我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

ランダルミーデ級とAAAアドバンスドステージを妄想してみる。

2024-02-10 12:54:48 | 宇宙戦艦ヤマト2202
以前から書きかけていたランダルミーデ級の設定妄想です。
実際に書き上げてみると、多少ボリューム的に物足りない感じだったので、他のアドバンスドステージ艦についても合せて書いてみることにしました。
後半のちょっとした見せ場(戦闘シーン)も含め、もちろん公式設定ではありませんので念のため(笑)
では、共にまいりましょう。



ランダルミーデ級前衛武装宇宙艦
 AAA-009 ランダルミーデ
 AAA-010 ヴェム・ハイデルン
 AAA-011 デルスガドラ
 AAA-012 ゼイラギオン

 ランダルミーデ級をはじめとする所謂「AAAアドバンスドステージ」は、アンドロメダ級初期建造艦(AAA-001~005)が完成した後、実験的に建造された試作艦群である。事実、アドバンスドステージ後に追加建造された十三番艦以降のアンドロメダ級は、運用実績からの小改良こそ行われていたものの初期建造艦とほぼ同等の仕様であり、以降アドバンスドステージが追加建造されることはなかった。
 アドバンスドステージは、ガミラス第八浮遊大陸基地奪還作戦及び第十一番惑星防衛戦を受けて建造計画がスタートした経緯があり、初期建造艦にはない特殊な装備や、建造作業そのものにも検証要素が含まれていたことから、その完成はガトランティス戦役の末期であった。就役時期はA級十三番艦以降や初期建造艦の設計資源を流用した無人艦群(BBB)よりも遅く、この点からアドバンスドステージを「アンドロメダ級後期建造艦群」と称することもある。

 アドバンスドステージは少なくとも三タイプが建造され、試作艦ながら全艦が火星―地球間絶対防衛線を巡る戦いに投入された。これら三タイプの後期建造艦はベース艦こそ共通ながら、それぞれが全く異なるコンセプトで建造されており、特にランダルミーデ級はオリジナル艦の外観的特長から最も乖離した艦として知られている。
 本級の別名は「ガミラスメイド」。異星文明――大ガミラス帝星式の建造技術で建造されたアンドロメダ級であった。本級以前に時間断層工廠ガミラス管理区画内でライセンス生産され、在地球ガミラス軍(在地ガ軍)が運用した空母型アンドロメダがシステム的なインターフェースと一部航空艤装のみガミラス式に改めたのに対し、ランダルミーデ級ではシステム面はもちろん船殻や機関、艤装品に至るまで完全なガミラス規格で建造されている。
 建造にあたっては、地球が独自開発した収束/拡散波動砲をガミラス規格で再現できるかが当初は危ぶまれ、波動砲の代わりに反射衛星砲を搭載することも検討された。しかし、建造コンセプトの点で本級への波動砲装備は絶対要件であったため、ガミラス規格での波動砲開発続行の方針が改めて示されている。
 多少の遅延こそあったものの、本級用の波動砲は無事に完成、更には独自の追加仕様として「偏向」機能まで備えていた。


 本級の波動砲口はフレキシブルに可動する外筒と内筒からなる二重構造を有し(ダブル・ベクタードマズル)、外筒と内筒の間隙に高密度の偏向フィールドを発生させつつ可動させることで、艦の姿勢を変更することなく波動砲のビームを偏向させることが可能であった。
 従来型の固定式砲口でもバウスラスターを用いた艦の姿勢制御によって波動砲発射前であれば射線の変更が可能だが、波動砲発射時には安全上重力アンカーで艦を固定する必要があり、射線と射角の変更はほぼ不可能であった。
 しかし本級は、ベクタードマズルによって従来艦では不可能な射角変更が可能であり、大威力且つ長射程の収束モードにおいて圧倒的な掃射(スイープ)性能を有していた。
 本機能の搭載は第十一番惑星に来襲したガトランティス帝国前衛艦隊の物量と、そこで実行された特殊な戦術に原因があった。第十一番惑星に殺到したガトランティス軍の総数は250万隻超という常軌を逸した戦力であり、その殆どが全長500メートルを超える大型戦艦カラクルム級だった。そして、そんな彼らが採った戦術も異様極まりなかった。
 250万隻のカラクルム級は全長数千キロメートルにも及ぶ長大な円筒型陣形を敷くと、十一番惑星近傍に設置されていた人工太陽をエネルギー源とした超大直径レーザー砲――レギオネル・カノーネ――での地球砲撃を企図したのである。
 本作戦は十一番惑星救援のために急行したBBY-01宇宙戦艦ヤマトの機転で阻止されたものの、ガトランティス軍が今後も同様の作戦を発起した場合への備えが必要と考えられた。
 波動砲艦隊が装備する拡散波動砲は面制圧効果の高い優秀砲であったが、それでも数千キロメートルにも及ぶ重厚な艦列を射抜くには効果範囲が全く不足していた。本課題に対して時間断層AIが導き出した回答こそ、ダブル・ベクタードマズルを用いた収束波動砲のスイープ砲撃だった。強固且つ長大なカラクルム級の縦深を貫くには大威力の収束モードでなくてはならず、更に収束モードのウィークポイントである面制圧効果を最大化するには射線偏向が絶対に必要だったからだ。
 対レギオネル・カノーネ兵器として極めて有効と考えられたベクタード・マズルだが、結果的に他の地球艦艇への装備は見送られた。開発完了がガトランティス戦役末期であったことに加え、当時の時間断層工廠は一隻でも多くの波動砲搭載艦艇を前線に送り出すべく限界を超えたフル稼働を続けており、そんな中での波動砲システムの変更は工程の混乱と製造効率の低下をもたらすとして不採用とされたのである。また、ガトランティス戦役後にも新規建造艦へのベクタード・マズル搭載が再び議論されたが、今度は平和主義を標榜する戦後の地球の外交方針が足を引っ張り、「過剰装備」としてまたしても不採用とされている。


 その特異な外観と可動式波動砲口に注目されることの多い本級であるが、開発と建造にあたっては固有のプロジェクトネーム――「L計画」――が与えられていた。
 L計画と対をなす計画として、ヤマト型三番艦「銀河」が任を務めた「G計画」がある。G計画とは、“GENE”の頭文字が意味するとおり、ガトランティス帝国侵攻により人類が滅亡した場合に備えて地球人の遺伝子を保存する「種の保存計画」であった。本計画のルーツがガミラス戦役時の「イズモ計画」であったことはあまりにも有名だが、ランダルミーデ級に与えられた「L計画」にはひな型となる計画は存在しない。
 L計画の「L」は“LIBERATION”の頭文字とされており、ガトランティスによる占領後の地球奪還と解放を企図した計画だった。
 G計画とL計画の並立は、ガトランティス軍による第十一番惑星への大規模侵攻が、地球人類に種の保存と地球の被占領を覚悟させるほどの衝撃を与えた証左だったと言えるだろう。

 ガミラス戦役時の地球は、母星を逃れても抗戦を継続可能な後背地や有力な同盟国を持たず、地球の喪失はすなわち地球人類の滅亡と同意だった。しかし、2203年の地球には大ガミラス帝星という大・小マゼラン銀河の雄が同盟国として存在しており、地球喪失後はガミラス領域へ逃れて徹底抗戦を継続することも現実的な選択肢となっていたのである。
 そこには、ガトランティス帝国が全人型知的生命体の根絶を国家テーゼとしている以上、ガミラスが対ガトランティス戦争を継続することは確実であるという判断と共に、戦争を継続せざるを得ないガミラスにとって、波動砲搭載艦艇の建造技術を有し、波動砲の使用に対しても全く忌避感を持たない地球人は非常に使い出のある存在となりえるという読みもあった。
 しかし、いくら波動砲搭載艦艇を建造可能な技術を持ち、その運用ノウハウを有するとしても、時間断層と共に地球が喪われれば、艦艇を実際に建造する工業能力を失ってしまう。よしんば、逃れた先のガミラスで工廠惑星などを譲渡されたとしても、そこにあるのは全てガミラス規格に基づくガミラス式の工業設備であり、地球規格で設計されたアンドロメダ級やドレッドノート級をそのまま直ちに建造できる訳ではなかった。
 しかし、地球からの全面撤退に際しては、彼らが心血を注いで整備した波動砲艦隊の大半が喪われているのは確実である以上、波動砲艦隊の再建はできるだけ短期間で行わなければならなかった。もちろん、時間断層にはもはや期待できない。それでも、一隻でも多くの波動砲搭載艦を新たに確保するために、通常空間で建造期間と建造コストを最小化する必要があった。


 すなわち、ランダルミーデ級の本質はガミラス領域内のガミラス式工業設備で急速建造可能なアンドロメダ級の確立に他ならなかった(その点で言えば、先に述べた偏向式波動砲の開発は副次的な目的に過ぎない)。
 本級は、大は砲熕兵器から小は装甲材質の分子的組成に至るまで徹底的に既存のガミラス規格に基づいて設計されており、設計データさえインプットすれば無改造のガミラス式工廠で直ちに建造が可能だった。
 本級はアドバンスドステージ中最多の四隻が若干の時間差をつけて建造開始され、量産性と効率検証のためにそれぞれが異なる建造方法と工程順序で建造されている。このため、内部構造において四隻には多少の違いがあったが、外観やスペックの差は殆どない。但し、先行して建造される前番艦のデータが得られる分、後番艦ほど艦としての完成度は高かったと推測される。
 ランダルミーデ級は短期間の公試と実戦においてオリジナルのアンドロメダ級と同等の性能を示した。更に、ガミラス工廠惑星での建造を想定したシミュレーションにおいては、オリジナルを建造する場合に比して工期は1/2、建造費は艤装品の大半が既にガミラスで大量生産されているものを流用できたことから2/3にまで低減可能という結果が得られた(加えて、オリジナルのアンドロメダ級をガミラスの工業惑星で建造するには、建造設備自体にも大規模な改造が必要だった)。
 幸いにも、ガトランティスによる地球占領という最悪の状況――本級が真価を発揮したであろう状況――は遂に発生せず、本級の建造は試験建造艦四隻のみで打ち切られたが、ガトランティス戦役後も唯一残存した四番艦(一から三番艦は戦没)と本級の設計データが戦後ガミラスに譲渡されている。
 なお、本級の建造はガミラス側の了承を得ずに実行されており、更に主砲には当時は未だ存在が秘匿されていたデウスーラⅡ世級のものが流用されているなど、ガミラスにとって本級は目を疑うような存在であった。戦役中、地球に対して様々な外交的・軍事的便宜を図ったローレン・バレル大使も本級の存在が初めて伝えられた際には不快感を隠さず、時間断層工廠の実質的な管理責任者だった芹沢統括司令副長官に遺憾の意を示したとされる。
 そうした経緯もあり、設計データの提供を受けたガミラスにおいて本級が新規建造されることはなく、それどころか譲渡された四番艦を含め存在自体が半ば無視された状態に置かれた。
 しかし――そうした状況も長くは続かなかった。
 2205年から開始されたガルマン独立戦争において、ガミラス軍は思わぬ苦戦を強いられた。本星を喪った上に大・小マゼランの広大な領域からの移民作業を並行して行っているガミラス軍は正面戦力が著しく不足しており、物量戦を旨とするボラー連邦軍に押しまくられる局面が度々発生していたからだ。
 そんなガミラス軍において、圧倒的戦力を誇ったガトランティス軍を長期に渡って押し留めた拡散波動砲が再評価されたのは半ば必然だった。急ぎ装備化が模索され、今すぐにでも建造が可能なランダルミーデ級にも注目が集まったが、最終的にガミラス軍が選択したのは彼女ではなかった。
 より建造が容易な「ドレッドノート級ガミラスメイド」が選択されたのである。

 波動砲艦隊構想の真の主力がドレッドノート級であった以上、ガミラス領域での波動砲艦隊再建計画であるL計画においても「D級ガミラスメイド」は不可欠の存在だった。
 D級ガミラスメイドはランダルミーデ級と同時期に時間断層内で設計を終え、ランダルミーデ級と共に設計データもガミラスに引き渡されていた。ガトランティス戦役中、地球での試験建造こそ行われなかったものの、より高度且つ建造難易度も高いランダルミーデ級の建造に成功した以上、D級ガミラスメイドの建造に対する技術的な不安点は既に皆無だった。
 2205年以降ガミラスが建造したのは、このD級ガミラスメイドをタイプシップとした艦で、波動砲ではなく収束率可変機能が付与された改良型デスラー砲を装備し、圧倒的多数のボラー艦隊に対する決戦戦力として多大な戦果を収めることになる。そんな彼女たちをガミラス軍将兵は「デスラー砲艦」と呼んだが、そのルーツがガトランティス戦役時に開発された地球艦であったことは殆ど知られていない。

 最後に、システムインターフェースをガミラス式に改められた上でガミラスに引き渡されたランダルミーデ級四番艦「ゼイラギオン」だが、引き渡し直後の冷遇期以降は実戦配備が行われた。しかし、同型艦が存在しないこともあって運用コストが他艦よりも高く、度々予備艦指定を受けている。とはいえ、アンドロメダ級譲りの攻防性能の高さと、何より連装デスラー砲(デスラー砲艦配備後に波動砲から換装)の圧倒的威力は対ボラー戦においても重宝され、ガミラス軍の決戦戦力「空間機甲軍」の一角として長期に渡り君臨することになる。



アクエリアス級前衛武装宇宙艦
 AAA-007 ラボラトリー・アクエリアス
 AAA-008 アクエリアス

 G計画の中核艦「銀河」の随伴艦として建造された。そのため、本級の仕様と性能は銀河の支援を第一義として計画されている。
 銀河がコスモリバースシステム(CRS)の影響により攻撃兵装が一切使用できなかったため、護衛戦力としての随伴艦が必要であったのはもちろんだが、銀河より前方へ進出し航路の安全確保にあたる前路啓開や、指揮AIを並列化することでの演算能力向上、波動防壁強化など、求めれた任務は多岐にわたる。
 本級には銀河と同型の指揮AIが搭載されており、超空間通信技術を利用したデータリンクを介して銀河AIとのリアルタイム接続が可能であった。これは、G計画実行後、時間断層AIとの接続が絶たれて以降の銀河指揮AI単独での演算能力に不安が抱かれた為で、本級二隻の同型指揮AIを並列接続することで演算能力の飛躍的向上が図られたのである。


 また、本級固有の装備として、CRSを地球独自にコピーしたシステムが搭載された。しかし、あまりに高度なイスカンダルの技術で作り上げられたCRSの解析は困難を極め、その実態はリバースエンジニアリングと呼ぶにも値しなかったとされる。
 当然、コピー(疑似)システムにオリジナルが持つ惑星環境再現性能など望むべくもなく、限定的な波動エネルギーの遠隔制御機能がその能力の全てであった。とはいえ、近距離であれば他艦の次元波動エンジンを賦活化させることができる能力は、銀河の護衛艦として考えた場合、極めて有用だった。元より強力な銀河の波動防壁を更に強化することはもちろん、銀河の波動エンジンを賦活化することで防壁展開可能時間を数倍化することができたからだ。
 本級にはA級前期建造艦群と同型の波動砲搭載も検討されたが、銀河の生存性向上には攻撃力よりも防御力の強化が効果的であるとして、本級二隻ともにCRSのコピーシステムが搭載された。
 この“疑似”CRSシステムの改良は本級完成後も継続され、後にアスカ級補給母艦に「波動共鳴導波装置」として装備されることになる。


 本級二隻の運用だが、ラボラトリー・アクエリアスが前路哨戒を担う前衛、アクエリアスは銀河の近傍で直衛にあたるとされた。波動砲こそ装備していないものの、ショックカノンなどそれ以外の兵装はほぼオリジナルのままであり、両艦には、CRS装備の影響で通常武装が使用できない銀河をアンドロメダ級譲りの空間戦闘能力で死守することも求められた。

 2203年5月のガトランティス帝国本星軍の太陽系侵攻開始直後、G計画の予備命令(準備命令)が発令される。この時、計画中核艦である銀河は在地ガ軍との混成艦隊旗艦として木星圏で待機中だった。銀河は引き続き混成艦隊旗艦としての任に就くものの、ラボラトリー・アクエリアスはいち早く出撃、銀河に先行しての航路策定と前路哨戒を開始した。
 その後、土星沖から火星沖へと連戦を重ねた地球及びガミラス連合艦隊の損耗率は上昇に上昇を重ね、それが遂に50%を超えたことでトリガー条項が発動、G計画が防衛軍司令部より正式発令される。だが、計画発令直後に発生した銀河指揮AIの損壊とCRS損傷により、G計画は無期限延期となってしまった。
 本経緯については未だ防秘扱いの事項が多く詳細は不明ながら、結果的にラボラトリー・アクエリアスとアクエリアスは実行不可能となったG計画任務を共に解かれている。特に地球沖で待機していたアクエリアスは直ちに白色彗星迎撃戦に投入され、その短い生涯を終えることになる。
 一方、先発していた一番艦ラボラトリー・アクエリアスは、G計画任務解除から程なくして一切の消息を絶ってしまった。ガトランティス戦役後、二度に渡って大規模な捜索活動が実施されたものの、本艦の痕跡はもちろん事故の原因となりえる空間異常や何者かの攻撃を受けた形跡も全く発見できず、捜索終了後に原因不明の亡失として除籍が決定された。
 しかしその17年後の2220年、本艦固有の空間航跡が観測されるという事態が発生し、一時は世間をにぎわせた。銀河中心方面をモニタリングしていたアマチュア観測家が半ば偶然発見した航跡が、空間航路局のデータバンクに登録されているラボラトリー・アクエリアスのそれに酷似しているとして、一時は本艦の生存がささやかれた。しかしその後、発見された航跡は極めて不鮮明であり、類似した他艦の航跡を誤認したと考えられ、ラボラトリー・アクエリアスが生存している可能性はない――とする公式声明を防衛軍が発表するに至った。
 軍の発表によって事態はほぼ鎮静化したものの未だ一部界隈では、生存している本艦が何らかの極秘任務を帯びて銀河中心方面で活動中であるという説も根強い。またそれ以外にも、謎に包まれた最期や本艦と二番艦の艦名が通常の命名基準ではありえないほど似通っていることから、ラボラトリー・アクエリアスの存在自体を疑う声もあるなど、本艦についての議論は未だ絶えることがない。



アマテラス級前衛武装宇宙艦
 AAA-006 アマテラス

 40.6センチ三連装収束圧縮型衝撃波砲塔を実に10基備えた強武装艦であり、アンドロメダ級後期建造艦群の中で唯一単艦で建造された。主砲塔10基の内9基が艦首方向に指向可能な配置を取っており、本級に極めて攻撃的なシルエットを与えている
 その印象は艦首に目を移すと更に強まる。帆船のバウスプリットを連想させる巨大な“角”には通常の五倍密度で波動コイルが設置されており、艦首部に極大強度の波動防壁の形成が可能である。
 これら多数の主砲と強力な波動防壁を両立させるために、本艦の後部の両舷には大型のエネルギーコンデンサーが設置された。ここからの豊富なエネルギー供給によって、圧倒的な主砲投射弾量と、波動防壁の攻撃的使用――波動衝角(通称:波動ラム)――が初めて可能となった。

 本級の建造には、ガミラス第八浮遊大陸基地奪還作戦時に初遭遇したカラクルム級大型戦艦が大きな影響を及ぼしている。
 本作戦におけるカラクルム級は地球防衛艦隊総旗艦アンドロメダの拡散波動砲攻撃に耐えたばかりか、地球艦隊の不用意な艦隊運動の隙を突いて一気に戦線を突破、太陽系へのワープを果たしていた。その際、アンドロメダは突撃してきたカラクルム級に対してショックカノンを命中させていたが、撃破も足止めも叶わず、地球の位置をガトランティス軍に掴まれるという大失態をおかしてしまった。
 しかし、艦の規模で言えばアンドロメダ級すら大きく上回る巨大なカラクルム級を短時間の咄嗟戦闘で行動不能にするのは波動砲を用いない限り困難であることもまた明らかだった。しかし、発射シーケンスが複雑な波動砲を咄嗟戦闘で使用することはできず、何らかの代替手段が模索された。
 その結果として考案されたのがアマテラスが艦首に装備した「波動ラム」であった。その波動防壁は最大戦速で突進してくるカラクルム級の巨躯を真正面から受け止めるばかりか、堅固な艦体を破断可能な強度と指向性を有しており、近接戦闘及び咄嗟戦闘において圧倒的な威力を発揮する。
 この波動ラムに加えて、アンドロメダ級前期建造艦の四倍以上を誇る前方指向火力を用いることで、本級はカラクルム級の突撃戦術への対応のみならず単艦での一撃離脱、あるいは同級艦複数で堅固な敵艦隊艦列に突撃し、これを破砕する破城槌的運用が構想されていた。
 しかし本級の設計完了直後、第十一番惑星に来襲したガトランティス軍のカラクルム級は200万隻を優に超えていることが明らかとなり、本級が想定した単艦や少数艦での突撃戦術では戦場の大勢に影響を及ぼすことはできないこともまた明白となった。
 その結果、全ての建造努力をより量産が容易なA級前期建造艦とD級に集中することになり、本級は後期建造艦群の中では最も早く設計が完了していたにもかかわらず、新装備である波動ラムの試験用として一隻のみ建造が承認された。
 そして、時間断層工廠において本級の完成が近づいた頃、ガトランティス帝国本国軍による太陽系侵攻が始まる。


【絶対防衛線の死闘】
 ガトランティス帝国本国軍は、前面にバルゼー提督麾下の第七機動艦隊を押し立て木星圏に侵攻、迎撃に出た地球艦隊に対して物量に任せた中央突破を図った。これに対し、地球艦隊は機動運用可能な波動砲搭載艦の集中投入によって一度はガトランティス艦隊を退けることに成功する。
 しかし、敗残の艦隊を押し退けるように前進してきた白色彗星は全く別次元の存在だった。500隻以上のA級及びD級が重力子フィールドを用いて放った極大・収束波動砲すら全く通用せず、反撃を受けた地球艦隊主力――波動砲艦隊は壊滅の憂き目を見ることになる。
 木星の防衛戦を突破された地球艦隊であったが、予備戦力として待機していた銀河を旗艦とする臨時艦隊による機動防御と、ワープ阻害フィールドを駆使した遅滞戦闘によって、戦線の再構築と艦隊の再編に辛うじて成功する。
 地球防衛軍が新たな防衛線――絶対防衛線――と設定したのは火星軌道だった。この地を舞台に地球艦隊は、白色彗星及びその内部に存在するガトランティス帝国本拠地「都市帝国」に対し再三にわたり肉薄波動砲攻撃をかけるも、強靭な防御フィールドに阻まれダメージを与えられずにいた。
 しかし、山南提督率いる第一挺身艦隊の旗艦アンドロメダが都市帝国の高重力源への突入に成功、銀河のCRSが生成した波動レンズによって強化された波動砲で高重力源を射抜いた。この攻撃により一時は沈黙したかに見えた都市帝国だったが、古代アケーリアス文明が作り出した「滅びの方舟」は復元力においても常軌を逸していた。僅かな時間で重力源を再生・再起動させると、再び前進の気配を見せ始めたのである。
 地球防衛軍としては、都市帝国が完全な復活を遂げる前に、決定的な打撃を加えたいところであったが、総旗艦アンドロメダを含む波動砲艦隊の多くが喪われ、頼みの銀河もCRSに重大な損害を被るなど、戦力が枯渇しつつあった。
 そんな中、幕僚本部は「最後の作戦」として都市帝国から脱出したヤマトによるトランジット波動砲攻撃を立案、一方、時間断層AIはアンドロメダ級後期建造艦群を用いた肉薄攻撃を提案する。
 幕僚本部案の懸案は、ヤマトの損害が思いのほか大きく、修理に時間を要することであったが、同型艦である銀河から艤装を譲り受けることで修理期間の大幅な短縮が図られた。しかしそれでも、白色彗星が現在の侵攻速度を維持した場合、彗星の地球圏到達に間に合わないことから、AIが提唱した作戦案が支作戦として同時遂行されることになった。
 投入されるのはラボラトリー・アクエリアスを除く六隻のアンドロメダ級後期建造艦群と無人アンドロメダ級艦隊――BBB戦隊――からなる第二挺身艦隊だった。
 艦隊に与えられた任務は、万難を排して都市帝国へ接近、アクエリアスの疑似CRSシステムで強化したアマテラスの「波動ラム」で都市帝国の防御フィールドを突破、そのままアマテラスの波動砲で都市帝国中枢に決定的打撃を加えるというものであった。
 皮肉にも本戦術はガトランティス軍のイーターⅠの波動防壁突破プロセスを分析する中で立案されたものだった。地球艦隊の数百発もの波動砲射撃にすら平然と耐久する都市帝国の防御フィールドは「面」での耐久力が非常に高いが、逆に極めて小さな「点」への穿孔的エネルギー投射には耐圧限界がやや低いと推測され、最大出力の波動ラムによる一点突破であれば浸透突破できる可能性ある――との分析がなされたのである。

 本作戦は白色彗星の火星圏突破直前に実行に移された。
 初手として挺進艦隊前衛――無人アンドロメダ級からなるBBB戦隊――がショートワープで白色彗星内へ突入する。
 そこはガトランティス帝国の本拠地「都市帝国」の門前であり、千隻単位のカラクルム級が文字通り蝟集していた。その只中へ密集隊形で突撃したBBBは僅か五十隻余。しかしBBB群は空間転移でカラクルム級の艦列へ強引に割り込むと、躊躇なく戦闘を開始した。
 彼我両軍が限られた空間に異常なほど集中したため、ワープアウトの瞬間、出会い頭の衝突に至った艦も一隻や二隻ではなかった。加えて、BBB戦隊は全艦がバーサーカー・モード(継戦維持や友軍誤射制限を解除した全攻撃力発揮モード)を選択しており、戦闘開始と同時に、装備する全エネルギー兵器と実体弾兵器を周囲に蠢くカラクルム級群へ一斉に投射する。BBB戦隊のワープアウトから僅か三十秒間で百隻以上のカラクルム級が砕け散った。
 一方、奇襲を受けたガトランティス軍であったが、彼らも戦闘においては躊躇うことを知らない人造戦闘種族だった。命令を待つことなく半ば本能的に反撃の砲火を閃かせたが、それがむしろ混乱を拡大する結果となった。周囲はほぼ全て友軍という状況での応射は必然的に大量の誤射を生み、その損害はBBB戦隊による直接的な損害すら上回ったからだ。
 しかしそれでもカラクルム級は反撃を控えることはない。使用可能な砲を総動員し、砲の指向が間に合わなければ艦の質力と強度そのものを武器としてBBBに突撃する。
 衝突と被弾、轟沈、爆沈、更には誘爆が続出し、白色彗星内――都市帝国の門前という限られた空間に、短時間で沈んだ両軍艦艇から放出されたエネルギーがみるみるうちに充満していく。
 僅かな時間で戦闘宙域全体を覆い尽くした巨大且つ膨大なエネルギーの塊は、各艦のセンサーを飽和させ、一種の煙幕のように電子的な見通し距離を極端に制限した。
 それ故、ガトランティス軍は気づかなかった――BBB戦隊の真の目的がガトランティス軍の混乱を惹起することではなく、「後続」のための本宙域の一時的制圧であることを。

 BBB戦隊が強引に掃討したエリアにピンポイントで飛び込んできたのが第二挺進艦隊の本隊――アンドロメダ級後期建造艦群であった。
 露払い役のランダルミーデを先頭に、その後方にアマテラスとアクエリアスが続き、殿(しんがり)をゼイラギオンが務める単縦陣だ。残るランダルミーデ級のヴェム・ハイデルンとデルスガドラはアマテラスの左右で直衛に就く。
 僅か六隻の挺進艦隊本隊は、無数のカラクルム級を相手に未だ鬼神のような全力戦闘を繰り広げているBBB戦隊を傍らを全力で駆け抜けた。BBBの一隻からレーザー発光通信が飛ぶ。作戦ノ成功ト貴隊ノ生還ヲ祈ル。
 ――畜生、言ってくれるぜ。通信を受け取ったゼイラギオン艦長は遠ざかっていくBBB群の背に敬礼を送った。
 都市帝国へと突進するアンドロメダ後期建造艦群の動きをガトランティス軍はしばらくの間、察知できず、その迎撃は完全に後手に回ることになる。だが、たとえ泥縄式の逐次投入であっても元々の戦力が膨大なだけに、存在を悟られた後の迎撃は熾烈を極めた。
 無数の刺突兵器イーターⅠが挺進艦隊各艦の波動エンジンを貫こうと四方八方から殺到してくる。波動防壁の中和機能を有し、ハードキルでしか阻止できないイーターⅠは前方投影面積も小さく迎撃困難だ。しかし、四隻のランダルミーデ級の艦長たちは自分たちの役割を完璧に心得ていた。ショックカノン、重力子スプレッド、速射魚雷、パルスレーザー、対艦グレネード――あらゆる武装を総動員し、作戦の「本命」であるアマテラスとアクエリアスへの攻撃を絶対に阻止する。
 既に都市帝国まで指呼の距離。ランダルミーデ級と彼女たちにトランス接続したD級群の主砲が吠える。収束圧縮型衝撃波砲の集中豪雨を思わせる速射性能は圧倒的な制圧力で大半のイーターⅠをミドルレンジ以遠で阻止する。インレンジに踏み込むことに成功した僅かなイーターも無事ではいられない。各種誘導弾とパルスレーザーが即座に迎え撃ち、痛撃を与える。
 ガミラスの転送システムが繰り出す至近からの航空奇襲に対抗すべく備えられた即応性の高い防空システムだけに、遠距離からの飛翔体に対しては鉄壁と言えるほどの抗堪性を発揮する。四隻のランダルミーデ級はデータリンクで防空識別情報を共有しつつ、常に最適位置を確保しながら戦闘を継続し、イーターⅠによる槍衾のような迎撃網を突破する。
 そして遂に、アマテラスのフェイズドアレイ・コスモレーダーが都市帝国の防御フィールド展開予想域を射程に捉えた。
 艦首のスタブウィングにずらりと装備された小型ミサイルが一斉に放たれた。高加速するミサイル群の弾頭はセンサーのみの実質的にはセンシングプローブだ。ミサイルは防御フィールドと接触すると同時に砕け散るが、その精密位置がアマテラスにフィードバックされ、防御フィールドの実有効エリアの情報をもたらす。ここまでアマテラスは突破戦闘をランダルミーデ級に任せ、一発のショックカノンすら放っていない――すべては、この瞬間のために。
 アマテラスの艦尾両舷の超大型コンデンサー、そしてトランス接続するD級の各部に増設された大型コンデンサー群が一斉に発光、その起動を示す。彼女に接続したD級は通常の倍にあたる実に四隻。しかも全艦が主砲塔や艦橋、ウイング類をことごとく撤去し、その跡に大型コンデンサーを増設していた。一発でも被弾すればコンデンサー群が誘爆する危険極まりない状態であったが、そんな彼女をランダルミーデ級姉妹はここまで守り切ったのである。
 そして、アマテラスの戦闘準備が最終段階に入る。波動防壁を展開した彼女の艦首部が青白く発光し、その光は瞬く間に収束、ひと際大きな純白の輝きでアマテラスの艦首部全体を包んだ。
 極大出力で形成された波動ラム――魔の根源を断つ攻城槌と化したアマテラスは機関出力を最大化すると、都市帝国に全速で突進した。そして遂に、ラム先端が都市帝国の防御フィールドに接触する。
 瞬間、アマテラスの艦首に爆発的な閃光が弾け、その光景を凝視する全ての人々の視界からアマテラスの姿がかき消えた。轟沈か――視力を奪われた人々の脳裏に浮かんだ諦観は次の瞬間、覆された。
 激しくスパークするプラズマの豪雨が都市帝国の防御フィールドを明るく照らし出し、その中心に突き立てられた野太い剛槍の姿を鮮やかに映し出した。
 アマテラスはセンシングプローブのように砕け散ってはいなかった。それどころか、絶対的な鉄壁を誇った都市帝国の防御フィールドに穿孔をうがつばかりか、未だじりじりと前進している。過負荷に耐えかねたD級のコンデンサーが幾つか吹き飛ぶ。しかし、それでもアマテラスの前進は止まらない。膨大なエネルギー同士の衝突を物語る激しいプラズマ光を周囲に放ちながらも、彼女の長大な艦首ラムの先端部は防御フィールド内に浸透しつつあった。
 刹那、大量のビーム光がアマテラスの背後から殺到する。だがそれらを、アマテラスの背後に陣取ったアクエリアスが最大出力の波動防壁で全て阻止した。外れ弾となったビームが都市帝国の防御フィールドに命中し、激しく爆ぜる。
 ガトランティス軍も必死だ。BBB群を葬ったカラクルム級の大軍が全速で追いすがり、誤射を全く厭うことなく砲撃を開始したのだ。反転迎撃するランダルミーデ級はヴェム・ハイデルンとデルスガドラが拡散波動砲発射態勢に入り、ランダルミーデとゼイラギオンは前進、通常戦闘で波動砲発射までの時間を稼ぐ。だが、それは罠だった。
 アマテラスの周囲が手薄になった瞬間を見計らい、S0(天頂)方位からイーターⅠが殺到したのである。直前、それを察知したハイデルンが波動砲発射を中止し、アマテラスに覆い被さるように彼女の直上へ急速遷移する。直前までの波動砲発射態勢がたたり迎撃は間に合わない。
 主砲塔に、艦橋に、エンジンナセルに――直上から降ってきた二十本を超えるイーターがハイデルンの全身に次々と突き刺さる。だが、彼女の船体は、その名の由来となった軍人の不屈を体現したかのような頑強さで貫通と突破を決して許さない。そして――ヴェム・ハイデルンは永遠に沈黙した。
 エネルギー充填を終えたデルスガドラが拡散波動砲を放つ。その一撃だけで五十隻を超えるカラクルム級が一網打尽にされるが、その効果は十分とは言えない。いかんせん敵の数が多すぎた。
 仕留めきれなかったカラクルム級群から反撃の砲火が集中する。アマテラスはアクエリアスの波動防壁で守られ、ランダルミーデとゼイラギオンは自身の波動防壁でそれをしのぐが、波動砲発射直後のデルスガドラは防壁の被弾経始圧が限界に達し、直撃弾が連続した。
 ランダルミーデが重力子スプレッド弾でデルスガドラの前面に重力フィールドを展開、デルスガドラのダメージコントロールの時間を稼ぐ。しかし次の瞬間、今度はランダルミーデが防壁を射貫され、左の波動砲口を吹き飛ばされた。
 挺身艦隊に限界が近づいていた。アマテラスの船体はじりじりと前進を続けているが、未だその波動砲口を防御フィールド内に押し込めていない。彼女とトランス接続したD級のコンデンサー内のエネルギーも既に残り30%を切っている。しかしアマテラスは最後のチャンスに賭けるべく、波動砲のエネルギーチャージの準備を進めていた。未だ地球人類が一指も触れられていない都市帝国の天守閣――十基の赤色帯が不気味に輝く巨大構造物――に波動砲を直撃させられれば、このバケモノを止められる。そう信じて。
 そんなアマテラスの後方でアクエリアスが大きく舵を切った。全エネルギーを疑似CRSシステムに回し、パワーダウンし始めたアマテラスの波動エンジンを急速賦活させるのだ。既に波動防壁は切っている。防壁の代わりは――彼女の船体そのもの。直撃弾が相次ぐが、アンドロメダ級の強靭な船体は無言でそれに耐える。
 ただならぬ気配を感じたのか、半包囲態勢を取りつつ砲撃を続けていたカラクルム級群に新たな動きが生じた。三十隻ほどずつの六つの集団に分かれ、それぞれが長大な縦深隊形を形成しようとしている。各艦の雷撃ビットを集合させることで威力を飛躍的に増大させる「インフェルノ・カノーネ」だ。直撃を受ければ、波動防壁機能を低下させている四隻のアンドロメダ級など一たまりもなく消し飛ぶのは確実だった。都市帝国の防御フィールドにも害が及ぶが、そこには絶対の自信があるのだろう。
 唯一波動砲を維持したゼイラギオンが波動砲発射態勢を取る。度重なる被弾で波動砲も重力子スプレッドも失っているランダルミーデとデルスガドラは前進し、ゼイラギオンの波動砲発射までの時間を稼ぐ。しかし、二隻とも既に満身創痍であり。まともに機能する兵装は残り少ない。それでも二隻は砲火を集中することで一列分のカラクルム級の隊形を壊乱させることに成功した。集合していた雷撃ビットの赤い環も飛散する。
 しかしインフェルノ・カノーネは未だ五列が健在だった。少なくともその内の一列は、発射寸前だ。
 間に合わん――歯ぎしりするゼイラギオン艦長の視界を黒い“何か”がよぎった。それは発射寸前だったインフェルノ・カノーネの先頭艦を側面からの体当たりで弾き飛ばした。艦長にはそれが何を意味するのか分かっていた。BBB最後の生き残りが喪われたのだ。
 バカ野郎。しかし、ありがとう――。その刹那、エネルギー充填が120%に達したことをオペレーターが告げた。
「波動砲、収束スイープモード。ちゃんとデータ取れ。俺たちは生きて帰るんだ。波動砲――撃ぇ!!」
 ゼイラギオンの艦首波動砲口――ダブル・ベクタードマズルが生き物のような滑らかさで稼働し、次の瞬間、そこから蒼白色のエネルギー奔流が放たれた。空間を貫いた収束波動砲ビームは砲口の偏向によって大剣のように振り回され、カラクルム級の長大な縦深隊列を次々に薙ぎ払っていく。元々、より大規模なレギオネル・カノーネを粉砕すべく開発されただけに、それより規模も隻数も遥かに小さいインフェルノ・カノーネを根こそぎにするなど造作もなかった。


 アマテラスとアクエリアスもまた、それぞれの役目を果たそうとしていた。
 ひときわ明るい爆発的な閃光が戦闘宙域を照らし出した。トランス接続艦とアクエリアスによって著しく強化されたアマテラスの波動ラムが、堅固極まりない都市帝国の防御フィールドを遂に貫き通したのだ。
 無数の紅いプラズマ光が何千何万と絡まり合いながら弾け飛び、空間全体に赤光の豪雨となって降り注ぐ。そして――遂に都市帝国のフィールドは消失した。しかし同時に、最後までアマテラスの波動エンジンの賦活に全力を注いだアクエリアスの波動エンジンと疑似CRSシステムが完全にダウンする。全電源を喪失した彼女は、やがてゆっくりと漂流を始めた。
 多くの仲間と姉妹を喪い、自身も満身創痍になりながらも、彼女たちの勝利はもはや目前だった。外装の多くが無残に剥離したアマテラスの艦首が徐々に輝きを増していく。もはやトランス接続したD級は一隻も残っておらず、賦活に賦活を重ねた彼女の波動エンジンも既に耐久性が限界にきている。しかしそれでも、姉妹たちが命懸けで整えたこの千載一遇のチャンスを活かすべく、アマテラスは今にもダウンしそうなる波動エンジンを唸らせ、波動砲エネルギーのチャージを続ける。
 だが、不意に都市帝国の“腹”の中から放たれた巨大な光弾がアマテラスを掠め、後方にいたランダルミーデを直撃した。ここまで被弾を重ねながらも頑強に戦い続けていたランダルミーデがその一撃だけで船体をへし折られる。信じがたいほどの大威力だ。
 都市帝国の腹の中――プラネットキャプチャーの陰から巨大な影が悠然と姿を現した。全長1キロメートルを超える超巨大空母――アポカリクス級航宙母艦が二隻。その船体は、まだ生成が完了したばかりであることを示す漆黒に彩られている。
 一隻のアポカリクス級の艦首が閃光を発し、再び巨大な光弾が放たれた。
 光弾はアマテラスに向かって真っすぐ延伸するが、転舵急進したデルスガドラが射線に飛び込んでそれを阻止する。しかしその代償として直撃を受けた彼女はバラバラに砕け散った。
 アポカリクス級の艦首砲はキロメートル級の小惑星すら粉砕可能な威力を持つ。波動砲やデスラー砲を除けば最大規模の艦砲であり、火焔直撃砲すら上回る。たとえアンドロメダ級が波動防壁を全力展開していたとしても轟沈を免れない。
 そんな巨大砲を二門も有する漆黒のアポカリクスが交互射撃の要領で早くも次弾を放った。しかも二隻同時に。
 二発の巨大な光弾が虚空を切り裂き、アマテラスに殺到する。彼女の波動砲発射までのカウントダウンは、未だ二十秒を残していた――。



 アンドロメダ級後期建造艦群を総動員した作戦は最終段階で惜しくも潰えた。作戦参加艦艇の中で生還できたのはランダルミーデ級四番艦ゼイラギオンただ一隻。彼女を除く五十余隻は悉く喪われた。
 本作戦は「失敗」として評されることが多いが、それに異を唱える者も少なくない。元宇宙戦艦ヤマト副長/現戦闘空母ヒュウガ艦長を務める真田志郎二等宙佐は、記録映画「宇宙戦艦ヤマトという時代」のインタビューの中でこのように述べている。

「確かに作戦目的を達成できなかったという点で、アマテラス以下の第二挺身艦隊の作戦は失敗したと言えるでしょう。しかし、艦隊が都市帝国の防御フィールドを破壊したことで、白色彗星が進撃を一時停止したことは、後のことを考えると非常に大きな意味を持っていました」

 この発言シーンは、公開当時の映画本編ではカットされたものの、後に公開されたディレクターズカット版で初めて盛り込まれた。
 真田二佐が語ったとおり、本作戦後に白色彗星は進撃を一時停止していた。アンドロメダによる重力源の破壊に続き、アマテラスによって防御フィールドを突破されたことは、ガトランティス帝国にとっても衝撃は大きかったらしく、防御フィールドが機能を完全に復元するまで白色彗星は前進を控えたのである。
 そしてこの時、地球防衛軍が発動していたもう一つの作戦――宇宙戦艦ヤマトによるトランジット波動砲攻撃作戦は思わぬ躓きと遅れをみせていた。銀河から部品を譲り受け、緊急修理と改装を完了させたヤマトであったが、その前にアベルト・デスラー前ガミラス総統が立ちふさがったからだ。
 最終的にデスラー前総統は矛を収めて撤退し、更にトランジット波動砲発射時の膨大な輻射熱からヤマトを守るために御座艦――ノイ・デウスーラが提供されたものの、タイムテーブル上、ここでの作戦遅延は致命的の筈だった。事実、ヤマトが地球沖にワープアウトした時点で、ガトランティス帝国は地球連邦に全面降伏勧告を行っており、ヤマトの到着があと僅かでも遅れていれば連邦政府は降伏を受諾するか、勧告を拒否あるいは黙殺した結果として国土と市民を徹底的に殲滅されていた可能性が極めて高い。
 つまり、アンドロメダ級後期建造艦群による作戦で白色彗星の足止めが叶わなかった場合、ヤマトは決定的瞬間に間に合わず、更には滅びの方舟を消滅させることもできなかったと考えられるのである。
 その点では、アンドロメダ級後期建造艦群と彼女たちの奮戦もまた「大いなる和」を構成する一部であり、決して欠くことのできない存在だったと言えるだろう。





久しぶりの設定妄想をようやく公開することができました。
様々な事情から活躍の場面を与えられることがなかった艦たちの魅力が少しでも伝われば幸いです。
都市帝国の防御フィールドは三重くらいあるんじゃない?とか、そもそもいくら強化したと言っても単艦の波動防壁でそれを突破できるんか?とか、そういつ鋭いツッコミはどうかご容赦下さい(笑)
画像のランダルミーデ級は初代組さんの1/1000ガレージキット、アマテラスは八八艦隊さんのMMDイラストをお借りしました。
この場を借りて御礼申し上げます。

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『“AAAアドバンスドステージ”とはなんだったのか?』第一部:地ガ同盟

2023-05-02 21:04:37 | 宇宙戦艦ヤマト2202


 2203年6月に実質的終結を迎えたガトランティス戦役において、地球連邦は膨大な戦力を前線に投入、文字通り天文学的規模を有するガトランティス帝国本星軍に対して、最後まで抗戦を継続した。
 その僅か3年前、地球が大マゼランの雄「ガミラス帝国」の侵攻により国土と文明をほぼ完全に破壊され、種として滅亡寸前だったことを思えば、数百万隻規模の侵攻軍と全宇宙の人型知的生命体の創造主が遺した文明破壊兵器を阻止し得たことは、“奇跡”以外の何物でもなかった。 
 その奇跡の呼び水であり、核心であったのが「宇宙戦艦ヤマト」であることは論を待たないが、同時にヤマトと同等、或いはそれ以上の役割を示したファクターとして「時間断層」がある。
 イスカンダル王国から供与されたコスモリバースシステムが地球の自然環境を復旧する際に生み出した副産物とされ、当初はその発見も存在も最重要機密として厳重に秘匿されていた。ガトランティス戦役後、初めて存在が一般に公開され、全連邦市民を対象とした国民投票の結果、破棄されるという数奇な運命を辿ったものの、時間断層の存在こそがガミラス戦役後の地球の復興とガトランティス戦役における徹底抗戦を物質面で支えていたことは間違いない。更に、時間断層とそこに設置された官営工廠はガミラス帝国との同盟関係構築にも無視できない影響を及ぼしているが、この点については後述する。

 一般に時間断層の内部では通常空間の10倍のスピードで時間が経過するとされており、その時間差を用いた生産速度の画期的増進こそが時間断層工廠の持つ戦略的価値であった。通常は3年弱、1000日を要する大型戦艦の建造が僅か100日、3カ月強で完成すると考えれば、その価値の大きさが分るだろう。但し、一口に時間断層と言っても、内部の時間速度は一様ではない。そこには“深度”という空間概念があり、深度が増すほどに時間速度も上昇していくのである。
 理論上、その最深部では加速に加速を重ねた時間は無限大にまで引き伸ばされることになり、そこに軍需工場を設置すれば、あらゆる武器装備が一瞬で完成することになる――が、現実はそれほど単純ではなかった。
 時間断層内において、有機生命体は体内/外の経過時間ギャップを軽減する特殊な防護装置がなければ僅か数分で死に至るのに対し、無機物はそこまでの空間影響は受けないとされている。しかし影響は決して皆無ではなく、通常空間よりも急速に酸化や劣化、変質といった化学反応が進行するのである。
 あらゆる産業用機械装置は定期的なメンテナンスにより、稼働に伴う消耗だけでなく、経年的消耗を緩和解消することで健全な機能を維持している(この点は、ガミロイドやAUユニットといったアンドロイド/ロボットであっても例外ではない)。しかし、保全や保守を遥かに上回るペースで劣化や消耗が進行する場合、設備の稼働は故障により停止しがちとなり、生み出される製品の不良率は高くなる。この点を考慮すれば、工場を設置する時間断層の深度は一概に深ければ深いほど良い訳ではなく、稼働率や歩留まりといった工業経済性の観点から最適な深度(時間速度)が導き出されるのである。
 最終的に時間断層工廠が設置されたのは、通常空間の10倍の時間速度を有する深度であり、本深度区画全体の総称として「第一層」という名がしばしば用いられた。

 一方、地球連邦準備政府内部において特極秘とされていた時間断層の存在を例外的に知らされた外部組織があった――先年までの仇敵、ガミラス帝国新政権である。



 当時、帝国は混乱の極みにあった。
 首都星バレラスでのヤマト迎撃戦に端を発した一連の混乱でアベルト・デスラー独裁体制が瓦解、レドフ・ヒスを臨時首班とする民主的傾向の強い新政権が誕生した。しかし、大小マゼラン銀河及び天の川銀河の一部にまで及ぶ広大過ぎる帝国領域各地には、消息不明となったアベルト・デスラーに未だ忠誠を誓う部隊や第二代総統の地位を狙う貴族勢力、更にはガミラスによる統治からの脱却を果たそうとする独立勢力までもが跋扈しており、新政権の政治的基盤は極めて脆弱だった。実際、当時の帝国議会筋においてすら、新政権を維持しているはバレラスに長期逗留しているイスカンダル王国第三皇女ユリーシャ・イスカンダルの存在が与える政治的正当性と、親衛隊帝星保安本部に代わり帝国内諜報活動を統括するようになった内務省保安情報局の活動故と言われていた程だ。
 そんな新政権にとっての喫緊の課題は、旧体制下で野放図なまでに拡大した帝国領の整理と安定化であった(この時期、未だ首都星バレラスの寿命問題は明らかになっていない)。デスラー治世末期、体制内部からも既に帝国版図は拡大限界に達しているとの声が上がっており、特に領域全体の軍事密度は危険なまでに低下していた。
 それでも、一見帝国が盤石に思えたのは、銀河間経済の大動脈として亜空間ゲートを自由に使用することができたこと、更に帝国軍の機動予備戦力――空間機甲軍――の運用が巧みであったからだが、その両方がヤマトのバラン星ゲート突破により大きく損なわれてしまったのである。
 結果は、帝国領最外縁部にとっての地獄の現出に他ならなかった。ガトランティス帝国やボラー連邦等の他星間国家による侵略や干渉、星系内での被征服民の叛乱などが発生しても、本星からの救援が間に合わず危機に陥る植民星が相次いだのだ。
 そうした守り切れない植民星系をいち早く整理することが新政権には求められたが、それも容易ではなかった。民主化を旗印に掲げることで求心力を得ている新政権にとって、既に定着している入植団を彼らの意思に反して強制的に移住させることは内政的に極めて困難だった。
 新政権は各地の入植団に対し退去を“勧告”したものの、それに応じない、或いは応じる物理的能力を持たない植民星は多数に上り、それは特に天の川銀河において顕著であった。
 デスラー体制下においても、ガミラスが概ね支配権を確立している大・小マゼラン銀河内での入植より、未だごく一部のみを支配下に置いているに過ぎない天の川銀河への入植は安全保障的に遥かに危険度が高いとされていた。しかし、多大な経済的支援を含む帝国政府の強い後押しにより、天の川銀河への入植事業は強行されたという経緯があった。
 そうした事情もあり、入植に応じたのはガミラスにおいても最下層に属する人々が多く、全てを投げ打ち腕一本脛一本で入植を果たした彼らが、ようやく自らのものとした大地を捨て去ることなどできる筈がなかった。彼らには、新政権の勧告に従ったとしても、再び別の新天地に入植を果たすだけの力も機会も既になかったからだ。
 加えて、旧体制下において天の川銀河への入植団に現地民との同化が強く勧められていたことも、ここではマイナスに働いた。
 後に明らかにされたとおり、本政策はサレザー恒星系を長期間離れたガミラス人の疾病罹患率と重篤化率が劇的に跳ね上がるという疫学的特徴に起因していた。一定以上の社会的地位にあるガミラス人にとって他種族との交配は、自らの“高貴なる蒼”を穢す行為であるとして忌避されることが多かったものの、天の川銀河に入植したガミラス人たちは所属する社会階層もあってか、そうした選民意識が相対的に低くかった。更に、現実問題として入植星では圧倒的少数の彼らはあらゆる手段で同族を増やす必要に迫られており、結果的に植民星における現地民との同化は着実に進捗していたのである。
 もはや後がないという切迫した経済的事情に現地での血縁関係までもが重なり、天の川銀河内のガミラス入植団の多くは退去を拒否した。それら植民星は新政権に対し、防衛及び治安維持のための軍が派遣できないのであれば、せめて自力で星系軍を編成できるだけの武器装備を供給して欲しいと懇願したが、未だバランでの戦いによって喪失した艦艇の補充すら十分ではない帝国軍にその余裕はなかった。
 いかに大国ガミラスといえども、千隻単位での急速建艦は工業生産能力の限界を超えていたし、更にそれ以上の問題として新造艦に乗せる兵員の補充が全く追いつかないという現実があった。特に兵員不足については、バラン突破戦以前から一部のベテラン将兵の間で「ガミラスに兵無し」「無敵ガミラス、今何処」等という戯れ歌が流行するほどガミロイドと二等ガミラス人に頼り切った兵員構成の歪さが目立っており、そうした矛盾が一挙に顕在化した格好だった。
 人口推計を行う内務省統計局は、バラン沖で喪われた数十万人の兵員を一等ガミラス人だけで補充するには、最低でも半世紀の時間が必要と報告していたが、本予測ですら今後半世紀の間、大規模戦争による人員損耗がないという前提条件であったから、現実的な実現性は皆無だった。
 ガミラス新政権は人口問題に対する切り札として、一等/二等といった旧来の身分制度の廃止と共に、保護国化していた多数の惑星国家にも取り上げていた主権を返上する等の革新的な政策を次々に実行した。全ては、旧二等ガミラス人を名実共に「ガミラス人」として取り込むためであり、実際に新政権の政策はガミラスの各分野で深刻の度合いを増していた人員空洞化に対する歯止めとして短期間で機能し始めることになる。
 しかし同時に、これらの政策は旧一等ガミラス人を中心とした保守層の強い反発を招く結果にもなり、内政的な混乱のみならず新政権の政治的脆弱性をより強めることになってしまった。



 ユリーシャ・イスカンダルの強い勧めと仲立ちにより、地球連邦準備政府とガミラス帝国との間で正式な講和条約が締結されたのは、そうした状況の中でのことだった。しかし、混乱しているとはいえ、当時のガミラスに地球に対する物質面での期待は皆無だった。ガミラスの遊星爆弾によって国土を徹底的に破壊され、人口も激減した地球の復興は未だ端緒についたばかりであり、そんな状況の地球に直接的な国力や軍事力で何事かを期待するのは、あまりに非現実的と考えられたからだ。
 唯一、地球が独自開発した「波動砲」に対する軍事技術的興味が帝国軍と軍需省の一部から示されたものの、既に自国でも同種の兵器が「ゲシュ=ダールバム」として開発済みである以上、それすら必須とは言い難かった。それどころか、波動エネルギーを武器に転用することに難色を示しているイスカンダル王国との関係性を考えれば、公に興味を示すことすら憚られた(実際のところ、軍と軍需省が欲したのは技術そのものよりも実戦記録を含む運用ノウハウの方であり、後に「波動兵器教導団」が在地ガ軍内に編成されたのもこの点に起因している)。
 極論、ガミラス新政権にとって地球との講和条約締結は、自らに政治的正当性を与えてくれているユリーシャの言に従うことと、内外に対して新政権がデスラー・ドクトリン(イスカンダル主義)を完全に捨て去ったことを具体的な形で示すことくらいしかメリットがなかった。
 だが、そうしたガミラス側の認識は講和条約締結に向けた予備交渉において根底から覆されることになる。会議の席上、地球側から示されたある提案が、ガミラス帝国外交使節団に大きすぎる衝撃を与えたからだ。
 地球側外交団は、時間断層の存在と解析データを提示すると共に、その共同調査及び共同開発をガミラス側外交団に提案してきたのである。

 ガミラスとの講和条約締結前、既に地球側は時間断層の存在と(おぼろげながらではあったが)断層内の基本的な空間特性を把握しており、ここに工場設備を建設することが叶えば、破格の工業生産力を獲得できることにも気がついていた。しかし、当時の地球の時空物理学理論と実践レベルでは、時間断層を直接的に利用できるようになるまで、どれだけの年月を要するかすら全く不明だった。
 そんな時にもたらされたのが、ユリーシャ・イスカンダルを通じたガミラス帝国との講和打診だった。しかし当初、本打診はガミラスによる地球再侵攻のための謀略ではないかと疑う向きが強く、地球連邦準備政府は恐慌に近い混乱に見舞われた。当然だろう、地球がガミラスによって滅亡寸前にまで追い詰められていたのは、僅か一年余り前の出来事であり、いくらヤマトがイスカンダルを介してガミラスと休戦協定を結んだとはいえ、所詮は現地部隊同士の一時停戦に過ぎず、状況が変わればそんなものは簡単に覆されると信じられていたからである。



 そして、復興が開始されたばかりの地球にガミラス軍を再び食い止められるような軍事力は未だなかった。辛うじてヤマトと十数隻の戦闘艦艇が稼働状態にあったものの(内、次元波動エンジン搭載艦はヤマト一隻のみ)、数百隻規模のガミラス艦隊が太陽系に殺到するだけで、今度こそ地球と地球市民は滅亡を免れないのは誰の目にも明らかだった。
 しかしそんな中、そうした予測を真っ向から否定する報告が軍の一部局から上げられた。
 地球連邦防衛軍統合幕僚本部第五部――国連宇宙軍当時の軍務局を母体としたセクションから、最新のガミラス情勢分析結果が報告されたのである。
 彼らの分析の多くは、ガミラス帝国内で交わされる超空間通信の傍受と解読によって行われていた。
 2199年のイスカンダル往還時、ヤマトはガミラス帝国と公式・非公式合せて複数回の接触を果たしており、ガ軍装備品の幾つかを捕獲や供与を通じて手に入れていた。特に、レプタポーザ会談時には、今後の不要な衝突を避けるためにと当時の反体制勢力(現在の新政権に連なる勢力)からガミラス式通信プロトコル一式が供与されており、これが結果的にシャンブロウ沖海戦での地ガ両軍の円滑な意思疎通と協同戦闘に繋がった。同海戦で両軍は、ガトランティス帝国軍が投入した新兵器「火焔直撃砲」に対抗するため単なる戦術通信のみならずデータリンクを介した戦術データの共有まで実施しており、最小限ながら暗号コードの交換も戦闘中に行われていた。
 更に、距離によるタイムラグのない超空間通信がヤマト帰還後、ようやく実用の域に達したことで、天の川銀河内を飛び交うガミラスの超空間通信の傍受も可能となった。
 もちろん、ガミラスの域内通信は暗号化されており、正規の暗号コードを持たない地球がそれを解読することは容易ではなかった。しかし、地球のガミラス式暗号通信についての分析と理解は2199年当時とは比較にならないほど進歩しており、極めて限定的ながら暗号の解読が可能となっていた。
 実際に判読できたのは全文中の20%程度だったとされるが、それでも大意を読み取れた通信はかなりの数に上った。
 そこから導き出されたのは

1)アベルト・デスラーは復権しておらず、未だ新政権が権力を掌握している。
2)新政権は天の川銀河の植民星に退去を呼び掛けている
3)天の川銀河の植民星は戦力の派遣を要求しているが、容れられていない。
4)天の川銀河内でのガ軍通信密度は極めて低い。

 以上四つの情勢分析結果であった。
 機動予備戦力の過半と共にバラン星の亜空間ゲートシステムを破壊されたガミラスは、天の川銀河への即応的戦力投射が困難な状況にあり、実際に天の川銀河内のガミラス植民星は軍事的に孤立している。そんなガミラスに、地球に対し再度大規模軍事侵攻をかけられるだけの余力はない――旧・極東管区軍務局が中心となってまとめ上げたレポートはそう分析しつつ、更なる提言を行っていた。
 イスカンダルからの講和打診を奇貨として、ガミラスの保有する広範且つ先進的な時空間技術を時間断層の調査と開発に取り込み、断層内に大規模官営工廠を早期に完成させる。完成した工廠の一部はガミラスにも提供、ここで製造されたガミラス兵器を天の川銀河内のガミラス植民星に提供することで、植民星からはバーターとして資源入手が期待できる。更に、ガミラス兵器生産を通じて得た技術と時間断層工廠を用いて、今度は地球が大規模軍事力を建設する――。
 ガミラス本国は天の川銀河内植民星への安全保障提供、植民星は独自防衛力獲得、そして地球は時間断層工廠の早期完成、と三者が互いに高価値利益で結びつくことで、極めて強い相互依存関係を構築することができる――そうレポートは結んでいた。
 本レポートは起草者の名から「セリザワ・レポート」と呼ばれ、激論と紆余曲折を経つつも最終的には地球連邦準備政府の外交方針として採用されることになる。
 もちろん、方針決定後も反対意見は根強かった。その最大のものは、時間断層とそこに設置される工廠の価値があまりに高かった場合、逆にガミラスの再侵攻を誘う材料になるのではないかというものだった。また、再侵攻には至らなくても、圧倒的な国力と経済力を持つガミラスに地球が経済的に支配される――経済植民地とされてしまうことも懸念された。
 しかし、ヤマトから報告のあったガミラスとイスカンダルの関係性、そして現在のガミラス新政権がイスカンダル王国を重要視しながら継続するのであれば、そのリスクは非常に小さく、時間断層が早期に活用できるメリットの方が遥かに大きいとして、ガミラスへの協力要請が決定されたのである。
 結果的に、この地球連邦準備政府の決定は吉と出た。
 地球からの提案をガミラス新政権は承諾。逆にガミラス側から、時間断層についての交渉は外交団ではなく実務者間で極秘裏に行うものとし、決定事項も全て秘密としたいと申し出があった。この申し出が、講和の仲介者であるイスカンダルを介さずに交渉と決定を行いたいというガミラス側の思惑であることを地球側は誤解しなかった。そしてこの時点で地球側は交渉の成功を確信したという。

 地球とガミラスとの講和条約が締結されたのは2201年4月16日。更にその二か月後には両国間で安全保障条約――事実上の軍事同盟が締結されるに至る。
 極めて短期間での条約締結は、両国それぞれの切迫した国内事情と、時間断層の共同調査結果がもたらしたものだった。
 未だ講和条約締結前の2201年3月から本格的に開始された時間断層の共同調査は、ガミラスの優れた科学技術力と理論によって飛躍的に進展し、時間断層がほぼ当初想定されたとおりの空間特性を持つことが確認された。調査結果を受けた両国首脳部は早々と時間断層内に大規模工廠を建設することで合意する。
 しかし、工廠の基本設計の段階で、ここまで円滑に進んでいた両国間の協力関係に初めて綻びが生じた。対立の焦点は、工廠の自動生産システムだった。
 ガミラスから技術供与は受けつつも地球独自の生産システム構築に固執する地球連邦準備政府に対して、より早期の工廠完成を目論むガミラスは、自国システムを全面的に採用するよう強く主張したからだ。
 地球にしてみれば、時間断層の運用と管理をガミラスに牛耳られてしまうのではないかという危機感は未だ準備政府内でも根強く、そうした声を抑えるためにも、多少完成と稼働までに時間を要することになったとしても、独自性の強いシステム採用は不可欠という考えだった。
 一方のガミラス側には強い焦りがあった。天の川銀河内でガトランティス帝国の跳梁が急速に活発化しており、域内植民星の防衛力強化は愁眉の急だった。一年後には時間断層工廠から宇宙艦艇を大量に竣工させる――それがガミラスにとっての絶対目標だった(既にこの時期、帝国航宙艦隊から各植民星に人員が派遣され、乗員訓練が開始されていた)。


 
 両国の交渉はここで初めて難航し、ガミラス内では、地球に再侵攻してでも時間断層を手に入れてしまうべきだという強硬な意見も上がったが、ユリーシャ・イスカンダルの仲立ちで結んだばかりの講和条約を踏み躙ることなどできる訳がなかった。もしそんな蛮行に及んでしまえば、彼らが否定したアベルト・デスラー体制と自分たちが何ら違わないことを満天下に知らしめることになり、それは新政権の政治的な「死」を意味したからだ。
 結果、ガミラスは地球に対して多くの軍事的・外交的譲歩を積み上げることで、時間断層工廠への自国生産システムの全面採用をようやくのことで了承させた。
 その過程で、ガミラスが地球に示した譲歩の一つが「地球・ガミラス安全保障条約(通称:地ガ安保)」の締結だった。
 本条約は、両国が安全保障面での義務を双務的に負うとされてはいたものの、当初から大きな非対称性を有していた。
 条文には、ガミラスが地球及びその施政下にある全領域の防衛義務を負うことが明確に記されていたのに対し、地球の義務は天の川銀河内のガミラス領域のみを共同防衛の対象としていたからだ。
 もっとも、安保条約締結当時の地球に太陽系外で軍事行動が可能な戦力はヤマト一隻しかないこと、両国の軍事力・国力両面での圧倒的格差を考えれば、締結される条約が非対称となるのも無理はなかった。
 ガミラスにとっての真の譲歩は、本条約に付属している「地ガ軍事協定」の方だった。本協定においてガミラスは「安保条約に基づく共同防衛行動を円滑なものとするため」という名目で機密度の高い星間情報と、先進的な数々の軍事技術を現物と共に地球に供与することが定められたのである。
 星間情報は、ガミラスと利害関係を有する他の星間国家に関する外交情報やアケーリアス文明遺跡等も含む天の川銀河内の地誌情報、軍事技術は波動コアの量産技術とそのライセンス生産権、更にガミラス現用艦艇を含む各種兵器の設計データであった。
 いずれも、地球が星間国家へと脱皮するために喉から手が出るほど欲していた垂涎の情報と技術であり、これらの入手によって地球は数世紀分に相当する科学技術情報を一夜にして手に入れる事となったのである。
 尚、定説では地球は「時間断層工廠の生産システムにおいてガミラスに譲歩した」とされているが、これには異論もある。その根拠は、ガミラスとの交渉時に地球が主張した独自の生産システムの実現性だった。いくら時間断層内で活動可能なガミロイドの大量供与を受けたとしても、多種多様な兵器のマルチ生産が可能な完全無人工場を短期間で実現することは、当時の地球の技術力ではとうてい不可能と考えられるからだ。
 その点で言えば「地球独自の生産システム」とそれへの固執は、あくまでガミラスからより多くの支援と供与を引き出すための方便だった可能性があり、実際に安保条約の締結や多くの技術供与を得たことから、地球外交の大いなる成果と主張する研究者も多い。
 しかし、ガミラスにとっての時間断層工廠の価値を考えれば、その防衛のために自らの軍事力を太陽系に駐留させることも、地球にある程度以上の軍事力を備えさせることも、ガミラス自身にとって極めて重要であり、仮に生産システムをめぐる駆け引きがなかったとしても、安保条約も技術供与も実現していた可能性は高いと考えられる。
 いずれにせよ、当時のガミラスが重視していたのは地球そのものでも地球市民でもなく、あくまでも時間断層であり、それ以外は全て付属物でしかなかった点には留意すべきだろう。
 非公式の情報ながら、在地球ガミラス軍(通称:在地ガ軍)は時間断層が他星間国家の手に落ちるような非常事態が発生した場合、地球ごと時間断層を消滅させることを最大且つ最後の任務としていたとされる。実際、2203年に白色彗星が地球本土に最接近した際には、その予備命令が発令されていたとも噂されているが、2205年現在、その真偽については地球・ガミラス両政府共に沈黙を守っている。
 両国の講和とその後の同盟関係は、互いに対する疑念と自身の困窮の中で生まれ、駆け引きと欺瞞の中で構築されていった。しかし、確たる実利に基づき築き上げられた相互依存関係は極めて強固であり、その後、皮肉にも「絆」と呼べるまでに成長していくことになる。




皆さま、ブログではお久しぶりです。
先日、1/1000ランダルミーデが完成しまして、その紹介を兼ねて設定妄想を書き始めたのですが、どうしても地ガ同盟を再定義する必要に迫られまして・・・気がつけばこの有様です(笑)
今回の設定妄想は三部制になりそうでして、ランダルが登場するのは最後の第三部になります。
気長にお付き合いいただけましたら幸いです。
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1/1000 帝星ガトランティス軍ククルカン級襲撃型駆逐艦(零くんさん試作モデル)

2022-04-30 15:14:47 | 宇宙戦艦ヤマト2202


以前公開しました1/1000護衛戦艦ビスマルクと同時期に零くんさんからお借りしましたククルカン級をいよいよ公開です。
実は、3Dプリンタから出力されたサポート材付きのパーツを手にしたのはこの時が初めてだったのですが、ものすごく未来的な感じがして、感動すら覚えました。



言葉にすると、「これが!こんなすごいものが家で出力できるのか!!」という感じでしょうか。
もちろんこの時既にビスマルクのパーツも拝見していて、それはそれで凄いと思っていたのですが、サポートつきのククルカン級のパーツから受けた感慨はそれとはまた別のものだったのです。



今回のククルカンは水洗いレジン製とのことで、部品を触ってみると少し柔らかい(弾力がある)気がしました。
アンテナなどの精細な部品はむしろこちらの方が折れにくいと感じましたが、実際のところはどうなんでしょう。
尚、「水洗い」と名前はついていますが、本当に水だけで洗浄を完了させる場合は超音波洗浄機などが必要です。
私も最初、しばらく水に漬け置きして洗浄を済ませようかと考えたのですが、それをすると部品が水を吸ってしまい、後日部品の割れの原因になるそうなので、今回もオーソドックスにIPAで洗浄を行っています。



さて、完成した艦を見ますと、改めてそのサイズに驚かされます。
全長190メートル設定(1/1000だと19センチ)ですが、幅が大きいのでそれ以上のサイズに感じます。
色んな駆逐艦と並べてみましたが、最大サイズの完結編駆逐艦と比べても遜色ないですね。



キットには必要十分なディーテールが施されていて、このサイズでも精密感は失われません
特に艦尾ノズル部分の作り込みは本当に圧巻で、電飾してもとても映えると思います(^^)
尚、本試作の後にイベント発売されたガレージキットでは更にディテールを追加されていたそうですよ。



ククルカン級といえば、印象が強いのはやはり「星巡る方舟」ですね。
戦隊規模での艦隊運動や流れるような突撃動作がとても印象的でした。
正直、2202では第一章以降は殆ど印象がないので( ̄▽ ̄;)



改めて完成したククルカン級と「方舟」での躍動的な戦闘シーンを合せて見ると、やっぱり色々ともったいなかったなぁと思ってしまいます。
できれば、「方舟」に登場して生死不明のまま退場したパラカスらを、ナスカ級などの他のガトランティスメカと一緒に今後の続編で再登場させてくれないかなぁ・・・・・・とも思ったり。



2202でガトランティス人(帝国)の設定が大きく変わり、「方舟」に登場したガトランティス人キャラの個性はそれにそぐわなくなった訳ですが、逆に言えば彼らは自らガトランティスに恭順したり、征服(滅亡)されながらも利用価値を見出されて帝国に取り込まれた非ガトランティス人だと考えれば、あの強い個性もゴレム起動後も生きながらえる理由付けにもなる気がします。



あるいは、2199で登場した「ガトランティス人」たちはいずれも、大小マゼラン銀河侵攻の尖兵として送り込まれた非ガトランティス人たちだったと想像すれば2202とのギャップも埋められるかもしれませんね。
その目的は、帝国からすれば侵攻先の人型種族がどの程度の戦力と抵抗力を有するのか確認する威力偵察――リトマス試験紙――で、先行して派遣される彼らは彼らで帝国での地位と恩賞、そして武人としての名誉のために勇猛果敢に戦うのでしょう。



大帝が彼らを用いるのは、2202でデスラーを用いた際の「執念」に対する興味と同様に、強い残虐性や功名心とは裏腹に「名誉」や「大義」を重んじる彼らの思考形態に興味を持ったとかでしょうか。
もしそうした背景があれば、アクと個性が強すぎる彼ら非ガトランティス人と通常のガトランティス人を一緒に運用することはないでしょう、「感染」しちゃいますからねw
その点、こうした尖兵をほぼフリーハンドで運用できるのですから、監視役を兼ねる蘇生体の存在はチートと言えるくらいに大きいです。
もっとも、方舟ではそうした要素は(後付けの設定だから当たり前ですが)全く感じ取れない訳ですが、こじつけて言えばアケーリアス文明由来の「薄鈍色の異空間」ではコスモウェーブが遮断されると考えれば矛盾は生じないでしょう。



何やら余談が過ぎましたが、ゴレム起動後も生き残った非ガトランティス人が宙賊業や傭兵業でしぶとく生き残っているというのも裏設定やサイドストーリーとしては面白い気がします。
特にパラカスについては、再登場の可能性を残すために出渕さんが死亡描写を入れなかったくらいなので、これを利用しないのはもったいないですし。



もったいないと言えば、結局1/1000でプラモデル発売されたガトランティス艦はナスカ級だけとなってしまいました。
2202が完結し、劇中世界でガトランティスが滅亡した今となっては、今後ガトラン艦が1/1000で新たに発売されることもないでしょう。
そんな中ではありますが、零くんさんを含め沢山の方が3Dプリント等を駆使して独自にモデル化に取り組んでおられる状況は本当にありがたく、少し大げさな言い方かもしれませんが、そうした方々こそ、ガトランティス艦のカッコ良さを伝え得る最後の砦なのかもしれませんね。



何やら全然関係ない話をバックに零くんさん作の1/1000ククルカン級突撃駆逐艦をご紹介しましたw
零くんさん、今回も貴重な3Dモデルにチャレンジする機会をいただき、本当にありがとうございました!!m(__)m
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『「宇宙戦艦ヤマト」という時代』200年祭と内惑星戦争(ネタバレ有)

2021-06-19 20:34:32 | 宇宙戦艦ヤマト2202


さて、今週からネタバレ有で「時代」に向き合ってみたいと思います。
まず取り上げるのは、新規作画で遂に公式映像化された第一次・第二次火星沖海戦!!・・・・・・・ではなく更にその前、第二次世界大戦終結200周年式典と内惑星戦争についてです(笑)
このあたりの新情報も噛めば噛むほど味が出る感じで面白いんですよね。
では早速いってみましょう。

まずは気になった点を順に挙げてみました。

1)宇宙戦艦ヤマト建造時の偽装ベースとなったのは、1945年に沈没した戦艦大和ではなく、第二次世界大戦終結200年祭で復元された戦艦大和だった。
2)火星との内惑星戦争は2164年(第一次)と2183年(第二次)に勃発した。
3)火星側は漂着した異星文明の戦闘用宇宙船を入手していた
4)(少なくとも第一次内惑星戦争時は)火星自治政府宇宙海軍の方が技術的に進んだ艦艇を用いていた。
5)2168年に国連宇宙海軍が創設され、その主力となる村雨型は2170年、金剛型が2171年にそれぞれ就役を開始した。
6)2191年のガミラスとの初遭遇時、それを探知したのは天王星ステーションだったが、砲火を交えることになったのは冥王星沖だった。

一旦ここまでにしましょう。

まず1)の第二次世界大戦終結200周年式典について。
映像本編とパンフレットの記載によると、戦艦大和は2141年に坊ノ岬沖から引き上げられて修復・復元され、2145年の式典での慰霊・鎮魂の後、再び海に帰されたとあります。
なるほど、この設定であれば、坊ノ岬沖で沈んでいる大和の状態からは「夕日に眠るヤマト」の姿は成立しないという旧作以来の指摘への回答になりますね。
また、2199公開当時、リメイク版ヤマトはオリジナル版のように戦艦大和から改造されたものではなく、一から新造された艦である(大和からヤマトに受け継がれたものはない)という点について、残念だというファンの声があったとも記憶しています。
また、お手伝いした「アクエリアス・アルゴリズム」の打合せでも、復活篇ヤマトがそれ以前のヤマト/大和から引き継いでいるものがあるのかどうかという点について、かなりの時間をかけて議論したことを覚えています。
その点、「時代」制作陣は「ヤマト」が「大和」を受け継いだ存在であるという点を非常に重要視された上で、このアンサーを用意されたのだと思いました。
また、せっかく復元した大和をなぜ再び沈めてしまうのかという点に疑問を持たれた方もいらっしゃるかもしれませんが、鎮魂と慰霊のために大和を引き上げて復元した以上、その後は再び海に帰すという決定が下された事は理解できない話ではないと思います。
もちろん、貴重な歴史遺産、文化遺産として人々が目にすることができる形で保存したいという声も多数あったとは思いますが、そこで海に帰すという選択ができるのが200年間世界大戦を起こさずに過ごした22世紀の地球人のメンタリティーなのではないでしょうか。
そこからすれば、リメイク版の宇宙戦艦ヤマトが全ての使命を終えて退役する時にも、再び鎮魂と慰霊の後、海底に戻される気がしますね。

続いて2)~5)の内惑星戦争です。
予告の時点で火星側が異星文明のオーパーツを入手したことが示唆されていましたが、宇宙艦艇技術で火星が地球よりが遥かに進んでいたとはっきり明言されたのには驚きました。
しかしそれならば、某ジ○ン公国ばりに火星が独立戦争を決意することもあるでしょうでしょうし、少なくとも為政者が決断を下すにあたっての重要なファクターにはなったでしょう。

ここから先は、特に想像の飛躍がひどくなりますが――

開戦にあたり、火星自治政府も地球との圧倒的な国力差や人口差を理解していたでしょうから、優れた宇宙艦艇戦力を以って短期決戦で地球を屈服、あるいは大幅な外交上の譲歩を引き出そうと考えたのではないでしょうか。
そして戦いの経過ですが、緒戦こそ優れた軍事技術や国力差に驕る地球側の油断(この油断には火星がボ○ー艦を入手したことを知らない、あるいは知っていても重要視していないという点も含まれます)もあって火星側が大きな戦術的勝利を得るも、それを戦略的優位にまでは持ち込めなかったと考えるのが妥当の気がします。
まるで太平洋戦争みたいですが、体力(国力)の違い過ぎる二勢力間の戦争の典型と言ってもいいと思います。
火星軍は優れた兵器により戦場での優位(戦術的優位)を獲得しつつも地球を直接占領できるほどの量的戦力には欠け、逆に地球軍は火星圏に侵攻して火星軍を撃滅できるだけの質的戦力を用意できず、戦争は千日手の長期戦に陥った――という絵面が浮かんできます。
そうなると、22世紀のグローバル化は現在よりも更に前進することはあっても後退することはないでしょうから、自勢力圏だけで経済活動を維持しなければならない状況が続くと、経済規模の小さい火星側が先に国力面で苦しくなってきます。
結果、どこかのタイミングで講和が図られ、(第一次)内惑星戦争は終結します。
形としては火星の判定勝利、かなりの自治権拡大が認められたくらいが落としどころの気がします。
戦争期間は明らかにされてはいませんが、短ければ数ヶ月、どれだけ長くても3年以内でしょうか。

こうして(殆どが手前勝手の想像ですがw)宇宙植民開始後初の大規模戦争は終結しました。
しかしそれは単なる戦間期の始まりに過ぎず、特に勝って当たり前と思っていたのに勝てなかった地球側に猛烈な復仇心或いは危機感を植えつけることになりそうです。
その後、年表から地球側が行った事として読み取れるのは二つ、常設軍事組織としての「国連宇宙海軍」の設立及び新型艦艇の開発と量産です。
まず前者について。
おそらく地球側は第一次内惑星戦争を各国混成の国連軍あるいは多国籍軍として戦ったのだと思います。
湾岸戦争の時のような圧倒的な勝ち戦なら、指揮権の統一が不十分でも各国軍の方向性は概ね一致するので問題は生じにくいですが、第一次内惑星戦争はむしろ劣勢な戦いですから、各国間のエゴや駆け引きもあって、一層非効率で統一の取れない戦力運用を強いられたのではないかと想像します。
その反省から、戦後数年を経て、ようやく強固な指揮命令系統を構築することができたのだと思いますが、これを可能としたのも、先ほども述べた「勝てなかった」ことに対する危機感だったと思います。
もし第一次内惑星戦争で地球があっさり勝利したのなら、国連加盟各国のエゴを抑えて地球丸ごとの抜本的な軍事制度改革なんてまとまる訳がないですから。
何にせよ、国連宇宙海軍の創設は下手な新型兵器導入よりもよほど地球軍事力の能力を高める事になったと思います。
どれほど強力な兵器が配備されたとしても、それを統一された指揮命令系統下で整然と運用できなれば、集団としての戦力倍増効果は発揮しきれませんからね。

そして後者。
地球側は戦争中から続けていた先端技術開発を更に加速すると共にその成果物の量産に血道を上げ、火星側唯一のアドバンテージだった宇宙艦艇技術の優位を徐々に打ち崩し始めます。
その象徴が村雨型、金剛型の就役でしょう。
地球側軍事技術の底上げは、自力での努力以上に戦場で回収した火星側の兵器の分析と模倣が効果を上げそうですね。
村雨型の艦橋構造物の形状が火星の戦闘艦艇に酷似している点は、まさにその表出のように思えます。
対する火星側も、こうした地球側の努力(復仇の念)に気づかない筈がありません。
彼らも彼らなりに全力で新技術開発と戦力増強に努めるでしょう。
そうした両国の軍備競争もあって外交関係が悪化し、再び戦端が開かれたのだと思いますが、その状況は色々と考えられますね。
軍事的な優位(逆転)を確信した地球側が「カルタゴ滅ぶべし」的に外交・経済的に火星を締め上げ、火星側の暴発を誘う――というような状況や、逆に将来の軍事的劣勢を恐れた火星側が「今ならまだ勝てる」と先手を打って――という状況、更には第一次戦では得られなかった完全独立を今度こそ――というような状況まで、本当に色々と考えられます。
ただ何にせよ、この時点ではまだ同数兵力であれば火星側の方が宇宙艦艇技術の面では優勢の気がします。
先端軍事技術の後追いは、昔の日本や現在の中国を見ても分りますが、模倣を交えることで追いすがるところまでは比較的容易でも、追い越すのは非常に難しいからです。
しかし、火星側の軍事的・技術的優位は地球側の努力によって前戦争時ほどではなくなっていますし、物量では地球側が圧倒的に上。
火星側も善戦し、度々地球側を苦しめるも、最終的には地球側の大戦力に押し潰されるような格好で敗れたんじゃないかと想像しています。

「時代」での言及はありませんでしたが、2199本編では戦後火星から強制移住が行われたと語られていました。
これは現代の視点から考えても非常に手荒な戦後処理であり、当時の地球でも異論や反論は出たと思います。
ですが、2199の設定では火星が地球に隕石落としの攻撃をかけたという設定があったと記憶しており(ソースが確認できないのですが・・・)、その攻撃で地球市民に大きな被害が出たのなら、火星に対する市民レベルでの懲罰感情は非常に強くなるでしょう。
また、オーパーツを用いた火星の高い科学技術力に対する国連や各国政府、各国軍首脳レベルが感じていた脅威の大きさも、市民感情以上に強制移住断行の要因になりそうです。
戦後、国連や各国から派遣された調査団が、それこそ火星中の土地を掘り返す勢いで異星文明の宇宙船を血眼で探したのでしょうが――結局は見つからなかったのでしょうね。
ガミラス戦時の波動エンジン開発を担い、おそらく地球が有する殆どの技術的トップシークレットに触れることができたであろう真田さんがそう証言しているので、見つからなかったのは事実だと思います。
ただそうなると、地球側は決して小さくはない不安を覚えるでしょう。
もしかしたら火星政府・軍の残党が、異星文明の宇宙船を修復して国連宇宙海軍の進駐前に太陽系外に脱出したんじゃないか。そしていつか、異星文明を引き連れて再び太陽系に戻って来るんじゃないか――と。

それが6)のガミラスとの初遭遇時の地球側アクションにも影響を与えていたような気がします。
つまり、地球は火星独立勢力の残党と異星文明を恐れて太陽系外縁に警戒網を敷き、実戦部隊である国連宇宙海軍も比較的高いレベルでの即応体制を維持していたのだと思います。
未だ第二次内惑星戦争終結から10年も経過しておらず、「簡単に火がつく」状態だった太陽系に拡大政策中のガミラスがタイミングよくやってくるなんて、本当に間が悪い・・・・・・。
あるいは、このタイミングと状況の連なりがなければ、たとえば第二次内惑星戦争の50年後とかなら、遭遇直後の先制攻撃まではなかったんじゃないかと思ってしまいますね(それがその後の地球にとって良かったかどうかは分かりませんが)。

随分長くなってしまいましたが、最後にあと二つだけ。
一つは、火星自治政府側の戦闘艦艇について。
艦級名も明らかではない火星艦艇(個人的には、オリンポス級とか推したいですけど)のバックショット、特に補助エンジンのX字型の配置がアンドロメダ級を連想させるなぁ・・・・・・と思っていて思い出したことが。



2202で公開されたアンドロメダ級のスペックに書かれていた補機「ケルビンインパルスエンジン」。
これ、私の中でずっと謎の存在だったのですが、実は火星式の星間航行機関だったんじゃないか?と思ったり。
2202終盤の展開からすると、アンドロメダやD級の設計も時間断層AIが行っていた可能性が高そうなので、AIならば空気を読んだり忖度などせずに、性能的優位だけでデータバンク内にあった火星式の機関すら採用してしまう気がしまして。
逆に、改装後もヤマト搭載補機が艦本式コスモタービン系なのは、AIではなく人間が設計しているからでは、とか。
ええ、はい、全て妄想ですw

妄想ついでにもう一つ。
第二次内惑星戦争末期から戦後すぐにかけては、地球・火星双方に様々な戦場伝説が生まれてそうだなぁとも思いました。
火星軍が不利な戦況を逆転すべく、極秘裏に超巨大宇宙戦艦を建造している・・・とか、いやもう実際に配備されていて、一週間前に消息を絶った○○○戦隊は、それにやられたらしい・・・とか、技術レベルに勝る敵に対する地球側の恐れと戦局の逆転を願う火星側の願望が絡み合うことで、様々なフー・ファイターを戦場のあちこちに生み出しそうな気がしますね。
このあたりを上手く使えば面白い二次作品も作れそうです。
うーん、さすがに古代守は絡められませんけど、立ち位置や艦名の点で言えば、ア○カ○ィア号ネタとかすごく使いやすいですよねw


『「宇宙戦艦ヤマト」という時代』は総集編とは言いながら、本当に考えて考えて考え抜いて作り込まれた魅力が光る作品だと思います。
まだまだ観返す度に、新たな面白さが発見できそうです。
次回は、第一次・第二次火星沖について取り上げた記事を書いてみたいと思います。








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『「宇宙戦艦ヤマト」という時代 西暦2202年の選択』を観てきました(ネタバレなし)

2021-06-13 15:49:40 | 宇宙戦艦ヤマト2202


皆様ご無沙汰しております。
映画公開を機に久しぶりのブログ更新です。
いつもどおり公開開始1週間はネタバレなしですので御了承下さい。

一昨日の上映初回を大阪ステーションシティシネマで観てきました。
元々は昨年公開予定とされていたのが本年1月に延期となり、更に半年近く延期しての公開となったので、待ちに待ったという感じでしたね。

作品時間は2時間弱、この時間で2199前史・2199・2202とお話を繋ぐというので、すごい駆け足か詰め込み過ぎになるんじゃないかと少し心配していましたが、始まってみると特にそんな感じもせず、すんなりとお話に没頭することができました。
私が既に2199と2202を全て観ている(知識のベースがある)からもしれませんが、真田さんの俯瞰的な語りに沿ってストーリーが展開していくことで、視聴者は多少足早ではあっても手を引かれながら案内されるような感覚で作品世界を巡ることができたのだと思います。
実際、「何が起きたのかよく分からん」と言われた2202の第三章や後半部分は、真田さん主観という名の通訳・触媒を介することで、本編よりもむしろ理解しやすくなっていたのではないでしょうか。
その点、本作の「ドキュメンタリー方式」という制作方針は(最終的なセールスは分かりませんが)私のような既存ファンに向けてもより良い選択だったと思います。
また、本作のもう一つのターゲットたる『新たなファンになって欲しい初見の方』にも、「理解しやすい」という点は今後のことを考えても良い方へ作用すると思います。
もちろんオーディオコメンタリーで制作陣が語っておられた通り、カロリー(情報密度)が高すぎるという懸念はありますが、サーガ的な世界観を持つ作品である以上、新規の方にはBD/DVDなどでお腹を壊さない程度に少しずつ咀嚼していただく・・・・・・ということでw

注目だった2199前史の部分についても、設定・作画共に非常に力の入った仕上がりだったと思います。。
内惑星戦争や第一次/第二次火星沖のシーンは、作画的にも2199を彷彿とさせる感じで、特に2199ファンの満足度は高かったのではないでしょうか。
ただ、2198年に設定された第二次火星沖海戦について、以前言及しましたような背景設定(ユリーシャ来訪との係わりとか)が加わるかな?と期待していたのですが、さすがにそこまでのフォローはなかったです。
とはいえ、火星自治政府海軍のあたりの新たな設定は、今後の作品世界にも影響する要素も大きく、情報密度の配分が加減されたのかもしれません。
映画本編中の第二次火星沖海戦の展開について思った点については、ネタバレ解禁後に言及しようと思いますが、私的には2202の小説版を執筆されている皆川ゆかさんに第二次火星沖海戦前後を舞台にした外伝小説をいつか書いていただきたいなぁ・・・と願ってやみません。

また、「時代」の中で取捨選択されたエピソードは、次回作(宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち)の予習を意図してピックアップされているのだろうな、とも感じました。
叛乱覚悟でヤマトがテレザートに旅立つ際の藤堂長官の説得の通信(「ヤマトは強力な兵器だ」から始まる部分)や、2199のシーンでも七色星団の戦いではなくバラン星ゲート突破のシーンが選ばれているのは、それが理由じゃないかと。
そうした意識で「時代」をもう一度観返してみると、これまでとはちょっと違う気づきが得られるかもしれません。
実は以前、2205への登場が予定されている新キャラクターについて、ある予想をしたことがあるのですが、この予想が成立するとすれば第六章の藤堂三佐のある台詞が必ず入ると思いましたが・・・・・・ありませんでした(笑)
できれば2205の公開後にも「時代」を観返して、答え合わせをしてみたいですね。



本編と同じくらい楽しみに劇場限定BDの特典、皆川ゆかさん作の『私の心がこのようにあることは』。
結城信輝さんのの表紙絵から、ほのぼのとした青春追憶話を勝手にイメージしていましたけど、いい意味で裏切られました。
100%混じりっ気なしの「ガチ」の後日談です。
2202の最終章を観た時に「あるもの」の顛末が気になっていたのですが、本小説内でその答えを明らかにしていただきました。
本作のキーワードに「人」と「心」があると思いますが(他にもありますが、ネタバレが強くなるので控えます)、それは2202の終盤にも共通していて、あるいは今後のシリーズでもキーワードになるんじゃないかと思ったり。
そしてウメグラさんの挿絵も、本作の主人公二人の放つ空気感にピッタリで、とても魅力的でした。
尚、ウメグラさんの挿絵とは別のイラストが映画チケットの版権キャンペーンの特典になっていまして、私も応募予定です(^^)



最後に一つ、一昨日の公開初日に『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』についての情報が公開されました。

 ・全二章の「前章」が10月8日に公開
 ・既出の補給母艦「アスカ」とは別に戦闘空母「ヒュウガ」が登場
 ・新キャラとして土門竜介、徳川太助、京塚みやこ、坂本茂、坂東平次が登場
 ・黒色艦隊のみならずボラー連邦も登場。更にはガルマン(?)も

劇場では「時代」のエンディング後に1分程度の予告編も上映されまして、今のところは劇場限定の公開のようです。
私ももちろんこの予告を観たのですが、「あわわわわ」と泡を食ってる内に終わってしまいまして、殆ど記憶が・・・・・・(汗)



ただ、アフロ社長さんからお譲りいただいた「この機体」がワンカット映っていたと思うんですよね。
残念ながら機体のサイズ感までは把握できませんでしたが、既存のコスモタイガーⅡとの役割上の棲み分けが気になります。
戦闘機、戦闘攻撃機はCT2で十分でしょうから、空母も登場することですし、より大型の攻撃機的な機体だと予想したのですが、はてさて。

来週はネタバレありで記事をアップしたいと思います。





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