもって、この文学賞の創設に尽力したのが「びわの実文庫」で知られる作家・坪田譲治である。
 その坪田譲治の旧宅もこの日の会場となった自由学園のすぐ近くにある。

 残念なのは、その「赤い鳥」の名を冠した文学賞も今回をもって幕を閉じることになったということ。いろいろ事情はあるだろうがもったいない、と思うのは部外者の勝手である。
 この賞の運営は坪田譲治先生のお弟子さんたちを中心に行われてきた、その人たちが次第に高齢化して、まだ元気なうちにきちんと仕切りをつけたいということなのだろう。それはそれで潔い考え方だ。

 さて、各賞の受賞者と作品は次のとおり。
 第40回赤い鳥文学賞: 岩崎京子「建具職人の千太郎」(くもん出版)
 第28回新美南吉児童文学賞: 三輪裕子「優しい音」(小峰書店)
 第24回赤い鳥さし絵賞: 田代三善「建具職人の千太郎」(くもん出版)

 ここで紹介するゆとりがなくて残念なのだが、受賞された皆さんのスピーチが素晴らしかった。岩崎さん、田代さんともに米寿ということのようだが、独特のユーモアと絶妙の間で会場を沸かせていた。
 田代さんの挨拶には、今は寝たきりになられた奥様への愛情もこもって胸が熱くなった。
 受賞の報告をすると、意識があるのかないのか定かではないが、奥様はその本をそっと手で撫でたのだそうだ。
 田代さんは今回の自身の作品について、職人を主題にした絵としては「少し色気が足りなかったようだ」と反省の弁を述べておられる。
 「自分は88歳だが、まだ少し時間が残されているようなので、もう少し描いてみようかと思う」との言葉には聞いているこちらが励まされるようだ。

 最近、何となく心のすさむような出来事が多く、鬱屈を抱えたような気分でいたのだったが、きれいな水で洗われたような清々しさをいただいた。


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2 コメント

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ありがとうございました (田代知子)
2010-07-03 20:16:06
はじめまして。
田代三善の娘でございます。
温かな文章を頂き、ありがとうございました。
父に代わりましてお礼申し上げます。
父母の今までを思いますと、私にとっても想像していた以上に感慨深い式となりました。
絵描きの先輩としても、父からもっと多くのことを学びたいと思うこの頃です。
ありがとうございました。
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こちらこそありがとうございました (seishiro)
2010-07-08 23:29:19
田代先生の授賞式のスピーチはいまも脳裏に深く刻まれています。今の時代に何を描き、何を次の世代に残していくのか、そのためにどう生きなければならないのか、そんなことを教えていただいたようで励まされます。
しかもそれを実に軽やかな言葉で表現されていました。もちろんその背後には私などには計り知れない人生の積み重ねがあっての言葉です。
懇親会場では私の部下がお父様にご挨拶させていただいたようです。ありがとうございました。
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