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流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

トリツカレルということ

2010-06-30 | 言葉
 四世鶴屋南北は56歳でその名を襲名し、70歳で「東海道四谷怪談」を書いたそうだ。
 「お岩幽霊」の劇作家・坂口瑞穂氏はその芝居のパンフレットの中で南北のことをトリツカレタ男と形容している。
 南北は読み書きが得意ではなかったという説があるようだが、そんな老狂言作者が、深夜ひそかに筆を舐めつつお岩殺しの話を一字一字書き進めているという図はその怪談以上に怖ろしい。
 そのエネルギーというか執念の源はなんだったのだろう。

 27日の日曜日、立教大学で行われた市民向けのパネルディスカッションを聞く機会があった。
 「つながるいのち……いま生物多様性を考える」をテーマとして、東京女子体育大学の圓谷秀雄教授がコーディネーターを務め、横浜国立大学名誉教授の宮脇昭氏、立教大学理学部教授の上田恵介氏が話をした。
 宮脇昭氏は「今年わずか82歳」と自称される植物生態学者だが、世界中に4千万本の木を植えた男として知られる方だ。
 一昨日ロシアから帰国したばかりで明日にはもうモンゴルに旅立つという。劇場の暗がりに棲みついて、一つの町からからほとんど外に出たことのない私など、さしずめ純粋培養のひよわなモヤシでしかない。
 宮脇節とも言えるそのお話はまさにエネルギーに満ちている。ここにもトリツカレタ男がいた。

 その生物多様性だが、いまや日本では4つの危機にさらされているという。
 そのうちの3つが人間の営為によるものなのである。
 第1が、開発や乱獲など、人間活動による種の減少・絶滅、生息・生育地の減少。
 第2が、人間活動の縮小(里地里山などの手入れ不足等)による自然の荒廃。
 第3が、人間により国外から導入された外来種による地域固有の生物相や生態系の撹乱。

 これらもまた、何かにトリツカレタ人間たちの所業なのだろうか。


 


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