坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

シャガールと蜂の巣の共同アパートの住人たち

2010年07月05日 | アート全般
ポンピドー・センター所蔵の「シャガール」展がオープンしました。戦時中の亡命先、アメリカでの赤い馬などの油彩画の大作も見ものですが、ニューヨーク・メトロポリタン歌劇場のためのモーツァルト歌劇「魔笛」の背景幕のシリーズ画は、シャガールの色彩と幻想の本質を語っているように思いました。シャガールはオペラにも精通していて本領発揮といったところでしょう。
若き日、ロシアのヴィテブスクから夢を追い求めてパリに出て、モンマルトルにかわって、芸術のメッカになりつつあったモンパルナスに落ち着きます。1902年彫刻家アルフレッド・ブーシェが「蜂の巣」(ラ・リュッシュ)のような円形の建物を建てます。貧しい芸術家の共同アパートとして、ヨーロッパのさまざまの国から来た若き芸術家たちが住みつき、新しい芸術の拠点となりました。シャガールの他に、住人だった顔ぶれは、アルキペンコ、ザッキン、ローランス、リプシッツ、スーティン、パスキン、モディリアニ、キスリングなど。
掲載の「婦人像」のキスリングはその中でもリーダー的な存在で、色彩的キュビスムといわれるコントラストの激しい色彩と簡潔なフォルムの独自の様式美を確立しました。彫刻家が多いのも特徴で、これだけの芸術家が同時期に揃ったのは奇跡的です。エコール・ド・パリの最も華やかな時代でした。