我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

1/700 アンドロメダ級戦略指揮戦艦②

2012-02-05 13:18:40 | 1/700 戦略指揮戦艦アンドロメダ(バンダイ)


 ガミラス戦役前、二〇〇億人という規模を誇っていた地球人口は、戦役終結時には二〇億人あまりに激減していた。実に生存率一〇%という破滅的な惨状であった。
 戦役終結後、成立したばかりの地球連邦政府によって数々の多産政策が実行に移されたが、その効果が発揮されるまでには少なくとも一〇年単位の年月が必要で、とにかく今は残存する人口を可能な限り有効活用するほかなかった(あまりの人口学的惨状からヒューマン・クローニングすら検討されたものの、さすがに宗教的禁忌による反対が強く、断念されている)。
 結果、あらゆる分野においてマンパワー投入に対する厳密な査定が行われ、機械化や無人化が可能な分野・職制・職域が徹底された。しかし、イスカンダルからもたらされた究極の環境改善装置『コスモクリーナーD』は予想以上の高性能であり、人類にしてみれば嘘のような短期間で地球環境を完全回復してしまった(むしろ戦役以前よりも“改善”したとまで言われたほどだった)。
 つまり、戦役によって人口の九割方が失われたものの、人類領域は減少するどころか、波動機関という新たな翼を得たことで、今後爆発的に拡大することすら予想された。つまり、どれほど省人化を推し進めたとしても、人口の絶対的不足は明らかだった。
 地球防衛軍もその影響に無縁ではいられなかった。むしろ長期戦役の常として優良人員多数を優先的に与えられていただけに、真っ先に人員削減の対象とされ、大量の動員解除と復員が急速に進められた。但し、人員規模が大幅に縮小・削減されたのは本土決戦に備えて多数整備されていた地上根拠地と陸上兵力(空間騎兵隊を含む)であり、地球防衛艦隊についてはむしろ早急な戦備の回復と大幅な規模拡大が予定されていた。
 しかし、地球人口の不足はあまりにも深刻であり、拡張へと転じた地球防衛艦隊をもその影響の例外とはしなかった。つまり、人員の削減こそ行われなかったものの、艦隊拡張に不可欠な増員は最小限とされてしまったのである。
 その影響は、早くも2200年内に表面化していた。当初は、波動エンジン実用化以前の旧式艦艇を順次から廃棄処分とし、浮いた人員の再配置が行われた。しかし、戦艦級の艦艇が五隻・一〇隻と継続して増強される状況では焼け石に水だった。
 その結果、波動エンジン搭載改装を受けたことで未だ十分な戦闘力を有する艦艇群(アドバンスド・カイザー級やカゲロウ改級)まで、次々に予備艦指定を受けることになってしまう。
 それらの艦艇から取り上げた人員を新造艦に振り分け、更に宇宙戦士訓練学校からの繰り上げ卒業や促成教育を受けた新規志願人員(殆どが大削減された元陸軍軍人)を投入することで、ようやく艦隊人員定数六〇パーセント強を維持しているような有様であった。




 アンドロメダ級戦略指揮戦艦にとって最大の不幸は、そうした極度の人員不足の中で計画と建造が行われたことだった。
 本来、アンドロメダ級の乗員数はヤマト級宇宙戦艦の一・五倍程度が予定されていた。増大した艦の規模、更に戦闘艦としての機能と指揮艦としての機能を合せ持つことを考えれば妥当、むしろ人員削減の努力すら感じられる人員数であった。
 しかしそこに、地球防衛軍において造艦技術を司る艦政本部が異議を唱えたことで事態が混乱し始める。一説には、当初の『艦隊指揮艦』プランを撤回・修正させた艦隊派に対する意趣返しであったとも言われるが、客観的に見て艦政本部の主張にも頷ける部分はあった。
 艦政本部の主張は概ね以下のようなものであった。曰く――人員窮乏の現在、このような多数の人員を要する大規模艦の運用は現実的に不可能であり、抜本的な対策を要する。
 この主張に対し、各部門から意外なほどの賛同者が表れたことで、半ば確定済みと思われていたアンドロメダ級建造計画の混乱は決定的になった。
 地球防衛艦隊内部では主流派の艦隊派であったが、外部では完全に少数派だった。それどころか、地球防衛軍内局の防衛官僚や艦政本部の技術系将校・部員との折り合いが悪かったことが事態を複雑にしていた。
 戦役中であれば、こうした組織内不協和が具体的な衝突にまで至ることはなかったかもしれない。ガミラスという敵手が存在する以上、組織間抗争に明け暮れているような余裕はどこの誰にも無かったからだ。しかしそのような時代であっても、表面化しないだけで軋轢と不満は確かに存在していた。
 技術部門は、いつも無理難題ばかりを押し付けてくるばかりで、僅かな戦果しか上げることができない実戦部隊を心の奥底では呪っていた。それでも、戦役中は実際に血を流している人々に対する敬意と遠慮がそうした感情を押し殺させていた。しかし、戦役が自然休戦に終わった現在でも、実戦部隊は態度を改めるどころか、既に実働していた建造計画まで彼らの頭越しに引っ繰り返してしまった。技術部門の総本山ともいうべき艦政本部にとっては、完全に面目を潰された格好だ。
 同様に官僚部門たる内局も不満を抱いていた。計画変更の発端は地球連邦政府首脳部からの“要請”であったとはいえ、本来ならばそれに対応するのは彼ら文官、官僚部門でなくてはならなかった。彼らにしてみれば――実戦部隊の一派閥風情が――というわけだ。
 ある意味、彼らの衝突の根本原因は、今が“戦時”か“平時”かの認識の違いによるもの(前章でも述べたように艦隊派は未だ戦時が継続していると考えている)だったが、そのような分析は事態解決には全く無意味だった。
 一ヶ月程度の短くも熾烈な協議の結果、アンドロメダ級戦略指揮戦艦の建造計画は幾つかの重大な変更が加えられることになった。その代表格が、艦政本部が進めていた『先進省力技術艦構想』の適用だ。
 艦政本部はガミラス戦役中から、後に“無人艦隊”として結実することになる完全自律戦闘艦(無人戦闘艦)の開発計画を推し進めていた。
 計画は、ガミラス戦役三年目頃から顕在化していた宇宙艦艇乗員不足を解消することを目的としており、2200年になってようやく現実的なハード・ソフトウェアの整備が完了したところであった。既に、数隻のボロディノ級及びアルジェリー級に無人化改造が施され、防衛軍参謀本部直轄戦隊として運用が開始される直前であった。
 一見、順風満帆のように見える無人戦闘艦計画であったが――実際には問題が山積していた。システムだけは、タキオン物理学の進展によって実用化された新型量子コンピューターを用いることで一応の完成をみたものの、まだまだ基礎理論の面で改善の余地があるばかりか、戦術行動を自律的に判断する上での指標となる各種戦術データが決定的に不足していた(とある防衛艦隊提督は無人戦隊の艦隊運動を視察した際『あれでは艦隊というより案山子の行列だ』と述べたと言われている)。
 本来ならば、実艦の建造どころか地道な基礎研究こそ必要な状況であったが、内外からのあまりにも強い省力・省人化要求が現実を押し流していた。理論面の未熟さは時間をかけて解決するしかないとしても、少なくとも戦術データの収集は愁眉の急だった。そのような状況で考案されたのが件の『先進省力技術艦構想』であった。




 艦政本部の認識は、現在の自動化技術は完全自律システムとしては未だ不安を残しているものの、要所を人間が判断・指示する半自動的運用に徹するのであれば十分な実用性を持つというものだった。艦政本部としては、できるだけ自動化した有人艦で運用・戦術データを蓄積し(当然、自動化率が高い艦ほどデータ価値は高い)、完全自律艦開発の一助にしたいという腹積りがあった。
 つまり『先進省力技術艦』とは、単に極限まで自動化を推し進めた有人艦というだけでなく、無人戦闘艦用戦術データの収集を第一義とした艦のことを指す。その為、艦の各部には現時点の技術の限界まで自動化が施されていた。特に、機関部や各砲塔などの重要部に実働員を配置せず、全て艦橋及びCICからの遠隔操作で運用する自動化手法は、アンドロメダ級の乗員定数削減には大きく寄与したものの、旧ヤマト乗組員を筆頭に、実戦経験者ほど強い懸念と不満を表したと言われている。
 アンドロメダ級は直接防御こそ自艦の二〇インチショックカノンにも平然と耐え得るだけのものが与えられていた。しかし、一度主装甲が抜かれ艦内指揮系統に障害が生じてしまえば、それを補うダメージコントロール能力(人員)に乏しく、最悪の場合、一挙に戦闘能力を喪失してしまうことが考えられたからである(不幸にもこの懸念は後に現実のものとなる)。
 自らの艦隊指揮艦が容易に能力喪失しかねない脆弱性を秘めている――この危険性に対し、土方地球防衛艦隊司令長官をはじめとする艦隊派の人々の発言は残されていない。忸怩たる思いがあったことは想像に難くないが、画一的に反対していたと判断するのは早計である。
 当時、地球防衛艦隊将兵の平均技量は、アンドロメダ級に施された危険なまでの自動化を肯定せざるを得ないまでに低下していたと考えられるからだ。拡大する一方の艦隊戦力に対し、いわゆるヴェテラン乗員は僅か一割程度に過ぎず、残りは繰り上げ卒業の新品士官か新規志願者のみ。そうした歪極まりない人員構成に加えて、艦隊乗組員の充足率は七〇パーセントにも満たなかった。次々に艦隊に加わる新たな艨艟達の勇ましい姿とは裏腹に、地球防衛艦隊は人員面で完全に空洞化していたのである。事実、この時期の艦隊内事故率は、物資にも整備にも事欠いたガミラス戦役中と比べても倍以上のハイレートを弾き出している。
 その事実に、実戦部隊の長たる土方長官をはじめとする艦隊派将兵が気付いていなかったとは考えにくい。一般的には、アンドロメダ級に施された度を越した(と評される)自動化は、技術部門たる艦政本部と官僚部門たる内局を中心とした地球防衛軍上層部が実戦部隊である地球防衛艦隊に押し付けたものと考えられがちだが、実態はそこまで単純ではない。
 当時、地球防衛艦隊はハードウェア(各種艦艇や支援設備)のみならずソフトウェア(人員)の面でも再建を迫られていた。ハードとは異なり、人員は工場に命じたからといってすぐに増産されるものではない。新人たちが一人前の防衛艦隊将兵として成長するまで最低三年は必要と考えられたが、その期間も地球防衛と護民という任務は完遂されなければならなかった。その為には、低練度の艦隊将兵を補完する存在として(今は未熟といえども)自動化技術も積極的に推進・投入すべき――現実主義者の集まりと言われた艦隊派の人々がそうした発想を持っていたとしても何ら不思議はないのである。




 本級のネームシップであるアンドロメダは就役と同時に地球防衛艦隊旗艦の任に就いた。完成式典で初めて一般に披露された先進的且つ雄大な艦容に、興奮のあまり失神する参列者まで出たと伝えられている。
 就役直後から土方長官直卒の下、猛訓練を開始したアンドロメダであったが、訓練開始早々、地球防衛軍参謀本部から特命を受ける。テレザートへ向けて独断発進したヤマトの追撃命令である。
 『地球防衛艦隊“丁”事件』、非公式には『ヤマト追撃戦』やと呼ばれるこの短くも熱い二日間で、アンドロメダはヤマトを遥かに超える能力と共に、自らの限界まで示してしまう。
 各地からの寄せ集め艦艇で効果的な哨戒線を形成した艦隊指揮管制能力、ヤマトをより遠距離から捕捉した索敵能力、アステロイドベルトに突入することで追撃を振り切ったヤマトを迂回航路で再捕捉した機動力、いずれもアンドロメダ級でなければ不可能な芸当だった(事実、他の追跡艦は機動力の不足からアンドロメダに追随できなかった)。
 しかしそれは同時に、イスカンダル帰りの熟練乗員多数を揃えたヤマトの技量を痛烈に思い知らされる結果でもあった。小惑星帯を最大速力で駆け抜けるアクロバティックな操艦は、低い技量を自動化で底上げしているアンドロメダには絶対に不可能であった(皮肉なことに、より性能で劣る筈のボロディノ級主力戦艦一隻が熟練副長兼航海長の操艦で追跡に成功している)。また、ヤマトと衝突寸前の進路交差時の乗員の恐慌度合いは、同艦の数少ないヴェテランである砲術長をして、不慮の事故を防ぐために火器管制装置のマスターキーを抜くよう土方長官に上申させたほどだった。
 アンドロメダとヤマトの衝突は幸いにも未発に終わったが、地球防衛軍上層部に自軍将兵の技量の低さを改めて思い知らせる契機となった。この事件以降、地球防衛軍は従来以上の熱意で完全自律戦闘艦による艦隊の設立に注力していくことになる。
 その過程でアンドロメダが果たした役割は小さくない。アンドロメダの生涯はヤマト以上に短かったが、その間に『先進省力技術艦』として蓄積された各種運用・戦術データが無ければ、2203年という非常に早いタイミングでの自動艦隊設立は不可能だったと言われているほどだ。
 また、アンドロメダに実装された各種自動システムは運用を重ねながら、地球防衛艦隊と艦政本部の合同部会において慎重に有効性評価が続けられていた。省力効果無、省力リスク大として研究打ち切りとなった自動システムも多数に上ったが、確実な省力効果が得られると評価されるシステムも徐々に数を増やしていった。それらアンドロメダで有効性が実証された自動化技術は以降の有人艦艇に取り入れられ、単位規模当りのマンパワーを確実に低下させていった。
 2201年から2206年にかけて打ち続いた対異星人戦争において、その都度多大な損害を負いながらも、地球防衛艦隊が曲りなりにも機動戦力を絶やすことがなかったのは、自動艦隊による戦力補完と効果的に省力化が図られた有人艦艇を主力としていたことと無関係ではない。
 もちろんそうした艦艇群は、直接防御はともかく間接防御の点での脆弱さは否めず、僅かな損害がダメージコントロールの失敗によって喪失に繋がる場合も少なくなかった。しかし、星間国家として歩み出した地球連邦が自らの勢力圏を維持するには最低限の艦艇数――物量が必要である以上、他に現実的な選択肢がなかったのも事実である。むしろ、物理的に不可能な理想論――十分な人員を配置した有人艦多数を配備する――に拘り続けていた場合、この最も苛烈な戦乱期に戦力の完全消滅を招いていた可能性は極めて高い。そしてその事態は、2199年以来の悪夢――地球人類の絶滅――に直結したであろうことは言うまでもない。


 ヤマト級宇宙戦艦が後の地球艦艇全ての始祖であることに異論は無いだろう。彼女が初めて搭載したハードウェア『波動エンジン』『波動砲』『ショックカノン』が地球艦艇の三種の神器と呼ばれていることからも、それは明らかだ。しかし、ソフトウェアという点での始祖がアンドロメダ級戦略指揮戦艦であることが評価される機会は、残念ながら非常に少ない。
 彼女が無理を押して搭載し、実証した数々の自動化・省力化技術は結果的に彼女自身の寿命を縮めることになったものの、彼女の跡を継いだ後の全ての地球の守護者達の血肉、いや“神経”として昇華することになったからである。


アンドロメダ級戦略指揮戦艦九番艦『アルテミス』とドレッドノート級主力戦艦五八番艦『リナウン』。
アンドロメダ級は改良を加えながら四半世紀以上に渡り運用が続けられた。
ヤマトを超える巨躯は、後の発達・改良を受け入れるだけの余裕を十分に残しており、設計時には予想されていなかったほどの長期運用が可能であった。
そうした見えない点での有用性も、本級が名艦と称される所以である。



――おわり。

第二回『アンドロメダ』編をお送りしました。
何やら地味なお話に終始してしまい、『おい!拡散波動砲はどうした!?』『え~、二〇インチショックカノンには触れないの?」と言われると辛いところですが(^_^;)
最後の復活篇主力戦艦とのツーショットは、DC版公開記念のサービスショットということでw

さて本項では、悪しざまに言われることの多いアンドロメダの自動化技術について言及してみました。
某技師長のセリフ『これはもう戦艦とは言えない、戦闘マシーンだ』『お偉方はヤマトの勝利を機械力の勝利と錯覚しているのだ』や、wikiにまで書かれている『精神性を喪失し退廃する物質文明の象徴』というアンドロメダの描かれ方に、以前から違和感を持っていました。
確かにそうした一面もあるでしょうけど、当時の時代設定から推測するに、現実的な対応はそれしかなかったのではないかと思っていたわけです。
何しろ人口が1/10になってしまった世界なのですから・・・・・・(^^;)
『〇〇とはこうであるべきだ』と現実を無視して理想論を喚き立てるのは簡単ですが、不可能に不満を述べているだけでは思考停止しているのと同じです(いつの時代の話だって?もちろん23世紀初頭の話です!)。

さて、次はセオリーでいけばボロディノ級主力戦艦の番ですが、少し飛ばして『さらば』『2』の護衛艦に行ってみたいと思います。
先日某所で頂戴しましたご質問に、自分なりの回答を出してみたいと思います。
ではでは、また次回~~~♪(* ̄▽ ̄)ノ~~

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1/700 アンドロメダ級戦略指揮戦艦①

2012-01-20 21:51:08 | 1/700 戦略指揮戦艦アンドロメダ(バンダイ)


 2201年にネームシップが竣工した艦隊旗艦用宇宙戦艦。
 人類初の波動エンジン搭載戦艦『ヤマト』、量産戦艦である『ボロディノ』級主力戦艦を経て計画・建造されただけに、非常に高いスペックと完成度を誇る。
 ヤマトを上回る各種武装を一〇万トンに迫る巨躯に搭載。各種シミュレーションでヤマトの二倍と評された直接攻撃力の大きさと、従来の艦艇とは一線を画する未来的な艦容によって、ネームシップ戦没後の現在でも非常に人気の高い艦級である。




 視覚的に強烈な印象を残す砲装備に注目されることが多いが、本艦の真骨頂はフェイズドアレイ式タキオンレーダーによる探知・捕捉能力と大容量電算機を介した艦隊指揮・管制能力にある。
 ガミラス戦役後に再建された地球防衛艦隊の新たなる決戦戦術――統制波動砲戦術が確立されたのは、新型波動砲(通称:拡散波動砲)の実用化と、その搭載艦(ボロディノ級戦艦及びアルジェリー級巡洋艦)が戦隊以上の規模で実戦配備された後であった。
 統制波動砲戦とは、波動砲搭載艦が多段の横列(艦艇数が少ない場合は単段)を組んで一斉に波動砲投射する戦術行動で、敵艦隊を宙域規模でスイープしようという大規模戦術である。この戦術が完全に決まれば、たとえ敵が数十倍規模の大艦隊であっても一隻残らず殲滅することすら可能で、未だ国力に乏しい単一星系国家に過ぎなかった地球連邦にとって、非常に費用対効果の高い戦術と考えられた。
 しかし、拡散波動砲搭載艦が十隻単位で揃い、艦隊規模の戦技演習やシミュレーションが活発に行われるようになると、早くもこの戦術の限界が露呈するようになった。一斉投射時の最適な艦隊陣形の形成と照準管制があまりにも難しいという指摘が一線部隊から多数寄せられたのである。その指摘は、ガミラス戦役を生き残った一部のヴェテラン砲術士官たちであっても同様であったから、“練度不足”の一言で片づけてしまうこともできなかった。
 波動砲搭載艦は戦艦クラスと巡洋艦クラスに大別されるが、波動エンジン出力に格段の違いがあり、当然、波動砲の威力や射程にも大きな差があった。その為、艦隊陣形と発射タイミング、照準指示が不十分なまま一斉投射に到った場合、攻撃効果に大きな偏りが生じてしまうのである。波動砲投射艦は、投射後暫く機関出力の著しい低下(つまりは戦闘能力の低下)をきたしてしまうことを考えれば、この『撃ち漏らし』は非常に危険な状況と考えられた。
 実際、数限りなく繰り返された最も一般的な艦隊戦闘シミュレーション(三百隻規模のガミラス中規模艦隊の襲来を一個外周艦隊三〇隻で迎撃)において、マニュアル管制による統制波動砲戦で敵艦隊の完全殲滅に成功したのは僅かに一度だけ。しかも唯一成功を達成したのは、後に『砲術の神様』と呼ばれ、地球防衛艦隊砲術教範を全面改訂することになる南部康雄二尉(当時)であったから、その難易度の高さも頷ける(もちろん、高速機動を信条とするガミラス艦隊を仮想敵としているが故の難しさもあったが)。
 実際、南部二尉を除く他の砲術士官達の管制は、発射隊形若しくは発射照準に悉く難があり、撃ち漏らした敵(それでも数は明らかに地球防衛艦隊に勝る)から手痛い逆襲を受けていた。
 結論として、統制波動砲戦術は見た目の派手さとは裏腹に、細心の注意と綿密な準備、そして何より完璧な統制でもって行われなければ、諸刃の刃足りうるリスキーな戦術と評価されてしまったのである。


最初期の統制波動砲戦構成艦であったボロディノ級主力戦艦(右)及びアルジェリー級巡洋艦(左)。
再建当初の地球防衛艦隊は戦力が絶対的に不足しており、戦艦のみで波動砲戦砲列を構成することは不可能だった。
その為、準主力艦として巡洋艦を砲列に組み込んだが、戦艦クラスに比べて波動機関出力が大きく劣る為、隊列形成と照準管制には多大な困難が伴った。



 アンドロメダを嚆矢とする戦略指揮戦艦は、まずこの点を解決する為に計画され、建造されたと言っても過言ではない。つまり、一撃必殺の統制波動砲戦術を職人技的統制抜きに達成し得る艦というわけだ。
 飛躍的に高効率化を達成した第二世代波動エンジンと、ヤマトやボロディノ級に倍する四基の補助エンジンは、他艦に先駆けて砲列の基点へ遷移することを目的に装備されたものであったし、複数の艦種が入り混じった寄せ集めの艦隊であっても隊列・対敵姿勢・最適な波動砲拡散点の設定計算を瞬時に行うことが可能な大容量電算機も、索敵・捕捉・管制能力を飛躍的に向上させたフェイズドアレイ式タキオンレーダーも、全てが彼女を波動砲戦統制艦とする為に必須の装備であった。
 見た目に目立つ連装拡散波動砲や二〇インチショックカノンは、彼女が建造された本来の目的からいえば、むしろ“付け足し”に過ぎない。
 事実、アンドロメダ級戦略指揮戦艦のルーツともいうべき『艦隊指揮艦』整備計画の初期案は非常に堅実、言い換えれば非常に地味なものであった。後の時代の目から見れば意外なことに『戦艦』ですらなかった。
 これは、ガミラス戦役時に艦隊旗艦として活躍したカイザー型指揮戦艦の運用実績から導き出されたもので、実際に敵と殴り合うのは麾下の戦闘艦艇が行い、艦隊指揮艦は安全圏から的確な状況分析と戦術判断を下すべきという戦訓に基づいたものであった。ガミラス艦艇に比べてあまりに非力なカイザー型指揮戦艦を運用していたが故の戦訓とも言えたが、戦術原則からすれば決して誤りではない。
 結果として計画された艦は、より指揮統制艦としての機能に特化した艦――前述した索敵・管制能力・高い機動性と共に充実した直接・間接防御で生存性するを確保する――であった。艦の規模も精々二万トンクラスに過ぎない。
 指揮統制艦は、あくまで艦隊というシステムにおけるヘッドクオーターであり、頭脳そのものに極端に高い戦闘力は必要なく、更に言えば“目立つ”必要もないという考えだ(仮に直接的な戦闘力が必要な状況が発生した場合は、同じ艦隊内の他艦に任せてしまえばよい)。
 しかし、非常に合理的な発想で進められていた彼女の計画は政治的要因から大きな変転を迎えることになる。彼女の基礎設計が進んでいた2200年、ようやく発足したばかりの地球連邦政府の首脳部から、翌年の『地球復興宣言』発表に合せて宇宙のリーダーたる地球を象徴するような大戦艦を建造すべしという非公式の“要望”が地球防衛軍に伝えられたのである。これに地球防衛艦隊内の一部勢力――『艦隊派』と呼ばれていた――が同調、現在知られるアンドロメダ級戦略指揮戦艦へ到る枕木が敷かれることになる。




 『艦隊派』の主張はある意味、極めてシンプルだった。一言でまとめてしまえば『“ヤマトを超える戦艦”の“量産”を』である。
 ヤマトがイスカンダルから帰還し、太陽系内制宙権を完全回復した後も、艦隊派の人々は非常に強い危機感を持ち続けていた。
 長年の仇敵であった大ガミラス帝国本星を撃滅したものの、ガミラス軍は未だ数千隻規模の主力艦隊複数を擁しているものと考えられた。幸い、太陽系内はもちろん大マゼラン雲から銀河系に到る中間基地の悉くをヤマトが破壊した為、今すぐ再来襲に見舞われる可能性は小さかったが、決して可能性絶無というわけではなかった。つまり、突然ガミラス主力艦隊が大挙来襲してくるという最悪の事態も考えられるのだ。
 彼らの現状認識に対し、地球連邦政府の対応とその具現である地球防衛艦隊整備計画は、艦隊派の人々にとってあまりに緩慢で過小なものと映った。
 彼らは、地球は未だ戦時体制を維持しなければならない危機的状況から脱しておらず、少なくとも今後五~一〇年間は戦時体制を維持しつつ、ガミラス主力艦隊にも対抗し得る艦隊戦力の増強にひたすら邁進すべきであると考えていた。
 国力に劣るとはいえ、いや劣るからこそ、艦隊戦力の主力として装備する戦艦はヤマト以上の対艦戦闘能力が絶対に必要であり、現在量産が進んでいるボロディノ級主力戦艦は決して満足できるものではなかった。
 後の時代から見れば、ボロディノ級戦艦の量産ですら、再建途上にあった地球連邦の財政を著しく圧迫していたし、更には七年間にも及ぶガミラス戦役で限界を超えるまでに疲弊していた市井の状況を思えば、彼らの主張は理想論――画餅の印象すら拭えない。しかし、艦隊派の人々は“そんな現実を理解しつつも”決して持論を曲げるつもりはなかった。
 後の地球防衛艦隊司令長官:土方竜を筆頭に、提督から佐官級まで幅広い人脈で構成された彼らは数少ないガミラス戦役の生き残りであり、その中でも特に有能と評された実戦指揮官たちであった。彼らは、士官候補生時代の同期生や尊敬して止まなかった先達たち、目をかけていた後身たちの乗った艦がガミラス艦艇の攻撃によってあまりにも容易く爆砕していく様を見すぎていた。そして、護民こそが我が使命と信じる彼らの目前を通過していく遊星爆弾を自身の無力さを噛み締めながら見送ったことも一度や二度ではなかった。ある意味、艦隊派と呼ばれた人々は有能で勤勉、加えて強い責任感の持ち主であったが故に罹患したPTSD患者の集団であったのかもしれない。
 軍拡によって財政破綻しても地球人類が亡びることは無いが、外敵への備えを怠って侵略を許せば、人類は文字通り死滅してしまう――彼らを衝き動かしているのはそんな焦燥にも似た危機感(しかも僅か1年前までの現実に裏付けられた)であった。
 政府からの大戦艦建造への示唆(という名の圧力)は、艦隊派の人々にとっては軽蔑すべき陳腐な政治的パフォーマンスであったが、同時に一つのチャンスであることも事実だった。現時点ではボロディノ級主力戦艦ほどの大量建造は望めないが、各艦隊の旗艦と考えれば一定数量の配備(五隻程度)は期待できる。たとえ今は少数建造でも、ヤマトを超える規模の戦艦の試金石として設計と建造、運用ノウハウを確立しておけば、次期主力戦艦計画でこそ彼らの大望を果たせるかもしれない・・・・・・。
 艦隊派の人々はあらゆる人脈と機会を総動員し、元から存在していた艦隊指揮艦に自らが理想とする宇宙戦艦としての要素を次々に捻じ込んでいった。
 ヤマトを超える二〇インチショックカノンと連装拡散波動砲などがその最右翼だが、それら表面的な装備以外で、ヤマトとアンドロメダには明快なコンセプトの違いがあった。
 ヤマトが単艦での任務遂行に特化した『万能戦艦』であるのに対し、アンドロメダは艦隊のヘッドクオーターにして最大火力を誇る・・・・・・が、決してそれ以上のものではない『単能戦艦』であったことだ。




 具体的な差異でいえば、たとえばアンドロメダにはヤマトのような対軽艦艇用の副砲は装備されなかった。また、ヤマトではハリネズミのようだった対空火器群――パルスレーザー砲――も常識的な数量に留められた。他にも、作れないものはないとまで言われた艦内給兵設備や給糧設備も必要最小限の規模とされている。
 以上のような割愛若しくは簡略化された装備は枚挙に暇がないが、それら全ては、同じ艦隊を構成する他艦が補うものとされていた。あくまで彼女は艦隊というシステムの中の一ユニットに過ぎないという割り切った考えであり、その範疇で考える限り、極限まで能率化を追及した艦であった。
 仮に、彼女がヤマトのような“万能戦艦”として建造されたとすれば、その規模は一〇万トン級では到底納まらず、一五万トン規模にまで達したであろうと言われている。
 皮肉なことに、その姿は後の『アンドロメダⅡ』級戦略指揮戦艦のそれに近い。圧倒的火力と防御力とで列強各国をも瞠目させた『アンドロメダⅡ』級であったが、多種多様な装備を大量に装備していたが故に運用・維持コストは莫大であり、ヤマトと同様に実験艦的な単艦建造に留まった。
 これに対し、大型ではあっても運用規模・建造コスト共に常識的範疇に収まるアンドロメダ級は、各種バッチを重ねつつ最終的には同級艦一二隻の建造を達成している(最終艦の建造番号は“A12”とされた)。


アンドロメダⅡ級戦略指揮戦艦“マルス”
二〇インチショックカノン四連装五基、各種波動砲三門を搭載する本級は、ブルーノア級戦略宇宙空母就役まで地球防衛艦隊最大・最強の戦闘艦艇であった。
写真はデザリアム帝国本星遠征時に撮影されたもので、僚艦はボロディノ級主力戦艦“サガミ”。当時の主力戦艦が“小型艦”に見えてしまうことでも、アンドロメダⅡ級の規格外の巨大さが分かるだろう。



 もちろん、地球連邦政府首脳部の権威をかさに着れば、『アンドロメダⅡ』級のような超巨大戦艦の建造も(技術的困難を除けば)決して不可能ではなかった。当時、政府にも市民にもガミラス戦役後の“お祭り気分”が充満しており、“地球を象徴するような大戦艦”は十分に祭りの神輿(みこし)足りえたからである。しかし、実際に建造されたのは、見た目とサイズこそ派手だが、用途と機能は極めて限定された“常識的”戦艦だった。
 艦隊派にとってみれば、この艦は数を揃えることにこそ意味があり、極論すれば、数が揃えられないようなコストで建造されるのであれば、建造の意味は全く無かった。だからこそ、建造コストを上昇させるであろう“万能戦艦”的要素は彼ら自身の手で徹底的にオミットされていた。更に、コスト削減へのアプローチは、前述の基本コンセプトのみならず具体的な装備品や建造方法にまで及んでいた。
 ボロディノ級建造で実績を積んだ直胴箱型艦形の採用によって建造コスト低減と艦内容積の確保を両立し、近接防御用装備をはじめとする汎用艤装品の大半をボロディノ級やアルジェリー級と共通化することで量産効果を狙った。


アンドロメダ級戦略指揮戦艦とヤマト級宇宙戦艦の艦体構造の比較。
同じ箱型艦形でも巧緻というレベルで曲面を多用したヤマト級と、シンプルな直胴構造を採用したアンドロメダ級の違いがよく分かるカットである。
直胴構造は艦内容積の確保に有利なだけでなくブロック工法に適しており、アンドロメダ級の建造コスト低減に寄与している。



 さすがに艦隊規模の射撃管制・統合システムやフェイズドアレイ式タキオンレーダーといった新装備には、開発費を含めて莫大な費用を要したが、今後の一般艦への普及を視野に入れた先行投資と考えれば十分にペイするものと考えられた。
 異様なほどの熱意で巨大戦艦建造計画を推進するが故に財務省関係者から“軍拡主義者”“大艦巨砲主義者”と忌み嫌われた艦隊派の人々であったが、その実際は冷徹な現実主義者であった。
 こうして、ようやくのことで実現した『ヤマトを超える、しかも限定量産可能な戦艦』に艦隊派の人々は一応の満足を覚えたと言われている――ただ一点を除いては。
 当時の地球防衛艦隊全体を蝕んでいた根深き病、人員不足に起因する極端な省力化・システム化がそれである。


――つづく。

さて、今回から『アンドロメダ』編です。今のところ全2回の予定です。
やっぱりアンドロメダってカッコいいよなぁ~♪とても30年以上前のデザインに思えない・・・・・・(^^;)
話は変わりますが、いよいよヤマト復活篇DCが公開されましたね。
1週間限定の夜間劇場公開には行けそうにないので、私が鑑賞できるのはメディア発売後ですが、楽しみにしています。
ラストあたりにアンドロメダ級やアリゾナ級の同級艦が登場するみたいで、現在の映像技術でかつての名艦がどんな風に表現されるのか気になるなぁヽ(^◇^*)/

※23年2月24日画像追加
『大隈雑記帳』の大隈さんより了解いただきまして、アンドロメダⅡ級戦略指揮戦艦『マルス』と主力戦艦『サガミ』の画像を転載させていただきました♪ヽ(*⌒∇^)ノヤッホーイ♪
もっちろん、無断転載は厳禁です!!ヾ(`◇')ダメッ!

コメント (10)
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