以前から書きかけていたランダルミーデ級の設定妄想です。
実際に書き上げてみると、多少ボリューム的に物足りない感じだったので、他のアドバンスドステージ艦についても合せて書いてみることにしました。
後半のちょっとした見せ場(戦闘シーン)も含め、もちろん公式設定ではありませんので念のため(笑)
では、共にまいりましょう。
ランダルミーデ級前衛武装宇宙艦
AAA-009 ランダルミーデ
AAA-010 ヴェム・ハイデルン
AAA-011 デルスガドラ
AAA-012 ゼイラギオン
ランダルミーデ級をはじめとする所謂「AAAアドバンスドステージ」は、アンドロメダ級初期建造艦(AAA-001~005)が完成した後、実験的に建造された試作艦群である。事実、アドバンスドステージ後に追加建造された十三番艦以降のアンドロメダ級は、運用実績からの小改良こそ行われていたものの初期建造艦とほぼ同等の仕様であり、以降アドバンスドステージが追加建造されることはなかった。
アドバンスドステージは、ガミラス第八浮遊大陸基地奪還作戦及び第十一番惑星防衛戦を受けて建造計画がスタートした経緯があり、初期建造艦にはない特殊な装備や、建造作業そのものにも検証要素が含まれていたことから、その完成はガトランティス戦役の末期であった。就役時期はA級十三番艦以降や初期建造艦の設計資源を流用した無人艦群(BBB)よりも遅く、この点からアドバンスドステージを「アンドロメダ級後期建造艦群」と称することもある。
アドバンスドステージは少なくとも三タイプが建造され、試作艦ながら全艦が火星―地球間絶対防衛線を巡る戦いに投入された。これら三タイプの後期建造艦はベース艦こそ共通ながら、それぞれが全く異なるコンセプトで建造されており、特にランダルミーデ級はオリジナル艦の外観的特長から最も乖離した艦として知られている。
本級の別名は「ガミラスメイド」。異星文明――大ガミラス帝星式の建造技術で建造されたアンドロメダ級であった。本級以前に時間断層工廠ガミラス管理区画内でライセンス生産され、在地球ガミラス軍(在地ガ軍)が運用した空母型アンドロメダがシステム的なインターフェースと一部航空艤装のみガミラス式に改めたのに対し、ランダルミーデ級ではシステム面はもちろん船殻や機関、艤装品に至るまで完全なガミラス規格で建造されている。
建造にあたっては、地球が独自開発した収束/拡散波動砲をガミラス規格で再現できるかが当初は危ぶまれ、波動砲の代わりに反射衛星砲を搭載することも検討された。しかし、建造コンセプトの点で本級への波動砲装備は絶対要件であったため、ガミラス規格での波動砲開発続行の方針が改めて示されている。
多少の遅延こそあったものの、本級用の波動砲は無事に完成、更には独自の追加仕様として「偏向」機能まで備えていた。
本級の波動砲口はフレキシブルに可動する外筒と内筒からなる二重構造を有し(ダブル・ベクタードマズル)、外筒と内筒の間隙に高密度の偏向フィールドを発生させつつ可動させることで、艦の姿勢を変更することなく波動砲のビームを偏向させることが可能であった。
従来型の固定式砲口でもバウスラスターを用いた艦の姿勢制御によって波動砲発射前であれば射線の変更が可能だが、波動砲発射時には安全上重力アンカーで艦を固定する必要があり、射線と射角の変更はほぼ不可能であった。
しかし本級は、ベクタードマズルによって従来艦では不可能な射角変更が可能であり、大威力且つ長射程の収束モードにおいて圧倒的な掃射(スイープ)性能を有していた。
本機能の搭載は第十一番惑星に来襲したガトランティス帝国前衛艦隊の物量と、そこで実行された特殊な戦術に原因があった。第十一番惑星に殺到したガトランティス軍の総数は250万隻超という常軌を逸した戦力であり、その殆どが全長500メートルを超える大型戦艦カラクルム級だった。そして、そんな彼らが採った戦術も異様極まりなかった。
250万隻のカラクルム級は全長数千キロメートルにも及ぶ長大な円筒型陣形を敷くと、十一番惑星近傍に設置されていた人工太陽をエネルギー源とした超大直径レーザー砲――レギオネル・カノーネ――での地球砲撃を企図したのである。
本作戦は十一番惑星救援のために急行したBBY-01宇宙戦艦ヤマトの機転で阻止されたものの、ガトランティス軍が今後も同様の作戦を発起した場合への備えが必要と考えられた。
波動砲艦隊が装備する拡散波動砲は面制圧効果の高い優秀砲であったが、それでも数千キロメートルにも及ぶ重厚な艦列を射抜くには効果範囲が全く不足していた。本課題に対して時間断層AIが導き出した回答こそ、ダブル・ベクタードマズルを用いた収束波動砲のスイープ砲撃だった。強固且つ長大なカラクルム級の縦深を貫くには大威力の収束モードでなくてはならず、更に収束モードのウィークポイントである面制圧効果を最大化するには射線偏向が絶対に必要だったからだ。
対レギオネル・カノーネ兵器として極めて有効と考えられたベクタード・マズルだが、結果的に他の地球艦艇への装備は見送られた。開発完了がガトランティス戦役末期であったことに加え、当時の時間断層工廠は一隻でも多くの波動砲搭載艦艇を前線に送り出すべく限界を超えたフル稼働を続けており、そんな中での波動砲システムの変更は工程の混乱と製造効率の低下をもたらすとして不採用とされたのである。また、ガトランティス戦役後にも新規建造艦へのベクタード・マズル搭載が再び議論されたが、今度は平和主義を標榜する戦後の地球の外交方針が足を引っ張り、「過剰装備」としてまたしても不採用とされている。
その特異な外観と可動式波動砲口に注目されることの多い本級であるが、開発と建造にあたっては固有のプロジェクトネーム――「L計画」――が与えられていた。
L計画と対をなす計画として、ヤマト型三番艦「銀河」が任を務めた「G計画」がある。G計画とは、“GENE”の頭文字が意味するとおり、ガトランティス帝国侵攻により人類が滅亡した場合に備えて地球人の遺伝子を保存する「種の保存計画」であった。本計画のルーツがガミラス戦役時の「イズモ計画」であったことはあまりにも有名だが、ランダルミーデ級に与えられた「L計画」にはひな型となる計画は存在しない。
L計画の「L」は“LIBERATION”の頭文字とされており、ガトランティスによる占領後の地球奪還と解放を企図した計画だった。
G計画とL計画の並立は、ガトランティス軍による第十一番惑星への大規模侵攻が、地球人類に種の保存と地球の被占領を覚悟させるほどの衝撃を与えた証左だったと言えるだろう。
ガミラス戦役時の地球は、母星を逃れても抗戦を継続可能な後背地や有力な同盟国を持たず、地球の喪失はすなわち地球人類の滅亡と同意だった。しかし、2203年の地球には大ガミラス帝星という大・小マゼラン銀河の雄が同盟国として存在しており、地球喪失後はガミラス領域へ逃れて徹底抗戦を継続することも現実的な選択肢となっていたのである。
そこには、ガトランティス帝国が全人型知的生命体の根絶を国家テーゼとしている以上、ガミラスが対ガトランティス戦争を継続することは確実であるという判断と共に、戦争を継続せざるを得ないガミラスにとって、波動砲搭載艦艇の建造技術を有し、波動砲の使用に対しても全く忌避感を持たない地球人は非常に使い出のある存在となりえるという読みもあった。
しかし、いくら波動砲搭載艦艇を建造可能な技術を持ち、その運用ノウハウを有するとしても、時間断層と共に地球が喪われれば、艦艇を実際に建造する工業能力を失ってしまう。よしんば、逃れた先のガミラスで工廠惑星などを譲渡されたとしても、そこにあるのは全てガミラス規格に基づくガミラス式の工業設備であり、地球規格で設計されたアンドロメダ級やドレッドノート級をそのまま直ちに建造できる訳ではなかった。
しかし、地球からの全面撤退に際しては、彼らが心血を注いで整備した波動砲艦隊の大半が喪われているのは確実である以上、波動砲艦隊の再建はできるだけ短期間で行わなければならなかった。もちろん、時間断層にはもはや期待できない。それでも、一隻でも多くの波動砲搭載艦を新たに確保するために、通常空間で建造期間と建造コストを最小化する必要があった。
すなわち、ランダルミーデ級の本質はガミラス領域内のガミラス式工業設備で急速建造可能なアンドロメダ級の確立に他ならなかった(その点で言えば、先に述べた偏向式波動砲の開発は副次的な目的に過ぎない)。
本級は、大は砲熕兵器から小は装甲材質の分子的組成に至るまで徹底的に既存のガミラス規格に基づいて設計されており、設計データさえインプットすれば無改造のガミラス式工廠で直ちに建造が可能だった。
本級はアドバンスドステージ中最多の四隻が若干の時間差をつけて建造開始され、量産性と効率検証のためにそれぞれが異なる建造方法と工程順序で建造されている。このため、内部構造において四隻には多少の違いがあったが、外観やスペックの差は殆どない。但し、先行して建造される前番艦のデータが得られる分、後番艦ほど艦としての完成度は高かったと推測される。
ランダルミーデ級は短期間の公試と実戦においてオリジナルのアンドロメダ級と同等の性能を示した。更に、ガミラス工廠惑星での建造を想定したシミュレーションにおいては、オリジナルを建造する場合に比して工期は1/2、建造費は艤装品の大半が既にガミラスで大量生産されているものを流用できたことから2/3にまで低減可能という結果が得られた(加えて、オリジナルのアンドロメダ級をガミラスの工業惑星で建造するには、建造設備自体にも大規模な改造が必要だった)。
幸いにも、ガトランティスによる地球占領という最悪の状況――本級が真価を発揮したであろう状況――は遂に発生せず、本級の建造は試験建造艦四隻のみで打ち切られたが、ガトランティス戦役後も唯一残存した四番艦(一から三番艦は戦没)と本級の設計データが戦後ガミラスに譲渡されている。
なお、本級の建造はガミラス側の了承を得ずに実行されており、更に主砲には当時は未だ存在が秘匿されていたデウスーラⅡ世級のものが流用されているなど、ガミラスにとって本級は目を疑うような存在であった。戦役中、地球に対して様々な外交的・軍事的便宜を図ったローレン・バレル大使も本級の存在が初めて伝えられた際には不快感を隠さず、時間断層工廠の実質的な管理責任者だった芹沢統括司令副長官に遺憾の意を示したとされる。
そうした経緯もあり、設計データの提供を受けたガミラスにおいて本級が新規建造されることはなく、それどころか譲渡された四番艦を含め存在自体が半ば無視された状態に置かれた。
しかし――そうした状況も長くは続かなかった。
2205年から開始されたガルマン独立戦争において、ガミラス軍は思わぬ苦戦を強いられた。本星を喪った上に大・小マゼランの広大な領域からの移民作業を並行して行っているガミラス軍は正面戦力が著しく不足しており、物量戦を旨とするボラー連邦軍に押しまくられる局面が度々発生していたからだ。
そんなガミラス軍において、圧倒的戦力を誇ったガトランティス軍を長期に渡って押し留めた拡散波動砲が再評価されたのは半ば必然だった。急ぎ装備化が模索され、今すぐにでも建造が可能なランダルミーデ級にも注目が集まったが、最終的にガミラス軍が選択したのは彼女ではなかった。
より建造が容易な「ドレッドノート級ガミラスメイド」が選択されたのである。
波動砲艦隊構想の真の主力がドレッドノート級であった以上、ガミラス領域での波動砲艦隊再建計画であるL計画においても「D級ガミラスメイド」は不可欠の存在だった。
D級ガミラスメイドはランダルミーデ級と同時期に時間断層内で設計を終え、ランダルミーデ級と共に設計データもガミラスに引き渡されていた。ガトランティス戦役中、地球での試験建造こそ行われなかったものの、より高度且つ建造難易度も高いランダルミーデ級の建造に成功した以上、D級ガミラスメイドの建造に対する技術的な不安点は既に皆無だった。
2205年以降ガミラスが建造したのは、このD級ガミラスメイドをタイプシップとした艦で、波動砲ではなく収束率可変機能が付与された改良型デスラー砲を装備し、圧倒的多数のボラー艦隊に対する決戦戦力として多大な戦果を収めることになる。そんな彼女たちをガミラス軍将兵は「デスラー砲艦」と呼んだが、そのルーツがガトランティス戦役時に開発された地球艦であったことは殆ど知られていない。
最後に、システムインターフェースをガミラス式に改められた上でガミラスに引き渡されたランダルミーデ級四番艦「ゼイラギオン」だが、引き渡し直後の冷遇期以降は実戦配備が行われた。しかし、同型艦が存在しないこともあって運用コストが他艦よりも高く、度々予備艦指定を受けている。とはいえ、アンドロメダ級譲りの攻防性能の高さと、何より連装デスラー砲(デスラー砲艦配備後に波動砲から換装)の圧倒的威力は対ボラー戦においても重宝され、ガミラス軍の決戦戦力「空間機甲軍」の一角として長期に渡り君臨することになる。
アクエリアス級前衛武装宇宙艦
AAA-007 ラボラトリー・アクエリアス
AAA-008 アクエリアス
G計画の中核艦「銀河」の随伴艦として建造された。そのため、本級の仕様と性能は銀河の支援を第一義として計画されている。
銀河がコスモリバースシステム(CRS)の影響により攻撃兵装が一切使用できなかったため、護衛戦力としての随伴艦が必要であったのはもちろんだが、銀河より前方へ進出し航路の安全確保にあたる前路啓開や、指揮AIを並列化することでの演算能力向上、波動防壁強化など、求めれた任務は多岐にわたる。
本級には銀河と同型の指揮AIが搭載されており、超空間通信技術を利用したデータリンクを介して銀河AIとのリアルタイム接続が可能であった。これは、G計画実行後、時間断層AIとの接続が絶たれて以降の銀河指揮AI単独での演算能力に不安が抱かれた為で、本級二隻の同型指揮AIを並列接続することで演算能力の飛躍的向上が図られたのである。
また、本級固有の装備として、CRSを地球独自にコピーしたシステムが搭載された。しかし、あまりに高度なイスカンダルの技術で作り上げられたCRSの解析は困難を極め、その実態はリバースエンジニアリングと呼ぶにも値しなかったとされる。
当然、コピー(疑似)システムにオリジナルが持つ惑星環境再現性能など望むべくもなく、限定的な波動エネルギーの遠隔制御機能がその能力の全てであった。とはいえ、近距離であれば他艦の次元波動エンジンを賦活化させることができる能力は、銀河の護衛艦として考えた場合、極めて有用だった。元より強力な銀河の波動防壁を更に強化することはもちろん、銀河の波動エンジンを賦活化することで防壁展開可能時間を数倍化することができたからだ。
本級にはA級前期建造艦群と同型の波動砲搭載も検討されたが、銀河の生存性向上には攻撃力よりも防御力の強化が効果的であるとして、本級二隻ともにCRSのコピーシステムが搭載された。
この“疑似”CRSシステムの改良は本級完成後も継続され、後にアスカ級補給母艦に「波動共鳴導波装置」として装備されることになる。
本級二隻の運用だが、ラボラトリー・アクエリアスが前路哨戒を担う前衛、アクエリアスは銀河の近傍で直衛にあたるとされた。波動砲こそ装備していないものの、ショックカノンなどそれ以外の兵装はほぼオリジナルのままであり、両艦には、CRS装備の影響で通常武装が使用できない銀河をアンドロメダ級譲りの空間戦闘能力で死守することも求められた。
2203年5月のガトランティス帝国本星軍の太陽系侵攻開始直後、G計画の予備命令(準備命令)が発令される。この時、計画中核艦である銀河は在地ガ軍との混成艦隊旗艦として木星圏で待機中だった。銀河は引き続き混成艦隊旗艦としての任に就くものの、ラボラトリー・アクエリアスはいち早く出撃、銀河に先行しての航路策定と前路哨戒を開始した。
その後、土星沖から火星沖へと連戦を重ねた地球及びガミラス連合艦隊の損耗率は上昇に上昇を重ね、それが遂に50%を超えたことでトリガー条項が発動、G計画が防衛軍司令部より正式発令される。だが、計画発令直後に発生した銀河指揮AIの損壊とCRS損傷により、G計画は無期限延期となってしまった。
本経緯については未だ防秘扱いの事項が多く詳細は不明ながら、結果的にラボラトリー・アクエリアスとアクエリアスは実行不可能となったG計画任務を共に解かれている。特に地球沖で待機していたアクエリアスは直ちに白色彗星迎撃戦に投入され、その短い生涯を終えることになる。
一方、先発していた一番艦ラボラトリー・アクエリアスは、G計画任務解除から程なくして一切の消息を絶ってしまった。ガトランティス戦役後、二度に渡って大規模な捜索活動が実施されたものの、本艦の痕跡はもちろん事故の原因となりえる空間異常や何者かの攻撃を受けた形跡も全く発見できず、捜索終了後に原因不明の亡失として除籍が決定された。
しかしその17年後の2220年、本艦固有の空間航跡が観測されるという事態が発生し、一時は世間をにぎわせた。銀河中心方面をモニタリングしていたアマチュア観測家が半ば偶然発見した航跡が、空間航路局のデータバンクに登録されているラボラトリー・アクエリアスのそれに酷似しているとして、一時は本艦の生存がささやかれた。しかしその後、発見された航跡は極めて不鮮明であり、類似した他艦の航跡を誤認したと考えられ、ラボラトリー・アクエリアスが生存している可能性はない――とする公式声明を防衛軍が発表するに至った。
軍の発表によって事態はほぼ鎮静化したものの未だ一部界隈では、生存している本艦が何らかの極秘任務を帯びて銀河中心方面で活動中であるという説も根強い。またそれ以外にも、謎に包まれた最期や本艦と二番艦の艦名が通常の命名基準ではありえないほど似通っていることから、ラボラトリー・アクエリアスの存在自体を疑う声もあるなど、本艦についての議論は未だ絶えることがない。
アマテラス級前衛武装宇宙艦
AAA-006 アマテラス
40.6センチ三連装収束圧縮型衝撃波砲塔を実に10基備えた強武装艦であり、アンドロメダ級後期建造艦群の中で唯一単艦で建造された。主砲塔10基の内9基が艦首方向に指向可能な配置を取っており、本級に極めて攻撃的なシルエットを与えている
その印象は艦首に目を移すと更に強まる。帆船のバウスプリットを連想させる巨大な“角”には通常の五倍密度で波動コイルが設置されており、艦首部に極大強度の波動防壁の形成が可能である。
これら多数の主砲と強力な波動防壁を両立させるために、本艦の後部の両舷には大型のエネルギーコンデンサーが設置された。ここからの豊富なエネルギー供給によって、圧倒的な主砲投射弾量と、波動防壁の攻撃的使用――波動衝角(通称:波動ラム)――が初めて可能となった。
本級の建造には、ガミラス第八浮遊大陸基地奪還作戦時に初遭遇したカラクルム級大型戦艦が大きな影響を及ぼしている。
本作戦におけるカラクルム級は地球防衛艦隊総旗艦アンドロメダの拡散波動砲攻撃に耐えたばかりか、地球艦隊の不用意な艦隊運動の隙を突いて一気に戦線を突破、太陽系へのワープを果たしていた。その際、アンドロメダは突撃してきたカラクルム級に対してショックカノンを命中させていたが、撃破も足止めも叶わず、地球の位置をガトランティス軍に掴まれるという大失態をおかしてしまった。
しかし、艦の規模で言えばアンドロメダ級すら大きく上回る巨大なカラクルム級を短時間の咄嗟戦闘で行動不能にするのは波動砲を用いない限り困難であることもまた明らかだった。しかし、発射シーケンスが複雑な波動砲を咄嗟戦闘で使用することはできず、何らかの代替手段が模索された。
その結果として考案されたのがアマテラスが艦首に装備した「波動ラム」であった。その波動防壁は最大戦速で突進してくるカラクルム級の巨躯を真正面から受け止めるばかりか、堅固な艦体を破断可能な強度と指向性を有しており、近接戦闘及び咄嗟戦闘において圧倒的な威力を発揮する。
この波動ラムに加えて、アンドロメダ級前期建造艦の四倍以上を誇る前方指向火力を用いることで、本級はカラクルム級の突撃戦術への対応のみならず単艦での一撃離脱、あるいは同級艦複数で堅固な敵艦隊艦列に突撃し、これを破砕する破城槌的運用が構想されていた。
しかし本級の設計完了直後、第十一番惑星に来襲したガトランティス軍のカラクルム級は200万隻を優に超えていることが明らかとなり、本級が想定した単艦や少数艦での突撃戦術では戦場の大勢に影響を及ぼすことはできないこともまた明白となった。
その結果、全ての建造努力をより量産が容易なA級前期建造艦とD級に集中することになり、本級は後期建造艦群の中では最も早く設計が完了していたにもかかわらず、新装備である波動ラムの試験用として一隻のみ建造が承認された。
そして、時間断層工廠において本級の完成が近づいた頃、ガトランティス帝国本国軍による太陽系侵攻が始まる。
【絶対防衛線の死闘】
ガトランティス帝国本国軍は、前面にバルゼー提督麾下の第七機動艦隊を押し立て木星圏に侵攻、迎撃に出た地球艦隊に対して物量に任せた中央突破を図った。これに対し、地球艦隊は機動運用可能な波動砲搭載艦の集中投入によって一度はガトランティス艦隊を退けることに成功する。
しかし、敗残の艦隊を押し退けるように前進してきた白色彗星は全く別次元の存在だった。500隻以上のA級及びD級が重力子フィールドを用いて放った極大・収束波動砲すら全く通用せず、反撃を受けた地球艦隊主力――波動砲艦隊は壊滅の憂き目を見ることになる。
木星の防衛戦を突破された地球艦隊であったが、予備戦力として待機していた銀河を旗艦とする臨時艦隊による機動防御と、ワープ阻害フィールドを駆使した遅滞戦闘によって、戦線の再構築と艦隊の再編に辛うじて成功する。
地球防衛軍が新たな防衛線――絶対防衛線――と設定したのは火星軌道だった。この地を舞台に地球艦隊は、白色彗星及びその内部に存在するガトランティス帝国本拠地「都市帝国」に対し再三にわたり肉薄波動砲攻撃をかけるも、強靭な防御フィールドに阻まれダメージを与えられずにいた。
しかし、山南提督率いる第一挺身艦隊の旗艦アンドロメダが都市帝国の高重力源への突入に成功、銀河のCRSが生成した波動レンズによって強化された波動砲で高重力源を射抜いた。この攻撃により一時は沈黙したかに見えた都市帝国だったが、古代アケーリアス文明が作り出した「滅びの方舟」は復元力においても常軌を逸していた。僅かな時間で重力源を再生・再起動させると、再び前進の気配を見せ始めたのである。
地球防衛軍としては、都市帝国が完全な復活を遂げる前に、決定的な打撃を加えたいところであったが、総旗艦アンドロメダを含む波動砲艦隊の多くが喪われ、頼みの銀河もCRSに重大な損害を被るなど、戦力が枯渇しつつあった。
そんな中、幕僚本部は「最後の作戦」として都市帝国から脱出したヤマトによるトランジット波動砲攻撃を立案、一方、時間断層AIはアンドロメダ級後期建造艦群を用いた肉薄攻撃を提案する。
幕僚本部案の懸案は、ヤマトの損害が思いのほか大きく、修理に時間を要することであったが、同型艦である銀河から艤装を譲り受けることで修理期間の大幅な短縮が図られた。しかしそれでも、白色彗星が現在の侵攻速度を維持した場合、彗星の地球圏到達に間に合わないことから、AIが提唱した作戦案が支作戦として同時遂行されることになった。
投入されるのはラボラトリー・アクエリアスを除く六隻のアンドロメダ級後期建造艦群と無人アンドロメダ級艦隊――BBB戦隊――からなる第二挺身艦隊だった。
艦隊に与えられた任務は、万難を排して都市帝国へ接近、アクエリアスの疑似CRSシステムで強化したアマテラスの「波動ラム」で都市帝国の防御フィールドを突破、そのままアマテラスの波動砲で都市帝国中枢に決定的打撃を加えるというものであった。
皮肉にも本戦術はガトランティス軍のイーターⅠの波動防壁突破プロセスを分析する中で立案されたものだった。地球艦隊の数百発もの波動砲射撃にすら平然と耐久する都市帝国の防御フィールドは「面」での耐久力が非常に高いが、逆に極めて小さな「点」への穿孔的エネルギー投射には耐圧限界がやや低いと推測され、最大出力の波動ラムによる一点突破であれば浸透突破できる可能性ある――との分析がなされたのである。
本作戦は白色彗星の火星圏突破直前に実行に移された。
初手として挺進艦隊前衛――無人アンドロメダ級からなるBBB戦隊――がショートワープで白色彗星内へ突入する。
そこはガトランティス帝国の本拠地「都市帝国」の門前であり、千隻単位のカラクルム級が文字通り蝟集していた。その只中へ密集隊形で突撃したBBBは僅か五十隻余。しかしBBB群は空間転移でカラクルム級の艦列へ強引に割り込むと、躊躇なく戦闘を開始した。
彼我両軍が限られた空間に異常なほど集中したため、ワープアウトの瞬間、出会い頭の衝突に至った艦も一隻や二隻ではなかった。加えて、BBB戦隊は全艦がバーサーカー・モード(継戦維持や友軍誤射制限を解除した全攻撃力発揮モード)を選択しており、戦闘開始と同時に、装備する全エネルギー兵器と実体弾兵器を周囲に蠢くカラクルム級群へ一斉に投射する。BBB戦隊のワープアウトから僅か三十秒間で百隻以上のカラクルム級が砕け散った。
一方、奇襲を受けたガトランティス軍であったが、彼らも戦闘においては躊躇うことを知らない人造戦闘種族だった。命令を待つことなく半ば本能的に反撃の砲火を閃かせたが、それがむしろ混乱を拡大する結果となった。周囲はほぼ全て友軍という状況での応射は必然的に大量の誤射を生み、その損害はBBB戦隊による直接的な損害すら上回ったからだ。
しかしそれでもカラクルム級は反撃を控えることはない。使用可能な砲を総動員し、砲の指向が間に合わなければ艦の質力と強度そのものを武器としてBBBに突撃する。
衝突と被弾、轟沈、爆沈、更には誘爆が続出し、白色彗星内――都市帝国の門前という限られた空間に、短時間で沈んだ両軍艦艇から放出されたエネルギーがみるみるうちに充満していく。
僅かな時間で戦闘宙域全体を覆い尽くした巨大且つ膨大なエネルギーの塊は、各艦のセンサーを飽和させ、一種の煙幕のように電子的な見通し距離を極端に制限した。
それ故、ガトランティス軍は気づかなかった――BBB戦隊の真の目的がガトランティス軍の混乱を惹起することではなく、「後続」のための本宙域の一時的制圧であることを。
BBB戦隊が強引に掃討したエリアにピンポイントで飛び込んできたのが第二挺進艦隊の本隊――アンドロメダ級後期建造艦群であった。
露払い役のランダルミーデを先頭に、その後方にアマテラスとアクエリアスが続き、殿(しんがり)をゼイラギオンが務める単縦陣だ。残るランダルミーデ級のヴェム・ハイデルンとデルスガドラはアマテラスの左右で直衛に就く。
僅か六隻の挺進艦隊本隊は、無数のカラクルム級を相手に未だ鬼神のような全力戦闘を繰り広げているBBB戦隊を傍らを全力で駆け抜けた。BBBの一隻からレーザー発光通信が飛ぶ。作戦ノ成功ト貴隊ノ生還ヲ祈ル。
――畜生、言ってくれるぜ。通信を受け取ったゼイラギオン艦長は遠ざかっていくBBB群の背に敬礼を送った。
都市帝国へと突進するアンドロメダ後期建造艦群の動きをガトランティス軍はしばらくの間、察知できず、その迎撃は完全に後手に回ることになる。だが、たとえ泥縄式の逐次投入であっても元々の戦力が膨大なだけに、存在を悟られた後の迎撃は熾烈を極めた。
無数の刺突兵器イーターⅠが挺進艦隊各艦の波動エンジンを貫こうと四方八方から殺到してくる。波動防壁の中和機能を有し、ハードキルでしか阻止できないイーターⅠは前方投影面積も小さく迎撃困難だ。しかし、四隻のランダルミーデ級の艦長たちは自分たちの役割を完璧に心得ていた。ショックカノン、重力子スプレッド、速射魚雷、パルスレーザー、対艦グレネード――あらゆる武装を総動員し、作戦の「本命」であるアマテラスとアクエリアスへの攻撃を絶対に阻止する。
既に都市帝国まで指呼の距離。ランダルミーデ級と彼女たちにトランス接続したD級群の主砲が吠える。収束圧縮型衝撃波砲の集中豪雨を思わせる速射性能は圧倒的な制圧力で大半のイーターⅠをミドルレンジ以遠で阻止する。インレンジに踏み込むことに成功した僅かなイーターも無事ではいられない。各種誘導弾とパルスレーザーが即座に迎え撃ち、痛撃を与える。
ガミラスの転送システムが繰り出す至近からの航空奇襲に対抗すべく備えられた即応性の高い防空システムだけに、遠距離からの飛翔体に対しては鉄壁と言えるほどの抗堪性を発揮する。四隻のランダルミーデ級はデータリンクで防空識別情報を共有しつつ、常に最適位置を確保しながら戦闘を継続し、イーターⅠによる槍衾のような迎撃網を突破する。
そして遂に、アマテラスのフェイズドアレイ・コスモレーダーが都市帝国の防御フィールド展開予想域を射程に捉えた。
艦首のスタブウィングにずらりと装備された小型ミサイルが一斉に放たれた。高加速するミサイル群の弾頭はセンサーのみの実質的にはセンシングプローブだ。ミサイルは防御フィールドと接触すると同時に砕け散るが、その精密位置がアマテラスにフィードバックされ、防御フィールドの実有効エリアの情報をもたらす。ここまでアマテラスは突破戦闘をランダルミーデ級に任せ、一発のショックカノンすら放っていない――すべては、この瞬間のために。
アマテラスの艦尾両舷の超大型コンデンサー、そしてトランス接続するD級の各部に増設された大型コンデンサー群が一斉に発光、その起動を示す。彼女に接続したD級は通常の倍にあたる実に四隻。しかも全艦が主砲塔や艦橋、ウイング類をことごとく撤去し、その跡に大型コンデンサーを増設していた。一発でも被弾すればコンデンサー群が誘爆する危険極まりない状態であったが、そんな彼女をランダルミーデ級姉妹はここまで守り切ったのである。
そして、アマテラスの戦闘準備が最終段階に入る。波動防壁を展開した彼女の艦首部が青白く発光し、その光は瞬く間に収束、ひと際大きな純白の輝きでアマテラスの艦首部全体を包んだ。
極大出力で形成された波動ラム――魔の根源を断つ攻城槌と化したアマテラスは機関出力を最大化すると、都市帝国に全速で突進した。そして遂に、ラム先端が都市帝国の防御フィールドに接触する。
瞬間、アマテラスの艦首に爆発的な閃光が弾け、その光景を凝視する全ての人々の視界からアマテラスの姿がかき消えた。轟沈か――視力を奪われた人々の脳裏に浮かんだ諦観は次の瞬間、覆された。
激しくスパークするプラズマの豪雨が都市帝国の防御フィールドを明るく照らし出し、その中心に突き立てられた野太い剛槍の姿を鮮やかに映し出した。
アマテラスはセンシングプローブのように砕け散ってはいなかった。それどころか、絶対的な鉄壁を誇った都市帝国の防御フィールドに穿孔をうがつばかりか、未だじりじりと前進している。過負荷に耐えかねたD級のコンデンサーが幾つか吹き飛ぶ。しかし、それでもアマテラスの前進は止まらない。膨大なエネルギー同士の衝突を物語る激しいプラズマ光を周囲に放ちながらも、彼女の長大な艦首ラムの先端部は防御フィールド内に浸透しつつあった。
刹那、大量のビーム光がアマテラスの背後から殺到する。だがそれらを、アマテラスの背後に陣取ったアクエリアスが最大出力の波動防壁で全て阻止した。外れ弾となったビームが都市帝国の防御フィールドに命中し、激しく爆ぜる。
ガトランティス軍も必死だ。BBB群を葬ったカラクルム級の大軍が全速で追いすがり、誤射を全く厭うことなく砲撃を開始したのだ。反転迎撃するランダルミーデ級はヴェム・ハイデルンとデルスガドラが拡散波動砲発射態勢に入り、ランダルミーデとゼイラギオンは前進、通常戦闘で波動砲発射までの時間を稼ぐ。だが、それは罠だった。
アマテラスの周囲が手薄になった瞬間を見計らい、S0(天頂)方位からイーターⅠが殺到したのである。直前、それを察知したハイデルンが波動砲発射を中止し、アマテラスに覆い被さるように彼女の直上へ急速遷移する。直前までの波動砲発射態勢がたたり迎撃は間に合わない。
主砲塔に、艦橋に、エンジンナセルに――直上から降ってきた二十本を超えるイーターがハイデルンの全身に次々と突き刺さる。だが、彼女の船体は、その名の由来となった軍人の不屈を体現したかのような頑強さで貫通と突破を決して許さない。そして――ヴェム・ハイデルンは永遠に沈黙した。
エネルギー充填を終えたデルスガドラが拡散波動砲を放つ。その一撃だけで五十隻を超えるカラクルム級が一網打尽にされるが、その効果は十分とは言えない。いかんせん敵の数が多すぎた。
仕留めきれなかったカラクルム級群から反撃の砲火が集中する。アマテラスはアクエリアスの波動防壁で守られ、ランダルミーデとゼイラギオンは自身の波動防壁でそれをしのぐが、波動砲発射直後のデルスガドラは防壁の被弾経始圧が限界に達し、直撃弾が連続した。
ランダルミーデが重力子スプレッド弾でデルスガドラの前面に重力フィールドを展開、デルスガドラのダメージコントロールの時間を稼ぐ。しかし次の瞬間、今度はランダルミーデが防壁を射貫され、左の波動砲口を吹き飛ばされた。
挺身艦隊に限界が近づいていた。アマテラスの船体はじりじりと前進を続けているが、未だその波動砲口を防御フィールド内に押し込めていない。彼女とトランス接続したD級のコンデンサー内のエネルギーも既に残り30%を切っている。しかしアマテラスは最後のチャンスに賭けるべく、波動砲のエネルギーチャージの準備を進めていた。未だ地球人類が一指も触れられていない都市帝国の天守閣――十基の赤色帯が不気味に輝く巨大構造物――に波動砲を直撃させられれば、このバケモノを止められる。そう信じて。
そんなアマテラスの後方でアクエリアスが大きく舵を切った。全エネルギーを疑似CRSシステムに回し、パワーダウンし始めたアマテラスの波動エンジンを急速賦活させるのだ。既に波動防壁は切っている。防壁の代わりは――彼女の船体そのもの。直撃弾が相次ぐが、アンドロメダ級の強靭な船体は無言でそれに耐える。
ただならぬ気配を感じたのか、半包囲態勢を取りつつ砲撃を続けていたカラクルム級群に新たな動きが生じた。三十隻ほどずつの六つの集団に分かれ、それぞれが長大な縦深隊形を形成しようとしている。各艦の雷撃ビットを集合させることで威力を飛躍的に増大させる「インフェルノ・カノーネ」だ。直撃を受ければ、波動防壁機能を低下させている四隻のアンドロメダ級など一たまりもなく消し飛ぶのは確実だった。都市帝国の防御フィールドにも害が及ぶが、そこには絶対の自信があるのだろう。
唯一波動砲を維持したゼイラギオンが波動砲発射態勢を取る。度重なる被弾で波動砲も重力子スプレッドも失っているランダルミーデとデルスガドラは前進し、ゼイラギオンの波動砲発射までの時間を稼ぐ。しかし、二隻とも既に満身創痍であり。まともに機能する兵装は残り少ない。それでも二隻は砲火を集中することで一列分のカラクルム級の隊形を壊乱させることに成功した。集合していた雷撃ビットの赤い環も飛散する。
しかしインフェルノ・カノーネは未だ五列が健在だった。少なくともその内の一列は、発射寸前だ。
間に合わん――歯ぎしりするゼイラギオン艦長の視界を黒い“何か”がよぎった。それは発射寸前だったインフェルノ・カノーネの先頭艦を側面からの体当たりで弾き飛ばした。艦長にはそれが何を意味するのか分かっていた。BBB最後の生き残りが喪われたのだ。
バカ野郎。しかし、ありがとう――。その刹那、エネルギー充填が120%に達したことをオペレーターが告げた。
「波動砲、収束スイープモード。ちゃんとデータ取れ。俺たちは生きて帰るんだ。波動砲――撃ぇ!!」
ゼイラギオンの艦首波動砲口――ダブル・ベクタードマズルが生き物のような滑らかさで稼働し、次の瞬間、そこから蒼白色のエネルギー奔流が放たれた。空間を貫いた収束波動砲ビームは砲口の偏向によって大剣のように振り回され、カラクルム級の長大な縦深隊列を次々に薙ぎ払っていく。元々、より大規模なレギオネル・カノーネを粉砕すべく開発されただけに、それより規模も隻数も遥かに小さいインフェルノ・カノーネを根こそぎにするなど造作もなかった。
アマテラスとアクエリアスもまた、それぞれの役目を果たそうとしていた。
ひときわ明るい爆発的な閃光が戦闘宙域を照らし出した。トランス接続艦とアクエリアスによって著しく強化されたアマテラスの波動ラムが、堅固極まりない都市帝国の防御フィールドを遂に貫き通したのだ。
無数の紅いプラズマ光が何千何万と絡まり合いながら弾け飛び、空間全体に赤光の豪雨となって降り注ぐ。そして――遂に都市帝国のフィールドは消失した。しかし同時に、最後までアマテラスの波動エンジンの賦活に全力を注いだアクエリアスの波動エンジンと疑似CRSシステムが完全にダウンする。全電源を喪失した彼女は、やがてゆっくりと漂流を始めた。
多くの仲間と姉妹を喪い、自身も満身創痍になりながらも、彼女たちの勝利はもはや目前だった。外装の多くが無残に剥離したアマテラスの艦首が徐々に輝きを増していく。もはやトランス接続したD級は一隻も残っておらず、賦活に賦活を重ねた彼女の波動エンジンも既に耐久性が限界にきている。しかしそれでも、姉妹たちが命懸けで整えたこの千載一遇のチャンスを活かすべく、アマテラスは今にもダウンしそうなる波動エンジンを唸らせ、波動砲エネルギーのチャージを続ける。
だが、不意に都市帝国の“腹”の中から放たれた巨大な光弾がアマテラスを掠め、後方にいたランダルミーデを直撃した。ここまで被弾を重ねながらも頑強に戦い続けていたランダルミーデがその一撃だけで船体をへし折られる。信じがたいほどの大威力だ。
都市帝国の腹の中――プラネットキャプチャーの陰から巨大な影が悠然と姿を現した。全長1キロメートルを超える超巨大空母――アポカリクス級航宙母艦が二隻。その船体は、まだ生成が完了したばかりであることを示す漆黒に彩られている。
一隻のアポカリクス級の艦首が閃光を発し、再び巨大な光弾が放たれた。
光弾はアマテラスに向かって真っすぐ延伸するが、転舵急進したデルスガドラが射線に飛び込んでそれを阻止する。しかしその代償として直撃を受けた彼女はバラバラに砕け散った。
アポカリクス級の艦首砲はキロメートル級の小惑星すら粉砕可能な威力を持つ。波動砲やデスラー砲を除けば最大規模の艦砲であり、火焔直撃砲すら上回る。たとえアンドロメダ級が波動防壁を全力展開していたとしても轟沈を免れない。
そんな巨大砲を二門も有する漆黒のアポカリクスが交互射撃の要領で早くも次弾を放った。しかも二隻同時に。
二発の巨大な光弾が虚空を切り裂き、アマテラスに殺到する。彼女の波動砲発射までのカウントダウンは、未だ二十秒を残していた――。
アンドロメダ級後期建造艦群を総動員した作戦は最終段階で惜しくも潰えた。作戦参加艦艇の中で生還できたのはランダルミーデ級四番艦ゼイラギオンただ一隻。彼女を除く五十余隻は悉く喪われた。
本作戦は「失敗」として評されることが多いが、それに異を唱える者も少なくない。元宇宙戦艦ヤマト副長/現戦闘空母ヒュウガ艦長を務める真田志郎二等宙佐は、記録映画「宇宙戦艦ヤマトという時代」のインタビューの中でこのように述べている。
「確かに作戦目的を達成できなかったという点で、アマテラス以下の第二挺身艦隊の作戦は失敗したと言えるでしょう。しかし、艦隊が都市帝国の防御フィールドを破壊したことで、白色彗星が進撃を一時停止したことは、後のことを考えると非常に大きな意味を持っていました」
この発言シーンは、公開当時の映画本編ではカットされたものの、後に公開されたディレクターズカット版で初めて盛り込まれた。
真田二佐が語ったとおり、本作戦後に白色彗星は進撃を一時停止していた。アンドロメダによる重力源の破壊に続き、アマテラスによって防御フィールドを突破されたことは、ガトランティス帝国にとっても衝撃は大きかったらしく、防御フィールドが機能を完全に復元するまで白色彗星は前進を控えたのである。
そしてこの時、地球防衛軍が発動していたもう一つの作戦――宇宙戦艦ヤマトによるトランジット波動砲攻撃作戦は思わぬ躓きと遅れをみせていた。銀河から部品を譲り受け、緊急修理と改装を完了させたヤマトであったが、その前にアベルト・デスラー前ガミラス総統が立ちふさがったからだ。
最終的にデスラー前総統は矛を収めて撤退し、更にトランジット波動砲発射時の膨大な輻射熱からヤマトを守るために御座艦――ノイ・デウスーラが提供されたものの、タイムテーブル上、ここでの作戦遅延は致命的の筈だった。事実、ヤマトが地球沖にワープアウトした時点で、ガトランティス帝国は地球連邦に全面降伏勧告を行っており、ヤマトの到着があと僅かでも遅れていれば連邦政府は降伏を受諾するか、勧告を拒否あるいは黙殺した結果として国土と市民を徹底的に殲滅されていた可能性が極めて高い。
つまり、アンドロメダ級後期建造艦群による作戦で白色彗星の足止めが叶わなかった場合、ヤマトは決定的瞬間に間に合わず、更には滅びの方舟を消滅させることもできなかったと考えられるのである。
その点では、アンドロメダ級後期建造艦群と彼女たちの奮戦もまた「大いなる和」を構成する一部であり、決して欠くことのできない存在だったと言えるだろう。
久しぶりの設定妄想をようやく公開することができました。
様々な事情から活躍の場面を与えられることがなかった艦たちの魅力が少しでも伝われば幸いです。
都市帝国の防御フィールドは三重くらいあるんじゃない?とか、そもそもいくら強化したと言っても単艦の波動防壁でそれを突破できるんか?とか、そういつ鋭いツッコミはどうかご容赦下さい(笑)
画像のランダルミーデ級は初代組さんの1/1000ガレージキット、アマテラスは八八艦隊さんのMMDイラストをお借りしました。
この場を借りて御礼申し上げます。
実際に書き上げてみると、多少ボリューム的に物足りない感じだったので、他のアドバンスドステージ艦についても合せて書いてみることにしました。
後半のちょっとした見せ場(戦闘シーン)も含め、もちろん公式設定ではありませんので念のため(笑)
では、共にまいりましょう。
ランダルミーデ級前衛武装宇宙艦
AAA-009 ランダルミーデ
AAA-010 ヴェム・ハイデルン
AAA-011 デルスガドラ
AAA-012 ゼイラギオン
ランダルミーデ級をはじめとする所謂「AAAアドバンスドステージ」は、アンドロメダ級初期建造艦(AAA-001~005)が完成した後、実験的に建造された試作艦群である。事実、アドバンスドステージ後に追加建造された十三番艦以降のアンドロメダ級は、運用実績からの小改良こそ行われていたものの初期建造艦とほぼ同等の仕様であり、以降アドバンスドステージが追加建造されることはなかった。
アドバンスドステージは、ガミラス第八浮遊大陸基地奪還作戦及び第十一番惑星防衛戦を受けて建造計画がスタートした経緯があり、初期建造艦にはない特殊な装備や、建造作業そのものにも検証要素が含まれていたことから、その完成はガトランティス戦役の末期であった。就役時期はA級十三番艦以降や初期建造艦の設計資源を流用した無人艦群(BBB)よりも遅く、この点からアドバンスドステージを「アンドロメダ級後期建造艦群」と称することもある。
アドバンスドステージは少なくとも三タイプが建造され、試作艦ながら全艦が火星―地球間絶対防衛線を巡る戦いに投入された。これら三タイプの後期建造艦はベース艦こそ共通ながら、それぞれが全く異なるコンセプトで建造されており、特にランダルミーデ級はオリジナル艦の外観的特長から最も乖離した艦として知られている。
本級の別名は「ガミラスメイド」。異星文明――大ガミラス帝星式の建造技術で建造されたアンドロメダ級であった。本級以前に時間断層工廠ガミラス管理区画内でライセンス生産され、在地球ガミラス軍(在地ガ軍)が運用した空母型アンドロメダがシステム的なインターフェースと一部航空艤装のみガミラス式に改めたのに対し、ランダルミーデ級ではシステム面はもちろん船殻や機関、艤装品に至るまで完全なガミラス規格で建造されている。
建造にあたっては、地球が独自開発した収束/拡散波動砲をガミラス規格で再現できるかが当初は危ぶまれ、波動砲の代わりに反射衛星砲を搭載することも検討された。しかし、建造コンセプトの点で本級への波動砲装備は絶対要件であったため、ガミラス規格での波動砲開発続行の方針が改めて示されている。
多少の遅延こそあったものの、本級用の波動砲は無事に完成、更には独自の追加仕様として「偏向」機能まで備えていた。
本級の波動砲口はフレキシブルに可動する外筒と内筒からなる二重構造を有し(ダブル・ベクタードマズル)、外筒と内筒の間隙に高密度の偏向フィールドを発生させつつ可動させることで、艦の姿勢を変更することなく波動砲のビームを偏向させることが可能であった。
従来型の固定式砲口でもバウスラスターを用いた艦の姿勢制御によって波動砲発射前であれば射線の変更が可能だが、波動砲発射時には安全上重力アンカーで艦を固定する必要があり、射線と射角の変更はほぼ不可能であった。
しかし本級は、ベクタードマズルによって従来艦では不可能な射角変更が可能であり、大威力且つ長射程の収束モードにおいて圧倒的な掃射(スイープ)性能を有していた。
本機能の搭載は第十一番惑星に来襲したガトランティス帝国前衛艦隊の物量と、そこで実行された特殊な戦術に原因があった。第十一番惑星に殺到したガトランティス軍の総数は250万隻超という常軌を逸した戦力であり、その殆どが全長500メートルを超える大型戦艦カラクルム級だった。そして、そんな彼らが採った戦術も異様極まりなかった。
250万隻のカラクルム級は全長数千キロメートルにも及ぶ長大な円筒型陣形を敷くと、十一番惑星近傍に設置されていた人工太陽をエネルギー源とした超大直径レーザー砲――レギオネル・カノーネ――での地球砲撃を企図したのである。
本作戦は十一番惑星救援のために急行したBBY-01宇宙戦艦ヤマトの機転で阻止されたものの、ガトランティス軍が今後も同様の作戦を発起した場合への備えが必要と考えられた。
波動砲艦隊が装備する拡散波動砲は面制圧効果の高い優秀砲であったが、それでも数千キロメートルにも及ぶ重厚な艦列を射抜くには効果範囲が全く不足していた。本課題に対して時間断層AIが導き出した回答こそ、ダブル・ベクタードマズルを用いた収束波動砲のスイープ砲撃だった。強固且つ長大なカラクルム級の縦深を貫くには大威力の収束モードでなくてはならず、更に収束モードのウィークポイントである面制圧効果を最大化するには射線偏向が絶対に必要だったからだ。
対レギオネル・カノーネ兵器として極めて有効と考えられたベクタード・マズルだが、結果的に他の地球艦艇への装備は見送られた。開発完了がガトランティス戦役末期であったことに加え、当時の時間断層工廠は一隻でも多くの波動砲搭載艦艇を前線に送り出すべく限界を超えたフル稼働を続けており、そんな中での波動砲システムの変更は工程の混乱と製造効率の低下をもたらすとして不採用とされたのである。また、ガトランティス戦役後にも新規建造艦へのベクタード・マズル搭載が再び議論されたが、今度は平和主義を標榜する戦後の地球の外交方針が足を引っ張り、「過剰装備」としてまたしても不採用とされている。
その特異な外観と可動式波動砲口に注目されることの多い本級であるが、開発と建造にあたっては固有のプロジェクトネーム――「L計画」――が与えられていた。
L計画と対をなす計画として、ヤマト型三番艦「銀河」が任を務めた「G計画」がある。G計画とは、“GENE”の頭文字が意味するとおり、ガトランティス帝国侵攻により人類が滅亡した場合に備えて地球人の遺伝子を保存する「種の保存計画」であった。本計画のルーツがガミラス戦役時の「イズモ計画」であったことはあまりにも有名だが、ランダルミーデ級に与えられた「L計画」にはひな型となる計画は存在しない。
L計画の「L」は“LIBERATION”の頭文字とされており、ガトランティスによる占領後の地球奪還と解放を企図した計画だった。
G計画とL計画の並立は、ガトランティス軍による第十一番惑星への大規模侵攻が、地球人類に種の保存と地球の被占領を覚悟させるほどの衝撃を与えた証左だったと言えるだろう。
ガミラス戦役時の地球は、母星を逃れても抗戦を継続可能な後背地や有力な同盟国を持たず、地球の喪失はすなわち地球人類の滅亡と同意だった。しかし、2203年の地球には大ガミラス帝星という大・小マゼラン銀河の雄が同盟国として存在しており、地球喪失後はガミラス領域へ逃れて徹底抗戦を継続することも現実的な選択肢となっていたのである。
そこには、ガトランティス帝国が全人型知的生命体の根絶を国家テーゼとしている以上、ガミラスが対ガトランティス戦争を継続することは確実であるという判断と共に、戦争を継続せざるを得ないガミラスにとって、波動砲搭載艦艇の建造技術を有し、波動砲の使用に対しても全く忌避感を持たない地球人は非常に使い出のある存在となりえるという読みもあった。
しかし、いくら波動砲搭載艦艇を建造可能な技術を持ち、その運用ノウハウを有するとしても、時間断層と共に地球が喪われれば、艦艇を実際に建造する工業能力を失ってしまう。よしんば、逃れた先のガミラスで工廠惑星などを譲渡されたとしても、そこにあるのは全てガミラス規格に基づくガミラス式の工業設備であり、地球規格で設計されたアンドロメダ級やドレッドノート級をそのまま直ちに建造できる訳ではなかった。
しかし、地球からの全面撤退に際しては、彼らが心血を注いで整備した波動砲艦隊の大半が喪われているのは確実である以上、波動砲艦隊の再建はできるだけ短期間で行わなければならなかった。もちろん、時間断層にはもはや期待できない。それでも、一隻でも多くの波動砲搭載艦を新たに確保するために、通常空間で建造期間と建造コストを最小化する必要があった。
すなわち、ランダルミーデ級の本質はガミラス領域内のガミラス式工業設備で急速建造可能なアンドロメダ級の確立に他ならなかった(その点で言えば、先に述べた偏向式波動砲の開発は副次的な目的に過ぎない)。
本級は、大は砲熕兵器から小は装甲材質の分子的組成に至るまで徹底的に既存のガミラス規格に基づいて設計されており、設計データさえインプットすれば無改造のガミラス式工廠で直ちに建造が可能だった。
本級はアドバンスドステージ中最多の四隻が若干の時間差をつけて建造開始され、量産性と効率検証のためにそれぞれが異なる建造方法と工程順序で建造されている。このため、内部構造において四隻には多少の違いがあったが、外観やスペックの差は殆どない。但し、先行して建造される前番艦のデータが得られる分、後番艦ほど艦としての完成度は高かったと推測される。
ランダルミーデ級は短期間の公試と実戦においてオリジナルのアンドロメダ級と同等の性能を示した。更に、ガミラス工廠惑星での建造を想定したシミュレーションにおいては、オリジナルを建造する場合に比して工期は1/2、建造費は艤装品の大半が既にガミラスで大量生産されているものを流用できたことから2/3にまで低減可能という結果が得られた(加えて、オリジナルのアンドロメダ級をガミラスの工業惑星で建造するには、建造設備自体にも大規模な改造が必要だった)。
幸いにも、ガトランティスによる地球占領という最悪の状況――本級が真価を発揮したであろう状況――は遂に発生せず、本級の建造は試験建造艦四隻のみで打ち切られたが、ガトランティス戦役後も唯一残存した四番艦(一から三番艦は戦没)と本級の設計データが戦後ガミラスに譲渡されている。
なお、本級の建造はガミラス側の了承を得ずに実行されており、更に主砲には当時は未だ存在が秘匿されていたデウスーラⅡ世級のものが流用されているなど、ガミラスにとって本級は目を疑うような存在であった。戦役中、地球に対して様々な外交的・軍事的便宜を図ったローレン・バレル大使も本級の存在が初めて伝えられた際には不快感を隠さず、時間断層工廠の実質的な管理責任者だった芹沢統括司令副長官に遺憾の意を示したとされる。
そうした経緯もあり、設計データの提供を受けたガミラスにおいて本級が新規建造されることはなく、それどころか譲渡された四番艦を含め存在自体が半ば無視された状態に置かれた。
しかし――そうした状況も長くは続かなかった。
2205年から開始されたガルマン独立戦争において、ガミラス軍は思わぬ苦戦を強いられた。本星を喪った上に大・小マゼランの広大な領域からの移民作業を並行して行っているガミラス軍は正面戦力が著しく不足しており、物量戦を旨とするボラー連邦軍に押しまくられる局面が度々発生していたからだ。
そんなガミラス軍において、圧倒的戦力を誇ったガトランティス軍を長期に渡って押し留めた拡散波動砲が再評価されたのは半ば必然だった。急ぎ装備化が模索され、今すぐにでも建造が可能なランダルミーデ級にも注目が集まったが、最終的にガミラス軍が選択したのは彼女ではなかった。
より建造が容易な「ドレッドノート級ガミラスメイド」が選択されたのである。
波動砲艦隊構想の真の主力がドレッドノート級であった以上、ガミラス領域での波動砲艦隊再建計画であるL計画においても「D級ガミラスメイド」は不可欠の存在だった。
D級ガミラスメイドはランダルミーデ級と同時期に時間断層内で設計を終え、ランダルミーデ級と共に設計データもガミラスに引き渡されていた。ガトランティス戦役中、地球での試験建造こそ行われなかったものの、より高度且つ建造難易度も高いランダルミーデ級の建造に成功した以上、D級ガミラスメイドの建造に対する技術的な不安点は既に皆無だった。
2205年以降ガミラスが建造したのは、このD級ガミラスメイドをタイプシップとした艦で、波動砲ではなく収束率可変機能が付与された改良型デスラー砲を装備し、圧倒的多数のボラー艦隊に対する決戦戦力として多大な戦果を収めることになる。そんな彼女たちをガミラス軍将兵は「デスラー砲艦」と呼んだが、そのルーツがガトランティス戦役時に開発された地球艦であったことは殆ど知られていない。
最後に、システムインターフェースをガミラス式に改められた上でガミラスに引き渡されたランダルミーデ級四番艦「ゼイラギオン」だが、引き渡し直後の冷遇期以降は実戦配備が行われた。しかし、同型艦が存在しないこともあって運用コストが他艦よりも高く、度々予備艦指定を受けている。とはいえ、アンドロメダ級譲りの攻防性能の高さと、何より連装デスラー砲(デスラー砲艦配備後に波動砲から換装)の圧倒的威力は対ボラー戦においても重宝され、ガミラス軍の決戦戦力「空間機甲軍」の一角として長期に渡り君臨することになる。
アクエリアス級前衛武装宇宙艦
AAA-007 ラボラトリー・アクエリアス
AAA-008 アクエリアス
G計画の中核艦「銀河」の随伴艦として建造された。そのため、本級の仕様と性能は銀河の支援を第一義として計画されている。
銀河がコスモリバースシステム(CRS)の影響により攻撃兵装が一切使用できなかったため、護衛戦力としての随伴艦が必要であったのはもちろんだが、銀河より前方へ進出し航路の安全確保にあたる前路啓開や、指揮AIを並列化することでの演算能力向上、波動防壁強化など、求めれた任務は多岐にわたる。
本級には銀河と同型の指揮AIが搭載されており、超空間通信技術を利用したデータリンクを介して銀河AIとのリアルタイム接続が可能であった。これは、G計画実行後、時間断層AIとの接続が絶たれて以降の銀河指揮AI単独での演算能力に不安が抱かれた為で、本級二隻の同型指揮AIを並列接続することで演算能力の飛躍的向上が図られたのである。
また、本級固有の装備として、CRSを地球独自にコピーしたシステムが搭載された。しかし、あまりに高度なイスカンダルの技術で作り上げられたCRSの解析は困難を極め、その実態はリバースエンジニアリングと呼ぶにも値しなかったとされる。
当然、コピー(疑似)システムにオリジナルが持つ惑星環境再現性能など望むべくもなく、限定的な波動エネルギーの遠隔制御機能がその能力の全てであった。とはいえ、近距離であれば他艦の次元波動エンジンを賦活化させることができる能力は、銀河の護衛艦として考えた場合、極めて有用だった。元より強力な銀河の波動防壁を更に強化することはもちろん、銀河の波動エンジンを賦活化することで防壁展開可能時間を数倍化することができたからだ。
本級にはA級前期建造艦群と同型の波動砲搭載も検討されたが、銀河の生存性向上には攻撃力よりも防御力の強化が効果的であるとして、本級二隻ともにCRSのコピーシステムが搭載された。
この“疑似”CRSシステムの改良は本級完成後も継続され、後にアスカ級補給母艦に「波動共鳴導波装置」として装備されることになる。
本級二隻の運用だが、ラボラトリー・アクエリアスが前路哨戒を担う前衛、アクエリアスは銀河の近傍で直衛にあたるとされた。波動砲こそ装備していないものの、ショックカノンなどそれ以外の兵装はほぼオリジナルのままであり、両艦には、CRS装備の影響で通常武装が使用できない銀河をアンドロメダ級譲りの空間戦闘能力で死守することも求められた。
2203年5月のガトランティス帝国本星軍の太陽系侵攻開始直後、G計画の予備命令(準備命令)が発令される。この時、計画中核艦である銀河は在地ガ軍との混成艦隊旗艦として木星圏で待機中だった。銀河は引き続き混成艦隊旗艦としての任に就くものの、ラボラトリー・アクエリアスはいち早く出撃、銀河に先行しての航路策定と前路哨戒を開始した。
その後、土星沖から火星沖へと連戦を重ねた地球及びガミラス連合艦隊の損耗率は上昇に上昇を重ね、それが遂に50%を超えたことでトリガー条項が発動、G計画が防衛軍司令部より正式発令される。だが、計画発令直後に発生した銀河指揮AIの損壊とCRS損傷により、G計画は無期限延期となってしまった。
本経緯については未だ防秘扱いの事項が多く詳細は不明ながら、結果的にラボラトリー・アクエリアスとアクエリアスは実行不可能となったG計画任務を共に解かれている。特に地球沖で待機していたアクエリアスは直ちに白色彗星迎撃戦に投入され、その短い生涯を終えることになる。
一方、先発していた一番艦ラボラトリー・アクエリアスは、G計画任務解除から程なくして一切の消息を絶ってしまった。ガトランティス戦役後、二度に渡って大規模な捜索活動が実施されたものの、本艦の痕跡はもちろん事故の原因となりえる空間異常や何者かの攻撃を受けた形跡も全く発見できず、捜索終了後に原因不明の亡失として除籍が決定された。
しかしその17年後の2220年、本艦固有の空間航跡が観測されるという事態が発生し、一時は世間をにぎわせた。銀河中心方面をモニタリングしていたアマチュア観測家が半ば偶然発見した航跡が、空間航路局のデータバンクに登録されているラボラトリー・アクエリアスのそれに酷似しているとして、一時は本艦の生存がささやかれた。しかしその後、発見された航跡は極めて不鮮明であり、類似した他艦の航跡を誤認したと考えられ、ラボラトリー・アクエリアスが生存している可能性はない――とする公式声明を防衛軍が発表するに至った。
軍の発表によって事態はほぼ鎮静化したものの未だ一部界隈では、生存している本艦が何らかの極秘任務を帯びて銀河中心方面で活動中であるという説も根強い。またそれ以外にも、謎に包まれた最期や本艦と二番艦の艦名が通常の命名基準ではありえないほど似通っていることから、ラボラトリー・アクエリアスの存在自体を疑う声もあるなど、本艦についての議論は未だ絶えることがない。
アマテラス級前衛武装宇宙艦
AAA-006 アマテラス
40.6センチ三連装収束圧縮型衝撃波砲塔を実に10基備えた強武装艦であり、アンドロメダ級後期建造艦群の中で唯一単艦で建造された。主砲塔10基の内9基が艦首方向に指向可能な配置を取っており、本級に極めて攻撃的なシルエットを与えている
その印象は艦首に目を移すと更に強まる。帆船のバウスプリットを連想させる巨大な“角”には通常の五倍密度で波動コイルが設置されており、艦首部に極大強度の波動防壁の形成が可能である。
これら多数の主砲と強力な波動防壁を両立させるために、本艦の後部の両舷には大型のエネルギーコンデンサーが設置された。ここからの豊富なエネルギー供給によって、圧倒的な主砲投射弾量と、波動防壁の攻撃的使用――波動衝角(通称:波動ラム)――が初めて可能となった。
本級の建造には、ガミラス第八浮遊大陸基地奪還作戦時に初遭遇したカラクルム級大型戦艦が大きな影響を及ぼしている。
本作戦におけるカラクルム級は地球防衛艦隊総旗艦アンドロメダの拡散波動砲攻撃に耐えたばかりか、地球艦隊の不用意な艦隊運動の隙を突いて一気に戦線を突破、太陽系へのワープを果たしていた。その際、アンドロメダは突撃してきたカラクルム級に対してショックカノンを命中させていたが、撃破も足止めも叶わず、地球の位置をガトランティス軍に掴まれるという大失態をおかしてしまった。
しかし、艦の規模で言えばアンドロメダ級すら大きく上回る巨大なカラクルム級を短時間の咄嗟戦闘で行動不能にするのは波動砲を用いない限り困難であることもまた明らかだった。しかし、発射シーケンスが複雑な波動砲を咄嗟戦闘で使用することはできず、何らかの代替手段が模索された。
その結果として考案されたのがアマテラスが艦首に装備した「波動ラム」であった。その波動防壁は最大戦速で突進してくるカラクルム級の巨躯を真正面から受け止めるばかりか、堅固な艦体を破断可能な強度と指向性を有しており、近接戦闘及び咄嗟戦闘において圧倒的な威力を発揮する。
この波動ラムに加えて、アンドロメダ級前期建造艦の四倍以上を誇る前方指向火力を用いることで、本級はカラクルム級の突撃戦術への対応のみならず単艦での一撃離脱、あるいは同級艦複数で堅固な敵艦隊艦列に突撃し、これを破砕する破城槌的運用が構想されていた。
しかし本級の設計完了直後、第十一番惑星に来襲したガトランティス軍のカラクルム級は200万隻を優に超えていることが明らかとなり、本級が想定した単艦や少数艦での突撃戦術では戦場の大勢に影響を及ぼすことはできないこともまた明白となった。
その結果、全ての建造努力をより量産が容易なA級前期建造艦とD級に集中することになり、本級は後期建造艦群の中では最も早く設計が完了していたにもかかわらず、新装備である波動ラムの試験用として一隻のみ建造が承認された。
そして、時間断層工廠において本級の完成が近づいた頃、ガトランティス帝国本国軍による太陽系侵攻が始まる。
【絶対防衛線の死闘】
ガトランティス帝国本国軍は、前面にバルゼー提督麾下の第七機動艦隊を押し立て木星圏に侵攻、迎撃に出た地球艦隊に対して物量に任せた中央突破を図った。これに対し、地球艦隊は機動運用可能な波動砲搭載艦の集中投入によって一度はガトランティス艦隊を退けることに成功する。
しかし、敗残の艦隊を押し退けるように前進してきた白色彗星は全く別次元の存在だった。500隻以上のA級及びD級が重力子フィールドを用いて放った極大・収束波動砲すら全く通用せず、反撃を受けた地球艦隊主力――波動砲艦隊は壊滅の憂き目を見ることになる。
木星の防衛戦を突破された地球艦隊であったが、予備戦力として待機していた銀河を旗艦とする臨時艦隊による機動防御と、ワープ阻害フィールドを駆使した遅滞戦闘によって、戦線の再構築と艦隊の再編に辛うじて成功する。
地球防衛軍が新たな防衛線――絶対防衛線――と設定したのは火星軌道だった。この地を舞台に地球艦隊は、白色彗星及びその内部に存在するガトランティス帝国本拠地「都市帝国」に対し再三にわたり肉薄波動砲攻撃をかけるも、強靭な防御フィールドに阻まれダメージを与えられずにいた。
しかし、山南提督率いる第一挺身艦隊の旗艦アンドロメダが都市帝国の高重力源への突入に成功、銀河のCRSが生成した波動レンズによって強化された波動砲で高重力源を射抜いた。この攻撃により一時は沈黙したかに見えた都市帝国だったが、古代アケーリアス文明が作り出した「滅びの方舟」は復元力においても常軌を逸していた。僅かな時間で重力源を再生・再起動させると、再び前進の気配を見せ始めたのである。
地球防衛軍としては、都市帝国が完全な復活を遂げる前に、決定的な打撃を加えたいところであったが、総旗艦アンドロメダを含む波動砲艦隊の多くが喪われ、頼みの銀河もCRSに重大な損害を被るなど、戦力が枯渇しつつあった。
そんな中、幕僚本部は「最後の作戦」として都市帝国から脱出したヤマトによるトランジット波動砲攻撃を立案、一方、時間断層AIはアンドロメダ級後期建造艦群を用いた肉薄攻撃を提案する。
幕僚本部案の懸案は、ヤマトの損害が思いのほか大きく、修理に時間を要することであったが、同型艦である銀河から艤装を譲り受けることで修理期間の大幅な短縮が図られた。しかしそれでも、白色彗星が現在の侵攻速度を維持した場合、彗星の地球圏到達に間に合わないことから、AIが提唱した作戦案が支作戦として同時遂行されることになった。
投入されるのはラボラトリー・アクエリアスを除く六隻のアンドロメダ級後期建造艦群と無人アンドロメダ級艦隊――BBB戦隊――からなる第二挺身艦隊だった。
艦隊に与えられた任務は、万難を排して都市帝国へ接近、アクエリアスの疑似CRSシステムで強化したアマテラスの「波動ラム」で都市帝国の防御フィールドを突破、そのままアマテラスの波動砲で都市帝国中枢に決定的打撃を加えるというものであった。
皮肉にも本戦術はガトランティス軍のイーターⅠの波動防壁突破プロセスを分析する中で立案されたものだった。地球艦隊の数百発もの波動砲射撃にすら平然と耐久する都市帝国の防御フィールドは「面」での耐久力が非常に高いが、逆に極めて小さな「点」への穿孔的エネルギー投射には耐圧限界がやや低いと推測され、最大出力の波動ラムによる一点突破であれば浸透突破できる可能性ある――との分析がなされたのである。
本作戦は白色彗星の火星圏突破直前に実行に移された。
初手として挺進艦隊前衛――無人アンドロメダ級からなるBBB戦隊――がショートワープで白色彗星内へ突入する。
そこはガトランティス帝国の本拠地「都市帝国」の門前であり、千隻単位のカラクルム級が文字通り蝟集していた。その只中へ密集隊形で突撃したBBBは僅か五十隻余。しかしBBB群は空間転移でカラクルム級の艦列へ強引に割り込むと、躊躇なく戦闘を開始した。
彼我両軍が限られた空間に異常なほど集中したため、ワープアウトの瞬間、出会い頭の衝突に至った艦も一隻や二隻ではなかった。加えて、BBB戦隊は全艦がバーサーカー・モード(継戦維持や友軍誤射制限を解除した全攻撃力発揮モード)を選択しており、戦闘開始と同時に、装備する全エネルギー兵器と実体弾兵器を周囲に蠢くカラクルム級群へ一斉に投射する。BBB戦隊のワープアウトから僅か三十秒間で百隻以上のカラクルム級が砕け散った。
一方、奇襲を受けたガトランティス軍であったが、彼らも戦闘においては躊躇うことを知らない人造戦闘種族だった。命令を待つことなく半ば本能的に反撃の砲火を閃かせたが、それがむしろ混乱を拡大する結果となった。周囲はほぼ全て友軍という状況での応射は必然的に大量の誤射を生み、その損害はBBB戦隊による直接的な損害すら上回ったからだ。
しかしそれでもカラクルム級は反撃を控えることはない。使用可能な砲を総動員し、砲の指向が間に合わなければ艦の質力と強度そのものを武器としてBBBに突撃する。
衝突と被弾、轟沈、爆沈、更には誘爆が続出し、白色彗星内――都市帝国の門前という限られた空間に、短時間で沈んだ両軍艦艇から放出されたエネルギーがみるみるうちに充満していく。
僅かな時間で戦闘宙域全体を覆い尽くした巨大且つ膨大なエネルギーの塊は、各艦のセンサーを飽和させ、一種の煙幕のように電子的な見通し距離を極端に制限した。
それ故、ガトランティス軍は気づかなかった――BBB戦隊の真の目的がガトランティス軍の混乱を惹起することではなく、「後続」のための本宙域の一時的制圧であることを。
BBB戦隊が強引に掃討したエリアにピンポイントで飛び込んできたのが第二挺進艦隊の本隊――アンドロメダ級後期建造艦群であった。
露払い役のランダルミーデを先頭に、その後方にアマテラスとアクエリアスが続き、殿(しんがり)をゼイラギオンが務める単縦陣だ。残るランダルミーデ級のヴェム・ハイデルンとデルスガドラはアマテラスの左右で直衛に就く。
僅か六隻の挺進艦隊本隊は、無数のカラクルム級を相手に未だ鬼神のような全力戦闘を繰り広げているBBB戦隊を傍らを全力で駆け抜けた。BBBの一隻からレーザー発光通信が飛ぶ。作戦ノ成功ト貴隊ノ生還ヲ祈ル。
――畜生、言ってくれるぜ。通信を受け取ったゼイラギオン艦長は遠ざかっていくBBB群の背に敬礼を送った。
都市帝国へと突進するアンドロメダ後期建造艦群の動きをガトランティス軍はしばらくの間、察知できず、その迎撃は完全に後手に回ることになる。だが、たとえ泥縄式の逐次投入であっても元々の戦力が膨大なだけに、存在を悟られた後の迎撃は熾烈を極めた。
無数の刺突兵器イーターⅠが挺進艦隊各艦の波動エンジンを貫こうと四方八方から殺到してくる。波動防壁の中和機能を有し、ハードキルでしか阻止できないイーターⅠは前方投影面積も小さく迎撃困難だ。しかし、四隻のランダルミーデ級の艦長たちは自分たちの役割を完璧に心得ていた。ショックカノン、重力子スプレッド、速射魚雷、パルスレーザー、対艦グレネード――あらゆる武装を総動員し、作戦の「本命」であるアマテラスとアクエリアスへの攻撃を絶対に阻止する。
既に都市帝国まで指呼の距離。ランダルミーデ級と彼女たちにトランス接続したD級群の主砲が吠える。収束圧縮型衝撃波砲の集中豪雨を思わせる速射性能は圧倒的な制圧力で大半のイーターⅠをミドルレンジ以遠で阻止する。インレンジに踏み込むことに成功した僅かなイーターも無事ではいられない。各種誘導弾とパルスレーザーが即座に迎え撃ち、痛撃を与える。
ガミラスの転送システムが繰り出す至近からの航空奇襲に対抗すべく備えられた即応性の高い防空システムだけに、遠距離からの飛翔体に対しては鉄壁と言えるほどの抗堪性を発揮する。四隻のランダルミーデ級はデータリンクで防空識別情報を共有しつつ、常に最適位置を確保しながら戦闘を継続し、イーターⅠによる槍衾のような迎撃網を突破する。
そして遂に、アマテラスのフェイズドアレイ・コスモレーダーが都市帝国の防御フィールド展開予想域を射程に捉えた。
艦首のスタブウィングにずらりと装備された小型ミサイルが一斉に放たれた。高加速するミサイル群の弾頭はセンサーのみの実質的にはセンシングプローブだ。ミサイルは防御フィールドと接触すると同時に砕け散るが、その精密位置がアマテラスにフィードバックされ、防御フィールドの実有効エリアの情報をもたらす。ここまでアマテラスは突破戦闘をランダルミーデ級に任せ、一発のショックカノンすら放っていない――すべては、この瞬間のために。
アマテラスの艦尾両舷の超大型コンデンサー、そしてトランス接続するD級の各部に増設された大型コンデンサー群が一斉に発光、その起動を示す。彼女に接続したD級は通常の倍にあたる実に四隻。しかも全艦が主砲塔や艦橋、ウイング類をことごとく撤去し、その跡に大型コンデンサーを増設していた。一発でも被弾すればコンデンサー群が誘爆する危険極まりない状態であったが、そんな彼女をランダルミーデ級姉妹はここまで守り切ったのである。
そして、アマテラスの戦闘準備が最終段階に入る。波動防壁を展開した彼女の艦首部が青白く発光し、その光は瞬く間に収束、ひと際大きな純白の輝きでアマテラスの艦首部全体を包んだ。
極大出力で形成された波動ラム――魔の根源を断つ攻城槌と化したアマテラスは機関出力を最大化すると、都市帝国に全速で突進した。そして遂に、ラム先端が都市帝国の防御フィールドに接触する。
瞬間、アマテラスの艦首に爆発的な閃光が弾け、その光景を凝視する全ての人々の視界からアマテラスの姿がかき消えた。轟沈か――視力を奪われた人々の脳裏に浮かんだ諦観は次の瞬間、覆された。
激しくスパークするプラズマの豪雨が都市帝国の防御フィールドを明るく照らし出し、その中心に突き立てられた野太い剛槍の姿を鮮やかに映し出した。
アマテラスはセンシングプローブのように砕け散ってはいなかった。それどころか、絶対的な鉄壁を誇った都市帝国の防御フィールドに穿孔をうがつばかりか、未だじりじりと前進している。過負荷に耐えかねたD級のコンデンサーが幾つか吹き飛ぶ。しかし、それでもアマテラスの前進は止まらない。膨大なエネルギー同士の衝突を物語る激しいプラズマ光を周囲に放ちながらも、彼女の長大な艦首ラムの先端部は防御フィールド内に浸透しつつあった。
刹那、大量のビーム光がアマテラスの背後から殺到する。だがそれらを、アマテラスの背後に陣取ったアクエリアスが最大出力の波動防壁で全て阻止した。外れ弾となったビームが都市帝国の防御フィールドに命中し、激しく爆ぜる。
ガトランティス軍も必死だ。BBB群を葬ったカラクルム級の大軍が全速で追いすがり、誤射を全く厭うことなく砲撃を開始したのだ。反転迎撃するランダルミーデ級はヴェム・ハイデルンとデルスガドラが拡散波動砲発射態勢に入り、ランダルミーデとゼイラギオンは前進、通常戦闘で波動砲発射までの時間を稼ぐ。だが、それは罠だった。
アマテラスの周囲が手薄になった瞬間を見計らい、S0(天頂)方位からイーターⅠが殺到したのである。直前、それを察知したハイデルンが波動砲発射を中止し、アマテラスに覆い被さるように彼女の直上へ急速遷移する。直前までの波動砲発射態勢がたたり迎撃は間に合わない。
主砲塔に、艦橋に、エンジンナセルに――直上から降ってきた二十本を超えるイーターがハイデルンの全身に次々と突き刺さる。だが、彼女の船体は、その名の由来となった軍人の不屈を体現したかのような頑強さで貫通と突破を決して許さない。そして――ヴェム・ハイデルンは永遠に沈黙した。
エネルギー充填を終えたデルスガドラが拡散波動砲を放つ。その一撃だけで五十隻を超えるカラクルム級が一網打尽にされるが、その効果は十分とは言えない。いかんせん敵の数が多すぎた。
仕留めきれなかったカラクルム級群から反撃の砲火が集中する。アマテラスはアクエリアスの波動防壁で守られ、ランダルミーデとゼイラギオンは自身の波動防壁でそれをしのぐが、波動砲発射直後のデルスガドラは防壁の被弾経始圧が限界に達し、直撃弾が連続した。
ランダルミーデが重力子スプレッド弾でデルスガドラの前面に重力フィールドを展開、デルスガドラのダメージコントロールの時間を稼ぐ。しかし次の瞬間、今度はランダルミーデが防壁を射貫され、左の波動砲口を吹き飛ばされた。
挺身艦隊に限界が近づいていた。アマテラスの船体はじりじりと前進を続けているが、未だその波動砲口を防御フィールド内に押し込めていない。彼女とトランス接続したD級のコンデンサー内のエネルギーも既に残り30%を切っている。しかしアマテラスは最後のチャンスに賭けるべく、波動砲のエネルギーチャージの準備を進めていた。未だ地球人類が一指も触れられていない都市帝国の天守閣――十基の赤色帯が不気味に輝く巨大構造物――に波動砲を直撃させられれば、このバケモノを止められる。そう信じて。
そんなアマテラスの後方でアクエリアスが大きく舵を切った。全エネルギーを疑似CRSシステムに回し、パワーダウンし始めたアマテラスの波動エンジンを急速賦活させるのだ。既に波動防壁は切っている。防壁の代わりは――彼女の船体そのもの。直撃弾が相次ぐが、アンドロメダ級の強靭な船体は無言でそれに耐える。
ただならぬ気配を感じたのか、半包囲態勢を取りつつ砲撃を続けていたカラクルム級群に新たな動きが生じた。三十隻ほどずつの六つの集団に分かれ、それぞれが長大な縦深隊形を形成しようとしている。各艦の雷撃ビットを集合させることで威力を飛躍的に増大させる「インフェルノ・カノーネ」だ。直撃を受ければ、波動防壁機能を低下させている四隻のアンドロメダ級など一たまりもなく消し飛ぶのは確実だった。都市帝国の防御フィールドにも害が及ぶが、そこには絶対の自信があるのだろう。
唯一波動砲を維持したゼイラギオンが波動砲発射態勢を取る。度重なる被弾で波動砲も重力子スプレッドも失っているランダルミーデとデルスガドラは前進し、ゼイラギオンの波動砲発射までの時間を稼ぐ。しかし、二隻とも既に満身創痍であり。まともに機能する兵装は残り少ない。それでも二隻は砲火を集中することで一列分のカラクルム級の隊形を壊乱させることに成功した。集合していた雷撃ビットの赤い環も飛散する。
しかしインフェルノ・カノーネは未だ五列が健在だった。少なくともその内の一列は、発射寸前だ。
間に合わん――歯ぎしりするゼイラギオン艦長の視界を黒い“何か”がよぎった。それは発射寸前だったインフェルノ・カノーネの先頭艦を側面からの体当たりで弾き飛ばした。艦長にはそれが何を意味するのか分かっていた。BBB最後の生き残りが喪われたのだ。
バカ野郎。しかし、ありがとう――。その刹那、エネルギー充填が120%に達したことをオペレーターが告げた。
「波動砲、収束スイープモード。ちゃんとデータ取れ。俺たちは生きて帰るんだ。波動砲――撃ぇ!!」
ゼイラギオンの艦首波動砲口――ダブル・ベクタードマズルが生き物のような滑らかさで稼働し、次の瞬間、そこから蒼白色のエネルギー奔流が放たれた。空間を貫いた収束波動砲ビームは砲口の偏向によって大剣のように振り回され、カラクルム級の長大な縦深隊列を次々に薙ぎ払っていく。元々、より大規模なレギオネル・カノーネを粉砕すべく開発されただけに、それより規模も隻数も遥かに小さいインフェルノ・カノーネを根こそぎにするなど造作もなかった。
アマテラスとアクエリアスもまた、それぞれの役目を果たそうとしていた。
ひときわ明るい爆発的な閃光が戦闘宙域を照らし出した。トランス接続艦とアクエリアスによって著しく強化されたアマテラスの波動ラムが、堅固極まりない都市帝国の防御フィールドを遂に貫き通したのだ。
無数の紅いプラズマ光が何千何万と絡まり合いながら弾け飛び、空間全体に赤光の豪雨となって降り注ぐ。そして――遂に都市帝国のフィールドは消失した。しかし同時に、最後までアマテラスの波動エンジンの賦活に全力を注いだアクエリアスの波動エンジンと疑似CRSシステムが完全にダウンする。全電源を喪失した彼女は、やがてゆっくりと漂流を始めた。
多くの仲間と姉妹を喪い、自身も満身創痍になりながらも、彼女たちの勝利はもはや目前だった。外装の多くが無残に剥離したアマテラスの艦首が徐々に輝きを増していく。もはやトランス接続したD級は一隻も残っておらず、賦活に賦活を重ねた彼女の波動エンジンも既に耐久性が限界にきている。しかしそれでも、姉妹たちが命懸けで整えたこの千載一遇のチャンスを活かすべく、アマテラスは今にもダウンしそうなる波動エンジンを唸らせ、波動砲エネルギーのチャージを続ける。
だが、不意に都市帝国の“腹”の中から放たれた巨大な光弾がアマテラスを掠め、後方にいたランダルミーデを直撃した。ここまで被弾を重ねながらも頑強に戦い続けていたランダルミーデがその一撃だけで船体をへし折られる。信じがたいほどの大威力だ。
都市帝国の腹の中――プラネットキャプチャーの陰から巨大な影が悠然と姿を現した。全長1キロメートルを超える超巨大空母――アポカリクス級航宙母艦が二隻。その船体は、まだ生成が完了したばかりであることを示す漆黒に彩られている。
一隻のアポカリクス級の艦首が閃光を発し、再び巨大な光弾が放たれた。
光弾はアマテラスに向かって真っすぐ延伸するが、転舵急進したデルスガドラが射線に飛び込んでそれを阻止する。しかしその代償として直撃を受けた彼女はバラバラに砕け散った。
アポカリクス級の艦首砲はキロメートル級の小惑星すら粉砕可能な威力を持つ。波動砲やデスラー砲を除けば最大規模の艦砲であり、火焔直撃砲すら上回る。たとえアンドロメダ級が波動防壁を全力展開していたとしても轟沈を免れない。
そんな巨大砲を二門も有する漆黒のアポカリクスが交互射撃の要領で早くも次弾を放った。しかも二隻同時に。
二発の巨大な光弾が虚空を切り裂き、アマテラスに殺到する。彼女の波動砲発射までのカウントダウンは、未だ二十秒を残していた――。
アンドロメダ級後期建造艦群を総動員した作戦は最終段階で惜しくも潰えた。作戦参加艦艇の中で生還できたのはランダルミーデ級四番艦ゼイラギオンただ一隻。彼女を除く五十余隻は悉く喪われた。
本作戦は「失敗」として評されることが多いが、それに異を唱える者も少なくない。元宇宙戦艦ヤマト副長/現戦闘空母ヒュウガ艦長を務める真田志郎二等宙佐は、記録映画「宇宙戦艦ヤマトという時代」のインタビューの中でこのように述べている。
「確かに作戦目的を達成できなかったという点で、アマテラス以下の第二挺身艦隊の作戦は失敗したと言えるでしょう。しかし、艦隊が都市帝国の防御フィールドを破壊したことで、白色彗星が進撃を一時停止したことは、後のことを考えると非常に大きな意味を持っていました」
この発言シーンは、公開当時の映画本編ではカットされたものの、後に公開されたディレクターズカット版で初めて盛り込まれた。
真田二佐が語ったとおり、本作戦後に白色彗星は進撃を一時停止していた。アンドロメダによる重力源の破壊に続き、アマテラスによって防御フィールドを突破されたことは、ガトランティス帝国にとっても衝撃は大きかったらしく、防御フィールドが機能を完全に復元するまで白色彗星は前進を控えたのである。
そしてこの時、地球防衛軍が発動していたもう一つの作戦――宇宙戦艦ヤマトによるトランジット波動砲攻撃作戦は思わぬ躓きと遅れをみせていた。銀河から部品を譲り受け、緊急修理と改装を完了させたヤマトであったが、その前にアベルト・デスラー前ガミラス総統が立ちふさがったからだ。
最終的にデスラー前総統は矛を収めて撤退し、更にトランジット波動砲発射時の膨大な輻射熱からヤマトを守るために御座艦――ノイ・デウスーラが提供されたものの、タイムテーブル上、ここでの作戦遅延は致命的の筈だった。事実、ヤマトが地球沖にワープアウトした時点で、ガトランティス帝国は地球連邦に全面降伏勧告を行っており、ヤマトの到着があと僅かでも遅れていれば連邦政府は降伏を受諾するか、勧告を拒否あるいは黙殺した結果として国土と市民を徹底的に殲滅されていた可能性が極めて高い。
つまり、アンドロメダ級後期建造艦群による作戦で白色彗星の足止めが叶わなかった場合、ヤマトは決定的瞬間に間に合わず、更には滅びの方舟を消滅させることもできなかったと考えられるのである。
その点では、アンドロメダ級後期建造艦群と彼女たちの奮戦もまた「大いなる和」を構成する一部であり、決して欠くことのできない存在だったと言えるだろう。
久しぶりの設定妄想をようやく公開することができました。
様々な事情から活躍の場面を与えられることがなかった艦たちの魅力が少しでも伝われば幸いです。
都市帝国の防御フィールドは三重くらいあるんじゃない?とか、そもそもいくら強化したと言っても単艦の波動防壁でそれを突破できるんか?とか、そういつ鋭いツッコミはどうかご容赦下さい(笑)
画像のランダルミーデ級は初代組さんの1/1000ガレージキット、アマテラスは八八艦隊さんのMMDイラストをお借りしました。
この場を借りて御礼申し上げます。