ロック探偵のMY GENERATION

ミステリー作家(?)が、作品の内容や活動を紹介。
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Raven "Born to be Wild"

2024-10-15 22:17:27 | 音楽批評

オアシス再結成の話が、まだ巷を騒がせています。

先日は、アメリカのテレビ番組でギャラガー兄弟に扮したコメディアンによるコントが放送され、プチ炎上するなどということがありました。

それだけオアシスというバンドと、その中心であるギャラガー兄弟が注目されているということなんでしょう。

ところで……

ギャラガー兄弟といえば誰もがまずオアシスを思い浮かべるでしょうが、英国ロック史には、もう一組の“ギャラガー兄弟”が存在しています。

今回のテーマは、そちらのギャラガー兄弟。
ジョン・ギャラガーと、マーク・ギャラガー……この二人を中心に結成されたバンド、Ravenです。


Ravenは、いわゆるニューウェイヴ・オヴ・ブリティッシュ・ヘヴィメタル(NWOBHM)のバンド。1974年にデビューし、今年で50周年を迎えるレジェンドです。アニヴァーサリーを記念して、来月には来日公演も予定されています。

オアシスとはまったくジャンルが違いますが、こちらのギャラガー兄弟も、ムーブメントの追い風を受けた成功と、その失速の苦難を味わったといえるでしょう。
NWOBHMは70年代後半から80年代にかけて一つの大きなブームになったものの、80年代が終わるぐらいには失速。後のブリットポップもそうだったように、ムーブメントを享受してきたアーティストたちは時代の変化への対応を迫られることになります。そして、やはりブリットポップの場合と同じように、多くのバンドは、いったん解散し、しばらくの禊のような期間を経て、ムーブメントが完全に過去の一ページになったところで再結成……というような道をたどりました。アイアン・メイデンやモーターヘッドといった超大物でさえ、ムーブメント失速の影響を完全に回避することはできず、90年代を迎える頃には迷走といえるような動きをみせているのです。
レイヴンの場合も、その例にもれません。
彼らの場合、スラッシュ/スピードメタルの元祖ともいわれる疾走感が持ち味であり、これは90年代ロックの主流とは非常に相性の悪い要素だったため、時代との軋轢も大きかったのではないかと推察されます。
しかし、そんななかでもレイヴンは、しぶとく活動を継続しました。
ある種の迷走状態は避けられませんでしたが……ブームの失速で強い逆風が吹くとしても、耐え続けていればいずれ逆風はやみます。レイヴンは、逆風の時代をくぐりぬけ、半世紀にわたって活動を続けるレジェンドとなったのです。
ここに私は、時代の荒波に流されない美学を見ます。
なんのジャンルであれ、それが衰微しようとしていくときに、時流に抗ってそのスタイルを貫き続ける姿勢には、尊いものがあります。

彼らの代表曲の一つに、Born to Be Wild があります。

いうまでもなく、オリジナルはステッペンウルフ。
映画『イージー・ライダー』でボブ・ディランによって起用されたというロック史における伝説の曲ですが、歌詞の中にHeavy Metal という言葉が出てきて、音楽史においてはじめてこの言葉が使われた例ともいわれています。まさに、ヘヴィメタルの元祖といえる曲でもあるのです。その名曲をレイヴンは、ジャーマンメタルの雄アクセプトからウド・ダークシュナイダーを迎えてカバーしました。

Born to Be Wild (feat. Udo Dirkschneider) (7" Single Cover Version)

それから時が流れ……2015年、同じ曲をグリム・リーパーのスティーヴ・グリメットとともにやっている動画です。

Raven & Steve Grimmett (Grim Reaper) "Born to be Wild" @ The Underworld, Camden, London 25th Oct 20

グリム・リーパーもNWOBHMのバンドで、グリメットもまた、逆風の時代にメタルを貫いた人物といえるでしょう。数十年にわたって同じリングに立ち続けた同志というような感覚があるのかもしれません。グリメットは2年前に死去していますが、その最晩年の姿であることを思うと、また感慨があります。


NWOBHMは、言葉でこそニューウェイヴといっていますが、実際にはパンク方面の文脈でいうニューウェイヴとは真逆で、伝統重視が基本姿勢といわれます。英国ヘヴィメタルの伝統に回帰しようと……それが根底にあるからこそ、元祖ヘヴィメタルというべきBorn to Be Wild を取り上げたわけでしょう。NWOBHMのバンドにはグラムロック系の印象的なカバー曲があったりしましたが、それも同趣旨と思われます。

そのヘヴィメタルの伝統を21世紀の今日まで継承し続けるバンドの一つが、レイヴンなのです。
オアシスと違って、こちらのギャラガー兄弟は仲が悪いということもなさそうなので、今後とも末永い活動を期待できるんじゃないでしょうか。



ドラムの日 ヴィンテージⅩ

2024-10-10 22:04:39 | 日記



今日10月10日は、「ドラムの日」です。

毎年この日はドラマーに関する記事を書いていますが……今年はやはり、ヴィンテージシリーズに合わせていこうと思います。
タイトルの「Ⅹ」は、「エックス」ではなく、ローマ数字の「10」です。10月10日でシリーズ10回目。というわけで、私がYoutubeでキープしていた動画の中からドラマー関連のものを紹介していきます。


コージー・パウエル。
ジャック・ブルースとともに演奏する動画がありました。
キーボードには、ドン・エイリーの姿もあります。

Cozy Powell feat. Jack Bruce - The Loner (Old Grey Whistle Test, 8th Jan 1980)


今年セパルトゥラを脱退してスリップノットに加入したエロイ・カサグランデ。

続報によれば、ツアーのリハ開始直前の脱退となったのは、ぎりぎりまでセパルトゥラと並行しての活動を模索していたためらしいです。スリップノット加入の話が具体的になってきて、スケジュールを提示された時点で、かけもちはどうやっても不可能という結論になり、脱退を決意。なまじぎりぎりまで判断を保留したがゆえに、結果として急なタイミングでの脱退になってしまった……というわけです。まあたしかに、リハが始まってから脱退するよりは、まだその直前のほうがマシではあるでしょう。
さて……そのカサグランデが、スリップノットのドラムをカバーした動画がありました。スリップノット加入前のものですが、この完コピぶりからもスリップノット愛が伝わってきます。

ELOY CASAGRANDE - SLIPKNOT - THE HERETIC ANTHEM (Drum Cover)

この動画ですごいと思うのは、彼が使用しているアプリ。
音源から、特定の楽器パートの音だけを抜くことができるという……これを使えば、憧れのバンドのメンバーになったつもりで演奏できるわけです。


一方、入れ替わりでスリップノットを脱退したジェイ・ワインバーグ。
バンド側は円満な脱退としていましたが、ジェイのほうは解雇という認識になっているらしく……そのショックでセラピーに通わなければならなかったのだとか。
新たに加入したバンドがSuicidal Tendencies (自殺傾向)というのが、またなんとも危うい……
下は、その Suicidal Tendencies で、ジェイ・ワインバーグのドラムが見られる動画です。

Nós Somos Família Music Video


リンゴ・スター。
前に紹介したチャリティ・イベントに、リンゴも出演していました。
ビートルズで同僚だったジョージ・ハリスンとともに、While My Guitar Gently Weeps をやっています。

George Harrison & Ringo Starr - While My Guitar Gently Weeps (The Prince's Trust Rock Gala 1987)

元曲に参加していたエリック・クラプトンもステージ上にいるというところがすごい。
ほかにも、エルトン・ジョンやジェフ・リン、フィル・コリンズといった人たちがいます。


訃報に関連した話ですが……今年、ジェファソン・エアプレインなどのドラマーだったジョン・バーベイタが死去しました。
タートルズというバンドでドラムを叩いていて、タートルズの活動終了後、クロスビー、スティル、ナッシュ&ヤングのバックでドラムを叩くことに。そういう西海岸人脈から、デビッド・クロスビーの紹介でジェファソンに加入することになったとか。
そのときのこぼれ話として、同時期にイーグルスに参加する話もあったといいます。これもウェストコースト人脈でまわってきた話でしょうが……バーベイタがこれを断ったのは、ロック史における重要なできごとといえるかもしれません。もしイーグルスのドラムがドン・ヘンリーでなかったら、その後のロック史は大きく変わっていたでしょう。

で、ジェファソン・エアプレインで、バーベイタが参加する動画としてWooden Ships。
CSNの曲で、ジェファソンもカバーしました。このライブバージョンでは、バーベイタがドラムを叩いています。

Wooden Ships (Live at Winterland Ballroom, San Francisco, CA 9/1972)


スコット・トラヴィス。
ジューダス・プリーストのドラマーです。最近、この人が通常とは逆の握り方でスティックを持っているという話を聞きました。ニール・パートなどの影響で、そのほうが音の粒が際立つからということなんですが……はて、ニール・パートはそんなスティックの持ち方をしていたかな、という疑問もわいてきます。
しかし、スコット・トラヴィスは確かにスティックを逆さまに持っています。
以下の動画で、それがはっきり確認できます。

Judas Priest - Invincible Shield (Official Video)

ちなみにこの曲は、今年ジューダスが発表したニューアルバムのタイトル曲。
この人たちも、まだまだ現役です。



ニール・パートの影響を受けたドラマーといえば、マイク・ポートノイ。
昨年、古巣ドリームシアターへの電撃復帰という話題もありました。
そんなポートノイが、ポケモンドラムキットで遊び倒すという謎動画がありました。

Mike Portnoy: 'Name That Tune' on Pokemon Drum Kit

これはもう完全にネタですが……ちなみに、ハローキティドラムセットで遊んでいる動画もあります。
こちらの動画では、ハローキティギターともコラボ。ギターのほうでも、ザック・ワイルドやマーティ・フリードマン、ロン“バンブルフット”サールといった名うてのギタリストたちが登場しています。

10 Epic HELLO KITTY Jam Sessions


メタル系でもう一人、アイアン・メイデンのニコ・マクブレイン。
この人は、昨年、軽い脳梗塞にかかっていたことを発表しました。一時は右腕などが麻痺していたとのこと。リハビリでだいぶ改善したものの、完全な回復とはいかず、演奏不能になった曲も。The Trooper で、16分音符から32分音符になるフィルができなくなっているそうです。
アイアン・メイデンといえば、今年は来日公演もありました。
公演後には、公式Youtubeチャンネルで日本への感謝のメッセージ動画を公開。なぜか、メイデンを代表してニコ・マクブレインが一人でしゃべっています。

Thank you Japan!


おなじみデイヴ・グロール。
フーファイターズでドラムを叩いていたテイラー・ホーキンスが2022年に死去したという件はこのブログでも何度か書いてきましたが、そのテイラーの息子であるシェーン・ホーキンスがフーファイターズの面々とともに演奏する動画がありました。

Foo Fighters ft. Shane Hawkins Perform "My Hero" | MTV

デイヴ・グロールといえば、最近の話題として、米大統領選で共和党トランプ候補の選挙活動にフーファイターズの曲が勝手に使われているとクレームをつけた件があります。ほかにも多くのアーティストが同様の抗議をしているわけですが、今や米ロック界のゴッドファーザー的な立ち位置にいるデイヴの抗議には重みがあったんじゃないでしょうか。
そこはロックな話なんですが……かと思えば、また一方で、婚外子の存在を公表するなどという話題もあって、ワキが甘いというか……まあ、それもロックなのかもしれません。

最後に、デイヴ・グロール関連でもう一曲。
AC/DCのブライアン・ジョンソンをゲストに迎えてフーファイターズが Back in Blackを演奏する動画です。3年前に公開された動画であり、ステージにはテイラー・ホーキンスの姿もあります。

Foo Fighters "Back in Black" | VAX LIVE by Global Citizen

前に、やはりブライアン・ジョンソンを迎えてMUSEがこの曲をやっている動画を紹介しましたが、やはりこれがロックンロールの原点であり、デイヴ・グロールという人にふさわしいといえるでしょう。



宇宙戦艦ヤマト50周年

2024-10-06 23:07:16 | 日記



『宇宙戦艦ヤマト』が、50周年を迎えました。

この伝説的アニメの放送が開始されたのは、1974年の10月6日。それから、今日でちょうど50年となるのです。

松本零士先生については、これまでに本ブログで何度か記事を書いてきました。

しかしながら、意外と宇宙戦艦ヤマトについてはあまり言及してこなかったと思います。
そこで今回は、50周年を機に、ヤマトについてちょっと書いておこうと思いました。



ヤマトについて書くとなったら、私としてはどうしても触れなければならないテーマがあります。

それは、劇場版第二作『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』……

『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』4Kリマスター / 2024年1月5日公開 予告[4K UHD]

この作品のラストについてです。

まあ、かなり有名なエンディングなので、これはネタバレにはならないんじゃないかということで書きますが……この作品において、ヤマトは最後に“特攻”します。敵があまりに強力すぎてもはや通常の戦闘では太刀打ちできないとみて、自爆攻撃を敢行するのです。

私は、この作品に関して、長く一つの矛盾を感じていました。

松本零士先生は、自身の生い立ちから、特攻を賛美してはならないとしている。にもかかわらず、最後にヤマトを特攻させたじゃないか……と。
しかし、だいぶ後になってから、そう単純な話ではないということを知りました。
これは、ヤマトという作品のみならず、松本零士という漫画家が生涯描いたテーマにもかかわる重要なテーマです。なので、この点についてはちょっと詳しく書いておきたい。


まず、前提としておさえておかなければならないのは、「松本零士は『宇宙戦艦ヤマト』の原作者ではない」ということです。

公的に認められている原作者は、西崎義展という人です。

この西崎さんという人が発端となる企画を出し、そこからさまざまな人が関与して、ヤマトという作品が練り上げられていきました。松本零士先生もいわばそのプロジェクトチームの一人。主要なキャラクターデザインなど大きな役割をはたしていはいるものの“原作者”ではない、ということなのです。ヤマトの原作者が誰なのかという問題は後に裁判沙汰になっていて、法廷でそういう結論になりました。「公的に」といったのは、そういうことです。松本先生の手によって『宇宙戦艦ヤマト』の漫画が描かれているわけですが、あれはアニメ放送の後に連載がはじまったもので、今風にいえばアニメのコミカライズなのです。

裁判沙汰にまで発展したというのは、松本零士と西崎義展というこの二者が対立状態になっていたということなわけですが……その対立は、少なくとも『さらば宇宙戦艦ヤマト』にまでさかのぼることができます。

ファンの間ではよく知られているとおり、『さらば』の制作過程においては、制作陣の内部で激しい対立がありました。
アニメで森雪の声を担当した声優の麻上洋子さんによれば、声優陣の前でやめるやめないの争いになることもあったのだとか。
対立の原因はいろいろあったかもしれませんが……そのなかでも大きな原因の一つといわれるのが、先述したエンディングに関する松本、西崎両者の考えの違いです。西崎氏はヤマト特攻というかたちでのラストを提示し、松本零士先生がそれに反対した、と。
そう、つまり、松本先生は『ヤマト』においても特攻に反対していた……ここに、私が考えていた矛盾はなかったということなのです。
結果として『さらば』では西崎案に従ってヤマトは特攻するわけですが、この話にはまだ続きがあります。この映画の後に、ヤマトの新たなTVシリーズが制作されるのです。
その『宇宙戦艦ヤマト2』は、劇場版の『さらば』と同じ白色彗星帝国との戦いを描いています。そして、このテレビアニメ版のラストでは、ヤマトは特攻という手段を択ばないのです。
逆はあっても、劇場版アニメをもとにしてテレビ版アニメを作るというのはなかなか異例のことでしょう。まして、劇場版でこれが最後の作品と明確に打ち出している状態では……そこにはやはり、特攻というかたちでのエンディングを是としなかった松本零士先生の強い意志が働いていたのではないでしょうか。

このことには、もちろん賛否があります。ヤマトファンの間では、劇場版のエンディングのほうがいいというほうが多数派かもしれません。
また、私個人としては、あの状態でヤマトに自爆攻撃をさせるということと、かつての日本軍がやった特攻を批判することとは必ずしも矛盾しないという考えもあるんですが……
しかしやはり、重要なのは、松本零士先生が特攻というものにあくまでも否定的だったということです。そこは、『宇宙戦艦ヤマト』という作品に接するときに、知っておいたほうがいいんじゃないか。作品が50周年を迎え、松本先生も世を去った今、そんなふうに思われるのです。



国際音楽の日 ビンテージⅨ

2024-10-01 22:51:02 | 日記

今日10月1日は、「国際音楽の日」です。

今年はこのブログでヴィンテージシリーズというのをやってきましたが、「国際音楽の日」にあわせて、その第9回目をやろうと思いました。




最近このブログではブリットポップの話がよく出てきました。
その関連動画がたくさんあったので、前半はブリットポップ特集で。


レディオヘッドともよく比較されるMUSE。
AC/DCのブライアン・ジョンソンと共演する動画がありました。曲は、Back in Black。MUSEも結構難解系なところがあって、AC/DCというのは意外な組み合わせのようにも思えますが……憧れのミュージシャンと同じステージに立った興奮みたいなものが伝わってきます。やはり、難解系の音楽をやっていても、ロックンロールの原点にも立脚しているということでしょう。

MUSE & Brian Johnson of AC/DC - Back In Black [Reading Festival 2017]


ブラーのデーモン・アルバーンが主宰するGorillaz。

Gorillaz - Empire Ants feat. Little Dragon (Live on Letterman)

アニメキャラのバンドというスタイルで、“中の人”はいろんなミュージシャンが担当してきました。そのリストには、たとえばクラッシュのミック・ジョーンズとポール・シムノンといった名前もあります。そういったところからも、デーモン・アルバーンという人の音楽性がロックの長い歴史に裏付けられていることが見て取れるのです。



ヴァーヴ。
レディオヘッドと同様、ブリットポップ本流が失速したころから売れ始めたという意味合いでポスト-ブリットポップともみなされるバンドです。
ストーンズのパクリ騒動がもちあがったBitter Sweet Symphony が有名ですが、同じアルバムUrban Hymn に収録されている The Drugs Don't Work も代表曲の一つ。

The Verve - The Drugs Don't Work


コーナーショップ。
インド系英国人によるユニットで、インド要素を取り入れているところが特徴です。ブリットポップといわれると疑問符がつくものの、なんとなくひとからげでブリットポップとみなされているグループの一つでもあるでしょう。
彼らが、キンクスのWaterloo Sunset をカバーしている動画がありました。インド要素ということで、シタールが使われています。

Cornershop Live - Waterloo Sunset, Live on BBC Culture Show

インド要素といえば、クーラ・シェイカーというバンドもあるわけですが……英国の音楽にちょくちょくインド要素が出てくるのは、植民地時代の名残という側面もあるでしょう。そういう意味では、取り扱い注意な面もあります。


クーラ・シェイカーの記事でちょっと名前が出てきたElastica。
ボーカルのジャスティーン・フリッシュマンは、スウェードの創設メンバーでもあります。ブレット・アンダーソンの恋人であり、後にはブラーのデーモン・アルバーンと恋仲に。ブリットポップと寝た女……といえるかもしれません。

Elastica - Waking Up

こういう感じは、私は嫌いじゃないないんですが、ブリットポップ終焉に巻き込まれて消えていった感じはあります。


Sleeper。
ブリットポップ系の女性ボーカルバンドとしては、エラスティカと並ぶ代表格。

Sleeper - Inbetweener (Video)

紅一点のボーカル、ルイーズ・ウェナーは、ブリットポップの栄光と挫折を描いた映画『リヴ・フォーエヴァー』で、オアシスを強く批判していました。
リアム・ギャラガーは、エラスティカのジャスティーン・フリッシュマンとも確執があって、ジャスティーンに「ハムスターの脳みそ」といわれたりしています。中坊レベルのセクハラ言動が女性に嫌われるというところはあったでしょう。そのへんも、ブリットポップの限界だったのかな、と……


Pulp。
このバンドも、最近再始動しているようです。
どちらかといえば、「もっと前からやっていたけどブリットポップの波に乗ってブレイクした」タイプのバンドでしょう。その故に、ブリットポップ終息に巻き込まれた感は否めません。

Pulp - Common People

先程のSleeper やレディオヘッドのFake Plastic Trees もそうですが、MVにスーパーマーケットが出てくるというのも当時のはやりでしょうか……


スーパーグラス。
大ヒットはしなかったかもしれないけれど、ミュージシャンの間では広くリスペクトされているという、ミュージシャンズ・ミュージシャン的側面があるといわれるバンドです。彼らが、ニール・ヤングの The Loner をカバーした動画がありました。

Supergrass - The Loner (Neil Young Cover)




ここからはブリットポップを離れて、今年このブログに登場したアーティストたちの関連動画を。


ブルース・ディキンソン。
ジェスロ・タルのイアン・アンダーソンと共演している動画がありました。曲は、ディキンソンのソロ作Jerusalem。場所はなんと、カンタベリー大聖堂。

Ian Anderson from Jethro Tull with Bruce Dickinson - Jerusalem


エルトン・ジョン。
映画『ロケットマン』のエンディングで使われた I'm Still Standing。この曲をチャリティイベントで演奏する動画がありました。

Elton John - I'm Still Standing ft. Eric Clapton (The Prince's Trust Rock Gala 1986)

ライブエイドみたいな感じで、大物アーティストが多数参加。
ギターにはエリック・クラプトン、マーク・ノップラー、ドラムはフィル・コリンズ、キーボードにハワード・ジョーンズといった人たちがそろっています。


映画『エルヴィス』でエンディングを担当したマネスキン。
トム・モレロとコラボした曲のMV動画がありました。

Måneskin|マネスキン - 「GOSSIP feat. Tom Morello」 (日本語字幕ver)


MC5。
今年ウェイン・クレイマーが死去し、彼が遺した音源をもとにアルバムが制作されているという記事を書きましたが、そのアルバムは完成し、今月の18日にリリースされるということです。
そのタイトル曲Heavy Lifting の動画が一足先に公開されています。

MC5 - Heavy Lifting feat. Tom Morello (Official Audio)

この曲にも、トム・モレロが参加しています。


同じアルバムからもう一曲線公開されているCan't Be Found。
こちらは、リヴィングカラーのヴァーノン・リードが参加しています。

MC5 - Can't Be Found feat. Dennis Thompson & Vernon Reid (Official Audio)

ドラムを叩くのは、MC5のドラマーだったデニス・トンプソン。この人は、ウェイン・クレイマーの後を追うようにして、今年の5月に世を去っています。本作は、デニスにとっても遺作となりました。



最後に、最近の話題から二つの動画を。

ブライアン・アダムス。
最近、彼がKISSのアルバムの制作にかかわっていたという話を聞きました。
で、自身が制作に加わった曲のカバーバージョンを発表しています。
その中の一つ、War Machine。

Bryan Adams - War Machine

私はそんなに熱心なKISSのリスナーというわけではないんですが、この曲は気に入ってました。ブライアン・アダムスがかかわっていたと聞いて、なるほどなあと納得させられました。
KISSがやるとシニシズムという感じですが、ブライアンがやると、ストレートに戦争を告発する歌に聞こえてくるのが不思議です。


デイヴ・ギルモア。
最近、ソロでの新作を発表しています。
そのなかの一曲Between Two Pointsの動画です。娘のロマニー・ギルモアが歌とハープで参加しています。

David Gilmour - Between Two Points (with Romany Gilmour) [Tour Rehearsal]


Radiohead - Fake Plastic Trees

2024-09-24 23:03:29 | 音楽批評


レディオヘッドが再始動にむけて動いているといいます。

オアシス再結成に触発されてということなのか……それはわかりませんが、ひさびさに新譜を発表するのではないかという噂がささやかれています。
ちょうど、最近このブログでは90年代UKロックの話をしていたところでもあるので、今回のテーマはレディオヘッドです。


レディオヘッドは、ポスト―ブリットポップのバンドともみなされる、という話を以前書きました。
その心は、ブリットポップ最盛期にはそれほどヒットせず、ブリットポップが終息したころになって頭角をあらわしはじめた、ということだったんですが……その基準でいうと、レディオヘッドは微妙なところかもしれません。デビューしたての90年代前半も、鳴かず飛ばずというわけではなく、むしろそこそこ売れていたといっていいでしょう。わけても、初期の代表曲Creepは、90年代のロックを代表する一曲といってもいいんじゃないでしょうか。

Radiohead - Creep

これはまさに、神曲です。
それは、間違いない。
しかし、この大ヒットがその後のレディオヘッドにとって、一つの足かせとなった側面は否めないようです。
セカンドアルバムを出すまでに2年の時間がかかったのも、その表れでしょう。
そこは、あるいはストーンローゼズに擬せられるかもしれません。
望外のヒットを放った第一作(といっても、レディオヘッドの場合それ以前にEP盤を出しているとか、評価されたのはほぼCREEP一曲だけ、とかいう保留がつきますが)の後の第二作は、デビュー作以上に難しくなります。へたなものを出せば、ストーンローゼズがそうだったように、一気にバンドが終焉となりかねません。
奇しくも、セカンドアルバムのプロデュースを手掛けたジョン・レッキーは、まさにローゼズのファーストアルバムを大成功に導き、セカンドアルバムが大失敗に終わる一因となった人物です。
果たしてレディオヘッドはどうなるのか、一発屋で終わってしまうのか……というところでしたが、結果からいえば、彼らの場合は、そのハードルをクリアすることができました。
セカンドアルバム『ベンズ』は商業的にもまずまずの成功をおさめ、バンドは活動を継続していきます。
そして、そのなかで方向性を模索しながら、レディオヘッドは次第に難解系ロックのほうへ向かっていくことになりました。順を追って聞いていくと、少しずつ変化しているのがわかりますが、ファーストアルバムとたとえば6thアルバムHail to the Thief を聞き比べてみたら、とても同じバンドとは思えないぐらいに変化しているのです。
この点、レディオヘッドは変化に成功したバンドといえるでしょう。
その軌跡は、ビートルズに重なるようでもあります。
デビュー初期のころからみせていたトム・ヨークの厭世的傾向は、難解系ロックとして昇華していきました。
内省的な部分をより深化させていくことによって、レディオヘッドはブリットポップの枠組みを超越することができたのではないでしょうか。


トム・ヨークの名は、正式にはトム・e・ヨークという表記になっています。
これは、e.e.カミングスという詩人にならったのもですが、イニシャル部分が小文字になっているのは、近代文明において個人が匿名化されている、個人の存在が小さいものにされてしまっている、という問題意識によるものとされています。
この問題意識は、音楽性を大幅に変化させつつも、トム・ヨークがずっと持ち続けているものでしょう。
そして、こうした問題意識こそが、レディオヘッドを特別なバンドにしているのです。前にも書きましたが、どこか能天気なブリットポップにはそういう部分が欠けていたのだと思われます。

ここで一つ注釈をつけておくと、能天気なポップロックというのは、決して悪くないのです。それがロックンロールというものの原点であり、ロックが発展してこじらせていくと、やがてその原点に戻るリバイバル運動が起きる……ブリットポップも、その一つとみなせるかもしれません。しかしやはり、能天気なだけの音楽だとみんな次第に飽きてくるので、そういったムーブメントは数年で終わり、また難解な方向へ発展していく……それを繰り返してきたのが、ロックの歴史じゃないでしょうか。
しかし、そういった振り子運動の中でも、貫かれるものがある。それが、私のいうロックンロールのグレートスピリットなのです。
レディオヘッドは、まさにその継承者でした。彼らがつねに社会にむけた視線をもって活動してきたのは、その表れといえるでしょう。そうであるがゆえに、一過性のブームに引きずられて消えてしまいはしなかったのです。
レディオヘッドのバンド名はトーキングヘッズの曲名からとられているわけですが、そのトーキングヘッズから、ジョナサン・リッチマン、そしてヴェルヴェット・アンダーグラウンド……というふうに影響の系譜を遡っていくこともできるでしょう。そこに並ぶ名前からも、レディオヘッドが真にリアルなロックンロールの直系であることがわかるのです。


ここで、先述のセカンドアルバム『ベンズ』について。
今回、レディオヘッドについて書こうということで、ひさびさに聴いてみたんですが……これが、実にいい。
世間的には、たぶん次作『OKコンピューター』あたりからレディオヘッドは“化けた”という認識になっていると思うんですが、実験性とポップス性のバランスということでは、『ベンズ』は結構いい塩梅になっているように私には感じられます。ビートルズでいえば、『ラバーソウル』ぐらいの……

『ベンズ』というタイトルは、“潜函症”のこと。
深いところにもぐっていたダイバーが急に水面近くに浮上すると、強い水圧で抑えられていた血管が膨張して身体に異常をきたすという症状です。
Creepのヒットで急に日の当たる場所に出たトムの当惑を表現しているともとれるでしょう。あるいは、潜在的な抑圧状態におかれた近代人のあり方というふうにもとれるかもしれません。いずれにせよ、能天気なだけのポップロックとは一線を画しているのです。

このアルバムの最後に収録されている曲が、Street Spirit(Fade Out)です。
(※ただし、日本盤ではその後にボーナストラックがあります)

Radiohead - Street Spirit (Fade Out)
 
この曲を、ピーター・ガブリエルがカバーしたという話を以前書きました。
ピーター・ガブリエルといえば、彼もまた、グレートスピリッツを高い純度で継承するアーティストの一人です。そんなピーターが、「魂を愛に浸せ」と歌われるこの歌をカバー曲集のしめくくりにもってきたというのは、やはり特別な意味合いがあったんじゃないでしょうか。

で、最後に、アルバム『ベンズ』のハイライトともいえる曲Fake Plastic Treesの動画を。トム・ヨークは村上春樹作品の愛読者としても知られますが、まさに村上春樹チックな世界観が美しく哀切に歌われます。

Radiohead - Fake Plastic Trees