坂野直子の美術批評ダイアリー

美術ジャーナリスト坂野直子(ばんのなおこ)が展覧会、個展を実際に見て批評していきます。

アンドレ・ボーシャン展 世界で一番美しい庭

2010年07月11日 | 展覧会
アンドレ・ボーシャン。アンリ・ルソーと並んで素朴派の代表的画家として知られています。ルソーは日曜画家ではありましたが、ピカソらキュビスムの画家たちに影響を与えたことでも示されるように、もはや素朴派の範疇ではなく、19世紀末から20世紀初頭にかけて美術史の変遷に大いに寄与した芸術家として挙げられます。
その点でいえば、ボーシャン(フランス、1877-1958)はボタニカル・アートにも通じる画法で華やかで密度のある絵画の王国をつくりました。他のスタイルに追従しないという点では二人に共通するところです。花や自然、ギリシャ神話に題材をとった油彩画70点という本格的な回顧展が、伊丹市立美術館で開催中です。
掲載作品「ラヴァルダン城の前 丸いフルーツ皿に載った果物と花」1957年
遠くうっすらと山並が見え、丘の上に古城が見えます。前景には、フルーツ皿がシンメトリックな構成で、頂点に花が盛られ、洋ナシなどの果物がお行儀よく並んでいます。画面下にもびっしりと果物の色合いと呼応する花々が描かれています。
極端な遠近感により、より果物と花が眼前にインパクトをもって現れます、画面隅々まで均等に緻密な細部表現が特徴的です。砂糖菓子のような色合い。それぞれが音符のように画面に配されています。
ボーシャンは園芸師の息子として生まれ、自身も園芸師として自然に親しみ、花を慈しみました。そこには笑顔があふれています。