我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

『“AAAアドバンスドステージ”とはなんだったのか?』第一部:地ガ同盟

2023-05-02 21:04:37 | 宇宙戦艦ヤマト2202


 2203年6月に実質的終結を迎えたガトランティス戦役において、地球連邦は膨大な戦力を前線に投入、文字通り天文学的規模を有するガトランティス帝国本星軍に対して、最後まで抗戦を継続した。
 その僅か3年前、地球が大マゼランの雄「ガミラス帝国」の侵攻により国土と文明をほぼ完全に破壊され、種として滅亡寸前だったことを思えば、数百万隻規模の侵攻軍と全宇宙の人型知的生命体の創造主が遺した文明破壊兵器を阻止し得たことは、“奇跡”以外の何物でもなかった。 
 その奇跡の呼び水であり、核心であったのが「宇宙戦艦ヤマト」であることは論を待たないが、同時にヤマトと同等、或いはそれ以上の役割を示したファクターとして「時間断層」がある。
 イスカンダル王国から供与されたコスモリバースシステムが地球の自然環境を復旧する際に生み出した副産物とされ、当初はその発見も存在も最重要機密として厳重に秘匿されていた。ガトランティス戦役後、初めて存在が一般に公開され、全連邦市民を対象とした国民投票の結果、破棄されるという数奇な運命を辿ったものの、時間断層の存在こそがガミラス戦役後の地球の復興とガトランティス戦役における徹底抗戦を物質面で支えていたことは間違いない。更に、時間断層とそこに設置された官営工廠はガミラス帝国との同盟関係構築にも無視できない影響を及ぼしているが、この点については後述する。

 一般に時間断層の内部では通常空間の10倍のスピードで時間が経過するとされており、その時間差を用いた生産速度の画期的増進こそが時間断層工廠の持つ戦略的価値であった。通常は3年弱、1000日を要する大型戦艦の建造が僅か100日、3カ月強で完成すると考えれば、その価値の大きさが分るだろう。但し、一口に時間断層と言っても、内部の時間速度は一様ではない。そこには“深度”という空間概念があり、深度が増すほどに時間速度も上昇していくのである。
 理論上、その最深部では加速に加速を重ねた時間は無限大にまで引き伸ばされることになり、そこに軍需工場を設置すれば、あらゆる武器装備が一瞬で完成することになる――が、現実はそれほど単純ではなかった。
 時間断層内において、有機生命体は体内/外の経過時間ギャップを軽減する特殊な防護装置がなければ僅か数分で死に至るのに対し、無機物はそこまでの空間影響は受けないとされている。しかし影響は決して皆無ではなく、通常空間よりも急速に酸化や劣化、変質といった化学反応が進行するのである。
 あらゆる産業用機械装置は定期的なメンテナンスにより、稼働に伴う消耗だけでなく、経年的消耗を緩和解消することで健全な機能を維持している(この点は、ガミロイドやAUユニットといったアンドロイド/ロボットであっても例外ではない)。しかし、保全や保守を遥かに上回るペースで劣化や消耗が進行する場合、設備の稼働は故障により停止しがちとなり、生み出される製品の不良率は高くなる。この点を考慮すれば、工場を設置する時間断層の深度は一概に深ければ深いほど良い訳ではなく、稼働率や歩留まりといった工業経済性の観点から最適な深度(時間速度)が導き出されるのである。
 最終的に時間断層工廠が設置されたのは、通常空間の10倍の時間速度を有する深度であり、本深度区画全体の総称として「第一層」という名がしばしば用いられた。

 一方、地球連邦準備政府内部において特極秘とされていた時間断層の存在を例外的に知らされた外部組織があった――先年までの仇敵、ガミラス帝国新政権である。



 当時、帝国は混乱の極みにあった。
 首都星バレラスでのヤマト迎撃戦に端を発した一連の混乱でアベルト・デスラー独裁体制が瓦解、レドフ・ヒスを臨時首班とする民主的傾向の強い新政権が誕生した。しかし、大小マゼラン銀河及び天の川銀河の一部にまで及ぶ広大過ぎる帝国領域各地には、消息不明となったアベルト・デスラーに未だ忠誠を誓う部隊や第二代総統の地位を狙う貴族勢力、更にはガミラスによる統治からの脱却を果たそうとする独立勢力までもが跋扈しており、新政権の政治的基盤は極めて脆弱だった。実際、当時の帝国議会筋においてすら、新政権を維持しているはバレラスに長期逗留しているイスカンダル王国第三皇女ユリーシャ・イスカンダルの存在が与える政治的正当性と、親衛隊帝星保安本部に代わり帝国内諜報活動を統括するようになった内務省保安情報局の活動故と言われていた程だ。
 そんな新政権にとっての喫緊の課題は、旧体制下で野放図なまでに拡大した帝国領の整理と安定化であった(この時期、未だ首都星バレラスの寿命問題は明らかになっていない)。デスラー治世末期、体制内部からも既に帝国版図は拡大限界に達しているとの声が上がっており、特に領域全体の軍事密度は危険なまでに低下していた。
 それでも、一見帝国が盤石に思えたのは、銀河間経済の大動脈として亜空間ゲートを自由に使用することができたこと、更に帝国軍の機動予備戦力――空間機甲軍――の運用が巧みであったからだが、その両方がヤマトのバラン星ゲート突破により大きく損なわれてしまったのである。
 結果は、帝国領最外縁部にとっての地獄の現出に他ならなかった。ガトランティス帝国やボラー連邦等の他星間国家による侵略や干渉、星系内での被征服民の叛乱などが発生しても、本星からの救援が間に合わず危機に陥る植民星が相次いだのだ。
 そうした守り切れない植民星系をいち早く整理することが新政権には求められたが、それも容易ではなかった。民主化を旗印に掲げることで求心力を得ている新政権にとって、既に定着している入植団を彼らの意思に反して強制的に移住させることは内政的に極めて困難だった。
 新政権は各地の入植団に対し退去を“勧告”したものの、それに応じない、或いは応じる物理的能力を持たない植民星は多数に上り、それは特に天の川銀河において顕著であった。
 デスラー体制下においても、ガミラスが概ね支配権を確立している大・小マゼラン銀河内での入植より、未だごく一部のみを支配下に置いているに過ぎない天の川銀河への入植は安全保障的に遥かに危険度が高いとされていた。しかし、多大な経済的支援を含む帝国政府の強い後押しにより、天の川銀河への入植事業は強行されたという経緯があった。
 そうした事情もあり、入植に応じたのはガミラスにおいても最下層に属する人々が多く、全てを投げ打ち腕一本脛一本で入植を果たした彼らが、ようやく自らのものとした大地を捨て去ることなどできる筈がなかった。彼らには、新政権の勧告に従ったとしても、再び別の新天地に入植を果たすだけの力も機会も既になかったからだ。
 加えて、旧体制下において天の川銀河への入植団に現地民との同化が強く勧められていたことも、ここではマイナスに働いた。
 後に明らかにされたとおり、本政策はサレザー恒星系を長期間離れたガミラス人の疾病罹患率と重篤化率が劇的に跳ね上がるという疫学的特徴に起因していた。一定以上の社会的地位にあるガミラス人にとって他種族との交配は、自らの“高貴なる蒼”を穢す行為であるとして忌避されることが多かったものの、天の川銀河に入植したガミラス人たちは所属する社会階層もあってか、そうした選民意識が相対的に低くかった。更に、現実問題として入植星では圧倒的少数の彼らはあらゆる手段で同族を増やす必要に迫られており、結果的に植民星における現地民との同化は着実に進捗していたのである。
 もはや後がないという切迫した経済的事情に現地での血縁関係までもが重なり、天の川銀河内のガミラス入植団の多くは退去を拒否した。それら植民星は新政権に対し、防衛及び治安維持のための軍が派遣できないのであれば、せめて自力で星系軍を編成できるだけの武器装備を供給して欲しいと懇願したが、未だバランでの戦いによって喪失した艦艇の補充すら十分ではない帝国軍にその余裕はなかった。
 いかに大国ガミラスといえども、千隻単位での急速建艦は工業生産能力の限界を超えていたし、更にそれ以上の問題として新造艦に乗せる兵員の補充が全く追いつかないという現実があった。特に兵員不足については、バラン突破戦以前から一部のベテラン将兵の間で「ガミラスに兵無し」「無敵ガミラス、今何処」等という戯れ歌が流行するほどガミロイドと二等ガミラス人に頼り切った兵員構成の歪さが目立っており、そうした矛盾が一挙に顕在化した格好だった。
 人口推計を行う内務省統計局は、バラン沖で喪われた数十万人の兵員を一等ガミラス人だけで補充するには、最低でも半世紀の時間が必要と報告していたが、本予測ですら今後半世紀の間、大規模戦争による人員損耗がないという前提条件であったから、現実的な実現性は皆無だった。
 ガミラス新政権は人口問題に対する切り札として、一等/二等といった旧来の身分制度の廃止と共に、保護国化していた多数の惑星国家にも取り上げていた主権を返上する等の革新的な政策を次々に実行した。全ては、旧二等ガミラス人を名実共に「ガミラス人」として取り込むためであり、実際に新政権の政策はガミラスの各分野で深刻の度合いを増していた人員空洞化に対する歯止めとして短期間で機能し始めることになる。
 しかし同時に、これらの政策は旧一等ガミラス人を中心とした保守層の強い反発を招く結果にもなり、内政的な混乱のみならず新政権の政治的脆弱性をより強めることになってしまった。



 ユリーシャ・イスカンダルの強い勧めと仲立ちにより、地球連邦準備政府とガミラス帝国との間で正式な講和条約が締結されたのは、そうした状況の中でのことだった。しかし、混乱しているとはいえ、当時のガミラスに地球に対する物質面での期待は皆無だった。ガミラスの遊星爆弾によって国土を徹底的に破壊され、人口も激減した地球の復興は未だ端緒についたばかりであり、そんな状況の地球に直接的な国力や軍事力で何事かを期待するのは、あまりに非現実的と考えられたからだ。
 唯一、地球が独自開発した「波動砲」に対する軍事技術的興味が帝国軍と軍需省の一部から示されたものの、既に自国でも同種の兵器が「ゲシュ=ダールバム」として開発済みである以上、それすら必須とは言い難かった。それどころか、波動エネルギーを武器に転用することに難色を示しているイスカンダル王国との関係性を考えれば、公に興味を示すことすら憚られた(実際のところ、軍と軍需省が欲したのは技術そのものよりも実戦記録を含む運用ノウハウの方であり、後に「波動兵器教導団」が在地ガ軍内に編成されたのもこの点に起因している)。
 極論、ガミラス新政権にとって地球との講和条約締結は、自らに政治的正当性を与えてくれているユリーシャの言に従うことと、内外に対して新政権がデスラー・ドクトリン(イスカンダル主義)を完全に捨て去ったことを具体的な形で示すことくらいしかメリットがなかった。
 だが、そうしたガミラス側の認識は講和条約締結に向けた予備交渉において根底から覆されることになる。会議の席上、地球側から示されたある提案が、ガミラス帝国外交使節団に大きすぎる衝撃を与えたからだ。
 地球側外交団は、時間断層の存在と解析データを提示すると共に、その共同調査及び共同開発をガミラス側外交団に提案してきたのである。

 ガミラスとの講和条約締結前、既に地球側は時間断層の存在と(おぼろげながらではあったが)断層内の基本的な空間特性を把握しており、ここに工場設備を建設することが叶えば、破格の工業生産力を獲得できることにも気がついていた。しかし、当時の地球の時空物理学理論と実践レベルでは、時間断層を直接的に利用できるようになるまで、どれだけの年月を要するかすら全く不明だった。
 そんな時にもたらされたのが、ユリーシャ・イスカンダルを通じたガミラス帝国との講和打診だった。しかし当初、本打診はガミラスによる地球再侵攻のための謀略ではないかと疑う向きが強く、地球連邦準備政府は恐慌に近い混乱に見舞われた。当然だろう、地球がガミラスによって滅亡寸前にまで追い詰められていたのは、僅か一年余り前の出来事であり、いくらヤマトがイスカンダルを介してガミラスと休戦協定を結んだとはいえ、所詮は現地部隊同士の一時停戦に過ぎず、状況が変わればそんなものは簡単に覆されると信じられていたからである。



 そして、復興が開始されたばかりの地球にガミラス軍を再び食い止められるような軍事力は未だなかった。辛うじてヤマトと十数隻の戦闘艦艇が稼働状態にあったものの(内、次元波動エンジン搭載艦はヤマト一隻のみ)、数百隻規模のガミラス艦隊が太陽系に殺到するだけで、今度こそ地球と地球市民は滅亡を免れないのは誰の目にも明らかだった。
 しかしそんな中、そうした予測を真っ向から否定する報告が軍の一部局から上げられた。
 地球連邦防衛軍統合幕僚本部第五部――国連宇宙軍当時の軍務局を母体としたセクションから、最新のガミラス情勢分析結果が報告されたのである。
 彼らの分析の多くは、ガミラス帝国内で交わされる超空間通信の傍受と解読によって行われていた。
 2199年のイスカンダル往還時、ヤマトはガミラス帝国と公式・非公式合せて複数回の接触を果たしており、ガ軍装備品の幾つかを捕獲や供与を通じて手に入れていた。特に、レプタポーザ会談時には、今後の不要な衝突を避けるためにと当時の反体制勢力(現在の新政権に連なる勢力)からガミラス式通信プロトコル一式が供与されており、これが結果的にシャンブロウ沖海戦での地ガ両軍の円滑な意思疎通と協同戦闘に繋がった。同海戦で両軍は、ガトランティス帝国軍が投入した新兵器「火焔直撃砲」に対抗するため単なる戦術通信のみならずデータリンクを介した戦術データの共有まで実施しており、最小限ながら暗号コードの交換も戦闘中に行われていた。
 更に、距離によるタイムラグのない超空間通信がヤマト帰還後、ようやく実用の域に達したことで、天の川銀河内を飛び交うガミラスの超空間通信の傍受も可能となった。
 もちろん、ガミラスの域内通信は暗号化されており、正規の暗号コードを持たない地球がそれを解読することは容易ではなかった。しかし、地球のガミラス式暗号通信についての分析と理解は2199年当時とは比較にならないほど進歩しており、極めて限定的ながら暗号の解読が可能となっていた。
 実際に判読できたのは全文中の20%程度だったとされるが、それでも大意を読み取れた通信はかなりの数に上った。
 そこから導き出されたのは

1)アベルト・デスラーは復権しておらず、未だ新政権が権力を掌握している。
2)新政権は天の川銀河の植民星に退去を呼び掛けている
3)天の川銀河の植民星は戦力の派遣を要求しているが、容れられていない。
4)天の川銀河内でのガ軍通信密度は極めて低い。

 以上四つの情勢分析結果であった。
 機動予備戦力の過半と共にバラン星の亜空間ゲートシステムを破壊されたガミラスは、天の川銀河への即応的戦力投射が困難な状況にあり、実際に天の川銀河内のガミラス植民星は軍事的に孤立している。そんなガミラスに、地球に対し再度大規模軍事侵攻をかけられるだけの余力はない――旧・極東管区軍務局が中心となってまとめ上げたレポートはそう分析しつつ、更なる提言を行っていた。
 イスカンダルからの講和打診を奇貨として、ガミラスの保有する広範且つ先進的な時空間技術を時間断層の調査と開発に取り込み、断層内に大規模官営工廠を早期に完成させる。完成した工廠の一部はガミラスにも提供、ここで製造されたガミラス兵器を天の川銀河内のガミラス植民星に提供することで、植民星からはバーターとして資源入手が期待できる。更に、ガミラス兵器生産を通じて得た技術と時間断層工廠を用いて、今度は地球が大規模軍事力を建設する――。
 ガミラス本国は天の川銀河内植民星への安全保障提供、植民星は独自防衛力獲得、そして地球は時間断層工廠の早期完成、と三者が互いに高価値利益で結びつくことで、極めて強い相互依存関係を構築することができる――そうレポートは結んでいた。
 本レポートは起草者の名から「セリザワ・レポート」と呼ばれ、激論と紆余曲折を経つつも最終的には地球連邦準備政府の外交方針として採用されることになる。
 もちろん、方針決定後も反対意見は根強かった。その最大のものは、時間断層とそこに設置される工廠の価値があまりに高かった場合、逆にガミラスの再侵攻を誘う材料になるのではないかというものだった。また、再侵攻には至らなくても、圧倒的な国力と経済力を持つガミラスに地球が経済的に支配される――経済植民地とされてしまうことも懸念された。
 しかし、ヤマトから報告のあったガミラスとイスカンダルの関係性、そして現在のガミラス新政権がイスカンダル王国を重要視しながら継続するのであれば、そのリスクは非常に小さく、時間断層が早期に活用できるメリットの方が遥かに大きいとして、ガミラスへの協力要請が決定されたのである。
 結果的に、この地球連邦準備政府の決定は吉と出た。
 地球からの提案をガミラス新政権は承諾。逆にガミラス側から、時間断層についての交渉は外交団ではなく実務者間で極秘裏に行うものとし、決定事項も全て秘密としたいと申し出があった。この申し出が、講和の仲介者であるイスカンダルを介さずに交渉と決定を行いたいというガミラス側の思惑であることを地球側は誤解しなかった。そしてこの時点で地球側は交渉の成功を確信したという。

 地球とガミラスとの講和条約が締結されたのは2201年4月16日。更にその二か月後には両国間で安全保障条約――事実上の軍事同盟が締結されるに至る。
 極めて短期間での条約締結は、両国それぞれの切迫した国内事情と、時間断層の共同調査結果がもたらしたものだった。
 未だ講和条約締結前の2201年3月から本格的に開始された時間断層の共同調査は、ガミラスの優れた科学技術力と理論によって飛躍的に進展し、時間断層がほぼ当初想定されたとおりの空間特性を持つことが確認された。調査結果を受けた両国首脳部は早々と時間断層内に大規模工廠を建設することで合意する。
 しかし、工廠の基本設計の段階で、ここまで円滑に進んでいた両国間の協力関係に初めて綻びが生じた。対立の焦点は、工廠の自動生産システムだった。
 ガミラスから技術供与は受けつつも地球独自の生産システム構築に固執する地球連邦準備政府に対して、より早期の工廠完成を目論むガミラスは、自国システムを全面的に採用するよう強く主張したからだ。
 地球にしてみれば、時間断層の運用と管理をガミラスに牛耳られてしまうのではないかという危機感は未だ準備政府内でも根強く、そうした声を抑えるためにも、多少完成と稼働までに時間を要することになったとしても、独自性の強いシステム採用は不可欠という考えだった。
 一方のガミラス側には強い焦りがあった。天の川銀河内でガトランティス帝国の跳梁が急速に活発化しており、域内植民星の防衛力強化は愁眉の急だった。一年後には時間断層工廠から宇宙艦艇を大量に竣工させる――それがガミラスにとっての絶対目標だった(既にこの時期、帝国航宙艦隊から各植民星に人員が派遣され、乗員訓練が開始されていた)。


 
 両国の交渉はここで初めて難航し、ガミラス内では、地球に再侵攻してでも時間断層を手に入れてしまうべきだという強硬な意見も上がったが、ユリーシャ・イスカンダルの仲立ちで結んだばかりの講和条約を踏み躙ることなどできる訳がなかった。もしそんな蛮行に及んでしまえば、彼らが否定したアベルト・デスラー体制と自分たちが何ら違わないことを満天下に知らしめることになり、それは新政権の政治的な「死」を意味したからだ。
 結果、ガミラスは地球に対して多くの軍事的・外交的譲歩を積み上げることで、時間断層工廠への自国生産システムの全面採用をようやくのことで了承させた。
 その過程で、ガミラスが地球に示した譲歩の一つが「地球・ガミラス安全保障条約(通称:地ガ安保)」の締結だった。
 本条約は、両国が安全保障面での義務を双務的に負うとされてはいたものの、当初から大きな非対称性を有していた。
 条文には、ガミラスが地球及びその施政下にある全領域の防衛義務を負うことが明確に記されていたのに対し、地球の義務は天の川銀河内のガミラス領域のみを共同防衛の対象としていたからだ。
 もっとも、安保条約締結当時の地球に太陽系外で軍事行動が可能な戦力はヤマト一隻しかないこと、両国の軍事力・国力両面での圧倒的格差を考えれば、締結される条約が非対称となるのも無理はなかった。
 ガミラスにとっての真の譲歩は、本条約に付属している「地ガ軍事協定」の方だった。本協定においてガミラスは「安保条約に基づく共同防衛行動を円滑なものとするため」という名目で機密度の高い星間情報と、先進的な数々の軍事技術を現物と共に地球に供与することが定められたのである。
 星間情報は、ガミラスと利害関係を有する他の星間国家に関する外交情報やアケーリアス文明遺跡等も含む天の川銀河内の地誌情報、軍事技術は波動コアの量産技術とそのライセンス生産権、更にガミラス現用艦艇を含む各種兵器の設計データであった。
 いずれも、地球が星間国家へと脱皮するために喉から手が出るほど欲していた垂涎の情報と技術であり、これらの入手によって地球は数世紀分に相当する科学技術情報を一夜にして手に入れる事となったのである。
 尚、定説では地球は「時間断層工廠の生産システムにおいてガミラスに譲歩した」とされているが、これには異論もある。その根拠は、ガミラスとの交渉時に地球が主張した独自の生産システムの実現性だった。いくら時間断層内で活動可能なガミロイドの大量供与を受けたとしても、多種多様な兵器のマルチ生産が可能な完全無人工場を短期間で実現することは、当時の地球の技術力ではとうてい不可能と考えられるからだ。
 その点で言えば「地球独自の生産システム」とそれへの固執は、あくまでガミラスからより多くの支援と供与を引き出すための方便だった可能性があり、実際に安保条約の締結や多くの技術供与を得たことから、地球外交の大いなる成果と主張する研究者も多い。
 しかし、ガミラスにとっての時間断層工廠の価値を考えれば、その防衛のために自らの軍事力を太陽系に駐留させることも、地球にある程度以上の軍事力を備えさせることも、ガミラス自身にとって極めて重要であり、仮に生産システムをめぐる駆け引きがなかったとしても、安保条約も技術供与も実現していた可能性は高いと考えられる。
 いずれにせよ、当時のガミラスが重視していたのは地球そのものでも地球市民でもなく、あくまでも時間断層であり、それ以外は全て付属物でしかなかった点には留意すべきだろう。
 非公式の情報ながら、在地球ガミラス軍(通称:在地ガ軍)は時間断層が他星間国家の手に落ちるような非常事態が発生した場合、地球ごと時間断層を消滅させることを最大且つ最後の任務としていたとされる。実際、2203年に白色彗星が地球本土に最接近した際には、その予備命令が発令されていたとも噂されているが、2205年現在、その真偽については地球・ガミラス両政府共に沈黙を守っている。
 両国の講和とその後の同盟関係は、互いに対する疑念と自身の困窮の中で生まれ、駆け引きと欺瞞の中で構築されていった。しかし、確たる実利に基づき築き上げられた相互依存関係は極めて強固であり、その後、皮肉にも「絆」と呼べるまでに成長していくことになる。




皆さま、ブログではお久しぶりです。
先日、1/1000ランダルミーデが完成しまして、その紹介を兼ねて設定妄想を書き始めたのですが、どうしても地ガ同盟を再定義する必要に迫られまして・・・気がつけばこの有様です(笑)
今回の設定妄想は三部制になりそうでして、ランダルが登場するのは最後の第三部になります。
気長にお付き合いいただけましたら幸いです。
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