seishiroめもらんど

流野精四郎&東澤昭が綴る読書と散歩、演劇、映画、アートに関する日々の雑記帳

伝わる言葉

2009-01-15 | 言葉
 米国のオバマ次期大統領の就任式が近づいてきた。政治、経済に限らず、あらゆる局面で「オバマ待ち」という状況のなか、オバマ大統領が就任式でどのような演説を行うのか、世界中が注視しているといってよいだろう。
 私も役者としてでなく、スピーチライターのはしくれとして多大な関心を持っているのだが、人の心に響くスピーチの要諦は何だろう。

 歴代大統領のなかで最も有名なケネディの就任演説がいかに生まれたか、13日付けの毎日新聞に論説委員の玉木研二氏が書いている。
 当時、ケネディの側近で演説執筆者だったソレンセン元大統領特別顧問によると、彼はケネディの指示で歴代の就任演説の全部を読み、さらに有名なリンカーンのゲティスバーグ演説を徹底的に分析したとのこと。
 その結果、リンカーンは用語が簡潔で1語で間に合う場合、絶対に2語、3語と余計な言葉を使うことがなかった。これはケネディ演説に応用された。
 さらにケネディは、20世紀最短の演説にしたがり、「私」を全部「我々」にしようと手を入れたとのことだ。

 ソレンセンの名前は私にとってもなつかしい。片田舎の中学生だった頃、何を思ってか、なけなしの小遣いをはたいてソレンセンの著作「ケネディへの道」を購読した思い出がある。政治に何の興味もなかったはずなのに、ちゃんと読んだ証拠に、巻末近く、暗殺され、病院のベッドでシーツにくるまれたその遺骸を医師たちと見守りながら、彼は大きな人だったと感慨をもらす部分は今でも時たま胸を熱くしながら思い出すことがあるのだ。不思議なものだ。

 もう一つ思い出すのが、1986年、スペースシャトル爆発事故で亡くなった宇宙飛行士たちへのレーガン大統領の追悼演説だ。(これについては同じ毎日新聞、安部新首相が誕生した2006年9月の余禄で紹介されている。)
 飛行士たちが「神の顔に触れたtouch the face of God.」という詩句で結ばれる歴史的名演説である。
 レーガン大統領は「グレートコミュニケーター」と称され、親しみやすい平易な言葉でその保守政治への国民の信頼を取り付けた。
 そのスピーチライターとして有名になったのがペギー・ヌーナン氏で、彼女は、偉大な演説の要諦は「びっくりするような簡潔さと明快さ」であると言っている。
 
 元俳優のレーガンは、彼女の書いた原稿を完璧に暗記し、見事に演じきった。
 まさに、簡潔で平易なセリフと熟達の演技力が相まって人々の心に響く演説が生まれたのである。
 大統領就任演説の準備には、ブロードウェイでも最高の舞台監督やスタッフが集められ、拍手や反応まで計算した演出が施されるという。最高のエンターテインメントとして、言葉がどのように伝えられるのか、楽しみにしたい。