我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

グローリアス級宇宙空母(改アマギ級宇宙空母) 後編2

2017-02-04 00:15:20 | 1/700 宇宙空母(SOY-YA!!)
※注記:本文章はオリジナル版『宇宙戦艦ヤマト』世界における艦艇設定を妄想したもので、『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は考慮していません。



 “第二の地球探し”を目的としたグローリアスの出航はヤマトに遅れること約半月。その航路は先発のヤマトとの重複を避ける為に、天の川銀河中心方向――ペルセウス腕に沿って西方域へ進むものとされた。担当宙域の恒星密度はヤマトのそれと比べて低かったものの、初の外宇宙任務となるグローリアスに、既に豊富な経験と実績を有するヤマト程の無理はさせられないとして本進路と担当宙域が決定されている。
 本探査においてグローリアスは、ヤマトに次ぐ長期間の外宇宙活動を行ったが、他の探査艦や探査船団と同じく人類が移住可能な惑星――第二の地球――を発見することは遂に叶わなかった。しかし、資源採取や中長期のテラ・ホーミングを介した植民の観点では極めて有望な惑星を探査期間中に発見しており、後の大規模開発の端緒となる功績を残している。
 だが、その航宙は決して安穏としたものではなく、特に2205年2月にそれまでの友好的中立関係から一転、ヤマトがボラー連邦と交戦状態に陥って以降は、他の探査船団と同じくグローリアスも大きな試練に立たされることになる。仇敵ガルマン・ガミラス帝国と地球の極めて特異な外交関係に目をつけたボラー連邦が、各地で“探査船団狩り”を開始したからだ。
 当初、グローリアスに襲い掛かってきたのは、ボラー連邦軍でも二線級の保護国軍が主であり、個艦性能や艦隊規模、何より士気の低さから大きな脅威とはならず、グローリアスは無難に自衛戦闘を繰り広げながら探査工程を消化していった。しかし8月以降、グローリアスが独行艦でありながらヤマトやアリゾナ程の強敵ではないと看破したボラー連邦軍(正規軍)第九二打撃艦隊に付け狙われ始めると、状況は一変する。
 戦時編成のボラー連邦軍打撃艦隊は凡そ百隻からなる大艦隊であり、その構成艦は単独で見ればやや汎用性に欠けるものの、艦の規模と百隻という物量がそうした欠点を十分にカヴァーしていた。
 第九二打撃艦隊の執拗な襲撃に対し、グローリアスも果敢に反撃し相応の損害を与えたものの、覆しようのない圧倒的戦力差から消耗と損耗を重ね、遂にグローリアスは大破航行不能、艦載機隊も半減するほどの損害を受け、地球から遥か九千光年離れたとある星系内の惑星に身を潜める他ない状況に追い詰められてしまう。
 ここに至り、グローリアスも地球防衛艦隊司令部に超・長距離タキオン通信による救援を求めざるを得なくなった。しかし、実際に救援が到着するには相応の日数を要する上に、天の川銀河各地への探査船団派遣とその支援に忙殺されている地球防衛艦隊に一個打撃艦隊を撃退できるだけの救援を期待することはできないと判断したグローリアスは、単独での反撃を決意する。
 乾坤一擲の反撃は、グローリアス航空団指揮官からの意見具申を基に、その準備が急速に整えられていった。作戦の根幹は、残存航空隊の総力を挙げたボラー艦隊旗艦の撃沈であり、作戦成功後、旗艦を喪って動揺しているであろう敵艦隊にグローリアスが直接攻撃をかけることで、撤退に追い込むことが企図されていた。
 旗艦が撃沈されただけで敵艦隊が撤退するという予測は多くの希望的観測を含んでいたが、縦の命令系統が極めて強いボラー連邦軍であれば、その可能性は決して小さくないとして作戦発起が決断されている。
 本作戦にあたっての最大の問題は、コスモ・タイガーIIとタイガー・アイの航続性能が敵艦隊の推定位置からすると著しく不足している点であった。しかし、通常仕様のコスモ・ハウンド四号機を嘗て試験運用された給油機型(通称:ハウンド・タンカー)に再改修することで解決が図られた。だが、胴体格納庫内に設置されたタンクだけでは容量が足りず、急遽製作した特製の大型増槽四本を主翼上下に設置することで辛うじて必要量のタキオン燃料を確保している。
 短くも濃密な検討と議論の末に、『カテキズム』と命名された作戦計画は完成し、攻撃隊呼称も『ランカスター』に決定された。その編成は以下の通り。

 指揮管制担当:ハウンド・リーダー/1機
 対艦攻撃担当:ストライク・ハウンド/2機
 空中給油担当:ハウンド・タンカー/1機
 電子戦支援担当:タイガー・アイ/2機
 直衛・攪乱担当:コスモ・タイガーII/4機

 本作戦において何よりも特筆すべきは、地球防衛軍にとって過去に例のない大遠距離からの対艦攻撃任務であったこと、そして実質的に攻撃の主力を担うのがコスモ・ハウンド隊であったことだ。これは、コスモ・タイガーII隊の戦力がこれまでの戦闘で大きく減耗していたことや前述した航続性能不足に加え、コスモタイガーⅡの対艦攻撃能力ではボラー連邦の旗艦級大型戦艦を短時間で撃沈するのは不可能と判断された為だ。
 作戦書への明記は避けられたものの、本作戦の骨子は敵指揮官を旗艦ごと抹殺することに他ならず(攻撃案を具申した航空隊指揮官は本作戦を『ヤマモト・ストライク』であると明言していた)、攻撃は敵指揮官に旗艦退去の暇を与えず一撃で撃沈する必要があった。そして、本目的に合致するグローリアスの航空兵装は“波動爆弾”のみであり、その運用が可能な機材もまた、コスモ・ハウンドを改造したストライク・ハウンドだけだった。

 この時には既に、地球を進発した救援部隊から自らの編成と到着予定時刻が入電しており、グローリアスは返信として『カテキズム作戦』の概要と共に、本作戦への“不干渉”を救援部隊に要請していた。また、救援部隊が当該星系へ到着した際、星系内に戦隊規模以上のボラー艦隊の存在を認めた場合には、救援作戦を中止し、即座に撤退してもらいたいとも依頼していた。天の川銀河各地で活動中の探査船団の支援を担う数少ない貴重な部隊に、これ以上の危険を負わせられないというグローリアス艦長の判断であった。
 グローリアスから救援部隊への通信は一方的な高指向性バースト通信であり、表向きはボラー艦隊の傍受を回避する為とされていたが、実際には通信内容について救援部隊側の意見を入れるつもりも議論するつもりもないという明確な意思表示だった。また、その通信は救援部隊が所属する太陽系外周艦隊司令部やグローリアスが所属する地球防衛艦隊司令部でも受信されている筈だが(グローリアスと救援部隊を繋いだ延長線上に太陽系がある)、両艦隊司令部共に沈黙を守っており、グローリアスからの要請は暗に受け入れられた格好だった。

 そして編成と出撃準備を完了した攻撃隊――ランカスター隊――は満を持しての出撃を開始する。グローリアス乗員は総出で遠ざかっていく攻撃隊に手を振っていたものの、その姿が見えなくなるまでそうしていられるだけの余裕は彼らにも無かった。ランカスター隊の攻撃成功後、グローリアスも敵艦隊への直接攻撃を行う予定であったが、当面の応急こそ果たしていたとはいえ、要修理・不具合箇所は未だ無数にあり、時間が許す限りそれらの復旧に努めなければならなかったからだ。

 電波・タキオン波を完全に封止したランカスター隊の先頭には電子戦を担当するタイガー・アイが位置し、既に判明している敵艦隊の概略方位から電子情報をリアルタイムで収集しつつ、敵艦隊の精密方位の測定を開始した。
 幸い、ボラー連邦軍第一八五打撃艦隊はグローリアスの大破と搭載航空隊の壊滅を確信しており、その活動を全く隠そうとはしていなかった。盛大にタキオン波・電波・電磁波を周囲に放って捜索活動を行うボラー艦隊の位置を把握することは極めて容易で、ランカスター隊は敵艦隊の捕捉に難なく成功すると、編隊の進路を定めた。



 途中、空中給油も交えた一六時間を超える長距離巡航の末に、ようやくボラー艦隊近傍にまで達した攻撃隊は、タイガー・アイのみが大きく先行、編隊主力がボラー艦隊のレーダーレンジに突入する直前を見計らい、ボラー艦の捜索用タキオンレーダーに対し最大出力でのノイズジャミングを開始した。

 一方のボラー連邦第一八五打撃艦隊は、タイガー・アイのレーダー探知と直後からのECMによってようやく敵機来襲を悟ったものの、大きな混乱は生じなかった。意外さ故の驚きこそあったが、グローリアスの行動は“窮鼠”故の自暴自棄程度にしか理解されていなかったからである。

 ――確かに、彼らは“鼠”を追い詰めていた。しかしその鼠が、猫どころか虎すら喰い殺しかねない獰猛な鼠であったことを、この後彼らは思い知らされることになる――。

 ボラー各艦は、ジャミングへの対抗措置としてセオリー通りタキオン波長を次々に変更したものの、レーダー機能は一向に回復せず、彼らの余裕は苛立ちに代わりつつあった。これまでの度重なる戦闘でボラー艦隊が使用するいずれのタキオンレーダー波長も既にグローリアスに把握されており、ボラー側のホッピング程度のECCMではジャミングを無効化できなかったのだ。
 大兵力にものを言わせた正面からの大規模戦闘を本懐とするボラー艦隊は、電子戦装備や戦技においてガルマン・ガミラスはもちろん地球防衛軍に比べても見劣りする点が多々あり、それが如実に現れた格好だった。本来、基礎技術力に劣る地球側もタキオンを用いた電子戦は未だ不得手な分野であったが、直近の戦役にて、本分野では銀河列強中最強クラスのデザリアム帝国から様々な技術を盗用・奪取することに成功し、この時期にはそれら技術のリバースエンジニアリングやローカライズをある程度果たしていたことが、本戦場で極めて大きな効果を発揮していたのである。
 不承不承ながらも電子戦での敗北を認めざるを得なくなったボラー艦隊は、随伴している自軍空母から遮二無二戦闘機隊を発艦させて直接的な対抗措置とするしかなかった。ボラー連邦軍の艦上戦闘機――イヴォークVI――は格納効率を第一に設計された小型機で、空母の搭載機数増大には寄与しているものの、単体性能ではコスモ・タイガーIIやガルマン・ガミラスのゼー・アドラーIIIに大きく水をあけられていたのが実情だった。だが、その点は既にボラー連邦軍自身も十分理解していた為、機数で圧倒すべく多数のイヴォークが慌しく飛行甲板を蹴り、ジャミング波の発振により自位置を暴露した小癪極まりない敵電子戦機に群がっていった。



 そしてここに至り、それまでボラー艦隊のレーダーレンジ外で待機していたハウンド・リーダーが、沈黙していたタキオンレーダーの全力稼動を開始する。ハウンド・リーダーは戦術データリンクでタイガー・アイのジャミング波長をリアルタイムで把握しており、ジャミングの間隙をぬって戦域のレーダー・スイープを実行、瞬く間に第一八五打撃艦隊の編成・配置を丸裸にした。当然、その情報は攻撃隊本隊にも瞬時に伝達され、ほぼ同時にハウンド・リーダーの戦闘管制官が攻撃信号を発した。
 この時、既にタイガー・アイのジャミングを隠れ蓑として、慣性航行でボラー艦隊を指呼の距離にまで捉えていた攻撃隊本隊は、赤外線探知を逃れる為に消火していたタキオン・エンジンに再点火すると、猛然と突撃を開始した。
 二手に分かれた編隊は、それぞれコスモ・タイガーII二機と一機のストライク・ハウンドで構成されており、ようやく散発的な対空砲火を撃ち上げ始めたボラー艦隊を上下から挟撃するように肉薄する。大型大質量の波動爆弾は射程が極めて短い上に飛翔速度も遅く、艦隊中央部のターゲットに必中を期すには、艦隊球形陣の最深部にまで踏み込まなければならないのだ。

 両編隊の先陣を切るのは選りすぐりのファイター・パイロットに操られたコスモ・タイガーII二機で、彼らは欠片の躊躇もなくボラー艦隊球形陣に飛び込むと、翼下に抱えたポッドから大量の金属片――チャフ――を放出し、艦隊外縁から中央部にまで続くチャフコリドーを作り上げた。この金属片の表面には、タキオン波すら反射する空間磁力メッキが施されており(その為、チャフとはいえ意外に高価でもある)、ノイズジャミングでは妨害困難な指向性の強い照準用タキオンレーダーでも、限定的な欺瞞・妨害が可能であった。そして、最低限の安全が確保されたチャフ回廊内を、ストライク・ハウンドがラストスパートをかけるように猛進する。



 そこに至るまでの苦難を思えば、波動爆弾の発射と弾着は呆気ないものだった。四発同時発射とはいえ、三〇メートル級の機体を包んだ発射炎はささやかなものでしかなく、着弾に至るまでの時間も僅か四・二秒しかなかったからだ。
 しかしその効果は絶大、いや明らかなオーバーキルであり、目標とされた第一八五打撃艦隊旗艦は直衛艦五隻を巻き込みつつ、高密度波動エネルギーの爆縮反応に特有の青白い焔の中で熔けるように消滅した。

 艦隊内部に撒き散らされたチャフの影響で通信にも障害が生じていたところに飛び込んできた旗艦轟沈の急報は、それまでの威風堂々とした大艦隊を嘘のような大混乱に叩き込んだ。しかし、その混乱は狂乱に近く、恐慌に駆られた各艦が同士討ちすら伴う熾烈な対空砲火を撃ち上げ始めた。砲火は既に全力で離脱を開始していた攻撃隊をも捉え、結果的に球形陣からの離脱に成功したのは、コスモ・タイガーII一機とストライク・ハウンド二機のみであり、生き残った機の命運もまた旦夕に迫っていた。
 旗艦撃沈の復讐に燃える敵戦闘機隊がそれまで追い掛け回していたタイガー・アイを放り出し、攻撃隊残余の退路を絶つべく戦術機動を開始したからである。ハウンド・リーダーによる戦闘管制とタイガー・アイの電子妨害は威力を減じつつも(この時点までにタイガー・アイ一機が失われていた)未だ健在であったが、どれほど巧妙に編隊を誘導しても、敵戦闘機の数が多すぎ、接敵を完全に回避することは最早不可能だった。しかも、これまで安全圏に位置していたハウンド・リーダーとハウンド・タンカーにもイヴォークが急接近を開始しており、これ以上の戦闘管制そのものが困難な状況に至りつつあった。
 先ほどは敵旗艦撃沈に歓声を上げたハウンド・リーダー機内の若いオペレータたちも、今は打って変わった蒼白な顔で戦術データを死にもの狂いで処理し続けていた。ヴェテランの戦闘管制官だけは泰然とした態度を崩さなかったものの、その内心の緊張はオペレータたちと何ら変わりはなかった。彼らがこれから為そうとしているのは、それだけの精度を求められるだけでなく、極めて高いリスクを伴うからだ。

 そしてその瞬間が――来た。



 不意に漆黒の宇宙が眩い閃光を放ち、それを切り裂いてブルーグレーの巨艦――グローリアス――が出現した。そのポイントはボラー艦隊の側面であると同時に、ボラー艦隊とランカスター隊の丁度中間地点でもあった。
 宇宙レヴェルでは“至近”と言っても差し支えのない位置への突然のワープアウトに、ボラー艦隊は完全に度肝を抜かれていた。安価で頑丈ながら、品質的にアバウトなところがあるボラー式波動機関では、このようなピンポイントの小ワープは絶対に不可能だったからだ。
 勿論それは偶然などではない。ハウンド・アイからの精密誘導とグローリアス航海班の高い練度があってこそ初めて実現可能な芸当だった。
 そしてボラー艦隊の驚愕は更に続く。グローリアスはスーパーチャージャー搭載艦だけに可能な迅速さで戦闘航行能力を瞬く間に回復させると、即座に戦闘行動を開始したからだ。

「――“虎”を放て。砲雷、撃ち方始めッ」

 懸命な復旧作業で機能を回復した二基の三連装一六インチショックカノンが一斉に火を吹き、温存されていた最後の宇宙魚雷が惜しげもなく放たれる。同時に、即時待機していたコスモ・タイガーIIの残存機が飛行甲板を蹴って次々に発艦していった(彼らの任務は対艦戦闘ではなく、ランカスター隊の支援だった)。
 奇襲効果が最大の戦力倍増要素となり、ボラー艦隊の側面第一列が瞬く間に崩れた。その後列も前列の崩壊の煽りを受けて見る間に壊乱していく。両者の火力と“勢い”にはそれほどまでの差があった。
 過去の戦訓に基づき開発された次世代戦艦用の射撃管制システムと砲安定装置(スタビライザー)に支えられた一六インチショックカノンの命中率は、フェーベ沖の第二ラウンドやカッシーニの殲滅戦時と比べても桁違いに高かった。残念ながら波動カートリッジ弾は既に射耗していた為、通常砲撃のみであったが、比較的距離が近いこともあって、ボラー艦艇は艦種の区別なくあっさりと主装甲を抜かれていた。

 その瞬間のグローリアスは正に“戦艦”だった。その火力は、嘗て彼女の祖先たちが海洋における最強の存在として君臨した頃と同様に圧倒的であり、防御においても、正面火力に比して遥かに貧弱なボラー艦隊の側方火力など歯牙にもかけなかった。

 だが――それでもボラー艦隊は退かなかった。既に次席指揮官への指揮権継承を完了しているのだろう。艦隊が徐々に態勢を立て直しつつあるのは、各艦が姿勢変更を開始し、グローリアスに艦首を向けつつあることでも明らかだった。
 そして一度状況が固定されてしまえば、多勢に無勢という冷徹極まりない現実は緒戦の奮戦のみでは覆しようがなかった。元々、グローリアスの各部機能は懸命な応急作業によってようやく維持されている危ういものであり、戦闘が長引くにつれ機能維持に支障が出始めたのだ。更に、遅まきながらボラー艦隊が陣形を変更し、グローリアスを正面に捉えると、彼女に指向される砲火は一挙に数倍化した。
 グローリアスはワープアウト時点から艦首をボラー艦隊に指向することで投影面積を最小にしていたが、それでも相次ぐ被弾を避けられない。そして、参戦以前に冗長性を食い潰していたダメージコントロールは僅かな時間で限界を超え、グローリアスの各部は強制的な沈黙を強いられた。
 堪らず、一部の幹部乗員は艦長に拡散波動砲の使用を具申したが、既に満身創痍の艦は、波動砲発射態勢の完成までとても保たないとして艦長は言下にこれを却下していた(他艦の支援が一切期待できない状況での波動砲使用の自由度は決して高くはない)。
 数の猛威という純粋で凶悪な現実が孤軍奮闘を続けるグローリアスを万力のように押し潰しつつあった。それでも、第二砲塔と第一艦橋だけは被弾を免れており、未だ懸命な砲撃を続けていた。しかし、その間隔は刻一刻と大きくなっており、それが完全に途絶えた時がグローリアスの終焉となることは最早誰の目にも明らかだった。そしてその瞬間は――ほぼ確実に現出するであろう未来の情景だった。
 そして同時刻、ランカスター隊残余の命運も尽きつつあった。
 グローリアスから新たに発艦した機体も合せ、合計六機のコスモ・タイガーIIは懸命にストライク・ハウンドを離脱させようとしていたが、既に五〇機以上が滞空しているイヴォークVIの前では焼け石に水という観が強かった。ストライク・ハウンド自身も緊密な編隊を維持したまま間断なく防御砲火を四方へ撃ち放ち、高濃縮タキオンをエネルギー源とする強固なエネルギーシールドで耐久を図っていたが、そのシールドも遂に耐圧限界に達し、被弾が相次いだ。
 そして三号機のエンジンが火を噴いたのは、奇しくもグローリアスの第二砲塔が爆砕したのとほぼ同時だった。

 万事休す――グローリアス全乗員がそう観念した瞬間、突如として無防備に晒されたボラー艦隊の側背で砲火が煌めき、一どきに三隻のボラー艦が炎に包まれた。未だ凡そ八〇隻が健在のボラー艦隊にとって、物理的な損害は決して大きくはなかったが、精神面でのダメージは笑って済ませられるようなものではなかった。
 ランカスター隊による航空攻撃、グローリアスの直接攻撃に続く三度目の奇襲、しかも未だ継続中の電子妨害によって規模も所在も不明な敵から向けられた砲火は、ボラー艦隊に無視できない“事実”を告げていたからだ。
 その砲火は、一発あたりの威力はそれほど大きなものではなかったが、とにかく手数が多く、グローリアスの戦艦級艦艇ですら一撃で大破させてしまう一六インチショックカノンとは全く趣が異なっていた。つまり規模は小さいながらも敵の新手――援軍――が現れたのだ。

――我、第一三戦隊。遅参ヲ謝ス――



 その電文が伝えられた瞬間、奇跡的に被弾を免れていたグローリアスの第一艦橋内は爆発的な歓声に包まれた。老練なグローリアス艦長だけは即座に状況を理解し、冷静さを保っていたが、続く電文には苦笑するしかなかった。

――我、受信装置不調ニ付キ、返信不要――

 ボラー艦隊は新手の敵に正対すべく再度陣形の変更を図ったが、指揮系統と通信が混乱したその動きはあまりも鈍重だった。そこに、絶妙極まりないタイミングで殺到した十本以上の宇宙魚雷が一斉に炸裂、連鎖的に発生した巨大な青白い閃光は比較的ゆっくりとした爆速ながら広く厚く拡大し、驚くべきことに二〇隻以上のボラー艦艇を次々に呑み込んで跡形もなく消し去った――地球防衛艦隊宙雷戦隊が新たな決戦兵器として配備を開始した『波動魚雷』の威力だ。
 そしてこの瞬間、ボラー艦隊次席指揮官の戦意は完全に潰えた。短時間に艦隊旗艦と当初戦力の凡そ四割を失ったボラー艦隊は、狼狽と混乱が如実に表れた牽制砲撃を放ちつつ戦闘機隊を急速収容すると、次々にワープドライブで戦域から離脱していった。
 後に残されたのは、辛うじて生き残ることに成功した傷だらけのランカスター隊残余とグローリアス、そして遥々九千光年彼方からやってきた援軍――地球防衛艦隊太陽系外周艦隊所属 独立第一三戦隊――のみであった。



 ――刻は数日前にさかのぼる。
 オマハ級哨戒巡洋艦二隻、アルジェリー級宇宙巡洋艦二隻から成る独立第一三戦隊は連続ワープにワープを重ね、グローリアスが潜伏する星系への航路を急いでいた。
 護衛対象である各一隻の高速補給艦と工作艦も含め、全艦がスーパーチャージャーを有する第三世代波動エンジン搭載艦であり、極めて高い戦略機動性能を誇る高速支援部隊だ。部隊は既に同じ編制で探査船団への補給・支援任務を複数回実施しており、その行動には一切の無駄がなかった。
 しかし、当初は比較的順調に推移していた航宙計画は、道半ばで大きな混乱に見舞われてしまう。その理由は言うまでもなく、グローリアスが報せてきた『カテキズム作戦』と作戦への不干渉要請であった。
 確かにその要請は、早急に移住先となる星を探し出さなければならない現在の地球にとって、大戦略的には肯定せざるを得ず、実際、太陽系外周艦隊司令部及び地球防衛艦隊司令部も事実上それを黙認していた。
 しかし、第一三戦隊司令(当時としては珍しく女性だった)は、カテキズム作戦の概要とグローリアス及び航空隊の状況、更にはボラー艦隊の推定戦力から、本作戦の成功確率は極めて低いと判断した。
 ガミラス戦役中盤まで優秀なファイター・パイロットとしても鳴らした一三戦隊司令(本人のみは未だ現役だと強く主張していたが)の目から見て、確かにグローリアス航空隊が奇襲に成功すれば、ボラー艦隊旗艦の撃沈を果たす可能性は高かった。そして、グローリアス自身も空間打撃戦でボラー艦隊に大きな損害を与え得るだけの能力を有していた。
 しかし――仮に全てが想定通りに運んだとしても、ボラー艦隊の戦意をへし折り、撤退を促すには、それでも尚、戦力が不足していると考えられた。そして今、その不足戦力を埋められる存在は彼女ら一三戦隊しかなかった。
 幸い、グローリアスからの要請はあくまで“要請”でしかなく、“命令”ではなかった。その点、グローリアスと一三戦隊が属する艦隊司令部がそれぞれ沈黙を守っていたのも、この際好都合だったと言えるだろう(尤も、一三戦隊司令自身は『体良く下駄を預けられた』と皮肉げにこぼしていたというが)。
 しかし、一度方針が決まれば一三戦隊の行動は早かった。一度のワープ距離は可能な限り延伸され、逆にワープ間隔は限界まで縮められた。その努力の執拗さは、戦隊各艦の機関科から半ば悲鳴ともクレームともつかない意見具申が次々に寄せられたほどだった。そうでなくとも、一三戦隊各艦は昨今の酷使によって機関が疲労しており、技術本部から最大発揮出力も含めた運用制限がかけられていた。これまでの航宙ですら、昼夜を問わない機関科員の献身的な調整で常用出力を維持しているような有様だったからだ。
 しかし、それほどの努力を行っても尚、救援が間に合うかどうかは、作戦タイムテーブル的に微妙な状況であった(元々、グローリアスの作戦発起は一三戦隊が間に合わないタイミングを選んでおり、それも当然だった)。
 また時間的要素以外にも問題があった。
 第一三戦隊の戦力は前述した通り巡洋艦四隻に過ぎず、護衛対象である工作艦と補給艦の存在を考えれば、最低一隻はその直衛に充てなければならなかった。つまり、グローリアスの救援と言っても、実際に戦闘局面に投入できる戦力は僅か三隻の巡洋艦のみであり、ボラー艦隊が本気で反撃に転じれば、一瞬で揉み潰されてしまいかねない弱小な戦力でしかなかったのである。
 そんな僅かな戦力で戦局を決定的に覆すには、ボラー艦隊の編成と配置(陣形)の情報は絶対に必要だった。しかし、グローリアスからの通信にはボラー艦隊の具体的な編成や隊形、更には詳細な所在も示されておらず、これでは作戦の立てようがなかった。
 やむを得ず、一三戦隊はグローリアス潜伏星系の外縁部に到達したところで全力でセンシングにあたり、ボラー艦隊の所在と編成を確認することとした。戦力面で絶対的に劣勢な一三戦隊としては、自らの存在と所在を秘匿する為に、索敵はパッシブのみで済ませたいところであったが、短時間に精度の高い情報を得るには、アクティブセンシングの併用もやむを得ないと判断されたからだ。
 しかし、一三戦隊が星系外縁部に到達し、センシングを開始する直前、思いがけない幸運が訪れる。グローリアス艦載機からのものと思われるデータ通信を、アルジェリー級哨戒巡洋艦の鋭敏なセンサーが捉えたのだ。その内容は、一三戦隊が喉から手が出るほどに欲していたボラー艦隊の所在と隊形の情報であり、所在データについては二隻のアルジェリー級による三角測定の結果、データ通信の発信地点とほぼ同座標であることが確認された。
 状況からして一三戦隊が受信したのは、グローリアス艦載機が母艦をボラー艦隊近傍へ誘導する為の精密データと判断した戦隊司令は、本データに基づき自らも小ワープによる奇襲攻撃を決断する。
 しかし、一三戦隊は連続ワープを完了したばかりであり、短距離とはいえ再度のワープ実施には機関点検の為のインターバルが必要だった。一三戦隊司令部ではその間を利用して、戦術状況の再確認とワープ後の戦術展開が議論された。
 その際、ボラー艦隊の布陣データを目にした砲術士官が思わず――波動砲が使えれば――と口惜しげに呻いたとされる程、ボラー艦隊の陣形には大きな隙があった。元々、指向火力の大半が艦首方向に固定されているボラー艦艇は複数方位からの同時攻撃に弱く、艦隊戦では通常、他方位からの攻撃に備えてある程度の予備戦力を後方に待機させていることが多かった。地球はもちろん、ガルマン・ガミラスと比較しても大きな艦隊規模が、そうした戦力配置と運用を許容しているのである。
 しかし今、ボラー艦隊は余程の混乱に見舞われているのか、後方に警戒部隊や予備戦力と思しき艦は置かれておらず、その注意は全て前方に向けられていた。もしも今、一三戦隊がボラー艦隊の後方至近にワープアウトし、拡散波動砲による戦隊統制射撃を実施すれば、僅か三隻の巡洋艦であっても、未だ百隻近い戦力を有する敵艦隊の大部分を一撃で殲滅することも可能と思われた。
 しかし――それがどれほど有効な戦術であったとしても、この時、一三戦隊各艦は波動砲発射が不可能な状況であった。



 デザリアム帝国本星遠征時、危険なピケット任務を多数遂行した点が高く評価され、一三戦隊各艦は同クラスの艦の中では最も早期に波動エンジンへのスーパーチャージャー増設改装が施された。各艦の戦列復帰は太陽危機発生から三ヵ月後のことで、もう一ヶ月復帰が早ければ一三戦隊にも探査船・調査船が組み込まれ、探査船団を編成していたであろう。しかしこの時点で、外洋(外宇宙)航行可能なその種の艦船が払底していたことから、戦隊には別の任務が与えられた――既に活動中の探査船団に対する補給支援任務である。
 太陽系から数千光年隔てた宙域で活動中の探査艦・探査船団への支援をスピーディーに行うには、連続ワープが可能な第三世代波動エンジン搭載艦で、且つ突発・緊急の出撃に際しても立ち上がりの良い中型艦が最適であった。しかし、既存巡洋艦の近代改装が未だ端緒についたばかりのこの時期、本条件に適合する部隊は第一三戦隊以外になかったのである。
 結果的にこの采配は的を射て、一三戦隊はボラー艦隊からの攻撃や、様々な宇宙災害との遭遇で支援が必要となった探査船団の救援に、文字通り天の川銀河内を東奔西走することになる(この際、一三戦隊の所属もこれまでの内惑星艦隊から外周艦隊へ変更となっている)。
 だが、第二の地球発見後に必要となる移民船の大量建造の煽りを受け、既存艦艇へのスーパーチャージャー増設改装は遅々として進まず、結果的に一三戦隊への負担だけが大きく増す結果にもなっていた。度重なる連続ワープによる機関への負荷を考えれば、既に徹底的なオーバーホールが必要な時期であったが、短期間で実施可能な消耗部品の交換だけで辛うじて運用が維持されているような状況であった。
 結果、定格出力以内で実施するワープはともかく、波動エンジンの出力を一時的であれ一二〇パーセントの過負荷状態にまで至らしめる必要のある波動砲は、次回のドック入り――オーバーホール完了――まで使用不可を厳重に言い渡されており、一三戦隊各艦は実質的に波動砲の使用が不可能な状態だったのである。

 結果、第一三戦隊は出撃直前になって急遽搭載された新兵器――波動魚雷――の全力使用を決意する。各艦に四発ずつ配備された本魚雷の弾頭に封入された波動エネルギー量は、アンドロメダ級戦略指揮戦艦の二〇インチ砲用波動カートリッジ弾に相当し、一二発分ともなれば、その威力は巡洋艦クラスの波動砲にも匹敵した。
 当時、波動魚雷は宙雷戦隊を中心に配備が急ピッチで進められていたものの、生産能力の限界から宙雷戦隊ですら未だ充足率は五〇パーセントを満たしていなかった。本来、一三戦隊への配備も宙雷戦隊配備完了後の予定であったが、当時の地球防衛艦隊司令長官の鶴の一声により急遽搭載が決定されたのである。
 だが、本戦場において“間に合った新兵器”となった波動魚雷にも問題はあった。
 いくらステルス化されているとはいえ、波動魚雷はその図体と飛翔速度故に砲火やミサイルによるハードキルが比較的容易であり、大遠距離から及び腰で発射したのでは阻止される恐れがあったのだ。
 波動魚雷の存在をぎりぎりまで秘匿すべく、発射は各艦からの電磁推進射出とされ、存在を自ら暴露することになる魚雷のロケットモーター点火は最終段階まで控えられた。更にこれと前後して、一三戦隊はボラー艦隊を遠距離砲戦で攪乱し、波動魚雷の到達確率を一パーセントでも向上させるべく努力を払った。
 結果的にこれらの努力も奏功し、隠密発射された波動魚雷はボラー艦隊の陣形変更途中という最良のタイミングで着弾を果たし、一挙に二〇隻以上の敵艦を撃沈破する大戦果を達成したのである――。



 ボラー艦隊の完全撤退を確認した後、一三戦隊はようやくグローリアスとのランデヴーを果たした。
 直接交信に先立ち、グローリアスは二通の電文を一三戦隊旗艦に送ったとされる。

――貴隊ノ適切ナル支援二ヨリ、我ノ損害ヲ最小ニ留メル事ヲ得タリ。之ニ深ク感謝ス――

――追伸。貴艦ノ通信機修理ハ我等ニ任サレ度――

 最初の通信は、防衛艦隊司令部や外周艦隊司令部でも受信できるよう広域タキオン通信で行われた。これに対し、二通目は一三戦隊のみ受信可能なレーザー発光通信であり、その記録はあえて航海日誌にも残されなかった。
 全ては、何かと派手な活躍が目立つ一三戦隊とその司令に対するグローリアス艦長なりの配慮であったが、それでも尚、戦隊の行動は後に地球防衛艦隊司令部の一部参謀から問題視されることになる。
 
 その参謀の主張によれば、一三戦隊司令は功名に逸るあまり、司令部からの命令を拡大解釈し、グローリアスの要請を無視して強引に戦闘へ介入、戦隊とグローリアスの双方を無用な危険に晒した、ということになる。つまり、グローリアスは単独で危地を脱することが可能であり、一三戦隊は本来グローリアスに帰すべき戦果を横取りした――との主張であった。
 現実を知る者にとってはあまりに荒唐無稽で馬鹿げた主張であったが、この主張に対し意外なほど賛同者が現れたのも事実だった。その理由は、グローリアスと一三戦隊の所属に一因があった。
 グローリアスが地球防衛艦隊司令部の直轄艦であったのに対し、一三戦隊は太陽系外周艦隊の所属であり、同じ『艦隊』を名乗ってはいても、命令系統においても“格”においても地球防衛艦隊司令部は明らかに上位の存在であった。その上位組織に所属する艦が下位組織の部隊に助けられたという事実は甚だ具合が悪い――そう考える料簡の狭い人間が、当時の防衛艦隊司令部の少壮士官を中心に多く見られたのである。
 その中心的存在である司令部参謀は、第一三戦隊司令とは宇宙戦士訓練学校同期であったが、普段から“そり”が合わないことも甚だしい間柄だったという。だが、彼が防衛艦隊より更に上部組織の防衛軍内部でそれなりの政治力を持ち合わせていたこと、何かと派手な活躍を示す一三戦隊に対し嫉妬にも似た思いを抱いていた高級士官が少なからず存在したことから、通常であればどうということはない問題の筈が、査問会の開催を視野に入れた予備調査にまで発展してしまう(防衛軍長官と防衛艦隊司令長官はいずれも調査に反対していたが、組織上完璧な手順で訴追を進められては、長官といえども一蹴はできなかった)。
 件の参謀にしてみれば、普段から素行上の問題が指摘されることの多い一三戦隊であれば、叩けば幾らでも埃が出ると考えていた節があり、予備調査開始の段階で既に査問会開催を確信していたようだ。そして、参謀が予備調査対象者として指名したのが、第一三戦隊旗艦副長であった。問題児揃いとして知られる一三戦隊幹部の中では、数少ない“まとも”で“常識的”な人物と目されており、防衛艦隊司令部の権威をバックに多少の揺さぶりと“餌”を与えてやれば、こちら側への寝返りすら期待できると考えられていた。
 だが――事情聴取の為に防衛艦隊司令部に召喚された一三戦隊旗艦副長は参謀の予想に反し、居並ぶ高級士官たちの前でも全く動じることなく、地球防衛軍士官たる者かくあるべしという態度と口調で以下のように言い放った。

『彼我の戦力差と命令系統を考えれば、グローリアスが我が隊に作戦参加要請を出さないのは自明でありました。然しながら、戦隊が受領した命令は“グローリアス救援”であり、その最大の障害であるボラー艦隊の排除は当然、命令の範疇に含まれると判断致します。
 もちろん、戦隊がボラー艦隊の直接排除に動くことで、戦隊に危険が及ぶ可能性はありました。しかし、完全編成のボラー連邦軍一個艦隊に追い詰められた友軍を僅か一個戦隊で救援せよという無茶な――失礼、命令を受領した時点で、戦隊は危険を避け得ないと、小官を含めた戦隊総員、十分に理解しておりました。
 正直申しまして、小官には参謀が何を問題視しておられるのか、全く理解できません。
 まさか防衛艦隊司令部は、外周艦隊司令部を通じて我が隊に命じられた任務は、一切の危険を冒すことなく達成可能だったと判断しておられるのでしょうか?非才故、小官にはどのような戦策と戦術で臨めば、それが達成可能であったのか、現在に至るも皆目見当がつきません。
 それとも、隊の安全を優先しグローリアスを見殺しにするべきだったとでも――(大きな咳払いと発言をとがめる複数の声。暫しの間)――申し訳ありません、言葉が過ぎました。しかし一三戦隊の戦場到着が、グローリアスが実質的な戦闘能力を喪失した直後であったことは、我が隊とグローリアスより提出済みの戦闘詳報を参照いただければ明らかです。
 よって小官としましては、作戦目的を損害皆無にて達成された一三戦隊司令の御判断は時勢・時局に即した見事なものであり、その妥当性に一点の曇りもないことを確信しております』

 一三戦隊一の常識人、且つ経験豊富な中級指揮官としても知られた旗艦副長の言葉には十分以上の説得力があり、鼻息の荒い批判者たちを軒並み沈黙させた。
 数日後、顛末を耳にした戦隊司令から礼を述べられた副長は、『こんなのは私の柄じゃありませんよ。次は、司令ご自身でお願いします』と破顔一笑したという。
 しかし、本件で上層部の一部から恨みを買ったことが一つの契機となり、件の副長は後に現役を退くことになる――。



満身創痍のランカスター隊とグローリアスと合流した一三戦隊は、撃墜機乗員及びボラー艦隊漂流者をできるだけ収容した後、安全確保のために近傍の別星系へ一先ず移動し、グローリアスの修理と補給を行った。太陽系から持ち込まれた補給物資にはコスモ・タイガーIIの補充機はもちろん搭乗員まで含まれており、壊滅状態だった航空団もこれを機に再建されている。
 十日後、ようやく修復叶ったグローリアスは引き続き惑星探査任務に就き、一三戦隊は太陽系への帰還進路を取った。この際、一三戦隊にはグローリアスが独自に行ってきたコスモ・ハウンドの改良資料やランカスター隊の戦闘詳報が引き渡されており、それらは太陽危機終了後に改めて詳細な分析と評価が行われた。
 その過程で、(やはりと言うべきか)波動爆弾とコスモ・ハウンドの組み合わせが航空隊関係者から大きな注目を集めた。地球防衛軍航空隊が対艦攻撃力不足に悩まされてきたのは前章でも述べた通りだが、太陽危機により新たな仮想敵国となったボラー連邦軍艦艇は過去の交戦国艦艇よりも相対的に大型であり、主力機であるコスモ・タイガーIIの対艦攻撃力不足は一層深刻化したと捉えられていたのである。
 そうした状況において、波動爆弾とコスモ・ハウンドが、その有力な解決策となり得ると考えられたのは最早必然だった。
 波動爆弾をフル装備した過荷重状態でも護衛のコスモ・タイガーIIを振り切りかねない大加速力と、パルスレーザー程度は歯牙にもかけない強靭なエネルギーシールドは、高い損耗率が予想される対艦攻撃任務においても本機に高い生存性と攻撃成功確率を約していた。
 特に、初陣であるデザリアム戦役当時から、十分な艦載機搭載能力を持ちながら対艦攻撃能力が不足するというジレンマに悩まされ続けてきたキエフ級戦闘空母では、コスモ・ハウンドと波動爆弾の正式採用が強く望まれていた(実際、複数のキエフ級艦長から早期のコスモ・ハウンド配備を求める上申書が提出されている)。しかし、一線部隊からの期待とは裏腹に、航空本部での正式化の動きは遅々として進まなかった。
 問題は、やはりコスモ・ハウンドの出自に起因した生産性の悪さと高コストにあった。本機のタキオン・エンジンは、高濃縮タキオンを用いたワープすら可能なフルスペックの波動エンジンとして開発された機関をほぼそのまま流用しており、その構造や主要部材はオミットされた濃縮機構を除けば艦艇用そのものだった。しかも、本機関は可能な限りの小型化を達成する為に巧緻且つ繊細な機構を各部に採用したことで、航空機用より遥かに高コストとなる艦艇用機関と比較してすらコストパフォーマンスが悪すぎた。とてもではないが、航空機用エンジンとして大量生産するなど予算的に不可能であった。
 航空本部では代替案として、一般的な低濃縮タキオンを燃料としたタキオン・エンジンに換装しての性能試験を行ったが、速度・ペイロード・防御力のいずれにおいても凡庸な性能しか発揮することができず、カテキズム作戦を再現した対艦攻撃シミュレーションの結果も散々だった。
 計十回実施されたシミュレーションにおいて、エンジンを換装したコスモ・ハウンド(ストライク・ハウンド仕様)は一度として波動爆弾の射点に到達できず、悉く対空砲火によって撃墜されてしまったのである。
 そうした結果もあって、コスモ・ハウンド正式化への動きは完全に行き詰まってしまう。
 だが、風雲急を告げる周辺環境はそうした停滞を許さなかった。太陽危機後の2207年に発生したディンギル戦役において、地球防衛艦隊がまたしても大きな損害を受けた結果、未だ豊富な陣容と戦力を有する戦闘空母群の対艦攻撃能力向上を、防衛艦隊はもちろん防衛軍、政府からも強く求められたからである。
 これに対して、航空本部は可及的速やかに二つの方針を決定するに至った。
 一つは、大質量・大威力の対艦攻撃兵器を多数搭載可能な新・大型攻撃機開発計画(通称:A-X計画)の実働、そしてもう一つが、A-X配備までの“繋ぎ”としてのコスモ・ハウンドの追加生産であった。
 生産は正式採用を受けての量産配備ではなく、あくまで技術検証を目的とした『増加試作』の名目で実施されており、一度は不採用を決定した航空本部の面子とプライドも透けて見える。2207年以降、前述した防衛軍内外の事情も重なって航空隊関連予算は大幅に増額されており、こうした方針の決定が可能となったものの、ほぼ小型艦艇並みの価格となるコスモ・ハウンドの本格量産まではさすがに不可能で、生産は限定的なものに止まった。
 具体的には、太陽危機時に製造された第一次増加試作機の生き残り八機に新規製造分(第二次増加試作機)二四機が加わり、三二機が当面の在籍機数となる。八隻の戦闘空母とグローリアスには各三機のコスモ・ハウンドが配備され、通常はその内の二機がストライク・ハウンド仕様、一機がハウンド・リーダー仕様として運用された。
 追加生産された機体も含めた配備完結は2209年となったが、配備部隊は少なくともこの倍の機数の配備を求めていた。しかし前年末、新型弾頭『波動融合弾頭』開発成功の報がもたらされたことで、コスモ・ハウンドの追加配備どころか、進行しつつあった“A-X”計画まで急速に勢いを失ってしまう。
 波動エネルギーに二重銀河由来の波動融合物質(通称:D物質)を反応させるこの新型弾頭は、波動エネルギー単独での爆縮時と比べて、より小スケールでの反応が可能であり、弾頭の大幅な小型化が可能となった。その事実は、コスモ・タイガーIIなどの既存の小型艦載機であっても、波動爆弾クラスの破壊力を有する対艦誘導弾が装備可能になったということを意味しており、攻撃機型のコスモ・ハウンドや開発中のA-Xの存在理由を真っ向から否定するものだったからだ。
 D物質の取り扱いの難しさから、その後の開発は酷く難航したものの(実験艦の爆沈事件すら発生している)、2210年には実用化と量産に成功し、波動融合弾は地球防衛軍航空隊の決戦兵器としての地位を確立するに至るのである。
 その代償として、新型攻撃機計画は無期限の開発凍結(実質的には中止)となったが、コスモ・ハウンドにはまた別の運命が用意されていた。
 空母航空団のみならず基地航空隊においても、輸送や連絡、哨戒、空中給油用に中型汎用機のニーズは常に一定以上存在しており、航空本部はこの用途にタキオン・エンジンを低濃縮タキオン燃料用に換装した“廉価版”コスモ・ハウンドの生産配備を決定したからだ。過去のテスト時に証明された通り、その性能は悪く言えば凡庸そのものであったが、後方任務に限定すれば全く問題なく、ネックだった製造コストや生産性の悪さも十分許容可能な範囲に収まっていた。このタキオン・エンジン換装型コスモ・ハウンドは2210年に『一〇式多目的空間戦術機二一型』として正式採用され、最終的な生産機数が五百機を越えるベストセラーとなった。
 一線部隊ではこの正式採用型を『ハウンドB』、それ以前に配備されたオリジナルの増加試作機群を『ハウンドA』若しくは、より敬意を込めて『レガシー・ハウンド』と呼ぶのが通例となっている。
 これらレガシー・ハウンドは運用・維持コストの高さという問題こそあったものの、いざという場合のディープ・ストライカー(強襲突破による敵中核の殲滅戦力)としての役割が期待され、その後も戦闘空母群とグローリアスへの配備が継続された(合せて、本機用の大型波動融合弾も配備されている)。その運用は、新開発の小型波動魚雷を最大二四発搭載可能な『カイリュウ級突撃宙雷艇』が配備される2220年代まで続くことになる。



 太陽危機後もグローリアスは長距離用特務艦の地位を維持し続けた。この頃には、『星系間護衛艦艇調達助成制度』に基づき建造された各国の護衛戦艦・護衛巡洋艦が多数就役し、防衛艦隊でも戦後第二世代量産艦群であるローマ級主力戦艦、アムステルダム級戦闘巡洋艦の配備や第一世代艦艇の近代改装が進捗していたが、グローリアスの価値は未だ失われていなかった。
 ボロディノ級をベースとするグローリアスは、最新鋭のローマ級等と比べれば砲力では劣るものの、艦載能力は大きく凌駕しており、補給や支援に乏しい外宇宙での単独任務においては、砲雷を中心とした空間打撃戦よりも航空戦を主体とした方が生存性において有利であることが、太陽危機時の各国探査船団の戦訓から証明されていたからだ。もちろんそれは、艦に降りかかったリスクを艦載機隊に分配した結果とも言えるが、友軍からの支援が殆ど期待できない外宇宙単独任務においてはそれも致し方なしとして理解されている。
 2207年の『赤色銀河交差事件』においても、グローリアスは激変した宇宙環境の調査に派遣されており、ディンギル戦役勃発時はボラー連邦勢力圏外縁部にて活動中であった。こうした調査派遣にはグローリアスのみならず、長期の外宇宙作戦行動能力に秀でた戦後第二世代艦を多数有する太陽系外周艦隊が総動員され、既知恒星系や開拓済みの空間航路の調査が積極的に行われていた(ヤマトのガルマン・ガミラス本星への派遣もその一環だった)。だが銀河交差直後のこの時期、天の川銀河中心方面は頻発した恒星や惑星衝突の影響で極めて過酷な空間状況が各地に現出しており、多くの派遣艦が長距離通信は勿論、自位置の確認すら困難な状況に置かれていた。
 それが災いし、ディンギル戦役勃発時、地球防衛艦隊の主力たる太陽系外周艦隊はまとまった戦力を太陽系内に残置しておらず、更に派遣艦を呼び戻そうにも、天の川銀河中心方向への長距離通信状況は最悪で、それも思うに任せなかった。なまじスーパーチャージャーによる連続ワープが可能となったことで、危急の際にも艦をすぐに呼び戻せるという油断と慢心が招いた事態だった。
 結果、開戦と同時に大規模な奇襲攻撃を太陽系各地で敢行したディンギル帝国軍機動部隊は、主力を欠く地球防衛艦隊を各個撃破することに成功する。グローリアスや外周艦隊の大半は戦局に殆ど寄与することができず、ようやく地球の事態に気がついたそれらが急ぎ太陽系へ帰投した時には、ヤマトはアクエリアスの水柱の中に姿を消し、その元凶となった回遊惑星も彼方へ飛び去った後だった――。

 グローリアスにとって大きな悔恨が残る結果となったディンギル戦役は戦後、彼女に戦訓を反映した新たな任務を課すことになった――強固に防御された敵根拠地への強襲揚陸任務である。
 ディンギル戦役おける都市衛星ウルク攻防戦は、地球防衛艦隊にとっては二度目の宇宙要塞強襲戦であり、その戦闘は一度目と同様に熾烈極まりないものだった。都市衛星上に強行着陸したヤマトはディンギル帝国軍近衛兵団に所属する機械化騎兵及び空中騎兵各一個大隊の強襲を受けて危機に陥ったものの、辛うじてこれを撃退、逆にコスモ・タイガーII隊を中心としたヤマト特別陸戦隊は都市衛星のコントロール機構が集中する“神殿”へと突入し、これを制圧した。しかし、間一髪のところでアクエリアスに最後のワープを許してしまう。そしてこれが直接的な原因となって、地球は過去何度となく人類を救う役割を果たした栄光の艦――宇宙戦艦ヤマト――を失ってしまうのである。
 その衝撃は政府、防衛軍、市民を問わず極めて大きなものであり、そのショックの裏返しとして地球防衛軍は大きな批判に晒された。
 ガトランティス戦役における都市帝国への強襲上陸作戦が三座型コスモ・タイガーIIを用いて実行されたことはあまりに有名であったが、それは絶体絶命の状況下、ぎりぎりの機材と人員で困難な任務を達成したという一種の“美談”であった。しかし、ガトランティス戦役から五年以上が経過しても尚、それと同レヴェルの、稚拙とも言える上陸作戦しか実行できなかった(しかもアクエリアスのワープ阻止に失敗し、ヤマトを失うことになった)地球防衛艦隊に批判が集中したのである。
 もちろん、そうした批判は後付の感情論に近いものがあり、状況も違えば環境も異なる二つの上陸作戦を単純に比較することにこそ無理があったが、一部は正鵠を射ている部分もあった――強襲揚陸戦力の不在である。
 ガトランティス戦役の経過(都市帝国攻防戦や第一一番惑星奪還戦)を考えれば、たとえ純然たる星系防衛組織を標榜していようとも強襲揚陸任務に対応した最小限の戦備は必須の筈だった。揚陸機材こそガトランティス戦役以来の空間装甲揚陸艇『コスモ・ベアー』やコスモ・ハウンドが存在したが、それらを有機的且つ集中的に運用可能なプラットホームはほぼ皆無という状態が長く続いていたのである。もちろん、グローリアスやキエフ級であれば、スペック的にはそうした任務にも十分堪えられるが、防空と近接航空支援に特化したこれらの空母群は自らの任務に強襲揚陸作戦を全く想定していなかった(その余裕がなかったとも言えるが)。
 軍隊組織における作戦能力とは、ハードウェアが対応していてもソフトウェアが対応していなければ実施不可能というのが常識であり、地球防衛艦隊もその例外ではなかった。その結果、遊軍扱いのグローリアスにまたしても白羽の矢が立ち、強襲揚陸戦術とドクトリンの構築が(遅ればせながらではあったが)行われた。本来ならば艦の規模的により大きな余裕を持つキエフ級が適任であったが、同級は当時強襲揚陸能力以上に強く求められていた対艦攻撃能力向上に専念させるという判断が下されていた為、グローリアスが指定されたという経緯がある。
 最終的にグローリアスを用いて構築された強襲揚陸戦術は、コスモ・タイガーII二個小隊を護衛としつつ、重装甲服装備の空間重騎兵一個中隊(約一〇〇名)を五機のハウンドBで急速揚陸するというものであった。もちろん揚陸直前にはグローリアスのショックカノンによる艦砲射撃も実施される。
 もちろん、いくら主力戦車並みの戦闘実力を誇る〇六式空間重装甲服装備の最精鋭とはいえ、僅か百名では継続的な敵拠点制圧は現実的に不可能だ。しかし、彼らの装備と戦術は“突入”“破壊”に特化しており、外部からは攻撃困難な目標を内部から破壊、短時間で撤収することがその任務とされていた。
 そうした極端な部隊運用は選択可能な戦術にあまりにも幅がなく、現実的な作戦遂行能力に疑問を呈する向きもあった。しかし、過去の地球防衛軍による敵機動要塞への強襲上陸は二度共“破壊”を目的としていたことを思えば、最低限の合理性は有していると考えられた。
 さすがに千以上の単位での強襲揚陸を直接可能とする戦備――所謂“強襲揚陸艦”――は時期尚早、過剰装備として具体化されることはなかったものの、一度グローリアスを用いて戦備・戦術・運用を確立さえしてしまえば、いざという場合は戦闘空母群を総動員することで、千の単位で機械化兵団を強襲揚陸させることも(現実性はともかく)物理的には可能だった。

 グローリアスに強襲揚陸能力を付与する上で唯一問題となったのは、支援部隊も含め多数が乗艦することになる空間騎兵及びその装備を収容するスペースの確保であった。しかし、改装に改装を重ねたグローリアス艦内に最早その余地はなく、窮余の策として強襲揚陸任務時には格納庫内に特設の居住コンテナを設置して収容することとされた。但し、この場合は格納庫内に機体を収容することができず、コスモ・タイガーやコスモ・ハウンドは全て露天繋止で搭載する。当然、このような方法では、長期航宙は現実的に困難である為、機体と空間騎兵の移乗・搬入は任務直前に他艦から行われることが定められた。

 結果的に、四半世紀以上に及んだグローリアスの現役期間において、空間騎兵を満載した彼女が敵要塞や根拠地への強襲揚陸任務に就くことは遂になかったが、その機能は決して無駄にはならなかった。ディンギル戦役以降、2210年頃より急増した星系国家間の紛争調停任務や宇宙災害救援任務の一環として、避難民の救助に本艦が度々使用されたからである。
 強襲揚陸任務時とは全く逆に、満載した輸送機や揚陸艇で惑星や衛星、コロニーから避難民を一気に拾い上げて収容し、連続ワープで安全圏まで送り届けるといった任務こそグローリアスの真骨頂だった。艦の規模的な収容限界から、一度に運べる人数は目一杯詰め込んでも千人以下であったが、一般の貨客船では到底不可能な迅速極まりない揚陸・避難民回収・宙域離脱が可能だった。
 もちろん、専用の揚陸艦艇があれば、より大規模に同様の任務が実施可能だが、基本的に弱武装の揚陸用艦艇を危険宙域に単独で派遣する訳にはいかない以上、実際の作戦実施にあたっては護衛艦艇の随伴や後方支援態勢の確立などの問題が新たに発生してしまう。また、大規模な派遣になればなるほど周辺国家との外交的・軍事的軋轢が無視できなくなるという問題もあった。
 これに対し、単艦でも大きな戦闘能力を有するグローリアスは最悪単独で係争地に派遣可能であり、派遣コストや周辺国へ波及する軍事的緊張において、艦隊を送り込む場合に比べれば、遥かに小さく済む点が重宝された格好だった。



 就役の段階で早期の練習艦化まで予定されていたグローリアスであったが、結果的には最後まで第一線の戦闘艦としてその生涯を全うすることになった。
 その退役は2228年であり、ボロディノ級主力戦艦最後の現役艦『アルミランテ・ラトーレ』の退役よりも三年遅かった。アマギ級計画時の混乱からすれば皮肉なことに、グローリアスの現役は退役・解体されたボロディノ級から状態の良い部品を譲り受けることでぎりぎりまで維持されたのである。

 半ば軍内部の派閥間抗争の産物として生まれながらも武運に恵まれ、戦史上類稀な程の大戦果を上げた姉達。ほんの僅かな運命の悪戯から、末妹たるグローリアスだけは栄光と破滅の刻からこぼれ落ちた。しかし、彼女はそうした境遇を嘆くことなく、自らの後に続く妹たちの先駆けとして、常に新たなる道を示し続けたのである。
 2230年現在、波動エンジンを搭載した地球空母の総数は既に三〇隻を大きく超えている。グローリアスという存在はその偉大なルーツの一角というだけでなく、地球防衛軍における空母思想が大きな転換点を迎える上で重要なターニングポイントとなったことは論を待たない。


――おわり



あ゛~~~~~、やっと終わった!!と、思わず声が出そうになるくらい長い時間がかかってしまいましたw
この宇宙空母のテキストファイルの履歴を見ると、ファイルの作成日が2012年10月でしたから、書き始めから完成まで四年間くらいかかったことになりますね。
でも、今となってはそれで良かったのかもしれません。
3年前に無理やり書き上げていたら、とてもここまでの内容にはならなかったでしょうし。

文章が際限なく長くなった理由の一つにコスモハウンドを大々的に取り上げたことがありますが、このネタを思いついたのも僅か数ヶ月前のことで、3年前にはとても思いつかなかったでしょう。
コスモハウンドはちょっとした思いつきを一気に書き上げた格好になりましたが、『土星決戦の戦訓からワープ可能な万能機として開発開始されたものの、それに失敗して通常機に転用』というネタは今となっては結構気に入っています。
このコスモハウンド、機体全長は30m説と40m説があるそうですが、ここでは30m説を採りました。
それでもグローリアスの飛行甲板と格納庫で4機も運用するのは至難だと思いますけどね(^_^;)
そもそもエレベータに乗らん気がw
何しろ全長30mといえば、現用の中型輸送機のハーキュリーズくらいありますから。
米海軍のホークアイやグレイハウンドを考えても、やはり20mくらいが妥当でしょう(そういえばコスモシーガルの全長も19.5mですね)。
今回、コスモハウンドのバリエーションとして『早期警戒型』『攻撃機型』『給油機型』『ガンシップ型』『空間(重)騎兵輸送型』を挙げましたが、最初の二つについては過去にネットで拾った模型画像が元ネタになっています。
私が入手したのは二次三次の転載画像で、元画像を公開されていた方は遂に分らずじまいでした。
この場を借りてお礼申し上げますm(__)m

グローリアスに話を戻しますが、最後の強襲揚陸艦化はさすがに蛇足だったかもしれません(実際、グダグダだし)。
ただ、何か書かないと、お話がコスモハウンドで終わってしまうので、無理やり書いた感が強いですw
旧式空母を改造した強襲揚陸艦(エセックス級改造のボクサー級とか)や、イギリスのコマンド母艦は好きだったので、まぁこれはこれでいいかということになりました。

また、この後編では、EF12さんに御了解いただきまして、“独立一三戦隊”の皆様にもご出演いただきました。
にもかかわらず、あまりパッとした見せ場や活躍を描くことができず、申し訳ありませんm(__;)m
各国の探査艦(船団)への補給や支援任務に引っ張りだこで『なんで私らばっかコキ使われなきゃいかんのだ!!』とブーブー言ってる司令の姿が思い浮かびまして・・・・・・(^_^;)

さて、四年越しの宿題を終えて、いよいよ『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の公開が近づいてきました!!(来週は第一章の先行上映です!!)
ブログの記事も必然的にそちらの2202ネタが多くなると思いますので、本業(?)のオリジナル版艦艇の設定妄想は低調になるかもしれませんが、私にとってはライフワークみたいなものなので、相変わらずのスローペースで細々と続けていきたいと思います。

ちなみに、去年書き始めた一三月動乱はもう一話分が完成していますが、その先で行き詰まってまして、しばらく間が開くと思います。
ネタと展開はもう決まってるんですけど、苦手の戦闘シーンが上手く書けなくって(^_^;)
血沸き肉踊るような戦闘シーンって、どうやって書けばいいんだろ?(-_-)

一三月動乱以外では、無人艦隊(ウチでは自動艦隊)も一回取り上げてみたいですね。
残念ながら復活編には影も形もありませんでしたが、ガミラス戦役中の人口激減を考えれば、無人艦の大量配備は避けて通れない道だと思いますので。
大型艦はともかく、損耗率の高い宙雷戦隊の駆逐艦や独行の哨戒艦のかなりの部分を無人艦が担うのは必然じゃないかと。

あと、復活編のブルーノアについてもご要望をいただいておりますが、それまでの地球艦とのデザインやシステム的な乖離が大きく、なかなか上手くネタを紡げません(^_^;)
などと考えていたら、2202のアンドロメダ空母型がブルーノアを意識したデザインになっている気配もあり、それらを上手くリンクできたらなぁ~と思ったり思わなかったりw
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グローリアス級宇宙空母(改アマギ級宇宙空母) 後編1

2016-12-03 21:11:00 | 1/700 宇宙空母(SOY-YA!!)
※注記:本文章はオリジナル版『宇宙戦艦ヤマト』世界における艦艇設定を妄想したもので、『宇宙戦艦ヤマト2199』及び『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』は考慮していません。



 2202年1月、ガトランティス戦役はヤマトをはじめとする地球防衛艦隊の“死戦”と、敵超大型戦艦(旗艦)の謎の爆発消失によって地球連邦の辛勝に終った。
 しかし、その過程で地球防衛軍が被った損害はあまりにも甚大だった。
 多数の艦船、航空(宙)機、根拠地、そして人員。
 戦役前ですらぎりぎりの体制で維持されていた組織だけに、ここまで損害が膨大では、どこから再建に手をつけて良いのか、目処すら立たない状況であった。しかしそれでも、再建は速やかに為されなければならなかった。短期間の内に外宇宙から二度もの侵略に晒された以上、“三度目”“四度目”が無いとは誰も言い切れなかったからだ。
 よって再建は、とにかく手がつけられるところから順次開始されることになる。特に機動運用可能な各種戦闘艦艇の確保は愁眉の急だった。そしてその際、大きな役割を果たしたのが、白色彗星認知直後の“仕分け”により、建造凍結されていた艦艇たちであった。
 これらの未成艦群は、一部は帰還した損傷軽微な艦艇の復旧用に資材・部品を供出し、逆に一部は、なんとか帰投したもののあまりの損傷故に廃棄が決定した艦から使用可能な部品や資材を譲り受け、早期完成が目指された。そしてその中に、今やアマギ級宇宙空母唯一の生き残りとなった“グローリアス”の姿もあった。しかし彼女を待ち受けていた運命は、他艦とは大きく異なっていた。
 完成が急がれたのは他艦と同様だったが、その中でも原設計とは大きく異なる設計・仕様を新たに盛り込まれることが決定したからである。そうした決定が下された背景には、フェーベ沖会戦の結果があった。



 半ば軍内部の政治的妥協の産物であった筈のイロモノ――アマギ級宇宙空母――が、宇宙空間における艦隊航空戦において意外なほど“使える”ことが判明したからだ。またそれとは対照的に、いかにも本格空母然としたガトランティス軍空母が露呈した脆弱さは、地球防衛軍首脳部が抱いていた空母観に大きな修正を強いていた。
 更に、空母という艦種そのものの必要性も再認識された。
 フェーベ沖会戦では、太陽系各地から土星の各衛星根拠地に集結していた多数の基地航空隊機は殆ど活躍することができなかった。各基地から会戦宙域までの距離が大き過ぎ、航続距離的に戦力投入が困難だった為だ。
 ガトランティス戦役以前の地球防衛軍の戦術構想では、基地航空隊は『波動砲搭載戦艦群』『宙雷戦隊』に次ぐ第三の戦力の柱と捉えられていただけに、そのショックは非常に大きかった。土星圏に結集した地球防衛軍の航空隊総数は九〇〇機にも及んだが、その内の2/3以上が戦闘に参加できない状態――実質的に遊兵化されてしまったと言えば、そのショックの大きさも分るだろう。
 あるいは、土星宙域での決戦において第一航空艦隊が編成されず、当初の戦策通りに母艦航空隊と基地航空隊が共同し、基地航空隊の航続距離圏内で艦隊防空に徹していれば、空母の必要性がここまで叫ばれることはなかったかもしれない(尤もその場合、航空戦は圧倒的多数の戦力を有するガトランティス軍機動部隊の勝利に終わった可能性が高いが)。しかし、いつの時代も軍人とは何よりも実績を重んじる人々であったし、宇宙空間という広大・広漠に過ぎる戦場においては、拠点所属の航空隊が『戦場の選択』という戦術よりも戦略に近い領域で柔軟性に欠けるのは論理的にも自明であった。
 それ故に、いかなる宙域においても戦力展開・戦力投射可能な空母の必要性が改めて見直され、基地航空隊に代わる戦力の柱としての整備が急がれることになる(従来の母艦航空隊は基地航空隊の“補完戦力”という扱いであった)。その優先度は、規模の面はともかく戦艦部隊と全く同等とされており、その事実が地球防衛軍の空母に対する認識の変化を何よりも雄弁に物語っていた。
 しかし、フェーベ沖の栄光を担った五隻の宇宙空母は戦役中に悉く喪われており、地球防衛艦隊が有する唯一の空母は未成状態で放置されていたグローリアス只一隻であった。この完成を急ぐのは勿論だが、一隻では数量的な不足は明らかであり、新造艦の増強も必須であった。
 しかし、新造するにしても現状のアマギ級のままで良いのかという問題もあった。フェーベ沖で大戦果を挙げたアマギ級であったが、初の実戦参加で明らかになった欠陥や改善を要する事項も多数存在したからだ。

 (1)艦規模に比して飛行甲板・格納庫共に極めて狭小
 (2)後方への発艦は、発艦機の時間的・エネルギー的ロス大
 (3)損傷・メカトラブルを考慮し、エレベーターは二基以上要
 (4)弾薬庫容量(継戦能力)の不足
 (5)防空火力不足

 これらの戦訓は、全滅した一航艦の数少ない生き残り――ヤマトやシラネ、艦載機隊等――からの聴取によって得られたものであったとされる。
 (1)は、建造時から懸念されていた戦艦と空母のハイブリッドという存在故の搭載機数の少なさだけでなく、搭載に係る柔軟性の欠如についても強く指摘していた。
 フェーベ沖会戦において、一航艦空母群は露天繋止により搭載機数の水増しを行っていた。こうした行為は、航宙中の宇宙塵(デブリ)との接触による機体の損傷や人員の損害を考えれば、決して褒められた行為ではなかったが、フェーベ沖会戦のような短期間の星系内邀撃戦であれば、その確率は無視できる程度でしかなかった。寧ろ、搭載機数増大による瞬間的な戦力向上こそを重視すべきであり、本来“空母”という艦種はそうした柔軟性に富んだ存在の筈だった。
 しかし、アマギ級の設計において露天甲板は、あくまで“発艦甲板”としてのみの扱いであった為、艦幅からすればより広大な甲板を設置することも可能であったにも係らず、設計要求にあった二機同時発艦が可能な最小の面積しか有していなかったのである。

 (2)については、アマギ級設計時点で地球防衛軍が有する空母の建造・運用実績がヤマトしかなかったこと(特設艦は除く)が大きく影響していた。ヤマトに搭載された航空隊に比べて、アマギ級の航空隊は規模こそ大きくなったものの、基本的な運用思想はあくまで『防空(CSP)』であり、その点ではヤマトと大差なかった。
 故に、アマギ級の発艦システムはヤマトと同じく後方離脱方式とされ、発艦機は艦後方の宙域で一旦集合、編隊を組んだ上で防空配置に就く事とされた。この方式は艦近傍のみを作戦域とする防空任務であれば問題は少なく、寧ろ発艦と同時に敵砲火を浴びせられる可能性を最小にできるという点での優位性もあった。
 しかし、攻撃任務における後方への発艦は、一分一秒を争う航空戦において攻撃目標到達までの時間的ロスになるだけでなく、長距離を往復する攻撃機の推進剤ロスにも直結する。
 基本的に発生する事象は攻撃任務でも防空任務でも同じなのだが、投入される任務により各ファクターの優先順位が異なってくる為、メリットがデメリットに、デメリットがメリットに変化してしまうのである。
 とはいえ、計画時においてアマギ級が攻撃任務への投入を殆ど考慮していなかったことも忘れるべきではない。言うなればこの指摘は、地球防衛軍の空母運用思想の変化によって生じたものとも言えた。



 (3)は、フェーベ沖会戦で唯一ガトランティス側の航空攻撃で被弾したアマギ級四番艦レキシントンの戦訓に基づいていた。
 本会戦においてレキシントンは、ガトランティス攻撃機が放った対艦ミサイル一発を被弾した。被弾箇所は艦中央部であり、隠遁式パルスレーザー砲二基が破損したものの、戦艦譲りの強固なヴァイタルパート内に損害は無かった。しかし、被弾による衝撃で一基しかない搭載機昇降用エレベーターが故障してしまったのである。
 幸い、被弾が第一次攻撃隊発艦後であった為、レキシントンの格納庫内は故障機を除いて “空”の状態であり、帰還機の受け入れも他艦に分散して行われた。しかし、それが可能であったのは、第一次攻撃隊の損害が激しく、機数を大きく減らしていたからに過ぎない。
 結果的に大事には至らなかったものの(後述する弾薬不足の一因にはなったが)、被弾のタイミングによっては格納庫内の機体が全て無力化されていた可能性もあり、フェーベ沖での彼我の戦力差と戦闘経過を考えれば『幸運』の一言で済ませることもできなかった。

 (4)については、定数以上の機体を運用したこと、そして前述した通り、設計時に求められた同級の任務が“防空”であったことがここでも影響していた。アマギ級の弾薬庫は比較的小型の空対空兵装を主に搭載することを前提に設計されていた為、より大型の対艦攻撃兵装を中心に搭載した場合、搭載数量が大きく減少してしまうのである。
 事実、フェーベ沖会戦終了時点で、アマギ級各艦の艦載機用弾薬はほぼ払底しており、たとえ機体と搭乗員が確保できたとしても、それ以上の作戦行動は事実上不可能であった。

 (5)は同級の原設計艦であるボロディノ級主力戦艦でも指摘された問題であったが、“空母”であるアマギ級においては、その問題はより深刻であると捉えられていた。
 ボロディノ級の設計思想は『たとえ戦艦といえども、艦隊というシステムを担う一要素に過ぎない』という向きが強く、ある意味では自らの能力を極めて限定していた。極論、ボロディノ級の性能は波動砲投射とショックカノンによる砲戦に特化し、防空戦闘は艦隊を構成する他の中小型艦が担うものとされていた。言い換えればボロディノ級主力戦艦は、複数の艦で戦隊や艦隊を組んで初めて所要能力を発揮できる艦であると定義することができる。
 アマギ級宇宙空母も、艦体の半分以上を流用していることもあり、ボロディノ級の設計思想を色濃く受け継いでいた。しかし、“大艦巨砲主義”に染まった地球防衛艦隊では、戦艦に比べて戦力価値が低い空母に十分な護衛が付けられないのは明らかであり、事実、一航艦編成前に各巡航空母戦隊に附属していたのも、防空能力などほぼ皆無の旧式駆逐艦ばかりだった。
 幸い、フェーベ沖会戦の結果、空母に対する地球防衛艦隊の評価は大きく改まっていたが、ガトランティス戦役において大小問わず多数の艦艇を失った影響はあまりにも大きく、少なくとも当面は空母に満足のいく護衛戦力が付けられる見込みは乏しかった。

 地球防衛艦隊としては、既に建造がかなり進捗しているグローリアスはともかく、新規建造空母については以上の(1)~(5)の解消は必須であると主張していた。しかし、未だ空母という艦種の建造・運用実績に乏しいこともあって、短期間での新空母設計の取りまとめは困難とも考えられた。単純な設計作業のみならず、幾つかの技術的課題(前方発艦等)と専用装備の開発については一から検証を行わなければならなかったからである。
 そうした状況において白羽の矢が立てられたのがグローリアスだった。
 この未成艦に技術検証艦としての側面を持たせて完成させようというのがその骨子であり、艦政本部は既にほぼ完成している空母モジュールの大掛かりな改造(場合によっては新造)まで視野に入れていた。しかしこれは、一日でも早いグローリアスの戦力化と各種試験開始を求める地球防衛艦隊の強い反対に遭い、改造は最小限に留められることになる。
 最終的に、防衛艦隊と艦政本部の協議によってまとめられたグローリアスの改設計案は概ね以下のようなものであった。

 (1)飛行甲板(発艦甲板から改称)を現構造で可能な範囲で拡大。
  (之に合せ、発艦・着艦・駐機用スペースを其々設置)
 (2)従来の着艦口を閉鎖。不要となった旧着艦甲板は格納スペースに転用。
 (3)従来の昇降機を撤去。発艦機用・着艦機用に其々サイドエレベーターを新設。
 (4)近接防空用パルスレーザー砲塔を増設。

 項目としては多岐に及んでいるが、船殻の大掛かりな改造は慎重に避けられており、建造再開から三ヶ月以内の完成が目指された。
 後に『改アマギ級』若しくは『グローリアス級』と呼ばれることになる本艦の運用面での最大の変更点は発艦・着艦方法の変更だった。発艦は飛行甲板左舷側からの前方発艦方式とし、着艦は右舷側を使用した後方からのアプローチを基本としていた。発艦方法の変更は、前述した通り攻撃任務時の即応性向上を目指したものであり、本艦での運用と検証結果を踏まえ、新空母の発艦装備の最終調整が行われることになっていた。
 これに対し、着艦方法の変更は艦内格納庫の有効活用という側面が強かった。従来の直接格納庫に機体が着艦する方式――ダイレクト・イン方式――では、元々スペースに余裕の無い格納庫内に着艦・制動区画を設置しなければならず、機体格納の点では少なくないデッドスペースになっていた。これをグローリアスでは、露天の着艦甲板に着艦後、機体は専用エレベーターを用いて格納庫内に収納する方式――タッチ・アンド・イン方式――に変更することで、格納庫内から着艦・制動スペースを取り除いていた。
 またこれに伴い、発艦甲板の中央に設置されていたエレベーターを撤去し、新たに両舷に各一基のサイドエレベーターを新設することで、懸案だったエレベーター予備機をも確保している。
 以上により、グローリアスはオリジナルのアマギ級に比べて、コスモ・タイガーIIクラスの機体で六機の格納機数向上を達成していた。レイアウト的にはもう二機程度の格納機数向上も可能であったが、そのスペースはもう一つの懸案だった弾薬庫の拡張に用いられている。
 また、搭載機数の点では発艦甲板と着艦甲板の間(飛行甲板中央部)に駐機スポットを十分に確保したことで、フェーベ沖会戦時のような露天繋止にも無理なく対応できるようになった。竣工後のグローリアスの搭載機定数は、コスモ・タイガーⅡ及びその電子偵察型である“タイガー・アイ”の合計四二機(アマギ級は三六機)とされたが、更に六機程度を露天繋止の併用で運用することもできた。



 改設計後のグローリアスの完成は2202年5月であった。
 スケジュールを前倒しての完成は、建造に係った関係者の尽力は勿論だが、建造資材の割り当てを他艦よりも優先されたことが大きかった。事実、グローリアス完成を促進させる為に、建造中だったボロディノ級主力戦艦“プロヴァンス”用に準備されていたショックカノンや伝導管が転用されている。結果的にプロヴァンスの就役は大幅な遅延をきたしたが、その点を以ってしても、“空母”に対する地球防衛軍の評価の変化を窺い知ることができる。
 尚、建造凍結時にグローリアスが多くの艤装品を譲ったボロディノ級“ヴァンガード”は、ガトランティス戦役にて奮戦空しく喪われており、本来グローリアス用に準備されていた艤装品を取り戻す機会は永久に失われていた。
 翌月、地球防衛艦隊への引き渡しを慌ただしく終えたグローリアスは、殆ど日を置かずして実運用が開始された。就役にあたり、同艦の乗員にはアマギ級やボロディノ級の乗艦経験者が多く集められており、人員面からも早期戦力化が図られていた。搭載が予定された艦載機隊も、苦しい台所事情の中からヴェテランパイロットが部隊要所に充てられている(当時、地球防衛軍の熟練搭乗員は一航艦壊滅と共に払底していた)。
 こうした努力の全ては、次期空母検証艦としての活動を一日でも早く開始する為であった。
 この時期、既に次期空母(後の“キエフ級戦闘空母”)の建造作業は開始されており、グローリアスでの実証データがそのままリアルタイムで建造中のキエフ級の仕様に反映されるという非常に強引な建造態勢が採られていた。その為、出航中は勿論、根拠地停泊中も同艦には多数の造船官とメーカー技術者が乗艦し、各種試験とそのデータ収集に従事していた。
 技術検証の上では、生存しているアマギ級の乗艦経験者と元所属航空隊員を強引にかき集めたことが非常に有効だった。既に実艦全てが失われている以上、短かったアマギ級の就役期間内に培われた技術やノウハウは、“人”の経験や記憶の中にしか残存していなかったからである。
 極めて濃密な検証期間は半年にも及び、艦政本部と航空本部が用意した試験メニューの大半を消化し終えた時には、艦も乗員も疲労の極みに達していた。航空関係の艤装品の幾つかは耐用規定回数を超えるまで酷使されており、早くも大規模なオーバーホールの必要性が指摘されていた程だった。
 しかしその甲斐もあって、グローリアスでの試験・検証データの集積は充分な質と量が確保されており、それらを反映したキエフ級の初期ロット艦群は既に完成し、就役も間近に迫っていた。
 その結果を受け、グローリアスも一先ず“次期空母検証艦”としての使命を終えることになるのである。

 当初の予定では、検証艦としての運用試験終了後のグローリアスは、キエフ級が一定数揃うまでは第一線の主力空母として、そしてキエフ級が十分に普及して以降は練習空母に充てられることが予定されていた。
 建造年次的には未だ新鋭艦と言っても差支えのない彼女が、早々に練習艦化まで考慮されていたのには勿論訳がある――運用面での経済性の悪さだ。
 同級艦を持たないことに加えて、検証艦として装備された特殊な専用艤装品は多数に上り、更には発展型とも呼ぶべきキエフ級に比べれば低い艦載機運用能力は、長期的な費用対効果の面で、一線級空母として用いるには経済性が悪いと判断されたからである。また、今後の改装等によりキエフ級と装備品をできるだけ共通化したとしても、速力や艦載能力の違いを埋めるのは容易ではなく、現実的にキエフ級との統一行動には難があると判定されていた。
 これと似たような評価を受けた艦にガトランティス戦役以前の“ヤマト”がある。ヤマトも、ガミラス戦役後に新造された艦との規格・仕様・性能面での相違が大きく、その維持には膨大な運用コストを要すると認識されていた。改装により、可能な限り規格のフィッティングが為されていたものの、それも程度問題に過ぎないというのが実情だった。それ故、ガトランティス戦役が勃発せず、地球防衛艦隊の拡充が順調に進展すれば、遠からず記念艦として現役を退くことも予定されていた。
 しかし、ガトランティス戦役後の状況の変化がそうした予定を根底から覆した。深刻な大型艦艇不足という現実に加えて、“再び地球を救った”ことに対する褒章的意味合いや、再度の侵略に晒された連邦市民に対する精神安定剤としての役割を期待されたことから、ヤマトの当面の記念艦化は完全にキャンセルされている。
 だが、グローリアスにはそうした数値化できない役割や効果は期待できず、ヤマトのような“特例”が与えられる余地は少ないと考えられた。大型艦の不足が深刻な数年以内はともかく、ある程度の艦隊陣容が整う五年後以降の練習艦化は半ば以上確定事項だった。
 だが、そうした確定事項に思わぬところから待ったがかけられた。待ったをかけたのは――他ならぬ地球防衛艦隊司令部であった。



 この時期、地球防衛軍並びに地球防衛艦隊司令部は、単独運用可能な外洋大型艦艇を強く欲していた。
 ガトランティス戦役緒戦におけるテレザート星への調査派遣、2202年のイスカンダル事変時の救援派遣、いずれも当時の地球防衛艦隊においては長距離・単独航宙能力に秀でたヤマトにしか実施不可能な任務であった。もちろん、派遣に至る経緯(そもそもテレザートへの派遣は防衛軍が意図したものではなかった)や派遣に際してのヤマト幹部乗員の行動には数々の問題があり、実際に査問会も開かれている。しかしその査問会や防衛艦隊内の調査委員会においても、過程や渦中の問題はともかく、派遣そのものの妥当性は否定できないという判断が下されていた。
 ガミラス戦役以来、地球は短期間の内に複数の外宇宙勢力に遭遇し、イスカンダル王国を除く全ての勢力と交戦状態に陥っていた。それを思えば、今後も非常に短いスパンで外宇宙勢力との接触が発生する可能性や、同時多発的に複数の勢力との間で外交事案(紛争を含む)が発生する可能性すら真剣に考慮されなければならなかった。
 ガミラス戦役以前であれば、複数の外宇宙文明との接触が同時に発生するなどという想定は一笑に付されかねないものであったが、近年のあまりに苛酷な現実がそうした想定すら現実的なものとして肯定したのである。
 外宇宙勢力との同時多発的な接触を想定した場合、遠隔地へ迅速且つ単独で展開可能な艦船を複数有することは危機抑止・早期解決の上で必須と考えられた――仮にテレザートやイスカンダルのような事態が同時に発生したら――という訳だ。
 しかし、当時量産と配備が進んでいた地球防衛艦隊の艦艇は、ごく一部の例外を除き近傍迎撃型艦隊構成艦として機能と性能を限定した艦ばかりであり、高い汎用性を求められる単独任務に耐え得る艦は皆無であった。長期航宙能力にしても、太陽系内邀撃戦を第一義とした重武装化・重防御化の代償として、中型艦以上にすら限定的にしか付与されていないのが現実だった。また、過去のヤマトの戦訓から、あらゆる面で柔軟性が求められる長期の単独任務においては、まとまった数の航空機運用能力も必須と考えられていた。
 当時の地球でそうした要求に応え得る艦――長距離特務艦――は、実質的にヤマト一隻のみであり、仮にそうした周辺事態がヤマトの不在時(他任務中や長期入渠中)に発生した場合を思えば、ヤマトと同等の性能・機能を有する艦の増強は愁眉の急だった。その結果、運用における経済性の点でヤマトと似た“境遇”を持つグローリアスがその候補として挙げられたのである。その存在が特殊なのであれば、特殊なものとして徹底的に使い潰してしまえばよい――という判断だ。
 元々、地球防衛艦隊司令部は、本用途(長距離特務艦)に新鋭のキエフ級を充てたいという意向を持っていたとされる。キエフ級は艦載能力の向上を主目的として、オリジナルのボロディノ級やアマギ級に比べても飛躍的な大型化を果たしており、その余裕のある艦体に長期航宙に耐え得る給兵・給糧設備まで建造時から搭載していたからである(勿論、地球防衛艦隊が要求したからこそ搭載された装備であった)。
 だが、大型化に加えフェーベ沖の戦訓や様々な技術進歩まで取り込んだ同級の建造費用はアンドロメダ級戦略指揮戦艦並みに高騰し、グローリアスとは別の意味で、とても単独では前線に出せない高価で贅沢な艦になってしまっていた。



 これに対し、グローリアスは規模あたりの運用コストこそ大きいが(つまり割高だが)、キエフ級に比べて艦規模そのものが小さい為、絶対額としての運用コストはキエフ級より有利だった。またそのコストは、グローリアス以上に特殊仕様と専用艤装品の塊であるヤマトと比べても、充分に納得できるものだった。
 その結果、就役から一年も経ずしてグローリアスの長距離特務艦化を目的とした近代改装が決定された。改装は長期航宙能力の付与やキエフ級との艤装品共通化のみならず、艦政本部の強い意向で、当時計画中だった『ボロディノ級改善』のテストベッドとしての新装備搭載も盛り込まれている。
 この『ボロディノ級改善』の基本コンセプトは、ボロディノ級設計時と比べても飛躍的に進歩した最新の波動関連技術のフィードバックは勿論、各種装備品・機器の小型化によって艦内余剰空間を確保し、従来の地球艦艇に不足していた居住性、給兵・給糧能力を大幅に向上させようというものであった。その点で言えば、グローリアスの改装目的と合致している部分も多く、艦政本部から“相乗り”を求められた地球防衛艦隊司令部にしても渡りに船という感すらあった。寧ろ、そうした技術的進歩がなければ、リソース余裕の乏しさから、主砲戦能力や艦載能力を一部削減するといった決断を行わない限り、グローリアスに満足な長期航宙能力を付与することは困難と考えられていたからだ。
 一方、ボロディノ級改善を企図していた艦政本部も、就役済みのボロディノ級のいずれかを使用し、できるだけ早期に改善に向けた技術実証を行いたいと実戦部隊である地球防衛艦隊に予てより申し入れていた。彼らとて、量産性と早期就役を第一優先に建造されたボロディノ級主力戦艦が空間打撃戦能力はともかく、無限機関である波動エンジンを有しているにも係らず長期航宙能力が欠如しているなど、性能バランスに欠ける面があることは重々承知しており、その解消・改善をアップデートという形で実現したいと考えていたのだ。
 しかし、ガトランティス戦役後の深刻な大型艦不足が長期のドック入りを要する技術検証を実現困難なものにしていた。その為、そこに降って湧いたグローリアス改装計画への便乗は、艦政本部としても渡りに船だったのである。
 ある意味、地球防衛艦隊と艦政本部の利害が見事に一致したグローリアスの改装計画は速やかに実行に移された。だが、その完成は当初の予想を超えて大きく遅れることになる。
 新たなる外宇宙からの侵略――デザリアム戦役の勃発だ。



 開戦劈頭の電撃的な奇襲侵攻により、地球防衛軍の太陽系内防衛網は完全に瓦解、一週間と経たずして地球連邦政府はデザリアム帝国の軍門に下った。
 生まれ故郷である英国デヴォンポート宙軍工廠にて改装工事中だったグローリアスも進駐してきたデザリアム帝国軍に鹵獲されてしまう。当然、改装工事は完全に中断、長らく工廠内のドライドックに改装中の無力な姿を晒し続けることになった。
 2203年10月、デザリアム戦役は劇的な逆転で地球の勝利に終わり、停滞していたグローリアス改装工事もようやく再開の運びとなった。幸い、二重銀河からの侵略者たちはグローリアスに対して破壊や破棄などは行わず、技術調査を幾度か実施しただけだった。
 一説では、デザリアム帝国は地球に傀儡政権を樹立し、その後の再軍備まで計画していたとされる。その目的が、当初は未だ降伏をよしとしない地球防衛軍残党の討伐、そしてゆくゆくは、彼らの星間戦争の尖兵とすることであろうことは想像に難くない。
 だが、その結果として地球に残された軍事力は厳重な監視付ではあったが、ほぼそのまま保全されており、ガトランティス戦役後と比べれば遥かに良好な状態から地球軍事力再建を開始することができた。グローリアスの改装工事もその勢いに乗る形で急ピッチで進められ、2204年6月には再就役を果たしている。
 こうして、ようやく再就役に至ったグローリアスであったが、結果的にガトランティス・デザリアム両戦役において入渠したまま一切戦局に関与できなかった彼女に対し、防衛艦隊将兵は半ば疫病神に対するような悪名や悪評を奉っていた。
 『永遠の戦乙女』はともかく、『船渠の女帝』『長化粧の女王』、果ては『またかグローリアス、身支度の間に戦(いくさ)は終わった』等、浴びせられた異名や揶揄は枚挙に暇がない。後発のキエフ級戦闘空母群がデザリアム本星への遠征に参加し、艦隊航空戦力の中核を担う活躍を示したことも、グローリアスにこうした批判が浴びせられる一因になったと思われる。

 長期に渡り中断していた改装工事が再開されるにあたり、グローリアスの改装メニューには当初計画になかった新装備・新技術が幾つも追加されていた。その最大のものが波動機関の第三世代化――スーパーチャージャー搭載――だ。前年のヤマトの第二次近代改装時にプロトタイプ機関が実装され、デザリアム戦役においても、その性能と効果が高く評価された次世代の波動エンジンシステムである。
 グローリアスの初期の改装計画時にも一度は俎上に上がったものの、ヤマトでのプロタイプ実証結果の反映がスケジュール的に間に合わないとして断念された経緯があった。しかし、デザリアム戦役による大幅な建造遅延を奇禍として、改めて新システムの搭載が決定されたのである。
 グローリアスに搭載された第三世代波動エンジンは、ヤマトの搭載した試作型(プロトタイプ)に対して試験型(テストタイプ)として識別されている。ヤマトのような、完全な機関刷新による基本出力の大幅な向上や強化型波動砲(通称:新・波動砲)の装備といった野心的な性能はあえて狙わず、既存の第二世代高効率型波動エンジンへの予備炉心増設による連続ワープ機能と波動砲発射後の機能復旧の迅速化に重きを置いた堅実な設計でまとめられていた。
 第三世代化を果たした改装後のグローリアスの波動エンジンは、特に稼働率と経済性において高い評価を得ており、その経験と実績は後のボロディノ級やアルジェリー級、オマハ級等の近代改装時に活かされることになる。本改装により第三世代化を果たした波動エンジンは便宜上“増備型”と称された。
 これに対し、ローマ級主力戦艦やアムステルダム級戦闘巡洋艦等の次世代艦艇群が搭載した第三世代波動エンジンは、ヤマトやアリゾナ級の試作型をベースとした完全新作機関であった。開発系譜的には、ヤマトの“試作I型”、アリゾナ級の “試作II型”、日本国において試作I型をベースに限定量産されたユウバリ級護衛巡洋艦用の“先行量産型”、これらの技術を統合、更に改良・発展させた“正規量産型”となる。特に、波動砲関連設備は試作II型を踏襲しており、これは地球防衛艦隊及び艦政本部がアリゾナ級で確立された新型波動砲――拡大波動砲――の搭載に強く固執した結果であった。

 また機関の第三世代化と同様、ヤマトの第二次近代改装時に初めて試みられた主砲のカートリッジ化も、専用実包である“波動カートリッジ弾”の予想以上の戦術効果が評価された事で、グローリアス改装に織り込まれることが急遽決定した。当然、この決定がボロディノ級主砲への波動カートリッジ弾適用を睨んで布石であったことは言うまでもない。

 紆余曲折の結果、遂に再就役を果たしたグローリアスは改装前と比べ外観にこそ大きな変化はなかったが、その内側は様々な実証・近代化・改善・新規計画が入り混じった、まさに“鵺(ぬえ)”のような存在であったとされる。
 実際、彼女の艦内は改装前からのキエフ級用テストベッドとしての仕様に加え、新たにボロディノ級改善、ヤマト級近代改装のフィードバック、更には次世代新戦艦(後のローマ級主力戦艦)用の試験装備まで設置されており、装備の多彩さと先進性ではヤマト級にすら匹敵すると評された程だった。当然、それらの装備は先進性に見合った高性能を誇るが、その運用に熟練した乗員を要求するのもヤマトと同様であった。幸い、地球防衛艦隊もその点は十分に理解していた為、改装後のグローリアスは古参乗員がヤマト程でないにせよ他艦に優先して配属されている。



 2204年6月の再就役以降、グローリアスは地球防衛艦隊司令部の直轄艦として錬度の向上と新装備慣熟を目的としたシェイクダウンクルーズに努めた。地球防衛軍としては2205年後半を目処に地球初の本格的な長期外宇宙探査任務に本艦を投入する計画であったが、思わぬ事態により計画は画餅に帰してしまう。
 ガルマン・ガミラス帝国軍の放った戦略級惑星破壊ミサイル(プロトン・ミサイル)の太陽誤爆に端を発する所謂『太陽危機』の発生だ。
 人類滅亡と星系破滅を突如として突きつけられた格好となった地球連邦政府であったが、当初の危機感は決して大きくはなかった。むしろ、危機を予見し警告を発した地球連邦大学宇宙物理学部長サイモン教授を更迭するなど、その初動対応の拙さは後に大きな批判を呼ぶことになる。
 しかし、そんな政府内部にもサイモン教授の警告に強い危機感を抱く者が少数ながらも存在した。地球人類にとって幸運であったのは、その一人が地球防衛軍司令長官――藤堂平九郎――であったことだ。
 後方での指揮が大半とはいえ、三度に渡る星間戦争をしぶとく戦い抜いた藤堂の経験はサイモン教授の警告に強く反応しており、半ば独断で地球人類が移民可能な惑星の探査を決断するに至る。後に“第二の地球探し”と呼ばれる地球人類初の大規模外宇宙探索である。
 しかし、議会制民主政体を敷く地球連邦において、連邦大統領と議会の意向を無視して正式命令を下すことは防衛軍長官といえども不可能であった為、当初はあくまで練習航海の名目で探査艦を送り出すしかなかった。また、送り出せる艦も、子飼いとも言うべき防衛艦隊司令部直轄艦のみであり(勿論、山南修防衛艦隊司令長官との間で非公式の合意はできていた)、結果的に長距離・長期航宙能力を有するヤマトとグローリアスの二隻に探査特務艦として白羽の矢が立てられた。
 本任務に合せ、二隻には惑星探査任務を円滑に運ぶべく試製四式空間輸送機『コスモ・ハウンド』が新たに配備され、航空団編成にも変更が加えられている。これは、カテゴリー的には中型機となるコスモ・ハウンドの格納容積を確保する為で、グローリアスの場合は以下の編成に航空団が改編された。

 ○第六空母航空団編成(2205年2月時点)
  ・第二〇一戦闘攻撃飛行隊:F/A-1D『コスモ・タイガーII』:12機
  ・第二〇二戦闘攻撃飛行隊:F/A-1D『コスモ・タイガーII』:12機
  ・第八電子偵察飛行隊:R/E-2B『タイガー・アイ』:2機
  ・第八七輸送飛行隊/第二分遣隊:XC-4『コスモ・ハウンド』:4機
 
 惑星探査用の多目的輸送機として急遽配備が決定したコスモ・ハウンドは、元々はガトランティス戦役後の2202年に次世代多目的機として開発された機体であった。その開発コンセプトは極めて野心的なもので、ワープ機構を有する最小サイズの波動エンジンを装備した万能機として計画されていたのである。
 その開発背景に、フェーベやカッシーニで基地航空隊の過半が遊兵化された苦い戦訓があったのは言うまでもなく、基地から戦場が遠過ぎて到達困難なのであれば、ワープで一気に肉薄すれば良いという極めて直截的な解決手段として本機の開発が決定された。開発は、ウェポンベイに大量の対艦ミサイルを詰め込んだ攻撃機型に加えて、護衛機の役割を果たすガンシップ型、戦術輸送機型が平行して開発されていたという。
 実用化に成功すれば、エポックメイキングな機体となるのは確実であったが、本機最大のポイントである波動エンジンの小型化は困難極まりなく、結果的に2204年を待たずして開発中断が決定されている。
 だがそれも無理はなかった。2230年代においてですらフルスペックの波動エンジンの搭載には最低でも50メートル級の機体(もしくは艇)が必要というのが常識であり、それを30メートル級の機体で実現しようとした当時の目標が高すぎたのだ。
 尚、既知の存在として最小の波動エンジン搭載機はガトランティス帝国軍が運用した戦略偵察型デスバテーターであるが、“戦略偵察機”というカテゴリーが示すとおり、その配備機数は極めて少なく、逆に言えば、ガトランティスのような大帝国であっても、こうした高価すぎる機体を損耗率の高い攻撃機任務には適用できないことが見て取れる。



 波動エンジンの搭載はあえなく頓挫したもの、ワープデバイスを除いた機体は既に完成しており、皮肉にもその完成度は航空本部内でも高く評価されていた。結果、太陽危機勃発時に多目的運用が可能な艦載輸送機の必要が叫ばれた際、既存では条件に見合う機体が無かったこともあって、開発が中断していた本機に急遽白羽の矢が立てられたのである。
 ワープドライブ可能なフルスペックの波動エンジンを小型化する上で最大のネックとなるのは、空間から捕集したタキオン粒子を濃縮する濃縮機構であった。特に、ガミラシウム等の波動触媒を介しない地球製波動機関は所謂『高濃縮型』であり、その濃縮機構は特に堅牢且つ大掛かりな装置が必要で、2202年に開始されたコスモ・ハウンドの開発においても、本機構が機体内に収まり切らず、開発が頓挫したという経緯があった。
 しかし、濃縮機構を完全にオミットする代わりに、予め高濃縮されたタキオン粒子を充填したタキオン・タンクを機体に搭載すれば、過剰な程のタキオン粒子を一時に消費するワープドライブこそ不可能であるものの、通常飛行(航宙)には全く支障のない簡易波動エンジンが一先ず完成する。
 本エンジン最大の特徴は、コスモ・タイガーIIをはじめとする通常の航宙機用簡易波動エンジン――『タキオン・エンジン(別称:コスモ・エンジン)』――が低濃縮状態のタキオン粒子を燃料としているのに対し、高濃縮状態のタキオン粒子を燃料としている点で、機械的デリケートさこそあったものの、その出力重量比は桁違いに高かった。
 その結果、紆余曲折の末に本エンジンを搭載することになったコスモ・ハウンドは、非常に高い搭載能力と大航続力、大型機に似合わぬ良好な機動性能を有する万能機として完成を見たのである。特にその機動性能は瞠目すべきものがあり、ヤマト搭載機がガルマン・ガミラス帝国軍の主力戦闘機『ゼー・アドラーIII』の編隊に襲撃された際、無事に逃げおおせるどころか、数機のゼー・アドラーを返り討ちにしている。
 また、運用当初は不安のあった、取り回しの難しいピーキーな機関の信頼性についても、航空機関士を常に搭乗させる等の運用上の努力で解消が図られた。

 ワープ能力と無限の航続力の獲得こそ断念せざるを得なかったものの、艦載可能な中型輸送機としてコスモ・ハウンドは一六機が増加試作され、第二の地球探しに従事する大型艦に順次配備された(エンジン部前方の多数のスリットはオリジナル設計にあったタキオン粒子捕集口の名残で、将来的な機関換装も考慮してそのまま残されたという経緯がある)。
 ヤマトと共に増加試作機四機が配備されたグローリアスでは、重防御・大航続力・高機動性・大ペイロードと三拍子ならぬ四拍子揃ったコスモ・ハウンドの特性を最大限活かすべく、惑星探査航海中に積極的な試行錯誤が独自に行われた。
 グローリアスにとって本任務は初の単独・遠距離・長期航宙任務であり、幹部はもちろん末端の乗員に至るまで、自らの自衛戦闘能力に拭い切れない不安を抱えていたとされる。その不安の主たる原因は“ヤマトに比べれば――”という極めて漠然としたものであったが、グローリアス乗員はその不安を危機感に変え、新機材であるコスモ・ハウンドの積極的活用に取り組んでいったのである。
 その甲斐もあって、短期間のうちに四機のコスモ・ハウンドには様々な独自改造が施され、惑星探査の傍ら改造機の能力テストも休むことなく行われた。そして探査航海の中盤以降は、以下のヴァリエーションタイプでほぼ固定運用されることになる。

 一号機:早期警戒管制型(通称:ハウンド・リーダー)
 二号機及び三号機:爆撃機型(通称:ストライク・ハウンド)
 四号機:通常型(多目的/輸送型)

 早期警戒管制型とは、レドーム式の大出力コスモレーダーを機体上部に追加設置すると共に、戦闘管制官及び多数のオペレータの搭乗により航空隊管制機能を組み込んだ機体である。高濃縮タキオンを用いる簡易波動エンジンから生み出された大電力で稼動するコスモレーダーは艦艇顔負けの大出力を誇り、広域走査は勿論、早期警戒、航空管制に威力を発揮し、コスモ・タイガー隊を中心とする艦載機隊の戦力倍増要素としての活躍が期待された。
 これに対し、爆撃機型は本機のオリジナルプランに先祖返りした印象もあるが、その実態はより凶悪且つ凶暴化していた。本機の搭載する対艦攻撃兵装は既存の空対艦誘導弾ではなく、波動カートリッジ弾を改造した極めて特殊な航空爆弾――波動爆弾――だったからだ。
 当時は波動カートリッジ弾が実用化されて間もない時期であったが、その大威力には航空隊関係者も早くから注目しており、特に対艦攻撃力不足が深刻だった艦載機隊(コスモ・タイガーII隊)向けに波動カートリッジ弾頭搭載対艦誘導弾の開発が試みられていた。しかし、その実現には弾頭に最小臨界量を超える波動エネルギーの充填が必須であり、それをコスモ・タイガーIIで懸吊可能な誘導弾のサイズ・質量で実現するのは物理的に不可能であった。
 結果、コスモ・タイガーII用の弾頭開発は長期の停滞を余儀なくされていたが、グローリアス技術班ではそれを、コスモ・ハウンドの機体サイズと大ペイロードを活かして解決を図った。既存のグローリアス主砲用一六インチ波動カートリッジ弾に簡易な誘導・推進システムを組み合わせることで、“爆弾化”してしまったのである。
 あまりに巨大なサイズと質量故に、コスモ・タイガーIIには搭載できないこの特殊爆弾を、本機は最大四発搭載可能であり、二機分八発ともなれば、戦艦の波動カートリッジ弾一斉発分にも相当する。その威力は圧倒的で、ボラー連邦のいかなる大型戦艦をも単独で撃沈可能であるばかりか、密集した戦隊規模の艦隊でも丸ごと撃破可能と判断されていた。
 使用可能な機材が中型機以上に限られていたこと、これを継ぐ次世代弾頭が比較的早期に実用化されたことから、この“波動爆弾”は極めて短命な存在となった。しかし、波動エネルギーと暗黒銀河由来の物質(D物質)を融合反応させ、大威力を得ることに成功した次世代弾頭――波動融合弾頭――の配備まで、期間は短いながら波動爆弾が地球防衛軍艦載航空隊が使用可能な最強の対艦攻撃兵装であったことは間違いない。

 結果的に仕様として固定されることはなかったものの、グローリアスでは早期警戒型や攻撃機型以外にも、空中給油型(格納庫に増加燃料タンクを設置し、主翼の左右後端から伸ばしたブームで二機同時に空中給油が可能)やガンシップ型(機首及び機体側面に多数のパルスレーザー砲を設置)等も改造試作されており、それぞれ貴重な運用データを残している。
 こうした保有機材の独自改造が特例として認められていたのは、補給や補充に絶対的な制約のある外宇宙任務担当艦のみであり、真田技師長以下“地球防衛軍最凶”の名を欲しいままにしたヤマト技術班程ではないにせよ、グローリアス技術班も多数の装備改造実績を残した。



――後編2へ続く




二次創作でも殆ど顧みられることはなく、メカコレが再販されても大抵最後まで残るコスモ・ハウンドを大々的に取り上げたいと思った時点で、文字数オーバーが確定した感じですね(^_^;)
後編2もコスモ・ハウンドを活躍させる為だけに戦闘シーンを入れたような有様ですしw
相変わらず、燃える会話もなければ擬音もない(笑)無味乾燥な戦闘シーンしか書けませんが、一応は書き上がっていますので、年内に公開できるでしょう。
それと細かいところですが、前編の記事も少し手直ししています。
この宇宙空母の記事を書き始めた頃は、コスモ・タイガー等の艦載機のエンジンの原理をどうするかはっきり決めていなかったのですが、『地球防衛軍の航空機と空母機動部隊』を書いた時に一応取り決めましたので、それを反映させました。
前編の最初の方ですので、お時間のある方は再読いただけましたら幸いです。

はてさて、『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』にはアンドロメダのバリエーションとして空母タイプが登場するみたいですが、主力戦艦ベースの空母はどうなりますかね?
『2』版の宇宙空母も『PS版』の戦闘空母もどちらも大好物なので、是非登場してほしいですねぇ~♪

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グローリアス級宇宙空母(改アマギ級宇宙空母) 中編

2014-01-19 15:26:57 | 1/700 宇宙空母(SOY-YA!!)


 就役したアマギ級宇宙空母は二隻で一個戦隊を編成、特定の艦隊に所属するのではなく、地球防衛艦隊司令部直轄戦隊として運用されることが決定した。
 各戦隊は、ローテーションで太陽系外縁の警戒配置に就く各外周艦隊に対し、同じくローテーションで派遣され、派遣中は戦隊指揮権も外周艦隊司令部に委譲される。
 ガトランティス戦役勃発直前にあたる2201年11月頃の各戦隊編成は以下の通り。

 第一巡航空母戦隊:アマギ,アカギ,第七駆逐隊
 第二巡航空母戦隊:サラトガ,レキシントン,第二三駆逐隊
 第三巡航空母戦隊:カレイジャス,改カゲロウ級突撃駆逐艦一隻

 第三巡航空母戦隊に配備が予定されていた同級艦『グローリアス』だけは、ガトランティス帝国による攪乱作戦の影響を受けて、就役が大幅に遅れていた。
 当時、太陽系への侵攻を企図していたガトランティス帝国は、本格攻勢に向けた前哨戦として隠密裏に後方破壊作戦を実施中だった。作戦指揮官コズモダード・ナスカ准将は麾下の遊撃艦隊を用いて金星エネルギーステーションの破壊に成功。急激な再建にインフラの複合化が追いついていないという当時の地球が抱えていた問題点も重なって、地球各地で大規模な電力障害が発生してしまう。
 丁度その際、英国デヴォンポート宙軍工廠で建造工事中だったグローリアスは、突然の電圧低下によってマグネットクレーンから落下した艦体ブロックが主艦体に直撃するという大事故に遭遇、建造が大きく遅延してしまう。更にその後、ガトランティス帝国(白色彗星)の存在と接近が公式に認知されたことで、彼女の運命は決定的に変化した。
 数ヶ月以内の超光速白色矮星来襲という異常事態を受け、地球防衛軍が当時建造中だった艦艇の“仕分け”を開始したからである。具体的には、彗星来襲までの配備が間に合わない艦艇は建造を凍結、間に合う可能性のある艦艇に資材と人員を集中することで、就役を促進させるというものであった。
 この“仕分け”において、グローリアスは建造中断の決定が下されてしまう。ブロックが直撃した艦尾部の損傷が予想以上に大きく、短期間での復旧は不可能と判定されたが故だった。損傷が艦首側であれば、ボロディノ級主力戦艦から資材やブロックを流用することも可能だったが、艦尾に“空母モジュール”を有するのはアマギ級宇宙空母のみであったことがここでは災いした。
 その結果、ほぼ完成状態にあったグローリアスの艦首側からショックカノンや波動砲口、エネルギー伝導管、装甲材等が取り外され、建造促進艦に指定されたボロディノ級主力戦艦『ヴァンガード』に流用される運びとなった。

 2201年末、地球防衛艦隊司令長官 土方竜提督の独断命令(後に正式命令として追認)により地球防衛艦隊主力は土星圏に集結した。集結命令は徹底しており、各外周艦隊、内惑星艦隊は勿論のこと、根拠地(惑星・衛星)駐留艦隊、更には空間護衛総隊からも多数のハント級護衛艦が一時的に総隊の指揮下を離れ、集結地に指定されたタイタン鎮守府へと急遽進出した。
 その総数は、駆逐艦以上の波動エンジン搭載戦闘艦艇だけで実に三〇〇隻以上。紛れもない根こそぎ動員であり、総力戦であった。
 そして――着々と決戦態勢を整えつつある艨艟たちの中に、五隻のアマギ級宇宙空母の姿もあった。
 事前の戦策では、アマギ級全艦は防衛艦隊主力に随伴し、CSP(Combat Space Patrol/戦闘宙域哨戒)を展開する予定であった。しかし、土方提督の判断により臨時の空母機動部隊『第一航空艦隊』を編制、ガトランティス帝国軍空母機動部隊への単独奇襲攻撃を図ることになる。



 プロキオン方面より侵攻を開始したゲルン提督麾下のガトランティス機動部隊は超大型空母八隻、中型空母二〇隻以上を有する大艦隊であり、その艦載機総数は優に二千機を超えると推測された。これに対し、宇宙空母と主力戦艦群の艦載機隊、太陽系各地から土星圏に結集した基地航空隊を総動員しても一千機に満たない地球艦隊は、たとえ防空に徹したとしても、大規模な艦載機攻撃を波状的に受ければ壊滅必至と判断された。
 建制にない臨時部隊――第一航空艦隊――が急遽編成されたのは、正にこの圧倒的戦力差故であった。彼らに求められたのは、この戦力差を『奇襲』によって補うこと、その一言に尽きた。
 編成は、虎の子のアマギ級宇宙空母五隻を基幹とし、護衛戦力として各種巡洋艦四隻、リヴァモア級突撃駆逐艦九隻が用意された。当初は空母戦隊のみで艦隊を編成する計画もあったが、土方長官の強い意向で各艦隊からの抽出や新造艦の編入によって護衛部隊が編成された経緯がある。(その際、各空母戦隊附属の旧式駆逐艦は、ハント級護衛艦を多数引き抜かれたことで弱体化していた空間護衛総隊に移管されている)。
 土方長官としては、圧倒的に優勢な敵機動部隊に単独で立ち向かうことになる一航艦人員に、本作戦が決して刹那的な(特攻作戦に類するような)ものではない事を、具体的な形で示したかったのだと言われている。
 しかし、こと搭乗員に関する限り、土方長官の懸念は杞憂だった。
 土星圏への集結から出撃までの一ヶ月間に、母艦航空隊は大胆な編成替えを実施していた。各艦固有の航空隊に、各地から参集した基地航空隊を加えた上で、技量評価“S”と“A”の高練度パイロットばかりを集中的に選抜、増強編成の集成航空隊として再編成を行ったのである。より具体的には、選ばれた搭乗員はガミラス戦役以来のヴェテランが大半を占めており、地球防衛軍航空隊初の攻撃的任務に士気と戦意を異常なほどにまで高揚させていた。
 彼らは、ガミラス戦役中は主力機材の対艦攻撃力不足から主に防空戦力として扱われ、戦役後も地球防衛艦隊再建計画の根幹ともいうべき軍事ドクトリン“波動砲至上主義”の影響で、やはり防空戦力以上の期待と扱いを受けることはなかった。機材そのものは新型機『一式宇宙艦上戦闘攻撃機“コスモ・タイガーⅡ”』の配備によって大幅な対艦攻撃能力向上が成し遂げられ、対艦攻撃戦術の研究も若手戦術指揮官たちの努力により着実な進歩を見せていた。しかし、運用思想そのものが防空任務から変化していない以上、それにも限界があった。
 しかしここに至り、古参の“タイガー・ライダー”たちが長年、自らの本懐と信じてきた攻撃的任務への投入が遂に決定したのである。それも、母艦航空戦力を総動員した大規模攻撃任務。圧倒的戦力差があるにもかかわらず、彼らが士気と戦意を極限までみなぎらせたのも、ある意味当然だった。
 もちろん、作戦決行直前に部隊編成を大幅に改めたことは、戦力的に諸刃の剣となり得る可能性もあった。編成完結後にできるだけ時間を割いたとはいえ、部隊としての訓練時間は圧倒的に不足しており、戦術単位としての能力に不安があったからだ。また、部隊の要(かなめ)となる熟練搭乗員を集中的に引き抜かれた他部隊(基地航空隊)の練度低下も深刻だった。
 しかし、一航艦司令部はそれら全てを看過すべきリスクとして割り切っていた。自らに一〇倍する敵戦力を叩き切るには、ヴェテランパイロットたちがガミラス戦役を通じて体得した“圧倒的劣勢下での実戦経験”が不可欠という判断故であった。
 更に作戦開始直前、テレザート星から帰還したヤマトが一航艦に加えられたことで、搭乗員のみならず艦隊乗組員の士気も大きく向上していた。一時は“出奔”“叛乱”という不名誉にまみれたものの、藤堂兵九郎地球防衛軍長官の尽力によってヤマトの行動は既に追認されており、一航艦将兵にしてみれば望み得る最高の増援である同時に、何よりの“吉兆”とされたからだ。
 そしてヤマトの参加により、一航艦の運用機数は二六〇機にまで達した。ガトランティス機動部隊に比べれば非常にささやか――約1/10の戦力――であったが、地球防衛軍がこれほどの規模で母艦と艦載機を集中運用するのは史上初の試みであり、その戦果に全地球防衛艦隊将兵の期待がかけられた。

〇第一航空艦隊編成(2202年1月26日時点)
  第一巡航空母戦隊:アマギ,アカギ
  第二巡航空母戦隊:サラトガ,レキシントン
  第三巡航空母戦隊:カレイジャス
  第一三戦隊:シラネ,ザラ,マクシム・ゴーリキー
  第七宙雷戦隊:アブクマ,リヴァモア級突撃駆逐艦九隻
  付属:ヤマト

〇血戦!フェーベ沖


 2202年1月28日、土星タイタン鎮守府から出撃した第一航空艦隊は厳重な電波/タキオン波管制を実施しつつ、索敵行動を開始する。
 事前の戦策に従い、索敵はヤマト航空隊――第二〇四航空隊が一手に担った。その索敵は、一航艦の活動はもちろん存在そのものを秘匿する為、索敵機材をパッシブセンシングのみに限定するという徹底ぶりだった。
 尚、アマギ級の航空隊が索敵に参加しなかったのは、各艦が限界以上にまで搭載機を積載していたからに他ならない。格納庫はもちろん、アマギ級の狭い飛行甲板にまで隙間なく露天係止された戦闘攻撃機群は出撃時点から対艦攻撃兵装を満載しており、攻撃任務以外への投入は全く不可能な状態だった。
 こうした措置により、アマギ級の搭載機数は通常定数の三六機から四十八機へと大きく水増しされていた。もちろん、そのような状態で空母モジュールに被弾すれば、誘爆による短時間の撃沈――爆沈が発生するのは確実だった。
 言うまでもなく、危険極まりない“賭け”であり、一航艦指揮官自身もこれを“博打”と公言して憚らなかった。それでも一航艦将兵の士気が低下しなかったのは、豪放磊落を以って鳴る指揮官のパーソナリティー故だろう(臨時任命された一航艦長官は嘗ての太陽系外縁会戦において、後方に残置予定だった三〇二航空隊の作戦参加を防衛艦隊司令部に乗り込んで強引に認めさせたほどの男だった)。
 幸い、索敵中の二〇四航空隊索敵機がガトランティス機動部隊の隊内通信を傍受したことで、地球母艦戦力の全てを注ぎ込んだ“博打”は吉と出る。それも――宇宙会戦史上稀にみる大勝利という形で。

『敵大機動部隊ヲ見ユ。敵ハ超大型空母六隻ヲ伴ウ・・・・・・』

 1月30日午前4時28分、二〇四航空隊機からの高指向性タキオン通信を受けた一航艦司令部は、迷うことなく全力攻撃を下命、五隻のアマギ級とヤマトから発艦済みの索敵機を除く全搭載機二四〇機余が二派に分かれて出撃した。
 この際の発艦は、露天の発艦甲板を埋め尽くす攻撃機を艦尾側から一機ずつ自機の姿勢制御ロケットで離艦させ、甲板がクリーンになった後、ようやく格納庫内の機体を発艦させるという非常にアクロバティックなものだった。勇壮さに無縁であるのとは裏腹に、安全基準をハナから無視したような危険極まりない発艦方法であり、当然、高い事故率が予想された。しかし、各搭乗員・発艦要員共に士気は極めて高く、一機の事故も生じさせないまま全攻撃機の発艦を完了している。
 尚、攻撃隊の発進にあたり、慌ただしく下された一航艦指揮官の訓示は以下のようなものだった。

『狙うは無傷の空母のみ。全弾ぶっ放したら、さっさと帰ってこい。今日は敵機とジャレるのは無しだ。その代り、一生分の対艦ミサイルを今日一日で撃たせてやる』

 第一次攻撃隊は一航艦が放った最大の“牙”であったが、唯一のものではなかった。既にこの時、分散して偵察任務中だった二〇四航空隊機が集結を完了、第一次攻撃隊の前衛としてガトランティス機動部隊への攻撃を開始していたからである。その数は二〇機にも満たなかったが、彼らは自分たちが直後に控える攻撃隊の露払いであることを正しく認識していた。
 “地球防衛軍最強”を謳われる二〇四空は、その名に恥じない技量と連携を示し、自らに数倍するガトランティス軍防空隊(CSP)を特定方位に誘引、防空体制に風穴をあけることに成功する。そしてそこから一〇〇機を超える一航艦攻撃隊主力(第一波)が奔流のような勢いで突入したことで、ガトランティス機動部隊にとっての地獄の釜の蓋が開いた。
 突入後、分隊単位に展開した攻撃隊は、とにかく広く浅くガトランティス母艦群を叩き続けた。その点、戦場を広い視野で見渡せるヴェテランパイロットを主力に据えたことが完全に奏功した格好だった。
 これに対し、ガトランティス艦隊にとっての不幸は、一航艦機の来襲が攻撃隊発艦直前という最悪のタイミングだったことに尽きた。各空母の発艦甲板と待機甲板は対艦誘導弾を満載した大型攻撃機群(デスバ・テーターⅥ)で埋め尽くされており、それらを発艦させた後でなければ、防空戦闘機隊の追加発艦もままならなかったのである。当然、各母艦は死にもの狂いで緊急発艦作業を続けていたが、搭載規模が大きいところに敵機来襲の混乱も加わって、攻撃機の避退と防空戦闘機の発艦は遅々として進まなかった。
 そこに、分隊単位で忍び寄ったコスモ・タイガーⅡが新型の大型対艦ミサイル(一式空対艦誘導弾)を撃ち込むと、誘爆が発生したガトランティス空母は面白いように弾け飛んだ。その状況はアンドロメダ級戦略指揮戦艦を上回る規模の超大型空母ですら例外ではなく、一部搭乗員にガトランティス空母には何か致命的な防御上の欠陥があるのではないかと疑念を抱かせたほどだった。



 一航艦による航空攻撃は三次五波にも及び、放たれた攻撃機は延べ五〇〇機にも達した。
 航空隊単独でのスコアは超大型空母六隻、中型空母一九隻撃沈という空前のものであったが、その戦果は航空隊損耗率六割以上という大損害と引き換えによって得られたものでもあった。完全な奇襲に成功したにも係らず、自軍損害が甚大となったのは、連続出撃による搭乗員の疲労といった要素もあったが、最大の要因はやはりガトランティス艦隊の規模の大きさ故だった。
 一航艦攻撃隊は攻撃にあたり、分隊単位に編隊を散開していた。それは、一隻でも多くの母艦を撃破するには効果的であったが、防空側からすれば少数機が単一方位から突入してくる格好となる為、対空砲火を集中することも容易だったのである。また、撃ち漏らした空母から緊急発艦を果たしたガトランティス軍戦闘機もかなりの数に上っており、彼らは艦隊球形陣の中を自軍の対空砲火すら無視して地球攻撃機を追い回した。誤射による撃墜も無数に発生していたが、自らの犠牲に数倍する地球攻撃機を撃墜しており、本会戦では終始主導権を奪われ続けたガトランティス軍航空隊の意地を見せつけている。
 更に、緊急発艦後に退避を命じられたガトランティス軍攻撃機の一部は送り狼となって一航艦を捕捉、対艦攻撃まで行っていた。一航艦の攻撃は防空隊すら残さない全力攻撃であった為、この時、一航艦にエアカバーは存在しなかった。しかし、ガトランティス軍攻撃機が少数であった為、損害は限定されたものに留まっている(最大の損害はレキシントンが対艦ミサイルを一発被弾) 。

 第三次(第五派)攻撃隊帰還時、一航艦稼働機は一〇〇機以下にまで激減していた。しかも、いずれの機体や搭乗員、整備員に至るまで二度から三度の連続出撃で疲労の極みに達しており、また、各空母が搭載する対艦攻撃兵装もほぼ射耗し尽くしていた。つまり、これ以上の航空攻撃は実質的に不可能な状態だったのである。
 これに対し、純軍事的には“殲滅”されてしまったガトランティス機動部隊であったが、それでも超大型空母二隻、中型空母九隻を戦列に残していた。その半数は何らかの損傷を負っていたものの、稼働機は五〇〇機を確保していた。
 未だガトランティス機動部隊の混乱は継続しており、即座に反撃に移れる状態にはなかったが、現在の混乱が収束してしまえば、大損害を受けても尚、一航艦に数倍する航空戦力によって逆襲に転じてくるのは確実と見られていた。しかし、戦闘前から全てを投げ打つ覚悟――乾坤一擲――を固めていた一航艦に、そのような事態を許す気は毛頭なかった。彼らが有する戦力は、なにも艦載機だけではない――。

 一航艦攻撃隊第五派の攻撃終了から三時間が経過し、ガトランティス機動部隊の混乱にもようやく収束の気配が見え始めた頃、ピケット任務についていたガトランティス駆逐艦がタキオンレーダーに反応を捉えた。
 その反応は、今日一日で何度も目にした航宙機の大編隊による“雲”のようなレーダー光跡ではなく、より少数の、しかし非常に明瞭な反応を示す光点群であった。そして、ピケット艦のヴェテランレーダー手がその反応の意味を取り違えることはなかった。

“敵艦隊来襲。敵ハ航宙機ニ非ズ、艦隊也。母艦群ハ至急避退サレタシ”

 ガトランティス軍ピケット艦から発せられた悲鳴のような緊急信は一航艦でも傍受されていた。しかし、彼らはそこに斟酌の要素を一切認めず、地球防衛艦隊伝統の決戦信号を全天に向けて高らかに発した。



“全軍突撃セヨ”

 真っ先に反応したのは、リヴァモア級突撃駆逐艦を主力とする第七宙雷戦隊(臨時編成)だった。本戦隊は各艦隊から引き抜かれた駆逐隊の寄せ集めながら、各艦の基本技量の高さ故に、その艦隊運動には一切の無駄がなかった。
 突撃の先頭に立った戦隊旗艦――オマハ級哨戒巡洋艦『アブクマ』――は緊急信を発し続けるガトランティスピケット艦をショックカノン三斉射で難なく撃破、自らを露払いとした突破前進を継続した。そして程なく、オマハ級の誇る高出力タキオンレーダーがガトランティス機動部隊主力を捉える。
 彼らは、ようやく態勢を立て直しかけていたところに、ピケット艦からの緊急信を受け、一層酷い混乱と恐慌に陥っていた。そんな混乱の坩堝に第七宙雷戦隊を先頭にした一航艦が全力で殴りかかったのである。

 『フェーベ沖会戦』第二ラウンドが開幕した瞬間だった。

 ある種奇妙であったのは、殴りかかった一航艦が二〇隻にも満たない小艦隊であったのに対し、殴りかかられたガトランティス機動部隊は護衛艦艇だけでも未だ一〇〇隻以上を残す大艦隊だったことだ。一航艦の航空攻撃は空母群に対して集中するよう徹底されていた為に、護衛艦艇には殆ど手はつけられていなかったのである。
 しかし、ガトランティス艦の多くは航空攻撃に続く敵艦隊来襲の報に激しい恐慌をきたしており、独断で変針・転進する艦が続出した(損傷した空母の救援や撃沈艦の乗員救助に当たっている艦も多かった)。その結果、なんとか統率を維持している護衛艦艇の集結と再布陣も困難を極め、辛うじて一航艦の前に立ち塞がることができた少数の護衛艦艇も、蹴散らかされるように各個撃破されてしまう。
 それでも、そうした贖罪羊で稼いだ時間を用いて、ガトランティス護衛艦隊もどうにか集結と統率の回復に成功した。その数は三〇余隻。本来ならば軽く五〇隻は揃えられる筈であったが、モラル・ブレイク寸前の混乱がそれを許さなかった。
 とはいえ、ガトランティス艦艇は地球艦と比べて遥かに規模が大きく、最小クラスの駆逐艦ですら地球巡洋艦並みのサイズを誇る。故に、それらのガトランティス艦が統率のとれた反撃を開始すると、それまでほぼ無傷だった七宙戦各艦にも損害が続出した。
 特に戦隊先頭を航行するアブクマにはガトランティス護衛艦隊の砲火が集中し、短時間で全火力を失ってしまう。だが、満身創痍のアブクマはそれでも麾下の駆逐隊を守るかのように戦隊先頭を死守、辛うじて被弾を免れているアンテナから各種タキオン波を放ち続けていた。
 しかし、それにも限界が訪れ、機関部への致命的な一撃によってアブクマは巨大な光球と化す。

 ――だがこの時、既に七宙戦による“死刑執行”は開始されていた。



 突撃時の単縦陣を、熟練乗員に操られた駆逐艦だけに可能な鮮やかな機動で解き放った各駆逐隊は、自らが抱えた多数の長槍――宇宙魚雷――を全弾投射していたのである。地球防衛艦隊宙雷戦隊の誇る必殺戦術、“統制宇宙雷撃”だ。
 その発射管制は、既に亡きアブクマから送られてきたデータに基づいており、それを託された各突撃駆逐艦にとっては文字通りの復讐戦だった。
 地球艦随一と評されるオマハ級哨戒巡洋艦の索敵・管制データに基づく統制雷撃はガトランティス護衛艦隊に破滅的な効果をもたらした。三二隻中一四隻が撃沈、若しくは大破漂流していることに加え、撃沈艦の中には護衛艦隊旗艦と次席指揮官の座乗艦が含まれていたからである(アブクマは通信傍受により二艦を特定し、最優先攻撃目標としていた)。実に半数近い戦力が残骸と化し、正・副両指揮官まで失ったことで、ガトランティス空母群を守る最後の盾はここに潰えた。
 対する七宙戦だが、宇宙魚雷投射直後に一斉に転舵、全速で離脱を開始したものの、発射した宇宙魚雷が着弾するまでガトランティス艦艇の強力な中距離砲火力に打ち据えられ、突撃した九隻の駆逐艦の内、実に五隻が撃沈されている。
 ガミラス艦艇の中口径以下のフェーザー砲にも十分抗堪し得ると評価されていたリヴァモア級突撃駆逐艦であったが、非常に高い射撃速度を誇るガトランティス軍回転式速射砲塔の威力と手数は、明らかにガミラス軍の砲熕兵器のそれを上回っていた。その結果、ガトランティス艦の射程内にまともに飛び込んだ宙雷戦隊にも予想以上の大損害が発生してしまったのである。
 しかし、彼らの犠牲は決して無駄にはならなかった。七宙戦の雷撃によってガトランティス護衛艦隊は完全に組織的抵抗能力を失い、その後のフェーベ宙域は速度差からやや遅れて殴りこんできたヤマトと空母戦隊の草刈り場と化したからだ。
 既に壊乱状態のガトランティス機動部隊に対し、戦艦級艦艇六隻の火力は圧倒的だった。特に一六インチ以上のショックカノンは自らが有効射程と規定する距離内ならば、いかなるガトランティス艦をも一撃で射貫した。
 ガトランティス機動部隊にもカハマルカ級巡洋戦艦をはじめとして同規模のショックカノンを有する艦艇も存在したが、これらはいずれも艦橋基部に設置された前方へ向けた固定砲であった。故に、後方へは射界が取れず、殿として踏み止まる(艦首を地球艦隊に向ける)決意を固めない限り、全く役に立たなかった。当然、地球艦隊はそうした戦意の高い(蛮勇に近いところもあるが)ガトランティス艦から優先的に叩き続けることで、反撃を許さなかった。
 実のところ、アマギ級宇宙空母も艦尾側砲塔を持たないという点で同様の問題点を抱えていたのだが、こと一方的な追撃戦においてはそれが問題点として表出することはなかった。
 五隻のアマギ級は六門の主砲のみならず各種誘導弾、パルスレーザー砲まで総動員してガトランティス機動部隊を叩き続けた。艦列入り乱れての近接戦闘であった為に、アマギ級にも少なくない被弾があったが、戦艦譲りの艦体は極めて頑健であり、最後まで戦闘力を失うことはなかった。
 本戦闘においては、ヤマトとアマギ級が生き残りのガトランティス空母群を集中的に攻撃した為、他艦艇はアルジェリー級宇宙巡洋艦三隻が主に引き受ける形になった。
 『シラネ』『ザラ』『マクシム・ゴーリキー』から成る臨時の巡洋艦戦隊“第一三戦隊”は、リヴァモア級突撃駆逐艦並みの戦術機動性能に、他国であれば戦艦並みの重武装というアルジェリー級の特長(その分、居住性と防御力は低い)を発揮し、ヤマトと空母群にせめて一矢報いようとするガトランティス護衛艦を情け容赦なく血祭りに上げた。
 特に、戦隊旗艦のシラネは単独で三隻のガトランティス駆逐艦を同時に相手取り、主砲・副砲・宇宙魚雷の個別管制によって、三艦同時撃沈という離れ技を達成している。その戦闘指揮があまりに鮮やかであった為、後の地球防衛軍空間戦術教本にも掲載された程だ。

“集マレ、集マレ”

 第一航空艦隊による血に酔ったような殲滅戦は二時間以上にも及んだ。この間、ガトランティス軍は全ての空母と巡洋艦級以上の護衛艦艇を失い、僅かな残余は散り散りとなって逃亡していた。
 艦載機戦力で一〇倍以上、艦艇数でも軽く五倍を超える戦力差を覆した第一航空艦隊であったが――自らの損害もまた甚大だった。
 第七宙雷戦隊は旗艦アブクマを含めて七隻を失い、生き残ったのは突撃駆逐艦が僅か二隻のみ。アマギ級の直衛についていた三隻のアルジェリー級宇宙巡洋艦も、アカギへ体当たりを敢行しようとしたガトランティス駆逐艦を身を挺して防いだ“マクシム・ゴーリキー”が轟沈していた。
 また、主力であるヤマトとアマギ級にしても、一応は戦闘航行可能と判定されていたが、実際はどの艦も中破程度の損害を受けおり、前述した通り航空隊の稼働機も一〇〇機を切っていた。しかも艦載機は各種弾薬、特に対艦攻撃兵装が著しく不足しており、機数分の攻撃力を発揮させることも最早困難な状況だった。
 戦史的にはワンサイドゲームと伝えられることの多い“フェーベ沖会戦”だが、殲滅した側の第一航空艦隊も戦力の大半を使い潰しており、実質的にはこちらも“壊滅”状態だった。
 しかし、彼らには補給も撤退も、休息すら許されなかった。
 この時、バルゼー提督麾下のガトランティス帝国軍前衛艦隊を正面から迎え撃った地球防衛艦隊主力は、ガトランティス軍の秘密兵器“火炎直撃砲”により、追い詰められつつあったからである。

〇“カッシーニ”の惨劇


 自らの決戦兵器――拡散波動砲――の射程の二倍の距離から一方的に叩かれ続け、全戦力の二割が無為に失われるという事態にも、地球防衛艦隊は辛うじて統率を維持していた。艦隊の要職を占めていたのが土方提督をはじめとするガミラス戦役を戦い抜いたヴェテランたちであったからこそ可能な芸当だった。
 しかも、この時点で土方提督は“火炎直撃砲”の原理をほぼ正確に推測しており、当初予定していた戦策――統制波動砲戦――を放棄、“土星の環”に新たなる決戦場を求めようとしていた。しかし、嘗ての大ガミラス帝国宇宙軍以上に艦隊の高速機動に長けたガトランティス軍の追撃は苛烈であり、転進後の後退と態勢の立て直しは困難を極めた。
 その為、土方提督は戦力的には限界に達していると知りつつも、一航艦へ近接航空支援を求めざるを得なかった。対する一航艦側も、両軍の通信傍受と各種センシングによって戦況をほぼ正確に把握していた為、一航艦指揮官は稼働全機に出撃を命じる。一部参謀からは、対艦攻撃兵装の不足と搭乗員の疲労を理由に出撃を見合わせるよう強硬な意見具申もあったが、一航艦指揮官が首を縦に振ることはなかった。

『皆すまん。疲れているだろうが、もう一働きしてくれ。今、防衛艦隊主力を救えるのはお前たちしかいないのだ』

 会戦前に比べて激減した搭乗員たちを前に訓示に立った一航艦指揮官はそう言って深く頭を垂れたと言われている。
 沈没艦からの脱出者救助に突撃駆逐艦二隻を残し、後退後の再集結地点に指定された“カッシーニの隙間”へと急行する一航艦から発艦した第四次攻撃隊は九二機。特に対艦攻撃兵装の不足は深刻で、一部の機体は空対空誘導弾のみを搭載しているような有様だった。
 一航艦に先行した彼らは、防衛艦隊主力を追撃するガトランティス軍前衛艦隊の後背から襲撃運動に入った。だが、対艦攻撃兵装の不足ばかりは如何ともしがたく、撃沈・撃破といった戦果は非常に限られたものでしかなかった。また、一部参謀が懸念した通り搭乗員の疲労は既に限界を越えており(多い者で本会戦四度目の出撃だった)、敵機による迎撃が無かったにも係らず未帰還率も非常に高かった。
 しかし、それらだけを以ってこの航空攻撃が戦果希少であったと評価してしまうのは誤りだ。なぜなら、この攻撃はガトランティス帝国前衛艦隊指揮官――バルゼー提督――の判断に大きな影響を与えたと考えられるからである。
 元々、堅実な用兵家として知られるバルゼー提督は、本会戦においても圧倒的制空権下での艦隊決戦を企図していた。事実、彼が用意した空母部隊は質・量共にその要件を十二分に満たしており、彼の描いた戦術構想は決して絵空事などではなかった。
 しかし、圧倒的に優勢な自軍空母部隊が一瞬と評する他ない短時間で撃滅されたことが、彼の戦術判断に大きな影を落としてしまう。具体的には、地球側航空隊の対艦攻撃能力に対する過大評価だ。
 だが、ある意味ではそれも当然だった。取るに足らない小勢と思われた地球空母艦隊(ガトランティス軍は地球母艦戦力をほぼ正確に把握していた)が一〇倍以上の規模を誇る強大なガトランティス機動部隊を根こそぎにしてしまったのである。しかも、艦隊殲滅の混乱で、戦闘の実相は断片的にしか伝わっていなかったことから、バルゼー提督としては、地球側艦載機の攻撃力が異常に高いか、ガトランティス軍が認知していない多数の地球空母が存在するとしか考えられなかった。
 その為、敵機来襲を知らされたバルゼー提督が最も懸念したのは、地球側による大規模な航空攻撃であった。この時、空母を編成に含めていなかった前衛艦隊のエアカバーは皆無であり、提督の懸念は極めて妥当なものであった。
 その結果、当初は“土星の環”へと逃げ込んだ地球防衛艦隊主力を“環の外側から”アウトレンジ攻撃をすることを企図していたバルゼー提督は、“環”への進入を決意してしまう。星間物質や小惑星密度の高い土星の環の中では、艦艇に比べて遥かに脆弱な航宙機は戦闘行動が非常に困難であったからだ(以上のガトランティス軍の方針変更は、会戦時に傍受された艦隊内通信が後に解析されたことで判明した)。
 だが、このバルゼー提督の判断は完全に裏目に出る。土方提督の狙いはまさしくその一点――ガトランティス艦隊を“環”の中へ誘い込む――にあり、以後の会戦は土方提督の描いた戦術構想のままに展開していくことになる。
 “環”の中で放たれた火炎直撃砲は、その超高温エネルギーが“環”に大量に含まれる氷塊と接触したことで、予期せぬ水蒸気爆発を発生させた。その結果生じた空間衝撃波と飛び散った無数の小惑星・小破片がガトランティス艦隊に襲い掛かり、艦隊は大混乱に陥った。これに対し、事態をほぼ正確に予期していた地球防衛艦隊主力は一斉に反転、自位置の保持すらままならないガトランティス艦隊に対し、近接砲雷撃戦にて一気に殲滅を図る。



 火力と機動力に優れるものの、防御力に難があるとされるガトランティス艦艇は守勢に回ると思いのほか脆く、ここでの戦闘は後に“虐殺”とまで言われる程の一方的な殲滅戦となった。更に、戦闘終盤にはフェーベ沖から急行してきた一航艦がガトランティス艦隊の後背から長距離砲撃を開始し、ほぼ包囲戦の様相すら呈するようになる。
 もし土星圏での戦闘がこれで終了していれば、本会戦は地球防衛艦隊の大勝利として記憶されたことだろう。この時点で、地球艦隊は規模では自らの五倍以上にも及ぶガトランティス艦隊をほぼ完全に殲滅し、対する自軍の損害は三割程度(撃沈だけでなく損傷による戦線離脱も含む)に過ぎなかったからだ。しかし、彼らを襲う悲劇は、その勝利の絶頂で唐突に発生した。それも――第一航空艦隊の背後に。
 土星圏での戦闘が開始される直前、あらゆる地球側哨戒網から姿を消し去った白色彗星が、短距離ワープによって一航艦の後方至近に突如出現したのである。そして、その強大極まりない超重力波は艦隊後方に位置していたアマギ級宇宙空母群と巡洋艦ザラを一瞬で絡め取り、重力嵐の中で文字通り“揉み潰した”。
 残るヤマトとシラネは位置関係が幸いし、宇宙空母やザラのように即座に超重力波に囚われることはなかった。しかし、影響圏外へ脱するには両艦共に推力が足らず、彗星中心部へと徐々に引き込まれ始めた。



 だがここで、シラネの女性艦長が咄嗟の決断を行う。意図的にシラネをヤマトへと接触させ、その衝撃で両艦を超重力波の圏外まで弾き飛ばすことを企図したのである。

『シラネでヤマトを押し出す!機関停止、応急準備、総員衝撃に備えよ!』

 勿論、五倍以上の質量を持つ戦艦に自ら激突した巡洋艦がタダで済む筈もなく、最悪の場合、衝突の衝撃だけで爆沈する可能性すらあった。それを危惧し、躊躇する艦橋士官たちに、シラネ艦長は重ねて命じた。

『このまま二隻揃って潰されたいのか!?
 遠慮するな、むこうは戦艦だ。沈めるつもりで思い切りぶつけろ!!』

 彼女の言う“沈める”が何を対象としていたのか定かではない。しかし、結果的に彼女の決断は吉と出た。衝突による人的・物的損害はヤマト・シラネ共に甚大だったものの、互いに弾き合った両艦は、その運動エネルギーを利用して白色彗星の影響圏外へ離脱することに成功したからである。
 その後、ガニメデ要港部へと落ち延びたヤマトは緊急修理により戦線へ復帰したが、規模において自らに数倍する戦艦へ衝突したシラネの損害は非常に大きく、タイタン鎮守府到着後、復旧の目処なしとして放棄されている。

 ヤマトとシラネが操舵不能のまま戦線離脱したことにより、フェーベ沖の栄光を担った地球防衛艦隊初の空母機動部隊――第一航空艦隊は壊滅した。
 しかしそれは、地球防衛艦隊を襲う“惨劇”の始まりにしか過ぎなかった。この後、地球防衛艦隊主力は白色彗星に対する統制波動砲戦を決行。白色彗星を構成する中性子雲の除去には成功したものの、その中から出現した都市帝国との戦闘によって殆どの艦艇を喪ってしまうのである。乗艦していた多数の宇宙戦士達と共に――。

――つづく


どう考えても文字数制限に達してしまうので、前回のアキヅキ級と同じく『中編』として一旦区切りを入れることにしました(^_^;)
世間様では1/1000ガイペロン級多層式航宙母艦(三段空母)ランベアの発売で盛り上がっているところですが、ウチはちと毛色の違う空母でいきます(笑)
この『アマギ級宇宙空母』中編におけるメインは、言うまでありませんが土星宙域での白色彗星帝国と地球防衛艦隊のガチンコ決戦です。
数あるヤマトシリーズで最も好きな場面でして、それをこうして文章化できたことに、今は大変満足しています♪(≧∇≦)♪
基本的な流れは『宇宙戦艦ヤマト2』の第20話と21話を下敷きにしていますが、あちこちに自分好みの演出と味付けを加えました。
特にフェーベ沖会戦は、原作では地球空母部隊のワンサイドゲームでしたが、“我が家”では地球側も航空隊、艦船共に満身創痍の損害を受けてしまいます。
まぁ、彼我の戦力格差を考えれば、これでもまだまだ“甘い”気がしているのですが w

それにしても、『2』の土星決戦はいつか是非2199クオリティーで見てみたいですね(^o^)
今回、フェーベ沖の展開をあれこれと妄想しながらプラモデルを並べて写真を撮りましたが、その間中、子供のようにワクワクしていました(〃∇〃)エヘ

それと、本作でもEF12様に御了解をいただき、『星海の閃光』より某女性艦長様に客演いただきました。
“我が家”世界における女性艦長は『星海の閃光』とは少し違う人生を歩んでおられまして、果たす役割や乗艦も微妙に(笑)異なります。
本作での女性艦長はボロディノ級主力戦艦『サガミ』の艤装員長(初代艦長の最有力候補)を拝命していましたが、『サガミ』は“仕分け”によって建造凍結になってしまいます。
ですが、実戦経験豊富な艦長クラスの人間を遊ばせておく余裕などないということで、急病で艦長が空席になっていたアルジェリー級宇宙巡洋艦『シラネ』の艦長に横滑りしました。
ヤマトと衝突したことで残念ながら『シラネ』は損失扱いになってしまいましたが、その名はきっと後の新鋭艦に引き継がれることでしょう(笑)

さて、宇宙空母のラストを飾る後編では、ようやく改アマギ級であるグローリアス級が登場します。
うーーーん、やっぱり後編の完成まで二ヶ月くらいはかかりますかねぇ(;^_^A アセアセ・・・
でも、その前に引っ越しを考えなきゃw

コメント (29)
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グローリアス級宇宙空母(改アマギ級宇宙空母) 前編

2013-02-28 23:23:30 | 1/700 宇宙空母(SOY-YA!!)
 『アマギ級宇宙空母』並びに、その準姉妹艦である『グローリアス級宇宙空母』は地球防衛艦隊初の空母型戦闘艦艇として知られる。しかし、その定義はいささか曖昧であり、あくまで艦種類別上の結果論に過ぎないとする意見もある。
 本級計画当時の地球防衛軍は、多数の艦載機を搭載・運用可能な戦闘艦艇の建造経験に乏しかった。数少ない実績にしても、一個戦闘航空隊を搭載し、実質的には“航空戦艦”であった宇宙戦艦ヤマトと、民間船を小改装した特設艦船群に限られた。



 特設艦船における空間用航空機(航宙機)運用の歴史は、ガミラス戦役中期にまでさかのぼることができる。
 波動機関を持つ者/持たざる者の差から、艦艇性能において圧倒的な格差が存在した地球と大ガミラス帝国であったが、それは航空機用機関においても同様だった。しかし、圧倒的戦闘力を発揮したガミラス軍機も、艦艇と比べれば規模と耐久力で大きく劣る為、当時の地球の貧弱な軍事力でも辛うじて撃墜・撃破が可能であり、事実、戦役勃発後の早い時期に、大部隊を投入してのガミラス軍機の回収が試みられ、甚大な損害と引き換えに、撃墜機の回収に成功している。
 回収された撃墜機は直ちに解析が行われ、ガミラス航宙機の機関が非液体燃料式の動力機関であることが判明した。しかし、機関への供給経路などから燃料タンクと推測された機内スペースは回収時点で完全に“空”であり、解析を担当した研究者たちを長期に渡って悩ませることになる。ガミラス軍機の撃墜から回収に至るまで、作戦を指揮した地球防衛軍は完全なモニタリングを行っていたが、何度状況を確認しても、撃墜機が燃料を投棄した形跡が全く見られなかったからだ。
 当時、ガミラス機解析チームに加わっていた研究者(後にノーベル物理学賞を受賞)は、後年の自著で『ガミラス機は霞を食って飛んでるんじゃないかと思った』と述べていることからも、彼らの苦悩ぶりが窺える。
 彼らが苦悩から解放されるには、損傷したガミラス艦艇が地球防衛艦隊に捕獲されるのを待たねばならなかった。ガミラス艦の機関を分析した結果、“波動機関”とその燃料としての“タキオン粒子”の存在が初めて確認されたからである。宇宙エネルギーの一種であり、超・光速粒子であるタキオン粒子を当時の地球人類は理論上でしか認知できていなかったことを思えば、研究者の言う“霞を食って”という表現もあながち間違いではなかった。
 ガミラス軍が使用する機関は、広義においては艦艇用・航空機用共に『波動機関』であったが、機能上の差異は非常に大きかった。艦艇用波動機関は、タキオン粒子の“捕集”と、捕集した粒子から膨大なエネルギーを得る過程で必要な“濃縮”というプロセスを機関内で行っているが、航空機用機関はいずれの機能も有していなかったからだ。これにより、航空機用機関は艦艇用に比べて大幅な小型化と簡易化を果たしていた。また、艦艇用機関はワープ航法時の大出力に耐久可能な堅牢さが求められるが、ワープを行わない航空機用機関にはそこまでの強度は不要であり、一層の簡略化・低コスト化が可能だった。
 以降、地球防衛軍はガミラス軍が使用する機関の模倣に全力を注ぎ、まずは航空機用において大きな成果を挙げることになる。艦艇用機関もこの時期までに一応の実用化を果たしていたが、波動機関の出力増幅に不可欠な“濃縮”と『波動触媒』の問題をクリアーできず、深刻な出力不足に喘いでいた。これに対し航空機用機関は、低濃縮状態のタキオン粒子(タキオン燃料)を艦艇用機関等から外部供給してやれば、ほぼ計画通りの出力が発揮でき、製造コストの面も窮乏状態にある地球で量産が可能な範囲に収まっていた。
 尚、航空機用簡易波動機関が艦艇用と明確に区別され、『タキオン・エンジン』や『コスモ・エンジン』と呼称されるようになったのはこの頃からと言われている(“タキオン・エンジン”実用化までの経緯・詳細については別章を参照されたい)
 そして2196年、『タキオン・エンジン』を搭載した人類初の実用空間戦闘機『九六式宇宙戦闘機“コスモ・タイガー”』が実戦配備に至る(増加試作機の実戦参加は2195年から行われていた)。同機は初めてガミラス軍航宙機に匹敵する性能を有するに至った『名機』として知られ、その搭載機関は燃料噴射技術の未熟と冶金技術の限界から、航続距離や耐久性の面で未だ改善の余地を残していたものの、こと短時間の発揮出力については初めてガミラス軍機に伍する性能が得られた。
 航続距離の不足から、初期の投入局面は拠点防空に限定されたものの、本機の登場によって少なくとも同数以上の空戦でガミラス軍機に後れをとることはなくなり、戦術的奇襲に成功した際などは、一方的にガミラス機を殲滅することすら可能になった。
 当時、ガミラス軍が太陽系に持ち込んでいたのは、同軍内でも旧式に属する機体が大半であったとはいえ、地球が初めてガミラスに匹敵する軍事的要素を獲得したことは画期的事態であり、圧倒的劣勢下での戦闘を強いられていた地球の防人たち――地球防衛艦隊にとっては大きな福音だった。
 そして、地球航宙機初の名機“コスモ・タイガー”の名は、後の傑作機『一式宇宙戦闘攻撃機“コスモ・タイガーⅡ”』にも受け継がれることになる。

 埋めようのない艦艇性能差、溶けるように失われていく戦力、日に日に縮小していく人類生存領域――そうした絶対的劣勢下において、地球防衛艦隊が数少ないイーヴン要素である空間用航空機の前線投入を試みたのはある意味必然だった。2197年、幾多の尊い犠牲の末に、自軍航宙機の性能に対する自信を深めた防衛艦隊は、一〇隻を超える空間用航空機運用艦艇の急速整備を開始する。
 とはいえ、既に一線戦闘艦艇の補充にすら事欠く当時の地球に、多数の新規専用艦を建造するような余裕がある筈も無く、整備されたのは全て徴用した民間船舶からの改装艦であった その改装にしても、大型カーゴシップの船外デッキに駐機スペースと最低限の航空艤装を施しただけの極めて簡素なもので、原則として機体は露天繋止、整備作業も重船外服を着用して真空下で実施しなければならなかった。
 平時であれば絶対に採用されることのない(運用安全基準を到底満たせない)艦であり、その用途から誰もが思い浮かべるであろう艦種名で――航空(宙)母艦と――呼ぶ者は皆無だった。艦種類別上の正式名称は『空間用航空機支援艦(略称:航空支援艦)』とされたが、この名称は殆ど普及せず、関係者が自嘲混じりに呼んだ『CAMシップ』『MACシップ』の方が、遥かに通りが良かった。
 だが、あまりの簡素さと運用の危険さ故に艦隊配備当初はパイロットの乗艦拒否すら発生した『航空支援艦』が、実戦においては少なくない戦果を挙げることになる。



 当時の地球防衛艦隊は守勢防御を徹底しており、艦隊行動から落伍したガミラスの独航艦襲撃を常套戦術としていた。その際、艦隊はアステロイドベルトを根城として活動していたが、あまりに広大なアステロイドベルト全域に航宙機を運用可能な基地を設置できる筈もなく、前述した航宙機の足(航続距離)の短さもあって、非常に限られた状況下でしか航空支援を実施することができなかった。
 しかし、航空支援艦の戦場展開に成功すれば、艦隊はいかなる状況下でも航空支援を享受することができた。懸念されていた速力や防御力の不足も、直接戦闘域には決して近づけないという慎重な運用に徹すれば、充分に許容可能なレヴェルであった。“戦闘艦”としてではなく、リロケータブルな簡易航空基地、いや“野戦飛行場”として割り切ってしまえば、防御に徹した地球防衛艦隊にとって本艦は非常に使い出のある艦だったのだ。
 また、航空支援艦の投入によって、“艦載機”に対する評価も急速に変化していった。艦載化に伴い『九六式宇宙艦上戦闘機』に改称された“コスモ・タイガー”は、当初は防空や空間打撃戦における艦隊直掩が主任務とされていたが、足の短さを補うことが可能な母艦の存在によって投入局面が激増したからだ。
 従来であれば投入が躊躇されるような長距離索敵や追尾、攪乱といった大距離進出を伴う任務にも艦載機ならば投入可能であり(最悪、燃料切れに陥っても母艦が回収に向かうことができた)、しかも大抵の場合、艦艇を投入するよりも効率的且つ効果的だった。
 その事実は、常に戦力不足に悩まされていた艦隊指揮官たちを何よりも喜ばせた。極論すれば、支援任務には費用対効果に優れる艦載機を充て、正面戦闘においては稼働全艦艇を戦場に叩き込むことが可能になるからである。
 さすがに、この時期の空間用航空機は対艦攻撃能力に乏しく対艦戦闘の主役にまで躍り出ることはなかったが、母艦とセットになることでどれほどの威力(戦力柔軟性)を発揮するかは完全に証明された。
 ガミラス戦役が自然休戦に至るまでに建造された特設航空支援艦は、実に二八隻。それらの機動力・防御力は(ソフト面はともかく)ハード面では民間船舶と殆ど変わらず、仮にガミラス艦と遭遇すれば十死零生は確実であり、事実、休戦まで生き残った支援艦は僅か三隻、内一隻が大破状態という惨状だった(健在な二隻はガミラス戦役末期の『太陽系外縁会戦』において第三〇二航空隊を発艦させた『八幡丸』と『リオ・ハドソン』)。
 本来、艦載機発艦後は安全な戦場後方で待機している筈の支援艦が突撃駆逐艦並みの損耗率を強いられるに至った原因は、敵手であるガミラス軍にあった。『“静かの海”直上会戦』後に大ガミラス帝国軍太陽系派遣軍司令官に就いたバルケ・シュルツ中将は過去の自軍損耗を詳細に分析した結果、航空支援艦の脅威を正しく認識し、最優先攻撃目標とするよう命じていたからである。
 しかし、九割を超える損耗率を前にしても地球防衛艦隊の“艦載機”と“母艦”に対する評価は変わらなかった。それ故に、当時策定が開始されたばかりの『地球脱出船計画(アーク・シップ計画)』に基づき建造された各種艦船には、いずれも居住区画を削ってでも巨大な艦載機搭載・運用区画が確保された。その努力は後に『宇宙戦艦ヤマト』と、そこに搭載された第二〇四航空隊(通称:ヤマト航空隊)として結実することになる。



 ヤマトは、往時の水上戦闘艦を彷彿とさせるスタイルと『宇宙戦艦』という艦種類別名から“戦艦”としての印象が強いが、正しく地球防衛艦隊初の航宙母艦でもあった。なぜなら彼女は、規模は増強一個航空隊(約二〇機)という最小規模ながら、『整備』『出撃』『帰還』『再整備(放熱含む)』という一連の艦載機運用サイクルを他からの支援を受けることなく単独で実施可能だったからである。これに対し、従来の特設航空支援艦は艦内設備の不足から艦載機の再出撃はほぼ不可能(放熱設備の不足から帰艦機の投棄すら珍しいことではなかった)だったから、自己完結性という点において“航宙母艦”の名を冠するには厳しいところがあった。
 ヤマトに搭載された第二〇四航空隊は、熟練パイロットを集めた選りすぐりの精強部隊であったことやイスカンダル往復中も継続して実施された機体アップデートにより、搭載機数からは俄に信じ難い程の活躍を示すことになる。それどころか、航空隊の存在と適切な運用が無ければヤマトの任務達成は不可能だったとまで公式に評されたほどだ。そしてその評価が、ガミラス戦役自然休戦後の2200年より開始された地球防衛艦隊再建計画にも少なくない影響を及ぼすことになる。
 より具体的には、航空隊関係者から多数寄せられた航宙機運用に特化した専用艦艇――本格的航宙母艦の整備要求だ。航空隊関係者はヤマト航空隊が示した活躍と、太陽系外縁会戦における第三〇二航空隊の成果を示した上で、より大規模且つ抗堪性の高い専用母艦の必要性を説いていた。
 また、専用母艦が搭載する艦載機隊の主任務も、当面は艦隊防空並びに各種支援任務に留まらざるを得ないが、大威力の対艦攻撃兵装と専用機体の開発促進によって、将来的には積極的攻撃任務への投入すら可能であるとまで謳っていた。
 航空隊関係者――“航空屋”“飛行機屋”などと呼ばれていた――が提示した航宙母艦試案の概要は以下のようなものだった。

 ・ボロディノ級主力戦艦の外殻・機関を流用した五万トン級艦艇。
 ・波動砲,ショックカノン等の大威力火砲装備は全て削除。
 ・其れによって生じる艦内余剰スペースを格納庫・弾薬庫・整備区・支援要員居住区に充当。
 ・同じく、火砲削除によって発生する余剰エネルギーは、各種シールド機能及び速度性能向上に充当。
 ・装甲部材,構造材は艦載機運用上の制約が生じない限り、ボロディノ級用をそのまま使用。
 ・搭載機は平時三個航空隊(五〇~六〇機)程度を想定するが、戦時においては一個航空隊程度の増強が可能な格納/駐機区画及び支援設備を有する。

 単に従来艦艇より多くの艦載機を運用できるというだけでなく、波動機関を搭載することで他の一線艦艇に余裕をもって追随できるだけの機動性能、更には戦艦譲りのタフネスさまで兼ね備えるという、まさに地球防衛艦隊初の、そして航空隊関係者がガミラス戦役中から夢見てきた念願の本格航宙母艦であった。
 しかも、初の本格母艦というコンセプト上の斬新さとは対照的に、試案艦の構造や建造・艤装にあたっての方針は非常に堅実なものだった。計画書に添えられた試算では、本艦の建造コストはほぼ同規模のボロディノ級主力戦艦の凡そ七〇パーセントで実現可能と報告されていた。多数の艦載機を運用するには不可欠な航空艤装も高額な装備であったが、高価なレアメタルを大量に用い、高度な精製・加工精度を要求される各種波動兵器(波動砲・ショックカノン)とその関連設備(エネルギー伝導管など)のコストには到底及ばなかったからだ。
 以上を総合すると、本試案は堅実且つ合理的、軍人が最も重視する実績に裏打ちされ、更には軍事理論的普遍性まで有していた。つまり、常識的に考える限り、本試案は非常に実現性の高い計画と考えられたのである。
 しかし――あまりにも提案時期が悪過ぎた。

『地球を救ったのは宇宙“戦艦”ヤマト』

 試案の前に立ち塞がったのは、まさにこの一言だった。
 彼女が打ち立てた実績はあまりにも巨大且つ偉大であり、その搭載航空隊が示した活躍も決して無視はできないものの、所詮は補助的要素(つまりは脇役)に過ぎない――それが当時の地球防衛軍全体を満たしていた空気であり、大勢だった。
 当然、隷下組織である地球防衛艦隊や艦政本部も同様であり、急ピッチで進行中の地球防衛艦隊再建計画にしても、ショックカノンと波動砲を搭載した空間打撃戦用艦艇が最優先整備対象とされていた。言い換えれば、ショックカノンも波動砲も搭載しない艦は当時の地球防衛艦隊にとっては補助艦艇に過ぎず、調達優先順位も二の次三の次でしかなかったのだ。
 そうした状況故、航空隊関係者の意気込みと期待とは裏腹に、試案に対する視線は当初から冷淡極まりなかった。鉄砲屋(砲術士官)の最右翼と言われた、とある提督などは試案検討会の席上、この艦を四隻揃えられる予算があるのならボロディノ級を新たに三隻追加建造すべきだとまで言い放ったほどだ。



 更に、本試案最大の魅力であるボロディノ級の設計・資材・建造設備をほぼそのまま流用できる点についても、この時期はマイナスに働いてしまう。
 当時、ガミラスの復讐を何よりも恐れる地球連邦政府と防衛軍は、使用可能な建造設備と入手可能な資源をフルに用いてボロディノ級主力戦艦の量産に邁進していた。試案艦建造には規模的にボロディノ級が建造可能な設備を要するが、それらはボロディノ級の新規建造と建造済み艦の整備維持で完全に占められており、試案艦の建造を割り込ませる余地はどこにもなかったからだ。つまり、試案艦を建造しようとすれば、既に予定されているボロディノ級の建造を延期するか削減するしかなく、“波動砲至上主義”“大艦巨砲主義”に染まり切った当時の政府(と市民)、そして地球防衛軍が容易にそれを認める筈がなかった。
 あるいは、飛行機屋と呼ばれた人々にもう少し政治力があれば少なからず状況は変化していた可能性もあったが、鉄砲屋や宙雷屋に比べて歴史の浅い飛行機屋は部内の力関係においても常に劣勢だった。
 その結果、当初は実現性が高いと考えられていた航宙母艦試案は『過剰装備』『時期尚早』として葬り去られてしまうことになる。
 しかし奇妙なことに、本試案の検討会は解散するどころか、規模を更に拡大して継続されることが早い時期から決められていた。そこで討議されるのは、試案検討中に持ち上がったより大きな課題――艦隊防空――についてであった。

 波動砲搭載戦艦の建造に血道を上げる鉄砲屋たちといえども、長年に及ぶ苛酷な実戦を潜り抜けてきた数少ない生き残りであったから、艦隊防空の重要性は理論的にも経験的にも十二分に理解していた。またその理解は、艦載機が持つ各種支援任務に投入可能な柔軟性にまで及んでおり、この時代の鉄砲屋たちは(後の時代に一部研究者が酷評したような)己の主義に溺れ、現実が見えなくなった人々などでは決してなかった。
 当時想定されていた、再来襲時のガミラス艦隊戦力見積は最低でも三千隻。最悪の場合、万の単位に及ぶとまで予想されていた。これに対し、今後五年以内に地球防衛艦隊が実戦配備可能な中型以上の一線級戦闘艦艇は、どれほど背伸びしても三百隻が関の山であり、戦力差は最小でも一〇倍、最大では数一〇倍にまで達すると考えられていた。
 常識的に考えれば必敗確実、抵抗するだけ無駄な戦力差――鉄砲屋たちの主張する“波動砲至上主義”は、まさにこの圧倒的戦力差を理論的根拠としていた。
 最悪数一〇倍もの戦力差を覆すことが可能な兵器は波動砲をおいて他になく、たとえ艦隊構成がバランスに欠けるものになったとしても、数を揃えた波動砲搭載艦を戦力の根幹としていれば、僅かながらも逆転の可能性は残る。これに対し、バランスが良いだけの艦隊では圧倒的戦力差を覆すチャンスすら残らない――それが鉄砲屋たちの主張だった。
 その主張は極論であったが、それであるが故に確かな具体性と現実性を含んでいた。そして当時の地球に、軍・官・民を問わず“波動砲至上主義”以上の具体性をもったビジョン――数十倍にも及ぶ戦力差を覆すビジョンを描けた者は皆無だった。
 故に“波動砲至上主義”は地球防衛艦隊再建計画のドクトリンとして採用されたのである。



 当時の地球の国力では、ガミラスの大規模再侵攻に抗し得る戦備を短期間に揃えることは不可能である以上、リソースの傾斜配分は避けて通れない道だった。しかし、“大艦巨砲主義者”“波動砲至上主義者”と呼ばれる鉄砲屋たちはリソース配分を波動砲搭載艦に最優先しようとしただけであって、決してリソースの独占を図った訳ではない。その証拠に、ボロディノ級主力戦艦には一個中隊規模(八~一〇機)の戦闘機隊の搭載が予定されており、防空任務を担うものとされていた。
 当時編成が目指されていた地球防衛艦隊実戦部隊は太陽系外周艦隊が五個、内惑星艦隊が三個の合計八個艦隊。決戦部隊である外周第一と本国艦隊である内惑星第一だけは二個戦艦戦隊を擁するものの、他の六個艦隊は主力戦艦を一個戦隊しか有しない為、その艦載戦闘機隊は四個中隊、概ね三二~三六機程度となる。
 しかし、本格空母試案の検討会において、航空隊関係者がこの編成に強く異を唱えたことで、皮肉にも試案に対するもの以上の波紋を部内外に広げてしまっていた。
 飛行機屋たちは、この程度の艦載機戦力ではCSP(Combat Space Patrol/戦闘宙域哨戒)として常時滞宙可能な機体数は一個中隊(八~一〇機)程度にすぎず、単艦に対する防空ならばともかく、“艦隊”を対象とした防空任務においては全く心許ないと主張していた。
 そして、その後実施された各種シミュレーションと実艦演習の結果は航空隊側の主張を完全に肯定するものだった。最終的に得られた結論は、三〇隻規模の(標準的な外周艦隊規模の)艦隊に対して効果的且つ継続的なCSPを展開する為には、二個中隊×三直+予備二個中隊、合計八個中隊が必要とされた。
 なればこそ、各艦隊に本格空母が必要――そう論理展開する航空屋たちに対し、鉄砲屋達は全く異なる算術を行っていた。
 現在の防衛艦隊において、艦載機をまとまった規模で運用可能な艦はヤマトを除けばボロディノ級のみであり、それだけで八個中隊(二個航空隊)もの艦載機を搭載しようとすれば、各艦隊にボロディノ級を二個戦隊配備しなければならない。つまり、現在計画中のボロディノ級を二倍近くにまで増強しなければ、そのような防空体制は構築できないことになる。勿論この場合、戦艦の数だけを単純に二倍にすれば良いということにはならず、艦隊全体のバランスを考えれば、エスコート艦である巡洋艦や駆逐艦も増強を図らなければならなかったから、現実的に考えて、とても短期間で完結できるような艦隊編成ではなかった。
 また、航空屋たちが指摘する艦隊防空体制の問題点は、機数や艦数といったハードウェアだけに留まらなかった。
 多数の防空任務機(しかも所属は最大八隻の艦にも及ぶ)を有機的且つ効率的に運用するには、所属艦を超えた統合指揮管制が絶対に必要だった。しかし、ボロディノ級の一般配置に防空任務統制官は存在せず、航空管制設備も貧弱過ぎた。
 勿論それには理由がある。ボロディノ級の仕様決定にあたり最も大きな影響を与えたのは当然、宇宙戦艦ヤマトだった。そしてヤマトには、イスカンダル往復を通じて防空任務統制官は置かれず、一応は設置されていた航空管制設備も殆ど使用されることはなかった。



 ほぼ全員が“教官級”と評されるほどの高い練度と士気を誇り、運用機数も少数に限られたヤマト航空隊であれば、部隊指揮官が機上から直接指揮を行うという(ある意味、非常に古典的な)手法でも殆ど問題は発生しなかった。しかしそれは、平均的練度の搭乗員で構成され、ヤマト航空隊の四倍もの規模にまで膨れ上がった艦隊航空隊には絶対不可能な(そして非効率極まりない)指揮統制手法だった。
 だが、ボロディノ級の航空管制設備は、ヤマトの実績が重視されたこと、単艦ではヤマト以下の航空機数しか運用しないことから等閑同然の扱いを受けていた。管制業務そのものは専門人員の増員配置で解決できなくもなかったが、管制設備の大幅な増強には建造中艦の設計変更と就役済み艦の改装が必要だった。しかしそれは計画艦艇の建造スケジュールのみならず、予定外のドック入りを要するという点で就役済み艦艇の運用計画にまで影響を及ぼす為、問題が深刻化するのは確実だった。
 現在の連邦市民には俄に信じ難い感覚だが、当時の波動砲搭載艦は唯一無二の『決戦兵器』と軍・官・民を問わず認識されており、その配備遅延や運用支障は政治問題にまで発展する可能性があったからだ。
 これらの艦隊防空における問題点は、あまりに性急に進められた地球防衛艦隊再建計画の“ひずみ”に他ならなかった。しかも、後先を考えずに目一杯の規模で取りまとめられた艦隊計画に冗長性は乏しく、その修正は困難を極めた。
 従来の倍にまで達するようなボロディノ級追加建造は予算的にも建造設備的にも絶望的で、かといって空母建造の為に建造決定済みのボロディノ級を削減することも困難。しかし、現計画の欠陥は既に明らかであり、放置することもできない――つまり、完全に手詰りの状況に陥ってしまったのである。
 故に、艦隊防空戦力の充実は艦隊再建計画の第二フェイズ(2205年より実働予定)で実施するという明らかな先延ばしが一時は検討されたが、航空屋たちは本件の政治問題化すら匂わせて、それを許さなかった。彼らは、ヤマトのイスカンダル往復航宙において最大の危機とされた『七色星団会戦』の戦闘経過まで持ち出し、艦隊防空の重要性と現計画における問題点、そして解決の必要性を関係者に主張し続けた。
 そうした主張の中でも、航空屋たちが独自に行った七色星団会戦の戦訓分析は関係者に大きなインパクトを与えたとされる。



 七色星団会戦におけるヤマトの危機、それはヤマト航空隊指揮官 加藤三郎一尉(当時)が同会戦時に漏らしたとされる『もう一個中隊あれば――』という悲痛な呻きに象徴されると言われている。
 大ガミラス帝国宇宙軍屈指の艦隊指揮官、エルク・ドメル上級大将は確かに戦術の天才だった。過去の戦闘記録からヤマト艦載機隊戦力を正確に把握した上級大将は、執拗な攪乱攻撃によって精強ではあるが数が限られるヤマト航空隊を疲弊させる作戦に出た。そして、複数の航宙母艦からの波状攻撃によってヤマトのCSPが継戦限界に達したところで残置していた予備航空戦力を叩きつけ、ヤマトを実質的に戦闘不能、完全大破に追い込んだのである。
 七色星団会戦の経緯は『エアカバーが無ければ、ヤマトといえども決して無敵ではない』『十分な機数を確保できなければ、エアカバーは維持できない』という冷徹な(そして当然の)事実を端的に示しており、大艦巨砲を信奉する鉄砲屋たちにとって非常に苦いものだった。しかし、どれほど苦かろうと航空屋達の指摘が正鵠を得ている以上、頑迷な鉄砲屋であれ、それを完全に無視することはできなかった。
 また、検討当初から艦隊防空能力拡充に一定の理解を示していた中立派の人々がこの頃から鉄砲屋たちの説得に加わったこともあって、検討会の大勢は何らかの形での空母建造を模索する方向へと傾きつつあった。
 尚、ここでの中立派とは軍政畑を歩む高級士官達が大半であったが、空母建造を容認する者の中には宙雷屋の一部も加わっていた。戦艦よりも遥かに脆弱な駆逐艦を主力とする彼らにとっては、敵航空機による攻撃も決して無視できず、特に相互支援が困難な宙雷突撃時において、エアカバーの有無は死活的な問題だったからだ。

 ようやくある程度の方向性が得られた空母検討であったが、未だ問題は山積みだった。いや、それらの大半は、本格空母案が廃案になった時からのものであったから、状況は何ら変化していないと言っても過言ではなかった。
 物理面での最大の問題は、やはり建造施設だった。建造中若しくは建造予定のボロディノ級を削減しない限りは、飛行機屋や彼らを支持する中立派が主張するような大型母艦の建造は行えないからだ。その為、一時は巡洋艦ベースの“軽空母”建造も検討の俎上に載せられたが、搭載機数の少なさに起因する戦力経済性の悪さや多数艦運用に伴う人員確保の難しさから(当時の地球防衛艦隊は極度の人員不足に悩まされていた)、早々に廃案となっている。
 また政治面においては、仮にボロディノ級を削減して空母建造を行った場合、既に発表されている波動砲搭載大型艦数の減少について、政府と市民からどのように了承を得るかも未解決のままだった。
 議論は百出するも、いずれも決定打には程遠く、検討は完全に暗礁に乗り上げていた。
 艦政本部の若手造船官から“私案”という形で一つの提案が為されたのはそうした折のことだった。

 “改ボロディノ級航空戦艦”

 そう銘打たれた私案(驚くべきことに造船官は独断でそれを検討会に持ち込んでいた)こそ、後に地球防衛艦隊が列強各国に大きなインパクトを与えることになる『戦闘空母』シリーズの始祖とされる。
 その最大の特徴は、艦前半部はボロディノ級主力戦艦そのままに、艦後部のみを新たに設計した『空母ユニット』へと換装している点にあった。換装された『空母ユニット』は一種の独立ブロックであり、飛行甲板と格納庫、機関部とで容積の大半が占められ、先達とも言うべきヤマト以上の航空機運用能力を確保している。具体的には、戦闘航空隊であれば二個航空隊三六機が無理なく運用可能で、更に若干の支援機まで搭載することができた。
 それでいて、艦首側の各種兵装――三連装二基六門の一六インチショックカノンは勿論、艦首拡散波動砲まで健在であったから、“航空戦艦”という名は決して伊達ではない。
 正規教育を受けた造船官が提示するにはあまりに大胆な案であったが、大量・短期間建造を最大の目標にブロック化の極致を目指したボロディノ級だからこそ可能な建造案であるとも言えた。



 しかし――会議の席上で初めて本案が初めて提示された際の評価は散々なものだった。
 嘗ての大日本帝国海軍戦艦“伊勢”“日向”の例を持ち出すまでもなく、戦艦と空母のハイブリッドと言えば聞こえは良いが、実際にはどちらの艦種としても中途半端な存在であるのは明白だったからだ。実際、本試案艦二隻を建造するくらいなら、それぞれに最適化した戦艦と空母を一隻ずつ建造した方がよほど経済的且つ効果的だった。
 会議の出席者たちは信奉する兵備主義こそ違えど、長きに及んだガミラス戦役を生き残った実戦経験者達が大半であり、本案の持つそうした根本的問題点を即座に見抜いた。当然、その評価と指摘は辛辣を極め、ある砲術士官は本案を指して“不細工で不器用なキメラ”と評し、また別の航空隊士官は、艦政本部は空母建造を潰すつもりでこのような愚案を持ち込んだのかと息を巻いた。
 実は、本案が艦政本部からの正式案に至らなかったのも、正にその点に理由があった。造艦側と用兵側、どちらの立場に立ったとしても、本案はあまりにも中途半端な存在であり、どうあっても建造意義を見出せなかったからだ。
 しかし、半ば吊し上げの場と化した観のある会議において、幾人かの出席者は別の視点で本案を捉えていた。――確かに造艦、用兵からすれば本案は問題外だろう。しかし、“政治的”にはどうか?――。
 いずれも軍政出身者である彼らは、本案がこれまでの計画見直し議論において解決困難とされていた幾つかの問題をクリアーしていることに気づいていた。そして、独断で私案を持ち込んだ造船官もそれを理解した上で、職を賭した提案を行っていることも。
 本案に基づいて建造された艦は、波動砲もショックカノンも維持した“戦艦”であるという点で、波動砲搭載艦艇数に大きな注目を寄せている政府・市民からの非難や反対は回避できるだろう。建造設備も建造中のボロディノ級から設計変更すれば容易に解決可能。問題は、“主力戦艦”を“航空戦艦”などという珍妙な存在に変化させられることに本能的嫌悪感を抱く鉄砲屋たちだが、それでも本案艦はあくまで“戦艦”であり、艦長以下各科長といった主要ポストも鉄砲屋が維持できるという点で説得すれば、純粋な空母よりも了承を取り付けやすい――。

 本案は開示当初の悪評とは裏腹に、その後俄に評価が改まり、急速に具体化していくことになる。それは本案を、半ば以上感情論だけに解決の難しい政治問題をクリアー可能な唯一の“妙案”であると防衛軍上層部が(やや強引に)結論を下したからだ。勿論、その背景には、兵備に対する主義主張よりも、少しでも早く、少しでも多くの実際的兵備を揃えたい軍政側の意向が強く働いた故と言われている(まともな軍隊において軍政側が本気で動けば、組織内手管に劣る実戦部隊側はまず敵わない)。
 そして遂に、“若干の”艦隊編成見直しと共に、本案は正式な建造承認に至る。承認を受けたのは六隻で、いずれも建造初期段階のボロディノ級主力戦艦からの設計変更で完成が目指された。
 しかし意外にも、公表された正式艦種名は『航空戦艦』ではなく『宇宙空母(アマギ級宇宙空母)』だった。
 本級が当初予定されていた“戦艦”の名を失ってしまったのは、建造中のボロディノ級主力戦艦を設計変更することに対して最後まで抵抗を続けたのが鉄砲屋達であり、その抵抗があまりに執拗であったことに対する“懲罰”として艦種名の変更が行われていた。
 当然、アマギ級各艦の艦長以下主要ポストは航空屋若しくは中立派の士官達で占められた。ある意味、鉄砲屋達は撤退時期を見誤ったが故に、本来ならば確保できていた筈のポストまで失ってしまったと言えるのかもしれない。

 尚、私案を独断で提出した若手造船官はその後、功績が認められる形で本級の設計主務者に抜擢された。更に後年には、アマギ級の改良型である『グローリアス級宇宙空母』『キエフ級戦闘空母』の設計主務を引き続き務め上げることになる。
 その結果、件の造船官は地球防衛軍における空母設計のオーソリティーと内外から認められ、現在では技術交流の一環としてガルマン・ガミラス帝国に派遣、同国軍事アカデミーの客員教授として教鞭を執る毎日である(地球には多層式宙母の設計主務者が交換派遣されている)。

――つづく


、、、ギリギリ二月に間に合いました(^▽^;)
さてさてそんな訳で、久しぶりの地球防衛艦隊の艦艇妄想です(^_^)
宇宙空母の前編、、、ってことで書き始めたのですが、改装空母やヤマトのことばかり長くなって、なかなか肝心の宇宙空母が登場してくれず、正直困りましたw
結局、アマギ級の名前が登場したのはA4用紙10枚目で、そこでようやく前編終了とすることができました(;´Д`A ```
自分で書いておいてナンですが、こんなに部内でゴタゴタしていたら、白色彗星来襲までに空母を揃えることなんて絶対不可能だと思いますが、そこは妄想上のファンタジーってことで御勘弁いただきたいと思います( ̄∇ ̄*)ゞエヘヘ
後編は、ガトランティス戦役におけるアマギ級の活躍(フェーベ沖会戦)とその後の顛末、改アマギ級であるグローリアス級の誕生秘話など、思いつくままツラツラと書いていきたいと思っています。
書きたいことは結構あるので、後編もそれなりのボリュームになるとは思いますが、今回の前編並みのボリュームに到るかどうかは分りませんので、前編に比べて妙に短い後編になってしまったら、、、笑ってやってくださいw
公開までは・・・・・・二・三ヶ月くらいはかかるかなぁ・・・・・・(-ω-;)ウーン
どうぞ、気長にお待ち下さいませm(__)m
あ、そうそう、毎度のことですが、この妄想設定はオリジナル版『宇宙戦艦ヤマト』に基づくものであり、『宇宙戦艦ヤマト2199』は基本的に考慮していませんので念のためw

さて、以前より電撃ホビーマガジンで告知されていた『宇宙戦艦ヤマト模型コンテスト』エントリー作品が既に公開されていることに気づいて、ようやく見てきました(^_^)
物凄くレベルの高い作品がずらっと並んでいて驚きました(^▽^;)
できれば、もうちょっと大きいサイズの画像が見たいですね♪(宇宙空母シナノには痺れました)
https://ssl.asciimw.jp/dengeki/hobbyweb/yamato/
。。。ウチでは常連さんのアノ方の作品もw

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宇宙空母就役!!\(^_^)/

2012-11-02 18:26:15 | 1/700 宇宙空母(SOY-YA!!)


ついに念願の『宇宙空母』が就役でっす!!
キットは言わずもがな、SOY-YA!!さんの1/700ガレージキットです(^_^)
以前このブログで幾つか飛行甲板の改造案を公開しまして、皆さんからも様々な御意見を頂戴していました。
それらのご意見も踏まえ、最終的に完成したのがこの宇宙空母なんですね♪\(^_^)/



まず、本級を『空母』足らしめる飛行甲板ですが、大きく拡張しました。
単にサイズを大きくしたのではなく、機能的にも変更を加えています。
従来型の宇宙空母は上甲板が発艦甲板、下層甲板が着艦甲板とされていましたが、これを上甲板左舷を発艦用、右舷を着艦用としました。
これに伴い、着艦用だった下層甲板は装甲シャッターで閉鎖しています。
一応、緊急時には下層甲板も使用可能ですが、常用はされていません。
これにより、着艦は従来のダイレクト・イン方式(直接格納方式)からタッチ・アンド・イン方式(着艦後格納方式)に変更となりました。



発艦についても前方(艦首方向)への発艦が標準となり、艦載機の即応性が向上(エネルギー・タイムロスの改善)しています。
飛行甲板中央部は平時には発艦機の待機エリアとして用いられますが、フェーベ沖会戦のような非常時には露天繋止エリアとしても運用されます。
エレベーターも舷側式とし、着艦機用と発艦機用合計二基に倍増。



他にも、艦橋及び艦橋下部両舷にパルスレーザー砲を多数追加し、その結果、個艦レベルでの対空防御力も大きく向上しました。
増設したパルスレーザーは1/500ヤマトのものを流用しています。
SOY-YA!!さんのキットはかなりマッシブですので、1/700よりも1/500の方が似合うと思って選定したのですが、どうやら正解だったようです(^_^)



これらの改装は、PS版『戦闘空母』建造のテストベッドとして、『宇宙空母』唯一の生き残りに施されたものと妄想しています。
いわば『宇宙空母』と『戦闘空母』の中間形態です。
ちなみに、私の妄想の中ではオリジナルの宇宙空母の艦級名は『アマギ級』ってことになっています。
合計六隻が建造され、最終艦の『グローリアス』のみがガトランティス戦役を生き残り、戦闘空母建造に向けた改装が施されました。
艦容まで大きく変貌する大改装であったことから、旧来の艦級名と区別する意味で『改・アマギ級宇宙空母』『グローリアス級宇宙空母』などと呼称されます。
次級の戦闘空母が非常に高価なフネであった為、戦隊・艦隊単位での運用が徹底されたのに対し、グローリアス級は同級艦無しの実質テスト艦、しかも防衛艦隊司令部直轄艦だったこともあり、ヤマトのような単艦運用が積極的に行われました。
太陽危機においても、第二の地球探しにヤマトと共に真っ先に出撃したことで知られています・・・・・・等々。

。。。とりあえずはそんな設定イメージでしょうか(^_^)
実は、以前に書いた『アリゾナ』妄想でも『グローリアス級』は名前だけチラッと登場していますw
その頃から一応イメージがあったので(〃∇〃)ゝエヘ

、、、???、、、あ、今頃になってデザインミス発見、、、
増設したパルスレーザー砲塔に発艦用カタパルトの射線が被ってる、、、( ̄▽ ̄;)!!ガーン
、、、皆さま、脳内補完宜しくお願いしますm(__)m

先日公開しました駆逐艦もですが、この宇宙空母にも早くちゃんとした妄想設定文をつけて正式公開しないといけませんね(^_^;)
はてさて、これで我が家の1/700地球防衛艦隊も『さらば/2』についてはコンプリです(^_^)
残るは、復活篇のスーパーアンドロメダと信濃、、、そしていつかはアリ〇ナ、、、夢は遠大だぁ~~~(笑)




歓迎!!白色彗星帝国 御一行様!!
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