我が家の地球防衛艦隊

ヤマトマガジンで連載された宇宙戦艦ヤマト復活篇 第0部「アクエリアス・アルゴリズム」設定考証チームに参加しました。

『宇宙戦艦ヤマト2199』世界における“さらば/2 主力戦艦”を妄想してみる(後編)

2014-07-13 22:03:15 | 1/1000 さらば/2 主力戦艦(バンダイ)


 ボロディノ型宇宙戦艦が主戦兵器として搭載したのは『三式四一糎陽電子衝撃砲』であった。一六インチ(四〇・六サンチ)砲と誤解されることも多いが、正しくは四一サンチ砲である。
 陽電子衝撃砲は口径あたりのエネルギー密度が他国の各種陽電子砲よりも三~五割程度高く、それ故に大威力・長射程を誇った。ボロディノ型の四一サンチという大口径は、ガミラス軍のハイゼラード級航宙戦艦が搭載する三三〇ミリ陽電子カノン砲の射程外から短時間で撃破可能な砲として選定された。アウトレンジで撃破するだけなら三六サンチクラスでも十分だが、本型は数的劣勢下での戦闘を強く意識しており、より短時間で撃破可能な大口径砲が搭載された経緯がある。
 但し、搭載された巨砲に比して機関性能(エネルギー供給能力)は全般的に不足気味で、全力機動中に長時間連続砲撃を行うと機関圧が著しく低下してしまうという欠点があった。ボロディノ型の四一サンチ砲一発あたりの威力はヤマト型の四八サンチ砲に比べて六割程度に過ぎなかったものの、それでも短時間の連続砲撃は機関に対する負荷が過大であった為、主砲の発射速度(間隔)をヤマト型の五〇パーセント増しにすることで対応した。
 また、ヤマト型の主砲はショック・カノンと実体弾との切り替えが可能なハイブリッドタイプであったが、ボロディノ型での採用は断念されている。建造費低減の為と解説されることも多いが、実際は艦サイズに対して大型の砲塔(大口径砲)を採用したことで、砲塔下部に弾薬庫や給弾室等のスペースを確保できなかった為だ。
 こうした欠点を補う目的もあり、同じ実体弾である空間魚雷がヤマト型と同等かそれ以上に重視されている。
 前甲板に設置された大型VLS(Mk258)からはヤマトにも搭載された九九式空間魚雷が一〇発同時発射可能だった。更に両舷のVLSは、ヤマトと同様の短魚雷専用であったが、より新式の大型VLS(Mk259)を採用することで、即応弾数は三倍にも達する。

 本型の設計思想はヤマト型のような単艦・単独任務を想定した汎用艦ではなく、あくまで艦隊構成艦――艦隊を構成する一ユニット――であり、ヤマト型のような万能性や傑出性は装備面において殆ど考慮されなかった。
 副砲こそ、エネルギー供給を主砲に集中することを目的に削除されたという側面が強かったが、ヤマトではハリネズミのように装備されていた大量の高射火器や航空隊規模の艦載能力が大きく削減・削除されたことは、270メートルに満たない規模の艦が許容するリソースを徹底的に取捨選択した結果だった。それらオミットされた機能を極論、同じ艦隊を構成する他艦に譲り渡してしまうことで、本型は主砲・魚雷を用いた空間打撃戦能力にリソースを集中したのである。
 もちろん、こうした思想の徹底は攻撃面に留まらず、防御においても同様だった。
 元々、“決戦距離において自艦の主砲攻撃に耐久し得る”という防御思想を伝統的に有していた地球戦艦の防御力は、そうした思想を有しないが故にガミラス艦を凌ぐ部分があり、それは攻撃力と機動力で圧倒するガミラス艦隊との戦闘においてですら何度も証明されていた。いや、寧ろ次元波動エンジンの有無に起因する攻撃力と機動力の格差を埋められないからこそ、生存性確保の観点から防御面での努力が徹底されたとも言えるかもしれない。
 特にガミラス戦役中期以降に新造・改装された戦艦は耐ビーム複合装甲の全面採用やエネルギー減衰剤を充填した大型バルジの装着といったハード面の強化のみならず、ダメージ・コントロール要員の増強をはじめとするソフト面の努力もあって、ガミラス艦艇を凌駕する打たれ強さを獲得していた。その象徴が冥王星会戦におけるキリシマの生還であり、カレル163宙域包囲戦(カレル・ポケット)における波動防壁消失後のヤマトの奮戦だった。
 ボロディノ型においてもこうした設計思想は継承されており、防御機構としての波動防壁実装こそ断念されたが、それ以外の各種防御システムは、ヤマト型から更に進化したシステムをハード・ソフト両面で採用している。
 特にハード面での大きな進歩は、太陽系では土星の衛星エンケラドゥスでのみ産出される高エネルギー耐久素材である『コスモナイト90』を六パーセント含有させることでエネルギー兵器に対する耐久性を三〇パーセント以上向上させた新型チタン合金系装甲(通称:コスモ・チタニウム装甲)の採用だった。本装甲の表層には、ガミラスのミゴウェザー・コーティングを参考とした高密度帯磁処置まで施されており、低出力のビーム砲であれば限定的な避弾経始効果――直撃ビームの拡散や跳弾――すら期待できた。
 また、乗員定数も充分なダメージ・コントロール要員の確保を目的として増員を果たしたことで(但し、居住性はかなり悪化した)、ボロディノ型の実質的な防御力は“波動防壁抜きの”ヤマトに匹敵するとされた。惜しむらくは、ガトランティス戦役時の国連宇宙海軍(地球防衛艦隊)はガミラス戦役以来の宿痾とも言うべき人員不足を解消できておらず、本型乗員の充足率が軒並み七〇パーセントを切っていたことだろう。戦役中、多数の本型が喪われたが、それらの艦の乗員定数が十分に満たされていれば、喪失数は多少なりとも低減されていたとも言われている。



 既に述べた通り、ボロディノ型宇宙戦艦の基本コンセプトは強力な砲火力と強靭な防御力で敵同種艦艇(戦艦)と正面から殴り合い、打倒するという『戦艦』としては極めて正統的なもので、殆どの性能がこれを第一義に成立していると言っても過言ではない。
 しかし、例外もあった。
 数に勝る敵艦隊を一挙に殲滅することを目的とした決戦兵器『拡散衝撃砲』の搭載である。
 本砲は、地・イ和親条約という政治的用件と国産波動コアの能力不足という純技術的制約から実装が不可能となった波動砲――次元波動爆縮放射器――に代り新たに開発された。その名が示す通り陽電子衝撃砲(ショック・カノン)から発展した兵器であり、元々の開発コンセプトは、衝撃砲の大口径化・大威力化を極限まで突き詰めることで、対“艦”兵器の枠を超えた対“艦隊”兵器を目指すというものであった。
 こうした(半ば誇大妄想の産物のような)兵器が開発された背景には、国連統合軍と彼らが仮想敵とする軍事勢力との絶望的なまでの軍事力格差があった。

 地球人類を滅亡寸前にまで追い詰めたガミラス共和国(旧:ガミラス帝国)との講和が成立したとはいえ、何らかの偶発要因で再び交戦状態に陥る可能性も皆無ではなく(事実、旧ガミラス帝国領内では未だ共和制移行後の混乱が続いていた)、また、宇宙戦艦ヤマトがイスカンダルからの帰路に遭遇した新たな外宇宙勢力――ガトランティス帝国――の存在も潜在敵国として無視できなかった。
 国連統合軍がいずれの勢力を仮想敵と見据えるにしても、敵は銀河規模の領域を持つ巨大星間国家であり、未だ単一星系国家に過ぎない地球と比べて、国力・軍事力は隔絶していた。
 幸い、“質”の面は国産次元波動エンジンの実用化と量産化により、対抗可能な目処が立ちつつあったが、“量”の点は国力差という絶望的なまでの格差要因が存在する以上、常道での対抗は著しく困難、いや完全に不可能だった。嘗てガミラス帝国軍がバラン星宙域に集結させた艦隊は、彼らが動員可能な余剰機動戦力のほぼ全力であり、その総数が一万隻に及んだことからも、物量面での対抗は不可能とした国連統合軍の判断は極めて妥当だった。
 生半可な軍事力では、あまりに巨大な戦力を有する星間国家群の侵略を防ぐことは不可能である――それが、国連統合軍が下した自らの存在意義すら否定しかねない結論であったが、護民と国防を担う彼らは、自らに課した誓約を放棄することはなかった。だが、常道では自らの使命を達成できない以上、彼らはたとえそれが誇大妄想に類するものであったとしても奇策――圧倒的戦力差を覆す“決戦兵器”の開発――にも力を注がざるを得なかったのである。

 開発が開始された大口径衝撃砲(仮称:極大衝撃砲)は最大規模の砲が搭載可能な軸線砲形式とされ、艦首部に設置された専用チャンバー(薬室)で充填・圧縮された高密度の陽電子エネルギーを一気に撃ち放つというものであった。しかし、薬室の耐圧強度上の限界から、国連統合軍が望むような大威力・広域破壊効果を得ることは不可能であると早々に判明し、開発は壁に突き当たってしまう。
 当時の地球人類が入手可能な素材や製造可能な薬室構造では、衝撃砲の大口径化(大威力化)は80サンチ口径砲程度が限界とされた。また、その場合でも薬室容量・強度的に連続照射時間が極めて限られてしまうことからスイープ式照射(射撃)も難しく、必然的に僅かな有効被害範囲しか得ることができなかった。とてもではないが、国連統合軍が望んだような敵艦隊を丸々一つ吹き飛ばすような射撃は不可能だった。
 ヤマトに搭載された波動砲ですら、連続照射時間はともかくビーム直径は百メートル程度であり、対艦隊攻撃兵器(広域破壊兵器)としての現実的な効果を疑問視する向きがあったことを思えば、ビーム直径・連続照射時間共に波動砲の十分の一以下に過ぎない大口径衝撃砲の抱えた問題は一層深刻だった。
 しかし、こうした問題点に対する地道な解決の努力が、全くの偶然ながら一つのブレイク・スルーを生むことになる。

 この時、検討された解決案の一つに薬室内に波動防壁を展開し、薬室の耐圧強度を大幅に向上させるというものがあった。よく知られている通り、波動防壁は膨大なエネルギーを生み出す次元波動エンジン内部に、エンジンそのものの保護を目的として展開されており(この点は“イ式”であれ“ロ式”であれ、違いはない)、その防護効果は陽電子エネルギーに対しても極めて有効だった。
 波動防壁を薬室内に展開すれば、充填可能な陽電子エネルギー量を飛躍的に向上させるだけでなく、更なる大口径化すら可能であることが各種試験により証明されたことで、停滞していた大口径衝撃砲の開発はようやく進展を見ることになる。
 とはいえ、波動防壁は次元波動エンジンに非常に大きな負担を強いるシステムだった。防御機構として艦全体を包み込むような波動防壁が展開可能なのは余剰出力に秀でるイ式次元波動エンジンのみであり、それですら連続展開時間は二〇分に過ぎなかったことからも、波動防壁が要求するエネルギーの膨大さが分るだろう。
 イ式に比べて遥かに余剰出力で劣るロ式やガ式では、波動エンジン内以外の場所に、小規模とは言え更に一つ防壁を展開するのは出力負荷が大きく、実行には少なくとも次元波動エンジンの全力運転が必要だった。この際、波動エンジンは陽電子ビームエネルギーの生成と薬室への強制充填をも行っている為、出力余裕は皆無であり、艦の機動は全面的に補助エンジンに委ねなければならなかった(当然、艦の機動性能は著しく低下した)。
 しかし、それほどの努力を払っても尚、大口径衝撃砲の実用化は容易ではなかった。未だ次元波動エンジンそのものが地球人類にとって黎明期の技術であったことに加え、中でも波動防壁の制御は要求される技術レヴェルが高かったからだ。
 特に薬室内に展開する波動防壁を安定的に維持するのは、機関出力の不足もあって困難で、安全を確保しつつ陽電子ビームエネルギーの限界充填量を少しでも上積みすべく、実艦を用いたテストが繰り返された。テストには当時としては最大規模のロ式波動エンジン搭載艦艇で、未だ就役数も少なかったアルジェ型宇宙巡洋艦が用いられており、そうした点からも大口径衝撃砲に対する国連統合軍の期待が見て取れる。
 しかし、その四七回目の試験において予期せぬトラブルが発生してしまう。



 エネルギー供給・充填系のメカトラブルにより、既に開始されていた薬室への陽電子エネルギー充填を任意停止することが不可能になってしまったのである。当然、このままでは遠からず薬室及び展開中の波動防壁が耐圧限界に達してしまう為、試験艦艦長は充填済みのエネルギーの強制ブロー(投棄)を命じた。
 この時、他の対応措置として波動エンジンの緊急停止(スクラム)も検討されたが、危険が大きいとして断念されている。機関停止と同時に薬室内に展開中の波動防壁もエネルギー供給を絶たれてしまい、即座に消失する訳ではないにせよ、短時間での防壁消失は避けられないと考えられたからだ。
 最終的には、艦長の判断で強制ブローが決断されたが、未だエネルギー充填が続く状態でのブロー(実質的には射撃)は過去にも経験がなく、実施にあたり試験艦内の緊張は相当なものであった。だが、結果的にこの行為が思わぬ“成果”を生むことになる。
 通常の射撃ではエネルギー充填完了後、薬室後方にある充填口を閉鎖すると共に、波動防壁に穿たれていた充填用の“孔”も閉じられる(その結果、薬室内に充填された陽電子エネルギーは一時的にではあるが完全に波動防壁内に封じられた状態になる)。そして、今度は薬室前方の発射口を開放し、更には発射口に隣接する波動防壁の一部を任意消失させることで、薬室防壁内で極限まで圧縮されていたエネルギーを一気に放出するのである。
 しかしこの時は、マニュアル外の緊急処置ということもあり、二つの点が通常発射時とは異なっていた。まず一つは、未だエネルギー充填が続いていた為、薬室充填口も波動防壁に穿たれた充填用の“孔”も開放されたままであったこと。そしてもう一つは、砲口こそ解放されていたものの、波動防壁に発射用“孔”が形成されていなかったことだった(波動防壁制御プログラムには、暴発を防ぐ為にエネルギー充填中は防壁に発射用孔を形成できないようにインターロックが施されていた)。
 その結果、砲口から迸った高密度の陽電子エネルギーは “波動防壁に包まれた巨大なエネルギー弾”の状態だった。しかもエネルギー弾は艦外に放出されてからも陽電子ビームを背後から受け続けていた為、宇宙空間をそのまま延伸。しかし、エネルギー弾を包む波動防壁は薬室から離脱したことで徐々に耐圧強度を減衰させ、やがて消失した。
 その瞬間、防壁内部で極限まで圧縮されていた膨大なエネルギーが一気に拡散、それは無数の陽電子ビームの槍衾となって、テストデータ収集の為に周辺宙域に広く展開していた各種測定機材のことごとくを薙ぎ払った――。

 緊急ブローから五秒後、波動エンジンの緊急停止によって艦首砲口からのビーム照射も停止し、試験宙域はようやく静寂を取り戻した。
 即座に被害状況の確認を命じた試験艦艦長(ちなみに女性)は、表面上は泰然自若としていたが、内心は頭を抱え込みたい心境であったと後に友人たちに証言している。吹き飛ばした観測用機材はいずれも無人であった為、幸い人的被害こそ皆無であったが、いずれの機材も精密機器の塊だけに非常に高価且つ貴重だったからだ。それらを大量に失った以上、何らかの懲罰は免れ得ないと彼女が考えたのも無理はなかった。
 しかし一ヶ月後、国連宇宙海軍司令部に出頭を命じられ、当時の司令長官であり、若手士官達に“鬼竜”と恐れられていた土方竜から感状と共に『臨機応変ノ判断、見事ナリ』というお褒めの言葉まで頂戴したことで、ようやく彼女は自らの懸念が杞憂に終わったことを知るのである。――しかし更にその数か月後、自らが為した行為の意味と成果を改めて知った女性艦長は『実用新案特許を出しておくべきだった』と大宇宙の深淵より深く後悔することになる。

 この、臨時試験艦“シラネ”が緊急措置として行った射撃(ブロー)こそ、後に国連宇宙海軍の決戦兵器となる『拡散衝撃砲』射撃第一号であった。
 波動防壁内に圧縮充填した高密度の陽電子エネルギー弾を、一定距離延伸させた後に解放することで、無数の陽電子ビームを周囲に撒き散らすという広域破壊型の兵器である。薬室内で展開される波動防壁は、防壁全体の強度は勿論、部分的に強度変化させることも可能である為、拡散距離や拡散角度の調整すら可能だった。
 当然、対艦隊用兵器としての効果と運用における柔軟性は、当初国連宇宙海軍が目論んだ極大衝撃砲よりも遥かに高く、最適な拡散点・拡散角度が設定できれば、数十隻程度の艦隊を丸ごと殲滅することも不可能ではなかった。また、あまりの大威力故に、付随的被害の恐れから自星系内での使用には相当な制約を受ける波動砲に比べ、拡散衝撃砲の威力は充分にソフィスティケートされたものと好意的に理解された。
 試験艦でのトラブル直後、国連宇宙軍艦政本部がこれらの点にいち早く気づいたことで、拡散衝撃砲の熟成と正式化は急ピッチで進んだ。そして2202年、本砲は『二式一二〇糎拡散衝撃砲』として正式採用に至り、アルジェ型宇宙巡洋艦の中期型(2203年度以降就役艦)から標準装備として採用されている。また、将来装備用に艦首部を空きブロックにして就役していた同型の前期型も順次改装によって本砲を搭載した。
 ボロディノ型宇宙戦艦は本砲を一番艦就役時から搭載しており、アルジェ型では1200ミリ口径砲一門であったものが、ボロディノ型では同口径砲二門搭載に強化されている。実戦部隊・艦政本部共に、より大口径化した砲一門の搭載を望んだが、当時の地球の技術レヴェルでは薬室の大型化が限界に達していた為、これ以上の大口径化は一旦断念され、複数砲搭載に落ち着いた経緯がある。
 但し、イスカンダル王国を強く信仰する一部の宗教団体や平和団体などは、本砲は地・イ和親条約にて保有と使用が禁止されている波動砲であるとして強く破棄を要求していた。もちろん国連統合軍は、本砲はあくまでイスカンダルからの技術供与前に地球独自で実用化した陽電子衝撃砲の一種であるとして黙殺している。

 ボロディノ型は2205年度末にネームシップである“ボロディノ”が就役したのを皮切りに、再建された国連宇宙海軍の新たな“顔”として急速に配備数を増やしていった。ボロディノ型の全長は300メートルに満たなかった為、所謂“超弩級戦艦”でこそなかったが、ヤマト型を含めた従来艦艇とは一線を画した先進的な艦容は一般市民からも高い人気を誇った。
 本型は国連宇宙海軍第二次補充計画 (2204年~2206年)において当初予定された通りの一六隻が、建造設備の拡充が進んだ第三次補充計画(2207年~2209年)では二〇隻が建造された。第四次充実計画(2210~2212)では空母をはじめとする他艦種の建造が優先されたことで八隻にまで抑えられが、2211年の地球連邦及び地球防衛軍の発足、更に同年勃発したガトランティス戦役を受けて、本計画は後に大幅な変更改定が加えられることになる。



 五年間の準備・移行期間を経て2211年に正式発足した地球連邦政府は、ガミラス戦役時の国連主導体制の延長線上に位置する存在であり、比較的潤沢な準備期間が確保されたこともあって、人類初の統一政体ながら比較的スムーズなスタートを切った。
 国防組織としての地球防衛軍にしても、国連統合軍からほぼそのままスライドした組織であり、発足にあたっての政治的問題は殆ど発生しなかった。それどころか、統一政体成立時の混乱が最も少なかった組織の一つが地球防衛軍であった。本来、国連統合軍は戦時においてのみ存在を許された非常設機関であったが、そんなことは半ば忘れ去られたかのように、ガミラス戦役後も組織の拡充と強化が続いていたからである。
 2211年1月、地球連邦成立式典は人類新時代の幕開けとして盛大に執り行われ、その上空を待望の新型宇宙戦艦“アンドロメダ”が祝賀航行して華を添えた。だが、その僅か半年後、ガトランティス戦役が勃発する。
 同戦役には、地球環境再生プログラム用特務艦から宇宙戦艦への現役復帰を果たしたヤマト、“大艦巨砲主義者”たちの長年の宿願であった超大型戦艦“アンドロメダ”が投入されたが、いずれも単艦としての存在であり、実質的な地球防衛艦隊の主力戦艦は三五隻のボロディノ型に他ならなかった(一隻は機関系の重故障により長期入渠を余儀なくされ、参戦できず)。



 当時の地球防衛艦隊のドクトリンは、太陽系外縁部に警戒/警報部隊として巡洋艦以下の快速艦艇を主力とした小艦隊を複数配置、敵来襲時にはそれら部隊が遅滞戦闘を行い、その間に本国及び土星軌道から急行した決戦部隊(機動打撃部隊)が侵攻部隊を一挙に殲滅するというものであった。
 ボロディノ型の配備も本方針に沿ったものであり、決戦部隊に指定された第一~第三艦隊に各二個戦隊(七~八隻)が集中配備され、残余は他の小艦隊の旗艦として一隻乃至二隻ずつ分散配備されている。
 結果的にガトランティス戦役では、彼我のあまりに隔絶した戦力差から戦前に策定された戦策はほぼ全て破棄され、稼働全戦力を土星圏に結集した上で侵攻してきたガトランティス艦隊を迎え撃つという決定が下された。この方針変更の結末は諸氏もよく知る通りである。
 その過程において、ボロディノ型はガトランティス軍の決戦兵器――空間跳躍型大口径熱プラズマ砲(通称:火焔直撃砲)――による超遠距離精密砲撃に苦戦するも、当時の総指揮官――土方竜提督の機転によって近接砲雷戦に持ち込んで以降は、持ち前の砲撃力と防御力を活かして数多くのガトランティス艦艇を葬っている。
 特に、本型が戦隊単位で殴り込んだ際の攻勢衝力は、単艦ベースのカタログスペックでは測り切れないものがあり、三十隻程のガトランティス中規模艦隊が一瞬で壊乱・潰走に至った例すら存在した。勿論、本型にも敵砲火が集中し、多数の被弾を被ったが、他国艦艇に比べて遥かに重視された防御力が本型の戦闘航行能力をしぶとく維持させている。
 また、戦隊単位での本型投入は、決戦兵器である拡散衝撃砲射撃においても有効だった。拡散衝撃砲を射撃するには長時間のエネルギー充填が必須であり、その間は主砲射撃は勿論、艦の機動も大きな制約を甘受しなければならなかった(但し、補助機関は使用可能である為、最低限の機動性は確保されていた)。
 ガトランティス戦役では、単独で拡散衝撃砲射撃体勢をとった艦がエネルギー充填中の脆弱性を突かれて撃沈されるという事態が頻発した。それは相対的な防御力に劣るアルジェ型宇宙巡洋艦のみならず、ボロディノ型であっても例外ではなかった。
 これに対し、戦隊単位で投入されたボロディノ型の拡散衝撃砲射撃は、戦隊中一隻が発射態勢を取り、他艦が“壁”として前方展開することで、多くの射撃において生存率と発射成功率(命中率)を両立していた。その結果、ガトランティス戦役以降、拡散衝撃砲射撃は僚艦によるバックアップ下で実施するものと厳密に規定され、単艦での実施には多くの条件が課せられることになる。



 ガトランティス戦役は、次元波動エンジンの実用化と普及を果たした地球軍事力にとって初めての大規模戦闘であり、改めて“戦艦”の価値が認識された戦いでもあった。
 本戦役に投入されたヤマト型、アンドロメダ型、ボロディノ型のいずれもが高い攻撃力のみならず、他国の同クラス艦艇を上回る防御力を有しており、この防御力こそが地球艦隊の総体としての戦闘能力を大きく向上させたと評価されているからだ。
 これを言い換えると、頑強極まりない戦艦群が敵の攻撃を自らに誘引、一手に引き受けることで、数的主力を占める巡洋艦や駆逐艦といった中小艦艇の生存性と戦術的自由度が確保されたということになる。その証拠に、戦前のシミュレーションでは最も高い損耗率が予想されていた肉薄空間雷撃においても、実際の損耗率は大きく低減されており、戦後の戦訓調査にて、その原因が戦艦群による敵阻止火力の誘引にあったと結論付けられている(勿論、宙雷戦部隊は自らの戦技と勇猛にこそ原因があると固く信じていたが)。
 確かに地球戦艦は攻防共に強力な存在であったが、土星圏に結集した五百余隻の地球艦隊全体に占める割合は僅か七パーセントに過ぎず、戦艦という艦種が単独でどれほど奮戦しようとも、その“鉾(ほこ)”としての働きにはおのずと限界があった。しかし、ガトランティス戦役では、戦艦が艦隊というシステムにおいて堅固な“盾”としての機能を十分に果たし得たことで、戦艦以外の戦力の“鉾”としての価値・威力を大幅に引き上げたのである。
 単独で見れば、全身傷だらけになりながらも、猛り狂ったようにショック・カノンを振りかざす戦艦の姿は勇壮であり、実際にその戦果は他艦種を寄せ付けないものがあった。しかし、『艦隊』というシステム全体に視点を移した場合、その真価は全く別のところに存在した。
 よりコストパフォーマンスと戦場投入量に優れる中小艦艇群に確固たる戦術的優位を与えるべく、敵火力を誘引する為の高価な“餌”にして頑丈極まりない“盾”――それこそが本戦役における地球戦艦の真価であった。
 僅か十数年前のガミラス戦役において、ショック・カノンによる伏撃を成功させる為に、戦艦が中小艦艇を囮とせざるを得なかった状況を思えば、戦術価値の変化には隔世の観すら覚える。そうした戦術価値の激変は、次元波動エンジンの搭載によって達成されたことは論をまたないが、また別の側面からの意見として、あまりに圧倒的な決戦兵器――波動砲――を実装できなかったが故というものもあった。
 確かに、波動砲という星をも砕く究極兵器と比べれば、懸命の努力で実用化された拡散衝撃砲ですら、そのインパクトは一歩も二歩も劣らざるを得ないのは事実だった。仮に、波動砲が地球戦艦に一般的に搭載可能な兵器であった場合、その圧倒的破壊力に幻惑され、波動砲搭載戦艦のみが唯一無二の至高的存在とされていた可能性は極めて高いと考えられる。そうした『波動砲絶対主義』とも呼ぶべき思想が蔓延した状況下では、バランスの取れた艦隊編成など望むべくもなく、極端に波動砲搭載戦艦を重視した艦隊整備計画や戦術ドクトリンが構築されていたであろうことは想像に難くない。
 結果的に、地球防衛艦隊の実質的な主力戦艦であるボロディノ型に波動砲を搭載できなかったことが極端な戦艦偏重を抑制し、寧ろ艦隊というシステム全体の戦闘能力を最大化させる為の中核として認識されたことは寧ろ幸いだった。それは、数量において五倍以上、個々の艦の規模においても圧倒するガトランティス前衛艦隊を、地球艦隊がほぼ通常の砲雷撃戦だけで殲滅したことでも証明されている。



 ガトランティス前衛艦隊との戦闘後に繰り広げられた白色彗星との直接対決は、艦艇が抗し得る限界を超えた対象との戦闘ということもあり、投入されたボロディノ型の実に2/3が喪われた。
 戦役終結時、残存した本型は僅か九隻に過ぎず、その全艦が中破以上の損害を被っていた。いずれの艦も、少なくとも数ヶ月間の補修が必要であり、即時稼働艦は皆無という惨状だった。
 ガトランティス戦役終結後、再び激減した人員・戦力を前に、地球防衛軍は当時進行中だった第四次充実計画は勿論、策定中だった次期以降の計画まで大幅な見直しを迫られた。中でも特に大きな変更が加えられたのは無人艦艇(自動艦隊)であり、戦前から導入が予定されていた大型駆逐艦クラスに加えて、ボロディノ型を上回る大型戦艦の大量建造まで図られている。そうした措置は、戦役中に多数が失われた艦艇乗員の窮乏を一朝一夕には解決できない以上、必須のものとして理解された。
 しかし、大規模会戦時の火力はともかく、平時任務における運用柔軟性では、無人艦は到底有人艦に及ばないのが当時の実情だった。その結果、戦前からの生き残りや、戦後になって新たに就役したボロディノ型合計一八隻はこれまで以上に貴重な戦力としてその後も運用が続けられることになる
 そしてそれは、2215年に本型の後継艦であるローマ型宇宙戦艦の登場後も基本的に変化は無く、2230年現在、度重なる戦役での喪失や、老朽化により予備役に編入された艦も多いが、未だ改修と延命化を重ねた八隻が現役艦名簿に名を留めている。
 そして、それら八隻全てが今も太陽系内に留め置かれ、本型の建造当初に彼女たちが使命として托された太陽系防衛の任を変わらず果たし続けている。

――終わり。


さて、前後編にて公開しました『2199世界の“さらば/2”主力戦艦』設定妄想もこれにて終了です。
一時はちゃんと完成できるか心配もありましたが、何とか完成にこぎつけられて良かったです。

前編は地球における次元波動エンジンの純国産化が主なネタでしたが、この後編では拡散波動砲ならぬ“拡散衝撃砲”がネタの多くを占めています。
もちろん完全なでっち上げネタですが、これで以後の地球艦艇も艦首に遠慮なく大口を開けることができます(笑)
それ以外は、かなりオーソドックスで地味なネタを淡々延々と続けてしまいましたので、ちょっと退屈な文章になってしまったのが反省点です(^_^;)
ただ、波動砲が地球において普及兵器とならなかったが故に、地球防衛艦隊のトータルバランスが寧ろ向上したというくだりは、この主力戦艦ネタを書き始める時から考えていたことなので、こうして文章にできたことには満足しています(^o^)

あと、ガトランティス戦役は個人的好み(ヲイ)で2211年に勃発することにさせていただきました。
少なくとも10年くらいの戦間期がないと、“燃える”戦術状況を演出するに足る地球防衛艦隊を準備できないと思ったからです。
正直言えば10年でもまだ短すぎると思いますが、これ以上年数が経過してしまうと、いかに特例処置を持ち出したとしても、土方さんが現役を退かないといけなくなりそうなので、10年をぎりぎりの妥協点としましたw

アンドロメダも名前だけは登場させましたが、主力戦艦の延長線上に位置する単に巨大なだけの戦艦か、ビーメラで回収した波動コアを搭載した“超ヤマト型戦艦”かは、あえてはっきりさせませんでした。
個人的には、土方さんが乗る全軍旗艦としての“超ヤマト型戦艦”がいいですが、もし土方さんが乗らない“さらば”展開だったら単なる大型戦艦がいいですね。

あ、、、ちなみに作中の女性艦長は、、、ええ、はい、いつものアノお方ですw
EF12さん、毎度すみませんm(__)m

さて、年明け以降、航空機ネタやこの2199主力戦艦ネタに寄り道ばっかりしてきましたので、今度こそ宇宙空母の続きを書かないと(^_^;)
と言ってもまずは、以前書いた航空機ネタに合せて前編の修正から始めないといけませんがw
後編も含めてなんとか年内には完成したいです♪
注記:本文章は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の制作が発表される以前(2014年7月)に書いたもので、2202とは一切関係ありません。
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『宇宙戦艦ヤマト2199』世界における“さらば/2 主力戦艦”を妄想してみる(前編)

2014-07-12 22:15:43 | 1/1000 さらば/2 主力戦艦(バンダイ)
【前書き】
普段、本ブログにおける艦艇設定妄想は、オリジナル版ヤマト世界の艦を扱っていますが、今回はあえて『2199』世界のそれを扱ってみます。
扱うのは、オリジナル版では『2』や『さらば』に登場した“主力戦艦”です。
もちろん、『2199』に主力戦艦は登場しませんので、『2199』世界の延長線上に“もし主力戦艦が登場したら・・・・・・”という仮定に基づく設定妄想になります。
とはいえ、未だ描かれてもいない時代と世界、仮に続編が作られたとしても、実際に登場するのかどうかも分らない艦についての妄想ですので、いつもに増して独自(でっち上げ)設定・解釈がテンコ盛りですが、その辺りはナマ温かい目で見守っていただければと思います[岩蔭|]_・)ソォーッ
あと、主力戦艦の全長などの設定は、我が家にありますバンダイ製キットの改造品から再算出していまして、オリジナル版(242m)とも異なっていますので念のため(^o^)
ではでは、そろそろ始めてみましょう♪
注記:本文章は『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』の制作が発表される以前(2014年7月)に書いたもので、2202とは一切関係ありません。


【ボロディノ型宇宙戦艦】


 ガミラス戦役終結後、初めて計画・建造された新型宇宙戦艦。全長270メートルにも満たない列強最少・最軽量クラスの戦艦でありながら、空間打撃戦(砲雷撃戦)における攻防性能は他国の400メートル級大型戦艦に匹敵するとされる。
 そうした本型のスペックは、地球独自の陽電子ビーム砲『陽電子衝撃砲』の大威力と、リソースの大半を砲雷撃能力に集中させるという極端な設計コンセプトによって達成されたといっても過言ではない。事実、それ以外の性能――長期の作戦行動には不可欠な居住性や給兵・給糧設備――は艦の規模に比して著しく貧弱であり、就役当時はガミラス軍のクリピテラ級航宙駆逐艦にすら劣ると評されたほどだった。
 だが、当面の国連宇宙海軍の任務が質・量共に太陽系内防衛ですら精一杯という実態に鑑みれば、そうした選択も一つの見識であったと言えるだろう。本型単独での作戦行動期間は1ヵ月程度が限界とされたが、太陽系内及び近傍恒星系(アルファ・ケンタウリ)を作戦域とする限り、実質的な支障は殆どなかったからだ(勿論そこには、ガミラス戦役当時の地球艦艇の居住性・航宙性能が本型以上に劣悪であったという皮肉な現実も存在したが)。
 事実、2211年に勃発したガトランティス戦役においても、総動員された地球艦艇の大半の作戦行動期間は一ヵ月に満たず、戦役後において本型のサイズに似合わぬ高い攻撃力と防御性能こそが高く評価されたことを思えば、本型の要求性能は当時の地球の状況に合致していたと言えるだろう。

 また、本型はヤマト型と同じく国連統合軍の完全主導下で計画、建造、配備が行われたことも特徴としている。
 ヤマト型建造以前、国連宇宙軍とその下部組織である国連宇宙海軍の実戦部隊を構成していたのは、国連加盟各国が個別に建造した艦艇群であった。これらの艦艇は、戦役勃発と共に所属と指揮権を国連宇宙軍に委譲されたが、各国における個々の建造計画にまでは国連宇宙軍は指導力を発揮できず、事実上各国政府に委ねられていたのが実情だった。
 こうした状況は国連統合軍が初めて結成された第一次内惑星戦争時からのものであり、その弊害も長年指摘されていた。しかし、戦時における実戦部隊の指揮権委譲は“国連軍”という錦の御旗の存在から受け入れ可能でも、平時における国軍の整備内容に対する指導は『内政干渉である』という各国から強い反発を受け、その実現は困難を極めた。
 幸い、その後発生した第二次内惑星戦争も緒戦における苦戦こそあれ、最終的には艦隊戦力で遥かに優越する国連側の圧勝であり、国連宇宙海軍の実態が“寄り合い所帯”であるという現実とその弊害が露見することはなかった。
 しかし、2191年から開始されたガミラス戦役は、そうした内政的欺瞞を許容してくれる程、生易しいものではなかった。緒戦から打ち続く敗北によって多くの艦艇と乗員が失われた結果、各国や管区毎の部隊編成を維持することすらままならない状況に、瞬く間に追い詰められてしまったからである。
 その後、ようやく各国独自に進められていた建艦計画の統合・整理と各種工業規格の統一が国連主導下で開始されたものの、時既に遅しという観が強かった。宇宙艦艇建造に不可欠な太陽系内各地で産出される希少鉱物の入手はガミラス艦隊の跳梁とそれに伴う空間交通路破壊によって困難になっていたし、そして何より、遊星爆弾による本土無差別攻撃が各国の工業力を根こそぎにしつつあったからだ。
 しかしそれでも、国連統合軍は一隻でも多くの艦艇を就役、稼働させるべく最後まで努力を続けた。2199年1月のメ号作戦時、極東管区から二〇隻余もの艦隊が出撃可能であったのも、各国間での規格共通化が進んでいたことが大きかった。本出撃を実現するにあたり、他管区から貴重な整備部品や弾薬が積極的に極東管区に送り込まれたが、ある程度以上の装備共通化が進んでいなければ、こうした芸当も不可能だったからだ。
 ガミラス戦役後も、国連統合軍は装備規格の共通化を戦中以上の熱心さと執拗さで押し進めた。再建と言いつつも、実質的には殆ど一から建設されることになる戦役後の国連宇宙海軍は、可能な限り効率化と最適化を果たした組織でなければならなかった。地球内各国や国軍毎のエゴなど、強大極まりない星間国家を前にしては何の意味も無く、寧ろ害悪以外の何ものでもないことがガミラス戦役中に明らかになっていたからである。
 また、戦役末期の極度の窮乏状態が、国連とその諸機関(国連統合軍を含む)に強権に裏付けられた指導力・行政力を付与し、その必然として各国家の発言力が低下していたことも、戦後の国連主導を円滑なものにしていた。
 ボロディノ型宇宙戦艦はそうした中で計画・建造された艦であり、史上初めて各国同一規格・同一仕様で“量産”された戦艦であった。
 その本質は紛れもなく『最大多数の実現』であったが、それを実現する過程において、当時各国間に厳然として存在していた工業力や技術力格差を程度問題にまで縮小する成果をも挙げている。
 そしてそれは、後の地球規模の統一政体と統一軍――地球連邦と地球防衛軍――成立にあたっての貴重な礎の一つになるのである。



 ボロディノ型宇宙戦艦を語る上で『宇宙戦艦ヤマト』と『波動実験艦ムサシ』の存在を欠くことはできない。
 その生涯において、幾度となく人類を救う活躍を示したヤマトはともかく、ムサシについては多少出自の説明が必要だろう。
 波動実験艦ムサシは、種としての人類存続を目的として他恒星系への脱出が企図された“イズモ計画”に基づき建造されたヤマト型超弩級宇宙戦艦の二番艦である。
 よく知られている通り、“イズモ計画”はイスカンダル王国との友好的ファースト・コンタクト(スターシャ・メッセージ)によって破棄され、“ヤマト計画”へ発展的に移行した。その際、一番艦ヤマトの一日でも早い完成を目指して建造資源を集中することが決定されたことから、ムサシの建造は凍結され、既に艦体の六〇パーセントが完成していた彼女からも大量の資材・艤装品が引き抜かれた。
 ヤマト進宙時、紀伊半島沖熊野灘の偽装ドック上に放置されたムサシは“残骸”や“残滓”としか評しようのない有様であり、人類の期待と運命を一身に背負って旅立っていった長姉とのあまりの落差に、建造を担当した造船官・艤装員たちは落涙を禁じ得なかったという。

 完成以前に役割を終えたと見られていたムサシ――しかし彼女は後に、思わぬ形で再び脚光を浴びることになる。

 人類初の次元波動エンジン搭載艦艇として勇躍地球軌道を離脱したヤマトは、太陽系各地のガミラス軍勢力を撃破しつつ転戦(実態は紆余曲折の結果でもあったが)、遂にはガミラス帝国軍の牙城として長らく人類に脅威を与え続けていた冥王星前線基地の完全破壊にまで成功した。
 その事実は、太陽系内におけるガミラス軍機動戦力の実質的壊滅をも意味していた。ガミラスにとって冥王星基地は橋頭堡・兵站拠点としての機能を備えたストロング・ポイントに他ならず、その壊滅は補給・整備の不備という形で生き残りの機動戦力(艦隊)に緩やかなる壊死を強いるからだ。事実、冥王星前線基地の壊滅後、太陽系内に残存していたと思しき僅かなガミラス艦艇が系外に離脱していくのを、国連宇宙海軍では何度も観測している。
 冥王星前線基地の破壊を契機に、太陽系内から潮が引くようにガミラス勢力が撤退していったのとは対照的に、地球の防人たる国連宇宙海軍は活動を本格化させた。その目的は限定的な太陽系内制宙権(空間航路)の確立と、各地に残されたガミラス帝国軍の遺棄物資・施設の接収であった。接収物の多くには、ガミラスによって無力化措置やブービー・トラップが施されており、宇宙海軍の接収人員にもかなりの被害が発生した。しかし、犠牲を甘受して得られた成果は膨大であり、一部の研究者が公式の場で“宝の山”と発言し、物議を醸した程だった。
 特に、艦体の損傷は激しいものの機関についてはほぼ無傷のガミラス艦艇や整備用にストックされていたと思しき各種部品・部材類は、未だ次元波動エンジンの体系的知識に乏しい地球人類にとっては千金以上の価値を持っていた。更に、接収後の調査で、ガミラス艦艇の機関に用いられている技術が、イスカンダルから供与された技術と多くの点で共通点・類似性を有していることが明らかになり、研究者のみならず国連統合軍、各国の為政者たちをも驚かせた。それを契機に、イスカンダル―ガミラス陰謀説が再び国連内でクローズアップされたが、既にヤマトは直接交信すら不可能な深宇宙へと旅立った後であり、陰謀の可能性については“今さら是非も無し”として意図的に無視されている。
 しかし、そうした地球人たちの釈然としない想いとは裏腹に、太陽系内各地で確保されたガミラス製次元波動エンジン(ゲシュ=タム機関)とその関連部品は、地球単独での次元波動エンジン量産化に決定的な役割を果たすことになるのである。



 波動コア――現在では良く知られている通り、次元波動エンジンの起動キーの一つであると同時に、機関性能に決定的影響を及ぼす中核部品である。しかし、イスカンダル王国からの無償技術供与に波動コアの製造方法・技術は含まれておらず、物品供与のみが行われた。そうしたブラックボックス的供与が行われた背景には、イスカンダル王国の長い歴史に起因する現在の外交方針が存在したのだが、当時の地球人類にとっては自ら単独では次元波動エンジンを量産できないという事実こそが最重要の課題だった。
 ヤマト計画の成否に係らず、今後の太陽系防衛と人類存続に次元波動エンジン搭載艦艇の大量建造が不可欠であるのは誰の目にも明らかであり、それ故に地球人類はイスカンダル王国への背信となる可能性を承知しつつも、波動コアの独自開発に血道を上げることになる。
 地球人が初めて手にした波動コア――イスカンダル王国皇女スターシャ妃により地球へ譲渡されたイスカンダル製波動コア――は、ヤマト進宙まで殆ど日が無く、予備のコアも存在しなかったことから、非破壊状態での分析しか行うことができず、成果らしい成果を殆ど上げることができなかった。しかし、国連宇宙海軍が冥王星基地跡をはじめとする各地のガミラス軍拠点から回収したガミラス製コアが多数に上ったことから、厳重な防護措置を施した上で初めて解体を伴う本格的な分析調査が行われた。
 その結果、コアの中核を構成しているのが特殊な放射性物質(便宜上、ガミラシウムと呼称)であることが判明する。当時の人類の科学技術レヴェルでは完全な理論方程式の構築は不可能であったが、それでもこの物質が次元波動反応(余剰次元還元反応)に決定的役割を果たしていることが理解された。
 コアの基本構造がおぼろげながらも解明されたことで、以後の地球製波動コアの実用化は大きく進展した。理論面は未だ不十分ながらも、少なくとも波動コアを成立させる上で必要な物質の存在とその基本物性が判明したからである。そして太陽系内を改めて調査した結果、程なくしてガミラシウムと化学的特性において非常に類似した物質が木星圏で発見された。
 短期間での発見は決して僥倖などではなく、一つの仮説に基づく調査の結果であった。
 その仮説とは、ガミラス軍が隠密裏に設置し、ヤマトが波動砲で粉砕した木星の浮遊大陸基地――通常のガミラス根拠地とは大きく趣を異にするこの基地が、ガミラシウムやそれに準じる物質の回収・精製プラントだったのではないかというものである。
 他のガミラス基地とは構造、サイズ共に大きく異なっていること、地球人類が知る限り、過去に本基地が能動的軍事活動を行っていた形跡が全く見られないこと(ヤマトが遭遇するまで国連統合軍は本基地の存在すら認識していなかった)、それにしては守備についていた艦隊戦力が戦隊規模と大きすぎることから、本基地は軍事基地というよりも何らかの工業用プラントや重要資源の採掘リグだったのではないかという仮説が立てられていた。
 結果的にこの推測は的を射ており、木星を構成するガス雲からガミラシウムに相当する物質が発見された。これをガス雲から抽出し濃縮、更には結晶化させることで、次元還元物質の生成が可能となる。但し、ガス雲内の物質含有濃度は非常に低く、これを結晶化可能なまでに捕集するには莫大な時間と、何より大きなコストを必要とした。
 木星をはじめとして、宇宙に多数存在する大型ガス惑星には、何らかの次元還元物質が含まれている可能性は非常に高いが、濃度・総量については惑星毎に大きな違いがあった。宇宙レヴェルで見た場合、木星に含まれる次元還元物質含有濃度・量は決して低くはなく、寧ろかなりの“優良物件”だった。それ故に、ガミラスは未だ戦役継続中ながら、早々に本星から大型採掘リグを派遣し、次元還元物質の回収にあたっていたのである。
 当時、ガミラス帝国では大幅な版図の拡大とそれに伴う艦隊戦力の増勢により、域内で次元還元物質が慢性的に不足していた。前述した通り、次元還元物質(ガミラスにおけるガミラシウム)は非常に希少で、捕集後の生産性も劣悪であったが、恒星間戦争の帰趨すら決しかねない最重要戦略物質であり、その入手には常に大きな力が注がれていた。当然、次元還元物質を多く有する惑星を巡って星間国家同士が争うことも日常茶飯事であり、ガミラス戦役にしてもガミラスの探索艦隊を地球艦隊が先制攻撃したことで勃発したことが後に明らかになっている。勿論、表向きはガミラス帝国の国是である『イスカンダル主義の拡大浸透』の為の探索活動であり、その為の艦隊であったとされているが、彼らの“活動”が“優良物件”を持つ星系に対して優先されていたことでも、その実態は明らかだった。
 木星で発見され物質は、ガミラシウムに相当する太陽系固有の物質として“テラジウム”と命名され、本物質を用いた地球製波動コア(テラジウム・コア)第一号が製造された。
 完成したテラジウム・コアは、早速鹵獲されたガミラス艦艇にセットされ、各種能力評定が行われた。その結果、ガミラシウム・コアと同等の機関出力が得られることが証明されたことで、遂に地球人類は自らが単独で次元波動エンジン製造に成功したことを知るのである。
 時に2199年8月――ヤマトがイスカンダル王国よりコスモ・リバースシステムを受領してから間もなくの頃であった。



 だが、地球製波動コアの開発成功にも、当時の国連統合軍の評価は決して芳しいものではなく、寧ろ不満こそが多くを占めていた。ガミラス艦艇でのテストと並行して行われた波動実験艦『ムサシ』を用いた試験によって、テラジウム・コアをセットした次元波動エンジンでは、国連統合軍が望むようなスペックを発揮できないことが明らかになってしまったからである。
 この時までにムサシは、純国産コアであるテラジウム・コアとイスカンダル製コア(イスカンダリウム・コア)との性能比較を目的に突貫工事で仮就役を果たしていた。
 次元波動エンジンこそヤマトと同型の機関がほぼフルスペックで搭載されたが、その他の艤装品は次元波動関連装備のみを最低数量搭載しているに過ぎず、武装は波動砲とショック・カノンを第二砲塔二番砲のみ装備しているような有様だった。その他の主・副砲は砲身どころか砲塔からして据え付けられておらず、その他の高射砲塔や各種実体弾、航空艤装についても一切搭載されることはなかった。艦橋やマストも、各種装備のコントロールは艦外から行う前提で設置されず、彼女の異形を一層無骨なものとした。更に、艦の外装も、艦体強度と乗員や研究者の安全を維持する上で最低限必要と判定された四五パーセント程度が装着されているにすぎず、その姿は正に廃艦同然であったという。
 当然、進宙どころかドックからの離床すら不可能で、『波動実験“艦”』と銘打たれつつも、その実態は不動の地上施設に他ならなかった(我々が知るムサシの姿が具現化するのは、更に一〇年以上の歳月を待たなければならない)。
 しかし、ヤマトと同型の機関を搭載しているだけに、テラジウム・コアとイスカンダリウム・コアの比較検証には申し分ない研究素体であり(イスカンダリウム・コアの性能データは、太陽系離脱前のヤマトから送られてきたデータが用いられた)、地球における最初期の波動物理学構築においてムサシの果たした役割がヤマト以上と評される所以である。

 だが、テラジウム・コアをセットした波動実験艦ムサシを用いて行われた数々の実証試験の結果は、国連統合軍にとって失望を禁じ得ないものだった。テラジウム・コアはイスカンダリウム・コア装備時に比べて次元還元効率で著しく劣り、システムの稼働に膨大な余剰出力を要求する『次元波動爆縮放射機』『次元波動振幅防御壁』共に実装不可能であると試験結果は示していたからである。
 それぞれ“波動砲”と“波動防壁”と通称されるこれらの装備は、波動エンジン実用化後も数的劣勢が確実な国連宇宙海軍が圧倒的多数のガミラス艦隊を打破する上で必須の装備として捉えられており、出力の不足からこれらを装備できないという事実は、国産波動コア開発成功に対する評価を激減させてしまった。
 しかし、極端なコア及び機関の大型化やクラスター化(多発化)を行わない限り、波動砲(ゲシュ=ダールバム)や波動防壁(ゲシュ=タム・フィールド)を攻防兵器として装備できないという点はガミラスのゲシュ=タム機関も同様であり、決して当時の人類の科学技術力が極端に劣っていた訳ではない。
 2199年12月にコスモ・リバースシステムを回収したヤマトが地球に帰還した後、改めてヤマトが実装した波動コアの調査が行われた。調査は今回も非破壊で実施されたが、コアの中枢に技術本部が推測したような非常に高い次元還元効率を持つ物質(イスカンダリウム)の存在が初めて確認された。だが、太陽系内をくまなく調査しても、イスカンダリウムに匹敵する第二のテラジウムを発見することは遂に叶わなかった。
 更に2201年、地球・ガミラス講和条約締結時に仲介者として地球を再び訪れたイスカンダル王国ユリーシャ妃に、イスカンダル製波動コア若しくはイスカンダリウムの大量譲渡を申し入れるも、妃の回答はにべもないものであった。

 曰く――イスカンダルの“救済”は、種の存亡に係る危機に際しての緊急避難にのみ限定される――と。

 この回答を以って、地球はヤマト並みの高性能艦の大量建造と保有を諦めなければならないことが確定的となった。しかし、この頃には既にテラジウム・コア搭載波動エンジン装備した艦艇の量産が開始されており、国連統合軍はその歩みを更に早めることになる。種の滅亡すら強く意識せざるを得なかった当時の地球人類に、いつまでも理想性能のみを追い求めていられるような余裕などなかったからだ。



 国連統合軍が次元波動エンジンを自らの装備体系に組み込む端緒は、既存艦艇への搭載改装であった。改装とはいえ、テラジウム・コア搭載波動エンジンの性能精査と運用ノウハウ確立を兼ねており、得られた各種データは急ピッチで設計作業が進む新型艦艇にもリアルタイムでフィードバックされている。その新型艦艇群の配備も2201年初頭から順次開始され、その後は急速に数を増やしていった。
 従来機関では戦艦・巡洋艦クラスにしか装備できなかった軸線砲式大口径ショック・カノンを四千トン級の小艦に搭載し、更に限定的な連射すら可能とした『ハント型宇宙フリゲート』。イソカゼ型を上回る重雷装と高機動性を兼ね備えた『リヴァモア型宇宙駆逐艦』。そして波動砲に代わる“新型決戦兵器”を初めて搭載した『アルジェ型宇宙巡洋艦』等だ。
 前述した通り、テラジウム・コア搭載次元波動エンジン(正式名称:ロ式波動機関)は、性能面では同規模のイスカンダリウム・コア搭載次元波動エンジン(正式名称:イ式波動機関)には到底及ばなかった。しかしそれでも、ガミラス艦艇を一撃で撃破可能な威力を有する陽電子衝撃砲を砲塔式で多数搭載可能であり、それを実際に具現化した新型艦艇の配備は、ガミラス戦役において辛酸を舐め尽くした観のある一線部隊将兵を狂喜させた。
 しかし、最初期に配備された新型艦艇はいずれも二万重量トンに満たない中型以下の戦闘艦で、同規模のガミラスやガトランティス艦艇に対しては互角以上の戦闘能力を有していたものの、ガミラス軍のガイデロール級やハイゼラード級といった300~400メートル級の大型戦艦に対して劣勢であるのは明らかだった。勿論、一隻に対して複数の艦であたることや、待ち伏せ等の戦術を徹底することで対抗は可能だが、いずれにしても自らの戦力や戦術的イニシアティブを犠牲にする覚悟が必要な戦闘を強いられるのは確実だった。
 当然、国連統合軍の一部はこれらに匹敵、あるいは凌駕する大型戦闘艦――つまりは戦艦――の建造を強く望んだが、その実現は2205年を待たなければならなかった。ヤマトという習作は存在していたものの、未だロ式波動機関を搭載した大型艦艇の設計・建造ノウハウは全般的に不足気味であったし、何よりほぼゼロからスタートした国連宇宙海軍再建において、まずもって重視されたのが“数”という要素だったからだ。

 再建計画(正式名称は国連宇宙海軍補充計画)が最初期の目標として掲げたのは、太陽系内制宙権の継続的確保であり、それを可能とする次元波動エンジン搭載艦艇の必要最低数量の急速整備であった。
 ヤマトが帰還し、コスモ・リバースシステムを用いた地球環境回復プロジェクトが実動した2200年初頭、国連宇宙海軍が保有していた稼働宇宙艦艇は三〇隻にも満たず、これでは継続的な太陽系内制宙権の確保など画餅でしかなかった。再建計画では、第一次三ヵ年計画が完了する2203年度中に実動艦艇数を一〇〇隻にまで増強すると共に、艦艇稼働率の向上を目的とした各惑星・衛星根拠地整備にも力が注がれることが決定した。
 その結果、2201~2203年の第一次三ヵ年計画では、建造に手間のかかる(量産が困難な)戦艦級大型艦艇の建造は見送られ、次期三ヵ年計画(2204~2206年)策定時に改めて検討されることになった。
 この決定に対し、より巨大且つ強力な艦を求める軍政部門――軍務局――からは不満の声が上がったが、実戦部隊である国連宇宙海軍司令部においては概ね好評を以って迎えられた。一線部隊からすれば、現在建造と配備が進んでいる中型以下の艦艇ですら、同規模のガミラス艦艇に同数で対抗できるという点で、嘗てからすれば“夢のような艦”であり、そうした艦を主力とするのであれば、個艦性能よりも何時如何なる状況でも戦場展開が可能な数量こそを重視するのは当然のことだったからだ。
 こうした思考は、苛烈な戦場での実際を知るからこその妥当且つ健全なものであり、第二次三ヵ年計画においてようやく具体化を果たしたボロディノ型宇宙戦艦の仕様決定にも強い影響を及ぼすことになる。ヤマト型以上の巨大戦艦(超弩級戦艦)を求める軍務局の要求を再び抑えて、建造隻数を何よりも重視した仕様性能が取りまとめられたことがその証左だ。



 本型の266メートルという全長サイズは、三ヵ年で一六隻以上という本型の調達要求隻数と、当時世界各地で稼働状態にあった建造施設の規模・数量を勘案して導き出されたものだった。現在の我々からすれば小型に感じるものの、当時の地球の建造能力と予算、そして現実的な運用を考えると、これでも限界に近い、いや部分的には限界を超えた規模の艦だった。ガミラス戦役時の地球戦艦は、一部の大国が少数保有した超弩級艦(300メートル超)を除き、概ね200~250メートルが標準サイズであり、ヤマト就役後に改められるまで、全長270メートルのデストリア級重巡洋艦を『戦艦』と識別していた程だ。
 実際、できるだけ規模を抑えたとはいえ、それでもボロディノ型の多数建造には懸念があった。その最大のものは、建造を担当する世界各地の施設毎に、かなりの能力・実績差異が存在したことだった。
 いつの時代も、戦艦とは最先端科学技術・工業技術の結晶であると同時に、繊細さすら要求される芸術品でもあった。ガミラス戦役中期以降、それまで各国毎にばらばらだった装備品や工業規格が多くの困難を乗り越えて統一されたことで、巡洋艦以下については、どの国の建造艦であれ最低限の同一品質・性能が確保されていた。しかし、規模にして三倍以上、投入される技術水準も遥かに高度となる戦艦建造においても、均一的な品質が確保できるのか、大きな不安が抱かれていたのである。
 最終的に国連統合軍は、この困難な命題を乗り越えることに成功した。各建造施設自身の懸命な努力や、国連宇宙軍艦政本部の献身的な技術支援は勿論だが、やはり本型以前の波動エンジン搭載艦艇の多数建造が各施設の能力を底上げしていたことが大きかった。それでも、引き渡し検査時の手直し指示や、それに伴う就役遅延も多数に上っており、結果的には大成功と評されたボロディノ型にしても、当時の地球の力量ぎりぎりの艦であったことは間違いない。
 また、本型はようやく建造にこぎつけた『次元波動エンジン時代の新型戦艦』であったが、量産性やコスト・コントロールには従来艦艇以上の注意が払われており、その点は直線を主体とした本型のシンプルな外観にも表れている。装備品・艤装品も、後のアンドロメダ型とは異なり新規開発されたのは主砲等、極少数に過ぎず、大半を既に大量生産されている既存品が占めていた。その結果、ボロディノ型の単位重量あたりの製造コストは、ヤマト型や後のアンドロメダ型と比べて1/10近くにまで抑えられている(もちろん、同型艦多数が建造されたことによる量産効果が最大の要因だったが)。
 これに対し、軍務局が求めた400メートル超級巨大戦艦の建造を想定した場合、建造コストはボロディノ型の4~5倍、また、建造施設の不足から三年間での建造可能数は僅か四隻に止まるというのが艦政本部における検討結果だった。但し、建造可能とされた四箇所の施設は、大型艦建造に豊富な実績と高い技術力を有していたことから、建造そのものに大きな不安はないとも結論付けられていた。しかし、実際の運用を考えると、400メートル超という巨体は、少なくとも2200年代初頭における地球の社会資本には手に余る存在だった(その点はヤマト型も同様だったが)。建造はともかく、整備用ドックや入港可能な港湾まで大きな制約を受けてしまう為、象徴として以外の実戦力は著しく難があると最終評価は散々だった。
 しかし、建造決定にあたり、経済性と実質的な運用における優越が認められたボロディノ型とて、当初から万人にその存在と有効性を認められた訳ではなかった。



 本型が第一の仮想敵としたハイゼラート級航宙戦艦は全長でボロディノ型の1.5倍、規模においては3.5倍もの巨躯を有することから、本型のような小型戦艦で本当に対抗可能なのか、特に文民サイドから不安の声が上がっていたからである。これに対し、本型の計画を取りまとめた国連宇宙軍艦政本部は、本型の用途を極限まで限定し、リソースの集中配分を行うことで対抗は可能と回答し、最終的な了承を得ている。
 これを言い換えれば、本型の能力を砲雷撃戦における火力と防御力に特化させ、他の能力は全て二義的なものとして最小化、乃至は削除することで、少なくとも攻防性能に限っては互角の性能を実現するというものであった。
 巨大な版図を有するが故に、ガミラスやガトランティスの戦艦が中長期の域内航宙を重視した “大型汎用艦”としての向きを強めざるを得ないことを思えば、あえて汎用性と中期以上の作戦行動能力を捨て去って、砲雷撃戦能力にのみ特化したボロディノ型の建艦思想は、未だ単一星系国家に過ぎない地球だからこそ許容可能な逆転の発想と言えた。
 しかし、ショック・カノンと空間魚雷という地球独自の“長槍”の存在が、そうした極端な思想に、確固たる実現性を与えることになる。

――後編につづく


うーむ、前編は殆ど“機関話”に終始してしまいました(^_^;)
後編も何とか明日公開したいなぁ・・・・・・。
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『2199版主力戦艦』の設定妄想中です(^_^;)

2014-06-27 12:21:20 | 1/1000 さらば/2 主力戦艦(バンダイ)


ようやく進捗度が75%に達したというところでしょうか(^▽^;)
かなりの期間、書いては消して、書いては消してを繰り返していましたが、やっと最終形が見えてきた感じです。

現時点で2199版の主力戦艦の設定妄想を書こうとすると、地球独自の次元波動エンジン量産化や、主力戦艦以前に建造された艦についても触れない訳にはいかないので、文章が長くなってしまうのも仕方がない・・・・・・と自分に言い訳(現時点でA4用紙14枚を突破)しながら最後の追い込み中ですw
このままいけば、7月中には公開にこぎつけられると思います(^o^)
うーん、まだ原稿数が伸びそうな気がするので、こりゃやっぱり前後編での公開になるかな?

ただ、せっかく書き上げた妄想も、新作劇場版が公開されたら速攻で全否定されそうな気がするので、できるだけ早く後悔、いやいや公開したいところです(苦笑)

いやー、ブログを更新するネタがなくってすみません(;´Д`A ```


1/12 AU-09 アナライザー (宇宙戦艦ヤマト2199)
バンダイ
バンダイ

1/1000 ゼルグート級一等航宙戦闘艦ドメラーズIII世 (宇宙戦艦ヤマト2199)
バンダイ
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宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海 [Blu-ray]
菅生隆之,小野大輔,桑島法子
バンダイビジュアル

宇宙戦艦ヤマト2199 追憶の航海 [DVD]
菅生隆之,小野大輔,桑島法子
バンダイビジュアル
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宇宙戦艦ヤマト2199版(?)主力戦艦w

2014-06-13 22:18:32 | 1/1000 さらば/2 主力戦艦(バンダイ)
『2199世界でさらば/2の主力戦艦が具体化するとしたら?』という設定文章を書き上げる前に、イメージソースとして製作をお願いしていたキットの方が先に完成してしまいましたので先行公開です(^▽^;)



ベースはもちろん、バンダイの600円ノンスケールキット『主力戦艦』です。
全長23センチの本キットをあれやこれやで4センチ近くストレッチいただき、27センチ弱の全長になりました。
ちなみに、オリジナル版ヤマトでの主力戦艦の全長は242メートルとされていますので、一割強のサイズアップですね。
キットオリジナルと比べて、かなりスマートな印象になったと思います(^o^)
2199のメルトリア級の全長が283メートル、デストリア級が270メートルですから、それらにほぼ匹敵するようにもなりましたしね(^o^)



もちろん、2199ヤマトの全長は333メートルな訳で、より新型である筈の主力戦艦が何故それより小型なの?とか、地イ和親条約で波動砲は封印された筈なのに、その艦首の大口は何?とか、波動コアはどうしたの?とか色々疑問はあるかと思いますが、後日公開します設定文章で一応(w)全部説明するつもりですのでお楽しみにお待ちいただけましたら幸いです(^o^)



全長の延長は第一砲塔と第二砲塔の下部で行っていただきましたので、必然的に全体バランスは艦首側が長くなる結果となりました。
元々ヤマト世界の艦船はパースの利いた艦首側が長いデザインラインなので、それも殆ど気にならない範囲だったのですが、少しでもその印象を緩和しようとエンジンノズルを艦体色と同一にしていただきました。
普通この部分は朱色系や濃色系で塗装するのがスタンダードですが、ヤマトも実はエンジンノズルは艦体色なので思い切ってお願いしたのですが、かなり良い雰囲気で気に入っています(←自画自賛w)



その他の変更点として、各部に2199用のパルスレーザーを配した他、艦首と両舷に誘導弾用のVLSを設置いただきました。
艦首のVLSは対艦用の大型空間魚雷、舷側VLSはより小型の短魚雷が1セルあたり4発セットされているイメージです。
他にも、艦橋部を小型化していただいたり、エンジンノズルにヤマトと同じコーンを埋め込んだり、あれこれと手を尽くしていただいています。
それらの結果、もう30年以上昔のキットながら、最新のヤマトキットやガレージキットと並べても遜色のない仕上がりとなりました♪ヽ(^◇^*)/ ワーイ

さーて、この艦に負けないような設定を書かないと(^o^)

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