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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

自分の価値の測り方

2014-07-21 | 雑感
 最近、ジャパネットたかたの田社長勇退のニュースやスタジオ・ジブリの世代交代に関する報道が相次いだためか、組織の人材活用や刷新のあり方について考えることが多い。
 もっとも難しいのは、それまで業績をあげ、組織の発展に功績のあった人材の交代をどうするのか、新しい人材をどのタイミングで入れ替えるのかということだろう。
 長く仕事をしていると、今こそが最高のチームだ、これ以上の組織はない、と思える瞬間のあることがある。であれば、その組織をそのまま維持していけばよいのではないかと思うのだが、それが必ずしも業績の維持や組織目標の達成につながらないのが悩ましい問題なのだ。
 そのことは前回のW杯で優勝したスペインが、当時のメンバーを3分の2引き続いて起用してブラジル大会に臨んだ結果を見ても明らかだろう。
 最高のチームが、半年後、1年後も最高のパフォーマンスを発揮するとは限らない。これは組織の非情ともいえる原則なのかも知れない。なまじ成功体験や過去の業績があるだけに古参メンバーの処遇は頭の痛い問題になりがちなのである。

 ジョン・ル・カレの小説の主人公である中年のスパイ、スマイリーの独白には思わず苦い笑いを浮かべてしまう。もちろんそれは自身の姿と重ね合わせてのことだ。……

 ……それがどうした、と彼はこたえた。そのとおりだとして、それがどうした。
 「世界の崩壊を防げるのは、中年の太ったスパイただひとりだと思うのは思いあがりも甚だしい」自分にそう言いきかせた。べつのおりには、「未完の仕事をのこさずにサーカスを去った者なんて、ついぞきいたことがない」といいきかせた。……
                   「ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ」村上博基訳

 自分はこのチームに貢献してきたし、十分な成果もあげた。多くの後輩も育ててきたし、自分自身がこのチームを去ることなどあり得ない。まして自分の存在自体が組織のチームワークを害することなど……、というのは、もうじき引退の時期が近づいたと囁かれる年回りの人にとって誰しもが覚える感慨かも知れない。
 しかし、誰もが客観的に自分自身を見つめられるわけではない。
 自分の仕事に誇りを持つことは大切だ。だが、それ以上に重要なのは、謙虚になるということである。

 そんなことをジョン・ウッデンの人材育成に関する言葉をまとめた『元祖プロ・コーチが教える育てる技術』(ジョン・ウッデン/スティーブ・ジェイミソン著:弓場隆訳)を読むと教えられる。
 ジョン・ウッデンは、ご存知の方もいるだろうが、20世紀のスポーツ界で、UCLAバスケットボール・チームの伝説的な教師、コーチであり、おそらくすべてのスポーツにおける最も偉大な優勝記録を打ち立てたと紹介されている人物である。
 この本の中に、アメリカのユーモア詩人・オグデン・ナッシュの次の詩が引用されている。それを丸ごと書き写して自戒としよう……

  自分が重要人物だと感じたり、
  エゴが前面に出てきたり、
  自分が今の地位についているのは当たり前だと思ったり、
  自分がいなくなったら、その穴は埋められないと感じたりするときは、
  次に書いてある簡単なことをやってみよう。
  そして、どれだけ謙虚な気持ちになれるか、試してみよう。

  バケツを水で満たし、
  手首まで水に入れ、その手を出す。
  あとに残った穴が、あなたの値打ちを測る目安だ。
  手を水の中に入れるときは、好きなように水しぶきをあげてよい。
  思う存分、水をかき回してもよい。
  でも手を出して一分ほどたてば、
  以前となんら変わらないことがわかるはず。

  奇妙なたとえ話だが、学べることがある。それはつまり、こういうことだ。
  全力を尽くせ。
  自分に誇りを持て。
  しかし、これだけは覚えておけ、
  かわりが見つからないような人などいやしないということを。