ロック探偵のMY GENERATION

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『感染列島』

2020-05-27 16:43:40 | 映画

 

映画『感染列島』を観ました。

2009年に公開された映画。その当時は、新型インフルのことでタイムリーだったわけですが、いまでは、コロナ禍のためにタイムリーです。アマプラで執拗にサジェストされるので、とうとう観てしまいました。

タイトル通り、新興感染症が日本列島に蔓延していく過程と、それに立ち向かう人々の姿を描いた映画です。

この映画に出てくるウィルス“ブレイム”はコロナよりはるかに強力ですが、それが猛威を振るい始めるまでの前半部分は、今般のコロナ禍で起きていることを予言しているようでもあります。非常事態宣言、買い占め、感染源と目された者への嫌がらせ……まさに、今の日本で起きていることでしょう。医療機関の様子なんかは、いま医療の現場では実際にこういうことが起きているんだろうなと思うと、痛切に感じられます。

ただ、リアリティという点では、以前このブログで紹介した『コンティジョン』のほうに軍配が上がるでしょう。
新興感染症のパンデミックをまるでドキュメントのように描いたあの映画に比べると、『感染列島』には、よくも悪くも作為が大きく働いています。その部分が、リアリティの欠如という批判を招いてもいるようで、アマゾンのレビューを見ると、その種の辛口な評価が目につきます。
まあ、そこはフィクションとしてやむをえません。新たな感染症が発生しました、専門家がきちんと対処して最小限の被害で抑え込みました……では映画として面白くないんで、うかつなことをして感染を拡大させるような人が登場してくれないと困るというストーリー構成上の必要があるんです。

しかしながら……フィクション性が一周してむしろリアルというようなこともあって、最近つけられたレビューではリアリティ批判はトーンダウンしているようにも思えます。
つまり、このコロナ禍に遭遇してみると、現実こんなもんなんじゃないかということですね。フィクションにおけるリアリティというのは、実際にはリアリティではなく説得力の問題だというのが私の持論ですが、まさにそういうことだと思われます。
もし私が5年前ぐらいにタイムスリップして、この2020年コロナ禍の状況を小説にして新人賞にでも応募したら、リアリティがまったくないと酷評されることでしょう。「検疫官が感染者が多数出ているクルーズ船に軽装で乗り込んで感染するなどありえない」といった感じで。そして、作品として発表したら、「一世帯に布マスク2枚とかw」みたいにアマゾンでボロクソにレビューされること請け合いです。
しかし、現実に新型コロナのパンデミックが発生したこの世界では、『感染列島』を観てリアリティがないと思う感覚自体が揺らぎつつあります。なんというか、然るべき人たちがもっときっちり対処するもんだと思ってたけどなあ……という。マスクの話ひとつとっても、専門家のあいだでは「感染予防としてマスクをすることに科学的根拠はない」といわれていたのが、世界の感染状況を受けて「やっぱりあるかも……」と論調が変化してきたりもしています。なにかそういう、これまで確かだと思っていたものがぐらつく感覚があります。コロナ以前に『感染列島』を観て「いや、感染症の専門家はこんなにばかじゃないだろ」と思っていた人たちが、コロナ後にもそういえるかということですね。われわれが思っていた“現実”とは、実は虚構にすぎなかったんではないのか。そんなことを考えさせられます。
『感染列島』の映画としてのクオリティがどうかということはさておくとしても、この2009年と2020年で世界が大きく変わったということを、この映画がはからずも浮かび上がらせているといえるでしょう。




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